ルーケイ鉄の嵐〜平野部攻略軍A降下部隊
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■ショートシナリオ
担当:マレーア1
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月09日〜07月14日
リプレイ公開日:2007年08月01日
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●オープニング
●討伐令下る
「盗賊『毒蛇団』の甚だしき増長、もはや看過ならぬ。我、ウィル国王ジーザム・トルクはかの悪逆非道なるカオスの族に裁きの鉄槌を下す。──ロッド・グロウリング!」
「はっ!」
ウィルの王にその名を呼ばれ、王の左腕たるロッド卿は畏まり敬礼。
「そなたを毒蛇団討伐戦の総司令官に任じ、討伐軍全軍の指揮権を委ねる」
「御意!」
ここにウィル国王の討伐令は下った。これは国を挙げての一大決戦。その戦場は毒蛇団の本拠地たる西ルーケイのみならず。西はロメル子爵領から東は王領バクルまでを巻き込んだ大規模な戦いとなる。
ジーザムにとりこの戦いは、大ウィルの結束を世に示す戦い。華やかな新国王就任式典の裏では分国王達との密談が進められ、全ての分国王がルーケイ平定戦への参戦を表明した。同時にこの戦いは、数々の新兵器の性能を試す実戦テストの場ともなる。
戦いの準備は着々と進み、決戦の時は刻一刻と近づきつつある。
●西部戦場の概要
【概略図】
↓ロメル子爵領
━━━━┓
森?□森┣━┳━━━━
森−‖┏┛森┃森森森−王
━━‖┛−森┃森?森−領 □:湖 ‖:川 ━:領地の境
−−‖−−−┃森森森−ル 攻略目標?:森の砦
−−‖−−−┃−−−−│ 攻略目標?:平野の砦
−−‖−−−┃−?−−ケ 攻略目標?:ロメル領の村
━━‖━━━┻━━━━イ
↑ワンド子爵領
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜大河
【解説】
王領ルーケイの西部にロメル子爵領を加えた西部戦場は毒蛇団討伐戦における主戦場となり、大量のゴーレム兵器が投入される。攻略軍はその攻略目標により、次の3軍に組織される。
《1》森林部攻略軍
毒蛇団の本拠地たる森の砦を攻略。空戦部隊、空挺ゴーレム部隊を主体とする。
《2》平野部攻略軍
毒蛇団の重要拠点たる平野の砦を攻略。新型チャリオット部隊を主体とする。
《3》ロメル領攻略軍
毒蛇団の支配下にあるロメル領の村を攻略。セレ分国の弓兵ゴーレム部隊を主体とする。
●平野部攻略軍の攻撃目標
【概略図】
○○___○○北_門○○___○○ ↑北
○┏━━━━━┛_┗━━━━━┓○
_┃□□□□□□_□□□□□□┃_
_┃□┏━━━┛_┗━━━┓□┃_
_┃□┃_____■■■_┃□┃_
○┃□┃_■____収容所┃□┃○
○┃□┃_物_■■■___┃□┃○
○┃□┃_見_■砦■___┃□┃○
○┃□┃_櫓_■■■___┃□┃○
○┃□┃_________┃□┃○
○┃□┃■■_______┃□┃○ _:平地
_┃□┃馬小屋______┃□┃_ ━:防護柵
_┃□┗━━━┓_┏━━━┛□┃_ □:壕
_┃□□□□□□_□□□□□□┃_ ○:落とし穴
○┗━━━━━┓_┏━━━━━┛○
○○___○○南_門○○___○○
【解説】
・砦の本体は2重の柵と壕で囲まれ、周囲には落とし穴が存在。
・門は北側と南側の2ヶ所。
・人質達は北側の収容所に収容されている。
●平野部攻略作戦概要
7月9日
・深夜、攻略軍は王都より出陣。
7月10日
1.降下部隊のフロートシップは夜明け前に拠点上空に到達。夜明けと同時に降下を開始し、人質の安全を確保する。
2.ゴーレムシップ搭載の上陸部隊は夜明けと同時に上陸開始。平野を走破して攻略拠点に到達し、攻撃開始。
3.敵の掃討後、人質をフロートシップ内に保護。
4.現地に治安維持部隊を残し、部隊の主力は撤収。
●平野部への投入ゴーレム戦力
・中型フロートシップ『レプラカーン』
機動性には劣るが搭載量に優れた中型艦。降下部隊の母艦として使用予定。
・小型フロートシップ『コローネ』
小回りが効き、高速移動可能な小型艦。降下部隊の母艦として使用予定。
・小型ゴーレムシップ『フィディエル』&『ルサルカ』
水上での高速運行が可能で、高い搭載量を持つ小型艦。上陸部隊の母艦として使用予定。
・新型チャリオット
基本性能は搭載重量を除き通常型チャリオット相当。積載重量2.3t。
専用エメンタルキャノンか有蓋装甲を搭載できる。
《チャリオット搭載用エレメンタルキャノン》
威力22(ゴーレム斧槍並み) 射程200m(中型並み)
重量1.7t 砲塔サイズ2m程 火球サイズ直径8m
軽量化され射程が伸びているが、その分効果範囲と命中率が犠牲になっている。
実戦では、城塞攻撃以外は命中率を数でカバーする必要有り。
《チャリオット搭載用有蓋装甲》
装甲は強度確保のために青銅の鋳造。重量1.4t。
正面装甲は傾斜が付けてあり、ゴーレム弓の直撃に耐える。
(鉄はウィルの技術では鍛造のために強度にむらが出来、適さない)
トップヘビーに為らないよう、余計な重量を床面に与えた有蓋装甲をチャリオット本体に固定。
操縦席部分の床がはまる形に空いている。
●シャミラからの情報
これまで毒蛇団と協力関係にありながらも、今ではウィル国王の側についたテロリスト・シャミラからは、次の情報が提供されている。
《1》毒蛇団の首領ギリール・ザンには複数の影武者がいる。
《2》平野の砦は重要な人質の収容施設としても使われ、約20人の人質がいる。
《3》砦の近辺には、コウモリの羽根を持つ小鬼型のカオスの魔物が出没する。
《4》砦の周辺には、水系の魔法を使うネズミ型のカオスの魔物が出没する。
●各部隊の役割
平野部攻略戦に参加する冒険者は、降下部隊・上陸部隊のいずれかに参加することになる。各部隊の目的は以下の通り。
《降下部隊》
フロートシップにより空から拠点に降下。敵への攻撃と同時に人質の安全を確保し、上陸部隊の到着まで時間を稼ぐ。
《上陸部隊》
ゴーレムシップにより大河の河岸から上陸。敵の殲滅に主眼を置く。
●実験
トルク領のゴーレム試験場では、新型フロートチャリオットを使っての実験が密かに繰り返されていた。それは河川からの上陸と、フロートシップからの降下である。
地の精霊力を利用し、重力を反発力に転換して宙に浮くチャリオットだ。その気になれば地上から30mまで浮遊可能だ。もっとも地上からそれほど離れてしまえば、移動の為の推進力は得られない。ひたすら空中に留まるのみだ。
しかしゴーレム戦における上陸作戦や降下作戦を考えた場合、このチャリオットの浮遊力は大きな利点となる。水深20m程度の場所ならば、水底の地面からの反発力を利用して水面を進むことも出来る。水深が深い場所なら微速前進になるが、水深が浅くなればスピードは早まる。後はそのまま陸に乗り上げて走行すればいい。
上空からの降下も同様で、地表より30mの高度になれば地表からの精霊力によって降下速度を落下速度よりも緩やかに出来る。落下傘降下などよりもはるかに安全に地表へ到達できるわけだ。もっとも降下速度があまりにも緩やかだと、敵の飛び道具の標的になりかねない。そこは程々の速度が必要だ。
新型チャリオットにストーンゴーレム・バガンを搭載しての降下実験も行われたが、全ての実験において結果は上々で、総司令官ロッドも大いに満足。フロートシップの夜間航行に必要な、暗視魔法を持つウィザードもウィルの魔法兵団から確保出来た。後は作戦決行あるのみだ。
●リプレイ本文
●降下テスト
輝く二つの優勝メダル。本来受け付けぬ飛び入りの話に耳を傾けるのは全て彼の実績。
「今から降下訓練を施している時間などない。どうしてもというなら、これから適性テストを行う」
マサトシウス・タルテキオス(eb4712)は、訓練指揮官の存外な反応に戸惑うも。
「どんなテストだ?」
と身を乗り出す。およそチャリオットについて大抵のことは経験してきた筈だ。
「実戦と同じく、地上30m上空を浮遊するフロートシップから、チャリオットで降下して貰おう」
もちろんマサトシウスには初めての経験。減速のタイミングを誤れば地面に激突して命を失いかねない。彼が無名の者ならば、冗談でもそんなことは言いはしない。こんなテストは良くも悪くもGCRの活躍があっての話だ。訓練指揮官にとってチャリオットの喪失は避けたいところ。少なくとも自分の実力を見誤る程の未熟者ではないと言う信用がある。だから敢えてこう言った。
「一発で成功させたなら採用するが、命が惜しければやめておけ」
無論、彼の答えは決まっていた。
「降下用意!」
チャリオットは難なく起動した。しかし、高度30mを越えると、チャリオットは地上からの地の精霊力を利用できず、走行することは出来ない。ゴーレムや兵員などの代わりに、同等の重さとなるよう重りを山と積む。
「大丈夫か?」
「見ていてくれ」
マサトシウスは自信にあふれて言い切った。
「降下!」
兵士達の手で船の格納庫から船外の空中に押し出される。落下が始まるや、マサトシウスは操縦装置に手を置いて念じた。
「浮かべ!」
落下のスピードが増す。吹き上げる風にチャリオットは揺れる。マサトシウスの手に汗が滲む。心臓の音が風の音よりもはっきりと聞こえる。
「(恐れるな! わしには既に力が備わっている。絶対に出来る!)」
落下の恐怖に囚われることなく、ひたすら念じる。
「よし!」
やがてチャリオットの落下が減速するのが分かった。そのままマサトシウスはほどほどの落下速度で機体を地上へ。
「今だ!」
目測20mを切った瞬間。全力で地表との反発力を働かせた。チャリオットは地表近くでバネのようにホップする。そして着地。
「ふわぁ〜」
思わずため息を吐く。着地のショックは結構大きかったが、チャリオットは損傷することなく地上に降り立った。チャリオットに置いた重りは、固定されていなかったにも関わらず、一つも放り出されていない。
「お見事!」
と、褒める指揮官。テストは成功し、マサトシウスはチャリオットの操縦士の役目を獲得したのである。
●献策
勇敢で、それで居て思慮深い。
深謀も練れてきたアリア・アル・アールヴ(eb4304)は司令官に確認を取る。
「‥‥カオスや、つけ込もうとする他国があるならば‥‥」
戦(いくさ)とは、戦闘で勝つだけでは勝利者に為れぬ。にこやかに裏切ったり恩を売るのが政(まつりごと)なれば、冷厳な事実である。
「何をやろうと揚げ足をとりウイルこそ邪悪、次は何処を攻める気だ! と、このあいだのデグレモを丸め込んだように噂を利用するでしょう」
グロウリング伯は、弟子を観る師匠の眼差しでアリアを眺めた。
「それで。具体的にはどうする?」
「はい。あらかじめ酒場や賑わう街角にサクラを否定する密偵などを配しておけば安心できるのでは?」
「合格点をやろう。それについては既に俺も考えている。密偵も街のあちこちに送り込んでいるが、まだまだ人手が足りない。貴殿の協力は望むところだ。話の分かる人間がいると大いに助かる」
伯は静かに杯を勧めた。
●降下
やがて濃紺の空が七色に輝く頃。降下は始まった。無意識に、服の袖を上げ下げするマサトシウス。祈りを捧ぐアリアン・アセト(ea4919)。念入りに固定されたバガンに乗り込む白金銀(eb8388)
「チャリオットに斯様な使い方があったとは‥‥」
ヘビーシールドを持ち乗り組むアルフォンス・ニカイドウ(eb0746)は、初陣のような緊張と高揚を覚え身は火照る。熱病のような酩酊のような面映ゆい感覚だ。と、同時に醒めた頭がある種の感傷を抱く。
「私たちが制空権を確保します」
完全武装のグライダーに越野春陽(eb4578)。落下する物体を狙うのは難しいとは言え、着地から起動に至る無防備の瞬間がある。それをカバーすべく発進する。
グリフォンを駆るのはコロス・ロフキシモ(ea9515)。
「最後に確認するが、より多くを助けるためなら少数を見捨てる。人質が効かぬとあれば、虐殺するより放って逃げるのが分別と言うものだ」
彼の使命は『より多くの人質の安全を確保する』ことだ。いち早く収容所を押さえ、ゴーレム到着まで人質を護り、彼らと賊徒とを遮断することにある。そのために時には無辜の血が流されるのも已む終えまい。
「コロスさん‥‥」
アリアンが苦い顔をする。
「なに。賊に人質を殺させるくらいなら、俺の手で一人や二人くらい半死半生にする代わりに確実に賊を誅戮する。アリアン殿のような腕利きのクレリックの戮力あらばこそ。こういう無茶な策も取れる」
当惑するアリアンに
「圧倒的な戦力投入です。あなたの魔法は人質のために温存して下さい」
仮令戦(いくさ)で命を落とすとも、それは武人の本懐。限りある奇跡の業は人質の癒しのために。と春陽は言った。
コロスが収容所に向かいグリフォンを飛ばす。春陽が発進しそれを追い越す。兵士らの手で、甲板のチャリオットが次々に押し出される。
(出来るか? 春陽!)
操縦を相棒に任せ、印を結ぶ。グライダーからのファイヤーボールが、物見櫓を吹き飛ばす。それが戦いの狼煙となった。
唸るエレメンタルキャノン。吹っ飛ぶ防壁。春陽も負けずと空から敵陣にファイヤーボールを放つ。借り受けたライフ・エアバッグ故か大胆に身を乗り出して魔法を使う。
その支援下で次々にチャリオットは着陸。直ぐに動き出す装甲チャリオット。特徴ある之の字の動きはマサトシウスのチャリオットだ。しかし、動かぬ物が幾つか。失敗か? 否、薄い装甲偽装のカバーを跳ね上げて、躍り出るバガンにグラシュテ。降下部隊は無事着陸。戦闘に突入した。銀の乗るバガンが振りかざす光に輝く鉄槌は、魔物に備えて銀を塗布しているようだ。彼だけではない。皆、美々しい白銀の武器を手にゴーレムは進む。
「カオスの魔物がいます! あちこちに!」
アリアンは風信器に向かってしゃべる。魔法が成就した瞬間。肌を無数の蟲が這いずり回るような感覚に襲われた。砦の至る所にカオスの魔物が居た。
●封鎖
春陽の誘導で、降下部隊の一部が収容所に急行。出入口に装甲チャリオットを据えた。中には希望通り魔法兵団に属する若者が二人。未熟者で大した魔法は使えぬが、火を消すくらいはやってのける。しかし、突入部隊が成功したのか一向に火の手は上がらない。
「‥‥なんか拍子抜けですね」
「魔法使い殿。まだまだ何があるかわかりません。待機願います」
年若い魔法使いの退屈に、春陽は苦言を呈した。そうこうする内に、収容所に向かって賊が殺到。しかしその頃には銀とアリアのゴーレムが収容所に達していた。
「まあ、これも経験です。観戦するのも学びと思ってご覧下さい」
春陽は現場の指揮を執る。随伴する弓兵が、スリットから敵に狙いを定めた。
銀はゴーレムの大盾を地面に刺し出入口への矢玉を阻んだ後、剣を抜いて前に出た。その間、アリアが収容所付近の建物を壊し、収容所への地上からの移動を阻止し、バリケードを積み上げた。
「有るとすれば地下から来る敵でしょうか?」
「それはコロス殿とアルフォンス殿にお任せしましょう」
装甲チャリオットがトーチカとして出入口を防ぎ、ゴーレム二体が守りに徹する。これはもう、生身の身体では突破は不可能に近い。
こうして彼らは収容所付近の盗賊を阻み続けた。この場を固めたため、華々しい勲を立てることが出来なかった事が、真に真に彼らの誉れと言えるであろう。
●人質解放
諸君。考えてもみたまえ。グリフォンに乗った鋼の化け物。それが猛スピードで吶喊してくる。偶々収容所に居た盗賊こそ不幸というもの。ラージハンマー「豪腕」+1に脳漿をまき散らして即死する者は幸せだった。グリフォンの爪に引き裂かれ、生きながら内蔵をついばまれる賊の断末魔を。
「く、来るなぁ!」
咄嗟に側にいた子供を人質に身を庇う盗賊。コロスは低い声でこう言った。
「坊主‥‥。おぬし一人の命で、捕らわれた者達は皆助かる」
子供も仰天したが、盗賊はもっと動転。
「わわわわ。く、くるくるくる‥‥」
呂律が回らない。子供の喉に突きつけた刃が急所からぶれる。その刹那。
「ふうぉぉぉぉぉぉ!」
カウボーイの投げ縄の如く、くるりと回したラージハンマー「豪腕」+1が、横殴りに賊の首を打ち飛ばした。
「これが本当の打ち首だ。‥‥馬鹿め。盾にするなら俺みたいな大男を使うことだ。はみ出しが多すぎるぞ」
無法天に通ずと言うところか? 子供はあまりのことに気を失いおしっこを漏らしていたが無傷であった。
コロスはアンデットになられても困らぬよう、首を無くした賊の手足の関節という関節を身動き出来ぬようにぐちゃぐちゃに砕きながら呼ばわった。
「聞け! 賊徒ども! 次からは、人質を盾にする者は楽に死なせん。ジーザム陛下よりこの度の報償としてこの俺が貰い受ける。焼き鏝で血止めをしながら、酒のツマミに三日三晩、生かしたままで一寸刻みに肉を削いで喰らってくれるわ! 人質なぞ取っても無駄だ! おぬしらに逃げ道などない! 大人しく降伏せよ!」
誰有ろう、彼が言うから凄味があった。縛り首のほうが遙かに楽に死ねる。これが収容所に居た賊への抑止力となった。
「‥‥うわぁ〜」
後から追いついたアルフォンスは、頭では理解しつつも、その凄惨な事態に目を覆う。
「残敵を駆逐する。人質の身柄は頼んだぞ」
逃げ惑う遺された賊。この日、収容所にあった賊の中で、武器を捨てて縛に着く者だけが殺戮を免れた。そういう修羅場を横目に、人質を解放して行くのがアルフォンスの仕事となった。
堅固な収容所は、同時に堅固な砦となる。
「暫し窮屈な思いをさせるがご了承されたく」
アルフォンスは丁寧な言葉で、虜となっていた人たちを1箇所に集め守りを固めた。
●カオスの魔物
解放の喜びに沸く人々。ゴーレムとチャリオットが守りを固め、毒蛇団は駆逐されつつある。老いも若きも男も女も、皆生き延びた実感を喜び分かち合う。
「‥‥うーん」
何やら憂いを帯びたアリアンの顔。
「どうした?」
アルフォンスが声を掛けると
「さっきから、カオスの気配が酷いのです」
「なんだって?」
銀は聞き返し、反射的に身構えた。すると、ものの10も数えぬ内に、急に霧が立ち籠め始めた。だんだんと濃く為って行く。
「一箇所に固まるんだ! ゴーレムは回りを!」
アルフォンスは急ぎ守りの陣を敷く。視界の悪い霧の中では、徒(かち)のほうが融通が利く。その判断は正しかった。まもなく延ばした腕の先も見えぬほどの霧。
「‥‥これは‥‥」
コロスは身を低くし、身構える。
「くっ!」
小さな何物かが鼻の辺りを囓った。幸いフェイスガード「正騎士」+1のため小さな牙が滑る。ぶんと見当で薙ぎ払うが、手応えはない。
「そこです!」
アリアンが人々の固まっている当たりにホーリーを放つ。ホーリーは正しき人には害をなさぬ魔法。それ故、遠慮なく味方や護るべきか弱き人々も巻き込んで使える。
「ネズミのような魔物が多数います」
ホーリーの聖なる光を浴びせられて、魔物の大軍の絶叫が滅びの笛のようにおぞましく響いた。
「ここかぁ!」
銀の銀メッキされたゴーレムハンマーに手応え有り。
「化け物ども! この聖剣の力で消滅せよ!!」
コロスの剣の嵐がさらなる魔物の叫びを呼び、次の瞬間沈黙させる。
「健気なり。だが無駄だ‥‥おぬしらの貧弱な牙ではこの俺に傷一つすらつける事は出来ん!」
コロスを鎧う甲冑は、魔物の牙を寄せ付けない。
オーラの力を蓄えた、アルフォンスの刺突が煌めく度に霧は破れ。アリアンのホーリーが迸るたびに霧は薄れた。
そして、物凄い音が響き渡った。上陸部隊のいる方向だ。霧は一気に消滅する。こうして遂に視界が確保され、人々を魔物から護っていたアリアや春陽らも攻撃に加わった。加速度的に降されて行く魔物達。
それから小一時間。
「もう魔物は居ません」
アリアンは高揚する味方に向かって宣言した。
●戦い済んで
今回使われたチャリオットの新戦術。フロートシップやゴーレムシップの機動力を陸戦戦力に加える陸海空のコンビネーション戦術。即ち、チャリオットを使った空挺・揚陸の有効性が実戦証明された。また、騎士の戦いに用いるには異論も有るにせよ。エレメンタルキャノンを積んだ自走砲の有用性も認められた。しかし同時に装甲チャリオットの想定外の弱点も明らかになったのだ。
上陸隊の到着で戦況は冒険者の圧倒的有利になり、毒蛇団を追い伏せ追い散らして完膚無きまでに粉砕。討伐戦はウィルの威名を轟かせて収束に至る。
さて、戦闘に勝利した後にそれを確定せねばならぬ。
「騎士学校の教範として記すべき働きだ。近く、他国の公使を交え、カオス征伐顕彰の宴など催したい」
アリアが冒険者ではない騎士達を持ち上げる。舌は金の要らぬ恩賞。実際にカオス征伐の宴も開かれるだろう。他国の干渉を掣す為だ。兵に対しては、銀がグロウリング伯の名で賜り酒を振る舞う。勝利の美酒は美味い。
その一方で軍事的な勝利の確定。アルフォンスが一隊を組織して砦内や馬小屋等を確認して回る。敵はカオスの魔物と結託するような狡猾な賊。まだどこかに潜んでいるやも知れないのだ。
「人質が押し込められていた所もだ。最早無用となった場所こそ、盲点となる」
そして小声でこう付け加えた。
「探した後、立ち去る振りをして見張ってくれ」
一度探した場所こそ絶好の隠れ家。頭の良いものならば考え着く筈だ。さらに銀が
「蜘蛛の巣が張っている先も探して下さい」
奥に人が居ても蜘蛛は巣を張る。知恵のある者ならば利用するだろう。そしてそういう者こそ、絶対に逃してはなら無いのである。
そして、これから真の戦いを開始する教会関係者達。仮令、身体に傷は無くとも心の傷を負う人質達。彼らの心の澱に隠れた小さな棘を抜き取らねばならないのだ。
そのためには
「柔らかいベット‥‥せめて清潔な藁と布を用意願います。温かなスープを多めに。ワインは湯冷ましで割って蜜を加えて下さい。‥‥いえ! 肉の固まりなどは後の話です。急にそんなご馳走を食べたら身体を壊してしまいますよ‥‥」
風信器に向かって差配するアリアンの姿。その慌ただしさは
「アリアン殿。賊の遺骸は‥‥」
アンデットと為らぬための措置を尋ねるアリアの声が、耳に入らぬほどであった。