ロメル領攻略戦〜エルフ王の深慮B

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月20日〜07月25日

リプレイ公開日:2007年08月16日

●オープニング

●総司令官の策謀
 ロッド・グロウリング卿は毒蛇団討伐戦の指揮官として作戦にかかりきりだ。西ルーケイと王領バクルにおける討伐戦は順調に進んでいる。ロメル子爵領については、セレ分国王配下のゴーレム弓兵部隊を主体として攻略戦を行う予定でいた。
 ところが、ここに来てイムン分国から横槍が入った。
 イムンの誇るゴーレム空挺部隊を、何が何でも討伐戦に参戦させろというのだ。その求めに対し、ロッド卿は遠慮会釈もなくこう宣ったという。
「あんなキワモノ部隊など足手まといになるだけだ!」
 もともとジーザム王の出身分国であるトルクは、イムンとは仲が悪い。
 イムン王の虎の子たるゴーレム空挺部隊にしても、ロッド卿はまるで評価していなかった。
 パラシュート降下における最大の難点は、パラシュートを有効に作動させるためにかなりの高々度から飛び降りなければならないことだ。それも、雲を越える程の高さである。地球の航空機とは違い、フロートシップは墜落時の危険を避けるため、高度を出来る限り低く押さえるのがウィルの常識。その事を考えれば、パラシュート降下のために高度数キロもの高みまでフロートシップを飛ばす運用法は言語道断である。
 また、そのような高度から降下した場合、目指す地上の目標地点に降下できる確率は非常に低くなる。地球と比べたら遙かに未熟な降下技術なのだから、誤差数メートル何に収まればまだいい方だ。霧や強風などの悪条件が加われば、誤差は数十メートルにも及びかねない。
 加えて降下させるのは重量0.9tのバガンである。これにやたら馬鹿でかいゴーレムサイズのバラシュートを付けて降下させるのだ。スカイダイビングの経験者なら自明のことだが、ただでさえ着地の衝撃は強烈だ。これをバガンでやったらどうなるか?
 心配すべきはバガンとその中の鎧騎士よりも、むしろ降下地点の周辺に居合わせる人間だ。降下地点がズレにズレて、密集する味方兵士や民家の真上にでも降って来たら即、大惨事である。
「見境もなしに所構わず降下して、町や村をぶち壊しまくるならともかく、こんな物騒な代物を討伐戦の主戦場などに投入できるか!」
 平定戦の目的は毒蛇団の殲滅だけではない。捕らえられた人質達を解放するという大事な仕事もある。作戦の遂行に当たっては綿密な計画と用意周到な準備、そして戦場での正確な行動が要求されるのだ。それを任せるべきドラグーンという高性能兵器をウィルは保有しているのだし、フロートチャリオットを利用して低空からバガンを降下させる精度と安全性の高い降下方法も、既に実用化の段階に入っている。イムンのキワモノ戦法に頼る必要などまったく無い。
 そう判断したロッド卿は、イムンのゴーレム空挺部隊をどうでもいい戦場に投入することにした。それがロメル子爵領である。
 今はウィル王国の側についたテロリスト・シャミラからの情報によれば、ロメル子爵領に毒蛇団の首領が潜んでいる可能性はまず無い。人質になっているロメル子爵の一族は、毒蛇団の言いなりになっている没落貴族。毒蛇団の支配下に置かれた領民達も、今や毒蛇団の手足となってその悪事を手助けするような不逞の輩ども。となればロッド卿にとっては、どうでもいい存在である。たとえ空から降ってくるゴーレムに潰されて死のうが、知ったことではない。
 そこでロッド卿はイムンのゴーレム空挺部隊に対し、次のような通達を出した。
「諸君ら、誇りあるイムンのゴーレム空挺部隊には、最も困難なる使命を与えよう。毒蛇団の人質となったロメル子爵の一族を救出し、毒蛇団の支配下にあるその領民を解放するのだ」
 その言葉に嘘はない。確かにこれは困難な任務だ。しかし、たとえ失敗に終わったところで、ロッド卿にとっても大ウィル国にとっても痛くも痒くもない。むしろ何かにつけて余計な口出しをするドーレン・イムン分国王の鼻っ柱を叩き折るなら、大失敗に終わった方が好都合というものだ。しかし心に秘めた策謀などおくびにも出さず、ロッド卿はさらに言い添える。
「これはイムン分国にとって華々しき晴れ舞台。イムン分国王陛下に敬意を表し、総司令官たる俺からも特別の配慮をさせていただこう。ロメル子爵領における降下作戦においては、空挺部隊の保有する6機のバガンに加え、さらに6機のバガン使用を認める。合計12機による降下作戦、さぞや見事なものになることだろう」
 どうせ失敗させるなら、盛大に失敗させた方がいい。勿論、ロッド卿が貸し出す6機のバガンはガタのきた中古品である。
 ロッドにとってロメル子爵領は捨て石。捨て石にされた方のロメル子爵一族とその領民はいい面の皮だ。

●エルフ王の深慮
 しかし、セレ分国のエルフ王コハク・セレの考えは、ロッド卿とは異なっていた。
「ロメル子爵家も領民も、望んで毒蛇団の支配下に置かれた訳ではあるまいに。人間というものは、どうにも性急に事を運び過ぎる」
 長命であり、太古の昔から森と共存してきたのがエルフという種族。熟慮を重ねた上で慎重に物事を進めるのを良しとする。
 ロメル領攻略戦において、コハク王配下の兵団はイムンの空挺部隊を支援する立場にあったが、コハク王にとってもイムンのやり方は無謀とも思えた。その失敗を誘うようなロッド卿のやり方もどうかとは思うが、それが失敗すべき作戦ならば失敗するに任せるのが道理に叶うとも考える。人は失敗から学び、失敗を乗り越えて前に進むもの。あの融通の利かぬドーレンの性格を考えれば、イムンの無謀な作戦に対して今は余計な口出しをする時ではない。
 とはいえ、囚われの領主一族やその民にまで、不必要な犠牲を強いる必要は無い。
 そう考えたコハク王は、冒険者ギルドに次なる依頼を出した。

『ロメル子爵領攻略戦において、ロメル子爵一族とその領民の安全確保に携わる冒険者を求む。弓兵ゴーレム部隊を含めたセレの兵団も援護につく』

 空挺部隊の降下前に、領主の一族と領民をこっそり安全圏へ連れ出すもよし。盗賊どもは魔法を使って眠らせておくもよし。くれぐれも、上から降って来るバガンの下敷きにならぬようご注意あれ。

●攻略地域の概略図
 ┃〜〜┃─
 ┃湖┏┛─ 攻略目標?:領主館
 ┃〜┃?森 攻略目標?:村
 ┃┏┛─森
 ┃┃?畑森
 ┃┃畑─森
 ┃┃──森

●攻略目標B
【村の概略図】
 〜│_______北門________畑畑畑
 湖│____┏━━┫┣━━━━━━┓_畑畑畑
 〜│____┃◆________◆┃_畑畑畑
 〜┫船___┃_■■_■■_■■_┃_畑畑畑
 〜┫着___┃集■■_■■_■■_┃__畑畑
 〜┫場__西┻落___■■_■■_┻東_畑畑
 〜┫___門┳__________┳門___→森へ
 〜┫____┃____◆◆_■■_┃__畑畑
 〜┫____┃_■■_◆◆_■■_┃_畑畑畑
 〜┫____┃_■■_◆◆_■■_┃_畑畑畑
 〜│____┃◆________◆┃_畑畑畑
 〜│____┗━━┫┣━━━━━━┛_畑畑畑
 〜│_______南門________畑畑畑

  _:平地  ━:防護壁
  ◆:盗賊の住居・見張り所
  ■:村人の住居
 ※1マス5×5平方メートル

【村の状況】
 村内には村人約300人が居住。
 村内に潜む盗賊の数は約30人。

●今回の参加者

 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea4509 レン・ウィンドフェザー(13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea4919 アリアン・アセト(64歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb2259 ヘクトル・フィルス(30歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb4213 ライナス・フェンラン(45歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4242 ベアルファレス・ジスハート(45歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4578 越野 春陽(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●臣民の救い
 中型艦『ラナンシー』と小型艦『ミストリア』、2隻のフロートシップはロメル子爵領を目指し密やかに進む。揉め事の渦中にあるロッド卿とイムン王に、事態を憂慮するセレ王と冒険者達を乗せて。
「ロッド卿の思惑は‥‥そういう事か」
 『ミストリア』の作戦室でアレクシアス・フェザント(ea1565)が呟いた。関係者に色々と話を聞き、事情は大方飲み込めた。
「トルク家譜代の騎士として、私とてイムンには父祖からのわだかまりもあります」
 それはエリーシャ・メロウ(eb4333)の正直な胸の内。しかし彼女もまた事態を憂う一人。だから次の言葉を続ける。
「ですが、毒蛇団討伐はトルクではなく大ウィル国王としての詔なれば、反目ではなく協力すべき時の筈。ロッド伯閣下は陛下の左腕に足る有能な御方なれど、此度のみならず戴冠式でのエの国王陛下への応対やドラグーンお披露目方針等、殊更に敵を増やす言動を危惧せずにはおれません。とまれ今はコハク陛下のご配慮に感謝し、ウィル臣民を救う為全力を尽しましょう」
「彼らもまたウィルの臣民‥‥」
 アレクシアスはロメル領の民に思いを馳せる。
「ロメル子爵領の窮状を招いた一端にはフオロも関係している。毒蛇団に支配されていたとはいえ、ロメルの民達を見捨てるわけにはいくまい」
 ロメルの領民達が毒蛇団になびいたのも、元はといえば先王の暴政が招いたことだ。
「と言うてもなぁ、難儀なものじゃよね。あそこには妙なこだわりのある人多いからのぅ‥‥」
 と、口にしたのはヘクトル・フィルス(eb2259)。
「それはさておき、きっちり村人さんたちを脱出させてやりたいところじゃのぅ」
 船がロメル子爵領の領地境まで近づくと、ヘクトルはミミクリーの魔法で大鷲に変身。攻略目標の村へと飛び、上空から村の様子を観察。その結果を艦長と仲間達に報告した。
「ちょうど村の北西部が開けた場所になっておる。フロートシップを着陸させるのに丁度いいじゃろ。見たところ盗賊どもに戦に備えて守りを固める様子は無い。我々の接近には直前まで気が付かぬじゃろう」
 この偵察は後の作戦遂行に大いに役立った。

●潜入工作
 ロメル領の村が十分に近づくと、船は村の東方に広がる森の上空で停止。そこにはセレの斥候たちが待っていた。冒険者達は縄梯子を伝って船を下りると、斥候の後について森の中を進み、村を臨む森の外れまで達した。
 夜明けが近づき、夜の闇は徐々に退いて行く。だが頭上の空には分厚い雨雲がたれ込めている。空の上ではイムンのフロートシップが作戦準備中のはずだが、これでは姿を確かめようがない。
「ここから先は任せて下さい」
 シルバー・ストーム(ea3651)がインビジブルのスクロールを使って姿を消し、村をぐるりと囲む柵を乗り越えて単身で中に忍び込む。狙いは北の門を見張る盗賊どもだ。
 本当は無味無臭の眠り薬を使いたかったのだが、さほどに便利で効果の確かな眠り薬などそう簡単には手に入らない。だから、もっと確実な方法に頼ることにした。所持品の中にあったスリープのスクロールだ。
「おい、何か妙な音がしたぞ?」
 姿を消して動き回る気配に気づいたか、門の見張りが辺りを見回しながら歩を進める。するとその体がばたりと倒れる。
「おい、どうしたんだよ!?」
 見張りの連れが慌てて駆け寄り、屈み込んで顔を覗き込もうとするや、そいつもごろりと地面に転がった。二人ともすやすやと寝息を立てている。
 その様子を見届けると、シルバーは北門の閂を外して扉をそっと押し開ける。
 外にはアレクシアスが待っていた。アレクシアスは門から中に忍び込むと、眠り込んでいる賊2人に猿轡を噛ませて縛り上げ、続いてシルバーと共に北側の見張りに立つ賊を次々と潰していった。隠身の勾玉で気配を断っているから事は手際良く運ぶ。その仕事が片付くと、シルバーはテレパシーのスクロールを広げて外の仲間に思念で合図を送った。
(「準備完了。突入して下さい」)

●制圧
 冒険者達の突入は派手だった。
 制圧戦の始まりは北門のぶち壊し。
「うおおりゃあああーっ!!」
 渾身の力で大斧「恐獣殺し」を叩き込むヘクトル。正に鉄の暴風である。
 ベキッ!! ベキッ!! ベキベキベキッ!!
 北門の扉が木っ端微塵に吹っ飛んだ。
 時を同じくして南門からも、天然の破壊神レン・ウィンドフェザー(ea4509)が攻め入る。
「どっかーんするの!!」
 どごごごごごごーっ!!
 放った魔法はグラビティーキャノン。2度、3度、4度と放つうちに南門はボロボロ。
「何事だぁーっ!?」
 そこは丁度、盗賊どもの住居の間近だったから、襲撃に気づいた賊どもがわらわらと押し寄せて来た。そいつらにはローリンググラビティーをお見舞いして空に吹っ飛ばし、残りの賊もアグラベイションで動きを鈍らせる。
 一方、北門から踏み込んだアレクシアスは、セレの騎士達や冒険者仲間ともども家々の門戸を叩き、中の村人達に告げ知らせる。
「我々は大ウィルの毒蛇団討伐軍だ! 非道なる毒蛇団の支配よりお前達を解放しに来た! ロメルの民達よ、北門へ向かえ!自由への道は既に開かれた!北門へ向かえ!」
 だが、見込みが甘かった。
 元々、村人達はアレクシアスの顔を知らない。加えて村人達は言葉巧みに毒蛇団に利用されているとはいえ、毒蛇団が敵であるとは思っていない。
 村人達にとって毒蛇団は、悪王や悪代官の暴虐から自分達を守ってくれる存在なのだ。村の誰もがそう信じ込まされている。
 そのうちに生き残りの盗賊どもが口々に騒ぎ立て始めた。
「ルーケイの悪代官が攻めてきたぞぉ!」
「村はおしまいだぁ! 皆殺しにされるぞぉ!」
「むざむざ殺されてたまるかぁ! 村の者全員で武器を持って戦うのだぁ! ‥‥うぐっ!」
 盗賊の言葉を封じたのはシルバーの放ったアイスチャクラ。騒ぎ立てる賊は次々と倒れて行くが、村人達の間にパニックが広まり始めている。
「村はもうおしまいじゃあ! 村を捨てて東の森に逃げるのじゃあ!」
 村の古老に率いられた一団が、慌てふためいて東門へと駆けて行く。
「違う、そっちじゃない! 北門に逃げるんだ!」
 懸命に誘導するレオン・バーナード(ea8029)の言葉にも村人達は耳貸さず。避難用のフロートシップは村の北側に着陸しているが、村人達は冒険者やセレの騎士達を、村を滅ぼす為に攻め入って来たと勘違いしている。
 ところが東門を抜けて森へ逃れようとした村人達を待っていたのは、セレの弓兵ゴーレム・ノルンだった。これはベアルファレス・ジスハート(eb4242)が配置させたもので、ノルンの1体にはベアルファレス自身が搭乗中。賊の目を引き付けるべく東門をぶち壊しにかかっていたのだが、村人達が大挙して逃げて来たものだから彼は慌てた。
「ここから先へは進むな! 北門を通ってフロートシップに避難するのだ!」
 ゴーレムの身振り手振りで示すも、恐怖にかられた村人達はその動きさえも自分達への攻撃と勘違い。
「うわあああ! ゴーレムだぁ!!」
「た、助けてくれぇぇぇーっ!!」
 逃げ込む先はもはや家の中しかない。我先に粗末な家の中に逃げ込む村人。それを冒険者は無我夢中で食い止め、家の中から引っ張り出そうとする。何しろもうすぐ、イムンの空挺バガンが空から振って来るのだ。
「隠れてちゃダメだ! 早くここから逃げるんだ!」
「ぐすぐずしてると、ぺったんこにされちゃうのー!」
 レオンとレンはとにかく家々を駆け回っては呼びかけるる。その様子を見て、村の子どもが一人また一人と近づいて来た。彼らが悪人では無いことを悟ったようだ。
 ところが‥‥。
 ガツン!
 レオンの額に石がぶち当たる。石の飛んで来た方を見れば、怖い顔して鎌を振り上げた親爺がいる。
「おらの家のガキに手ぇ出すでねぇ!!」
「んな事、言ってる場合じゃないんだ!! ここで死にたいのか!?」
 怒りも露わにレオンが怒鳴り返すと、
「ひええええーっ!! 人殺しぃーっ!!」
 恐れを為して親爺は逃げだし、隣の家の中へ駆け込む。所詮、彼らは戦い馴れしていない農民なのだ。
「‥‥待てよ、そろそろ降下作戦が始まる時間じゃないのか?」
 もう夜が明けてから1時間は経っている頃合いだ。だが、制圧の混乱で冒険者達は予想以上に時間を潰してしまったのだ。

●降下作戦の不手際
「たいへんだよ! たいへんだよ! 空から何かが降って来たよ!」
 騒ぎ出したのは、レンの肩の辺りを飛び回っていたペットのエレメンタルフェアリー。その言葉に曇り空を見上げると、雨雲を突き抜けて地上に迫るそれが見えた。
 イムンの空挺ゴーレムだ。
「あー! とうとう始まっちまった!」
 と、レオン。
 しかもパラシュートで降下して来たゴーレムにはおまけがついている。ゴーレムの胴体とロープで繋がれたグライダーだ。
 それはグライダーの牽引によってゴーレムをしかるべき降下地点に誘導しようという、イムン側冒険者の試みだったのだが、あまりにも無謀な試みだった。
 パラシュートが強風であおられ、ゴーレムは村の中心へと流されて行く。そう、ちょうど家々の密集する場所へ。
「あーっ! たいへんなの!」
 ベキベキベキベキ!!
 派手な音を立ててゴーレムの下半身が家の中にめり込み、さらに屋根全体が崩れ落ちた。グライダーも巻き添えをくって地面に突っ込み、操縦士が投げ出される。パラシュート降下とはいえ降下速度は相当なもの。0.9トンもの重量物であるゴーレムが上から落ちて来たら、掘っ建て小屋に毛が生えた程度の家などたまったものではない。
 おまけにゴーレムのパラシュートだってとんでもない大きさだ。たちまち、逃げ惑う村人の幾人かがその下敷きになった。
 一瞬、何が起きたのか分かりかねた村人達も、次々と空から降って来るゴーレムを見てますますパニックに陥った。
「空からゴーレムだぁ!!」
 もう何が何だか分からない。逃げようにも家々に覆い被さるパラシュートに逃げ道を奪われ、パラシュートの内側でも巻き込まれて逃げ出せぬ村人達がじたばた。降下場所を間違えれば、パラシュートはとんでもない障害物となるのだ。
「落ち着け! 落ち着くんだ!」
 戦いの場数を踏んでいるだけあって、アレクシアスの行動は素早い。サンソード「ムラクモ」でパラシュートの布を切り裂き、囚われていた者達に手を差し伸べて引っ張り出した。
 レオンも空挺ゴーレムに潰された家に駆けつける。家の入り口には埃まみれで泣いている子どもが一人。
「大丈夫か!?」
「おじいちゃんも、おばあちゃんも、みんな中にいるの」
「よっし、任せろ! 必ず助け出してあげるからな!」
 周りにいる冒険者やセレの騎士達を呼び集めると、レオンは剣を引き抜いて倒れた柱や崩れ落ちた梁めがけて殴りつけるように打ち下ろした。敵の甲冑や盾を打ち砕く程の腕はある。相手が材木の残骸なら造作もない。程よい大きさに打ち砕いてから一つまた一つと取り除け、下敷きになっていた者達を助け出した。
「安心しな。船はそこまで来てるんだ」
 ずおおおおん!!
 すぐ近くから地響きが伝わって来た。また空挺ゴーレムが近くに落ちたのだ。村人達が悲鳴を上げる。
 レオンが外に出てみれば、近くにあった牛小屋が見事に潰されている。幸いそこに村人はいなかったが、降下したゴーレムも着地の衝撃で足をくじいたらしく、腰を抜かした姿勢で立てずにじたばたしている。
「中の人は平気なのか? 中で頭ぶつけてそう。‥‥いや、それよりも」
 今は村人達の誘導が先だ。

●退避
 ウィル国王旗を掲げ、村の北西側に着陸したフロートシップ『ミストリア』では、空戦騎士団副長エリーシャが避難して来た村人達へ一心に呼びかけている。
「船には全員が乗れます! 慌てず、列を乱さずに乗船して下さい! 子ども、子連れの母親、老人、女が優先です! 武器の持ち込みは禁止なので、武器類は全て入り口で預けて下さい!」
 船の入り口にはセレのノルンが護衛として控える。先にはその姿に恐れを為した村人達だが、今は大人しく列を成して冒険者達の指示に従っている。アレクシアスやレオンらの懸命な救援で、村人達の彼らを見る目も変わったのだ。
「ここまで来ればもう安心だ。後は床に描かれた矢印の通りに進めばいい」
 ライナス・フェンラン(eb4213)の言葉に村人達の誰もが素直に従う。事前にエリーシャとレオンとが段取りをしっかり整えてくれたから、誘導は楽だった。村人達は床に描かれた矢印と線の通りに進み、空になった倉庫に入ると、あらかじめ線引きされて升目の形に区分けされた所定の位置に落ち着くのだ。
「あ‥‥!」
 遅れて空から降って来た空挺ゴーレムに気づいて叫ぶ。あろうことか空挺ゴーレムは、着陸した『ミストリア』の真上に降って来た。
「危ない! みんな動くな!」
 空挺ゴーレムが船体にぶつかったのは、ライナスが怒鳴ってすぐ。
 びきっ! ぶつかった瞬間、船体が派手な軋み音を立てたがそこは戦船。頑丈な作りだから多少のことでは穴など開かない。ゴーレムはそのままバランスを失い、船の下に転げ落ちた。幸い、近くにいた者が巻き込まれることはなかった。
 ライナスは大声を出して皆を安心させる。
「心配するな! これしきの事で、この船は壊れはしない!」

●失敗要因 
 越野春陽(eb4578)は分国王たちやロッド卿の座上艦である『ラナンシー』に勤務し、艦橋の指令所で情報の収集に勤めていた。イムン王とロッド卿はそれぞれの部下ともども、船の前部甲板でイムン空挺部隊の降下作戦を観戦中だ。『ラナンシー』はロメル領内の湖上を浮遊しており、そこからは領主館と村の双方を一望できる。
 風信機にベルファレスから連絡が入った。
『空挺ゴーレムは全て降下したが、思った以上にダメージが大きい。最後の掃討はセレの騎士とゴーレムとで行うしかなさそうだ』
「‥‥そう。残念ね」
『もっとも、最初の戦闘が上手くいったので、残る賊は僅かだ。掃討に時間はかかるまい』
「了解」
 空挺部隊の戦果は散々なものだった。家を潰すもの、湖に落ちるもの、着地の衝撃で立てなくなる機体が続出。恐らくロッド卿は顔に勝利の微笑みを浮かべ、イムン王は苦渋のあまり顔をしかめ歯を食いしばっているはずだ。
「今回は悪条件が重なり過ぎたわ」
 それが降下作戦の失敗につながったのだと、春陽は評価を下す。
 失敗の最大要因は何といっても悪天候であろう。分厚い雨雲が現場を覆い、上空にあるイムンのフロートシップと地上とを遮ってしまったため、春陽やベルファレスが降下の目印にと設置するはずだった地上の目標も、出番が来ることはなかった。加えて強風がパラシュートをあおり、空挺ゴーレムをあらぬ方向に流してしまう。
 この日は春陽にとって、いかにパラシュート降下の空挺ゴーレムが悪天候の悪影響を受けてしまうか、散々に思い知らされた一日だった。

●重傷者
 クレリックであるアリアン・アセト(ea4919)の仕事は、船内に保護された村人達を手当てして、親身な助言によって精神的な支えを与えること。いつもながらの仕事だが、今回は予想外の怪我人が出た。
「空挺ゴーレムに潰された家の下敷きになった! 手当てを頼む!」
 アレクシアスの空飛ぶ絨毯で次々と運び込まれて来たのは、崩れた家の中からレオンが助け出した村人達。
「クレリック殿! 手当てを頼む!」
 続いてセレの騎士達が急ぎ船に運んで来たのは、空挺ゴーレムの牽引で事故を起こし、グライダーから投げ出された鎧騎士。
「おお! これは酷い!」
 降下作戦で一番の重傷者だ。戦いで味方に最も犠牲を出したのが盗賊でもカオスの魔物でもなく、ウィルの頼みとするゴーレムなのだから皮肉なものである。
 幸い、アリアンには重傷者をも即座に治癒できる程に神聖魔法の力を持っていたので、鎧騎士はリカバーの魔法で癒され事なきを得た。
 念のためアリアンは、船の入り口にホーリーフィールドを張り巡らしてもいた。盗賊やカオスの魔物の侵入を警戒していたからだ。もっとも今回の戦いではカオスの魔物は姿を現さず、盗賊達も作戦の早いうちに退治されていたので、アリアンの警戒も杞憂に終わった。

●戦い終わって
 戦いは終わった。
 王都に帰還するフロートシップの上で、ウィンターフォルセ領主のレンは遠ざかりゆくロメル子爵領を見て密かに決意。
「ウィンターフォルセのみんながこんなことにならないように、レンもこれからもっとがんばるのー」
 弱みに付け込まれて盗賊に利用されるのも、王国の政争に巻き込まれてゴーレムの下敷きにされるのも、御免こうむりたい。
 自分の仕事が一区切りつくと、総司令官ロッド卿は冒険者達を労うべく彼らの元に足を運んだ。
「ご苦労だった」
 見れば、ベアルファレスとエリーシャと越野春陽は、先の戦いの結果をまとめつつ、色々と意見を交わしている。
「随分と熱心だな」
 冒険者達の示す熱意に、ロッド卿もまんざらではなさそう。
「閣下、提案があります」
 と、ベアルファレスが進言する。
「聞こう」
「ウィル国のゴーレム隊に弓兵部隊を加えることを提案します。矢の飛距離と攻撃力を増強するため、バガン以上のパワーのあるゴーレムで編成するのです。対空能力を持つゴーレム隊は空戦能力を有するゴーレムやグライダーへの対抗策の一つとなり得ましょう」
「覚えておこう。後で検討する。他には?」
「では、私からも」
 と、続けて発言したのは春陽。
「空挺部隊に対する所感ですが、せいぜい2時間で活動限界を迎えるゴーレムでは、広範囲に渡っての展開は厳しいのではないかと考えます。短時間で完遂出来る作戦に限定しての投入か、或いは事前に活動を維持できるような体制を整えておく必要がありそうです」
「いい着眼点だ」
 短く答えるロッドの顔に浮かぶのは自信の笑み。
「今後、ゴーレムで戦う機会は増える。諸君らもこれまで以上に忙しくなるぞ」