ルーケイ鉄の嵐〜平野部攻略軍B上陸部隊

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月09日〜07月14日

リプレイ公開日:2007年07月30日

●オープニング

●討伐令下る
「盗賊『毒蛇団』の甚だしき増長、もはや看過ならぬ。我、ウィル国王ジーザム・トルクはかの悪逆非道なるカオスの族に裁きの鉄槌を下す。──ロッド・グロウリング!」
「はっ!」
 ウィルの王にその名を呼ばれ、王の左腕たるロッド卿は畏まり敬礼。
「そなたを毒蛇団討伐戦の総司令官に任じ、討伐軍全軍の指揮権を委ねる」
「御意!」
 ここにウィル国王の討伐令は下った。これは国を挙げての一大決戦。その戦場は毒蛇団の本拠地たる西ルーケイのみならず。西はロメル子爵領から東は王領バクルまでを巻き込んだ大規模な戦いとなる。
 ジーザムにとりこの戦いは、大ウィルの結束を世に示す戦い。華やかな新国王就任式典の裏では分国王達との密談が進められ、全ての分国王がルーケイ平定戦への参戦を表明した。同時にこの戦いは、数々の新兵器の性能を試す実戦テストの場ともなる。
 戦いの準備は着々と進み、決戦の時は刻一刻と近づきつつある。

●西部戦場の概要
【概略図】
   ↓ロメル子爵領
  ━━━━┓
  森?□森┣━┳━━━━
  森−‖┏┛森┃森森森−王
  ━━‖┛−森┃森?森−領  □:湖  ‖:川  ━:領地の境
  −−‖−−−┃森森森−ル  攻略目標?:森の砦
  −−‖−−−┃−−−−│  攻略目標?:平野の砦
  −−‖−−−┃−?−−ケ  攻略目標?:ロメル領の村
  ━━‖━━━┻━━━━イ
  ↑ワンド子爵領
  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜大河

【解説】
 王領ルーケイの西部にロメル子爵領を加えた西部戦場は毒蛇団討伐戦における主戦場となり、大量のゴーレム兵器が投入される。攻略軍はその攻略目標により、次の3軍に組織される。
 《1》森林部攻略軍
  毒蛇団の本拠地たる森の砦を攻略。空戦部隊、空挺ゴーレム部隊を主体とする。
 《2》平野部攻略軍
  毒蛇団の重要拠点たる平野の砦を攻略。新型チャリオット部隊を主体とする。
 《3》ロメル領攻略軍
  毒蛇団の支配下にあるロメル領の村を攻略。セレ分国の弓兵ゴーレム部隊を主体とする。

●平野部攻略軍の攻撃目標
【概略図】

  ○○___○○北_門○○___○○ ↑北
  ○┏━━━━━┛_┗━━━━━┓○
  _┃□□□□□□_□□□□□□┃_
  _┃□┏━━━┛_┗━━━┓□┃_
  _┃□┃_____■■■_┃□┃_
  ○┃□┃_■____収容所┃□┃○
  ○┃□┃_物_■■■___┃□┃○
  ○┃□┃_見_■砦■___┃□┃○
  ○┃□┃_櫓_■■■___┃□┃○
  ○┃□┃_________┃□┃○
  ○┃□┃■■_______┃□┃○   _:平地
  _┃□┃馬小屋______┃□┃_   ━:防護柵
  _┃□┗━━━┓_┏━━━┛□┃_   □:壕
  _┃□□□□□□_□□□□□□┃_   ○:落とし穴
  ○┗━━━━━┓_┏━━━━━┛○
  ○○___○○南_門○○___○○

【解説】
・砦の本体は2重の柵と壕で囲まれ、周囲には落とし穴が存在。
・門は北側と南側の2ヶ所。
・人質達は北側の収容所に収容されている。

●平野部攻略作戦概要
 7月9日
  ・深夜、攻略軍は王都より出陣。
 7月10日
  1.降下部隊のフロートシップは夜明け前に拠点上空に到達。夜明けと同時に降下を開始し、人質の安全を確保する。
  2.ゴーレムシップ搭載の上陸部隊は夜明けと同時に上陸開始。平野を走破して攻略拠点に到達し、攻撃開始。
  3.敵の掃討後、人質をフロートシップ内に保護。
  4.現地に治安維持部隊を残し、部隊の主力は撤収。

●平野部への投入ゴーレム戦力
・中型フロートシップ『レプラカーン』
  機動性には劣るが搭載量に優れた中型艦。降下部隊の母艦として使用予定。
・小型フロートシップ『コローネ』
  小回りが効き、高速移動可能な小型艦。降下部隊の母艦として使用予定。
・小型ゴーレムシップ『フィディエル』&『ルサルカ』
  水上での高速運行が可能で、高い搭載量を持つ小型艦。上陸部隊の母艦として使用予定。
・新型チャリオット
 基本性能は搭載重量を除き通常型チャリオット相当。積載重量2.3t。
 専用エメンタルキャノンか有蓋装甲を搭載できる。
《チャリオット搭載用エレメンタルキャノン》
  威力22(ゴーレム斧槍並み) 射程200m(中型並み)
  重量1.7t 砲塔サイズ2m程 火球サイズ直径8m
 軽量化され射程が伸びているが、その分効果範囲と命中率が犠牲になっている。
 実戦では、城塞攻撃以外は命中率を数でカバーする必要有り。
《チャリオット搭載用有蓋装甲》
 装甲は強度確保のために青銅の鋳造。重量1.4t。
 正面装甲は傾斜が付けてあり、ゴーレム弓の直撃に耐える。
(鉄はウィルの技術では鍛造のために強度にむらが出来、適さない)
 トップヘビーに為らないよう、余計な重量を床面に与えた有蓋装甲をチャリオット本体に固定。
 操縦席部分の床がはまる形に空いている。

●シャミラからの情報
 これまで毒蛇団と協力関係にありながらも、今ではウィル国王の側についたテロリスト・シャミラからは、次の情報が提供されている。
 《1》毒蛇団の首領ギリール・ザンには複数の影武者がいる。
 《2》平野の砦は重要な人質の収容施設としても使われ、約20人の人質がいる。
 《3》砦の近辺には、コウモリの羽根を持つ小鬼型のカオスの魔物が出没する。
 《4》砦の周辺には、水系の魔法を使うネズミ型のカオスの魔物が出没する。

●各部隊の役割
 平野部攻略戦に参加する冒険者は、降下部隊・上陸部隊のいずれかに参加することになる。各部隊の目的は以下の通り。
 《降下部隊》
  フロートシップにより空から拠点に降下。敵への攻撃と同時に人質の安全を確保し、上陸部隊の到着まで時間を稼ぐ。
 《上陸部隊》
  ゴーレムシップにより大河の河岸から上陸。敵の殲滅に主眼を置く。

●実験
 トルク領のゴーレム試験場では、新型フロートチャリオットを使っての実験が密かに繰り返されていた。それは河川からの上陸と、フロートシップからの降下である。
 地の精霊力を利用し、重力を反発力に転換して宙に浮くチャリオットだ。その気になれば地上から30mまで浮遊可能だ。もっとも地上からそれほど離れてしまえば、移動の為の推進力は得られない。ひたすら空中に留まるのみだ。
 しかしゴーレム戦における上陸作戦や降下作戦を考えた場合、このチャリオットの浮遊力は大きな利点となる。水深20m程度の場所ならば、水底の地面からの反発力を利用して水面を進むことも出来る。水深が深い場所なら微速前進になるが、水深が浅くなればスピードは早まる。後はそのまま陸に乗り上げて走行すればいい。
 上空からの降下も同様で、地表より30mの高度になれば地表からの精霊力によって降下速度を落下速度よりも緩やかに出来る。落下傘降下などよりもはるかに安全に地表へ到達できるわけだ。もっとも降下速度があまりにも緩やかだと、敵の飛び道具の標的になりかねない。そこは程々の速度が必要だ。
 新型チャリオットにストーンゴーレム・バガンを搭載しての降下実験も行われたが、全ての実験において結果は上々で、総司令官ロッドも大いに満足。フロートシップの夜間航行に必要な、暗視魔法を持つウィザードもウィルの魔法兵団から確保出来た。後は作戦決行あるのみだ。

●今回の参加者

 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea4857 バルバロッサ・シュタインベルグ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)
 eb4181 フレッド・イースタン(28歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4213 ライナス・フェンラン(45歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4263 ルヴィア・レヴィア(40歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4501 リーン・エグザンティア(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec3289 バッシュ・スタンピート(23歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●相談
 ウィルを西から東に貫き、フオロとトルクを隔てる大河。海と見紛う水の上を、旌旗堂々進み行くゴーレムシップ。その士官室。
 グライダー・チャリオット・シップと、一通り経験のあるルヴィア・レヴィア(eb4263)。そしてルーケイ伯名代のバルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)は、指揮官シャーゼン・エルツの諮問を受けていた。指揮官としては経験を積んでいるものの、今回扱うのは新しい兵器だ。現場の声は貴重であった。
「もっと性能が良ければ、確かに有効と思う。しかしまだ残念ながらキャノンの命中率は低い。岸辺から100歩も離れた船の舳先に乗せたリンゴのヘタを、弓矢で射抜くくらいの腕前が必要だ。軽量化しつつ威力を保ち。しかも射程を延ばしたツケがここに来ている。あまつさえ、1台毎の性能のばらつきが大きく、そこまで精密な運用は出来ない」
 ルヴィアの着弾修正法に、まだまだキャノンの性能が追いついていなかったのである。
「でしたら数を投入し、数の圧力で質を生み出す必要があります。一斉に撃てばどれかが当たるでしょうし、標的の回りを一掃するでしょう。順に撃てば、切れ目無い砲撃が敵の戦意を挫き、突撃の機会を奪うと思います」
「卿の意見もそうか」
 シャーゼンはバルバロッサに尋ねる。
「装甲チャリオットをゴーレム時代の重装騎兵と見なすなら、エレメンタルキャノンは破壊力のある弓兵と見なした方が良いだろうな」
 当然、同様の運用が効果を期待できる。斉撃の飽和攻撃も、順撃の防御射撃も弓兵と同じ理(ことわり)が働く。
「‥‥バルバロッサ卿。なにやらお顔の色が優れませんが」
「いや、この一年の出来事を思い出してな。こういう時こそ思わぬ罠や、陰謀での横槍を覚悟しておいたほうがよいと、老婆心が起きてくるのだ。例えば‥‥」
 突如他国の王子が現れ、毒蛇団は正義だと主張し始めたり。療養中の先王陛下が敵に操られた状態で現れたり‥‥。
 バルバロッサの憂慮に対してシャーゼンは、
「ウィルの各分国王は皆、毒蜘蛛団討伐戦に参戦を表明しており、まかり間違ってもその一族の誰かがが斯様な振る舞いに及ぶことはありませぬ。それが他国の者ならばウィル国内の討伐戦に口を出す筋合いも無し。仮にそのような者が戦場に現れたら盗賊の芝居と見なし、叩きつぶして構わぬ──と、総司令官ロッド殿ならおっしゃるでしょう」
「例えば、トルク家縁の大物の人質を取られていた場合。どこまで無視するか、あるいは危険を承知で救出に向かうかとかは事前に決めておいたほうが良くは無いかね?」
「仮令、ジーザム陛下の庶子が捕らわれていたとしても、戦(いくさ)には戦の掟があります」
 シャーゼンは言い切った。

●上陸
 真闇に浮かぶ陽精霊の残光。宵の風は湿りを帯びて軽く吹く。ゴーレムシップの甲板に並ぶチャリオット。矢叫び哮る修羅の巷を征くために、青銅で鎧われし物。敵陣を砲撃で耕すためにキャノンを載せた物。
「壮観だね‥‥」
 それらを輝く両の眼に映し、イリア・アドミナル(ea2564)は嘆息する。その眺めたるや如何なる臆病者でも心を奮い立たせるに能う頼もしさ。まして丈夫(ますらお)の心を持つ乙女なれば、
「ふう」
 イリアは胴震い。大ウィルの威信をかけた討伐戦なのだ。

「今回ご一緒させてもらう事になったリーンよ。よろしくお願いね」
「‥‥いや、しかし‥‥」
「だめかしら? あなたの腕を見込んでの事だけど」
 リーン・エグザンティア(eb4501)は有無を言わせぬ静かな声。
「グラシュテはバガンと違います。固定が甘ければ潰されるでしょう。敵の矢玉や刃に懸かるなら武人の本懐ですが、味方に潰されて轢死するなどまっぴらです」
「私が載ってグラシュテの手足を突っ張ってしっかりと固定する。その後で固定処理を行えばいい。断じて事故は起こさないわ。万一の場合、償いとしてあなたの後継ぎが名を為すまで無償で家来として働いても良いわよ。そんなことは起こさないけど、この剣に懸けて誓うわ」
 臣下の礼宜しく剣を捧げるポーズを作る。
「‥‥そこまで言われては家名が廃ります。いいでしょう」
 チャリオットのパイロットは、睨み付けるような厳しい目で承諾した。

 濃いコバルトの空に、滲むように浮かび蠢く七色の光。夜明けの虹が空を覆う。
 粛々とチャリオット部隊は発進。這うようなスピードで大河の水面に降る。
「‥‥大丈夫。いけます」
 ブラッククロスを握りしめイリアは装甲のスリットすら息を呑んで目を凝らした。沈没すれば浮かび上がるのは難しい。地の精霊力の限界を超える淵にでも落ち込めば、このまま青銅の棺と共に水漬く屍も十分にあり得る。
 重苦しい空気の中、底を水に濡らして岸辺に達したときは、思わず安堵の声が漏れた。ここからは溺死の心配はない。チャリオットは急斜面の岸辺を一気に上り、平野部へと繰り出した。と、言っても速度は遅い。シャーゼンの判断により、チャリオットの速度は時速20km程。どんな罠が仕掛けられているか判らないのだ。チャリオットだけで突出するのは危険である。
 シャーゼン搭乗のキャペルスは、チャリオットのスピードに合わせた早めの歩行。身長5mと丈が高く、遠方から発見されやすいことをシャーゼンは憂慮し、前かがみの姿勢で前進していた。
 チャリオットに乗り切らない分のグラシュテは、徒歩で全力疾走。長距離移動が必要な物は、後で折り返し戻って来るチャリオットに搭載予定であった。

●カオスの魔物
 拍子抜け。相当な抵抗や待ち伏せ、あるいはトラップを警戒していた上陸部隊であったが、無人の野を行く如く順調に進軍した。
 まもなく攻撃の時間。軍議で定められた位置に着く。
「気を着けろ。ここは敵地だ。何もないはずが無い」
 バルバロッサが抜き身の聖剣アルマスを構え、護りの盾で操縦士をいつでもカバーできる位置を取る。
 リーンは位置に着くとくくりつけた槍を外す。これから幾多の首級を干すことになろうその槍は、反射を消すための塗料が塗られていた。
 視界には攻撃目標の村。空には降下部隊のフロートシップが陣取り、聞こえる剣戟の響き、軍馬の嘶き。既に戦いは始まっている。

「なんだこりゃ?」
 レオンの目に、村周囲から立ちこめる白い物。
「煙幕? いや霧だ」
 何があるか判らない。俗に戦場の霧と言うが大抵は朝霧を指す。夜明け前から掛かっている物である。それが、今まで何もなかった空間に突如湧き起こる。
「スピードを落とせ! 徒歩に合わせろ! 陣形を崩すな」
 フレッドの指示に従い、チャリオット部隊はスピードを落とし、バガン・グラシュテ・随伴歩兵の足並みを揃えて慎重に霧の中に突入した。罠なら咬み破るのみ。
「何だこいつは!」
 随伴する兵士が慌てふためく。ネズミに似た生き物が多数。口から霧を吐きながら襲ってきたのだ。しかも剣が通じない。襲いかかってくるのを払い退ける事は出来ても、一向に傷つく様子がないのだ。
「カ! カオスの魔物だぁ!」
 その声にチャリオットから飛び降りるバルバロッサ。さっと一閃一打ちに3匹を粉砕する。
「落ち着け! 普通の武器でも身は護れる。隊伍を組んで互いに身を護れ。銀の武器がある物は抜き放て、敵は小物だ一撃で死ぬ」
 されど霧はますます濃くなり、魔物はその中を自由自在に襲ってくる。
「こいつら、霧の中でも目が見えるのか」
 レオンはオークボウ+1でネズミに似た魔物を払いながらぼやいた。自分の毒で死ぬ毒蛇が居ないような物だろう。銀のナイフでも倒せることが判って落ち着いたのも束の間。見掛けよりも手強い相手である。
 先ず襲われたのがエレメンタル搭載チャリオット。そして装甲チャリオットのスリットからも、虫に変化して次々と侵入。
「クルードよ。こいつら」
 イリアが叫んだ。言われてみれば確かに、下級デビルのクルードに似ている。
「何をやってる。後退しろ!」
 風信器が怒鳴るシャーゼンの声。はっとなったレオンは
「みんな載れ! 10秒後に全速後退する。早く! 10・9・8・7・6・5‥‥」
 幸い、徒歩で随伴する者はチャリオットの回りだ。高らかに10数えるや
「しっかり掴まれ!」
 全力でチャリオットを後ろにぶっとばした。装甲チャリオットの面々も、それに倣う。
 続いて随伴ゴーレムも走って後退した。

 さて。冒険者達が載っていた装甲チャリオットは侵入した魔物を駆逐出来たが、どうにも動けない装甲チャリオットが一台取り残された。襲ってきたカオスの魔物は、魔法の武器を持つ歴戦の冒険者達には大したことのない相手であっても、普通の兵士達には荷が勝ちすぎる。その上装甲チャリオットに載っていた兵士は、護りをチャリオットに委ねている分軽装であった。
「やばいぞ」
 レオンが呻く。味方を巻き添えにするからエレメンタルキャノンもゴーレムも手が出せない。敵は装甲の中にいるのだ。

 その時だ。
「おまたせー」
 クルードにたかられたチャリオットの窮地を救ったのは、ルヴィア。轟音と共に霧を蹴散らして飛来するサイレントグライダー。地の精霊力でバランスを取りながら、風の精霊力を噴射に使いホバリング。サイレントどころか只のグライダーよりやかましい。しかし、その噴射する風が霧を追い払う。ルヴィアは後ろの席に合図した。
「おねがいしまーす」
「心得た!」
 バルバロッサは降り立つ。視界の少し良くなった空間で、扉を開けて装甲の中に殴り込んだ。
 カオスの魔物と雖も、所詮は小物。完全武装のバルバロッサの前に駆除されて行く。
 取り残された装甲チャリオットも、ゆっくりと後退。霧の領域を離脱した。

 気が付けば、キャノンチャリオットに搭乗していたフレッドもレオンも、手傷を負ている。痛みを感じると言うことは、それだけ余裕が出てきた証拠であろうか。

「無防備になるのでガードをお願いします」
 先に離脱した装甲チャリオットから降り立ったイリアがゆっくりと前に出た。戦士やゴーレムが壁を作る。
 イリアはスクロールを広げて深呼吸。気は焦るがなかなか成就しない。霧はゆっくりとこちらに近づく。と、言うことは一緒に霧を吐く魔物達も近づいてきている。
「イリアさん。魔法はゆっくりだ」
 バガンのライナス・フェンラン(eb4213)が盾で彼女をガード。イリアは再びスクロールを使う。紅い光が彼女を包み、会心の笑みが浮かぶ。
「敵も水魔法を使用するのは、少し頭にきたよ。本当の水魔法の力を教えてあ・げ・る」
 もはや指呼の間合いに近ずいた霧を見据えて、黒曜石の十字架を握りしめ、ゆっくりと正確に印を結び呪文を唱える。今度は青いが彼女に集まり、精霊の力は一つの方向へと導かれる。
「黒き十字裁きを持って、天地を汚す魔を滅さん、アイスブリザード!」
「あぶね!」
 慌てて横にて飛び退くライナスのバガン。はっと飛び下がるルエラ。
 その次の瞬間、満々と水を湛えた堰を千尋の谷に決する勢いで、水精霊の純粋な力が激しい風となって吹き抜ける。それは一瞬のことだった。
「アイスブリザード?!」
 しかし、冒険者一同、こんな物凄い物は今まで見たことも無い。否、当のイリアでさえ初めての経験だ。得体の知れぬ高揚感に恍惚になりながら、成就した魔法に身を任せている。彼女を中心に半円を描いた全ての物をなぎ倒し、凍り付かせ、粉砕した。術の範囲は100mにも及ぼう。霧の魔物は瞬時に全滅し、邪悪な霧もまた消えた。
 その場にへたり込むイリアをルエラは助け起こした。

 さて、バルバロッサが装甲チャリオットの扉を開け出てくると、後から傷だらけの兵士達が続いた。急いで仮包帯が巻かれる横で、
「‥‥思わぬ弱点を見つけた」
 難しい顔をしてバルバロッサは呟く。
 一旦、魔物のような敵に侵入されると、装甲は味方の脱出を阻む檻と化すのだ。

●砲撃
 お世辞にも、放つに当らぬ方もなくとは参らぬのがキャノンチャリオットの命中精度。
「しかし‥‥」
「我が家の家訓にこうあります。剣の先で戦う者は破れ、剣の柄で潰さんとする者は敵を斃すと」
 フレッド・イースタン(eb4181)は物静かに諭す。
「ではせめて剣をお持ち下さい」
「私達の剣はこれでしょう」
 エレメンタルキャノンに手を当て笑う。そうしてフレッドは射程の半分、100mないしそれ以下の距離までの接近を命じる。伊達に修羅場を潜っては居ない。砲の傍らに直立し、その手をさっと前へ降ろした。
 吼えるエレメンタルキャノン。砦の防護壁は聞くも頼もしい轟音を立てて爆ぜる。
「気力の続く限り撃て!」
 無論この距離である。狙い打ちこそ難しいが、敵の矢の届く距離だ。敵にとってもチャリオットは恰好の的。降り注ぐ矢が近くをかすめる。
「あはははは。矢がこんな音を立てて飛ぶとは、今まで知りませんでした」
 今回が初陣の若い鎧騎士は、こわばった声で強がり。
「ねっ。当たらぬものでしょう」
 言いつつフレッドは、初陣の鎧騎士の前に出た。射程ぎりぎりの防御壁越しの射撃である。かつて賊徒達がやったような飽和攻撃は不可能だ。
 天地に轟く砲声は、敵に沈黙を強いる。怯むことなく砲撃を続けるうちに、敵は砦防御壁を離れて人質収容所の間近にまで後退を始めた。
「そろそろ潮だよな」
 鳳レオン(eb4286)が目配せ。このまま砲撃を続ければ、人質達に被害が及びかねない。戦いは次のステージに移行して行く。
「降下部隊。こっちは砲撃隊だ。賊と人質の切り離しを頼む!」
 風信器で飛ぶレオンの声。
「了解!」

 天降るつわもの達が圧倒的な鋼の圧力を敵に与えて行く。その様は敵の反撃が衰えたことで実感出来る。
「レオンさん。前進願います」
 チャリオットはキャノンを載せてさらに接近。最早敵が放つ矢もまばらである。命中率はさらに上がり、防護壁は崩され逃亡を図る盗賊は微塵に吹き飛んだ。中には慌てる余り自分たちで仕掛けた罠に引っかかる者もいる。
「おのれぇ!」
 最早捨て鉢。自分の命を少しでも高く売りつけてやろうと騎馬で突撃してくる勇者が居た。
「いいだろう。我が剣の錆となれ!」
 バルバロッサの一撃が電光の如く煌めいた。上手い具合に拍子が合ったのか? その一閃に敵の兜の上半分が吹っ飛んだ。中身を納めたまま。

●砦突入
 轟音が戦場を制す。砲戦では白兵戦と言っても良いような至近距離で撃ちまくるキャノン搭載チャリオットの威力は、想像を超えていた。無論、今回が初御目見えと言うのもあるが、数を揃えた集中運用の効果はてきめんであった。発射音が連なるレールの如く連続する。実際の効果よりもむしろその音。エレメンタルキャノンの雄叫びは、敵を恐怖に陥れ、味方の勇気を倍増した。
「内側の防御柵が半壊です。今が殲滅の好機と覚えます」
 風信器の向こうの報告に、フレッドが応える。
「人質と切り離しに成功!? 了解!」
 ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)はバガンに乗り換える。
「さて、と。ここからはお仕事モードで行かないと」
 今まで防御の備えと随伴していたリーンは、槍を構えて突撃する。自重を突進に換える巧みさは、まるで巨大な猛牛のよう。地響き立てて一直線。乗り換えのためやや遅れたルエラのバガンは槍脇を固めるように斜め後方。剣を脇に固めて猛ダッシュ。時折飛んできていた矢玉も、時を同じくして皆無となり、ルエラは突入口を容易く広げることに成功した。
「少し刃こぼれしたみたいだな」
 ゴーレムの怪力でバーストアタックを繰り返した結果だ。後続のゴーレムやチャリオットに障害物はない。
「あっけないわね」
 既に組織的抵抗はない。盗賊達は最早我先に逃げている。カオスの魔物も既に見え無い。
「砦内部の掃討完了! これより逃げる賊を殲滅する」
 騎士団長の声に翼を連ね、逃げ行く八方の敵をゴーレムとチャリオット、そしてグライダーで追い伏せ追い散らし、戦果を見る間に拡大して行く。それは虐殺に近い破壊力であった。
 程なく、森林部の砦制圧に成功した空戦騎士団が援軍として到来。圧倒的な攻撃力により、その日のうちに逃走する敵は完全に殲滅され、討伐戦は幕を閉じた。