廃城の戦いC【先鋒隊】

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月21日〜04月26日

リプレイ公開日:2007年05月07日

●オープニング

 蛮将デグレモの包囲より、トーエン・マウロ卿は救い出された。思いもよらぬ不覚に激怒し、この恥を血で濯ごうと躍起になったデグレモだったが、巧みな遅滞術に翻弄され、結局は辺境の森に押し止められたまま、領主軍が集結する時間を与えてしまった。集結した戦力はおよそ150。堂々たる陣容である。
「敵の数はほとんど減っていません。一度命を失った者が、再び立ち上がり戦い続けているんです。残りの敵も同様と考えれば‥‥敵は倍いるのと同じ事になります。そうでなくとも、この蛮族軍には腑に落ちないところが沢山あります。カオスの魔物が関わってもいるのですし、警戒の上にも警戒を──」
 オットー・フラルの忠告を、さてどれ程の者が理解している事か。一抹の不安を感じる彼ではあったが、それ以上強く言う事の出来ぬまま、討伐に向かう彼らを見送った。騎士50に教会派遣のクレリック10という構成の第一隊が先んじて、騎士30にクレリック10の第二隊がその翌日、デグレモの首級を挙げんと意気揚々、森林地帯に踏み入ったのである。

 森林地帯の縁に位置する古い時代の廃城。半壊した城壁と塔の残骸が残るばかりの物寂しい場所だが、小高い丘の上に位置しており、この辺りでは唯一周辺を見渡せる。旧街道跡が南に走り利便性が高い事から、デグレモ討伐軍の基地として、武器や食料などを運び込んでいた。あくまで討伐支援の為の拠点であり、ここで戦う事を意図してはいない。
 ところが。
 まだ薄暗い明け方の事。廃城に詰めていた30余名の騎士達は、ドロドロドロ‥‥という不気味なドラムの音に城外を見渡し、そして絶句した。丘の南側、麓に揺れる、無数の松明。耳障りな鬨の声は、間違い様も無い、蛮族のそれだ。
「何てことだ、何故ここに敵がいる!?」
「先行した軍勢は肩透かしを食らったのか‥‥」
 辺りを漂う青白い炎と、徘徊する半ば腐り果てた蛮兵の成れの果て。それらが眼下に屯する光景は、悪夢としか言い様が無い。異変を知らせる為に廃城を出た伝令達は、気付くと幾つもの黄色い瞳に囲まれていた。羽音と共に悲鳴が響く。巨大な梟が仲間を鷲掴みにし飛び去って行くのを、彼らは見ている事しか出来なかった。
 敵は明るくなると、周辺の木々を伐採し、大型の投石器を作り始めた。同時にゴブリン達が、彼らの背丈程もある大玉を幾つも作っている。何にせよ、廃城を攻め落とそうとしている事は、誰の目にも明らかだ。
「こんな所で敵と対峙する羽目になるとは‥‥。城とはいっても、ここは野晒しの廃墟でしか無いんだぞ」
「仕方あるまい。エーロン様がご用意下さった銀の武器、各家備えの武器防具、馬や驢馬、食料や酒だってある。これをみすみす渡して、一体誰に顔向けが出来るというのだ」
 逃げるに逃げられず、彼らはただ、敵の動向を見守るばかりである。敵陣からは一度、オーガ戦士10匹程度から成る小隊が分離し、攻撃が始まるのかと騎士達を緊張させたが、そのまま何処かへ姿を消してしまった。中にはカオスニアンらしき者の他、人の姿もあったという。

 知らせを受けた第一隊、第二隊は、翻弄された自らを呪いつつ取って返し、廃城へと向かう途上にある。妨害に遭わなければ、第二隊は作戦開始当日に、第一隊は翌日、到着出来る筈だ。無論、急ぎ戻って来る彼らを即投入して良いのかどうかは、考え所ではあるのだが。
 廃城に最も早く駆けつけられる戦力となったオットーとトーエンは、廃城救援の為の作戦を立てる必要に迫られた。
「ここはやはり、廃城に拠って先行の軍勢が取って返すのを待つのが常道か。持ち堪えられれば、敵を前後から挟み撃ちにも出来よう」
 トーエン卿の策に、頷くオットー。ただ、頼みとするに、廃城はあまりに頼りない。そこに舞い込んだのが、新型サイレントグライダー実戦使用の打診である。
「新型のグライダーは、風だけでなく地の精霊力を用いる事が出来、12m以下の低空ではチャリオットの如き静穏かつ滑る様な飛行が可能なのです。墜落の心配も無し! まあ完全にコントロールを失っていればその限りではありませんが、そんな時の為に救命具も用意しております。速力、搭載力、安全性共に従来機を上回る最新鋭兵器なのです!」
 オーブル・プロフィットが差し向けた技術者は話し始めたら止まらない様子。半分も理解出来ないオットーだったが、使わせてくれるというものは有難く使わせてもらう事にする。そこでふと、こんな策が頭に浮かんだ。
「いっそ、廃城は敵に明け渡してしまってはどうでしょうか。物資は敵の手に渡ってしまいますが、敵を森の中から引き出して廃城の中に押し込められれば、むしろ戦い易くなる様な気がします。城壁や塔だって、ゴーレムやグライダーを使えるこちらにとってはあまり障害にならないでしょうし」
「‥‥意外と思い切った事を考えるのだな、オットー卿」
 トーエン卿が呆れた様に呟いた。作戦の詳細は、冒険者の助言を得た後に決定する事とする。
 フラル家の騎士、ジル・エリルは、皆の前に立つと説明を始めた。
「我々はトーエン卿の手勢20名と共に、作戦当日には到着する筈の第二隊40名と合流し、先鋒となって敵を切り崩す役割を負う。第一隊とオットー様の隊が合流し参戦するまでは、この隊が主力の役割を果たす事になる。そのつもりでいて欲しい」
 つまり、最も苦しい時間、味方を支えねばならないのはこの隊だという事だ。
「‥‥森の中を駆け回る羽目になった40名は、疲労を抱えたままで戦いに加わる。彼らを助け、その上で、有効に活用しなくてはならない。領主勢に対し、我々は助言以上の事は出来ない立場ではあるが‥‥先んじて状況を作り、合流後も先頭に立って働く事で、その流れに彼らを乗せる。厳しい役目だが、皆の力を貸して欲しい」
 オットーの立場を固める為、懸命のエリルである。

 状況を確認しておく。
 第二隊(騎士30、クレリック10)は作戦開始当日に、第一隊(騎士50、クレリック10)は翌日に到着する。廃城に30名の騎士、オットー隊及びトーエン隊20は、森林地帯の外、廃城から半日程の場所に待機中。
 デグレモ軍の陣容は、オーグラ40、オーク戦士30、ゴブリン戦士10。アンデットと化したオーグラ10、オーク戦士が20、レイスが30程確認されている。これらが混在した状態で、旧街道跡との連絡を遮断するかの様に廃城南側に布陣しており、着々と攻城の準備を整えている。周辺の森ではジャイアントオウル(大梟)が目撃されている。夜行性の凶暴な猛禽だが、その数は不明。カオスニアンと人、オーガ戦士10から成る別働隊の行方は分かっていない。

●今回の参加者

 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1681 マリウス・ドゥースウィント(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4501 リーン・エグザンティア(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4578 越野 春陽(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●協調
 到着した第二隊の疲弊は、目に見えて明らかだった。途中、泡を吹いて使い物にならなくなる馬や驢馬が続出したというのだから、その強行軍ぶりが分かろうというものだ。同行のクレリック達には休息を取ってもらい、導蛍石(eb9949)が治療にあたる。怪我はせいぜい捻挫や切り傷程度のものだが、やはり疲労が大問題だった。
「ゆっくり休む時間があれば、何の問題も無いんだが」
 我が身を削って回復に努める蛍石も、随分と疲れている。目の下の隈がちょっと怖い。ぐいっとポーションを呷り、それでも頑張る蛍石である。
「ところで、この良い匂いは‥‥」
 我慢出来なくなって聞いた騎士に、あああれは、と蛍石が説明しかけた丁度その時。リーン・エグザンティア(eb4501)を先頭に、レオン・バーナード(ea8029)やマリウス・ドゥースウィント(ea1681)、越野春陽(eb4578)らが、大きな鍋を幾つも運んでのご登場。鍋の中には、温かなスープが揺れていた。さ、どうぞ、とリーンが言うが早いか、皆がどっと押し寄せた。戦場で温かな食べ物は有難いもの。お疲れ様、頑張りましょう、と声をかけながら、なみなみとスープをよそって木皿を渡す。
「貴方の剣で、きっと多くの人々が救われるわ」
 恐らく初陣であろう若い騎士の疲れと不安を見て取り、そんな言葉をかける彼女。嬉しげに微笑んだ青年の胸に芽生えた恋心は残念ながら報われる事は無いだろうが、第二隊の士気を大いに高めたのは確かである。
「皆様には後詰となって頂きます。暫くの間は私達とマウロ隊が前に立ち敵に当たりますので、どうぞ十分な休息を取って下さい」
 春陽の配慮だが、しかし騎士などというものは扱い辛いもので。
「いやいや気遣いは無用。我らこの程度で剣が鈍る事など無い」
「どれ、これから駆けて行き、腹ごなしに蛮族どもと槍でも交えて来ようか」
 老騎士が威勢の良い事を言うのだが、見れば今にも倒れてしまいそうだ。じいさん無理すんな、と内心気が気でないレオンである。
「皆さんの忠誠と働きを疑う者が、何処にありましょうか」
 春陽は、はっきりと言う。
「これはカオスとの戦い。称えられるは、敵を多く討った者ではなく、己の役割を果たした者。徒に功に走るは、カオスに利すると同義。エーロン様ならば必ずそう仰るでしょう。そして今、皆さんがするべきは、休息を取り、本来の力を一刻も早く取り戻す事です」 むう、と唸る彼ら。領主二人が気まずげなのは、これがオットーの策に抵抗するだろう領主達への言葉でもあるからだ。
「まあ、騎士にとって先陣は誉れなんだろうし、振り回された分やり返さないと気がすまないってのも分かるけどさ、先陣切って失敗しましたじゃ目も当てられないぞ。その代わり、いざ廃城攻めって時には活躍してもらうからさ、今は休んでくれよ」
 人懐っこいレオンの笑顔にやられた訳でもあるまいが、彼らは渋々ながらこれを受け入れた。それ程に、疲労が強かったという事だろう。

 春陽は、トーエン・マウロ卿にも声をかけた。相変わらずのやぶ睨みに貧相な髭が少々懐かしくもあり。
「再び共に戦えること嬉しく思います」
 頭を垂れた春陽に、伯は随分と上手く立ち回っておる様だな、と一言。仄かな嫌味の臭いを感じ取って、やれやれと内心溜息をついていたのだが、
「是非とも教えを請いたいものよな。このトーエン、今は些か難儀をしておってな。いや、些かではないな、かなり困っておる‥‥」
 愚痴る姿があまりに可笑しく。人の性質は簡単に変わるものではない。ただこの人物の場合、空虚な自尊心がいくらか薄まり、不思議な可笑しみが出てきた様ではある。

●牽制
 廃城との間に敵軍を挟み込む様な形で布陣した先鋒隊。セオドラフ・ラングルス(eb4139)が伐採した木で組んだ簡素な柵が、唯一の防御施設である。一見すれば70人の大部隊ではあるが、全力で押し寄せられれば壊滅は必至。しかしそれでも、どうにかして廃城を支援せねばならないのだ。既に廃城に対する攻撃は始まっており、その勢いは相当なものと見て取れる。
 先鋒隊の出現に、オーグラの一団が進み出た。彼らがこちらに対する備えという訳だ。彼らに対し、シュバルツ・バルト(eb4155)が大音声に言い放つ。
「カオスに与する者供め、我が武勲の足しにしてくれるわ!」
 と、蛮兵達は暫しの沈黙の後、小馬鹿にした様に囃し立て出した。シュバルツの顔がみるみる内に赤くなる。
「ふっ──ふざけるな! この侮辱には必ず報いるからそう思え!!」
 それはもう大激怒である。まあまあ、と宥めるレオン。
「今度も返り討ちにして、何度やっても同じだって見せ付けてやろうじゃん」
 彼の言葉で、どうにか気持を静めるシュバルツだ。
 と、そこに、トーエン卿と領主達に宛てたシフール伝令が到着した。目を通したトーエンが、むう、と唸って髭を扱く。
「第一隊が間もなく到着するらしい。軍議を執り行いたいとあるな」
 丸一日早い到着である。トーエンと第二隊の二人の領主は、驚き戸惑いながらも本隊へと向かった。
「今の段階で深入りするつもりはありません。しかし、こちらから仕掛けて行かなければ廃城を援護する事は出来ません。特に、あの投石器だけは何とかしておかないと‥‥」
 春陽は彼らに、この作戦を実行する許可を得ている。

 隊が動き出した時、大木の陰に身を潜め陣の動きを探っていたゴブリンは、突然犬に吠え立てられ、大いに慌てた。直後、哀れな彼はオラース・カノーヴァ(ea3486)の振り下ろした剣によって真っ二つにされるのだが、恐らくは何も気付かないままに逝っただろう。愛犬ペンドラゴンをたっぷりと撫でてやり、彼は再び森の中へと溶ける。
 先鋒隊の存在を忘れた訳ではあるまいが、蛮族軍の意識が廃城に向かっていたのは、紛れも無い事実だろう。突如として出現したゴーレムに、オーグラ達は不意を突かれる形となった。盾板を掲げながらウッドゴーレムに突進したオーグラは、防いだ筈の斧が深々と己の肩に減り込んでいる様を見ながら、倒れ伏した。ゴーレムに続いて抜刀し、前進するトーエン隊。、
「ふむ、やはりわたくしにはゴーレムのほうが向いているようです」
 と、満足げに頷くセオドラフである。向かって来る蛮兵を一端トーエン隊に預け、するりと森の中を移動。挟み撃ちを試みる。
 一方、バガンを駆るリーンは、投石器の置かれている一角に突入していた。盾を構え、短剣を巧みに振るいながら、コンパクトな戦いを心がける。群がり来るオークとオーグラに、リーンは殊更に大立ち回りを演じて見せた。エリルも抜刀し支援に向かう中、
「背中は任せた、宜しく頼む」
 第二隊の騎士達に背後を託すと、裂帛の気合いと共に突進する。バガンの背後を扼そうとしていた狡猾なオーグラは、鬼殺しの名を持つスピアに腹を抉られ、悶絶しながら息絶えた。生ける死体として蘇った時、更に情け容赦無い突きをもって葬られたのは、言う間でもない。
 彼らが敵軍の注意を引いている内に、春陽は投石器に接近を果たしていた。掌に生み出された炎の玉を、投石器に向かって放つ。爆音と共に炸裂する炎に砕かれ、急作りの歪な投石器はミシミシと音を立てながら横倒しになった。と、これを目の当たりにした廃城から、うおお! と歓喜の叫び声が上がる。オーク達は頭を抱え、何事か喚き散らしながら右往左往。しかし、2機のゴーレムが暴れている中で、適切な対処など出来よう筈も無かった。そこに容赦無く、次の一撃。やがて、全ての投石器が破壊され、無残な姿を晒す事となった。
 廃城のあまりの喜びぶりに後ろ髪を引かれる春陽だったが、ぐっと唇を噛んで我慢する。ゴーレムとて無限の攻撃に耐えられる訳では無いし、他家から託された戦力を無為に損なう事などあってはならない。長居は無用、彼女はゴーレムに向かって撤収の合図を送る。怒り狂いこれを追った蛮兵達は、しかし第二隊の隊列を見ると、それ以上深入りしようとはしなかった。
 トーエン卿と第二隊の領主達が戻って来たのは、この直後だ。第一隊の到着をもって作戦の繰上げが決定され、先鋒隊にも即座の攻勢が命じられたのである。廃城組がこれ以上時を稼ぐのは困難との判断だ。
「せっかくの良い流れを断ち切る事もあるまいよ。いつも万全の状態で戦える訳ではない。確かに疲れてはいるが、見事に役目を果たしてみせるさ」
 皆の不安を、第二隊の騎士達はそう言って笑い飛ばした。、

●廃城に死す
 廃城に残っていた兵はオウロ隊と共に、激しい攻撃に晒されながらも脱出を果たした。デグレモ軍は嵩に掛かって、一気呵成に廃城内へと突入。奪った物資を掲げ持ち、勝ち誇って気勢を上げた。半壊した城壁の上に奪った酒樽を抱えてよじ登ったオーグラは、蓋を素手で打ち抜くや、抱え上げてぐいと呷る。蛮族どもはやんやの喝采で、騎士達を肴に酒盛りを始める始末だ。
 無論、これはあくまで策。いつまでも蛮族達を喜ばせておく必要も無い。エリル隊にトーエン隊、休息中だった第二隊も加わり先鋒隊が南側から押し寄せると同時、城兵とオウロ隊も取って返して出口を封じる。第一隊と共に前進した本隊が廃城東側より迫るに至って、廃城は一瞬にして蛮兵どもを押し込める檻と化したのである。

 入城した蛮兵達は半壊した城壁の上から、毒矢や毒黴玉、果ては瓦礫まで、ありとあらゆる物を浴びせて来た。
「いい加減にしなさいよ、もう!」
 バガンに傷でも付きはしないかと、気が気でないリーンである。一見笑える状況だが、石くれとて投げ下ろされれば命に関わる武器となる。リーン機は盾を掲げ、特にクレリック隊の守り手となってその進軍を助けた。癒し手が厚い守りのもとにあるという事は、第二隊の士気にも良い影響を与えた。一団となって攻め上がる彼らに、蛮兵達は防戦一方となっていた。
 春陽は第二隊の進路に魔法を撃ち込むことで、彼らの負担を減らしていた。しかし時折、宙に向かって炸裂させる。いぶかしんだマリウスが問うてみると。
「飛んで来る矢を焼き切るのは、さすがに無理なのね」
 とても残念そうな春陽。ちょっと可愛いかも、などと頬を赤らめるマリウスである。
「死者の反応あり。動きから見て、肉体を持つ者達かと」
 蛍石の忠告に、皆が身構えた。支援隊奮闘の置き土産という事になるのだろうか、体中に矢を突き立てた死者達が、至るところから湧いて出る。
 厄介ですね、とセシリア・カータ(ea1643)は隊の前に立ち、借り受けた銀製の剣を振るって立ち向かう。骸にスピアを突きたてながら、シュバルツは騎士達を促した。
「補えなかった疲労の分、我々が働こう。今度はこちらが背を守る」
 こんな事を言われて奮起しない筈もなく。隊の先駆けとなって斬り進むレオンを追って、彼らも懸命に斜面を登った。そのレオン、逃げ遅れたオーク戦士を駆け寄り様に斬って捨てるや、亡骸の足をも切断。これはアンデット化した時の用心なのだが、後続の騎士達はといえば、這いずり寄って来る一層不気味な死体と戯れる羽目になっていた。
 生ける死体にレイスまでもが漂い始め、南側斜面は墓場の如き様相を挺していた。セオドラフは盾でレイスを牽制しつつ、パンチを浴びせて霧散させる。
「これは余り効率の良い戦い方とは言えませんな。しかし、防御力の低いウッドゴーレムと盾の組み合わせは一考の価値があるやも‥‥」
 ふむ、と考えを深める彼。と。
「何で言ってくれないんですか」
 マリウスはゴーレムアクスにオーラの力を付与すると、続けて己を鼓舞し、鎮魂剣を高く掲げた。群がり来る、かつてはオークだった者、オーグラだった者達を墓場へと送り返す。その合間に、銀の武器が行き渡らなかった騎士達の剣にも、オーラの力を与えていった。
(「戦う力があるという事が、士気が萎えるのを押し止めてくれる筈」)
 騎士達の様子にその思いを強くしながら、彼は飛来するレイスに身構えた。

 愛犬と共に迂闊なオーグラを斬って捨てたオラースは、うう、と苦しげに唸る声に、またか、と首を振りながら振り返った。毒黴でも吸ってしまったのだろう騎士が、座り込んでいる。
「‥‥大丈夫か、そら、薬をやるから飲んでおけ」
 感謝の気持を体中で表現する騎士に、おざなりな返事をすると、彼は廃城へと急ぐ。こんな事が、もう何度目か。
「これは陰謀か? 俺にデグレモを討たせまいとするカオスの謀略なのか!?」
 なんたる事だと嘆く彼。運が無いにも程がある。

 レオンが城壁前で戦い始めた時、まだ城内に乗り込んだ者は一人としていなかった。レオンは蛮兵と斬り結びながら、後続の第二隊に先に行けと合図した。
「お、おい大丈夫なのか坊主」
「ああ、ちょっとばかり無理しちゃったな。けど、約束は約束、ちゃんと果たしたから、後は思う存分やっちゃってよ。おいらは休憩‥‥」
 ばた、と倒れた彼に慌てふためく騎士達。彼は紛う事なき重症者。駆けつけたクレリック達により、安全な場所まで運ばれたのだった。
「まだ仕事は残ってる、黒きシフールを探し出さないと」
 蛍石も途中で倒れ、後送されていた。自己犠牲も程々にという事だが、彼らに感謝している者は、きっと多いだろう。
 この直後、東側の第一隊も廃城内へと突入する。
 もはや、南と東からの圧力に蛮兵達は耐えられなくなっていた。戦力の薄い北側に退路を求めようとする敵もいたが、轟音と共に城壁が崩れ、その瓦礫が幾度となく頭上から降り注ぐ。そして頼みの死者が炸裂する劫火に次々と焼かれて行く様は、蛮兵達から戦意を奪い去った。

 この俺と一騎打ちをする勇気のある者はいないのか、と挑発するデグレモ。その前に立ちはだかったのは、アレクシアスとオラースだった。コイントスに負けて先を譲る事になったオラースが、無念げに忠告を。
「あの金棒は危険だ。無数の窪みがオーグラの怪力と相まって、骨を砕き肉を深部まで引き千切って行くぞ。確実にかわして行け」
「‥‥それは苦手だ」
 進み出たアレクシアスの力量を察してか、デグレモは満足げに笑うと、金棒を彼に向けた。
「何故カオスなどに組する」
 デグレモから発せられた問いに、我が耳を疑う。制止する間も無く、恐るべき一撃が振り下ろされる。辛うじて盾で受け、振り上げようとするところをそのまま押さえ込んで、横一閃。凄まじい跳躍力で飛びずさったもののかわしきれず、ぱっくりと傷が開き、血が溢れ出した。
「カオスに侵されているのはお前達だデグレモ」
「幽鬼までもが貴様らと戦おうとするのに、何故そんな妄言が吐ける? 誑かされて目まで曇ったか!」
 盾で防いでさえ、衝撃に気が遠くなる。だがムラクモの切れ味はアレクシアスを裏切らなかった。みるみる傷ついて行く己に、デグレモは驚きの眼で信じられないとばかりに首を振った。
「‥‥なんでお前がカオスの手先なんだ。そうでなければ仕えてやっても良かったものを」
 血を失い、デグレモの息が上がっている。駆けつけた博士が、デグレモに言った。
「なら、縛についてエーロン様の前で申し開きをするがいい。きっと己の思い違いにも気付くでしょう」
 デグレモは、グハハ、と笑った。騎士の真似事をしているとはいえ、力が法のオーガに、それは通じない論法だった。
「俺を捕らえて連れて行くか? いいだろう、エーロンの頭をカチ割って、何が詰まっているか貴様にも見せてやろう!」
 正面からぶつかり合う両者。デグレモの指が飛び、金棒が唸りを上げて宙を舞う。振り向き様に振るった刃はデグレモの脇腹を抉り、命の継続を不可能にした。どうと前のめりに倒れ、事切れた後、デグレモは再び立ち上がる。だが、それはただの戦う肉塊だ。デグレモの形をしたものは、すかさず飛び出したオラースによって足を破壊された後、騎士達が突き込んだ数十本の銀の剣によって引導を渡された。頼みの蛮将を失って、蛮兵達も投降を始めた。いつしか、徘徊する死者の姿も見えなくなっていた。
 すぐには行方の知れなかった占い師ゲールと黒翅も、クレリック達によって追い詰められ、引導を渡されたという。

 蛮将デグレモの乱はここに終結した。そこで、生き残りの蛮兵達をどうするかが大変な問題となった。彼らは元々人に仇為す者であり、しかもデグレモ同様、ウィルがカオスに侵されていると信じている。容赦無く撫で斬りにすべしとの意見が強かったが、オットーは解き放つべきと主張した。
「カオスを憎み種族を超えて結束した皆さんをこうして解き放つ事が、私達がカオスになど組していない証と受け取って頂きたいのです。もしも再び私達にカオスの影を感じ取ったなら、その時は是非もありません。しかしそうでないなら、この噂を口にする者達を、それは間違っていると嗜めて欲しいのです」
 この様に伝え、彼らの身に死者化の呪いが残っていないか調べた後、蛮兵達は解放された。150を超えた蛮族軍も、生き残ったのは僅か30程。骸は教会により念入りに弔われて、埋葬されている。

●報告
 オットー・フラルと辺境領主達は、エーロン王に無事、戦勝の報告をする事が出来た。忠義厚きフラル家をきっとお取り立て下さいますよう、と願い出たアレクシアスに、エーロンは、必ず何がしかの形を以って報いよう、と大きく頷いたものである。また、些か落ち度のあったトーエン卿および各領主達ではあるが、一切咎め立ての言葉は無く、同様に労われたのである。本来ならば無事に役目を果たし終え、ほっと胸を撫で下ろすところであろうが、オットーの表情は沈んでいる。
「この件にリグの国が関わっているというのは、本当なのでしょうか‥‥リグの王はジーザム陛下とも深い交流があり、ウィルにはとても理解があるお方と聞いております。それが、何故私達を──」
 エーロンは首を振り、そこまでにしておけ、とオットーを制した。
「この話は、暫し忘れておくがいい。軽率な言動で信頼を失ってはならない。分かるな?」
 は、と頭を垂れるオットー。だが、どう振舞って良いのか分からず途方に暮れるばかりである。アレクシアスは彼の背をどんと叩き、『背筋を伸ばせ』と囁いて、先に行く。オットーは丁寧に頭を下げて、彼を見送った。

 なお、余談ではあるがリーン・エグザンティアは今回の功績により、バガン1機を下賜された。その論功はクレリック達を死守したことについてのものだったと言う。