サン・ベルデ監獄〜準備B鎮圧軍掌握

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月26日〜03月31日

リプレイ公開日:2006年04月02日

●オープニング

 サン・ベルデ監獄に対するトーエン・マウロ卿の視察は、却って暴動を引き起こす結果となった。
「薄汚い罪人どもめが、目に物見せてくれる!」
 命からがら脱出したトーエン卿。激怒した彼は控えていた30程の手勢を率いて再び挑んだが、一度立て篭もれば監獄は恐るべき砦と化した。取り付く場所とて無い断崖、その上から転がり落ちて来る巨大な石塊。腕に覚えの騎士達も、ただ空しく押し潰されて行くばかり。トーエンは配下の者に山を出る唯一の道を封鎖させ、この異変を知らせるべく王都に向かった。
「‥‥と、この様な次第なのだ。王は大変お怒りになり、ひとり残らず駆逐せよと命を下された」
 王の側近に呼び出されたドナート・フラルは、話の成り行きに面倒事を嗅ぎ取って、この寒いのに滲み出る汗を拭っていた。作り笑顔も強張り気味だ。
「この件に関しては、ホルレー男爵に出兵するよう、既に命を下した。蓄えを吐き出させるには良い機会ゆえな。失態を拭う機会をと懇願するので、ドナート卿にも参戦する事を許している。オットー・フラル卿もこれに加わり、蛮族討伐の経験者として、両者に助言を与えてもらいたい。事に繋がりがあるのなら、そなたらでなければ見えぬものもあろうからな」
 は、と頭を下げたドナート。これは内々の打診だから、断る事も出来る。ただし断れば、次の機会を得るのに、また大変な骨折りをしなければならなくなる。
「願っても無い事。謹んでお受け致します」
 うむ、と頷いた側近。
「良い機会だ。トーエン卿とも親睦を深めておくがいい」
 ご配慮痛み入ります、と有り難がりながら、内心頭を抱えるドナートだ。トーエン卿とは、領地を隣り合わせる間柄。多くの場合がそうである様に、間に様々な問題を抱えている。あまり仲は良ろしくない、というより、かなり悪い。ホルレー男爵にしても、相当な難物との噂。この組み合わせに、身も細る思いのドナートである。

 かくして、病身の父親に代わりフラル家を預かる若きオットー・フラルは、再び出陣せねばならなくなった。しかも今回は、自分達の裁量だけで戦うという訳には行かない。
「とにかく、この戦いはこの私めにお任せ頂きたい。お二方にはのんびりと、後ろで狩りでもしていてもらいましょう」
「ならばそうさせてもらう、と言いたいところだが、そうも行かん。失態を犯しても大目に見られるほど、王の覚えがめでたく無いものでな」
 火花を散らすトーエン卿とホルレー男爵。王のもとで引き立てられたトーエンと、王の行いを苦々しく思っている節のあるホルレーとでは、元々が水と油。
「あの‥‥その‥‥お二人ともそんなに怒鳴らないで‥‥」
 火花を散らす彼らの間で、おろおろするばかりのオットー。
「そもそも、オーグラの集団を寄せ集め風情で撃退したなどと俄には信じられませんな。一体どんな魔術を用いたのやら」
 睨みつけるトーエンに、オットーがびくっと後ずさる。とんだトバッチリもあったものだ。視線で助けを求めるオットーに、叔父ドナートは肩を落とし溜息をついた。
「忌々しい事だが、急ぎ冒険者どもを集めてくれ。ここはジーザム殿の名を盾に、二人の間に立ってもらわねばならん」
 手配を進めるドナートの脳裏に、側近の囁きが蘇る。
「知っているとは思うが、モーガン・ホルレーは領地が豊かなのを良い事に、何かと王から距離を置いて気ままに振舞う偏屈者だ。これといって反抗する訳でも無い故に、捨て置いてはあるが‥‥何か不穏の言動あらば、是非とも知らせよ。きっと王もお喜びになるであろう」
 ふと顔を上げた彼の目を、ホルレーが見据えていた。内心の動揺を隠す様に皆を宥め、場を取り繕うドナート。ここは慎重に動かねばならぬと、自らを戒める。
 現状で決まっているのは、ホルレー男爵が120、トーエン卿が60、そしてオットー卿が60、合わせて240の兵力を出すという事のみである。

●今回の参加者

 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3469 クロス・レイナー(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb4056 クナード・ヴィバーチェ(33歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4304 アリア・アル・アールヴ(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4392 リュード・フロウ(37歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4395 エルシード・カペアドール(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

ヴェガ・キュアノス(ea7463)/ リューズ・ザジ(eb4197

●リプレイ本文

●フラル隊野営地
 サン・ベルデ監獄における囚人200人の反乱。騒動の原因になったとはいえ、トーエン・マウロ卿の封鎖は迅速であり、また、モーガン・ホルレー男爵も突然の命令を疎む事無く、手勢を率いて速やかに戦陣に加わった。オットー・フラル卿の偵察部隊は、既に敵情の把握に努めている。皆、為すべき事は為しており、包囲は完璧とも見えるのだが。
「しくじりをした後というものは、皆が自分を笑っている様に思うものだ。ましてや相手が『フダツキ』のモーガン卿と、何かと不仲な当家とあってはな」
 まさに針のムシロであろうよ、とドナート・フラルは大笑いだ。
「モーガン卿からしてみれば、自分を疎む国王派の2人と組まされるのだ、何事にも疑い深くなるのは致し方なしというところか。我らはようやく勘気を解いて頂いただけの事だが、モーガン卿からしてみれば皆同じ、王に擦り寄る為なら手段は選ばぬ者と見えるだろうからな」
 ドナート、さすがにこういった部分での機微には敏感だ。
「二者の争いに付け込み自己の利益を確保する‥‥これも政治、貴族の裏側だね」
 エルシード・カペアドール(eb4395)の呟きに、そういう事だ、分かっておるではないか、とドナートは満足げだ。
 アレクシアス・フェザント(ea1565)は、仲間が調べてくれた情報を反芻しながら、どうしたものかと思案に暮れていた。
『サン・ベルデは許されざる極めて重罪の者が送られる監獄であり、ここに送られる事は即ち墓穴に叩き込まれるに同じ。屈強な男とて三月と生きてはいられない危険極まりなく過酷の一言に尽きる場所故に、同監獄に送られるくらいなら、多くの罪人は縛り首になる事を望む』
「そう。と、なると、カオスニアンと囚人達の結束は案外と固いかも知れないわね」
 であれば、三卿の結束は益々重要となる。エルシードとアレクシアス、そしてドナートが話し合っているところに、オットーも現れた。アレクシアスを見るなり、彼はぺこりと頭を下げる。
「ご助力、感謝致しますロード・ルーケイ」
 いきなり向こうから言われ、面食らう。改めて自分の立場の変化を実感するアレクシアスだ。
「仲間が今、二卿を説得しています。後でオットー卿にも交渉の場に出て頂きたいのですが、大丈夫ですか?」
 エルシードに問われたオットーは、緊張の面持ちながら、はい、と頷いて見せた。

●トーエン説得
 トーエン卿の陣に赴いた面々は、その露骨に迷惑そうな応対に内心苦笑していた。ジーザム・トルク分国王の庇護を受ける冒険者、しかもシャルロット・プラン(eb4219)はマリーネ姫のお覚え目出度き航空騎士。アリア・アル・アールヴ(eb4304)は『エーロン王子のしもべ』の名乗りを許されし者という事で、決して粗雑には扱われない。が、余り掻き回されたくない、という気持ちが言葉の節々から滲み出て来る様だ。
「トーエン様、また近隣の村の者が陳情に訪れております。今度はゴブリンが農閑期の蓄えを盗み食いして行ったとの事で‥‥」
「たわけ者! そんなものは聞く前に追い返せ!」
 まとまった数の騎士が珍しいのか、ここぞとばかりに、こんな陳情がちょくちょく来るらしい。苛々と歩き回るトーエンに、シャルロットは軽く咳払いをしてから話を切り出した。
「引き絞った矢のごとく叛徒を射抜き、彼奴を再度縄打つこと。失態を晴らす一番の特効薬はそれであるとお考えでしょう。しかし、武功を立てるには封鎖に奮迅した兵達を充分休ませ英気を養わなければなりません」
 彼女の指摘は的確だ。ホルレー隊の到着まで僅かな手勢で封鎖を続けていたトーエン麾下の騎士達には、明らかに疲労の色が見える。
「正面からの攻略はホルレー男爵の隊にお任せし、十分な時を稼いで頂きます。我々フラル隊は、敵の虚を突く汚れ役を引き受けます。トーエン様にはそれまでの間、控えとして戦力を温存して頂き、敵の攪乱が成功したところで突入、勝利を確定的なものにして頂きます」
「この作戦にご不満はありますでしょうか?」
 クロス・レイナー(eb3469)が気を遣いつつ、いつも以上に穏やかに問うてみる。
「控えなどに回されて、本当に功を為す事など出来るのか。出し抜かれればそれまでではないか」
 不満と不信の篭った視線を受け流しながら、クロスは考える。ここは慎重に言葉を選ばなくてはならない。と、アリアが進み出て口を開いた。
「今回の蜂起は、あまりに手際が良すぎます。予め計画されたものではなかったでしょうか。でなくば30人もの屈強なカオスニアン達が簡単に捕まるはずは無く、だからこそトーエン閣下も苦戦いたされました」
 アリアの物言いに、トーエンが、む、と片眉を上げて彼を見遣った。
「この蜂起が‥‥いや、カオスニアンどもが捕らえられた所から全てが仕組まれたものだったという事か? ‥‥馬鹿な、大半のカオスニアンは捕縛さえされない。見つかればその場で斬って捨てられるのだぞ。捕らえられたにせよ即刻縛り首か火炙りか。この監獄に来る事も、それと同等の意味を持つ。そんな偶然に頼った策略などあるものか」
 言いながらも、トーエンは言い様の無い不安に襲われ、言葉を詰まらせた。
「‥‥獄長がまだ生きているなら救い出して事の次第を問い質さなければならないな」
「はい。その為にも、我々が地均しした後に突入する、この役目を負って頂きたいのです」
 トーエンの心が動いていると見て、クロスが畳み掛ける。
「正面は最後まで激しい抵抗を受けるでしょう。虚を突いて突入する僕達は、あくまで奇兵。混乱を継続させる事で手一杯になってしまう筈です。どうか僕達をご信頼あって、最大の功をお立て下さい」
「仮にトーエン殿が正面から挑み敵を蹴散らしたとしても、事情を知らない男爵は‥‥いえ、王やその他の者達とて、単に相手が弱かっただけと考える可能性が高い様に思えます」
 むう、と考え込むトーエンに、アリアが迫る。
「陛下のお望みは男爵が私財を吐き出す事‥‥その点をどうか、お忘れ無きよう」
 追い討ちをかけるように、エルシードが彼の耳元で囁いた。
「ホルレー男爵に対しては、陛下の内意を承っています。こう言えば、お分かりになるでしょう? 先陣を男爵に譲り、戦力を浪費させた方が結果的に陛下の御心に沿う事になるのです」
 硬軟織り交ぜて利を説かれ、頑ななトーエン卿も遂に折れた。
「分かった。その方向で進めてもらって良い」
 感謝致します、と頭を下げた一同。お願いがあるのですが、とアリアが続けた。
「ゴーレム、およびグライダーの手配をお願いしたいのです。これは、王の覚え目出度きトーエン様でなければ叶わぬ事」
「男爵が王命を蔑ろにするということもあり得ます。しかし後ろで睨みを効かせればおかしな動きもできないはず。また、逆に敵を甘く見て大崩れしたところを助ける事にでもなれば、貸しともなるでしょう」
 と、口説くシャルロット。気持ちが動いた様にも見えたが、結局トーエンは考えておく、と言うに留まった。

「ああ、面子面子とアホらしい。威信は見せたい傷は負いたくないと、それで何が出来るというのかしら。虎の威を借るなら、せめてそれらしく振舞って欲しいものだわ」
 溜息交じりに呟くシャルロットに、クロスが笑いながら首を振る。自らの手で口を塞いで、洩れ出る言葉を飲み込むシャルロットだ。
「豚には豚の餌、犬には犬の餌ってね」
 エルシードが可笑しげに、しー、と口元に指を当てて見せた。
 作戦の打ち合わせと称して頻繁にトーエンのもとに通ったアリアは、彼の性格をこう結論付ける。
「トーエン卿は小心者なのです。故に自分の力を誇示するし、力や権威を損なうものには敏感なのですよ。脅威と逃げ道、あるいは得られる利益を分かり易く提示すれば、誘導するのは比較的簡単かと思います。ただし、追い詰め過ぎると暴発するかも知れません」
 なかなか面倒な性質ではある。

●ホルレー説得
 一方、ホルレー男爵の説得に挑んだ者達はというと。
「今回の討伐に男爵が指名されたのは、その心底を確かめる為と思われます。討伐に当たり、その成功は勿論ですが、如何に血と汗を流したかが問われるでしょう。文字通り、男爵麾下の者達の血と汗を‥‥」
 リュード・フロウ(eb4392)はホルレーに対し、誤魔化す事なくそう語った。これには、ふむ、と頷く彼。
「正面より攻める役目、我らに預けるか。それはもとより願っても無い事ではあるが、舌先ばかり働かせるトーエン卿は無論、ああも頼りないオットー卿に命を預け、敵前で一芝居打つのは少々躊躇を覚える。しかも華やかな功績は皆譲れというのではな」
 なかなかに手厳しい。ただ、彼はこちらの話を聞き流しはしなかった。クナード・ヴィバーチェ(eb4056)は、そこに一縷の望みを見出した。
「もし、この鎮圧が上手くいかなければ、カオスニアンがウィルの地に散って悪行の限りを尽くす、そんな一大事になりかねぬのです。そのことを、是非考えて頂きたい。一時でもいい、己の利害を超え、一丸となってことにあたって頂きたい‥‥」
 クナードの訴えに、ホルレーはむう、と唸る。
「正面からの攻撃は、最も重要かつ危険な役割。故にそれだけで、モーガン様の功を皆が認めぬ訳がありません。そもそも、他隊の60では囚人達を封じ込めるだけで精一杯、この役目を果たす事が出来ないのです」
 深螺藤咲(ea8218)は、穏やかな口調で諭しにかかる。
「トーエン様に失態を挽回する機会を譲っては頂けませんか。その事が、モーガン様の器量の深さを示す事に繋がると心得ます」
 藤咲の言葉に、腕組みをし、思案に暮れるホルレー。その耳元に、時雨蒼威(eb4097)が囁いた。
「この役目ならば、もし作戦が失敗に終わっても、自らは忠実に為すべき事を為したと胸を張れます。敵を引き付けるという目的を果たせるならば、決して無理な攻撃に出る必要も無い。もしも他の二卿がしくじった時には、手柄を持って行って構いません。程々に戦いながら、悠々とその流れを見ていれば良いのです」
 ホルレーは、じろりと蒼威を見遣る。
「邪心を吹き込むか」
「‥‥これは、失礼を致しました」
 すす、と下がる彼。
「良かろう。無事に役目をこなせるのであれば、特段言う事は無い」
 ホルレーの言葉に、皆、ほっと胸を撫で下ろした。
「気は進まないかも知れませんが、オットー卿、トーエン卿と話し合う場を持って頂きたく思います」
 リュードの願い出にも、分かった、と一言。
「囚人達の目を奪う為にも、ご配下の装備は、それなりに立派なものにしておくべきでしょう」
「何、そんな事までするのか!」
 そんな声を聞きながら、蒼威はふっと笑う。
(「指揮官達よ、我が掌で踊るがいい‥‥お、俺、悪の軍師ぽい?」)
 眼鏡を押し上げながら含み笑いをする彼に、藤咲が小首を傾げた。

●三者交渉
 他の二卿が訪れるまでの、中途半端に空いた時間。アレクシアスは、一振りの剣をオットーに差し出した。華麗な装飾がなされた、美しいレイピアだ。
「思いもかけず重責を担う事となり、これよりは窮地に駆けつける事もままならないだろう。故に‥‥この剣を贈る」
 剣の腕前はからきしのオットー。だが、この不器用な武人が考え抜いた末の贈り物に、彼は屈託の無い笑顔を浮かべた。
「ありがとう、アレクシアスさん」
 はっと気付いて、慌ててルーケイ伯と言い直す。アレクシアスが、その肩をぽんと叩いた。
「怯まず、堂々とな」
「はい」
 その声は、先ほどより随分と落ち着いていた。

 ニ卿の間に立ち、一生懸命に話を進めるオットー。後ろにはアレクシアスと蒼威が控えている。内容は、すんなりと先に交渉した通りにまとまった。加えて、フラル家からの申し出により、何事かあった時の為の遊撃部隊が編成される事となった。兵力は各隊より10名づつの、30名である。また、これはトーエン卿からの提案で、互いの交流の為、10名づつ兵士が交換される事になった。要するに、他家が妙な事をしていないか、監視役を送り合う訳だ。
「それから、先にご相談したゴーレムなのですが‥‥」
 促された蒼威が報告をする。
「偵察隊の調査では、随所で岩盤の脆い部分があり、ゴーレムの運用は極めて困難。加えて、上空では突発的な強風が頻発する為、グライダーの運用にも重度の危険が伴う、との事」
 考えていた策が使えなくなり、憮然とした表情の蒼威だ。
「そうか。実に残念だ」
 トーエンは言うのだが、こちらはほっとしている様でもある。頼むから参戦させて欲しいと願った末に、ついでにゴーレムを貸して欲しいと図々しく願い出るのは、出きれば避けたかったに違いない。
 実に和やかに進んだ話し合いだったが、
「ホルレー男爵には、是非とも全身全霊をもって戦って頂かなければなりません。でなければ、我々がいくら血を流したところで戦果は望めぬでしょうからな」
「大丈夫かな? 死を覚悟した囚人に賄賂も追従も効果は無いぞ」
 相変わらず間で火花は散っている。

 一通り話しが終わった後。アレクシアスはホルレー男爵に声をかけ、挨拶などしておいたのだが。
「モーガン卿のご領地は金の鉱脈を有し、非常に潤っているとの事」
「なんの、枯れかけの鉱脈から細々と慰めを得ているというだけの事。山勝ちな我が領地は耕作地を得る為に山裾まで切り開いている有様でしてな、実に汲々としたものだ。悠々と農地を放置し、花畑にしているルーケイの優雅さには遠く及びませぬ」
 どうやら嫌味を言われたらしい。
「おお、そういえば我が領地に住まう天界人の錬金術師が養蜂を手がけるとの事。是非ともその花畑、安く貸して頂きたいものですな。きっと良い蜜が取れる事でしょう」
 はっはっは、と笑うホルレーに、考えさせて頂きましょう、と大真面目に答えるアレクシアスだ。
「そういえば、近隣の村からの陳情があったと聞きましたが‥‥」
 こちらはオットーとトーエン卿。
「来なくなりましたな。厳しく叱りつけた故、無分別を思い知ったのでしょう。‥‥そんな瑣末な事に気を散らしている様では困ります。目の前の戦いに集中してもらわねば。そもそもオットー卿、貴方は──」
 フラル家に対する不満も含め、オットーはこってりと絞られる羽目になってしまった。