ロメル領攻略戦〜特攻イムン魂B

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 98 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月21日〜07月25日

リプレイ公開日:2007年08月18日

●オープニング

●今度はトルクと戦争だ!?
 ウィル国王ジーザム・トルクの王命により発動された毒蛇団討伐戦は、悪逆非道なる盗賊『毒蛇団』を討ち滅ぼすための一大決戦。その戦場は毒蛇団の拠点が存在する広範囲な地域に及ぶ。大ウィル国を挙げてのこの戦いにウィルの各分国も参戦し、うちイムン分国はドーレン・イムン分国王が鍛え上げた虎の子のゴーレム空挺部隊に、その母艦となるイムン王家所有のフロートシップ2隻を援軍に送った。しかもドーレン王自らもフロートシップに乗艦し、空挺部隊の活躍を戦場にて観戦せんとする気合いの入りようである。
 ところが、だ。
「イムンの空挺部隊だと!? あんなキワモノ部隊など足手まといになるだけだ!」
 ゴーレム空挺部隊の討伐戦参戦を強く求めるドーレン王の要求に対し、討伐戦の総司令官であるロッド・グロウリング卿は遠慮会釈もなくこう言い放ったという。
 本人はこっそり言ったつもりだったようだが‥‥早くもその内容はドーレン王とその兵士達の知るところとなった。
「おのれロッドめ!」
「よくも我々を侮辱してくれたな!」
 イムンの兵士達が口々にロッド卿に対する怒りをぶちまけていると、そこにやって来たのはドーレン王。
「騒々しい。何を騒いでおるのだ?」
 兵士達は口々に訴える。
「陛下、もう我慢なりません!」
「大ウィルの大義のため、遠路はるばる参戦した我々に対するあの傭兵上がりの暴言! 断じて許せませぬ!」
 しかしドーレンは動じることもなく答える。
「ならばどうする? あのロッドと決闘するか? それともイムンの国を挙げてトルクと戦争するか?」
 兵士達は口を噤む。ロッドの剣の技量の高さはウィルで5本の指に入る程。そしてトルクの保有するゴーレム数はウィル最大。しかも向こうには一騎打ちで連戦連勝の正騎士エルム・クリークがいる。決闘でも戦争でも勝ち目のある相手では無い。
「斯様な暴言など聞き流せ。それよりも来る討伐戦にて、イムンの誇るゴーレム空挺部隊の実力を見せつけ、ヤツの鼻をを明かしてやるのだ」
 陰では色々と暴言かましてくれるロッド卿だが、公式な場においてはイムン分国に対し次なる要請を行っていた。
「諸君ら、誇りあるイムンのゴーレム空挺部隊には、最も困難なる使命を与えよう。毒蛇団の人質となったロメル子爵の一族を救出し、毒蛇団の支配下にあるその領民を解放するのだ」
 さらにロッド卿は、こうも請け負っている。
「これはイムン分国にとって華々しき晴れ舞台。イムン分国王陛下に敬意を表し、総司令官たる俺からも特別の配慮をさせていただこう。ロメル子爵領における降下作戦においては、空挺部隊の保有する6機のバガンに加え、さらに6機のバガン使用を認める。合計12機による降下作戦、さぞや見事なものになることだろう」
 本来ならば歓迎すべき条件だが、逆にこれは空挺部隊にとって悩みの種となった。空挺部隊としての降下訓練を積んだ鎧騎士のうち、十分な技量を持つ者はたったの6名に過ぎないのだ。
 イムンのゴーレム空挺部隊は地球の空挺部隊と同じく、パラシュートによってストーンゴーレム『バガン』を降下させるのだが、それ故の問題点を抱えている。パラシュートを有効に作動させるためには、かなりの高々度から飛び降りなければならない。その高さは雲を越え、地球の航空機が飛行する程の高度に達することもある。そしてそのような高度から降下した場合、目指す地上の目標地点に降下できる確率は非常に低くなる。地球と比べたら遙かに未熟な降下技術なのだから、誤差数メートル何に収まればまだいい方だ。霧や強風などの悪条件が加われば、誤差は数十メートルにも及びかねない。
 加えて降下させるのは重量0.9tのバガンである。これにゴーレムサイズのバラシュートを付けて降下させるのだが、人間の降下に比べたら着地の衝撃は格段に強烈だ。
 しかも降下目標はロメル子爵一族が監禁された領主館に、領民の住居が密集する村ときている。下手を打って領主館や民家の真上に降下してしまったら‥‥結果は想像したくもない。
「作戦参加は精鋭のバガン6体のみに限定して、残り6機はロッドに返上しては?」
「それでは我々が笑い者になるではないか!」
「しかし降下作戦が失敗に終わるよりはマシだろう?」
「成功するのか? 2つの目標に対して、たった6体のバガンの数で?」
「やはり数を投入せねば、成功は見込めぬ」
「しかし肝心の操縦士が‥‥」
 兵士達は議論すれども結論は出ず。その有り様を見て、ドーレン王は決断した。
「議論に明け暮れていても仕方がない。ここは冒険者に任せるとしよう」
 冒険者は困った時のお助け人。最後に頼りになるのは彼らしかいない。
「‥‥しかし、上手くいくのでしょうか?」
 心配する兵士にドーレン王は言い切った。
「案じて怖じ気づくな! 勇気を奮い立たせて飛べ! 最後にはイムン魂が勝つ!」
 このような経緯を経て間もなく、ドーレン王を依頼人とする次なる依頼が冒険者ギルドから出された。

『ロメル子爵領攻略戦において、我がイムン分国の誇るゴーレム空挺部隊を支援する冒険者を求む。作戦を成功に導くためとあらば、ありとあらゆる手段を試みることをイムン王の名において許可する』

 そもそもゴーレム空挺部隊など投入せず、騎兵や弓兵あるいは並みのゴーレム部隊で済ませておけば、ここまで苦労もしなかったろうに。しかしドーレン王に兵士達、口が裂けてもそんな事は言えない。
 ギルドに依頼を出したドーレン王は宿所に戻り、お抱えの宮廷占い師を招き寄せた。
「作戦決行日の天気は如何であろうな? 良き日和となればよいが‥‥」
 早速、占い道具を手にして占ってみた占い師だが、結果を見ておずおずと申し上げた。
「作戦決行日の天気ですが‥‥朝から夕方まで雨雲が低くたれ込め、所により強風も発生する荒れ模様の天気になる‥‥と、占いに出ております」
 ゴーレム空挺部隊、まさに踏んだり蹴ったり。

●攻略地域の概略図
 ┃〜〜┃─
 ┃湖┏┛─ 攻略目標?:領主館
 ┃〜┃?森 攻略目標?:村
 ┃┏┛─森
 ┃┃?畑森
 ┃┃畑─森
 ┃┃──森

●攻略目標B
【村の概略図】
 〜│_______北門________畑畑畑
 湖│____┏━━┫┣━━━━━━┓_畑畑畑
 〜│____┃◆________◆┃_畑畑畑
 〜┫船___┃_■■_■■_■■_┃_畑畑畑
 〜┫着___┃集■■_■■_■■_┃__畑畑
 〜┫場__西┻落___■■_■■_┻東_畑畑
 〜┫___門┳__________┳門___→森へ
 〜┫____┃____◆◆_■■_┃__畑畑
 〜┫____┃_■■_◆◆_■■_┃_畑畑畑
 〜┫____┃_■■_◆◆_■■_┃_畑畑畑
 〜│____┃◆________◆┃_畑畑畑
 〜│____┗━━┫┣━━━━━━┛_畑畑畑
 〜│_______南門________畑畑畑

  _:平地  ━:防護壁
  ◆:盗賊の住居・見張り所
  ■:村人の住居
 ※1マス5×5平方メートル

【村の状況】
 村内には村人約300人が居住。
 村内に潜む盗賊の数は約30人。

●今回の参加者

 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4313 草薙 麟太郎(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb5735 結城 絵理子(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

ルエラ・ファールヴァルト(eb4199

●リプレイ本文

●イムン王と冒険者
「なんと、5人だけか?」
 集まった冒険者と直々に対面したイムン王だが、やはり人数の少なさには落胆したようだ。しかし、すぐに表情を和らげ、一同を歓迎する。
「よく来てくれた」
 冒険者の中には結城絵理子(eb5735)と加藤瑠璃(eb4288)もいる。ウィルカップでは2人ともイムンチームに所属していたから、イムン王も彼女の顔を覚えていた。
「久しぶりだな。今回も世話になるぞ」
「いいえ、私の方こそ。少しでも力になれれば良いのですけれど。そういえば、サッカーの時に会った人達はどうしてるでしょうか?」
 訊ねた絵理子にイムン王は微笑みを向けて答えた。
「トシキが別班に加わり、寝る暇も惜しんで頑張っておる」
 伊藤登志樹のことである。
「もう数ヶ月早く相談してくだされば、色々改善できたんですけどね」
 と、瑠璃。
「イムンのパラシュートは八角形だって聞きましたが、それでは空気のもれる量が多いから、最初から球面状に布を織るとか。それから地球には、落下中に動きを操作できるパラシュートがあるらしいんです。私は実際に見たことは無いけれど、そのパラシュートの側面には開閉可能な穴があって、穴から噴出する空気の力で前進したり旋回したりすることが出来るとか。‥‥でも今からじゃ、さすがに無理よね」
 すると、イムン王が言う。
「トシキは今、パラグライダーなる物を作っておるぞ。我が兵士達も総員で協力させておるが、人手はいくらあっても足りぬ。其の方らには出来る限り、有り合わせの物を利用して貰うことになるが、宜しく頼むぞ」
 瑠璃は早速、提案した。
「今回試すのは、縄で降下ルートを固定する事です。降下地点とフロートシップを縄で結び、縄を伝って降りれば、目標地点に降りられるはず」
「なんと!」
 イムン王は驚き、呆れた。
「空挺ゴーレムの母艦たるフロートシップが、どれだけ高く飛ぶのか知っておるのか!? あの図体のでかい船が、地上からは木の葉ほどの大きさにしか見えなくなる程の高さなのだぞ! そんな高みから地上に垂らせる程にとてつもなく長いロープを用意するなど、いくらイムンの国と言えども無理な話だ!」
「う〜ん」
 と、瑠璃は考え込んでしまう。
「それでは船の方を地面の近くまで下ろして、そこからロープで‥‥」
「ロープが届く程の高さでは、パラシュートが使えぬではないか!」
 空挺ゴーレムはあくまでも、パラシュートで降下させねばならぬ。と、イムン王は頑固にも決めつけている。瑠璃の提案は引っ込めるしかなかった。

●操縦技能
「陛下、俺も空挺部隊のバガンに搭乗させて頂きたい。なかなか命がけのようだが、回避術が重要なら俺以上に適任な者は居ないだろう」
 鳳レオン(eb4286)のこの申し出は、イムン王にとっては願ったり叶ったり。総司令官のロッド卿から追加の中古バガンを貸し出されたのはいいが、熟練した乗り手が足りず困っていたのだ。
「頼もしい限りじゃ。早速に手配致そう。他にバガンに搭乗したい者は?」
 イムン王が訊ねると、瑠璃と絵理子と草薙麟太郎(eb4313)の3名が挙手。それを見たレオンが絵理子に言った。
「度胸は買うが、絵理子の身のこなしでは危険だ。俺達に任せてくれ」
 レオンの目からすれば、絵理子の回避術はまだ熟練の域に達していない。
「でも‥‥」
 口惜しそうな絵理子を見て、イムン王が助け船を出す。
「ならば実際にバガンを動かして見るか?」
 そういうことでバガン搭乗を希望する冒険者達は、ゴーレムの訓練場に集められて、バガンを操縦する腕前を王の前で披露することになった。ゴーレムの歩行・走行など基本的な操縦の技能に加え、ゴーレムでの格闘能力も試される。
 結果を言えば、最も優秀な操縦技能を示したのは瑠璃。続いて麟太郎がまあまあの成績で、レオンと絵理子は格闘に関して素人も同然。
「ううむ‥‥」
 イムン王は悩む。集まった冒険者の腕前は、イムンの鎧騎士と比べても見劣りがする。ゴーレムの降下に成功したとしても、その後の戦闘がお粗末では話にならない。しかし、せっかく集まってくれた冒険者だ。それに盗賊を叩き潰すだけの戦いである。冒険者の未熟もゴーレムの力で何とか補えるのではないか?
 悩んだ末に、イムン王は決断した。
「クジ引きで決めよう」
 イムンの鎧騎士と冒険者が集まり、クジを引く。
 幸か不幸か、冒険者達が引いたクジは全員が当たりだった。
「もし許されるなら、バガンじゃなくデクで降下したいわね」
 そう希望したのは瑠璃。
「脆くてもバガンより軽いから、パラシュートの速度も落ちるはずだし、バガンより身軽に動けるもの。それに、ウィルカップのおかげで、デクの方が慣れてるし」
 それを聞いてイムン王は許可を下した。
「デクならウィルカップで使った機体がある。それを使わせよう」

●練習中止
「そういえば、事前に練習って出来るでしょうか‥‥?」
 ゴーレムでの降下など初めてだから、結城絵理子が不安になるのも無理は無い。そこでロッド卿より貸与された中古バガンを使い、イムンのフロートシップに乗って練習することになったのだが。
「いいか。本来なら1ヶ月かけるところを1日でやるぞ」
 降下訓練の指導をするイムン降下部隊指揮官が、さらりと言ってのける。
「最初はパラシュート無しで飛び降りる訓練だ」
 地上5m程の高さに船を浮かばせ、そこから飛び降りるのだ。
「‥‥この高さからですか?」
 バガンに乗り込んだはいいが、絵理子は恐々と下を覗き込む。
「この程度の高さで怖じ気づいてどうする!? 高空からパラシュートで飛び降りて着地する時の衝撃は、何も付けずにこの高さから飛び降りる程にもなるのだぞ!」
 今さら後には退けない。絵理子は勇気を振り絞り、船から飛び降りた。
 ‥‥どがしゃあん!!
 着地の衝撃は想像以上に強烈だった。
「しっかりしろ! 戦場でもたもたしていたら命は無いぞ! 立て! 立つんだ!」
「は、はい!」
 暫くの間、茫然自失となっていた絵理子だったが、指揮官にどやされてバガンを立ち上がらせようとした。ところが、バガンの足が動かない。
「動いて! 頼むから動いてよ!」
 懸命に念を込めて動かそうとしたが、尻餅ついた体勢で着地したバガンの足はガクガクと痙攣を繰り返すばかり。そのうちイムンの兵士達に、イムン王お抱えの整備士達が集まって来た。
「こりゃダメだ。着地の衝撃で内部の素体に亀裂が入ったようだ」
 ゴーレムの足を調べて整備士が言う。うなだれて制御胞から出てきた絵理子を、イムンの兵士が慰めた。
「貴女が悪いんじゃない。悪いのは、こんなオンボロを寄越したロッドのアホだ」
 もはや練習どころではない。
「これ以上、本番前にゴーレムを壊されても困る。本番は一発で成功させろ」
 と、指揮官が言う。はっきり言って無茶だ。
「あの‥‥せめて技術の上手い人に、降下のコツとか聞いておきたいんですが」
「いいだろう。俺が教えてやる」
 と、応じたのはイムンのベテラン鎧騎士。そういう訳で、絵理子はそれから降下のコツをみっちり聞かされる事になったが、さて効果の程は?

●進言
 草薙麟太郎が総司令官ロッド卿との面談を求めたところ、あっさりと受け入れられた。 ロメル子爵領に向かう中型フロートシップ『ラナンシー』には、観戦者として作戦に立ち会うイムン王やセレ王と同じくロッド卿も乗艦している。そのロッド卿の居室に麟太郎は通され、進言を許された。
「バガンによる空挺降下などというのは、ドラグーンの投入と比べれば恐ろしく非効率な戦術です。ですが、ドラグーンの数が限られている現状においては、運用次第でドラグーンの局地的代用品としての使用が可能だと思います。また、この降下作戦にしてもドラグーンが一機でもあれば、より作戦の精度が上がると思います」
「イムン王にも進言を行ったのか?」
「はい」
 ロッド卿に会う前に、麟太郎はイムン王に対しても同様の進言を行った。イムン王は麟太郎の話を最後まで聞いたが、空挺ゴーレムとドラグーンの併用についてはいい顔をしなかった。あのロッドがウィルに居座る限りその機会はやって来るまい。イムン王はそうまで言ってのけたのだ。
 そしてロッドも次のように言う。
「残念ながら、今回の作戦にドラグーンを投入する訳にはいかない」
「‥‥そうですか」
「しかし、貴殿の貴重な進言には感謝する。機会あらば空挺ゴーレムの運用についても、さらなる検討を加えたいと思う。但し、イムン抜きでな」

●作戦決行
 作戦決行の時が来た。
 降下作戦に使用されるイムンのフロートシップは、旧型フロートシップの『ティグロス』と『ドラグネア』。まだ朝も訪れぬうちから2隻のフロートシップは雲よりも高い高空へと飛び立ち、雲の上で夜明けを待つ。
「天気予報はどうだい?」
 腕時計で時間を確かめながら、麟太郎は同伴するペットのエレメンタラーフェアリーに訊ねる。
「え〜とね」
 フェアリーはウェザーフォーノリッヂの魔法を使い、6時間後の天気を教えてくれた」
「曇りだよ。雲がたくさん湧いて、強い風も吹くよ」
「‥‥‥‥」
 降下作戦にとっては、まるでうれしくない天気だ。
 やがて夜明けが訪れ、陽精霊の光がフロートシップを照らし出す。
 船の下には一面に広がる雲の海。
「これじゃ、まるで下界が見えないじゃないか!」
 どこもかしこも分厚い雲、雲、雲。これでは降下すべき目標地点も目視で確認出来ない。
「私が先行偵察に出ます」
 降下地点を確かめるべく、リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)の駆るグライダーで船から飛び立ち、雲の海の中に突っ込んだ。
 分厚い雨雲の中は薄暗く、濃い霧に包まれているようで何も見えない。雨雲の水分で、たちまちリュドミラもグライダーもぐっしょり濡れる。
「何て分厚い雨雲なの?」
 長いことグライダーを降下させ、やっと雨雲の下に出た。
 下は湖だ。目標である村がやや遠くに見える。村にいる賊に気が付かれぬよう、雲から出たり入ったりを繰り返して村に接近。ようやく村の上空に達した。
「目標地点、到着しました」
 風信機で連絡を入れるが応答は無い。船との距離が遠すぎるのだ。
 仕方なく、リュドミラは急上昇して分厚い雲を突っ切る。雲の上に出ると、離れた場所に浮遊するフロートシップに風信機で連絡を入れた。
「目標地点は、私のグライダーが浮かんでいる真下辺りです」
 フロートシップはリュドミラのグライダーに向かって動き出した。

●降下開始
「難しそうだけれど頑張ります!」
 そう気負い立つのは良しとしても、結城絵理子の服装がチアガールの衣装というのは如何なものか。
「その恰好でゴーレムに乗るのか?」
 ついつい訊ねてしまったレオンだが、絵理子からは元気のいい答が返って来た。
「ウィルカップではこのチアガール衣装で負けなしでした! ゲンを担いでこの恰好で行きます! さあ、頑張って行ってみよう!」
 景気づけに応援のダンスを踊ると、イムンの鎧騎士達も顔を綻ばせて声を張り上げる。
「ロッドのアホに負けられるか!」
「勝利はイムンに!」
 気合いだけは溢れるほど。しかし、気合いを込めさえすれば戦も上手く行くというものではない。
 船に戻って来たリュドミラのグライダーに、太いロープが取り付けられる。船で利用するロープを流用したのだ。もしも降下するバガンが本来のコースを外れたら、グライダーでこのロープを引っ張って牽引する。それが冒険者達の作戦なのだ。
(「正直、パラシュートにあわせた高速での降下はグライダーパイロットが危険だ。あまり賛成は出来ないが、背に腹は変えられない」)
 と、レオンは思う。
「では、行きます!」
 真っ先に降下を開始したのはイムンのベテラン鎧騎士が乗る空挺バガンと、そのバガンにロープで結ばれたリュドミラのグライダー。
「‥‥っと!」
 船上から見守る冒険者の目には、落下するバガンにグライダーが引っ張られて行くように見えた。
 上手く行けばいいが‥‥。
「さあ、俺たちも行くぞ!」
「行きまーす!」
 続いてレオン、絵理子、麟太郎の乗る空挺バガンが。そして瑠璃の乗るデクが。さらにイムンの鎧騎士達のバガンが次々に船から飛び降り、雲の中へと突っ込んで行った。

●降下失敗
 降下するバガンとグライダーにとって、分厚い雨雲の中というのは最悪だ。
(「今、バガンはどこに!?」)
 リュドミラの目に映るのは、グライダーの胴体から伸びるロープのみ。周囲を取り巻く分厚い雨雲が、その先に結ばれたバガンの姿を隠している。
「パラシュート、開きます!」
 風信機にバガンからの連絡が入った。そして次の瞬間‥‥。
「あっ!」
 リュドミラの前方に大きく広がる布が。
 運悪が悪いことに、開かれたパラシュートはリュドミラのグライダーを直撃したのだ。
 弾みでグライダーが錐もみ状態になる。何とか体勢の立て直しに成功した途端、分厚い雲を突き抜けた。
 すぐ真下に村の家々が見える。しかもバガンの落ちて行く先は、家々が密集するど真ん中だ。
「早く進路を変えなければ!」
 グライダーのスピード全開。リュドミラは必死になって、バガンの落下コースを変えようとする。だが、彼女に許された時間は短すぎた。
 目前に前に家々の屋根が迫る。
 グライダーを上昇に転じたが、バガンと結ばれたロープがグライダーを下方に引っ張る。グライダーは失速し、そのままバガンと共に落下。
 ベキベキベキベキ!!
 ゴーレムの下半身が家の中にめり込む派手な音を聞いた時、リュドミラの体は空中に投げ出されていた。

●教訓
「こちら絵理子。聞こえますか?」
「こちらレオン。バガンは何とか無事だけど‥‥下の家をぶち壊しちまった」
 風信機で連絡を取り合う絵理子とレオン。絵理子のバガンは森の上に落ちたお陰で、森の木がクッションとなって着地の衝撃を和らげた。それで五体満足に動けるのだが、レオンのバガンは村の牛小屋の上に降下してしまった。足のフットワークを効かせて回避しようとしたものの、かえって牛小屋を倒壊させてしまう結果に。村人を巻き添えにせずに済んだのが不幸中の幸いだが。
「こちら麟太郎です。足をくじきましたが、何とか動けます」
「こちら瑠璃。着地には成功しましたが、かなり遠くへ飛ばされてしまいました」
 と、麟太郎と瑠璃からも風信機で連絡が入る。
「リュドミラさんは?」
 呼びかけたが、リュドミラからの連絡は無い。
 ややあって、村人達の救出に携わるセレの騎士達からの連絡が入った。
「リュドミラ殿は負傷したので、我々が救出した。現在、我々のフロートシップ内で手当てを受けている。生命に別状は無い」
 一同、ほっと安心。
「では、これから私達も戦闘に加わります」
 絵理子が告げると、セレ騎士からの言葉が返って来た。
「いいや、無理はするな。後は我々に任せてくれ」
 聞けば、降下したバガンは強風で遠くに流されたり、湖に落ちてしまったり、着地の衝撃で故障したりと散々な有り様だった。
 その日の終わりになり、冒険者達はイムン王の前に呼び集められた。
「申し訳ありませんでした」
 と、冒険者達はイムン王の前に頭を垂れる。叱責の言葉を受けるかと思いきや、
「其の方達、命の危険も顧みずよくやってくれた」
 イムン王からは労いの言葉。なおもうなだれている冒険者にイムン王は言う。
「一度や二度の負け戦で、そうがっかりするな。この負け戦を教訓として打つべき手を打ち、次なる戦いに備えれば良きこと」
 冒険者達はようやく顔を上げ、イムン王の顔を見る。
「皆の者、覚悟せいよ。戦いはまだまだ先が長いぞ」
 そう笑いながら語りかけるイムン王だが、その笑いには何か剣呑な物が潜んでいるように見えたのは、気のせいだろうか?