●リプレイ本文
●分国王集結
ウィルに居住しているフオロ分国王エーロン、すでにウィルに滞在し、エーロンが国王職代行を補佐するトルク分国王ジーザム。この二人を除く四人の分国王が自ら用意したフロートシップや迎えに送ったフロートシップで続々とウィルに到着していた。セレ分国を除けばすべての分国でゴーレムを持ってきている。そのうち一番目立つのは何と言ってもウィエのゴーレム。外部装甲に意匠を凝らしている。しかも、色は金。金箔を張りつけるといういかにも実戦離れしたもの。それだけに、使うために持ってきたのではなく見せるために持ってきたというものであると同時にもう一つの要素を宣伝していた。国王になるには経済力も判断材料の一つ、存在自体をデモンストレーションしている。悪い見方をすれば、悪趣味とも言えるが、それををいう前に見かけに圧倒される。
●D
リディリア・ザハリアーシュ(eb4153)とキース・ファラン(eb4324)は、ウィル郊外に待機している新型フロートシップに呼ばれた。
「予定では、選王会議終了後に披露する。準備と警備はこちらで行うが、選王会議終了後にはデモンストレーションを行う。2名というのは予定外だったが、足りない分は本国から呼び寄せる」
「もう公表してしまっていいのか?」
キースは飛行経験も少ないから、飛行するDはまだまだ使いこなせていない。それはリディリアも同じようなもの。
「今回の選王会議でウィル国王はトルク家にくることになる」
「もう決まっているの? 会議は明後日からでしょう?」
リディリアも驚きの声をあげる。
「実力だ」
●警備体制
選王会議は明後日から。しかし実質的な交渉はすでに始まっている。シュバルツ・バルト(eb4155)と時雨蒼威(eb4097)はジーザムがイムンの館を訪れる護衛に立った。
「騎士の誇りにかけてお守りいたします」
シュバルツはそう言って列の先頭にいた。イムン訪問は蒼威の提案から始まっている。提案した蒼威が護衛につくのは当たり前のことだ。
「陛下の護衛はあれで大丈夫だろうか?」
バルザー・グレイ(eb4244)は、少ない護衛でイムンの館に向かうジーザムの一行を見送ってから、選王会議で分国王たちがこもった後に王都を預かることになる二人のうちの一人、セクテ候のもとに来た。
すでにゴーレムの運用のことで、リューズ・ザジ(eb4197)やエリーシャ・メロウ(eb4333)も来ていた。
「ゴーレムの巡回は問題ない。ただし、道幅の関係で動ける地域は限られる。他の分国と協同して効率的な移動を確認してくれ。ただし、グライダーにより飛行は制限があるから行わないように」
「はい」
エリーシャは早速そのことを各分国でゴーレムを扱う冒険者たちに連絡に走る。グライダーによる王都の飛行は先王が制限をくわえていた。新しい国王がそれを変更するまではそれが生きている。もし、これを破ったら大きなペナルティになるだろう。
「今回はグロウリング伯は、こちらにはいらしてはおられないのでしょうか?」
「彼ならトルク領南部で待機している」
こちらで会議が行われると同時に、それぞれの本国でも臨戦態勢に近い状態になっている。トルク分国でも各領主は封建契約に基づいて、規定の騎士を率いて所定の場所に集まることになっていた。これに応じない領主には、反乱の疑いが掛けられることになる。
「それをグロウリング伯が叩くという訳ですか?」
越野春陽(eb4578)はグライダー使用の許可を申請しようとしてきたが、すれ違ったエリーシャから話を聞いてグライダーによる哨戒計画を認めさせようときた。
「その空戦騎士団の話は、どこから出ている?」
セクテ候は、春陽の説明を聞いた上で尋ねた。
「それはどういう意味でしょうか?」
「国王の騎士団というのなら、どこの国王の名で集結しているのかということだ。誰が責任のある指揮を取るのだ? 実は」
そのあたりが非常に不明確な上に、資金の流れも分からないところがあると小声でつけ加えた。
「トルクも金がある相手にゴーレムなりグライダーを売っているわけではない。その技術が悪用されたら大きな被害が出る。そのため、資金の流れも調べることがある。空戦騎士団のグライダーは先王の名で発注されているが、フオロ家にはそれだけの資金的な余力はなかった。その出所が不明すぎる。いずれにしろ飛行制限は先王の命によるもの。俺如きには、王命を無効にする権限は与えられていない」
新生空戦騎士団は、彼ら自らが望んだ通りにウィル全体に属する騎士団。いわば国軍と言っても良い。このためウィル国王に直隷する。公人としての立場において空戦騎士団長シャルロット・プランは、かのエルム・クリークと同格であり、カーロン・ルーベン両王弟殿下と共に論じ
られるべき重責なのである。王命による職務遂行に於いて、状況によっては分国王と同格扱いになる場合すらあり得る。返して言えば、彼らから警戒されることもある立場であることを示す。今回、空戦騎士団に対してなんの話もなかったのは、彼らがウィル国王直隷の者で、命令者が
空位であったためである。
「飛行制限に引っかかって機動できない状態で地上から攻撃を受けたくはなかろう。かといって飛行制限をやぶって雇い主を窮地においやることは避けるべきだ」
「しかし、万が一の時には」
「その時の備えはしてある。さらに飛行制限はグライダーのみだ」
●暴走阻止
ミーティングの席上では、空戦騎士団の暴走が問題点にあげられた。視界の広がる原野ならともかく無秩序に拡張されていった地区も少ないなく、上空から哨戒するとか偵察するとか怪しい奴を見つけるとか、はっきり言えば実効性に乏しい。そして一番のネックはグライダーによる王都上空の飛行制限であった。
「先王が決めたことを改めることができるのは、今では新王のみ」
それまでは、カーロンやルーベン如きが口出し出来る筋合いではない。
合言葉はすそ野は広がり過ぎるし、知る者が多くなれば意味がない。ゴーレムを各国で巡回させることを各国の情報網をフルに使って敵対する者を探ることになった。あとは共闘体制の誓約。
「そういえばグライダーの王都上空の飛行制限はなんでできたのかしら?」
春陽は疑問に思った。便利なのにつかえない。
「グライダーの所有者が分国王だけだった頃はなかった」
「それって!」
冒険者がグライダーを私有した頃からそれが決められた。
「なんでもGCRの賞品に出たためだとか。なんでそんなものを賞品に出したのか? そもそもそれはどこから来たのか。マーカス商会を叩けば、何か出てくるかもな」
件のグライダーはファミレスの看板になっているという。そのために今行動が制限させることになった空戦騎士団こそ被害者。もし強行していたら、全員王命に反する反逆者として新国王の初仕事の裁判で絞首刑が言い渡されるところだった。反逆者には、騎士身分の処刑方法である斬首は行われない。山賊などと同じに絞首刑になる。
「新国王が今度のことをどう評価されるかは不明だが、緩和される方向に向かって欲しいものだ」
差し止めを命じたセクテ候とカーロン王弟の二人とも同意見だった。
●布告
選王会議は丸2日と一昼夜をかけて行われた。内側から鍵をかけて、それが開かぬ限り外部から開けることはできない。6人の分国王は、戦うわけではないが、得意とする得物に好みの甲冑も準備している。さらに飲み物に食料、灯火や暖房用の油を持って中にこもった。武器や防具は、先日のカオス騒ぎの影響によるもの。
その間、外で何が起ころうと次の国王が決まるまでは出ない。そうでなければ、いつまでも国王が決まらずに、空位のまま国が分裂する危険さえもありうる。長時間の交渉を続けられる体力もまた国王に必要な要素であった。地球なら、それに見合った栄養ドリンクも充実しているが、アトランティスにはそれはない。それぞれが持つ力のみが頼り。味方と思っていた者に裏切られて食料に毒を入れられない人徳と毒を入れられても見破る鑑識眼、あるいは飲んでも耐えるだけの耐毒能力も。分国王となると、ある程度の毒物には耐えられるだけの訓練を幼い頃よりしている。
夕刻、次の国王が決まって扉が開いた。
トルク分国王ジーザムを先頭にして。
ジーザム以外の5人の分国王が、納得して承認したことを示すように、次のウィル国王にはトルク分国王ジーザム・トルクが就任することを告げた。
そして、フオロ分国王エーロン・フオロより今のフオロ城を次期国王が国王としての執務を行う場をして提供することが公表された。フオロ城は、フオロ家が国王の執務を行う城として長年使い整備してきたものである。今更トルクに王都を持っていって、最初から作るよりは良いだろう。ただし、城以外の王都はフオロ家のものであることに変わりは無い。
「引き渡し時期は、双方都合の着く時期に」
直ちにというには、今までのフオロ家代々の品々の移動もあれば、トルクの引っ越しもある。それに城内を念入りに掃除するまでは引き渡せないとエーロンも告げた。
「汚れたままでは、フオロの恥。ただ、ジーザム陛下に温情いただけるならば、産後間もない者にはご配慮をいただきたくお願い申し上げる」
産後間もない者とは、マリーネ・アネットのこと。むろん、ジーザムが否定するはずもない。
「慌てることなく準備されよ。こちらもゆっくり準備させていただく。城の名前は、適当な時期に変更し、各国の大使を集めて披露することにしよう」
国王の正式な交代となれば、周辺各国にも通知しなければならない。当然それは外交の場となる。
「友好国であるリグには、できれば国王自らおいでいただきたいところでしょう」
エルートが意味深げな言葉を口にする。リグ国王を呼べるならば、ジーザムの力は大きく宣伝されよう。国王であれば、政務多忙なりの理由をつけて来なくても、低く見られることはない。
「ハンとの問題もできれば解消したいところでしょう。メイは今月は無理でも来月には就任祝いの特使くらい寄越すでしょう」
もし、寄越さねばそれなりの対応をすれば良い。リーザ・ササン分国王もそう発言した。
「ジーザム陛下、国王就任おめでとうございます」
ルーベン・セクテとカーロン・フオロが会議が終わったことを伝え聞いてやってきた。片膝をつき頭を垂れて声を揃えて言上する。
「二人とも、そして多くの者たちよ、大儀であった。これより先はこのジーザム・トルクがウィル国王として国を導く、国のために忠義を尽くすことを期待する。忠臣には厚く報いるであろう。セクテ候、今日よりセクテ公としてウィル国全体の人心を掌握し、安寧をもらたすべく務めよ。分国王たちも冒険者たちも協力してくれよう」
「はっ」
「カーロン・フオロよ。セクテ公とともに民の安寧に寄与せよ」
「力の及ぶ限り」
城の引き渡しまでは僅かに時間がある。それまでには、新体制が徐々に発表されていくだろう。
●デモンストレーション
「王旗があがった」
「紋章は?」
「トルク!」
「では、当初の打ち合わせどおりに」
リディリアとキース、それにトルク本国から急遽呼び出された鎧騎士2名は、4体のドラグーンの制御胞内で出撃の合図を聞いた。
「派手にやることはない。ゴーレムが空を飛ぶ事自体が画期的なんだ」
王都の城壁の外側を回るように周回させる。銀翼が弱まった陽精霊の光を受けて輝く。
「ジーザム陛下、派手ですな」
ドーレンは、王城から王都の周囲を周回する飛行物体を見つけた。こんなことができるのは、トルクだけだ。
「あれが新しき力?」
「ほう、あれが」
「来たるべきカオスとの戦いには、もっとも信頼できる力となるであろう」
「しかしその前に片づける敵があるかと」
エーロンは、大剣を抜刀すると、何もなかったはずの空間を無造作になぎ払った。見る間に空間から何やら吹き出して何かが床に落ちた。
「カオスの魔物、いや、せいぜい小物でしょう。何者かが手引きしているようです」
「件のバードか?」
「さてその先は、新国王陛下は優秀な情報網をお持ちのはず。バードの背後にいる国もそろそろ特定できる頃ではありませんか?」
「それはおいおい。討伐には各々方にも合力していただくことになろう」
「合力などと、ただ命じてくだされば良いのです。カオスに加担する国を叩けと。我等ウィルの諸侯は、ウィル国王陛下に忠誠を誓い、命られるまま、アトランティスの正義をもたらすために尽力するでありましょう」
エーロンがそう言って真っ先に、忠誠を誓い。残りの4人もそれに続いた。
「選王なされたこと、心よりお祝い申し上げます。亡き父と兄がこの場に居りましたら、どれほど喜んだか。累代トルク家にお仕えせしメロウ家が騎士として、今後とも衷心より忠誠をお誓い致します‥‥!」
フオロ城よりもどるジーザムを護衛したエリーシャはそう言って、あらためて忠誠を誓った。