トーエン卿救出作戦B【救出隊1】
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■ショートシナリオ
担当:マレーア1
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月25日〜03月30日
リプレイ公開日:2007年04月09日
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●オープニング
カオスの魔物を追って辺境の森林地帯に踏み入ったトーエン・マウロ卿は、蛮将デグレモ率いる軍勢に包囲され、窮地に陥っている。オーグラ、オーガ、オーク、ゴブリンのオーガ諸族から成るデグレモ軍は総勢150を超えており、疲弊困窮した20人が残るばかりのトーエン隊を押し潰す事など容易な筈だ。ところがデグレモは騎士の倣いに従い一騎打ちにて勝負を決する事に固執しており、トーエン卿がこれを受けぬ為、未だに包囲が続いているのだ。
デグレモはオーグラでありながら『エーガン王の唯一正しき息子にして臣』を自称しており、後継者エーロンを誹謗によって貶めた上、自分と戦って精霊と剣に正義を問え、と、決闘状の如き口上を伝えて来る始末である。
この道化じみた蛮将に対しエーロンは全く取り合わず、凡百の蛮族に対するのと同様、地方領主に対し討伐令を下した。指名された各家は出兵の準備を進めている所だが、フラル家は先んじて事に当たり、トーエン卿の救出を試みる様、直々に命じられる事となった。
エーロンは拝命の為に訪れたオットー・フラルの手を取り、
「このエーロンに成り代わり、騒乱を振り撒く不逞の徒を討ち果たして欲しい。頼む」
と、そう言葉をかけたものである。
「か、必ず臣下たる者の役目、果た、果たしてご覧に──」
主君からこの様に扱われた事の無いオットーは狼狽してしまい、たった一言の返答を返すのに10回以上もつっかえて、エーロンを苦笑させたという。
トーエン隊は沢の辺に身を潜め、森から僅かな糧を得つつ、ひたすら困窮に耐えている状況である。敵の中核を為すオーグラ隊50は、ならだかで見晴らしの良い包囲北側に堂々の陣を構え、トーエン隊を威圧している。その脇をオーガ隊20、ゴブリン隊20程が固めているが、このゴブリン達は戦いに獣を用いたり、毒黴を使ってトラップを仕掛けたりと特殊な技を用いる事が判明しており、一定の警戒が必要である。包囲の半分程、主に南側を担うオーク隊はその数70程。起伏があり木々の密集するこちら側は視界も通らず、地形そのものが沢地を封じ込め押し潰そうとしているかの様な印象を与える。
トーエン隊の置かれた状況は実に厳しいものだが、敵の包囲に隙が無い訳では無い。包囲軍の内、南側を担当しているオークの軍勢は広い範囲に分散し、一方的な戦いに緩み切った様がありありと見て取れるのだ。そこで、この一角を突破してトーエン隊を脱出させる作戦が計画される事となった。
隊を率いるのは、フラル家の食客騎士ラグジ・オウロ。
「今回の我らの役割は、トーエン隊脱出の為の経路を抉じ開け、脱出が果たされるまでそれを維持する事。そして、撤退の最中にあっては殿を務め、怒り狂って追って来るだろう敵を跳ね返す事だ。無論、役割を果たし終えたなら、我ら自身も速やかに撤収を果たさなければならん」
分かり易かろう? と彼は、深い皺の刻まれた顔に笑みを湛えて皆を見渡した。
「追撃を鈍らせる方法、速やかに退く方法は、他隊が算段してくれる。しかし、いくら優れた策が用いられようと、食らい付いて来る敵が皆無という事は有り得まい。特に面子を潰されるオークどもは、死に物狂いで追い縋って来よう。力尽くで退ける他は無いが、乱戦となって我らが敵中に取り残されれば、味方が退くべき時を逸する事にもなりかねん。若はまだまだ、そういった所では甘っちょろいでな」
つまり、オットーはそうすべき局面だったとしても、任務達成の為に味方を切り捨てる事は出来ないだろうという事だ。
「では若の期待通り、悠々と敵を退け、鼻歌でも歌いながら戻って来るとしようではないか」
ラグジは膝を打ち、呵々と笑った。
●リプレイ本文
●オウロ隊、待機
森の中の包囲網は、以前の報告のまま、その場所にあった。オーク達は小さなキャンプを幾つも作り、それぞれが好き勝手に行動している。過ごし易い場所を取り合った結果の配置であり、互いの距離もまちまちなら完全に孤立している集団もある。こちらにとっては、願っても無い状況だ。
オウロ隊は敵から幾許かの距離を置き、静かに身を潜め、作戦開始の時を待っている。キール隊からオーク配置情報と脱出予定ルートの情報がもたらされると、ラグジ・オウロはこの時間を使って入念な打ち合わせを行った。
「これだけ広い範囲に散っているとなると‥‥突破口を開くのは楽ですが、その後、敵を防ぎ切るのに骨が折れそうですね」
マリウス・ドゥースウィント(ea1681)が、ふむ、と考え込む。
「なるべく敵に囲まれてしまわない様に、木々などの障害を利用し、かつ数名単位で隊を組むべきでしょう。また、体力保持のため、交代で休息を取る様にすべきかと」
と、これはアリア・アル・アールヴ(eb4304)。
「トーエン隊は、南に抜けて姿を晦まし、迂回して北に脱出。俺らは切り開いた道を使って敵を翻弄しながらゆるゆる後退‥‥てことだけど」
いっそ一気に北に抜けられたら面倒が無いのになぁ、と呟いたリオン・ラーディナス(ea1458)に、ラグジが笑う。
「後日来る50の半分でも先に加わってくれるならば、そういう思い切った策でも良かったやも知れんな。武芸を磨く若者としては、己が力を存分に振るってみたくはあろうが」
ラグジ、満更そういうのも嫌いでは無い空気。いやあそんな立派なものでは、と頭を掻くリオンである。
「どっちにしろ戦いは激しくなりそうだけど、そのぶん分かり易いから、おいら向きっちゃおいら向きだな。いっちょ頑張りますか」
よいこらしょ、と立ち上がったレオン・バーナード(ea8029)だけれども。
「蛮族からおっさん救出ってのが、いまひとつ燃えないんだよなぁ」
シチュエーションのイマイチさに改めて苦笑いである。
「‥‥武人としての腕の見せ所だというのに、何だその気の抜け切った発言は!」
指を突きつけてぷりぷり怒るシュバルツ・バルト(eb4155)に、いや、もちろんやる気満々だよ? などと気の抜けた返答をして、益々怒らせる。まあ、半ばからかっている気がしないではない。
「これは正義の戦いです。汚らわしきカオスの魔物と、蒙昧にもその手先となる愚かしい蛮族どもに、きっと目にもの見せてやりましょう」
送り込まれた3名のクレリックは意気軒昂ではあったが、皆若い未熟な者達だった。グリフォンのギルゴートに丁寧にブラシをかけていたコロス・ロフキシモ(ea9515)は、彼らを一瞥すると、ふん、と鼻で笑った。今のはどういう意味か、と詰め寄る彼らを、コロスは完全無視。まあまあ、とセオドラフ・ラングルス(eb4139)が間に入って、クレリック達を宥めすかす。
「それにしても、なんとも馬鹿馬鹿しい話ですな。カオスの魔物もこんな企みが成功するなどとは考えておりますまい。フオロの権威を貶める為に蛮族を焚きつけたという所でしょうな。手間取れば王の顔に泥を塗る事になりますゆえ、早めに片付けたいものです」
セオドラフの言葉に、皆頷く。
「戦いが始まれば、我らは敵に晒され続ける事になろう。今の内に、十分に休息を取っておいてくれ」
ラグジはそう言い置くと、自身は剣の手入れを始めた。
皆が思い思いの時間を過ごす中、レン・ウィンドフェザー(ea4509)は、愛犬のるぅちゃんとリオンのフィットに、保存食を砕いてご馳走中。と、彼らの毛に、ぽつりと水滴が弾けて流れた。
「あ、雨‥‥」
瞬く間に、世界は雨音に支配される。頭を抱えて木陰に走った彼女の横で、犬達がぶるぶると体を振るう。結局びしょびしょだ。
「体を拭いて、防寒着でも羽織っとけ。濡れたままにしておくと体が冷えて辛いぞ」
ヘクトル・フィルス(eb2259)の忠告に、素直に従うレン。飛天龍(eb0010)は、鷹の疾鳳をラグジのテントに入れさせてもらった。鷹の翼は撥水性が悪い為、雨天下では能力を生かしきれないのだ。
「お前は留守番だ。‥‥そう不機嫌そうな顔をするな」
言い聞かせておいてから、警戒に立つヘクトルを追う。
雨は、まるで止む気配を見せなかった。
●誤算の中で<オウロ隊編>
トーエン隊が動き出そうとする頃、オウロ隊も行動を開始していた。雨に煙る森の中を、静かに前進。やがて視界に入ったのは、何も知らぬまま寛いでいるオーク達の姿である。
天龍が枝を渡りながら様子を伺い、合図を送る。硬い獣の干し肉を毟り取ろうと悪戦苦闘していたオーク戦士は、突如仰け反り、泡を吹きながら倒れ伏した。拳を引き、息を吐く天龍。呆然としていたオーク戦士達が、生意気なチビを捕らえようと追い回し始めた時、雨を突き、斬り込んで来たオウロ隊は、オーク達にとって災厄そのものだったに違い無い。驚愕の表情のまま摺り落ちて行くオーク戦士から日本刀を引き抜くと、マリウスは次の獲物を目で追った。内にはオーラの力が漲り、オーク達の動きを一層鈍重に見せてくれる。
「何だ、張り合いも無い‥‥」
あまりの肩透かしにコロスは不機嫌。襲撃は完全に奇襲となった上に、周辺のオーク達もエリル隊が制圧している筈で、戦いが始まっているとは思えぬ程に静かだった。聞こえるのは、ただ雨音ばかり。
「そう怒るな。そのうち、嫌というほどやって来るだろう」
シュバルツはオーガスレイヤーを軽く引くと、まだ息のあった一匹に止めを刺した。
作戦は、胸の空く様な突破劇で始まった。オークが犇いている筈の包囲南側を、これまで身を縮めているばかりだった騎士達が駆け抜けて行く。デグレモは呆然とこの光景を眺めていたが、やがて怒りの余り、己の額を割れる程に強く殴りつけたという。
「トーエン隊、キール隊、間もなく通過。‥‥大入りになりそうです」
風信機での連絡を受け取り、アリアがそんな表現で敵の動向を知らせた時。脱出ルート上にはオークの骸が雨に打たれるばかりとなっていた。クレリック達が癒しに走るが、本番はこれからだ。残りのオーク達がこの思いもかけない事態に怒り狂い、押し寄せて来たのは言うまでもない。
ラグジはこれに対して挑みかかる様に進み出るや、剣を掲げ、大喝した。敵側からも森が震える様な雄叫びが湧き起こる。
「よしよし、キミ達は分かり易くていいね」
あまりの思惑通りに苦笑するリオン。トーエン隊の脱出が順調なのを確認すると、ラグジの傍らに立ち、横列を形成する。先頭を切って挑みかかって来たオーク戦士は、シュバルツが裂帛の気合と共に突き込んだオーガスレイヤーに腹のど真ん中を貫かれ、悲鳴を上げて昏倒した。その顔面を鷲掴みにし、押しやって引き抜いたシュバルツ。彼女の頭上を、グリフォンが掠め、舞い降りる。
「ムンオオオオオ!!」
鋭い爪を辛うじてかわしたオーク戦士を、コロスのランスが刺し貫いていた。
「どうした、来い薄汚い蛮族ども。この俺の手で屠ってやろう」
一瞬気圧されたオーク達だが、両側から押し囲む様に、一斉に襲い掛かって来た。
「これは‥‥」
アリアの表情が険しくなる。ただ群がっているだけではない、オーク達はこちらが考えたのと同様に、意図的に多対一を作ろうとしている──そう感じ取ったのだ。
「めいれいしてる人、はっけんー」
レン、おもむろに魔法を詠唱。えいやーっ、と掛け声をかけると同時、一匹のオーク戦士が、もんどり打って転倒した。石と化し固まって動かない自分の足に狼狽し、もがいている。その動揺は、周辺のオーク達にも確かに伝播していた。
「ふむ、良い頃合か」
ラグジが頷くと、レオン、コロス、ヘクトルが進み出る。彼らは渾身の力で得物を木々に叩き込んだ。みしみしと音を立てながら倒れる木。簡易なバリケードを生み出すや、ラグジ隊は敵前から、するりと後退を始めた。濃密な霧と、迷いの森の罠、そして天然のバリケード。蛮兵達は、この障害の中を彷徨い歩く事になる筈だ。
だが、作戦は思いもかけぬ迷走を始める。最初の悪い知らせは、グライダー隊苦戦の報だった。
「‥‥オーグラ隊との戦いを、覚悟しておくべきかも知れません」
ラグジに対し、アリアが語ったこの話は、更に悪い形で現実のものとなる。一端は罠の中で惑っていた筈の蛮兵達が、次々に幻惑を脱し、溢れ出て来たのだ。誰かが解除しているのかも知れないが、今は確かめる術が無い。再び横列を組み、これを迎え撃とうとしたまさにその時、風信機が音を発した。
「敵の一部が迂回し、北進中のトーエン隊、キール隊と接触した。オットー卿の命により、本隊がこれより支援に入る。オウロ隊には、現状の維持を求む」
思いもかけない知らせ。
「これ以上の敵が、向こうに押し寄せる事になってはならん。ここで縫い付けておけ、ということだな」
些か厳しい事になったな、と言いながら、ラグジは平然としたもの。場数を踏むというのは、こういった事なのだろう。尤も、この場で不安げな表情を見せているのは、クレリック達だけなのだが。
と、木々の向こうから、蛮兵達の鬨の声が湧き起こった。太く良く響く声が何事かを叫ぶと、蛮兵達が大地から湧き起こる様な雄叫びで応える。
「何か盛り上がってるみたいだねぇ、何て言ってるんだろ」
レオンが呟いた時、フィットとるぅちゃんが激しく吠え出した。ち、と舌打ちと共に姿を現したのは、黒い翅を持つシフール。
「『見よ、怒れる戦士の魂が、汚らわしき者共を地の底に沈める為、再びこの世に舞い戻って来たぞ』といったところだ」
枝の上で幹にもたれかかり、こちらを見下ろす。
「黒翅‥‥どういう意味だ?」
天龍の問いに、黒翅はにやにやと笑うのみ。
「何れ嫌でも分かるだろうよ。泥に塗れたお前らがどんな顔をするのかと思うと、実に愉快だな。もっとも、ここから生きて帰れたらの話だが。‥‥正直、こんなに少数だとは思わなかったぞ。ふざけやがって」
待て、と追う天龍を振り切り、黒翅は森の中に姿を消した。だが、オウロ隊にはこの小さな間者を追う余裕は無かった。
ヘクトルが木々を打ち倒し、今度は戦う為のバリケードを形成する。敵の行動を、僅かにでも制限する為だ。
「少々予定は狂いましたが‥‥大して仕事に差は無さそうですね」
ライトシールドを握り直し、マリウスは押し寄せる影に目を凝らす。2m半はあろうかという巨体のオーグラは、その図体に似ず恐ろしく俊敏。そして、その後を追うオーク達‥‥中には、体を焼かれ、あるいは凍え、腹を裂かれ、頭を潰されている、どう見ても生きている筈の無い者達も混ざっていた。
シュバルツはポーションを取り出し一気に呷る。
「これでも食らえ!」
彼女とコロスが投げつけた小さな追儺豆に、巨体のオーグラが悶絶する様は滑稽ですらあった。更に飛来したワンハンドハルバートに顔面を割られ、のたうち回ってもがき苦しむ。リオンはその傍らを駆け抜けながら、手首のスナップで得物を引き戻した。シュバルツもコロスも先の派手な戦いぶりから一転、隙を無くした堅実な戦い方に移行している。崩れぬ守りに、蛮兵が苛立ちの声を上げた。
「やっと思いっきりどっかんできるのー♪」
レンは押し寄せる敵を恐れるどころか、何やらツヤツヤしている。彼女の体が輝くや、蛮兵の一塊がふわりと宙に舞い、直後、地面に叩きつけられた。次々これを繰り返すレンに気付いたか、一匹のオーグラが恐るべき跳躍力で剣士達の頭上を越え、襲い掛かった。身を挺してこれを遮ったのは、セオドラフだった。
(「ゴーレム無しってのは、どうにも‥‥」)
必死でもみ合うところに、ヘクトルが横手から躍り掛かる。突き出された棍棒を粉砕。力任せにクレイモアを叩き込み、セオドラフを助け出した。二人に正対し、ありがとうなのー、とペコリ頭を下げるレン。そのまるで動じていない様子に、セオドラフとヘクトルは顔を見合わせ、可笑しげに首を振った。
オーク戦士の体が浮き上がり、そのまま後ろにどうと倒れる。
「切りが無いな」
龍飛翔を決めた天龍が、ふう、と息を吐く間にも、次の敵が襲い掛かって来る。アンデットオークの攻撃を巨大な石の盾で防ぎながら、コロスは振り返り、クレリック達を見遣る。
「どうした教会、威勢がいいのは戦う前だけか」
あまりに激しく移り変わる戦場に呑まれていた彼らは、その一言で我に返った。彼らが未熟なりに死者に対抗する様になると、戦いに幾らかは余裕が生まれ始めた。どうだ、これでも口だけかデカブツめと鼻息の荒いクレリック達だが、コロスにとっては彼らが機能を果たしてくれればそれで良いのである。
「トーエン隊は森林地帯を脱出した。繰り返す──」
待ち望んだ知らせを受けた時、オウロ隊は酷く傷ついていたが、一人として欠ける事無く、蛮兵を防ぎ続けていた。業を煮やしたか、現れた一際大きな体躯のオーグラ‥‥それは蛮将デグレモに違いなかった。これといった防具は身につけていないが、首や手足に山と着けられた装飾品は、恐らくその役目を果たすだろう。得物は背丈程もある金棒で、先端には幾つもの窪みが穿たれている。怒りに任せて傍らの大木に金棒を振るったデグレモ。引き抜くや、窪みが繊維を毟り取って、その傷跡は恐ろしく無残なものになった。
「あれと今戦うのは避けたいところですね」
マリウスが呟く。戦いを恐れる訳では無い。本来の役目が果たせなくなる事を恐れるだけだ。セオドラフが木の幹から、来た時に打ち込んだ手斧を引き抜く。進入に用いた経路は、邪魔な枝を払うなど、短い時間で出来るだけの手を入れてある。精々、獣道の出来かけの様なものではあるのだが。
「赤絨毯という訳には行かんですが。早いところ味方と合流して、態勢を立て直しましょう」
悪い流れは、早々に断ち切るに限る。
「しかし、相手に傘に掛かられるのも‥‥。一端逃走のフリをして魔術で攻撃、たじろいだところで一斉に引く、というところで如何でしょうか?」
アリアの進言に、良かろう、とラグジ。ひとつ派手なのを頼むぞと頼まれて、レン、俄然張り切る。踵を返して逃走を始めるオウロ隊。蛮兵達は嵩に掛かって追撃を始めたが、レンが放った重力波によって無様に転がり、打ちのめされる羽目になった。
「おっと、ここは通行禁止だ」
ヘクトルとコロス、そしてレオンが、根元を砕かれた大木に蹴りをくれる。猛攻を凌ぎ、手傷を負いながらも仕込んでおいたものだ。一際大きな音を立て、組み合う様に倒れ込んだ木々の向こうに、彼らは消えた。蛮兵達の恨みがましい視線に見送られつつ。
トーエン隊という枷を外された後、戦いは辺境の森を縦横に用いての時間稼ぎに移行した。デグレモ軍が押し出れば、こちらは組し易い所を叩き、足を鈍らせて退くという具合で、援軍が到着するまでの時間を稼ぐという役割を、オットー・フラルと冒険者達は見事に果たしたのである。
しかし、オットーの表情には、不安の色が滲み出ていた。
「デグレモ軍に、人が加わっていたという情報があります。複数で一に当たる戦い方、負傷した者を下がらせ治療を行っている形跡もあり、一騎打ちを受けるとの申し出にも、儀式で事を決するのは最後の時のみ、と一蹴する程で、策の用い方や戦い方にも、蛮族らしからぬ部分が多々見受けられます」
報告をするものの、エーロンも俄には信じ難い様子。
「この件に人の思惑が絡んでいると、そう考えるのか」
いえ、と、これには言葉を濁すしか無い。そんな軽々しいことを、言える筈など無いのだから。
「カオスに組するなど、本来ならば蛮族の中でさえ、あってはならない事なのだ。故に私は、デグレモなる者を決して許しはしない」
ジ・アースと違いオーガ達が無条件討伐の対象と為らぬのは、ひとえに彼らがカオスに属さぬ者である故である。己の分を守り人々の生活を脅かしさえしなければ、生きて行く権利は認められている。現に、一部では彼らとの交易による共存共栄関係も成立しているのだ。
エーロンは、デグレモ討つべし、と重ねてオットーに命じた。討伐軍の集結は、間もなく完了する予定だ。