●リプレイ本文
●分国王集結
ウィルに居住しているフオロ分国王エーロン、すでにウィルに滞在し、エーロンが国王職代行を補佐するトルク分国王ジーザム。この二人を除く四人の分国王が自ら用意したフロートシップや迎えに送ったフロートシップで続々とウィルに到着していた。セレ分国を除けばすべての分国でゴーレムを持ってきている。そのうち一番目立つのは何と言ってもウィエのゴーレム。外部装甲に意匠を凝らしている。しかも、色は金。金箔を張りつけるといういかにも実戦離れしたもの。それだけに、使うために持ってきたのではなく見せるために持ってきたというものであると同時にもう一つの要素を宣伝していた。国王になるには経済力も判断材料の一つ、存在自体をデモンストレーションしている。悪い見方をすれば、悪趣味とも言えるが、それををいう前に見かけに圧倒される。
●憂慮
「にーさまをたすけるのは、いもーとのやくめなの」
ウィンターフォルセ男爵レン・ウィンドフェザー(ea4509)の言葉に、選王会議を前にして頭痛を感じるエーロン、その理由は、誰もが知っている魔の破壊神の通り名のとおり。アトランティスに無い神と言う存在を自ら証明したようなもの。
「城は壊さないでくれよ」
時として強力すぎる武器は、敵よりも味方にとって脅威となる。そして、強力な力を持つ者はそれに惑わされない心を持つ必要がある。とは思いながらも、レンの頭を撫でてるあたり、レンの将来に不安を抱いている。ウィザードが一般の領地の領主になったことはない。冒険者が全員騎士身分相当ということで一応問題は起きていないが、ウィンターフォルセの復興資金を先王に無心したことから、先王が分国内の領主たちから資金を調達し、周囲から怨みを買っている。最大の庇護者である先王がいなくなってから風当たりは強くなるだろう。
エーロンは早速、護衛を連れてウィルに到着した分国王の館を訪問する。最初は、ウィエ分国王エルートの館。
「あんまり、無謀なことはするなよ」
エーロンは同行しているベアルファレス・ジスハート(eb4242)に言った。その元といえば、トラブル起こした者は国に関係無く身柄の拘束を行うものとすると相談したことにある。今回各分国王が伴ってきたのは各国の精鋭。それに各分国王が雇った冒険者。護衛側でカオスの魔物に憑依される可能性はほぼ無い。それよりもカオスに憑依された一般人との間で起きるトラブルの方が大きい。その対処方法でもトラブルが起こりうる。しかも同じ冒険者とはいえ、分国王に雇われている間は、分国王の臣下と同じ扱いになるから、分国王の許可なく拘束すれば、もっと大きなトラブルになる。事後通告でも黙らせるだけの国力の差があれば別だが。そんなものはない。天界人の常識知らずということだろう。天界ではそういことができるのかっと、富島香織(eb4410)に尋ねたが。
「天界では今回の場合には外交官扱いとなりますから不逮捕特権という形になるかも」
無差別にとなると天界でも問題を引き起こすようだ。ベアルファレスがアトランティスの常識を知らぬだけでなく、天界でも常識に通じていなかっただけのこと。と思い至ってエーロンはため息をつく。
「それよりも、単独行動はせず、2名ないし3名で行動するように伝えろ。そうだ。オスカーの出産の護衛ご苦労であった。今後も守っていくつもりなら精進しろ」
「これはエーロン陛下、わざわざ拙宅に足をお運びいただき‥‥」
エーロンの到着を知らせると、エルート自ら出迎えに出てきた。
「分国王陛下御自らのお出迎えとは恐れ入ります」
エルートの元にも雇われた冒険者が護衛についている。そして庭にはエルートが国元から持ち込んだゴーレムが常時2体起動状態で待機していた。
「ウィルの治安に問題があると聞いたための措置です」
「危機管理は重要です。取り越し苦労で終わるならそのほうが良い。すでに、フオロでも赤備による市街地の巡回を行っています。もしエルート陛下のゴーレムにも一地区を受け持ってもらえると助かります」
「よろこんで協力しましょう。ところで内密の話が」
エルートは周囲に視線を向けた。二人きりでの会話を希望していた。
「エルート陛下は貴重なコレクションをお持ちと聞いています」
「それは忘れていた。せっかく来ていただいたのだ。ご覧にいれましょう」
二人の分国王は余人を交えずに、エルートのコレクションがあるという部屋に入ったまましばらく時間が過ぎた。
●赤備
「フオロのゴーレムは?」
セオドラフ・ラングルス(eb4139)にしてみれば、受け入れる側であるフオロ家には混乱が起こることは威信の低下につながる。それもゴーレムが他国の要人を襲撃したりすれば。
「フオロ家のゴーレムといえば」
アリア・アル・アールヴ(eb4304)は、その配置を思い出した。少し前まではフオロ家には10体のバガンのみであった。しかしその半数は赤備に配置されている。さらにその残りの半数ほどは、個人所有のシャリーア卿、王弟カーロンより預かるルエラ卿と、事実上ルーケイ関係者の管理となっている。現在手続きが手間取っているが、フオロのゴーレムが増え次第、さらに増強される予定だ。
「赤備については問題にはならないでしょう。経験豊富な方が陣頭指揮をとっていますから」
となると残りは、ルーケイのゴーレムはルーケイ伯与力である山下博士(eb4096)がルーケイ領ゴーレム管理者として管理している。これらのゴーレムが奪われるなり、盗まれるなりして、それが攻撃に使われた場合には、その責任が発生することだろう。
「精鋭と言っても、それがすなわち現陛下に忠誠を誓っているとは限りませぬ。現陛下との仲が疑わしい者や不審な噂のある者が配置される場所には、特に目を光らせましょう」
「それって、ルーケイ伯を疑えということか?」
アシュレー・ウォルサム(ea0244)は、セオドラフの曖昧な言い方をもっと具体的に言った。このところ、ルーケイ伯とその周囲とエーロンとの間の不仲が噂として流れている。アシュレーはフオロ家との関わり合いは少ないから、細かい事情や事実関係などは知らない。とはいえ、同じ冒険者で疑うというのも。
「さて、お偉方が一度に会してるこの状況は不満を持ってる連中からすれば、絶好の機会だろうからね。警護は大変だよ」
などとのほほんと言っていたいが、そうもいかないようだ。
「そういえば博士は?」
博士はゴーレムを管理する立場だった。今頃は強奪されないようにしていることだろう。
「博士は子爵の爵位を持っていて権限も大きい。しかも若い。やっかみは多いだろう」
それが理由で管理下のゴーレムが盗まれれば大変なことになる。
●旗とグライダー
ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)は、カーロン王弟殿下に各分国の旗の管理を厳重にするように進言していた。もちろん、各分国ともルエラに言われるまでもなく、旗の管理は厳重だった。
「差し出がましいことを申しました」
「いや、それよりも」
カーロンはむしろ、冒険者の暴走の方を心配していた。先王は王都上空におけるのグライダーの飛行制限を行った。次の国王が改めるまでそれは有効である。もしもグライダーで飛行した場合には、確信犯として扱われる。悪くすれば王命に背いた反逆者となる。それが原因で他の分国と争いになった場合には、非常に悪い立場になるだろう。
「知らぬ者もいるのではないでしょうか」
「いや、知らなかったでは済まされない。グライダーを私有する者は限られている。飛行制限を知らない者が私有しているはずがないと思われるし、知らぬ者が私有していたとあっては先王の罪状となる。エーロン陛下が、知らぬ者が私有することを許したことを認めると思うか?」
おそらく、天界人だからという免責はありえない。グライダーの私有は、冒険者の意思。エーロンは、そのあたりのことにはかなり厳しい。
「冒険者の軽挙は慎むように伝えてくれ。フオロの依頼を受けた冒険者だけでなく、全員に」
「はい」
●暴走阻止
ミーティングの席上では、空戦騎士団の暴走が問題点にあげられた。視界の広がる原野ならともかく無秩序に拡張されていった地区も少ないなく、上空から哨戒するとか偵察するとか怪しい奴を見つけるとか、はっきり言えば実効性に乏しい。そして一番のネックはグライダーによる王都上空の飛行制限であった。
「先王が決めたことを改めることができるのは、今では新王のみ」
それまでは、カーロンやルーベン如きが口出し出来る筋合いではない。
新生空戦騎士団は、彼ら自らが望んだ通りにウィル全体に属する騎士団。いわば国軍と言っても良い。このためウィル国王に直隷する。公人としての立場において空戦騎士団長シャルロット・プランは、かのエルム・クリークと同格であり、カーロン・ルーベン両王弟殿下と共に論じられるべき重責なのである。王命による職務遂行に於いて、状況によっては分国王と同格扱いになる場合すらあり得る。返して言えば、彼らから警戒されることもある立場であることを示す。今回、空戦騎士団に対してなんの話もなかったのは、彼らがウィル国王直隷の者で、命令者が空位であったためである。
合言葉はすそ野は広がり過ぎるし、知る者が多くなれば意味がない。ゴーレムを各国で巡回させることを各国の情報網をフルに使って敵対する者を探ることになった。あとは共闘体制の誓約。
冒険者がグライダーを私有した頃から、飛行制限が決められた。
「なんでもGCRの賞品に出たためだとか。なんでそんなものを賞品に出したのか? そもそもそれはどこから来たのか。マーカス商会を叩けば、何か出てくるかもな」
件のグライダーはファミレスの看板になっているという。そのために今行動が制限させることになった空戦騎士団こそ被害者。もし強行していたら、全員王命に反する反逆者として新国王の初仕事の裁判で絞首刑が言い渡されるところだった。反逆者には、騎士身分の処刑方法である斬首は行われない。山賊などと同じに絞首刑になる。
「新国王が今度のことをどう評価されるかは不明だが、緩和される方向に向かって欲しいものだ」
差し止めを命じたセクテ候とカーロン王弟の二人とも同意見だった。
●北司令部
カーロンは分国王たちがフオロ城選王会議に籠もると城の北側の司令部に移った。城の南にはセクテ候の司令部がある。どちらか片方が襲撃された場合には、もう片方がすべての権限を把握する。
「ゴーレムを使った巡回は敵の意図を挫くのかもしれません」
各国のゴーレムがそれぞれの巡回ルートでウィルを回っている。物騒なことこのうえないと思われがちだが、ウィルの住民がゴーレムによって襲撃された事は無い。そのため恐怖心はない。むしろ、ウィルカップがあった分、好意的に受け止められている。
「こういう効果もあったのか」
アリアは、狂王の考えに怖ささえ感じた。
「仕え甲斐のありそうな人でしょ?」
「今のところ異常なし」
「反乱なんて起こす気になる奴なんてない」
ベアルファレスと博士が巡回から戻ってきた。ゴーレムを巡回させる影響力は大きい。
●布告
選王会議は丸2日と一昼夜をかけて行われた。内側から鍵をかけて、それが開かぬ限り外部から開けることはできない。6人の分国王は、戦うわけではないが、得意とする得物に好みの甲冑も準備している。さらに飲み物に食料、灯火や暖房用の油を持って中にこもった。武器や防具は、先日のカオス騒ぎの影響によるもの。
その間、外で何が起ころうと次の国王が決まるまでは出ない。そうでなければ、いつまでも国王が決まらずに、空位のまま国が分裂する危険さえもありうる。長時間の交渉を続けられる体力もまた国王に必要な要素であった。地球なら、それに見合った栄養ドリンクも充実しているが、アトランティスにはそれはない。それぞれが持つ力のみが頼り。味方と思っていた者に裏切られて食料に毒を入れられない人徳と毒を入れられても見破る鑑識眼、あるいは飲んでも耐えるだけの耐毒能力も。分国王となると、ある程度の毒物には耐えられるだけの訓練を幼い頃よりしている。
夕刻、次の国王が決まって扉が開いた。
トルク分国王ジーザムを先頭にして。
ジーザム以外の5人の分国王が、納得して承認したことを示すように、次のウィル国王にはトルク分国王ジーザム・トルクが就任することを告げた。
そして、フオロ分国王エーロン・フオロより今のフオロ城を次期国王が国王としての執務を行う場をして提供することが公表された。フオロ城は、フオロ家が国王の執務を行う城として長年使い整備してきたものである。今更トルクに王都を持っていって、最初から作るよりは良いだろう。ただし、城以外の王都はフオロ家のものであることに変わりは無い。
「引き渡し時期は、双方都合の着く時期に」
直ちにというには、今までのフオロ家代々の品々の移動もあれば、トルクの引っ越しもある。それに城内を念入りに掃除するまでは引き渡せないとエーロンも告げた。
「汚れたままでは、フオロの恥。ただ、ジーザム陛下に温情いただけるならば、産後間もない者にはご配慮をいただきたくお願い申し上げる」
産後間もない者とは、マリーネ・アネットのこと。むろん、ジーザムが否定するはずもない。
「慌てることなく準備されよ。こちらもゆっくり準備させていただく。城の名前は、適当な時期に変更し、各国の大使を集めて披露することにしよう」
国王の正式な交代となれば、周辺各国にも通知しなければならない。当然それは外交の場となる。
「友好国であるリグには、できれば国王自らおいでいただきたいところでしょう」
エルートが意味深げな言葉を口にする。リグ国王を呼べるならば、ジーザムの力は大きく宣伝されよう。国王であれば、政務多忙なりの理由をつけて来なくても、低く見られることはない。
「ハンとの問題もできれば解消したいところでしょう。メイは今月は無理でも来月には就任祝いの特使くらい寄越すでしょう」
もし、寄越さねばそれなりの対応をすれば良い。リーザ・ササン分国王もそう発言した。
「ジーザム陛下、国王就任おめでとうございます」
ルーベン・セクテとカーロン・フオロが会議が終わったことを伝え聞いてやってきた。片膝をつき頭を垂れて声を揃えて言上する。
「二人とも、そして多くの者たちよ、大儀であった。これより先はこのジーザム・トルクがウィル国王として国を導く、国のために忠義を尽くすことを期待する。忠臣には厚く報いるであろう。セクテ候、今日よりセクテ公としてウィル国全体の人心を掌握し、安寧をもらたすべく務めよ。分国王たちも冒険者たちも協力してくれよう」
「はっ」
「カーロン・フオロよ。セクテ公とともに民の安寧に寄与せよ」
「力の及ぶ限り」
城の引き渡しまでは僅かに時間がある。それまでには、新体制が徐々に発表されていくだろう。
●デモンストレーション
「ジーザム陛下、派手ですな」
ドーレンは、王城から王都の周囲を周回する飛行物体を見つけた。こんなことができるのは、トルクだけだ。
「あれが新しき力?」
「ほう、あれが」
「来たるべきカオスとの戦いには、もっとも信頼できる力となるであろう」
「しかしその前に片づける敵があるかと」
エーロンは、大剣を抜刀すると、何もなかったはずの空間を無造作になぎ払った。見る間に空間から何やら吹き出して何かが床に落ちた。
「カオスの魔物、いや、せいぜい小物でしょう。何者かが手引きしているようです」
「件のバードか?」
「さてその先は、新国王陛下は優秀な情報網をお持ちのはず。バードの背後にいる国もそろそろ特定できる頃ではありませんか?」
「それはおいおい。討伐には各々方にも合力していただくことになろう」
「合力などと、ただ命じてくだされば良いのです。カオスに加担する国を叩けと。我等ウィルの諸侯は、ウィル国王陛下に忠誠を誓い、命られるまま、アトランティスの正義をもたらすために尽力するでありましょう」
エーロンがそう言って真っ先に、忠誠を誓い。残りの4人もそれに続いた。
「ご苦労であった有能な役立たずども」
エーロンは戻ってくるなりそういった。
「護衛は役立たずで終わることが最高のことです」
博士は言った。
「分かっているじゃないか、犬っころ」
ごしごしと手荒く頭を撫でるエーロン。
「狂王陛下は相変わらず口が悪い」
アリアが言うとエーロンを含めて全員が笑う。香織もようやくこわばった表情を緩める事が出来た。
「これから忙しくなるぞ。掃除に引っ越し。いつまでも時間をかけるわけにはいかない」
今いるエーロンの館が、今後城以外のウィルを統治する場となる。