初めての蛮族討伐Ｃ【本隊３】
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■ショートシナリオ担当：マレーア１ 対応レベル：8〜14ｌｖ 難易度：やや難 成功報酬：4 G 98 C 参加人数：10人 サポート参加人数：-人 冒険期間：01月28日〜02月04日 リプレイ公開日：2006年02月04日 |
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●オープニング
突如王領に出没したオーグラの集団。その仕業は凄惨の一言に尽きた。躊躇なく村に火をかけ、なけなしの蓄えを奪って貪り食い、抵抗する者は無論八つ裂き。逃げ惑うばかりの弱き人々とて見逃しはせず、存分に弄った上で手にかけ、あろうことかその腹に収めてしまう。彼らは瞬く間に３つの村を飲み込み略奪と殺戮を思うままに楽しんだ後、それでもまだ食い足りなかったものか、更に内地へと侵攻する構えを見せている。続々ともたらされる知らせは、どれひとつとっても好ましいものが無い。国王エーガン・フオロは大いに怒り、速やかに駆逐せよと厳命を下した。と、近臣のひとりがエーガンに耳打ちをする。
「しかし、そやつは物の役に立つのか？」
「不名誉を晴らす機会を望んでいるのです。応えてやるも宜しかろうかと。慈悲でございますぞ」
「‥‥慈悲か、ふむ、確かにな」
その言葉が甚く気に入った様子。かくして蛮族討伐の任に、オットー・フラル卿が指名される事となったのである。
「このわしが根回しに根回しを重ねた末に掴み取った好機、見事役目を果たして王の期待に応えるのだぞ？」
自慢げに髭を扱く叔父ドナートの前で、真っ青な顔をして固まっている少年が、討伐を任される事となったオットーだ。１４といえばもう戦場に出て申し分無い年齢とはいえ、この坊ちゃん、帯剣すれば腰がふらつくという体たらく。
「すまぬ‥‥私が王の不興を買って以来、人は離れ手を差し伸べてくれる者とてなく、当家の立場は悪くなる一方。このままではお前への相続すら許されるかどうか‥‥しかし私はこの有様。もはや、お前自身の手で道を切り開いてもらう他無いのだ」
やつれ切った病床の父に言われては拒める筈も無く。いや、正確には王命が下った時点でもう、従うより他、道は残っていないのだが。
「皆も頼む。未熟な息子を支えてやってくれ」
未だ仕える者達に、事を託す。その顔の少なさに、主は改めて己の凋落を思い知るのだった。
３つの村に分散していた敵が、再集結しつつある。既に動き始め、獣といわず人といわず狩りながらゆるゆると進む先頭集団は、その数およそ５０。未だ村で寛ぐもの、周辺地域に好き勝手に出没し暴れているものも存在する為、全体ではこの倍程度の数はいるものと思われる。これらを堂々撃破して威を示し、以って人心を慰撫せしめねばならない。
「ご苦労。早速だが作戦を説明する」
颯爽と現れた黒髪の女騎士は、ジル・エリル。フラル家に代々仕える者であり、彼女自身、オットーを弟の様に見守りながらこれまでを生きて来たのである。その強い光を湛えた瞳からは、この戦にかける意気込みが伝わって来る様だった。
「我々は本隊の一翼を担いながら、敵を崩す好機あらば、これを突くべく大胆に動く事が許されている。あらゆる局面で臨機応変に行動し、敵の力を削ぐ事に重点を置いて戦うのだ」
戦いの花形と言える役割である一方、こういった駆け引きは時に、却って味方を危機に陥れるものでもある。その責任は重大と言わねばなるまい。
「この戦い、何としても勝つ。王領で仕出かした無法の代償が高額であると、あの鈍い頭にも分かる様に教育してやるのだ。それには──」
と、遠慮しながら近付いた近侍が、何やら彼女に耳打ちをした。
「あれほどオットー様に生水は飲ませるなと言っておいたではないかっ」
先ほどまでの凛々しい姿は何処へやら、あたふたと荷物の中から薬を取り出し慌しく去って行くその姿を、皆、呆然と見送ったのだった。
●今回の参加者
ea0602 ローラン・グリム（31歳・♂・ナイト・人間・フランク王国）ea1643 セシリア・カータ（30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国）
ea3486 オラース・カノーヴァ（31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国）
ea3519 レーヴェ・フェァリーレン（30歳・♂・ナイト・人間・フランク王国）
ea4844 ジーン・グレイ（57歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国）
eb0639 ジノ・ダヴィドフ（46歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国）
eb2433 ヴィクター・ノルト（36歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国）
eb4131 リーベ・レンジ（29歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス）
eb4221 ゲイザー・ミクヴァ（46歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4227 リゼッタ・ロウ（30歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス）
●リプレイ本文
●準備高地を得るのは戦術の初歩。周囲を見渡せる、低いなだらかな丘の上に布陣すると決まった事は、多くの者を安堵させた。
「どうやら悪くない場所に収まった様だな」
ジノ・ダヴィドフ（eb0639）が辺りを見回して納得し、ゲイザー・ミクヴァ（eb4221）と共に狼煙の合図を確認している所に、隊長ジル・エリルが現れた。
「お初にお目にかかります、ローランと申します。以後、宜しくお見知りおきの程を」
片膝をつき、その手を取ったローラン・グリム（ea0602）が手の甲に唇をつける。エリルは恐らく、こんな貴婦人の様な扱いを受けた事が無いのだろう、驚いた様子ではあったが、ごく自然に振舞った。どうやら、作法としては間違っていない様子。これに限らず、ここアトランティスと欧州では文化的な共通点も多い様だ。しかしローラン殿、相手が怒り出したらどうする気だったのだろうか。
「ジル・エリル殿、よろしく頼む。オットー様の指揮に期待しております」
恭しく頭を垂れたゲイザーだが、内心、軟弱な指揮官に不安を抱いていた。
（「この女騎士がやり手である事を祈る他無いか‥‥」）
今は、その力量を拝見、といったところだ。一通り顔見せが終わった頃、おもむろにオラース・カノーヴァ（ea3486）が口を開いた。
「俺達は敵の側面に食いつかなきゃならんのだろ？ なら、本隊から離れて伏兵すべきだ。その方が、確実に軟い喉笛を捉えられるぜ？」
冷たく、それでいて無邪気なオラースの言葉は、実に魅力的に響く。
「では、俺はそちらに志願しよう」
レーヴェ・フェァリーレン（ea3519）も後押しする。だが、ジル・エリルはその誘惑に靡かなかった。
「確かにそうだが、残念ながら本隊の戦力も十分とは言えない。これ以上兵を割けば、オーグラの突進を支え切れなくなる恐れがある。却下だな」
つれない返事に、肩を竦めるオラース。やれやれ、とレーヴェ。
「だが、進言、志願には感謝する」
アイデアは躊躇せず吐き出す。決まったら文句を言わず、率先して従う。戦場で望まれるのは、そういう人材だ。
「俺はジノ、前居た所じゃ放浪騎士をやってた、よろしくな。あー、それでだ、戦闘馬を是非とも拝借したいんだが、用立てられないだろうか」
無論フラル家も武門の端くれ、戦闘馬の準備くらいある。ジノには予備に連れていた馬の中から、一頭が貸し与えらる事となった。しかし、望まれても貸せないものもある。
「天界人に全てを頼るのは情けないと思うんですけど、どうでしょう？ ここはウィルの民の底力を見せつけませんか？ その為にゴーレム機器の配備を強く上申します」
鎧騎士リーベ・レンジ（eb4131）の気持ちは、エリルにも痛い程に理解できた。しかし。
「残念だが、ゴーレム兵器は希少な代物。国と国との正規の戦いならばともかく、蛮族相手の戦いに、有力貴族という訳でもないフラル家が如何に懇願しようとも一蹴されるだけだろう」
それが現実だ。どうしても乗りたいのなら、王族やトルク卿、工房が直接出す依頼、専門の養成コースに挑むのが早道だろうと、エリルはこっそり教えてくれた。
「戦いはどれだけ長引くが分からない。皆、十分な食料は確保しているか？ せめて従軍する日数分は持っておくべきだ。仮にも王領で略奪は許されないぞ。狩りの許可は得てあるから、不足分は己の腕前で調達するがいい。言う間でもないだろうが、過酷な戦場で空腹は命取りになるからな」
幾人かは、暫しの時間を狩りに費やす事となった。その間にも、陣地の構築は進められる。地道な作業に汗を流す者の中に、鎧騎士リゼッタ・ロウ（eb4227）の姿もあった。強弓の届く範囲全ての辺りの草を刈り、敵に身を隠す茂みを与えない。掘りと柵を巡らし、予備の武器を大地に植える。砦と言うほどではないが、堂々たる陣の完成だ。
（「ここで討伐が失敗してしまうと、領内には多くのオーグラが残って人々が危険に晒される事になる。それだけは避けなければ。僕は新米でまだまだけど、後悔しないように、あらん限りの力を尽くそう」）
汗ばんだ体から、寒風が体温を奪って行く。しかし震えている暇は無い。こうしている間にも、オーグラは迫っているのだ。
●戦闘
さて、そうこうするうちにキール隊（支隊１）よりの報せが届く。
「備えよ！」
エリルの号令に、持ち場につく一同。間もなくキール隊を追って敵が現れる。誘引が上手く行き、第一波は３０に満たない。討ち頃の数だ。それでも、その凄まじい突進を食い止めるのに、エリル隊は全力を振り絞らねばならなかった。
「何てタフな‥‥」
マグナブローの吹き上がる炎を突破して、雄たけびと共になだれ込んで来るオーグラ達。ヴィクター・ノルト（eb2433）は即座に頭を切り替え、ムーンアローのスクロールを手に取った。雄叫びを上げ飛び掛かり来るオーグラを、セシリア・カータ（ea1643）が牽制する。身体を包むオーラの輝きが恐るべき一撃を軽減し、それ自体魔力を帯びたレイピアが彼女の闘気を得て、怪物の命を削り取る。怒り狂うその脳天に突き刺さる、輝く矢。しかし、倒れ伏した仲間を踏みつけにして、更に敵は襲い来る。
「この土地での初めての戦闘‥‥痛烈な洗礼ですね」
ふう、と首を振る彼女。一瞬、押し返した隙を突いて突破、側面攻撃を狙うものの、頑強な抵抗を受け思うように動けない。動き出しを見計らってでもいるかの様に、一斉に投石を仕掛けて来る。馬は乱れ、更にはその間隙を突かれ、突破さえ許してしまう。
「行ってしまったものは構うな、本陣に任せよ！」
エリルの叫びは、苦渋に満ちている。しかし、不用意に敵を追えば圧力に抗し得なくなってしまう。
「ぐうっ！ このパワーは‥‥！」
必死に耐えるゲイザー。馬首を巡らせ取って返したジノが、加勢に入る。すかさずゲイザーが左に、そして、駆けつけたリゼッタが右に回り、敵の動きを制限する。怒り狂い暴れる敵を巧みな手綱さばきで往なしていたジノだが、遂にその拳が馬を捉えた。転がり落ちながらも、間髪入れず立ち上がり挑みかかる彼。
「このぉ！ 化け物がー！」
ゲイザー渾身の刃に腿を断たれ、よろめくオーグラに、次々と刃が突き込まれる。
「くそ、借り物だぞ！？」
喘ぐ馬に止めを刺し、嘆くジノ。大丈夫か、と剣を振るい駆けつけたエリルに、
「ここは任せて後ろに下がり、全体を見渡してくれ」
そう言いつつ、火消しに回る。
「堪えろ、我らの退却は全軍の敗北だ。今こそ冒険者の意地を見せるべき時なのだ！」
振り下ろされる棍棒のカウンターを取り、飛び掛り様に長巻を突き入れる。転げまわるオーグラを叩き伏せながらローランが飛ばした檄に、偉そだな、と笑うジーン・グレイ（ea4844）。勢いで押し切ろうとするオーグラに、ふん、と軽蔑の視線を向ける。
「大いなる父の怒りを知れ！」
黒き閃光に包まれたオーグラが、がっくりと膝をつく。何が起こったのか分からぬ様子の敵に突進するや、その口目掛け、手にした神酒『鬼毒酒』を叩き付けた。辺りに漂う強烈な香気。オーグラはふらつきながらも、立ち上がろうとしている。
「効いてはいる様だが‥‥やはり全て飲ませる方法を考えねばならんか」
この戦場で実験とは、豪胆というか何と言うか。リゼッタが死角に回りながら斬りつけ、最後の力も奪い去る。しかし、しぶとい。
「いい加減に倒れろ！」
リーベが駆け寄り、かわし様も無い渾身の一撃を叩き込んで、ようやく崩れ落ちた敵。それでもまだ起き上がって来るのではないかと不安になる心を振り払って、彼らは戦場を駆け回った。
オーグラの第一波は突き崩された。だが、すぐに舞い込むシフール伝令。ゲイザーが、ち、と舌打ちをする。
「もう来るか‥‥」
時を置かず、第二波到着。一旦は退こうとした生き残り２０程が仲間の到来に勇気を得、押し寄せて来た２０と混ぜこぜになって突進。しかし、最初程の勢いは無かった。
「これならば‥‥討ち漏らしても構うな、敵を蹴散らして側面に出よ！」
馬に鞭を入れ猛然と駆け出すエリルに、あれは性分なんだな、と諦めのジノ。遅れる事無く続いたのはオラースとレーヴェ。更にその後ろに一群が続くという状態。
「付き合うぜ。俺も男に生まれたからには、女を想って戦いたいからな」
子供の様な笑みを浮かべるオーラスに、呆れるエリル。
「馬鹿な事に気を取られていると、命を無くすぞ」
「なに、女のことを意識して戦うくらいでちょうどいい」
敵を斬り分け側方に躍り出た彼らは、馬首を巡らし敵集団の背後に突進する。
「やれやれ。結局、何処へ行こうと俺には戦う事しか出来んという事か。まあ、それもいいだろう。そこに斬るべき敵がいるのならば」
そんな達観した事を呟きながら、レーヴェは剣にオーラを乗せ、速度を上げる。側背からの襲来にうろたえるオーグラ達に、馬の突進力を込めたチャージング、そしてスマッシュ。頭を砕かれ吹っ飛ぶオーグラは、更に後続に切り刻まれて肉塊と化した。馬から飛び降りるや、猛然と敵中に飛び込むオーラス。彼は下馬した方が圧倒的に強かった。ロングソードを無造作に振るい、しかしその流れは最後、スマッシュの一撃に繋がっている。豪快な様でいて、長く戦い続ける為に負傷を最小にするこを忘れない。
「言うだけの事はあるという事か。敵を持ち直させるな！」
エリル隊の幾度とない突進に、オーグラの集団がぐずりと崩れる。
「全軍！ かかれぇぇぇぇぇ！！」
オットーの号令。均衡が崩れてからは呆気なかった。討ち取る敵が一気に増え、枯れ木に楔を打ち込んでハンマーで叩くように呆気なく戦果は拡大する。戦いは掃討戦に移った。
疲れ果て座り込んでいるリゼッタの肩を、エリルがぽんと叩いた。
「良い戦いぶりだった。その心掛けで研鑽すれば、きっと腕を上げる事が出来るだろう。もっとも、私には鎧騎士の事は分からないが」
がんばります、と応えた彼女に、エリルが微笑む。そこにやって来たローランは、エリルにシードルを進呈した。
「貴女から皆に振舞ってください。同じ祝酒でも美人に振舞われた方が嬉しいでしょう」
有り難く受け取ったエリルだが、さてこの１本をどうしたものか。
「我が隊勲功一番の者にこの酒を振舞おう。さあ、我こそはと思う者は名乗り出よ！ ただし恥を掻いても私は知らぬぞ？」
どっと笑いが起こる。前進して来るオットー隊。それを見るエリルの表情は、満足に緩んでいた。
戦いは、辛うじて勝利に終わった。見事役目を果たしたオットー・フラルは王の前で戦果を報告し、直接労を労われるという栄誉に預かった。さらなる残敵の掃討を命じられ、ドナートはお任せ下さいと大見得を切ったものだ。この戦いにおける第一の軍功は敵集団分断の具体策を考案、実行し成功させたシルバー・ストームとされ、彼はフラル家より感状を賜る事となった。しかし、彼の表情は厳しい。
「討ち果たした敵の数は？」
「そう、４０といったところかな」
ジル・キールの返答に彼は溜息をつく。負傷している者も多かろうが、つまりはまだ半数以上のオーグラが何処かを徘徊しているという事だ。
「飯の種が尽きなかったという事で、良しとしておくさ」
傭兵キールは、そんな不埒な事を囁いた。
ドナート卿は気分良く王都より帰還したものの、かかった費用を算出して頭を抱えた。そして、請合ってしまったさらなる任務。
「そういえば、天界人どももあれやこれやと出費を増やしてくれたのう‥‥くく、これ以上何かを用意しろと言う奴がいたら、その口を縦横斜めに裂いてくれるわ」
くけけ、と奇妙な笑い声をあげながら、そんな事を口走ったとか。
仕事を終え、デジカメに写した画像を確認しながら削除していた風神明日斗。彼の目が、中の一つに止まった。写した時には気付かなかったのだが、寛ぐオーグラ達の中に、人の様な影が写り込んでいる。ズーム最大で辛うじて写っていたそれは、そう思えばそう見えない事も無いといった程度の、判然としないものだ。
「ＰＣがあればもっとはっきりさせられるのに‥‥。せめてこの時に気付いていれば」
悔しがる明日斗。しかし、それほど離れていたからこそ撮れた絵とも言える。報告を受けたジル・エリルは、画像を見ながら暫し考え込む。が、思い当たる節は無い様子。
「ありがとう。どういう事なのかは分からないが‥‥心得ておこう」
彼女は明日斗にデジカメを返し、その働きを労ったのだった。
