ルーケイ鉄の嵐〜森林部攻略軍A工作隊

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:12人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月08日〜07月13日

リプレイ公開日:2007年08月04日

●オープニング

●討伐令下る
「盗賊『毒蛇団』の甚だしき増長、もはや看過ならぬ。我、ウィル国王ジーザム・トルクはかの悪逆非道なるカオスの族に裁きの鉄槌を下す。──ロッド・グロウリング!」
「はっ!」
 ウィルの王にその名を呼ばれ、王の左腕たるロッド卿は畏まり敬礼。
「そなたを毒蛇団討伐戦の総司令官に任じ、討伐軍全軍の指揮権を委ねる」
「御意!」
 ここにウィル国王の討伐令は下った。これは国を挙げての一大決戦。その戦場は毒蛇団の本拠地たる西ルーケイのみならず。西はロメル子爵領から東は王領バクルまでを巻き込んだ大規模な戦いとなる。
 ジーザムにとりこの戦いは、大ウィルの結束を世に示す戦い。華やかな新国王就任式典の裏では分国王達との密談が進められ、全ての分国王がルーケイ平定戦への参戦を表明した。同時にこの戦いは、数々の新兵器の性能を試す実戦テストの場ともなる。
 戦いの準備は着々と進み、決戦の時は刻一刻と近づきつつある。

●西部戦場の概要
【概略図】
   ↓ロメル子爵領
  ━━━━┓
  森?□森┣━┳━━━━
  森−‖┏┛森┃森森森−王
  ━━‖┛−森┃森?森−領  □:湖  ‖:川  ━:領地の境
  −−‖−−−┃森森森−ル  攻略目標?:森の砦
  −−‖−−−┃−−−−│  攻略目標?:平野の砦
  −−‖−−−┃−?−−ケ  攻略目標?:ロメル領の村
  ━━‖━━━┻━━━━イ
  ↑ワンド子爵領
  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜大河

【解説】
 王領ルーケイの西部にロメル子爵領を加えた西部戦場は毒蛇団討伐戦における主戦場となり、大量のゴーレム兵器が投入される。攻略軍はその攻略目標により、次の3軍に組織される。
 《1》森林部攻略軍
  毒蛇団の本拠地たる森の砦を攻略。空戦部隊、空挺ゴーレム部隊を主体とする。
 《2》平野部攻略軍
  毒蛇団の重要拠点たる平野の砦を攻略。新型チャリオット部隊を主体とする。
 《3》ロメル領攻略軍
  毒蛇団の支配下にあるロメル領の村を攻略。セレ分国の弓兵ゴーレム部隊を主体とする。

●森林部攻略軍の攻撃目標
【概略図】
  森森森森森森森森森  ↑北
  森■_畑畑畑_■森
  森_畑◆畑◆畑_森
  森_畑畑■畑畑_森  _:平地
  森森_畑◆畑_森森  ■:砦
  森森森___森森森  ◆:収容所
  森森森森■森森森森
  森森森森森森森森森

【解説】
・周囲の森、並びに砦周辺の平地には侵入者を阻むトラップが多数存在。
・砦の周りの畑には、グライダーの飛行を阻む丸太が林立。
・虜囚となった西ルーケイの領民達は収容所に収容。
・収容所の周囲には薪と藁の束(いざとなったら火を放って虜囚を焼き殺す)。
・外部に通じる抜け穴がある。

●森林部攻略作戦概要
 7月9日
  ・深夜、攻略軍のフロートシップは王都より出陣。
  ・潜入工作隊の工作開始
 7月10日
  1.夜明け前、フロートシップは夜明け前に拠点に到達。
  2.砲撃により周辺部の砦を奇襲攻撃し、破壊。
  3.各種ゴーレムにより収容所制圧、虜囚達を保護。
  4.各種ゴーレムにより中央部の砦を破壊。
  5.残存する敵を掃討。
  6.余力があれば、平野部攻略軍の支援に向かう。
 7月11日
  ・現地に治安維持部隊を残し、主力部隊は撤収。

●森林部への投入ゴーレム戦力
 ・大型フロートシップ『イムペット』
  大型エレメンタルキャノンを備えた大型艦。旗艦・各種ゴーレムの母艦として使用予定。
 ・小型フロートシップ『グラビス』
  小回りが効き、高速移動可能な小型艦。各種ゴーレムの母艦として使用予定。
 ・小型フロートシップ『ミストリア』
  小回りが効き、高速移動可能な小型艦。各種ゴーレムの母艦として使用予定。
・小型フロートシップ『エクリパス』
  小回りが効き、高速移動可能な小型艦。工作部隊及びサイレントグライダー母艦として使用予定。
 ・小型フロートシップ『ウィンデル』
  小回りが効き、高速移動可能な小型艦。医療部隊の母艦として使用予定。
 ・空挺ゴーレム部隊
  キャペルス1体、グラシュテ2体、バガン10体で構成。
  ゴーレムは超低空の高度からロープもしくは飛び降りにより降下。
 ・ウィングドラグーン部隊
  ウィングドラグーン5体で構成。
 ・グライダー部隊
  通常型グライダー12機で構成。副座式で、魔法の使えるウィザードや地球人も後部座席に搭乗可能。
 ・サイレントグライダー部隊
 ・サイレントグライダー4機で構成

●シャミラからの情報
 これまで毒蛇団と協力関係にありながらも、今ではウィル国王の側についたテロリスト・シャミラからは、次の情報が提供されている。
 《1》毒蛇団の首領ギリール・ザンには複数の影武者がいる。
 《2》砦の収容所には、1つの施設につき子どもを含む約200人の虜囚が収容されている。
 《3》砦の近辺には、コウモリの羽根を持つ小鬼型のカオスの魔物が出没する。
 《4》未確認情報だが、砦内には強力なカオスの魔物『黒いグリフォン』が隠れているらしい。

●各部隊の役割
 森林部攻略戦に参加する冒険者は、工作隊・強襲隊・後方支援隊のいずれかに参加することになる。各部隊の目的は以下の通り。
《工作隊》
 ・先行して攻略拠点に接近し、夜間飛行するフロートシップを拠点に誘導する目標物を用意。
 ・攻略拠点内での各種の工作。虜囚達の安全確保、トラップの解除、敵兵の攪乱、敵幹部の逃亡阻止など。
《強襲隊》
 ・ゴーレムや魔獣などの高い攻撃力を生かし、敵を殲滅する。
《後方支援隊》
 ・味方兵士や保護された虜囚達の治療、艦内での警戒。

●決戦迫る〜進撃ルートの目印
 ルーケイ領内を流れる大河。その岸辺のあちこちで、大がかりな篝火の櫓が造られつつあった。
「ありゃ、来月の水霊祭に向けての準備だって話だよ」
「何でも今度の水霊祭には大ウィルの王様が、船に乗ってワンドの殿様のご領地までおでかけになるんだとさ」
 大河で漁に励む漁師達は、その光景を見ながらそんな会話を交わす。実際、そんな話が漁師の間のみならず、王都の民の間にもまことしやかに広まっていた。
 真実を明かせば、話を広めたのは大河の通行を取り仕切るルーケイ水上兵団の者達である。水霊祭の準備というのは表向きの話。篝火を設置する真の目的は、西ルーケイの攻略拠点へと進撃するフロートシップのための目印としてだ。フロートシップはウィルの主要交通ルートである大河に沿って西進するのだが、夜明けと同時に攻略拠点への奇襲を行うには、夜間のうちに目的地の間近まで接近しなければならない。その点、篝火なら夜闇の中で非常に目立つから、目印には適している。
 大河を西進したフロートシップはルーケイ城のある虹島の辺りで進路を変え、攻略拠点たる森の砦を目指して北上する。問題はここからだ。
 大河より離れて北へ向かえば、そこはもう毒蛇団の支配地域。しかも決戦が行われる日の前日だと、月は真夜中の0時頃に沈む。月が沈めば、フロートシップは闇夜の空を飛び続けねばらならない。フロートシップを無事に目標地点まで到達させるためには、それ相応の工夫を為さねばならない。
 一例として、森の砦のすぐ側で大規模な森火事を起こす手がある。或いは、強力な光を放つ魔法を使用してもよい。
 先行する工作隊が真っ先に果たさねばならないのは、この仕事だ。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea1819 シン・ウィンドフェザー(40歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea2766 物見 兵輔(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5858 音羽 朧(40歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0884 グレイ・ドレイク(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2259 ヘクトル・フィルス(30歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb4402 リール・アルシャス(44歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857

●リプレイ本文

●終結
 真夜中。隣領のワンド子爵領の町はずれに船体を横たえるフロートシップ・エクリパスから、サイレントグライダーが飛び立つ。無音の飛行で進入する先は西ルーケイの森。月精霊は地平に傾き、投げかける月光も乏しくなる。かろうじて森の木立の輪郭が分かる程に。
 森の木立の高さぎりぎりに飛行していたグライダーだが、やがて森の中にぽっかり開いた空間に出る。下には松明を振って合図する者がいた。その炎を目印に降下するグライダー。そこは森の中に点々と存在する隠し畑の一つだった。この場所も毒蛇団の支配下にあるが、収穫を終えた今では誰もいない。
 リール・アルシャス(eb4402)とアシュレー・ウォルサム(ea0244)がグライダーから降りると、合図を送ったその者が声をかけた。
「これで全員揃ったな」
 今は冒険者の側についたテロリストのシャミラだ。その周りには冒険者の姿がある。皆、シャミラの案内で安全な抜け道を通り、ここまでやって来たのだ。
「では、始めるぞ」
 まるでリーダーは自分であるかのようなシャミラの立ち振る舞い。アレクシアス・フェザント(ea1565)は辟易した。シャミラに人員を借りるつもりで協力を求めたのだが、まさか本人がやって来て作戦を仕切ってしまうとは。
「シャミラ、分かっているとは思うが‥‥」
「分かっている。ここで一番偉いのはあんただ、ルーケイ伯。だが、作戦中は私がボスだ。ここは敵地、死にたくなければ私の指示に従ってもらう」

●敵地での工作
 夜が明けると冒険者達は行動を開始した。
 シャミラが言う。
「抜け道は毒蛇団の通行ルートにもなっているから、路上に罠は存在しない。しかし抜け道を外れると、いたるところ罠だらけだ。罠の場所は分かるな?」
「拙者にお任せを」
 その言葉に音羽朧(ea5858)が応じ、屈み込んで地面すれすれまで目線を下げる。
「こういう罠は相手の目線を意識して隠しているので、はいつくばって目線を下げると判りやすいのでござる」
 朧の言う通り、目線を下げて注意深く観察すると、土を掘り返した跡や仕掛けをした跡がある。
「では、罠にかからぬようにして、罠が沢山仕掛けられた場所を探せ。そこに篝火を設置する」
「は?」
「そんな場所にわざわざ?」
 ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)とアシュレーは呆れる。見つけた罠は片っ端から解除するつもりだったのに。しかしシャミラは事も無げに答えた。
「罠が多い場所なら、毒蛇団もうかつに近づけまい? ついでに罠が無い場所にも罠を仕掛けておけ。それからユラヴィカ」
「ん?」
「この抜け道の先には毒蛇団の砦があって、この辺りにも奴等が定期的に偵察にやって来る。おまえは皆から離れた場所に隠れ、ここに近づいて来る者がいないか見張れ。誰かがやって来たら、これを鳴らせ」
 と、シャミラがユラヴィカに渡したのは鳥寄せ笛。吹いてみると野鳥の鳴き声にそっくりな音を立てた。
 作業が始まる。最初になるべく木が密集して生えている場所を選び、できるだけ高い場所の枝を寄り合わせて、鳥の巣状のカゴを作るのだ。言葉で説明するのは簡単だが、実際にやってみると骨が折れる仕事だ。リールのサイレントグライダーがあるから、高い木を上り折るする手間は省けるが。
 ファング・ダイモス(ea7482)は手慣れたもので、大きな木の枝に跨った姿勢で手近な枝を引き寄せては、手際よくロープで縛り付けて行く。日頃から狩猟に慣れ親しんでいたおかげで、こういう作業にも勘が働く。
「どれ? ‥‥今一つ、結びが甘いでござるな」
 と、この手の仕事に長じた朧が仕上がり具合を確かめ、緩いロープの結び目をしっかり結び直したり。
 ピーッ! ピョッピョッ!
 離れた場所から鳥寄せ笛の音。皆は作業の手を止め、素早く枝葉の影に隠れて下の様子を伺った。
 抜け道を通ってやって来た毒蛇団の連中が3人。お決まりの仕事で慣れに染まったせいか、頭上の冒険者にまるで気づかない。その姿が消えると冒険者達は作業を再開。『鳥の巣』が出来上がると、そこに枯れ枝や枯れ葉を目一杯詰め込む。これで作業終了、後は夜が来るのを待つばかり。
「さてと、やっとこさ内憂のひとつにケリをつけられるか‥‥絶対にしくじれんな」
 と、呟くシン・ウィンドフェザー(ea1819)。本番はこれからだ。
 首領や幹部達の具体的な人相は、既にシャミラに確認済み。但し、首領の影武者の正確な数や、普段首領が砦のどの辺りにいるかなどは、シャミラにも分からない。そういう事は誰に対しても秘密にされて来たのだ。
「何か?」
 シャミラがヘクトル・フィルス(eb2259)に問いかける。ヘクトルはさりげなくシャミラの様子を観察していたのだが、その素振りに気づかれたようだ。
「いや、随分と手際が良いと思ってな。感心して見とれておったのだ」
「伊達にテロリストはやっていない」
 シャミラは常に、感情を露わにせずに物を言う。それがヘクトルにはどうにも気にかかる。シャミラと行動を共にすることは、シャミラにこちらを観察する機会を与えるということだ。そのうち足をすくわれまいか?

●闇の中の炎
 今は真夜中。目の前に広がるのは漆黒の闇。仲間の息づかいの音がやけに大きく聞こえる。
「シン、炎を‥‥」
 シンがライターの火を点け、アレクシアスの手巻き懐中時計を照らす。
「そろころ頃合いだな」
 今頃、強襲隊を乗せたフロートシップは大河ルートを離れて北上し、かなり北へと進んだはずだ。
「ユラヴィカ、頼んだぞ」
 シンから油とライターを受け取ると、ユラヴィカは頭上へ舞い上がる。程なく、『鳥の巣』に火が点り、次第に火勢を増して行く。
「うまくいってくれよ」
 やがて炎は一層燃え広がり、周囲の枝葉をも呑み込んでいく。
 点火からおよそ1時間が過ぎた頃、毒蛇団の賊どもが現れた。森の中の炎に気づき、偵察にやって来たのだ。その数4名、おまけに翼のある子鬼を1匹連れている。
「おい、あそこで何が燃えているんだ?」
「俺が様子を見てきてやるぜ」
 子鬼が舞い上がり、『鳥の巣』に接近。
「何だこりゃあ!? でっけぇ鳥の巣が燃えてるぜ!」
 ヒュウ! ヒュウ! アシュレーが放った2本の矢が、子鬼を貫いた。
「ぎゃあああ!」
 尾を引く絶叫と共に落下する子鬼。
「て、敵だぁ!」
 気が付けども時既に遅し。アレクシアスとシンが前と後ろから盗賊どもを挟み撃ち。慌てた盗賊どもは通ってきた抜け道を離れ、森の木々の中へ駆け込んだが、そこには罠が。
 どおおおおっ!!
「うあああああーっ!!」
 足下が崩れて落とし穴に呑み込まれ、穴の底に仕掛けられた尖った杭が盗賊の体を貫いた。
「自ら仕掛けた罠にはまるとは‥‥」
「自業自得とはこのことだな」
 時計を見ると夜中の3時を回っている。
「そろそろ来るぞ」
 木の枝越しに夜空を見上げると‥‥見えた! 燃える炎が朧に照らし出した船影、森の木立すれすれの低空飛行でゆっくりと近づいて来るそれは、巨大フロートシップ・イムペットだ。闇の中にぼんやりと浮かび上がるその姿は、この世ならぬ幻のようでもある。他の船も姿こそ見えないが、この近くに浮いているはずだ。
 リールがサイレントグライダーで船に向かう。アシュレーはプットアウトの魔法で炎を消す。一瞬にして闇に包まれる森。イムペットは音も立てずその場に浮かんでいる。
 進撃開始は夜明けと同時。それまでイムペットはひたすら待つのみ。工作隊は抜け道を通り、毒蛇団の本拠地を伺う位置につく。
 ふと、深螺藤咲(ea8218)は遠きショアの地に思いを馳せる。
(「今頃、姫様は何をしておられるのでしょうか」)
 戦いの時は間近。カリメロ子爵家の従騎士として恥じない戦いを見せたいと、藤咲は思う。
 夜明けが近づくと共に、夜の闇は徐々に薄まって行く。夜明けまで残り15分になると、イムペットはゆっくりと動き出した。

●解放の戦い
 戦いはイムペットの砲撃で始まった。
 どおおおおん!! どおおおおん!! どおおおおん‥‥!!
 集中砲火の轟音。最初の目標となった南の砦は、瞬時にして中の盗賊もろとも粉砕された。イムペットはその横を通過し、次なる目標たる北西の砦に砲火を浴びせる。
 工作隊はイムペットの砲撃に合わせて行動を開始した。目指すは中央砦の周囲に存在する収容所。そこに捕らえられた虜囚達の安全を確保するのだ。
 ルーケイ伯の紋章旗を翻し、アレクシアスは戦場を駆ける。今こそ毒蛇団を滅ぼし、ルーケイの暗雲を打ち払いて未来を切り拓く時。空からは空戦隊のドラグーンとグライダーの機影が幾つも迫り、降下したフロートシップからはゴーレムが次々と姿を現す。
 虜囚達はこの戦いの有り様に恐れおののいているだろうか? 一刻も早く告げ知らせるのだ。これは囚われし者達に自由をもたらす戦いであることを。
 走り行く先は中央砦の北東側に位置する収容所。入口に立つ見張りは討伐軍の猛攻を目の当たりにして茫然自失。サンソードでいとも簡単に切り伏せると、アレクシアスは収容所の中に飛び込んだ。
 怯えた無数の目がアレクシアスを見る。アレクシアスは顔を覆うフェイスガードを跳ね上げ、高らかに叫んだ。
「我が名はアレクシアス・フェザント!! ルーケイ伯がここに来たぞ!! 恐れるな!! アレクシアスがここに在る限り、賊どもに手出しはさせぬ!! 戦いが済むまで暫しこの場に留まられよ!!」
 助かったのだ! その事を知った虜囚達は喜びにどよめく。随伴するユラヴィカは残る仕事をてきぱきと進める。
「手の空いている者には見張りを頼むのじゃ! わしも見張りに立つが、賊どもが火を放つこともあるやもしれぬ! 十分に気をつけるのじゃ!」
 だが、実際には毒蛇団の賊どもに、虜囚達にかまける余裕など無かった。既に周辺部の砦は全て破壊され炎上中、戦力の大半をあっという間に失った。残る賊どもは中央砦に立て籠もって絶望的な抗戦を続けるか、てんでばらばらにそこら中を逃げ惑うかのどちらかだ。
「俺達は救援に来たんだ! 安全になるまで外に出ないで大人しくしてくれよ!」
 グレイ・ドレイク(eb0884)、深螺藤咲と共に北西側の収容所に駆けつけたアシュレーは、そう虜囚達に言い放つと収容所の護りに立つ。既にウィングドラグーンやバガンが収容所周辺の護りを固めており、その巨体を一目見るなり賊どもは飛び退いて逃げ出す有り様だが、中には半狂乱になって突っ込んで来るヤツもいる。勿論、たちどころにしてアシュレーの矢に射抜かれるか、藤咲の剣に倒れるか、さもなくばグレイのロングスピア「黒十字」に貫かれるかだ。
「ぎゃあああーっ!!」
 突き下ろした「黒十字」の下で、賊の断末魔の絶叫。さあ次なる獲物はと周囲を見渡すグレイだが、もはや向かって来る賊はいない。目と鼻の先の中央砦はドラグーンと空挺ゴーレムの挟撃を受けている。
(「ゴーレムレースも壮観だったが、今度の戦は、規模がまるで違う。俺達騎士の戦からゴーレムの戦に変わる時を、今、俺は目にしているんだ」)
 これまで戦場で味わったことのない戦慄が、グレイの体を走り抜けた。
 クライフ・デニーロ(ea2606)とファングが向かった南側の収容所からも、中央砦の激戦は見えすぎる程によく見えた。
「これは凄まじい‥‥」
 と、思わず呟くクライフの足下には、全身ずぶ濡れで気絶した賊。こいつは収容所の見張りだったのだが、クライフの水魔法であっけなく撃退されたのである。
「おや? これはいただけないな」
 中央砦の壁を破って、外に逃げ出そうとする賊の一団が見えた。すかさずクライフは呪文を唱え、放たれた魔法はアイスコフィン。最初に外へ飛びだそうとした賊は、哀れガチガチの氷漬け。後に続こうとした賊どもも、突然の妨害に右往左往。そこへバガンがやって来て、問答無用でゴーレムパンチをお見舞いだ。
 ボガアッ!! ボガアッ!!
 後ろにひしめく賊ごと、壁をぶち壊しまくり。
「やりますねぇ‥‥」

●首領捕縛?
 もはや陥落寸前の中央砦、その有り様をヘクトル・フィルス(eb2259)は離れた場所から見やっている。
「もはや戦は先が見えたようじゃな」
 呟くと、足下の狩猟犬に目を向ける。
「まだ見付からんか?」
 ペットの狩猟犬はくんくん地面を嗅ぎ回っていたが、やがて地中に埋もれている物を引っ張り出した。白骨化した人間の手だ。
「違う、それじゃない」
 ヘクトルがずっと探し回っているのは抜け穴の出口。万が一に備えた脱出路があることは前々から耳にしていたが、その正確な位置はシャミラさえも知らない。
「この調子では日が暮れてしまうぞ」
 と、手伝いの物見兵輔(ea2766)がぼやく。虱潰しに探すとしても、調べるべき範囲が広すぎるのだ。
 リールのグライダーが飛んできた。操縦席からリールが叫んでいる。
「司令所より緊急連絡! 中央砦から毒蛇団首領が脱出した! 抜け穴を通り北上中だ!」
「何じゃとぉ!?」
 中央砦に目をやり、次いで北へ視線を走らせるヘクトル。そこには森が広がっている。
「すると、出口はあの辺りか!」
 見当を付けた場所へと走る。
「先に失礼するぞ!」
 兵輔が疾走の術を使い、ヘクトルに先行。同じく疾走の術を使い、北へ向かう朧の姿も見える。だが彼らより一足先に、目指す場所にたどり着いたのは、シンを乗せたグリフォンだった。森の木立の奧に目を凝らしたシンは、地面の中から姿を現した人影を目にした。
「あれか!」
 グリフォンを急がせて前方に先回り。木の枝の合間から急降下。
「うわあっ!」
 抜け穴を脱した賊はグリフォンの姿に驚き、逃げて来た道を逆戻り。だが、その目の前に兵輔と朧が立ちはだかった。
「寄るな! 寄るなぁ!」
 死に物狂いで剣を振り回すものだから、兵輔も朧も迂闊に近づけない。そこへ一足遅れてヘクトルがやって来た。
「往生際の悪いやつじゃ」
「うあああああああーっ!!」
 絶叫と共に突き出された賊の剣。それをヘクトルは体で受け止めつつ、賊の剣と交差する形で聖剣「ミュルグレス」デビルスレイヤーを突きだした。
 シュバァッ!!
「がぁぁ‥‥!」
 剣を引き抜くや吹き出す血潮。体を大きく仰け反らせて倒れる賊。あっけなく勝負はついた。賊の顔を見れば、人相書きが示すところの毒蛇団の首領ギリール・ザンの顔によく似ている。
「やったか!」
 背後からの声に振り返れば、グリフォンに乗って急遽駆けつけた陸奥勇人の姿があった。

●黒いグリフォン出現
 中央砦の陥落と首領らしき人物の捕縛により、戦いは終結したかに見えた。
「これで一安心ですね。収容所内に潜んでいるカオスの魔物もいなさそうですし」
 北西側の収容所の護りにつく深螺藤咲も、ほっと胸をなで下ろす。
 これで戦いは終わったのだ。
 ──いや、そう思うのはまだ早かった。
 突然、建物の周りが騒がしくなる。何事かと思って窓から外を見るや、
「‥‥これは!!」
 目に映ったのは翼の生えた子鬼。ジ・アースに出没するインプによく似ている。それも1匹や2匹ではない。100匹はいようかと思える大群が、所狭しと飛び回っているではないか。
 どおおおん!!
 収容所の反対側の壁がぶち破られ、魔物が押し入って来た。
「黒いグリフォン!」
 サンソード「キサラギ」を引き抜く藤咲。さらにグレイがロングスピア「黒十字」を構え、一歩前に踏み出す。
「怒涛の槍騎士、グレイ・ドレイクが相手だ!」
 だが牽制をかける暇もなく、黒いグリフォンにたかっていた虫が一斉に襲いかかって来た。虫の正体はインプもどき。藤咲とグレイに肉薄するや、正体を現して噛みつくわ引っ掻くわ。
「うっ‥‥!」
 さしもの2人も攻撃を封じられ、その隙に黒いグリフォンは外に飛び出した。その嘴と前足に虜囚の子どもをぶら下げて。収容所に飛び込んだのは、人質を捕らえるためだったのだ。

●黒いグリフォンの最後
 黒いグリフォンの数は2匹。うち1匹は獰猛な面構えの男を乗せている。その顔を見るに、こちらが本物の首領。先ほどヘクトル達が捕らえたのは影武者だったのだ。
 のみならず、インプもどきの大群が冒険者達の行く手を阻む。ドラグーンやバガンで迎え打とうとすれば、インプもどきは小さな虫に化けて攻撃を逃れる。標的が小さすぎてはゴーレムもやりずらい。
「ならば、私のファイヤーバードで。悪しき魂を炎にて浄化します」
 魔法の呪文を唱える藤咲。その体が魔法の炎をまとい、炎の鳥と化す。そして空中へと飛翔する藤咲。ほんのひと飛びするだけで、虫に変じたインプもどきが魔法炎に巻き込まれ、断末魔と共にその正体を現す。
「ぎゃああああ!」
「ぎゃああああ!」
 虫に化けたはいいが、生命力まで虫レベルに低下。ファイヤーバードでほんの一撫でするだけで大ダメージだ。落下した子鬼どもは、グレイがロングスピア「黒十字」で1匹1匹トドメを刺して行く。実に能率がいい。
「黒いグリフォンの1匹がイムペットに飛び込んだ!」
 急を告げ、リールのグライダーがファングを拾い上げた。
「早くイムペットへ!」
 ウィエ分国王エルートより借り受けしシルバーナイフで、まとわりつくインプもどきを追い払うリール。しかしこれでは操縦が出来ない。ファングは得物を大斧「恐獣殺し」から聖剣「アルマス」デビルスレイヤーに持ち替え、襲い来るインプもどきに向かって振り回す。魔物どもは面白いように空中でバタバタと倒される。
「さあ、早くお行きなさい」
 クライフもアイスチャクラでインプもどきどもを蹴散らし、ファングに一声。ところがグライダーはからっきし地面から離れない。
「駄目だ、重すぎる」
 ファングの体重はグライダーで運べる限界重量を超えている。
「おーい! ドラグーン!」
 呼ばれてやって来たウィングドラグーンが、ファングの体を掴んで舞い上がった。
 やっとのことでイムペットの格納庫に到着すると、そこは大惨事。そこかしこに傷ついた兵士達が動けぬまま横たわり、床は血の海。黒いグリフォンにやられたのだ。
『黒いグリフォンは格納庫から操船室へ向かっています!』
 風信機から副長エリーシャの声。急がねば船が墜落する。ファングは黒いグリフォンの後を追い、ついに操船室の手前で追い付いた。
「カオスの使者、毒蛇を全て破壊する。我等の道を阻む者、全て粉砕される覚悟を決めろ」
 静かに言い放つファング。人語を解するのだろう、黒いグリフォンが猛々しく吠える。襲い来る爪と嘴。しかし船内の通路はグリフォンには狭く、ファングに利があった。「黒十字」の刃がグリフォンの首筋を切り裂く。穂先が胸元に埋まる。血は流れず、グリフォンはますます猛り狂う。だが「黒十字」を突き出す毎に、その闇の生命力が少しずつ削られて行く手応えをファングは感じ取った。
(「次の一撃で決着をつけてやる」)
 猛り狂ったグリフォンがファングに突撃する。ファングは冷静に間合いを見極め、絶妙のタイミングで「黒十字」の一撃を加えた。
 「黒十字」の穂先がグリフォンの胸に深々と埋まる。ファングの首筋を狙って突き出されたグリフォンの嘴が、すぐ目の前で止まる。数秒の後、黒いグリフォンの巨体が床にごろりと横たわった。やがて動かなくなったグリフォンの体は灰のように崩れ落ち、空気の中に溶け込むように消滅した。

●残された仕事
 黒いグリフォンはファングに倒され、本物の首領ギリール・ザンも陸奥勇人によって倒された。こうして戦いは終わったが、ルーケイ伯アレクシアスにはまだ仕事が残っていた。本来はルーケイ領民である虜囚達の保護という大仕事である。取り急ぎ手持ちの2千Gをはたいて、彼らの衣食住を確保する準備を進める。虜囚達の避難所は東ルーケイに設けられることになろう。忙しくなるのはこれからだ。