ルーケイ鉄の嵐〜森林部攻略部軍B強襲隊
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■ショートシナリオ
担当:マレーア1
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:12人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月08日〜07月13日
リプレイ公開日:2007年08月05日
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●オープニング
●討伐令下る
「盗賊『毒蛇団』の甚だしき増長、もはや看過ならぬ。我、ウィル国王ジーザム・トルクはかの悪逆非道なるカオスの族に裁きの鉄槌を下す。──ロッド・グロウリング!」
「はっ!」
ウィルの王にその名を呼ばれ、王の左腕たるロッド卿は畏まり敬礼。
「そなたを毒蛇団討伐戦の総司令官に任じ、討伐軍全軍の指揮権を委ねる」
「御意!」
ここにウィル国王の討伐令は下った。これは国を挙げての一大決戦。その戦場は毒蛇団の本拠地たる西ルーケイのみならず。西はロメル子爵領から東は王領バクルまでを巻き込んだ大規模な戦いとなる。
ジーザムにとりこの戦いは、大ウィルの結束を世に示す戦い。華やかな新国王就任式典の裏では分国王達との密談が進められ、全ての分国王がルーケイ平定戦への参戦を表明した。同時にこの戦いは、数々の新兵器の性能を試す実戦テストの場ともなる。
戦いの準備は着々と進み、決戦の時は刻一刻と近づきつつある。
●西部戦場の概要
【概略図】
↓ロメル子爵領
━━━━┓
森?□森┣━┳━━━━
森−‖┏┛森┃森森森−王
━━‖┛−森┃森?森−領 □:湖 ‖:川 ━:領地の境
−−‖−−−┃森森森−ル 攻略目標?:森の砦
−−‖−−−┃−−−−│ 攻略目標?:平野の砦
−−‖−−−┃−?−−ケ 攻略目標?:ロメル領の村
━━‖━━━┻━━━━イ
↑ワンド子爵領
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜大河
【解説】
王領ルーケイの西部にロメル子爵領を加えた西部戦場は毒蛇団討伐戦における主戦場となり、大量のゴーレム兵器が投入される。攻略軍はその攻略目標により、次の3軍に組織される。
《1》森林部攻略軍
毒蛇団の本拠地たる森の砦を攻略。空戦部隊、空挺ゴーレム部隊を主体とする。
《2》平野部攻略軍
毒蛇団の重要拠点たる平野の砦を攻略。新型チャリオット部隊を主体とする。
《3》ロメル領攻略軍
毒蛇団の支配下にあるロメル領の村を攻略。セレ分国の弓兵ゴーレム部隊を主体とする。
●森林部攻略軍の攻撃目標
【概略図】
森森森森森森森森森 ↑北
森■_畑畑畑_■森
森_畑◆畑◆畑_森
森_畑畑■畑畑_森 _:平地
森森_畑◆畑_森森 ■:砦
森森森___森森森 ◆:収容所
森森森森■森森森森
森森森森森森森森森
【解説】
・周囲の森、並びに砦周辺の平地には侵入者を阻むトラップが多数存在。
・砦の周りの畑には、グライダーの飛行を阻む丸太が林立。
・虜囚となった西ルーケイの領民達は収容所に収容。
・収容所の周囲には薪と藁の束(いざとなったら火を放って虜囚を焼き殺す)。
・外部に通じる抜け穴がある。
●森林部攻略作戦概要
7月9日
・深夜、攻略軍のフロートシップは王都より出陣。
・潜入工作隊の工作開始
7月10日
1.夜明け前、フロートシップは夜明け前に拠点に到達。
2.砲撃により周辺部の砦を奇襲攻撃し、破壊。
3.各種ゴーレムにより収容所制圧、虜囚達を保護。
4.各種ゴーレムにより中央部の砦を破壊。
5.残存する敵を掃討。
6.余力があれば、平野部攻略軍の支援に向かう。
7月11日
・現地に治安維持部隊を残し、主力部隊は撤収。
●森林部への投入ゴーレム戦力
・大型フロートシップ『イムペット』
大型エレメンタルキャノンを備えた大型艦。旗艦・各種ゴーレムの母艦として使用予定。
・小型フロートシップ『グラビス』
小回りが効き、高速移動可能な小型艦。各種ゴーレムの母艦として使用予定。
・小型フロートシップ『ミストリア』
小回りが効き、高速移動可能な小型艦。各種ゴーレムの母艦として使用予定。
・小型フロートシップ『エクリパス』
小回りが効き、高速移動可能な小型艦。工作部隊及びサイレントグライダー母艦として使用予定。
・小型フロートシップ『ウィンデル』
小回りが効き、高速移動可能な小型艦。医療部隊の母艦として使用予定。
・空挺ゴーレム部隊
キャペルス1体、グラシュテ2体、バガン10体で構成。
ゴーレムは超低空の高度からロープもしくは飛び降りにより降下。
・ウィングドラグーン部隊
ウィングドラグーン5体で構成。
・グライダー部隊
通常型グライダー12機で構成。副座式で、魔法の使えるウィザードや地球人も後部座席に搭乗可能。
・サイレントグライダー部隊
・サイレントグライダー4機で構成
●シャミラからの情報
これまで毒蛇団と協力関係にありながらも、今ではウィル国王の側についたテロリスト・シャミラからは、次の情報が提供されている。
《1》毒蛇団の首領ギリール・ザンには複数の影武者がいる。
《2》砦の収容所には、1つの施設につき子どもを含む約200人の虜囚が収容されている。
《3》砦の近辺には、コウモリの羽根を持つ小鬼型のカオスの魔物が出没する。
《4》未確認情報だが、砦内には強力なカオスの魔物『黒いグリフォン』が隠れているらしい。
●各部隊の役割
森林部攻略戦に参加する冒険者は、工作隊・強襲隊・後方支援隊のいずれかに参加することになる。各部隊の目的は以下の通り。
《工作隊》
・先行して攻略拠点に接近し、夜間飛行するフロートシップを拠点に誘導する目標物を用意。
・攻略拠点内での各種の工作。虜囚達の安全確保、トラップの解除、敵兵の攪乱、敵幹部の逃亡阻止など。
《強襲隊》
・ゴーレムや魔獣などの高い攻撃力を生かし、敵を殲滅する。
《後方支援隊》
・味方兵士や保護された虜囚達の治療、艦内での警戒。
●決戦迫る〜イムペット宮殿にようこそ
ウィルの誇る大型フロートシップ・イムペット。全長は100mにも及び、重量1200tの巨体を空に浮べ、大型エレメンタルキャノン6門ならびに中型エレメンタルキャノン6門を装備する。ウィルの持てるゴーレム技術の粋を集めたこの巨大浮遊戦艦は、何と商才逞しいウィエ分国王エルートに貸し出され、毎日のごとく繰り広げられる晩餐会の会場に様変わりしていた。
名づけて空中晩餐会。招かれた賓客達は日中、低空で低速飛行するイムペットの甲板にて眺めの良い景色を堪能しつつ、給仕が運んで来る喉心地の良い飲み物や贅沢な料理を楽しむ。夕刻、夕日が沈み終える頃合になると、その広々とした船内倉庫で盛大な舞踏会が繰り広げられるのだ。
本来は殺風景な船内倉庫も、エルート王の持ち込んだ数々の飾り物できらびやかに飾り立てられ、さながら宮殿の大広間の如し。故に世人はこれをイムペット宮殿と呼んだ。
華々しき舞踏会の会場にあって唯一人、俯き加減で黙々と歩いている男がいる。この男こそイムペットの艦長ヘイレス=イルク。
「ヘイレスよ。おまえもここに来て一緒に飲まんか?」
テーブルに座すエルート王が誘う。
「儂(わし)は、どうもこういうのが苦手なもので‥‥」
ヘイレスは短く答えると、そのまま何処かへ去って行く。その後ろ姿を見て、エルート王は呟いた。
「あやつは騎士道一筋の堅物じゃからなぁ」
真実のところ、盛大な饗宴は敵の目を欺くためのもの。その裏で戦いの準備は密かに進む。7月9日の晩餐会が終われば、最後の客が船を去ったその後で、イムペット宮殿は巨大浮遊戦艦イムペットの姿を取り戻し、西ルーケイへと進撃するのだ。
●リプレイ本文
●砲撃
精霊歴1040年7月10日夜明け前。毒蛇団討伐軍の空中艦隊は工作隊の設置した目標を頼りに闇夜を進軍し、敵の本拠地の間近まで到達していた。
戦いの始まりは静かなものだった。
「イムペットより各種伝達。これより西ルーケイ森林部攻略戦を行う」
しんと静まったイムペットの格納庫に、空戦騎士団長シャルロット・プラン(eb4219)の号令が淡々と響く。彼女はカルガモ作戦の発動に備え、この場所に待機中。全ての船に向けて風信機による号令を下すと、続けてイムペットの司令所へ連絡。
「これよりカルガモ作戦を発動します」
『了解!』
風信機から艦長ヘイレスの応答があり、イムペットは静かに動き出した。
夜はまだ明けていない。徐々に薄れ行く夜闇の中、敵の本拠地がぼんやりと姿を現し始めている。
「いよいよか‥‥」
イムペットの最上甲板に立つ物輪試(eb4163)は緊張した。これから始まる砲撃は、試が進言した通りの手順で行われるからだ。発案者は彼の知人で、彼はそのアイデアをそのまま上に伝えたようなものだが、自分の言葉通りにこの巨大な船が動く有り様を知るに、自分の言葉の重みを実感する。
「うまくいってくれよ」
舳先を北西に向け、南東より敵地に進入したイムペットの艦上で、砲塔が静かに動き出す。最初の標的は周辺部にある3つの砦のうち、最も船に近い南の砦だ。
どおおおおん!! どおおおおん!! どおおおおん‥‥!!
夜明け前の静けさを砲撃の轟音がうち破った。居並ぶ砲塔から放たれた幾つもの火球が南の砦に炸裂する。瞬間、世界は真っ赤な炎の色に染まった。
気がつけば南の砦は粉々に砕け、天井や壁や柱であったはずの残骸が炎上していた。さながら焚き火の中にどっと放り込まれた廃材の如くに。
イムペットは中央砦を中心に弧を描きながら進撃を続ける。次なる目標たる北西の砦が近づくや、再び轟く砲撃の轟音。再び赤く染まる世界。南の砦と同様、北西の砦にいた賊どもは一瞬にして砦もろとも叩きつぶされたのだ。
ここに来てようやく、残された北東の砦の連中もとんでもない事態に気づいたらしい。手に手に松明を持った賊どもが、次々と砦の外に姿を現し始めた。だが、時既に遅し。三度の砲撃が、賊どもを砦ごと粉砕した。
気がつけば周辺部にある3つの砦は残骸と化して炎上。残るは中央部の砦のみだ。
●ドラグーン出撃
カルガモ作戦、これはカルガモの親が先頭に立ってヒナの列を導くが如く、ドラグーンが前面に立って後続のグライダーを導くことから名付けられた作戦名だ。
イムペットとミストリア、2隻のフロートシップに分乗した4機のウィングドラグーンが出撃。シャルロット機とシャリーア機はしっかり連携を組み、背後にグライダー隊を引き連れて南南西から中央砦に接近。砦周辺にはグライダー避けの丸太が林立するも、低空飛行の体当たりで片っ端から薙ぎ倒す。衝撃で機体がガンガン揺れるが、強力なエレメンタルフィールドのお陰で損傷は軽微だ。
シュバルツ機はレイ機と共に、西側から中央砦に肉薄。
「滅びろ、カオスの族(やから)め!」
砦の賊どもはひっきりなしに矢を射る。さらに設置型の大弩弓が幾つも引き出されて来たが、その狙いが定まるよりも早く、シュバルツ・バルト(eb4155)操るドラグーンはゴーレム斧で大弩弓をめった打ちにして破壊。レイ・リアンドラ(eb4326)のドラグーンもランスの先に大弩弓を引っかけてひっくり返す。そして2機は後続のグライダーに進路を譲って上空に舞い上がる。既にシャルロットとシャリーア・フォルテライズ(eb4248)のドラグーンは中央砦の上空にあり、後続のグライダー隊による砲弾攻撃の有り様を見守っている。
だが、
「砲弾攻撃の効果が今ひとつだ」
「場所が狭すぎたか」
敵の本拠地は森に囲まれた平地。グライダーならひとっ飛びで、端から端へと達してしまう。これが広大な平野ならありったけのスピードを出せるから、水平飛行で投下する砲弾にも勢いがつくのだが。同じことをこの場所でやれば、グライダーが砦や森の木立に激突してしまう。だからスピードを抑えねばならないのだ。
「攻撃はヘビーダーツと石灰の投下を主体に。砦の賊どもの牽制を」
シャルロットは判断を下し、その言葉は風信機によって即座にグライダー隊へ伝えられた。
「まだ時間はありますね」
レイ機が中央砦めがけて急降下。3台目の大弩弓を蹴りで破壊すると、先ほどひっくり返した大弩弓にもありったけの蹴りを加えて粉砕した。さらに、弓を構えて居並ぶ賊どもをランスの一振りで薙ぎ倒すと、空へ舞い上がる。
入れ違いにグライダーの第2波が到来。狼狽える賊どもの真上から、ヘビーダーツと目潰し石灰の雨が降り注いだ。
●これは実戦
林立する丸太をドラグーンが薙ぎ倒して切り開かれたその場所に、空挺ゴーレム部隊の母艦グラビスが着地。格納庫からキャペルス、グラシュテ、バガンが出撃する。
その有り様はウィングドラグーンに搭乗し、ミストリア内で待機する加藤瑠璃(eb4288)にも伝えられた。
「いよいよ私の出番ね。今度は実戦、気合を入れないと!」
操縦席の水晶球に手を置き、念じる。
「いくわよ‥‥ドラグーン起動っ!」
起動成功!
「やった!」
右手にゴーレム槍を構え、腰にゴーレム斧を帯びた瑠璃のドラグーンは、格納庫から空中に飛び出した。目指すは中央砦の北西側に位置する収容所。
「ここには空挺ゴーレムが行かないみたいだから、私だけでも行って開放を手助けしないとね」
後続の露払いとばかりに、付近の丸太を体当たりで薙ぎ倒しつつ収容所に辿り着く。収容所の見張り櫓の上に、慌てふためく賊の姿が見えた。
今さら情けは無用! 見張り櫓の真上からゴーレム斧が振り下ろす。その瞬間、瑠璃は斧に切り裂かれる賊の断末魔を聞いたような気がした。
続いて瑠璃のドラグーンは収容所の入口の前に陣取る。こちらに駆けて来る賊達が何人かいた。虜囚達をどうこうしようというのではなく、ゴーレムの猛攻に怯えて収容所内に逃げ込もうとしている。だが、みすみす中に入れる訳にはいかない。
一撃、二撃と、瑠璃はゴーレム槍を繰り出す。思いっきり突いたら、賊は見事に串刺しに。その体がなかなか槍から離れない。しゃにむに槍を振り回したら、弾みで賊の体が槍から離れて吹っ飛んで行った。
「あんまり‥‥気分のいいものじゃないわね」
賊とはいえ、相手は生身の人間。
●収容所制圧
空挺ゴーレム隊の指揮官はセオドラフ・ラングルス(eb4139)。自身はキャペルスに搭乗し、南側の収容所には物輪試を小隊長とするバガン4体を向かわせる。北東側の収容所には、賽九龍(eb4639)を小隊長とするバガン4体だ。
北東側の収容所に着くと、九龍のバガンは建物周辺に積み上げられた藁束・薪束を撤去。一部にずぶ濡れのものがあるのは、市川敬輔(eb4271)の取った行動による。敬輔は自身の操縦するグライダーの後部座席に魔法兵団のウィザードを乗せ、賊が可燃物に火を点けられぬよう、ウォーターボムの水球を飛ばさせることで水浸しにしたのだ。
それでも水浸しになったのは、全体のごく一部に過ぎない。
賊の見張りどもを蹴散らし、配下のバガンで収容所を囲むと、九龍のバガンは入口の前に陣取る。逃げて来る敵がいれば問答無用で蹴り飛ばしたが、敵の叫びを聞きつけて収容所の窓から顔を覗かせた虜囚がいた。まだ小さな子どもだった。
「俺は熱血台風サイクロン、賽九龍(サイ・カオルーン)だ! よろしく!」
バガンの顔を窓に近づけ、九龍は名乗る。声の届く距離だったが、子どもは怯えたような目線を目の前のバガンに向けている。
「まだまだ激しくなるんだ、中で待ってろよ」
その言葉を聞くや、子どもの顔が中に引っ込んだ。
視線を外に向けると、紋章旗を掲げて走って来る一団がいる。あれはルーケイ伯の紋章旗。味方の工作隊だ。
「中のことは任せる」
九龍のバガンは入口から退き、工作隊を収容所の中に導いた。
ゴーレム用のラージシールドを前面に立てて進み続けた物輪試のバガンは、南の収容所に到達。収容所の見張りは既に持ち場を放棄して逃走していた。
「何か拍子抜けだな」
それでも虜囚が無事であることに越したことは無い。自分のバガンに加え、自らが小隊長として率いて来たバガン3体で、収容所の四方をがっちり固める。時折、激戦まっただ中の中央砦から飛来する矢を盾で受け止める以外、戦闘らしき戦闘も無い。やがて工作隊所属の冒険者がやって来た。
「中のことは任せるぞ!」
バガンはあくまで外の守り。流石に収容所内の中までは乗り込めない。中のことは生身の人間任せだ。
●挟撃
中央砦の攻撃後、シャルロット団長のドラグーンは、砲撃を受けた周辺部の3つの砦を一巡。賊の生き残りを牽制するつもりだったが、砲撃の威力は凄まじかった。どの砦も徹底的に破壊され、今だ燃え続ける残骸の中に、骸と化した賊の顔や手足が見え隠れする。よろよろと動き回る生き残りがいるにはいるが、もはや完全に戦闘力を喪失したも同然。
『収容所は3つとも制圧完了。賊は中央砦の防衛に手一杯で、収容所にまで攻め入る余裕はありません』
シャリーア機から連絡が入る。シャルロットは配下の部隊に告げた。
「グライダー部隊は周辺部に逃走する賊の掃討にかかれ。これよりドラグーン部隊と空挺ゴーレム部隊により、中央砦を挟み撃ちにする」
命令を受けた空挺ゴーレム部隊は、収容所の守りから離れて中央砦に迫る。砦に立て籠もる賊めがけてゴーレム斧を振り下ろす物輪試のバガン。加藤瑠璃のドラグーンも中央砦に駆けつけ、斧で賊どもを薙ぎ倒す。
賊どもは悲惨な有り様だ。副長ガージェス・ルメイ率いるグライダー部隊は、度重なるヘビーダーツと目潰し石灰の攻撃を加え、賊どもは砦に立ち往生したままバタバタ倒される有り様だった。既に満身創痍の状態にあった賊に対し、空挺ゴーレムとドラグーンによる挟撃は、トドメの一撃となったのである。
中央砦から逃走を図る賊の一団がいた。壁を破り外に脱出しようとしたところへ、工作隊の魔法支援を受けたバガンが突撃。ゴーレムパンチで砦の壁ごと賊どもを叩きつぶす。
気がつけば、砦の外から見える場所で応戦していた賊は全滅。今や動かぬ屍を晒すのみ。残るは巣穴に逃げ込んだネズミよろしく、砦の内部に立て籠もる賊を殲滅するだけだ。
『バガンで突破口を開いてください』
キャペルスで指揮を取るセオドラフの言葉を聞くや、賽九龍は行動に出た。ゴーレムパンチを繰り出して砦の壁に大穴を開ける。
途端、手に手に剣を持った賊どもが、九龍のバガンに押し寄せた。自らの命をも省みず、捨て身の攻撃に出たのだ。
「こいつらは悪人だ、だから殺してもいいんだ‥‥」
そうでも呟かねば精神のバランスを失いかねない。戦闘馴れしない地球人のひ弱さを感じつつも、九龍のバガンは盾で賊を跳ね飛ばし、ゴーレムの剣で賊に斬りつける。盾も剣もバガンの本体さえも、賊の血で赤黒く濡れた。程なく抵抗は止まり、生き残りの賊は砦のさらに奧へと逃げ込んだ。
『バガンはそのまま待機。これより砦内部を制圧します』
風信機からセオドラフの声。ここから先は生身の人間の出番だ。
●首領捕縛?
壁に穿たれた大穴を前にして立つは陸奥勇人(ea3329)、七刻双武(ea3866)、トレント・アースガルト(ec0568)の3人。
「いよいよ毒蛇団との最後の戦い、腕がなるじゃのう。しかし、この戦にこそルーケイ伯の遺臣達と共に討ちたかったのう」
一瞬、遠い目になった双武だが、すぐに表情を引き締めて、ブレスセンサーの魔法で砦の内部を探る。
「賊は‥‥ざっと20人か」
それぞれの武器を手に、3人は砦の内部に踏み込む。
「民を苦しめ、悪を呼び込む毒蛇団。蛇を由来に持つ、背徳の宿業を持つ百蛇の生き残りを今こそ討つ」
呪文のように言葉を呟き、トレントは己の精神を引き締める。砦の中はやけに暗い。賊の姿を探せども、姿はどこにも見えず。
「そこじゃ!」
高速詠唱で、双武がライトニングサンダーボルトを放つ。残骸の影に隠れていた賊が悲鳴を上げ、投げつけようとしていたダガーがその手から落ちる。気合いの雄叫びと共にトレントが突撃し、槍を二度三度と賊の体に突き入れる。賊は絶命した。
「これで1人」
隠れている賊を1人また1人と倒し、7人目が倒された時。ブレスセンサーで繰り返し探りを入れていた双武が警告の叫びを上げた。
「賊が地面の下を逃げておるぞ! 抜け穴じゃ!」
双武の探知によれば、抜け穴を逃走中の賊は北へ向かっている。
「ここは任せた!」
ペットのグリフォンに跨り、勇人は抜け穴の出口へと急ぐ。程なく、勇人は目当ての賊を発見。既に工作隊によって発見され、戦いに破れて地面に転がっていた。
勇人が賊の顔を見れば、人相書きが示すところの毒蛇団の首領ギリール・ザンの顔によく似ている。
「さて、こいつは本物かどうか。‥‥なるほど、確かに見た目はそれっぽいな。まぁ他にもいたら、それはその時だな」
●本物の首領
首領と思しき人物は捕縛され、毒蛇団は壊滅状態。ここに戦いは終結したかに見えた。しかし、トレントにはまだ気になることがあった。
「黒いグリフォンはどこだ? 話によれば砦に隠れているはずでは?」
だから、仲間と共に中央砦をくまなく調べていた。
「しっ! ‥‥何だ、あれは?」
聞こえてきたのは不気味な声。呪文の詠唱のようだ。どうやら地下から響いて来る。
「おかしい。先ほど調べた時には、ブレスセンサーに感知されなかったのじゃが‥‥」
「ずっと息を止めていたか? 相手が魔物なら息を止め続けていても死なぬぞ」
双武と共に床を調べると、そこに隠された引き上げ扉が。下に階段が続いている。
「これが地下への出入り口か!」
3人は中に踏み込む。階段の先は異臭の立ちこめる地下室。かなり広い。しかも呪文の詠唱だけではなく、不気味なざわめきに満ちている。
「なんと!!」
3人の冒険者は見た。地下室に設けられた邪悪の祭壇と、呪物を手にして祭壇の前に立ち呪文を唱える男の姿を。そして祭壇に供えられた灯りに照らし出された、世にもおぞましき光景を。
地下室の中央には魔法陣が描かれていた。その魔法陣の中から次々と湧きだして来るのは、翼を持つおぞましき子鬼の群れ。召還魔法でありったけの子鬼を召還したのだろう、地下室は子鬼の群れで埋め尽くされていた。
呪文の詠唱が止まり、男が顔をこちらに向ける。
それは先ほど勇人が目にした顔と瓜二つ。
「どうやら、おまえが本物のギリール・ザンのようだな」
「いかにも。我こそが真の毒蛇団の首領、ギリール・ザンだ」
地の底から響いて来るようなくぐもった声で、ギリールが答えた。
勇敢にも進み出たのは双武。
「天の教え曰く、蛇は狡猾・奸智・堕落を象徴する者なり。それを旗に掲げる主は、真なるカオスの尖兵じゃな」
言い放つや、太刀「三条宗近」の切っ先をギリールに向ける。
「汝らの悪、この刀で祓う」
「生半可な武器では、この我は倒せぬぞ」
ギリールが答えるや、祭壇の両脇に安置された獣の像が動き出す。‥‥否! それは像ではなく、グリフォンによく似た魔物だった。
「これが黒いグリフォンか! それも2匹も!」
トレントの言葉が終わらぬうちに、ギリールの手が祭壇の燭台を引き倒す。地下室の仕掛けが発動した。崩れ落ちる天井、頭上にぽっかり開いた大穴。
「しまった! あんな所に仕掛けが!」
子鬼どもが一斉に羽ばたき、天井の脱出口から外へ。
「うわはははははは!」
高笑いを残し、ギリールも黒いグリフォンに跨って宙に舞い上がった。
●黒いグリフォンとの戦い
突然、中央砦から吹き出した魔物の群れ。制圧されたはずの毒蛇団の本拠地は、再び戦場と化した。
「人の形をしてないヤツを相手にしたほうが、気は楽なのかな!?」
言葉で自らを奮い立たせつつ、空中の子鬼に拳を振るう賽九龍のバガン。しかし子鬼どもは小さな羽虫に変身して攻撃を逃れる。
「目標が小さすぎる! これでは狙いが定まらない!」
なおも拳を振るい続けていると、横を炎の鳥が素早く通り過ぎる。ファイヤーバードの呪文で魔法炎を纏った冒険者だ。羽虫に変じた子鬼どもを魔法炎に巻き込み、焼き尽くして行く。
風信機からは事態の急変を告げる報告が次々と入る。
『黒いグリフォンだ! 2匹もいるぞ!』
『収容所に飛び込んだぞ!』
『子どもが浚われた!』
『グリフォンは森に逃げ込んだ!』
黒いグリフォンは収容所を襲い、子どもの人質を捕らえていた。後を追い続けていたドラグーンも迂闊に手が出せず、さらに森の中へ逃げ込まれては木立に追跡を阻まれる。
突然、グリフォンの1匹が森の上空に舞い上がる。運よくそこには市川敬輔(eb4271)のグライダーが飛行中だった。
「姿勢を低く!」
後部座席のウィザードに命じると、敬輔はグライダーのスピードを全開。黒いグリフォンとすれ違い様、右手のヒートブレードで斬りつけた。炎の魔力を帯びた剣がグリフォンの翼を切り裂く。グリフォンは落下し、捕らえていた2人の子どもを投げ出した。
落下地点にトレントと双武が駆けつける。
「悪徳の蛇を潰す、ビザンチン騎士の意地を見せる!」
トレントのオーラパワーで威力を増した聖者の槍がグリフォンを貫く。さらに双武が太刀「三条宗近」でめった斬り。ついに黒いグリフォンも断末魔を上げて倒れ、その体は灰の如く崩れて消滅した。
●首領ギリールの最期
『首領ギリールを乗せた黒いグリフォンが、イムペット内に進入しました! 船内通路を通って操船室に向かっています!』
風信機からの急報を受け、陸奥勇人はグリフォンに乗ってイムペットに飛ぶ。得物を魔槍スラウターから聖剣「アルマス」デビルスレイヤーに持ち替えると、ドラグーンで運ばれて来たファングと共に船内通路を走り抜けた。
黒いグリフォンとギリールは操船室の扉の前にいた。
「人呼んで猛き裂風、推して参る!」
黒いグリフォンをファングに任せ、勇人はギリールと対峙する。
「‥‥この期に及んで御託はいらねぇ。これまで好き勝手してきたツケ、まとめて払って貰うぜ!」
聖剣「アルマス」でギリールに斬りつけようとした刹那、背後に殺気が。
「何っ!?」
見れば、そこに黒い狼がいた。
咄嗟に聖剣の切っ先を転じ、飛びかかって来た狼に刃を喰らわせる。激しい取っ組み合いの末に狼を倒し、勇人の体も自身の血と狼の返り血で赤く染まる。
後で知ったところによれば、狼の正体はギリールの魔法で姿を変えられた旧ルーケイ遺臣軍の捕虜だった。
「おまえは強い男だ」
思わぬ言葉を口にするギリール。
「強き者は強き者を知る。おまえは選ばれし勇者になるべく生まれた男」
その言葉には心をくすぐるような賞賛の響き。ギリールの目はじっと勇人を見据えている。その目を見ていると、ギリールの言葉全てが真実のように思えて来る。それは自分の全てをなげうってでも、従うべき真実。
「‥‥違う!」
勇人はギリールの術にはまりかけた自分に気づいた。ありったけの闘志を奮い起こし、邪悪な目の魔力を無我夢中ではねつけた。
「勇者よ、我と共に歩め」
その言葉への返事は、 聖剣「アルマス」の一撃。
「うおおおおおーっ!!」
雄叫びと共に、渾身の力でもってギリールに叩きつけた。
「‥‥!?」
ギリールは信じられない物を見る目で、自身の体を切り裂いた聖剣と、勇人の顔を見比べる。続けざま勇人はもう1撃、さらにもう1撃。
「その首、貰い受けるぜ!」
その言葉と共に最後の1撃を繰り出した。ギリールは首と胴とを半ば切断されて床に転がる。もはや微動だにせず、やがてその体は灰のように崩れて消滅した。それが、魔物となった者に訪れる最期だ。
「‥‥危ないところだったぜ」
勇人の唇から呟きが漏れた。
●戦いの終わりに
艦内に侵入した黒いグリフォンもファングに倒され、戦いは終わった。
「もっと平気にならないと、ここじゃやってけねーのかな〜‥‥」
バガンの制御胞内でぐったりして呟く賽九龍。戦闘のストレスで消耗が激しい。
しかし空戦隊には次の戦場が待っている。短い休息の後、彼らは平野部の支援に向かうのだ。
短い休息の合間に、シャリーアは自分に与えられた雷鳴の紋章に目をやり呟く。
「‥‥確かいつの間にかこれを持ち始めた頃、旗のついた槍を貰ったような‥‥。夢だったのか?」
いずれ、それを確かめる時が来よう。そう遠からぬうちに。