ゴーレム調査団

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月15日〜01月22日

リプレイ公開日:2007年01月19日

●オープニング

「確かそなたはウィルに知り合いが居たな」
「お呼びザンスか?」
 スコット女侯爵の召集に参じたのは、天界グッズの眼鏡に懐中時計を所持した壮年の男。ベクテル・フィラーハ男爵である。彼の紋章が三日月をあしらった物であるため、三日月男爵とも称される。
「ウィルへ向かえと仰せザマスか」
 長い顎髭を手で扱きながらベクテル卿は畏まる。女侯爵は頷き、
「ウィルの技術をメイにもたらすため、有志を連れて向かって欲貰いたい。卿ら一行は正式使節として、貴族留学生に準じた扱いを受ける。ジーザム陛下より、ゴーレムに関する特許を戴いた」
「トルク家ザンスか‥‥。ミーの知り合いも確かトルクに仕えたと聞いてるザンス」
「彼の地にて、ゴーレムに関わり学んで参れ」
 女侯爵は短く命じた。

●今回の参加者

 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 eb7863 フォンブ・リン(38歳・♂・ジプシー・パラ・メイの国)
 eb8285 浦 幸作(38歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8306 カーラ・アショーリカ(37歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec0324 ウォル・グリーク(29歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec0514 ティエラ・アズール(32歳・♀・ジプシー・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●三日月男爵
 メガネに鎖の金時計。ちょっぴり下品な雰囲気の顎髭を蓄えた男こそ、使節団の団長なれ。
「皆さん揃ったザンスね。ミーがベクテル・フィラーハざんす」
 名簿を取り出し点呼を取る。
 ウィルの出身で調査団員の護衛役のミリランシェル・ガブリエル(ea1782)。おねい言葉の濃い男フォンブ・リン(eb7863)に 、地球人の浦幸作(eb8285)。武ばった感じの女性騎士のカーラ・アショーリカ(eb8306)と緊張のためか寡黙なウォル・グリーク(ec0324)。そして、事実上の紅一点。一行の中で唯一、可愛らしいと形容すべきティエラ・アズール(ec0514)嬢。

 オリーブとワイン、魚介類が中心の料理を囲んで歓談が続く。
「ま、そう堅いのは抜きザマス」
 手づかみで大きな塩茹でのエビをカチ割って、豪快に食らいつくベクテル卿。一応貴族と聞いていたが、こういう部分に品格の欠片も無い。だが、その身のこなしは油断無く、ミリランシェルには一級の武人のように思えた。
「ミリランシェル殿」
 ベクテル卿が尋ねる。
「ウィルの現状はどうなってるザマス? かなり天界人が進出していると聞いてるザンスが」
「私の知る限り、伯爵が一人、子爵が一人、男爵が‥‥10人ばかりだわ」
 聞かれるままに色々と話すミリランシェル。
 この時代、情報の伝達は遅い。彼女が来てから1ヶ月の間にウィルではめまぐるしい変化が起きていた。それでもベクテル卿の知るウィルとの違いはかなり大きい。
「ウィルの冒険者も大変ザマス。トルクとフオロの板挟みザマスか」
 例えば、両家の相互牽制により魔獣の扱いが正反対。ルーケイと言う場所の討伐戦を契機に、トルクのゴーレムに対抗するため魔獣奨励のフオロ。魔獣をバ国の恐獣に匹敵する物として警戒を強めるトルク。冒険者ギルドの二大スポンサーがこれでは混乱が生じて当たり前だ。ミリランシェルの話では、必要以上に冒険者達の自主規制が強まっていると言う。
「恐らく必要以上の騎士道の制約が、ウィルから来た冒険者達に染みついているザンス。カオスニアンなど正々堂々と戦うだけ馬鹿を見るザマス」
 途中話題があらぬ所にそれ掛かったが、ウィルはメイよりも冒険者の縛りが多いことは、他の者にも理解できた。
「つまり。全員が騎士身分以上だからお気楽では無いって事だよね」
 ティエラの問いに苦笑いするミリランシェル。
「すったもんだのあげく、結局騎士学校教官のカインさんが冒険者ギルド総監に就任。なんとか混乱は収まってきたけど‥‥」
 カインと聞いてベクテル卿の目がキラリと光った。ロブスターの尻尾をバリバリとかみ砕き、
「カイン? エルムの相棒か?」
「ご存じですか?」
「古い知り合いザマス。‥‥トゲニシアやププリエは元気ザンスか?」
「‥‥」
 答えられない質問をしたことに気付き、ベクテル卿は頭をかいた。
 因みに、ププリエ・コーダはチの国白雪騎士団の団長でチの国の正騎士。トゲニシア・ラルは貴族女学院の先生である。偶々それを知っていたカーラが、ベクテルの意外な人脈に目を見張り、
「すごいや。そんな人たちと知り合いなんだ」
「昔の話ザンス」
 ベクテルは、下品に歯をほじりながらそう言った。

●フオロ城
 月道を通過するのはほんの短い時間だった。
「もう着いたの?」
 ティエラは目をぱちくり。初めての旅なのだ。個人で利用すれば50Gもふんだくられるが、月道は安全かつ最も早い移動手段である。月道が開くのは僅かな時間であるが、使節や重要な交易品はこれで事足りる。贅沢品の砂糖や香辛料。メイの特産品やメイ経由の交易品が次々と到着。それら交通整理で、月道の管理人は大忙しである。

「カイン総監!」
 ミリランシェルは声を上げた。
「‥‥。おや? あなたも留学生ですか?」
 メガネを直しながら、惚け顔のカイン・グレイス。
「‥‥この人も天界人なのか?」
 カインの顔の当たりをまじまじ見ながらのカーラの質問に
「生まれついてのウィル人ですよ。これは頂き物です」
 と答えるカイン。瞳がキラリと光った。
「ああ! あの悪たれか? 見違えたザマス」
 ベクテルの視線の向こうに正装した騎士。エルム・クリークである。
「坊主。もう伊達眼帯は止めたザマスか?」
 天下のエルム・クリークに実に気安い。
「伊達眼帯?」
 不思議そうな幸作の声。
「間合いを体得するための修行の話だ。この親父と旅したときは付けていた」
 にかっと笑うその顔には、常にない稚気が見え隠れする。
「船長。何年ぶりザマスか?!」
 ベクテル卿そっくりの言葉遣いは、二人と同世代の女性。
「恨むぞ親父。親父の言葉が伝染って、すっかりおばばになっちまった」
「おばば?」
 幸作が首を傾げるのも道理。言葉遣いこそアレだが、地球の感覚ではまだ独身も当たり前の年齢。但し、ウィルの標準的感覚では、7歳が10歳に当たる。年齢に1.43を掛けた位の年齢感覚なのだ。
 旧交を温めつつ、出迎えの3人は案内する。
「トルク領への移動は馬車ザマスか? 船ザマスか?」
 停止場方向に向かおうとする使節を制し、
「‥‥ジーザム陛下は王都におわされる。今から城までご案内しよう」
「何があったんですか!」
 ミリランシェルは驚いたように聞き返した。
「伝染病のため先王陛下が御退位され、ウィル王位が空位となりました。選王会議のために6人の分国王陛下が集まり始めています」
 カインは手短に言う。留守の間に起こった大事件を、彼女は初めて耳にする。
「今、フオロ城で拝謁とできる。運が良ければ他の分国王ともお目見えが許されるかも知れんぞ。朝まで用意の部屋で休むがいい」
 公式使節故、城の一室をあてがわれた。天界人の幸作や、鎧騎士のカーラ達。それに多少は免疫のあるミリランシェルは兎も角。天蓋付きのベッドと絹の布団に思わずはしゃぐティエラ。ぽんと大の字に背中からダイブし、ふんわりと身体を投げ出す。
 粉雪に身体を託したようにずぶっと埋まり‥‥次の瞬間ぷにっと浮き上がる。布団の下に砂利を敷いても快適に眠れることだろう。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥だめ。眠れない」
 ベットが柔らかすぎて寝付けないティエラ。朝気がつくと、ベットの下で眠っていた。

●謁見
 朝、運ばれてきた朝食の後、一行は謁見の間に通された。正面の禿頭の王に片膝を着き礼を取る。
「良く参った。ウィルは卿らを歓迎する」
 続いて右の若い王も口を開いた。
「生憎ウィル王位はまだ空位なのでな。色々と面倒を掛ける」
 ジーザムとエーロン。現在この二人がフオロ城にいる分国王だ。
「トルク王ジーザム陛下。並びにフオロ王エーロン陛下。御代永久(とこしえ)に。下郎めはスコット女公爵が家臣ベクテル・フィラーハ男爵。御尊顔を拝し奉り、恐悦至極にございます」
 思いっきりよそ行きの言葉で頭を下げる。
「知らぬ仲ではない。堅苦しい事は抜きにしよう」
 ジーザムが水を向けると、ベクテル卿は折り敷いたまま少しづつ前進し、一本のスクロールの捧げた。
「我が主君よりの書状に御座います」
 封を切り、一読するやジーザムは
「委細承知した」
 と短く答えた。
 緊張しつつもティエラはにっこりと微笑みを絶やさない。それが一段艶(あで)やかに彼女の美しさを引き立てる。いや、どちらかと言えば愛らしさだろうか? 厳しい目をしたエーロンの口元も少しくほころぶ。
「そこの天界人殿」
「はい?」
 ジーザムの声に、ガチガチに緊張していた幸作が答える。
「天界には無い不慣れな儀礼で疲れたであろう。特別にイスを与える。座るが良い」
 木のイスが運び込まれ勧められる。断っては失礼と思い、幸作はおそるおそる腰掛けた。
(「ウィルの王様って優しい〜」)
 ティエラは嬉しくなってにっこりと笑う。優しいと言う意味では、メイのアリオ陛下も人後に落ちないのだが‥‥。如何せん、彼女は会える身分では無かった。王族と言う者を間近で見るのは初めてなのだ。人は一方的に、好意を持たれると好意を持ち、敵意を持たれると敵意を持つと言う箴言の通り、ティエラの笑顔は良き働きを顕した。
 聞かれるままに幸作はメイの事情を説明する。無論、国事に関わる物などではなく、彼が知る一進一退のカオスとの戦いだ。その上で幸作は偽りのないビジョンを明かす。
「バランス型のバガンに比べ、モナルコスは操縦者の生存性を重視したゴーレムです。それでもその消耗は馬鹿になりません。私は、叶う事ならゴーレムに関わる全ての技術を学びたいのです。技術製造、操縦、戦術、一般技術‥‥。叶うならば庶民の生活向上の為の技術として。例えばゴーレム技術を応用すれば、土地の生産性も上がると思います」
 現状、メイでもウィルでも、ゴーレム技術は兵器の技術である。しかし、兵器の技術が進歩して平和利用された時。ミサイルはロケットとなって月を征服し、弾道計算や暗号解読の専用機の末裔は世界を結ぶ双方向のメディア、インターネットに進化した。例えばゴーレム技術を義手や義足に応用できれば、身体の不自由な人々や傷痍兵士にとって大いなる福音となるだろう。
「生産の実際については、渡せる技術はすでにメイに渡っておる。ウィルとメイの事情によって、役に立つ立たぬが異なるのは判らぬが、それはメイの技術者のがんばりに期待する」
 ジーザムは当たり障りのない返答を返す。
「戦術については無理だ。そう易々と国家の大事は明かせん。それにウィルのゴーレム戦術がメイにとって役に立つとは限らないだろう。まだウィルでは騎士道に基づく戦いが中心だ。手段を選ばぬカオスニアンとの戦いについては、メイに一日の長がある。ただ、新生空戦騎士団の連中やルーケイの奴らは、騎士道が通じない相手に対する研究を進めている。グライダーをカタパルトとして砲丸を浴びせる戦法や、固定ランスでの突撃は見るべき物があるぞ。実験的だが、チャリオットと小型ウッドとの組み合わせも考えられている」
 エルムが釘を刺す。
「トルクの権限の及ぶ限りに於いて、工房その他にへの立ち入りと自由見聞を許可する。但し、ウィルにおいては他言無用である。メイに戻っても、アリオ王と工房関係者以外に漏らしては為らぬ」
 ジーザムの許可は下りた。

(「え? あれは‥‥」)
 突然のことだった。片膝を着き控えていたミリランシェルがバネのように立ち上がり、そしていきなり剣を抜いた。
「よせ! 早まるな!」
 反射的にエーロンとジーザムが、同時にミリランシェルに向けてダッシュ。
「なんだ!」
 普通はこういう場合、王は乱心者を避けて待避するはずだ。なのに逆に近づいてくる。訳の分からない状況にカーラは声を上げた。
「‥‥」
 幸作はあまりのことに反応が追いつかない。衛兵達も同様。
「陛下! 危ない!」
 言いつつ投げるノーマルソード。それは、回転しながら天井から降りてきた影としすれ違う。見事命中! 深々と胸に突き刺さった。
 ‥‥だが。そいつは倒れるどころか一滴の血も流さずに、襲いかかる。二人の王者に。
 と、一筋の光が天窓から矢のように射し込んでそいつを貫き、床に転がった。ティエラが咄嗟に成就させたサンレーザーだ。さほど威力は無い物の、足止めには十分。そこへ、
「陛下!」
 絶叫しながら飛びこんで来たエルムの一閃がそいつを切り裂くや、霧のように四散した。
「くっ。カオスの魔物か?」
 光の加減で青みを帯びたサンソードを拭いながら、エルムは鞘に収める。
「なんと言うことザマス。カオスの手は、早速ウィルにも迫っているザマスとは‥‥」
 件の書簡は対カオスの同盟を求めるものであった。

 謁見の終わりに、ミリランシェルは一つの特権を得た。王の前で剣を抜き放つ特権だ。あの時ジーザムもエーロンも、いや間近にいた衛兵達も、誰一人としてミリランシェルが乱心して王に対して狼藉を働くとは誰も思わなかったのだ。寧ろ、彼女の自害を心配した。これと言うのもいつぞやの割腹騒動のせいと思えば、世の中何が幸いするか判らない。

●ゴーレム工房
 ゆっくりと時間を掛け、ゴーレム工房を見学。ジーザムの好意で普段は誰も入れない場所まで入って行ける。このために参加したメンバーであるから、皆真剣そのもののまなざしだ。

「新型ゴーレム開発関連は聞いた方がいいと思います。特別なゴーレム情報なども聞けば有益な情報になるかと‥‥」
 ミリランシェルの耳打ちにベクテルは質問する。
「天才オーブル卿ともあろうお人が、これくらいで満足するとは思えないザンス。ミー達が見たとしても、メイで実現するのに時間が掛かり、その頃にはウィルはもっと先を行ってるザマス」
「お世辞はいい。諸君はジーザム陛下の恩人に当たる。特別に見せよう。忠告するが、今から作るならばアイアンは止めた方がいい。性能が中途半端だ。実戦効率を考えるならストーンを量産するか、上のシルバーを造った方がいい」
 ストーンの製造現場。シルバーのロールアウト。さらには上のプラチナゴーレム。カーラはメイに比して効率化されている工房のあり方に感心する。
「‥‥規模がまるで違う」
「バガンならば比較的短期で量産可能だ。キャペルスは調整に時間が掛かるが、既に製造ラインは完備した」
「バガンって、どのくらいで出来るの?」
「詳しいことは秘密だ。だが、購入したいならばデク1機600G、バガン1機2700Gでお譲りしても良い。メイへのおみやげにするなら、アリオ陛下の持ち込み許可とジーザム陛下の持ち出し許可の二つが必要だ。あなた方ならアリオ陛下のお許しだけで良いだろう」
「上位ほど高いのね‥‥」
「費用もさることながら、工期も上位機体ほど長く掛かる」
「つまり、駆逐艦よりも戦艦創るのに時間が掛かるのと同じなのか?」
 幸作の質問に、
「強い機体ほど費用も工期も上がって行く。これだけは確かだ。国力と必要を計算して生産しないと、無駄に国力を使うことになるだろう」
 オーブルはその見極めが難しいと言う。技術的に面白いことと、実際に直ぐ役に立つことには大きな隔たりがある。仮令最強のゴーレムを創ったとしても、それで民が疲弊しては何の意味もないのだ。一技術者ならともかく、工房長ともなれば経済を無視して事を運ぶ訳には行かない。幸作はじっとオーブルの哲学を拝聴した。
 そしてひとしきり解説が終わったところで、
「メイはカオスを直接の敵としています。謁見の席でも出ましたが、カオスに騎士道は無用。ただ、効率的で有効な攻撃手段の開発が急務です。‥‥例えば射撃とか、エレメンタルキャノンとか」
「セレ分国のためにカスタマイズした射撃システムがある。ただ、これはウッドやバガンでは実証されたが、重装型のモナルコスに適うかどうかは判らない」
「今のウィルのゴーレム制式装備は?」
「標準の剣と盾はあるが、それと異なる場合は個人個人で適した物を装備する。ショアのほうで盾の形状と戦法に関する研究が進められているそうだ」
「ショア‥‥ですか」
「ショアにはショアの秘密がある。ウィルはメイのような一枚岩の国ではないのだ」
「秘密って良い響きだわ〜。‥‥誰にも秘密はあるものだもの」
 ティエラは憧れるようにぼそりと漏らすのだった。

 こうして、何日にも渡った工房見学は終わった。
「お役目ご苦労です。ウィルは皆様を留学生として遇します。どうぞごゆるりと滞在下さいませ」
 一連の日程の後、カインが宿を世話してくれた。