●リプレイ本文
●分国王集結
ウィルに居住しているフオロ分国王エーロン、すでにウィルに滞在し、エーロンが国王職代行を補佐するトルク分国王ジーザム。この二人を除く四人の分国王が自ら用意したフロートシップや迎えに送ったフロートシップで続々とウィルに到着していた。セレ分国を除けばすべての分国でゴーレムを持ってきている。そのうち一番目立つのは何と言ってもウィエのゴーレム。外部装甲に意匠を凝らしている。しかも、色は金。金箔を張りつけるといういかにも実戦離れしたもの。それだけに、使うために持ってきたのではなく見せるために持ってきたというものであると同時にもう一つの要素を宣伝していた。国王になるには経済力も判断材料の一つ、存在自体をデモンストレーションしている。悪い見方をすれば、悪趣味とも言えるが、それををいう前に見かけに圧倒される。
●友好関係の維持
アレクシアス・フェザント(ea1565)はその渦中にあって、エルートを出迎えた。
「これは噂に名高いルーケイ伯殿か?」
エルートはシャリーア・フォルテライズ(eb4248)に紹介されて、ルーケイ伯と初めて公式の場で会った。一応面識があるものの関係は浅い。いや、ルーケイはトルクへの備えの地。紛う事無きフオロ家の重臣である。この時期、アレクシアスの肩書きからは『王領代官』の文字が消えていた。フロートシップの所有を許されているような他分国の重臣、しかも今をときめくルーケイ伯と公式の場で親しく話すことは、分国の利益を考えれば選王会議の直前行動として政治的に甚だ宜しくない。
エルートの耳に入る情報に寄ると、フオロ家のゴーレムの半分を任されているような重要人物である。事実はどうであれルーケイ殲滅戦のすさまじき風聞が、ルーケイのゴーレム戦力の規模を何倍にも増してイメージさせていた。少なくとも赤備えと同規模の戦力は有しているに違いないと。
一方、シャリーアやザナック・アレスター(eb4381)、クナード・ヴィバーチェ(eb4056)らはウィルカップでのチームウィエのメンバーであり親近感がある。身分も高い者で男爵故、さほど気にしなくとも済む。
「ご機嫌麗しゅう存じます、陛下。男子に生まれて、国王を目指すのは当然と思います。いずれの分国王の方も、劣らぬ大人物。誰もが、己が最も国王に、国の長に、相応しいと思っておられましょう。ですが、六人全員が引き所を見失えば、争乱となりましょう。民草あってこその国。国王を目指す者自らが、乱の原因となりましては、本末転倒にございましょう。商と生活を重んじるエルート様は国王に相応しきお人と、自分は思っておりますが。ですが、国王ではなく、商いで王を目指す。そんな道もあるのでは、と。思う事もございます。自分は、ウィルの民が苦しむのが見たくない。それだけでございます。会議が乱れ、国の行く末が危うくなるようでしたら。自分はそれを止める為に身を投じたいと思っております。そうならぬ事を、会議が無事終わります事を。切に願っておりますが」
ザナックは、いきなりエルートに言い出した。
「おいおい」
さすがに『王女にチャイナを着せた漢』ヘクトル・フィルス(eb2259)もこれには驚いた。シャリーアやクナードも顔色を変えた。
エルートがどう反応するか、周囲が見守った。
「面白いことを言うものよ。さすがにチームウィエのメンバーだけあるものだ」
エルートは笑顔でそう言った。
「何か褒められていないような」
シャリーアは過去のウィルカップの試合を思い出した。思い当たる節は一杯ある。笑い事ではないが、笑って誤魔化したくなる。
「しかし商売するには、できるだけ良い条件が必要だ。そう思うであろう? 国王の素養に不安がある者には、反対するのもまた義務。先王の時には見抜けんかった、一生の不覚だ」
「は!」
最後の方は小声でザナックにしか聞こえなかった。しかし、その意味は伝わった。今のフオロ分国の状況がウィル全体に広まる危険もあったはずだ。もしあと数年、先王の統治が続いていれば。その可能性が大きかっただろう。
「先王の病は、決して早過ぎはしなかった、と?」
「そうじゃ。商売として見るには。しかし国王を臨む立場とすれば好機、誰にとってかは別だが」
●グライダーの飛行制限
シャルロット・プラン(eb4219)は空戦騎士団を使って各分国王を誘導することを提案していたが、グライダーによる王都上空の飛行制限が邪魔していた。
カーロン王弟殿下のところに願い出たが、あいにく飛行制限は先王が定めたこと。新たな国王が制限を撤廃なり改正せねば、制限はなくならない。
新生空戦騎士団は、彼ら自らが望んだ通りにウィル全体に属する騎士団。いわば国軍と言っても良い。このためウィル国王に直隷する。公人としての立場において空戦騎士団長シャルロット・プランは、かのエルム・クリークと同格であり、カーロン・ルーベン両王弟殿下と共に論じられるべき重責なのである。王命による職務遂行に於いて、状況によっては分国王と同格扱いになる場合すらあり得る。返して言えば、彼らから警戒されることもある立場であることを示す。今回、空戦騎士団に対してなんの話もなかったのは、彼らがウィル国王直隷の者で、命令者が空位であったためである。
「軽々しく動けば、将来への負い目となる」
空戦騎士団についても、疑惑の目で見られていることを告げられた。
「一体誰に?」
「余人であれば、一笑に付すところだが」
カーロンにとっては信頼ある人物、今回の選王会議ではともに王都の異変に備えることになっている人物であり、トルク分国王からの信頼も高い。
「セクテ候ですか」
「彼は関わっていなかったから誤解もあることだろう。とはいえ、先王の定めに逆らうのは、雇い主の評価を落とす」
雇い主に不利益なことをするわけにはいかない。
●暴走阻止
ミーティングの席上では、空戦騎士団の暴走が問題点にあげられた。視界の広がる原野ならともかく無秩序に拡張されていった地区も少ないなく、上空から哨戒するとか偵察するとか怪しい奴を見つけるとか、はっきり言えば実効性に乏しい。そして一番のネックはグライダーによる王都上空の飛行制限であった。
「先王が決めたことを改めることができるのは、今では新王のみ」
それまでは、カーロンやルーベン如きが口出し出来る筋合いではない。
合言葉はすそ野は広がり過ぎるし、知る者が多くなれば意味がない。ゴーレムを各国で巡回させることを各国の情報網をフルに使って敵対する者を探ることになった。あとは共闘体制の誓約。
冒険者がグライダーを私有した頃から、飛行制限が決められた。
「なんでもGCRの賞品に出たためだとか。なんでそんなものを賞品に出したのか? そもそもそれはどこから来たのか。マーカス商会を叩けば何か出てくるかもな」
件のグライダーはファミレスの看板になっているという。そのために今行動が制限させることになった空戦騎士団こそ被害者。しかしここだけの話だが、その諸悪の根元がウィエチームのボボガ・ウィウィ男爵にあることは、極一部限られた者しか知らなかった。冷静に考えれば、ボボガが好んで騒動の種を蒔いたとしか思えないだろう。去年の夏の事である。
閑話休題。もし強行していたら、全員王命に反する反逆者として新国王の初仕事の裁判で絞首刑が言い渡されるところだった。反逆者には、騎士身分の処刑方法である斬首は行われない。山賊などと同じに絞首刑になる。
「新国王が今度のことをどう評価されるかは不明だが、緩和される方向に向かって欲しいものだ」
差し止めを命じたセクテ候とカーロン王弟の二人とも同意見だった。
●ウィエのゴーレム
「近くで見るとすごいな」
クナードはウィエのバガンの装甲板の絢爛さにため息をついた。
「金箔?」
「でしょうね」
シャリーアは外部装甲などは、傷つけるものと思っているから、これは困った。傷つけたら弁償できそうにない。
「今回は請求書を回さないでくださいね」
パニーシュが顔を出した。
「今回はあっちこちの分国王が目を光らせているから、大きな問題は普通なら起こりません」
パニーシュ自身もエルートの命令で、王都の物資の動きや金の動きを見張っていた。
「人が動こうとする前に、物と金が動きます」
人の動きよりも余程記録に残る。
「そういう仕組み?」
ディアッカ・ディアボロス(ea5597)は、分国王の情報網はそれぞれ別の分野であるが、すごい。6人が協力しあえば、強大な国となる。
「逆に言えば、仲違いさせれば、傷は大きい・・・か」
ヘクトルは呟いた。
●護衛
選王会議に籠もる前から、戦いはすでに始まっていた。
「今度は、トルクだ」
エルートはササンを回って、イムンにそして今はトルクに向かっている。同じ王都の中にあるとはいえ、距離はそれなりにある。移動する道は、ゴーレムでも通れる幅を持っているから、デモンストレーションを兼ねてゴーレムの護衛付きで訪問を互いにこなしていく。
「単調な」
「何事もないのが一番だ」
退屈そうなヘクトルにアレクシアスは言った。アレクシアスには各分国王との顔がつながることになるが、選王会議を控えている分国王たちにそこまでにの余裕があるかは分からない。
「それよりも空戦騎士団大丈夫だろうか?」
飛行さし止めの連絡がぎりぎりで間に合ったため大事にはいたらなかったが、国王の命を破ろうとしたことは事実として伝わった。
「目立ちまくり」
ザナックとシャリーアが、今はゴーレムを動かしている。どちらかが疲れればクナードが代わる。
「分国王が何を話しているかは不明。それはそれでいいでしょう」
クナードも興味はあったが、妙な情報を知ってまずい立場にはなりたくない。
●登城
「城まで遠くない。しかし。気を引き締めていこう」
シャリーアの動かすバガンが先頭になってフオロ城へ向かう。途中で、イムン一行と出会う。
エルートが本国から連れてきた騎士2名とともに城内に消えると、ゴーレムは巡回コースに向かう。
ゴーレムに乗る者たちの大半はウィルカップで戦う者としてか、味方としてかは別にして全員顔を見知った者同士。
「盗まれない限り、ゴーレムで争う事態にはならない」
幸い、今までのところ。これからが問題だ。
王都ウィルの道幅の大きな道にはゴーレムが定期的に巡回する。これだけでも抑止効果は大きい。ゴーレムが強奪された時の危険を考えた態勢を行っていたことで、強奪による被害もなかった。
●布告
選王会議は丸2日と一昼夜をかけて行われた。内側から鍵をかけて、それが開かぬ限り外部から開けることはできない。6人の分国王は、戦うわけではないが、得意とする得物に好みの甲冑も準備している。さらに飲み物に食料、灯火や暖房用の油を持って中にこもった。武器や防具は、先日のカオス騒ぎの影響によるもの。
その間、外で何が起ころうと次の国王が決まるまでは出ない。そうでなければ、いつまでも国王が決まらずに、空位のまま国が分裂する危険さえもありうる。長時間の交渉を続けられる体力もまた国王に必要な要素であった。地球なら、それに見合った栄養ドリンクも充実しているが、アトランティスにはそれはない。それぞれが持つ力のみが頼り。味方と思っていた者に裏切られて食料に毒を入れられない人徳と毒を入れられても見破る鑑識眼、あるいは飲んでも耐えるだけの耐毒能力も。分国王となると、ある程度の毒物には耐えられるだけの訓練を幼い頃よりしている。
夕刻、次の国王が決まって扉が開いた。
トルク分国王ジーザムを先頭にして。
ジーザム以外の5人の分国王が、納得して承認したことを示すように、次のウィル国王にはトルク分国王ジーザム・トルクが就任することを告げた。
そして、フオロ分国王エーロン・フオロより今のフオロ城を次期国王が国王としての執務を行う場をして提供することが公表された。フオロ城は、フオロ家が国王の執務を行う城として長年使い整備してきたものである。今更トルクに王都を持っていって、最初から作るよりは良いだろう。ただし、城以外の王都はフオロ家のものであることに変わりは無い。
「引き渡し時期は、双方都合の着く時期に」
直ちにというには、今までのフオロ家代々の品々の移動もあれば、トルクの引っ越しもある。それに城内を念入りに掃除するまでは引き渡せないとエーロンも告げた。
「汚れたままでは、フオロの恥。ただ、ジーザム陛下に温情いただけるならば、産後間もない者にはご配慮をいただきたくお願い申し上げる」
産後間もない者とは、マリーネ・アネットのこと。むろん、ジーザムが否定するはずもない。
「慌てることなく準備されよ。こちらもゆっくり準備させていただく。城の名前は、適当な時期に変更し、各国の大使を集めて披露することにしよう」
国王の正式な交代となれば、周辺各国にも通知しなければならない。当然それは外交の場となる。
「友好国であるリグには、できれば国王自らおいでいただきたいところでしょう」
エルートが意味深げな言葉を口にする。リグ国王を呼べるならば、ジーザムの力は大きく宣伝されよう。国王であれば、政務多忙なりの理由をつけて来なくても、低く見られることはない。
「ハンとの問題もできれば解消したいところでしょう。メイは今月は無理でも来月には就任祝いの特使くらい寄越すでしょう」
もし、寄越さねばそれなりの対応をすれば良い。リーザ・ササン分国王もそう発言した。
「ジーザム陛下、国王就任おめでとうございます」
ルーベン・セクテとカーロン・フオロが会議が終わったことを伝え聞いてやってきた。片膝をつき頭を垂れて声を揃えて言上する。
「二人とも、そして多くの者たちよ、大儀であった。これより先はこのジーザム・トルクがウィル国王として国を導く、国のために忠義を尽くすことを期待する。忠臣には厚く報いるであろう。セクテ候、今日よりセクテ公としてウィル国全体の人心を掌握し、安寧をもらたすべく務めよ。分国王たちも冒険者たちも協力してくれよう」
「はっ」
「カーロン・フオロよ。セクテ公とともに民の安寧に寄与せよ」
「力の及ぶ限り」
城の引き渡しまでは僅かに時間がある。それまでには、新体制が徐々に発表されていくだろう。
●デモンストレーション
「ジーザム陛下、派手ですな」
ドーレンは、王城から王都の周囲を周回する飛行物体を見つけた。こんなことができるのは、トルクだけだ。
「あれが新しき力?」
「ほう、あれが」
「来たるべきカオスとの戦いには、もっとも信頼できる力となるであろう」
「しかしその前に片づける敵があるかと」
エーロンは、大剣を抜刀すると、何もなかったはずの空間を無造作になぎ払った。見る間に空間から何やら吹き出して何かが床に落ちた。
「カオスの魔物、いや、せいぜい小物でしょう。何者かが手引きしているようです」
「件のバードか?」
「さてその先は、新国王陛下は優秀な情報網をお持ちのはず。バードの背後にいる国もそろそろ特定できる頃ではありませんか?」
「それはおいおい。討伐には各々方にも合力していただくことになろう」
「合力などと、ただ命じてくだされば良いのです。カオスに加担する国を叩けと。我等ウィルの諸侯は、ウィル国王陛下に忠誠を誓い、命られるまま、アトランティスの正義をもたらすために尽力するでありましょう」
エーロンがそう言って真っ先に、忠誠を誓い。残りの4人もそれに続いた。
「どうもこうも、疲れたのう。どうじゃ皆の者、これから娼館にでも繰り出さんか?」
エルートは帰ってくるなり、選王会議の結果を伝えてから誘った。
「女性の身ではあまりそういうところは」
女性を代表してシャルロットが答える。
「それは残念。行かぬ者には、ここで酒宴を楽しんでもらおう」
半ば無理やり連れて来させられた冒険者とエルートは、娼館に着くと特別室に通させた。
「娼館は見かけどおりのものではない。使いようによっては、いろいろな情報が手に入る。男という生き物は、女の前ではなぜか無防備になる。それなりの投資は必要だが、情報を得るには良い場所だ。もちろん、証拠固めは別に必要だ。正直に娼館で聞いたなどと言ったら、そこの娼館は翌日には全員別人に変わっていることになる」
分国王が生きる世界は、そういう場所。もし爵位が上がっていったらそんな世界に足を突っ込む。いやすでに突っ込んでしまっている。それをエルートは報酬に上乗せして教えた。
「さて、後は店に恥をかかせぬように派手に遊ぶとしよう」