ルーケイ鉄の嵐〜森林部攻略軍C後方支援隊
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■ショートシナリオ
担当:マレーア1
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月07日〜07月12日
リプレイ公開日:2007年07月31日
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●オープニング
●討伐令下る
「盗賊『毒蛇団』の甚だしき増長、もはや看過ならぬ。我、ウィル国王ジーザム・トルクはかの悪逆非道なるカオスの族に裁きの鉄槌を下す。──ロッド・グロウリング!」
「はっ!」
ウィルの王にその名を呼ばれ、王の左腕たるロッド卿は畏まり敬礼。
「そなたを毒蛇団討伐戦の総司令官に任じ、討伐軍全軍の指揮権を委ねる」
「御意!」
ここにウィル国王の討伐令は下った。これは国を挙げての一大決戦。その戦場は毒蛇団の本拠地たる西ルーケイのみならず。西はロメル子爵領から東は王領バクルまでを巻き込んだ大規模な戦いとなる。
ジーザムにとりこの戦いは、大ウィルの結束を世に示す戦い。華やかな新国王就任式典の裏では分国王達との密談が進められ、全ての分国王がルーケイ平定戦への参戦を表明した。同時にこの戦いは、数々の新兵器の性能を試す実戦テストの場ともなる。
戦いの準備は着々と進み、決戦の時は刻一刻と近づきつつある。
●西部戦場の概要
【概略図】
↓ロメル子爵領
━━━━┓
森?□森┣━┳━━━━
森−‖┏┛森┃森森森−王
━━‖┛−森┃森?森−領 □:湖 ‖:川 ━:領地の境
−−‖−−−┃森森森−ル 攻略目標?:森の砦
−−‖−−−┃−−−−│ 攻略目標?:平野の砦
−−‖−−−┃−?−−ケ 攻略目標?:ロメル領の村
━━‖━━━┻━━━━イ
↑ワンド子爵領
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜大河
【解説】
王領ルーケイの西部にロメル子爵領を加えた西部戦場は毒蛇団討伐戦における主戦場となり、大量のゴーレム兵器が投入される。攻略軍はその攻略目標により、次の3軍に組織される。
《1》森林部攻略軍
毒蛇団の本拠地たる森の砦を攻略。空戦部隊、空挺ゴーレム部隊を主体とする。
《2》平野部攻略軍
毒蛇団の重要拠点たる平野の砦を攻略。新型チャリオット部隊を主体とする。
《3》ロメル領攻略軍
毒蛇団の支配下にあるロメル領の村を攻略。セレ分国の弓兵ゴーレム部隊を主体とする。
●森林部攻略軍の攻撃目標
【概略図】
森森森森森森森森森 ↑北
森■_畑畑畑_■森
森_畑◆畑◆畑_森
森_畑畑■畑畑_森 _:平地
森森_畑◆畑_森森 ■:砦
森森森___森森森 ◆:収容所
森森森森■森森森森
森森森森森森森森森
【解説】
・周囲の森、並びに砦周辺の平地には侵入者を阻むトラップが多数存在。
・砦の周りの畑には、グライダーの飛行を阻む丸太が林立。
・虜囚となった西ルーケイの領民達は収容所に収容。
・収容所の周囲には薪と藁の束(いざとなったら火を放って虜囚を焼き殺す)。
・外部に通じる抜け穴がある。
●森林部攻略作戦概要
7月9日
・深夜、攻略軍のフロートシップは王都より出陣。
・潜入工作隊の工作開始
7月10日
1.夜明け前、フロートシップは夜明け前に拠点に到達。
2.砲撃により周辺部の砦を奇襲攻撃し、破壊。
3.各種ゴーレムにより収容所制圧、虜囚達を保護。
4.各種ゴーレムにより中央部の砦を破壊。
5.残存する敵を掃討。
6.余力があれば、平野部攻略軍の支援に向かう。
7月11日
・現地に治安維持部隊を残し、主力部隊は撤収。
●森林部への投入ゴーレム戦力
・大型フロートシップ『イムペット』
大型エレメンタルキャノンを備えた大型艦。旗艦・各種ゴーレムの母艦として使用予定。
・小型フロートシップ『グラビス』
小回りが効き、高速移動可能な小型艦。各種ゴーレムの母艦として使用予定。
・小型フロートシップ『ミストリア』
小回りが効き、高速移動可能な小型艦。各種ゴーレムの母艦として使用予定。
・小型フロートシップ『エクリパス』
小回りが効き、高速移動可能な小型艦。工作部隊及びサイレントグライダー母艦として使用予定。
・小型フロートシップ『ウィンデル』
小回りが効き、高速移動可能な小型艦。医療部隊の母艦として使用予定。
・空挺ゴーレム部隊
キャペルス1体、グラシュテ2体、バガン10体で構成。
ゴーレムは超低空の高度からロープもしくは飛び降りにより降下。
・ウィングドラグーン部隊
ウィングドラグーン5体で構成。
・グライダー部隊
通常型グライダー12機で構成。副座式で、魔法の使えるウィザードや地球人も後部座席に搭乗可能。
・サイレントグライダー部隊
・サイレントグライダー4機で構成
●シャミラからの情報
これまで毒蛇団と協力関係にありながらも、今ではウィル国王の側についたテロリスト・シャミラからは、次の情報が提供されている。
《1》毒蛇団の首領ギリール・ザンには複数の影武者がいる。
《2》砦の収容所には、1つの施設につき子どもを含む約200人の虜囚が収容されている。
《3》砦の近辺には、コウモリの羽根を持つ小鬼型のカオスの魔物が出没する。
《4》未確認情報だが、砦内には強力なカオスの魔物『黒いグリフォン』が隠れているらしい。
●各部隊の役割
森林部攻略戦に参加する冒険者は、工作隊・強襲隊・後方支援隊のいずれかに参加することになる。各部隊の目的は以下の通り。
《工作隊》
・先行して攻略拠点に接近し、夜間飛行するフロートシップを拠点に誘導する目標物を用意。
・攻略拠点内での各種の工作。虜囚達の安全確保、トラップの解除、敵兵の攪乱、敵幹部の逃亡阻止など。
《強襲隊》
・ゴーレムや魔獣などの高い攻撃力を生かし、敵を殲滅する。
《後方支援隊》
・味方兵士や保護された虜囚達の治療、艦内での警戒。
●決戦迫る〜王と姫の乗艦そして‥‥
ウィエ分国王エルートに貸し出された大型フロートシップ・イムペットの艦内では、連日の如く盛大な宴が繰り広げられていた。勿論、これは敵の目を欺くための擬装工作。遊び呆けていると見せかけたその裏で、攻略戦の準備は着々と進む。
その日、マリーネ姫がエルート王を訪ねて乗艦して来た。
「10月9日の晩餐会に私も出席しますの」
その日は即ち決戦の前日。
「その日が何の日か、分かっておろうな?」
尋ねたエルートに、姫は小声で囁いた。
「もちろんですわ。こそこそと敵から逃げ回るなんて私には似合いません。だから敵のすぐ側で観戦することにしましたの」
「いや、まことに天晴れ」
エルートは思わず笑みを浮かべる。
「それと、エーロン陛下から言伝が。陛下と一緒に乗艦するお客様が増えましたの」
「誰じゃな、それは?」
再び、エルートの耳に囁く姫。
「先の遺臣軍懲罰戦で捕虜になった、中ルーケイの反逆者達ですの。陛下は反逆者達にウィルの誇る圧倒的な戦力を見せつけて、もはや彼らに勝ち目が無いことを分からせるおつもりなのですわ」
「それはそれは」
エルート、今度は策士の顔になって微笑んだ。
その後、決戦前夜の客人はさらに2人増える。
1人はストームドラグーンの操縦士たる青騎士。もう一人はトルク王家に仕えるパラの鎧騎士で、名をリーザ・メースという。
「いいか。今度の乗艦はあくまでも観戦が目的だ」
「はい、青騎士様。でも、空戦騎士団長の作戦が失敗したら‥‥」
「そういう話をする時は声をひそめろ」
2人の乗艦には、先の空戦軍議で決められた作戦が失敗した時の保険の意味もある。既に2人の乗機たる2体のドラグーンも、密かに艦内へ持ち込まれていた。
●リプレイ本文
●作戦開始
精霊歴1040年7月9日の夜。その夜もウィエ分国王エルートに貸し出された大型フロートシップ・イムペットの格納庫は、各分国の王族貴族を招いての大舞踏会で大賑わい。その舞踏会も夜中には幕引きとなる。
「お帰りはこちらで‥‥」
招かれた貴族や名士達は従者の案内で、宿所に向かう馬車に向かう。
「わし達は色々と内輪の話があるのでな」
と、舞踏会のホストであるエルート王は船の奥へ。向かった先はイムペットの司令所。そこにはそうそうたる顔ぶれの居残り組が並んでいた。フオロ分国王エーロンとマリーネ姫、マリーネ姫親衛隊の2人、空戦騎士団長シャルロットと3人の副長、青騎士に竜騎士リーザ、イムペット艦長ヘイレス、そして討伐軍総司令官のロッド・グロウリング卿。
「程なく準備は整う。暫し待たれよ」
やがて伝令がやって来る。
「準備、全て整いました」
「では、行くか」
エルート王は重要人物達を格納庫へ導く。さっきまでの豪勢な飾り付けは全て取り払われ、着飾った客達に代わってそこに居並ぶのは、武装したウィルの騎士と兵士そして冒険者達。マリーネ姫はその中に、見知ったセデュース・セディメント(ea3727)の姿を認めた。
「あら? あなたもここにいたの?」
「はい。勿論、単なる物見遊山でございます」
と、セデュースが姫にはそう答えると、総司令官ロッドが全員の前に立つ。
「これから出撃前の演説が始まるのでしょうか?」
しかしこれはセデュースの見込み違い。
「これより森林部攻略戦を開始する。各自、持ち場につけ」
ロッドの言葉はただそれだけ。集まった全員は速やかに解散し、それぞれの仕事に取りかかる。
「あれま、あっけなく終わりましたね」
「うだうだと退屈な長演説よりも、よほど名演説よ」
と、マリーネ姫。
そこへヴェガ・キュアノス(ea7463)がやって来た。エーロン王に続き、姫にも挨拶。そして姫の傍らに控える親衛隊員の一人に、ヘキサグラムタリスマンを貸し与える。これは対カオス用の魔法アイテム。
「虫除けのような物じゃ。動きが鈍うなった所を叩くが良い」
「忝ない」
イムペットには、ヴェガが派遣を依頼した教会のクレリックも乗船中。カオスの魔物に対する備えにぬかりはないつもりだった。
マリーネ姫がセデュースに求める。
「戦いが始まるまで話し相手になってくれる? 退屈するのは嫌いなの」
「御意」
すぐ横を戦装束の少女が、ぶつぶつ呟きながら通りかかる。
「アレクシアス様がここにいなくって、本当に残念だわ」
「おや、あのお方は?」
尋ねたセデュースの耳に姫は囁く。
「後で教えてあげるわ」
司令室は空戦騎士団副長エリーシャ・メロウ(eb4333)の持ち場。指令室正面には外の様子を映し出すスクリーンがある。ゴーレム制御胞にも取り入れられている魔法の技術だが、制御胞のそれよりずっとワイドだ。エリーシャの役割は後方指揮官。スクリーンの映像と風信機からの連絡を頼りに状況を判断しながら、戦場のあちこちに指示を飛ばすのだ。準備は万端、作戦に参加する各ゴーレム機器には全て、風信機を搭載済みだ。
「あれ? あなたは外で戦わないの?」
と、パラの竜騎士リーザが声をかけて来た。
「戦は生き物、ましてカオスにも等しき相手なれば、思いもつかぬ非道から作戦の失敗もあり得るでしょう。しかし状況を正しく把握し臨機応変な指揮を行えば、如何なる事態にも対応は叶う筈。我等が団長はその為の判断力と柔軟性をお持ちですし、補佐たるべく私も此処に参りました。青騎士卿リーザ卿のご勇姿を拝見する楽しみは次の機会に残しておきましょう」
くすっとリーザは笑う。
「あたしの出番が無いのに越したことはないけどね」
風信機を起動させると、聞き覚えのある声が飛び込んで来た。
『お仕事頑張ってね、エリりん♪』
「エ‥‥エりりん?」
その声は彼女にとって馴染みの声。
「あの‥‥その呼び方は‥‥」
『呼び方? やーねぇ、照れなくってもいいじゃない。相変わらず可愛いわねぇ。ホンのちょっと前まで、「ラマお姉ちゃん」っていつもあたしの後ついて来てたのに☆』
エリーシャの頬が微かに赤らんだ。
●進撃
イムペットは夜の大河上空をひたすら西に進む。眼下に見える篝火の炎を頼りとして。無事にルーケイ城の辺りまで辿り着くと、今度は進路を北へ向ける。
「航行は順調。間もなく月が沈みます」
月精霊の光が地平に沈み、世界は真に近い闇に包まれる。
エリーシャがソーラー腕時計に目を走らせると、そろそろ先行する工作隊が行動を起こすはず。
風信機に船外の見張りから連絡が入った。
「炎が見えました!」
スクリーンに目をやると、闇の中にぽつんと燃える炎が見えた。工作隊の工作が成功したのだ。あの目印さえあれば、広い森の上空を飛ぼうとも、迷うことなく目標地点に到達できる。
「船の高度を落とせ! 敵に発見されぬよう、森の木立のぎりぎり上を飛ぶのだ!」
艦長ヘイレスの重々しい声が、司令所に響き渡った。
やがて船は篝火の場所に到着。程なく篝火は消え、世界は再び深い闇の中に。船は空中に留まったまま、ひたすら夜明けを待つ。エリーシャは何度も時計を見て時間を確認。こうして待っているだけの時間がとても長く感じる。
「夜明けまであと15分です」
「砲撃と降下の準備は出来ているな?」
と、尋ねるヘイレスの声。
「はい」
空戦騎士団長から連絡が入ったのは、まさにその時。
「これよりカルガモ作戦を発動します」
「了解!」
団長の命令を受け、ヘイレスは船の各所を結ぶ風信機に怒鳴った。
「イムペット進撃開始!」
全長100mにも及ぶ巨大フロートシップは動き出した。その船体にずらりと並ぶ砲塔が、最初の攻撃目標に狙いを定めるべくゆっくりと動き始める。
●見届ける義務
「キース殿」
新米の救護兵が、イムペット格納庫前の甲板に立つキース・ファラン(eb4324)に駆け寄る。
「何か異常事態でも?」
「いいえ。ですが何故、キース殿はここに?」
「戦いの状況も少しはこの目で見ておきたかったんだ」
眼下には燃え盛る砦。最初に砲撃の標的となった南の砦だ。
「あれだけの集中砲火を受けては、中の賊どもは全滅だな」
燃え盛る砦はあっという間に後方へ遠ざかり、イムペットの砲塔群は次なる目標、北西の砦を狙う。
どおおおおん!! どおおおおん!! どおおおおん‥‥!!
落雷の如き轟音と共に、幾多もの火球が打ち出された。
北西の砦が燃え上がった。次々と炸裂する火球の中に、宙に吹き飛ばされる人影が映る。
「あまり持ち場を離れるのは‥‥」
救護兵の言葉に、燃える砦に見とれていたキースは苦笑い。
「それもそうだな」
今のキースの役職は護衛隊の小隊長。持ち場を必要以上に離れないよう、部下達に指示を下したのはキース自身だった。
「よし、そろそろ戻るか」
それでも、自分の出番が来るまでにはまだ間がある。格納庫で待機しながら、ふとキースはこんな事を口にした。
「賊軍の砦を徹底的に破壊し尽くすよう提案したのは俺なんだ。効率が良いからと提案はしたが、いくら賊とはいえ何の抵抗も許さずに殲滅させるんだ。見届ける義務があるだろう?」
これは俺の自戒だ。現実から目を背けずに、奢り高ぶることがないように。そうキースは心で思う。
「‥‥そうでしたか」
救護兵の顔は、心中の複雑な思いが表れていた。
●凶変
『北東の砦、撃破!』
『周辺の砦は3つとも炎上中!』
『空戦部隊、出撃します!』
『ゴーレム空挺部隊、グラビス格納庫より出撃!』
『収容所、全て制圧完了しました!』
『これより空戦部隊と空挺部隊とで、中央砦を挟撃!』
風信機からひっきりなしに伝えられる通信。司令所のエリーシャは大忙しだ。
「健闘を祈ります」
「戦いは我が軍の圧勝だね!」
と、竜騎士リーザはスクリーンを見ながらわくわく顔。
『毒蛇団の首領をついに捕まえたぜ!』
新たに入った報告にリーザは小躍りした。
「やったぁ!」
エリーシャも顔を綻ばせ、風信機に返信。
「お見事です」
『もっとも、こいつが本物なのか影武者なのかは、まだ分からんけどな』
「全体状況ですが、戦いは一段落しました。首領を連行したら、どうぞ体を休めてください」
『了解』
「お疲れ様でした」
通信を終えて振り向くと、後ろにヘイレス艦長が立っていた。
「ご苦労だったな」
と、エリーシャの肩に手を置く艦長。司令所に休息が訪れた。
スクリーンには救護隊の母艦『ウィンデル』の船影が見える。地上に降りた船の間近では、救護所の設営が早々と始まっている。
「さあ、今こそ勝利を祝って、かんぱ〜い! 食料庫から酒持って来よか?」
「お酒はまだ早いです」
「そう言うと思ったわ。エりりんは生真面目だから」
リーザとのお気軽な会話に心を和ませていたエリーシャだったが。
突然、中央砦を制圧した部隊から凶報が入る。
『緊急事態だ! 本物の首領は中央砦の地下室にいる!』
「何ですって!?」
『気をつけろ! ヤツはカオスの‥‥』
連絡は途中で途切れた。間髪を置かず、エリーシャは風信機に叫ぶ。
「緊急事態発生! 中央砦の地下室にカオスの魔物が!」
「あれを見て!」
スクリーンを指さしてリーザが叫ぶ。そこには凄まじい光景が映し出されていた。
半壊した中央砦から鳥のような生き物が次から次と湧き出している。
いや、それは鳥では無い。翼の生えた子鬼だ。
「なにこれ! 100匹はいるんじゃない!?」
「なんと‥‥!」
さしものヘイレスも唖然。
「全軍、カオスの魔物の掃討を‥‥!」
風信機に叫ぶエリーシャ。その目はスクリーンに釘付けだ。
だが、その後の展開は正に想像を絶していた。
『黒いグリフォンだ! 2匹もいるぞ!』
『収容所に飛び込んだぞ!』
『子どもが浚われた!』
『グリフォンは森に逃げ込んだ!』
子鬼の群が空を舞う中、黒いグリフォン2匹はドラグーンさえも翻弄する。人質を取られ、木の生い茂る森の中に逃げ込まれたら、いかなドラグーンでも不利な戦いを強いられる。
「どこ!? 黒いグリフォンはどこ!?」
必死にスクリーンに目を凝らすエリーシャ。すると森の中から何かが飛び出し、直ぐにそれは大きくスクリーンの上に広がった。それは黒いグリフォンに跨った、凶悪な面構えの男。グリフォンの嘴と前足には捕らえられた子どもの姿。だが、その姿が見えたのはほんの一瞬。その後すぐに、急を告げる格納庫からの通信が。
『こちら格納庫! 黒いグリフォンが‥‥うわああっ!!』
「様子を見てくるよ!」
指令所を飛び出すリーザ。暫くして風信機からリーザの声。
『黒いグリフォンが艦内に潜入してるよ! 今、警備兵達が戦って‥‥』
突然、途切れる通信。
「どうしたの!? 何があったの!?」
『やられたよ‥‥毒の息に‥‥目が見えない‥‥息が‥‥苦しい‥‥』
一瞬、言葉を失うエリーシャ。だが、艦長ヘイレスの怒鳴り声が、茫然自失に陥りかけていた彼女を立ち直らせた。
「艦内の王族達を守れ! そして大至急、救護隊に連絡を取れ! クレリックの力を借りねばならぬ!」
●緊急事態
イムペットの緊急事態が、エリーシャを通じて救護隊に伝えられる。
「早くイムペットへ!」
シフールのディアッカ・ディアボロス(ea5597)が仲間達を呼び集める。しかし、彼の随伴獣たる2匹のグリフォンは、子鬼どもにまとわりつかれてじたばた。いかな強力な魔獣の爪や嘴も、カオスの魔物には無力なのだ。
「僕のオーラパワーで!」
イコン・シュターライゼン(ea7891)がグリフォンに駆け寄り、その爪と嘴にオーラパワーを付与。さらに自分のヒポグリフにも。それまで無力だった魔獣達の爪が、たちまち子鬼どもを蹴散らし始めた。
「こんなインプもどき、敵じゃないよ!」
リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)が、ヴェガを自分のグライダーの後部座席に招く。
「早く!」
そして3匹の魔獣とグライダーは空に舞い上がった。
子鬼の群れの中を突っ切ってイムペットの格納庫に到着すると、そこは傷ついた兵士達がばたばた倒れる凄まじい惨状。
「早く手当てを!」
「でも、黒いグリフォンは何処に!?」
状況判断に役立ったのはディアッカのパースト魔法。黒いグリフォンが毒の息を吐き、動けなくなった兵士達を散々に蹂躙した挙げ句、奧の通路へ侵入する過去の光景をまじまじと見た。
倒れる兵士達の中に混じって、教会のクレリックがいた。ヴェガの依頼を受けて乗艦した人物だ。
「しっかりするのじゃ!」
毒で体が麻痺していたので、アンチドートの魔法をかけてやる。クレリックは話が出来るようになり、ヴェガに感謝すると口惜しそうに付け加える。
「不覚でした。何も分からずに慌てて駆けつけ、魔物にしてやられるとは‥‥」
「あっ!」
ディアッカの叫び。黒いグリフォンの人質になった子どもが投げ捨てられていた。散々引き回されて傷つき、瀕死状態だ。見かねてディアッカは、手持ちのヒーリングポーションを飲ませてやった。
●襲撃
「何があったって言うの!?」
「兎に角、早く安全な場所へ!」
護衛のセシリア・カータ(ea1643)が、マリーネ姫とその随行者達を船の奧へと先導する。彼女達は姫と共に甲板上で討伐戦を観戦していたのだが、いきなりの魔物の出現だ。子鬼どもは船の中にまで侵入し、避難するマリーネ姫の一行をしつこく追いかけて来る。
「こんな子鬼に負けるもんですか!」
身につけた銀のナイフを握り、姫が子鬼に切りつけようとする。
「戦いは私達にお任せを!」
姫を誘導するのも一苦労。
「さあ、ここまで来たらもう一安心‥‥」
言いかけて、セシリアの唇が凍り付く。
黒い狼が3匹、そこにいた。唸り声を上げ、憎しみを帯びた目で姫を睨むと、一斉に飛びかかった。
セシリアの剣が閃く。親衛隊2人も狼どもに斬り込む。
魔法の剣ではなかったが、セシリアの剣は容易く狼の体を切り裂いた。狼の2匹は早々に倒され、残るは1匹。傷つきながらも執拗に姫を狙っていたが、何故か混乱したように暴れ出し、そして動かなくなる。
「これはどうしたことだ?」
首を傾げる親衛隊員の後ろから、セデュースの声。
「この私めが、ちょいと魔法で懲らしめてやりました」
セデュースはイリュージョンの魔法を使い、狼は幻影の虜になったのだ。幻影の中で狼はムーンアローの矢を数限りなく体に受け、自分は死んだものと思いこんでいた。
「マリーネ!」
姫を呼ぶ声。見ればエーロン王が駆けつけていた。旧ルーケイ家の若き当主マーレンと、彼に仕える遺臣軍の捕虜達も付き従っている。討伐戦を観戦させるべく、エーロン王がわざわざ乗船させたのだ。
姫の無事を確かめると、エーロン王は姫を護った者達を労う。
「よくぞ、姫を護ってくれた」
「この狼は?」
その問いに答えたのはマーレン。彼は倒れた狼の間近に屈み込み、感情を失った顔で答える。
「魔物によって姿を変えられた私の兵士です。逃げる途中、私達の前に黒いグリフォンと首領ギリール・ザンが現れました。首領の正体は魔物だったんです。兵士のうち幾人かがその心を奪われ、フオロ王家への憎しみを呷るその言葉の虜になりました。そしてギリールの魔法で狼に姿を変えられ、姫を襲うように仕向けられたんです」
●救援活動
激しい戦いにもいつかは終わりが来る。黒いグリフォンと首領ギリールの猛々しさは、イムペットを墜落させない程だったが、後から艦内へと駆けつけた冒険者達によって倒された。
互いを傷つけ合う戦いは終わり、エリーシャやリュドミラは早々に次なる戦場・平野の砦攻略戦の支援に転進したが、傷ついた者達を癒す戦いはまだまだ終わりそうにない。
「あ〜もぅ! 魔物の奴ら、余計な仕事ばっかり増やしてくれて! ‥‥なんて言ってる場合でもないか。前の合戦ではおいらも救護班の人に助けられたし、それと同じようにたくさん助けられるよう頑張るぞー!」
言葉で自分を励ましながら、レオン・バーナード(ea8029)は傷ついた虜囚達の手当てに励む。黒いグリフォンが収容所内に飛び込んで暴れてくれたものだから、怪我人はさらに増えていた。
「痛ぇよぉ! 痛ぇよぉ!」
泣き叫ぶ者、ぐったりして泣く気力も失った者、怪我のレベルも一人一人違うし、中には栄養失調の者だっている。そのランク分けを医者のゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)がしっかりやってくれたので、救援活動は大いにはかどった。
「ヴェガさん、まだイムペットから戻って来れませんか?」
重傷者の手当てはゾーラクの手に余る。癒すにはヴェガの神聖魔法の力を借りねば。
「暫くイムペットから戻って来られない。向こうも怪我人だらけだ」
と、風信機からの連絡を受けて、護衛隊小隊長のキースが答えた。
「ならば重傷者をイムペットに移送出来ませんか? ここで出来ることは限られています」
「分かった」
キースは救護所の風信機に伝える。
「ディアッカとグリフォンを寄越してくれ。怪我人をイムペットに移送する」
時たま、救護所の中でいきなり騒ぎが起きたりする。
「毒蛇団の野郎がここにいるぞ!」
怪我人に紛れて隠れていた毒蛇団の盗賊が見付かると、さっきまで死にそうに横たわっていた虜囚達が、一斉に襲いかかる。よほどの憎しみを心に抱えているのだ。そんな時、割って入るのはレオン。
「はい、はい! 怪我人はゆっくり休んで休んで!」
「こいつをぶっ殺さなきゃ死んでも死にきれねぇ!」
「いいから、ちゃんと休むんだよ。こいつを殴り倒すのは怪我が治ってからでも出来るんだからさ」
と、怪我人達を落ち着かせると、盗賊を救護所の外へ連れ出す。
「治療はしてやるけど、みんなの見えない所に居てもらうよ」
●吟遊詩人の使命
時は過ぎ、今は夕暮れ時。イムペットの甲板に一人立つのはバードのセデュース。
戦う力に秀でている訳でもないのに、彼がこの戦いに加わったのは、ひとえに今回の戦いを民に広く知らしめるため。
この戦いで、彼は多くのことをその目で見、その耳で聞いた。その全てを歌に歌ったならば、丸一日かけても終わることが無いだろう。
自分は民を代表してここにいるのだ。戦いを見ているのは、単にこの場にいる王侯貴族だけではない。
無論、此度の戦いは、王族のお抱えバードによって脚色され、その勝利と王族の栄光を称える歌が広く伝えられることになろう。しかしセデュースがこれから歌い上げるのは、自分自身の目で確かめて綴った物語なのだ。
その自覚を胸に、セデュースはクレセントリュートを爪弾く。戦いの興奮がまだ醒めやらぬせいか、詩の言葉もメロディーも尽きぬ泉のごとく、心の内にこんこんと湧きあがる。すると、背後から彼を呼ぶ声。
「マリーネ姫が及びだ。君のリュートが聞きたいそうだ」
彼を捜しに来た親衛隊員がそこにいた。
「御意」
一礼し、セデュースは姫の元に向かう。たった今、生まれたばかりの歌を姫に聴かせるために。