選王会議、首都の治安を維持せよC〜イムン

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月28日〜02月02日

リプレイ公開日:2007年02月06日

●オープニング

 選王会議は迫っていた。しかし、処刑場が襲撃されて死刑囚が奪われるという事件が起こった。
 狂王エーロンが、首都の領民からの訴えを聞いて居る時にも襲撃があった。
 各分国王も,その情報をすでに知っている。あれほど大胆に行われたものを知らぬほどのんびりしている時期ではない。選王会議は、ウィル国王を選出する唯一の機会。分国王とて生涯幾度も経験するわけではない。場合によっては、一度も出席せずに生涯を終えることもある。
「各分国王が、護衛を引き連れての王都入りを要望しています」
 まだ要望。これが要求に変わるのにさして時間はかかるまい。
「各分国王の館のある土地は、分国王の領地。そこに護衛を配置する権利はある。ただし、数が多ければ良いというわけではない」
 エーロンは分国王たちの使者に言った。そしてジーザムも付け加える。
「うむ。精鋭のみを同行した方が安全が高いと助言しよう」
 フオロ城内部で、エーロンとジーザムは他の分国王にその権利の保証と助言を与えた。雑兵が多ければパニックを起こして味方の邪魔になる。
「もし数が不安であれば、優秀な冒険者を雇うのも良かろう」
 冒険者=救世主=優秀な使い手という認識がある。早速本国に知らせを送るとともに、冒険者ギルドに依頼を出す。
「そうか。ふたりともそう申したか。では精鋭を率いて向かうとしよう。エーロンもジーザムも選王会議で浮かれておるようだ。帯剣のまま謁見させて、しかも剣を抜いた相手に駆け寄った。かわいそうに、正気を失っているのかも知れない。正気を無くした者が国王というわけにもいくまい」
 イムンとは歴史的に対立している相手である。それゆえ何事も敵意を持って解釈する。王者の度量も寛容もこういう話になるのは至極当然。
 イムンから1隻のフロートシップが北上した。

●今回の参加者

 ea1716 トリア・サテッレウス(28歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 eb4077 伊藤 登志樹(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4302 スクネ・ノワール(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4649 高岳 謠子(37歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4715 小津野 真帆(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec0902 ナム・ハシム(28歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)

●リプレイ本文

●分国王集結
 ウィルに居住しているフオロ分国王エーロン、すでにウィルに滞在し、エーロンが国王職代行を補佐するトルク分国王ジーザム。この二人を除く四人の分国王が自ら用意したフロートシップや迎えに送ったフロートシップで続々とウィルに到着していた。セレ分国を除けばすべての分国でゴーレムを持ってきている。そのうち一番目立つのは何と言ってもウィエのゴーレム。外部装甲に意匠を凝らしている。しかも、色は金。金箔を張りつけるといういかにも実戦離れしたもの。それだけに、使うために持ってきたのではなく見せるために持ってきたというものであると同時にもう一つの要素を宣伝していた。国王になるには経済力も判断材料の一つ、存在自体をデモンストレーションしている。悪い見方をすれば、悪趣味とも言えるが、それををいう前に見かけに圧倒される。

●身近へ
「初めてお目にかかります、陛下。トリア・サテッレウスと申します。先のGCRでは、イムン分国代表チーム【ソードフィッシュ】に所属しておりました。此度、御身の警護を仰せ付かりました事は冒険者としてまた一介の騎士として、光栄の極み。この身に代えても、誓ってお守り致します」
 トリア・サテッレウス(ea1716)はドーレン王がフロートシップから下りて来るのを待ち構えるようにして、片膝をついて言上した。
 オラース・カノーヴァ(ea3486)も信頼を得るために男爵を名乗り、感状を示した。
 と、このあたりはシリアスな雰囲気だったが、その次は。
「真帆です! 皆さんの御手伝いをしに来ました〜♪」
 小津野真帆(eb4715)の非常に明るい声が聞こえる。あいにく背が低くて、姿がドーレンからでは見えない。
「声はすれども姿を見えず」
 ドーレンがわざとらしく、探すフリをする。
「みえずじゃなく、小津野です」
「ドーレン陛下はもしかして、けっこうお茶目?」
「メーア・メーアの身内だから」
「そのうえかなり豪快だ」
 初見のトリアたちを遠ざけていない。
 伊藤登志樹(eb4077)、加藤瑠璃(eb4288)、スクネ・ノワール(eb4302)、高岳謠子(eb4649)の4人は、すでにフロートシップの船倉からゴーレムを動かす作業に入っている。起動はすでに手慣れたもの。
 今回イムンがゴーレムは持ってきたが、そのゴーレムを動かす鎧騎士は連れてきていない。ウィルカップのメンバーが、依頼を受けることを前提にしている。
「4体、全員搭乗できる」
 登志樹は、手近にあったバガンに乗り込む。
「イムンは、ゴーレムをそんなに持っている?」
 スクネ・ノワール(eb4302)は登志樹の横にあったバガンの制御胞で船倉を見渡す。
「後がつかえているから外に出て」
 高岳謠子(eb4649)が二人を先に出す。
「ちょっと、出入り口が狭いかな」
 加藤瑠璃(eb4288)も、それ以外も狭い出入り口から出たのは初めてだった。
「まだ新型の就航には時間がかかる。その程度の広さがあれば、走りながらでも抜け出せるだろう。イムンは整備を行うゴーレムニストが少ない。今回はゴーレムの数でカヴァーする。道幅に気をつけていけ。壊すなよ」
 フロートシップのブリッジからオスム・エンフィールドの声が、風信機を通じて聞こえてきた。ディフェンスを抜くことを考えれば、軽いものだ。
「そういえばもう一人鎧騎士の冒険者がいたはずだけど」
 スクネが思い出したように言った。
「来ない奴などあてにするな。依頼をすっぽかすと、他の冒険者まで信頼を失う。困ったものだ」
 登志樹は迷惑そうに言った。
「ちょっとこのゴーレムの動き軽くない?」
 高岳謠子は気のせいか、動きが軽く感じる。
「反応が良いのかも、違うかな」
 加藤瑠璃も妙な違和感を感じていたが、動きが悪いよりは良い。
 イムン分国王ドーレンは、前に2体、後ろ2体のゴーレムに守らせ、さらに、イムンの精鋭騎士10名に冒険者の護衛を従えて堂々とウィルの城門を潜った。
「トリア、気づいているか?」
「ええ」
 オラースは一行を見る視線を感じた。
「加藤瑠璃さんの言っていたトルク騎士との喧嘩も考えた方がいいでしょう」
 あいにく、今回イムンの依頼を受けた中にはトルクとイムンの国境がどのようになっているか、知る者はいなかった。連れてきている精鋭の騎士となれば、国境紛争などは考えてはいないだろうし、大局もみれるだろう。しかし、ここはウィル、フオロのお膝元。勢力を延ばしたトルクは精鋭以下の騎士も常駐している。彼らが喧嘩を吹っ掛ける危険もある。
「トルクにつなぎをとっておきたいところだ。幸いにもセクテ候には面識がある」
 オラースはそちら側から手を回すつもりだった。

●暴走阻止
 ミーティングの席上では、空戦騎士団の暴走が問題点にあげられた。視界の広がる原野ならともかく無秩序に拡張されていった地区も少ないなく、上空から哨戒するとか偵察するとか怪しい奴を見つけるとか、はっきり言えば実効性に乏しい。そして一番のネックはグライダーによる王都上空の飛行制限であった。
「先王が決めたことを改めることができるのは、今では新王のみ」
 それまでは、カーロンやルーベン如きが口出し出来る筋合いではない。

 新生空戦騎士団は、彼ら自らが望んだ通りにウィル全体に属する騎士団。いわば国軍と言っても良い。このためウィル国王に直隷する。公人としての立場において空戦騎士団長シャルロット・プランは、かのエルム・クリークと同格であり、カーロン・ルーベン両王弟殿下と共に論じられるべき重責なのである。王命による職務遂行に於いて、状況によっては分国王と同格扱いになる場合すらあり得る。返して言えば、彼らから警戒されることもある立場であることを示す。今回、空戦騎士団に対してなんの話もなかったのは、彼らがウィル国王直隷の者で、命令者が空位であったためである。

 合言葉はすそ野は広がり過ぎるし、知る者が多くなれば意味がない。ゴーレムを各国で巡回させることを各国の情報網をフルに使って敵対する者を探ることになった。あとは共闘体制の誓約。
 冒険者がグライダーを私有した頃から、飛行制限が決められた。
「なんでもGCRの賞品に出たためだとか。なんでそんなものを賞品に出したのか? そもそもそれはどこから来たのか。マーカス商会を叩けば、何か出てくるかもな」
 件のグライダーはファミレスの看板になっているという。そのために今行動が制限させることになった空戦騎士団こそ被害者。もし強行していたら、全員王命に反する反逆者として新国王の初仕事の裁判で絞首刑が言い渡されるところだった。反逆者には、騎士身分の処刑方法である斬首は行われない。山賊などと同じに絞首刑になる。
「新国王が今度のことをどう評価されるかは不明だが、緩和される方向に向かって欲しいものだ」
 差し止めを命じたセクテ候とカーロン王弟の二人とも同意見だった。

●司令部
 分国王がフオロ城内に入ると後は、セクテ候とカーロン王弟殿下に非常時権限が移る。
城が襲撃された場合、司令部が襲撃された場合に備えて、それぞれが別々の場所に構える。もし襲撃が受けて片方が壊滅した場合にはもう片方がすべてを掌握する。
「そういう事態にはなってほしくないが。オラース、トルク家もそれらには十分に分かっているようだ。軽挙しそうな奴には目付役が同行している。一般人も今のところ動きはない。連中も種切れだろう」
「しかし楽観するのは」
「楽観はしない。それよりも冒険者たちの暴走も注意してくれ。悪気は無かったでは済まされないこともある」
 イムンには居なかったが、他の分国の依頼を受けた冒険者の中には王都の飛行制限を知りながら、それを破ろうとした者がいた。どうにか止められたが、実行していたら反逆罪に問われかねない行為だった。
「明確な王命無視となれば、絞首刑か」
「反逆者を騎士同様に斬首にするわけにはいかない」
 騎士なら斬首、平民なら絞首刑が処刑方法。伝え聞いた全員が身震いした。
 トリアはフオロ城に待機していた。ドーレンが出てくるまで、城内に待機していた。会場に入ることはできないからやる事が無い。
 4人のゴーレム乗りたちは、2人交代でゴーレムによる巡回を行っていた。巡回している間に残り2体は整備を行っている。緊急時には僅かな時間で出られるが、それは制御胞中からの操作ではない。
「整備中のゴーレムなら簡単には動かせない」
 登志樹はそれを聞いて安心した。
「ゴーレムなんて簡単には動かせない。杞憂だと思います」
 高岳謠子は傍らのナム・ハシム(ec0902)に目配せしながらそう言った。
「だといいけど、地球から流れてきたアイテムは多いけど、地球人は少ない。全員が死んだと思う?」
 スクネはそう言った。
「そう考えると、可能性はありますね」
 テロリストも地球人だったわけだし。

●布告
 選王会議は丸2日と一昼夜をかけて行われた。内側から鍵をかけて、それが開かぬ限り外部から開けることはできない。6人の分国王は、戦うわけではないが、得意とする得物に好みの甲冑も準備している。さらに飲み物に食料、灯火や暖房用の油を持って中にこもった。武器や防具は、先日のカオス騒ぎの影響によるもの。
 その間、外で何が起ころうと次の国王が決まるまでは出ない。そうでなければ、いつまでも国王が決まらずに、空位のまま国が分裂する危険さえもありうる。長時間の交渉を続けられる体力もまた国王に必要な要素であった。地球なら、それに見合った栄養ドリンクも充実しているが、アトランティスにはそれはない。それぞれが持つ力のみが頼り。味方と思っていた者に裏切られて食料に毒を入れられない人徳と毒を入れられても見破る鑑識眼、あるいは飲んでも耐えるだけの耐毒能力も。分国王となると、ある程度の毒物には耐えられるだけの訓練を幼い頃よりしている。
 夕刻、次の国王が決まって扉が開いた。
 トルク分国王ジーザムを先頭にして。
 ジーザム以外の5人の分国王が、納得して承認したことを示すように、次のウィル国王にはトルク分国王ジーザム・トルクが就任することを告げた。
 そして、フオロ分国王エーロン・フオロより今のフオロ城を次期国王が国王としての執務を行う場をして提供することが公表された。フオロ城は、フオロ家が国王の執務を行う城として長年使い整備してきたものである。今更トルクに王都を持っていって、最初から作るよりは良いだろう。ただし、城以外の王都はフオロ家のものであることに変わりは無い。
「引き渡し時期は、双方都合の着く時期に」
 直ちにというには、今までのフオロ家代々の品々の移動もあれば、トルクの引っ越しもある。それに城内を念入りに掃除するまでは引き渡せないとエーロンも告げた。
「汚れたままでは、フオロの恥。ただ、ジーザム陛下に温情いただけるならば、産後間もない者にはご配慮をいただきたくお願い申し上げる」
 産後間もない者とは、マリーネ・アネットのこと。むろん、ジーザムが否定するはずもない。
「慌てることなく準備されよ。こちらもゆっくり準備させていただく。城の名前は、適当な時期に変更し、各国の大使を集めて披露することにしよう」
 国王の正式な交代となれば、周辺各国にも通知しなければならない。当然それは外交の場となる。
「友好国であるリグには、できれば国王自らおいでいただきたいところでしょう」
 エルートが意味深げな言葉を口にする。リグ国王を呼べるならば、ジーザムの力は大きく宣伝されよう。国王であれば、政務多忙なりの理由をつけて来なくても、低く見られることはない。
「ハンとの問題もできれば解消したいところでしょう。メイは今月は無理でも来月には就任祝いの特使くらい寄越すでしょう」
 もし、寄越さねばそれなりの対応をすれば良い。リーザ・ササン分国王もそう発言した。
「ジーザム陛下、国王就任おめでとうございます」
 ルーベン・セクテとカーロン・フオロが会議が終わったことを伝え聞いてやってきた。片膝をつき頭を垂れて声を揃えて言上する。
「二人とも、そして多くの者たちよ、大儀であった。これより先はこのジーザム・トルクがウィル国王として国を導く、国のために忠義を尽くすことを期待する。忠臣には厚く報いるであろう。セクテ候、今日よりセクテ公としてウィル国全体の人心を掌握し、安寧をもらたすべく務めよ。分国王たちも冒険者たちも協力してくれよう」
「はっ」
「カーロン・フオロよ。セクテ公とともに民の安寧に寄与せよ」
「力の及ぶ限り」
 城の引き渡しまでは僅かに時間がある。それまでには、新体制が徐々に発表されていくだろう。

●デモンストレーション
「ジーザム陛下、派手ですな」
 ドーレンは、王城から王都の周囲を周回する飛行物体を見つけた。こんなことができるのは、トルクだけだ。
「あれが新しき力?」
「ほう、あれが」
「来たるべきカオスとの戦いには、もっとも信頼できる力となるであろう」
「しかしその前に片づける敵があるかと」
 エーロンは、大剣を抜刀すると、何もなかったはずの空間を無造作になぎ払った。見る間に空間から何やら吹き出して何かが床に落ちた。
「カオスの魔物、いや、せいぜい小物でしょう。何者かが手引きしているようです」
「件のバードか?」
「さてその先は、新国王陛下は優秀な情報網をお持ちのはず。バードの背後にいる国もそろそろ特定できる頃ではありませんか?」
「それはおいおい。討伐には各々方にも合力していただくことになろう」
「合力などと、ただ命じてくだされば良いのです。カオスに加担する国を叩けと。我等ウィルの諸侯は、ウィル国王陛下に忠誠を誓い、命られるまま、アトランティスの正義をもたらすために尽力するでありましょう」
 エーロンがそう言って真っ先に、忠誠を誓い。残りの4人もそれに続いた。

「皆の者ご苦労であった。ウィル国王はトルク家に移ったが、慌てることはない。それなりの条件は引き出した。今宵は宴会を用意させた。腹一杯くって、浴びるまで飲んで良いぞ。天界では鯨飲象食とかいうそうだな」
 ドーレンは、そう言って冒険者たちを労った。
「それは楽しみ。しかし、牛飲馬食ではなく鯨飲象食とは豪気な御方だ」
 翌朝、ドーレンを除く全員が起きられなかったことは、報告書でのみ知らされた。現場はみない方が良い場所もある。