ロメル領攻略戦〜特攻イムン魂A

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月20日〜07月24日

リプレイ公開日:2007年08月04日

●オープニング

●今度はトルクと戦争だ!?
 ウィル国王ジーザム・トルクの王命により発動された毒蛇団討伐戦は、悪逆非道なる盗賊『毒蛇団』を討ち滅ぼすための一大決戦。その戦場は毒蛇団の拠点が存在する広範囲な地域に及ぶ。大ウィル国を挙げてのこの戦いにウィルの各分国も参戦し、うちイムン分国はドーレン・イムン分国王が鍛え上げた虎の子のゴーレム空挺部隊に、その母艦となるイムン王家所有のフロートシップ2隻を援軍に送った。しかもドーレン王自らもフロートシップに乗艦し、空挺部隊の活躍を戦場にて観戦せんとする気合いの入りようである。
 ところが、だ。
「イムンの空挺部隊だと!? あんなキワモノ部隊など足手まといになるだけだ!」
 ゴーレム空挺部隊の討伐戦参戦を強く求めるドーレン王の要求に対し、討伐戦の総司令官であるロッド・グロウリング卿は遠慮会釈もなくこう言い放ったという。
 本人はこっそり言ったつもりだったようだが‥‥早くもその内容はドーレン王とその兵士達の知るところとなった。
「おのれロッドめ!」
「よくも我々を侮辱してくれたな!」
 イムンの兵士達が口々にロッド卿に対する怒りをぶちまけていると、そこにやって来たのはドーレン王。
「騒々しい。何を騒いでおるのだ?」
 兵士達は口々に訴える。
「陛下、もう我慢なりません!」
「大ウィルの大義のため、遠路はるばる参戦した我々に対するあの傭兵上がりの暴言! 断じて許せませぬ!」
 しかしドーレンは動じることもなく答える。
「ならばどうする? あのロッドと決闘するか? それともイムンの国を挙げてトルクと戦争するか?」
 兵士達は口を噤む。ロッドの剣の技量の高さはウィルで5本の指に入る程。そしてトルクの保有するゴーレム数はウィル最大。しかも向こうには一騎打ちで連戦連勝の正騎士エルム・クリークがいる。決闘でも戦争でも勝ち目のある相手では無い。
「斯様な暴言など聞き流せ。それよりも来る討伐戦にて、イムンの誇るゴーレム空挺部隊の実力を見せつけ、ヤツの鼻をを明かしてやるのだ」
 陰では色々と暴言かましてくれるロッド卿だが、公式な場においてはイムン分国に対し次なる要請を行っていた。
「諸君ら、誇りあるイムンのゴーレム空挺部隊には、最も困難なる使命を与えよう。毒蛇団の人質となったロメル子爵の一族を救出し、毒蛇団の支配下にあるその領民を解放するのだ」
 さらにロッド卿は、こうも請け負っている。
「これはイムン分国にとって華々しき晴れ舞台。イムン分国王陛下に敬意を表し、総司令官たる俺からも特別の配慮をさせていただこう。ロメル子爵領における降下作戦においては、空挺部隊の保有する6機のバガンに加え、さらに6機のバガン使用を認める。合計12機による降下作戦、さぞや見事なものになることだろう」
 本来ならば歓迎すべき条件だが、逆にこれは空挺部隊にとって悩みの種となった。空挺部隊としての降下訓練を積んだ鎧騎士のうち、十分な技量を持つ者はたったの6名に過ぎないのだ。
 イムンのゴーレム空挺部隊は地球の空挺部隊と同じく、パラシュートによってストーンゴーレム『バガン』を降下させるのだが、それ故の問題点を抱えている。パラシュートを有効に作動させるためには、かなりの高々度から飛び降りなければならない。その高さは雲を越え、地球の航空機が飛行する程の高度に達することもある。そしてそのような高度から降下した場合、目指す地上の目標地点に降下できる確率は非常に低くなる。地球と比べたら遙かに未熟な降下技術なのだから、誤差数メートル何に収まればまだいい方だ。霧や強風などの悪条件が加われば、誤差は数十メートルにも及びかねない。
 加えて降下させるのは重量0.9tのバガンである。これにゴーレムサイズのバラシュートを付けて降下させるのだが、人間の降下に比べたら着地の衝撃は格段に強烈だ。
 しかも降下目標はロメル子爵一族が監禁された領主館に、領民の住居が密集する村ときている。下手を打って領主館や民家の真上に降下してしまったら‥‥結果は想像したくもない。
「作戦参加は精鋭のバガン6体のみに限定して、残り6機はロッドに返上しては?」
「それでは我々が笑い者になるではないか!」
「しかし降下作戦が失敗に終わるよりはマシだろう?」
「成功するのか? 2つの目標に対して、たった6体のバガンの数で?」
「やはり数を投入せねば、成功は見込めぬ」
「しかし肝心の操縦士が‥‥」
 兵士達は議論すれども結論は出ず。その有り様を見て、ドーレン王は決断した。
「議論に明け暮れていても仕方がない。ここは冒険者に任せるとしよう」
 冒険者は困った時のお助け人。最後に頼りになるのは彼らしかいない。
「‥‥しかし、上手くいくのでしょうか?」
 心配する兵士にドーレン王は言い切った。
「案じて怖じ気づくな! 勇気を奮い立たせて飛べ! 最後にはイムン魂が勝つ!」
 このような経緯を経て間もなく、ドーレン王を依頼人とする次なる依頼が冒険者ギルドから出された。

『ロメル子爵領攻略戦において、我がイムン分国の誇るゴーレム空挺部隊を支援する冒険者を求む。作戦を成功に導くためとあらば、ありとあらゆる手段を試みることをイムン王の名において許可する』

 そもそもゴーレム空挺部隊など投入せず、騎兵や弓兵あるいは並みのゴーレム部隊で済ませておけば、ここまで苦労もしなかったろうに。しかしドーレン王に兵士達、口が裂けてもそんな事は言えない。
 ギルドに依頼を出したドーレン王は宿所に戻り、お抱えの宮廷占い師を招き寄せた。
「作戦決行日の天気は如何であろうな? 良き日和となればよいが‥‥」
 早速、占い道具を手にして占ってみた占い師だが、結果を見ておずおずと申し上げた。
「作戦決行日の天気ですが‥‥朝から夕方まで雨雲が低くたれ込め、所により強風も発生する荒れ模様の天気になる‥‥と、占いに出ております」
 ゴーレム空挺部隊、まさに踏んだり蹴ったり。

●攻略地域の概略図
 ┃〜〜┃─
 ┃湖┏┛─ 攻略目標?:領主館
 ┃〜┃?森 攻略目標?:村
 ┃┏┛─森
 ┃┃?畑森
 ┃┃畑─森
 ┃┃──森

●攻略目標A
【領主館の概略図】

〜│_____________森森
〜│____┏━━━━━━┓_森森
〜│____┃______┃_森森
〜│____┃_領■■■_┃_森森
湖│____┃_主■■■_┃_森森
〜│___正┻_館■■■_┃_森森
〜│___門┳__■■■_┃_森森
〜│____┃__■■■_┃_森森
〜│____┃__■■■_┃_森森
〜│____┃______〓裏森森
〜│____┃■■←馬小屋┃門森森
〜│____┗━━━━━━┛_森森
〜│_____________森森

  _:平地  ━:防護壁

 1マス5×5平方メートル

【領主館の状況】
 館内には毒蛇団首領の影武者と、その部下10名が潜む。
 館内に捕らえられたロメル子爵の一族は次の通り。
・ロメル子爵家当主
 高齢の老人。重度の薬物(阿片)依存症で寝たきり状態。
・ロメル子爵家当主の息子夫妻
 共に薬物(阿片)依存症で、判断力・行動力に難あり。
・ロメル子爵家当主の孫たち
 8歳の少年と7歳の少女の合計2人。
・ロメル子爵家の使用人達
 料理人の男性1人、侍女2人。年齢は14〜45歳。

●今回の参加者

 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4077 伊藤 登志樹(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4163 物輪 試(37歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●ドーレン王との会見
「たった4人か!?」
 集まった冒険者の余りの少なさに不満を表すイムン王ドーレン。しかし、その面々を見て
「よく来た」
 と、少し機嫌を直した。W杯における伊藤登志樹(eb4077)の健闘を忘れては居なかったのだ。と、同時に、シュバルツ・バルト(eb4155)には厳しい目。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの例に漏れず、トルクへの対抗心は押さえきれないのかも知れない。
 そんな分国王に対し、恭しく作戦を奏上する物輪試(eb4163)。
「単なる降下ではなく、着地を操作出来るのか‥‥」
「御意。只のパラシュートよりも着地地点の制御が効きます。パラグライダーの製作と改造についてご叡慮を」
 ドーレンは暫し、勿体ぶったように間をおいて
「宜しい。卿(おんみ)に任せよう」
 試と登志樹は一礼し、早速製作に取りかかるため退席した。

「さて。作戦の概要ですが」
 信者福袋(eb4064)は流れを説明する。
「天界思想をいち早く採り入れた空挺部隊はイムン宝。万が一にも下手を打ちつことがあってはなりません」
 ドーレンは機嫌良く頷く。頭の固い家臣の反対を押して注ぎ込んだ時間と金。その秘蔵の戦力を提供してやるのだ。大戦果を上げて、満座の前でジーザムに謝辞を述べさせねばならないのだ。
 福袋は指を折りつつ説明する。

・これはパラグライダーの実用化に向けた実戦試験である。
 無理な戦果を狙うよりも、天下にイムンの精兵を示すのが第一。

・空挺部隊は奇襲部隊である。
 奇襲とは成功時に多大な成果をもたらす一方、失敗しには全滅を覚悟すべき決死隊である。故に様々な手を打ち、リスクを回避せねばならない。
 今回さしあたって以下の二つの条件を必要とする。
1.降下に先立ち予め対空兵器を無効化。
2.セレ兵団による支援。

 福袋の現状分析は的確だったが、説明の途中からなぜかドーレンは不機嫌になっていった。
「それで、ロッド奴に頭を下げるのか!」
 福袋はやれやれと肩をすくめる。前日密かにイムンの家臣に根回しした事が筒抜けになったようだ。夕べ彼はこう説いた。
「‥‥しかしこの件、ロッド卿はイムンと昵懇でもない筈ですし、バガンを6機も貸与してくれたのは何か思惑がありそうです。‥‥挺部隊の失敗による不名誉を狙ってるんじゃないですか?」
 多分、空挺部隊に懐疑的な家臣が、分国王の考えを変えるために話したのだろう。そして、イムンとトルクの確執には根深いものがあるようだ。理性で考えれば、福袋の計略、即ち、ロッド卿に密かに空挺部隊に似せたバガンをロメル領に展開して貰い、降下失敗の場合には、さも降下成功したかのように出撃してイムンの面目を守る作戦は、この時点で瓦解した。
 反対派の家臣と同じ体臭を嗅ぎ取ったドーレン王は、福袋の話を遮ってまくし立てる。
「利益だと!? 喧嘩だと!? 何を言うか! 天界の商人よ。確かにお主の言う通り、これが商人同士のいざこざなら、お主の言う方法で丸く収めるのもよかろう。だが武人たる者、そして武人を束ねる王たる者は、戦いもせずに頭を下げることなどあってはならぬ!」
 手品の種が筒抜けでは是非もない。そういうわけで、ロッド卿と水面下の交渉を図ろうとした福袋の計画は頓挫したのである。

●パラグライダー作戦
 パラシュートと違い最初から開いて使用するパラグライダー。なぜか開かぬパラシュート、人生あばよと言う事態は避けれるために、育成に金と時間の掛かる鎧騎士の無用な損害を防いでくれる。
 ドーレンは、補修要員やら整備要員では足りず舘の下働きの女まで動員して、人海戦術を繰り広げる登志樹の熱心さに好意を持った。的確な事業割と息を持つかぬ指示の嵐に、女子供までが閲兵を受ける精鋭のようにきびきび動く。
「2班は休止。3班を呼んで交代。休憩しろ」
 登志樹は緊張の糸が断ち切れぬよう、凡そ45分のサイクルで休ませて行く。
「登志樹。卿(おんみ)も少し休んだらどうだ?」
 分国王自ら労いの言葉を掛ける。
「ドーレン王、あんたなら分かるはずだ。男には意地でも退けねぇ時があるのを。
だから俺は、この改造を退かねぇ! そして降下作戦を成功させてみせる!」
 それはドーレンの気持ちを代弁する言葉でもあった。
「冒険者で無ければ、家臣に加えたいものだ。だが、今は暫し休め。それともわしでは役者不足か?」
 すっかり乗り気のドーレンは、自ら号令を掛け指揮を始める。舘を挙げての突貫工事。かき集められた帆布を指定通りの形にするのだが‥‥。一つ一つ出来映えが違う。
 無理に無理を重ねて何とか作戦決行日までには用意できたが、テストする時間は無かった。
「大丈夫か?」
 流石に王は心配する。
「時間がねぇ! ぶっつけ本番で行く。真っ先に俺が行く。墜落しないのを見れば続いてくれるだろう」
 登志樹の自信満々な態度に、王は決行を許した。

●パラグライダー降下
 作戦当日。まだ冥い空をイムンの旧型フロートシップが進む。高度は凡そ3000m。領主舘の上に位置取る。
「この線までが凡そ1時間」
 朝の虹を見やりながら登志樹は蝋燭時計に火を点す。
「眠れたか?」
 試が緊張して尋ねた。
「いや。あまり‥‥」
 コンディションはベストではない。加えて、空は生憎の曇り空。船の下には分厚い雨雲が広がり、地上の様子はまるで見えない。
「悪いけど、ちょっと下の様子を見て来てくれないか?」
「そうだな。見当違いの降下は危険だ。舘の上から垂直に上がってバンクする」
 登志樹に頼まれたシュバルツは、早速グライダーを駆る。機体が雲に没して暫くすると、再び雲を突き抜けて現れた。船からかなり離れた地点である。
 翼を左右にバンクさせ
「丁度、この辺りが領主館の真上になるはずだ」
 と、足下の雲の海を示して大声で呼ばわるシュバルツ。
「確かだな?」
「場所にそれほどの狂いはないはずだ‥‥多分」
 今ひとつ自信が無い。結構な風も吹いているから、領主館から真っ直ぐ真上に昇ったつもりでも、グライダーが風に流されていることだって有り得るのだ。
 やがて蝋燭時計が1時間の時の経過を示す。
「では、私は先に」
 と、シュバルツのグライダーが一足先に雲の下へ向かった。
 そして登志樹と試の操縦する2体の中古バガンは、その体にパラグライダーを装着し、運を天に任せて船の外に飛び出した。そう。運を天に任せて。

●降下地点での戦闘
 厚い雲を突き抜け大鷲の如く、シュバルツ・バルトは舞い降りた。グライダーに遠慮なく轟音を吐き出させ、雷鳴の如く襲いかかる。逆落としに体当たりをするかのように浴びせる砲丸が、賊の一人をタルタルステーキに拉いだ時。賊は固まる不利を悟り分散した。低空で輪を掛けて追い散らし、駆け抜ける様に薙刀「牙狼」で伐り倒す。グライダーの重量と突進力を利用した攻撃だ。鎌で牧草を薙ぐよりも容易く賊を討ち取って行く。否、薙ぎ倒すと言うべきか。

「よし。想定通り」
 シュバルツは館の中に囚われていたロメル子爵の一族達が、コハク・セレ王配下の救出隊によって館の外に運び出されて行くのを見た。グライダーの空襲は取り返そうとする賊徒の妨害阻止に成功。残るは盗賊のみだ。
 救出隊が離脱するのを見、近くの森からはウッドゴーレム・ノルンの援護射撃がはじまった。槍のような矢は、舘の壁に当たれば穴を開け、賊に当たれば引き裂いて行く。
「‥‥感謝するべきでしょうが‥‥」
 有り難いがやりにくい。盗賊を狙って地上スレスレまで降りると、流れ矢に撃墜されかねない。
「バガンはまだか‥‥?」
 空を見上げても、そこには低くたれ込めた雨雲が広がるばかり。やがてぽつぽつと雨が降り始め、風も強まって来た。

●失敗
 雲が飛び違う。そんな空を突貫工事で作成したパラグライダーを装着したバガンが天降る。青空に真っ白い花のように咲く、筈であったが生憎の雨天。
「そっち、何か見えるか?」
「何も」
 雨雲の中、乱気流と格闘しながら、操縦者の登志樹と試は必死に風信機で連絡を取り合う。制御胞のスクリーンに映るのは上も下も右も左も前方も雨雲ばかり。舘も見えず標(しるべ)なく、風は怒りて雨は降る。煙の中にいるようなものだから、すぐ近くにいるはずの互いの姿も目視出来ない。

 ビリ! いやな音がした。強度の点で問題があったのだろうか? それとも水を吸って脆くなったてあろうか? 登志樹のバガンに着けたパラグライダーの布が裂けて行く。
 突然、雨雲が途切れた。雲の下に出たのだ。雲の中では実感できなかったが、破れ目のせいで登志樹のバガンは予想よりもずっと早いスピードで落下していた。しかも落下地点は領主館の真上!
 バギバキバキバキ!!
 落下の衝撃で領主館の屋根が破れ、梁が折れる。登志樹のバガンは屋根にめり込み、肩のあたりまで埋まった。
「大丈夫か!?」
 真っ先に駆けつけたのはシュバルツのグライダー。
「大丈夫だ、何とか生きてる」
 答えてバガンを動かそうとしたが思うように動かない。落下の衝撃で故障したのだ。後日、その瓦礫の中から隠れていた何人かの盗賊が掘り出されたのが、怪我の功名となった。
 一方、物輪試のパラグライダーは最後までその努めを果たしはしたが、生憎の強風で湖まで流された。バガンの機体はもろ水の中に突っ込み、かろうじて浮いている。幸い岸は遠くない。
「想定事項だ」
 肝が座っていると言うべきか。実に落ち着いたものである。岸を向き、すぐさま脱出せんと淀みない操作で制御胞を開けた。が。ここで想定外の事が起こった。
「うが!」
 なんと、運の悪いことに上からパラグライダーの布が覆い被さって来たのだ。布に巻き込まれてパニック。そのために身動きがとれなくなり‥‥。
「天界人殿!」
 あわや溺れかけたところへ、観戦中のフロートシップが着水。投げられたロープにしがみついて、漸く難を逃れることが出来た。

●成功の父
 二人の後に、パラシュートで続くイムンのゴーレム空挺部隊。雨雲のスクリーンと乱気流。それを抜けたら抜けたで強い風。着地地点が狂い散々な有様。
 あるいは湖に落ちる者、あるいは森の樹に引っかかり、脱出に手間取る者。そうでなくともあまりにも広範囲に散らされて、兵力の速やかな集結は困難な状態にあった。
「‥‥」
 フロートシップで観戦に臨んでいたイムン王ドーレンは、苦い思いを噛みしめる。口惜しさに声も出ない。そして、その原因の半ば、すなわち、その横で同じく観戦していた総司令官ロッド・グロウリング伯は、涼しい顔で王に一礼した。
「陛下は賢明なる王であらせられます。これが何を意味するかは王自身がよくご存じのはず」
 言葉は真に丁寧だが、唇の端に浮かぶ笑みがその本心を告げていた。作戦失敗の責任は何処に有りやと。
 力めて平静を装うも、口の中に広がる苦い味。実際に苦く感じる舌が顔色を変える。それでもロッドが去ると、分国王は王者の大度を取り戻した。
 正否は結果である。されど闕下の誠意である。ドーレン王は配下の騎士達に命じる。
「名誉の負傷を負った冒険者の手当てを頼む。かの者達はイムンの為に、危険も顧みずよくやってくれた」

 さて、破損した中古バガンの中から救出された登志樹と試だが。
 フロートシップのベッドに寝かされていると、ロッド卿がその顔に笑みを湛えてやって来た。
「貴殿らに感謝する。イムンの戦法が役立たずであることを、その身をもって証明してくれたのだからな。今後、ウィルにおいては俺の推薦するチャリオットによる降下が主流となるだろう」
 そう告げてロッドは去る。その態度に釈然とせぬ物を感じていた2人だが、やがて物輪試がぼそっと言った。
「‥‥閃いた」
 新型チャリオットにバガンを乗せ、さらにそのチャリオットにパラシュートを付けて降下させたら? それが物輪試の頭の中に閃いたアイデアだ。地上30mに達したところでパラシュートを切り離し、後はチャリオットの浮遊力を利用して降下すればいい。これなら戦場でも、フロートシップを敵のいる地上まで降下させずに済む。
「そうだな。降下機体はノルン級のウッドゴーレムでもいい。いや、あの旧型チャリオットにも載っかる小型ウッドを搭載すれば‥‥」
 降下方法を多様化してもいいだろう。より良い空挺部隊を生み出すためになら。