北方国境警備Ｃ〜難民保護隊
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■ショートシナリオ担当：マレーア１ 対応レベル：8〜14ｌｖ 難易度：普通 成功報酬：6 G 22 C 参加人数：9人 サポート参加人数：2人 冒険期間：12月20日〜12月30日 リプレイ公開日：2006年12月29日 |
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●オープニング
「難民が国境を越えてくるのはこのあたりか？」ハンとの国境線は細い川、深さもあまりない。大した障害物にはならないが、明確な境にはなる。ハン王国の南の二つの分国ウスとハラン。この両国は長年敵対関係にあった。この半年の間、対立が緩んだかに見えたが、秋の収穫を終えると再燃した。
その結果、互いに分国境線付近での偶発的な戦闘が繰り広げられた。両国とも騎士よりも傭兵を使う事が多く、傭兵は１回ごとの戦いに雇われ、現地集合現地解散というもっとも経費の安い雇用方式が取られた。雇う側には一見都合の良い様に見えるが、その副作用は後々大きく出て来る。解雇された傭兵が付近の村を荒らす事もしばしば起こるのである。
それに耐えきれず、噂では南の豊かな国と伝わるウィルに逃げ出す者が出始めていた。
ウィルでもフォロ分国の豊かさではあまり変わらない。期待が裏切られて山賊化されても困る。そこで、民衆のことならと白羽の矢が立ってしまったのが、トルク分国セクテ領主ルーベン☆セクテであった。
「北の国境はフォロ分国の領地。そこを警備せよとは、トルク分国への正式な軍事奉仕と解釈してよろしいのでしょうか？ エーガン王陛下」
ルーベンによる確認。言葉こそ問題ないもの、口調は冷たいことこのうえない。セクテ家は、国王と直接封建契約を結んでいるわけではない。直接命じられる義理はない。
「こざかしいことよ。貴様ごとき父無し子を国王の剣としてつかってやるのだ。ありがたく思え。直臣であれば、セクテ家など真っ先に取りつぶしておる」
「（エーガン王、あなたは全く変わっていない。フォロ分国の実情をもっと知るべきだ）」
ルーベンの目が、一瞬細くなる。
「陛下、国王とはいえ口が過ぎますぞ」
難民の山賊化の問題から、山賊討伐に関わったモン伯爵ザモエも同席していた。そのザモエから釘がさされる。
「む・・・トルク分国への正式な軍事奉仕だ。ただし、実際に現地に赴き指揮と取るのはその方だ」
横やりを入れた相手が相手だけに、エーガン王も言葉を改めた。
「難民たちが、陛下を煩わせぬようにいたしましょう」
と大見得切ったものの、調べるとかなり厄介なことが分かった。
ウスとハランもすでにバガンを入手しているらしい。それを掣肘するためにハン王家ヘイット家にも多数をバガンを販売することになっているが、それはまだヘイット家には、届いていないようだ。本来ならヘイット家が２つの分国の争いを静めるべきだが。
「難民輸送用のフロートシップはともかく」
正規戦ではない、遭遇戦を想定しなくてはならない。
「ゴーレムに対抗するには、ゴーレムか。やりようによってゴーレムなしでも、どうにかなるかも知れないが」
正規の合戦となれば使えない手も、無断で越境して非武装の者たちを手にかける者たちにならば使えないことはない。しかし。
「戦略的には、敵より多くの戦力を揃えるのが天界人のやり方と聞く。流行りの天界流を前提にしよう」
ウスもハランも各２体のゴーレムを所有しているらしい。両国が同時に越境してこなければ、４体あれば間に合う。姿を見せただけで撤退してくれれば良い。相手が傭兵だけなら。ゴーレムの姿を見せただけで逃げ出すかも知れない。
正規の軍事奉仕ということで、ゴーレムはトルク分国紺碧騎士団に納品する予定のものを借り受けることができた。しかし、乗り手の鎧騎士や天界人は冒険者から募らなければならない。そして戦いは、ゴーレム以外の戦力も存在する。ゴーレムの稼働時間は制限があるし、小回りは効かない。騎士やウィザードなども必要だろう。
「北部領主からも、人手は借りられるが」
彼らにとっては防衛戦。しかし、直接命令できるわけでもない。冒険者の方が小回りが効くだろう。
保護した難民についても、感染症を持ち込んでいないか調べる必要があるだろう。エーロン殿下の治療院からも、幹線病対策の人手がほしいところだ。
本営は、かつて山賊が砦を築いていた丘を利用する。
●今回の参加者
ea1458 リオン・ラーディナス（31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国）ea1643 セシリア・カータ（30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国）
ea4844 ジーン・グレイ（57歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国）
ea7482 ファング・ダイモス（36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国）
ea8218 深螺 藤咲（34歳・♀・志士・人間・ジャパン）
ea9515 コロス・ロフキシモ（32歳・♂・ファイター・ジャイアント・ロシア王国）
eb0884 グレイ・ドレイク（40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国）
eb6395 ゴードン・カノン（36歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb9744 ローザ・ランティス（20歳・♀・ウィザード・エルフ・アトランティス）
●サポート参加者
ベアルファレス・ジスハート（eb4242）／ バルザー・グレイ（eb4244）●リプレイ本文
●難民輸送船「難民輸送用のフロートシップか、ゴーレム隊や治療院用に比べると」
ファング・ダイモス（ea7482）は、他の２隻と見比べてしまった。従来の旧式は見栄えも性能も劣る。
「すごいものだ」
グレイ・ドレイク（eb0884）は船が飛ぶというだけでも、驚異だと思っている。ジ・アースにはこんなものはない。古代魔法のなんたらとかなら世界のどっかに眠っているかも知れないだろが、現在においてこんなものを作れる技術はない。
「飛ぶだけなら、ギルゴートとて」
コロス・ロフキシモ（ea9515）とは言うものの、間近で見る大きさは圧倒される。
「ペットの排泄物は飼い主が責任を持って、だそうです」
セシリア・カータ（ea1643）が伝えに来た。
「難民を『んこ』の上に座らせるわけにはまいりません、ってことですね。みなさん大丈夫ですか？」
深螺藤咲（ea8218）が、おちゃらけていう。
「私たちの中に、そんな非常識な人はいないでしょう。もし破る人がいたら、上空から突き落としてしまえばいいのよ」
ローザ・ランティス（eb9744）の言葉は、本気そうで怖い。いや十分にやりかねない。小悪魔的な表情がなんとも。
船倉には、一杯に詰め込まれた食料や生活必需品があった。
「すごいな。この物資、難民用だけじゃなく北部支援も入っているだろう」
北部は今年も不作だという噂が、一部でささやかれている。それに対してエーガン王は何も支援していない。
「北部がフオロを見限って、ウスなりハランなりに付かないのは、向こうがもっと悪いから？」
「まともじゃないのは確かだ。領民が逃げ出すくらいだから」
冒険者用に割り当てられたのは、かなり狭い範囲だった。
「ギルゴート、おとなしくしていろ。人や馬を食うなよ」
コロスは狭いところに押し込められてストレスのたまるグリフォンに命じた。
「猫や犬もね」
ローザが付け加える。微笑んでいるが目は怖い。
●砦
「変わった」
ファングと藤咲は、以前の山賊討伐の依頼で潜入した砦とは、かなり変貌していて驚いた。
「ここが本営になるのか」
もしハンと国境を挟んでにらみ合いになったら、良い拠点にはなる。
「クリエイトウォーターの使えるウィザードが味方にいれば、水に困ることもないでしょう。私は使えませんけど」
ローザの言葉。
砦の北側はすでに難民を一時収容する施設ができつつある。
「北部領主たちが、領民使って作らせている」
グレイが聞いてきた。
「手回しがいいな」
コロスが感心したようにつぶやく。
「セクテ候が手を回していたらしい。フロートシップで運んでいた食料の一部は、領民を働かせた対価だ」
「自分の臣下じゃないから、ただ働きさせるわけにもいかないのだろう」
●難民の処遇
「セクテ候、確認したきことがあり、まかりこしました」
護民官リオン・ラーディナス（ea1458）は案内役のジーン・グレイ（ea4844）とともに、丘に築かれた本営に出向き、ルーベン・セクテに謁見を願った。
「今回はそんな大所帯じゃない。こんな貧弱なところで謁見を願われたら、かえってこっちが恐縮する」
「はぁ（分国王の弟にしては気さくな人だ）今回の警備、無血の解決を最良とし、一滴でも流血を減らせる様、働かせて頂きます」
と心境を述べた。
「期待している。北部の領主たちは人手を送ってくれているが、彼らは私の臣下ではない。命令して手足のように動かすというわけにもいかないし、暴走したら厄介だ」
「確かに。ところで、保護した難民の具体的な遇し方を伺いたく思います。それに添う動き致します故」
リオンはルーベンがどのような危険性を考え、それを回避するために苦心しているかを理解した。制御できない力は自らをも傷つける。そして、疑問をぶつけた。
「二人目か」
「はい？」
部屋にはすでに先客がいた。ササンの騎士ゴードン・カノン（eb6395）も同じ用件で尋ねてきていた。
「ジーン、すまないが皆を集めてくれ」
個々に来られて別々に説明するよりも、全員の前で言った方が手間が省ける。
「ゴーレム隊、全員揃いました」
「治療院隊、難民保護隊全員揃いました」
「作業を中断して集まってもらったのは、難民の処遇についてだ」
ルーベンの声は、そこに集まった全員に届く。
「エーガン王との約束は、『難民たちが、陛下を煩わせぬように』することだ。越境した難民たちを追い返しても、再び国境を越えるようなことがあればその約束は守れない。そこで選択肢は２つあると思う。一つは、越境してきた難民すべてを殺害し、その躯をくし刺しにして国境線に壁を築くこと」
「ちょっと。それは」
「冗談ではないぞ」
非難の声が飛ぶ。ルーベンはそれを右手をあげて制する。
「しかし、国王陛下の命令でもそんな真似は、騎士として、いや人としてできない。もし陛下がそれを命じるなら、陛下といえど軽蔑する。ではもう一つの方法しかない。難民を保護する。難民輸送用のフロートシップを用意してある。一時ここに収容し、感染の恐れの無い者たちから家族単位、あるいは近隣の数家族単位で移動させる。すでに受け入れの村も多数準備してある。当面の難民には対処できるだろう。皆の奮闘に期待する。騎士として人として、困っている者たちを助け、自活する道へ導く」
この処遇を発表したことで、寒いながらも士気は高まった。
各隊はそれぞれの作業に戻った。
●いずれ限界が。
「当面の？」
「限界はある。それまでにハン王家のヘイット家を動かして、ウス、ハラン２分国の動きを掣肘してもらう。ハン王家にゴーレムを輸送する依頼があったはずだ。冒険者がヘイット家とコネクションを持てれば今後の架け橋になりえたが」
依頼への冒険者の参加者は少なく、トルク家で護衛を出した。
「ヘイット家を動かす別の方法を考えねばならない」
それから３日の間に、６００人くらいの人が川を渡ってきた。広範囲に分かれて、朝夕の暗い時間を見計らって。それをギリギリの明るさまで哨戒していたグライダーが発見して、難民保護隊に連絡。難民保護隊が、治療院隊に護送するという単調な作業が続いた。
保護隊の方で武器の有無を確認する。さすがに裸にはできないから持っているかどうか。
「大忙しだ」
ファングは走り回っていた。
「難民か‥‥この国が豊かだからと集って来る様はまるで蚤だな」
「そのセリフ、悪役です」
セシリアがコロスをたしなめる。
追撃してくる人影がないわけではないが、川を越えたことを確認すると引き返していく。
「妙だ」
グレイは違和感を感じる。あれで追撃ではなく、まるで見送っているようだ。
「不思議ですね」
藤咲も同様だった。
●難民の声
リオンは、難民保護隊を代表して本営に呼ばれた。ゴーレム隊からも１名来ていた。
「さきほど保護した難民から救援の要請があった」
３日後の夜に大規模な越境を行うので、村の仲間を助けて欲しいと。
「自力で動けない者も多いと思う」
難民輸送用のフロートシップも国境線まで前進して輸送を行う。国境線と本営との連絡は、フロートシップの風信機で行う。
「夜間の移動のため、かがり火をできるだけ多く用意する。今回は人数も多い。各隊とも疲労もたまっていようが、頑張ってほしい」
「セクテ候のその精神を、護民官として今後参考にさせて頂きます」
リオンは跪き敬意を込めて伝えた。
「リオン殿、一言言わせていただければ、精神だけでは人は救えない。救うには救うだけの力が、必要になる」
●川向こうの騒ぎ
「霧が出てきた」
水量が少なくとも、川の影響があるのだろう。
「霧はハン側の方がひどいようだ」
ゴーレム隊は地上が霧で見えなくなるからグライダーは飛ばせないと言ってきた。
さらにゴーレム隊にいたルーベンのところに怪しいバードが近づいていたとも。
「バードってまさか。ウィルに混乱を巻き起こしている？」
ファング・ダイモスと藤咲が真偽を確かめるために、ゴーレム隊に行くと、どうやら違ったようだ。
バードの知らせた情報は、ハランのゼネナ姫が、配下の騎士団を率いてこちらに向かったということだった。
「ついでに、ハラン家ご自慢のバガンも２体勝手に持ち出している」
ルーベンは頭痛を感じて、額に手をあてる。
「相手が騎士となれば」
「まともな戦いもできるかも」
難民の受け入れだけでは、いささか単調すぎた。
ゴーレム隊も相手がゴーレムを持ち出してきたと気勢を上げた。
しかし、この霧では同士討ちにならねば良いが。
「長い夜の始まりだ」
霧の中から川を渡る水音とともに、人影が現れる。
「武装しての越境は領土侵略とみなし、排除するものである！ 即刻この場より立ち去るが良い！」
コロス・ロフキシモの声は、難民をより怖がらせる。
「武器を離さぬということであれば、残念ながら山賊として扱わねばならん。不安かも知れぬが武装解除に協力してもらいたい」
ジーン・グレイが代わって難民たちに呼びかける。
グレイ・ドレイクは霧の奥から聞こえてくる音に注意を払っている。
「騎士が来るなら、私が相手をします」
セシリア・カータも意気込んでいた。
「歩けない者は、ここで待て」
難民輸送用のフロートシップは、往復を始めている。
「この霧の中、事故を起こさねばいいが」
リオン・ラーディナスは、本営の方を向いたが霧で何も見えない。近くのかがり火がどうにか見える程度。歩ける者はすでに、自分の足で歩いている。
「これではゴーレムも」
霧で見えないことだろう。ローザ・ランティスには動きだしたゴーレムが、まっすぐ歩けるか不安そうに見た。
●使者
「来た」
グレイ・ドレイクは軍馬の音を聞き分けた。ロングソードを構えると、霧の中から一人の騎士が姿を現した。
「騎士ならば騎士らしく、難民を苦しめるな」
「誤解だ。ハランの騎士として、責任者と話がしたい」
「信用できるでしょうか」
セシリアも首をかしげた。
「伝えるだけは伝えよう」
グレイ・ドレイクは付近にいたバガンに伝える。バガン内部の風信機から候に伝わるだろう。
しばらくすると、ルーベンが姿を現す。
「わが主ゼネナ姫は良からぬ者たちの企みにより民が害されていることを知り、父王に訴えるも聞き入れられなかったため、実力行使にでました。しかしこの霧で戦況は思わしくなく」
騎士は現在の戦いの音は、逃れようとする難民を守る者と追撃する者とが戦っている音だという。
「助けが欲しいか」
「はい」
「それはゼネナ・ハランの直接の言葉か？」
「いえ」
「卿の独断であれば、助けることはできない」
ルーベンは、きっぱり断った。
それから負傷した難民が増えてきた。戦闘に巻き込まれる者が出てきているのだろう。
「自己満足のための戦いは、無用の出血を増やす」
と言いいながらも、右手が震えるほど強く握りしめられていた。時折、難民を追撃してきたも者がこちら側まで来ると、武威を見せつけて武装解除して縛り上げる。追撃に夢中になって、国境を越えたことも警告を受けたことも分からなかったようだ。
そうしているうちに、戦いの音は聞こえなくなった。戦いの音が聞こえなくなる直前、無数の矢羽根が風を切るような音が聞こえた。そして先程の騎士が姿を現して一言だけ言って霧の中に消えた。
「ご助勢感謝する」
「どういう意味だろう」
この後は、難民受け入れに忙殺される。
●撤退
あの夜以降は、ほとんど難民はいなかった。今後は分からないが。
病にかかっていない難民の輸送が終わり、残っている者は２００人。確実に感染している５０人は治療院に収容されて治療される。疑い濃厚な１５０人は、本営の建物を療養所にして観察と治療を行う。看護人は北部から志願者を募る。
「どうにか約束は果たせそうだ」
「あの騎士の言葉は、どういう意味だったのでしょうか？」
ゴードンは気になっていたことを尋ねた。
「実行者に聞くのが一番だ。そこにいるんだろ、出てこい」
ゴードンは近くに不審者がいた事に驚いた。
「暗殺者が手こずるのも分かる」
黒い甲冑の騎士が姿を現した。フルフェイスで顔は見えない。
「何者か尋ねたところで言うまい。難民を助けたことには礼を言おう」
「優秀な弓兵団を知っている。雇わないか？」
「傭兵の売り込みか。不要だ。必要とさせないのが私の役目だ。必要になったら考えよう」
「では、待っている」
それだけで踵を返して姿を消した。
「あのまま行かせて良かったのですか？」
「やり合って勝つ自信、あったか？」
ゴードンは逆に問い返された。
「全くありません」
「今死ぬわけにはいかんよ」
最後に妙な出会いはあったが、それは当人たちだけの記憶に止めた。荷物をまとめるとフロートシップでウィルに帰還する。
ウィルに着くとリオン・ラーディナスは、ルーベンに伝えた。
「今回に限らず、以降も私は民衆が傷つかない道を探していきます。今日お会いし、セクテ候が人道的かつ聡明な方と知る事が出来ました。これからも無血の道を模索する際、どうにかご協力頂けないでしょうか」
「無血とは難しいことを言う。流した血の重さと意味を忘れなければ、いずれ流れる血は少なくなる。高すぎる目標に、押しつぶされぬようには手助けしよう」
