サン・ベルデ鎮圧作戦Ａ【遊撃隊】
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■ショートシナリオ担当：マレーア１ 対応レベル：8〜14ｌｖ 難易度：やや難 成功報酬：4 G 15 C 参加人数：10人 サポート参加人数：2人 冒険期間：04月18日〜04月23日 リプレイ公開日：2006年04月27日 |
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●オープニング
カオスニアンの扇動によるサン・ベルデ監獄の反乱。先に行った偵察により、立て篭もる敵の状況が明らかとなった。「決起したカオスニアン３０の下、囚人の全てがこれに加わっている。若干名の逃亡者を出しはしたが、現在も合わせて２００に近い数を擁している事になる。奴らの手に正規の武具は僅かしかなく、大半の囚人はボロを纏い、ツルハシやシャベル、槌などを振り回している。が、まともな侵入経路は山肌を削って設けられた狭い道がひとつのみ。敵は人数を置きこの道を封鎖している上、攻めかかれば頭上から巨石を降らせて来る。既に幾人もの騎士を失ってしまった」
指揮官のひとり、トーエン・マウロ卿が苦々しげに語る。ただしそれは囚人達からしても同じ事で、彼らは２００という数を生かせぬままに、未だこの監獄に押し込められているのだ。十分な食料の備蓄があるとはいえ、そのストレスは並々ならぬものと推察される。対して、攻め手側はモーガン卿１２０、トーエン卿６０の兵力を擁している。
「道を封じる人数は、およそ６０程度。道の上には落石攻撃の要員に同数程度が控えており、残りは交代で休息を取っている。‥‥と、オットー卿からの報告にあったが、これは我々の見立てでも、ほぼ同じ結論に達している」
この作戦の名目上の責任者となっているモーガン・ホルレー男爵が、オットー・フラルの用意した絵図を指差しながら敵の配置を確認した。
「数で押せば何れは落ちようが、甚大なる被害を覚悟せねばなるまい。そこで、オットー卿の手の者が探り出したという迂回路だが」
モーガンに話を振られ、はい、とオットーが緊張の面持ちで答える。
「わ、私達がいる南側とは反対側の北側壁面は、一層険しい地形なので無警戒になっています。ですが、ここには大きな亀裂が走っていて、やり方次第で登坂できると証明されました。ここから人を送り込めれば、敵の守りを崩す事が出来る‥‥かな、と」
「ふむ、思いもよらぬ奇抜な策ですな。さすがはオーグラ討伐で名を馳せたオットー卿だ」
冒険者の受け売りで評価され、ちょっと申し訳ない気持ちになるオットー。叔父ドナートの方はトーエンの言葉尻に含まれた嫌味を感じ取って、憮然としているのだが。
「密偵を放っているとの話だが？」
話を振って来たモーガンに、頷いて見せるオットー。
「上手く行けば、手引きをさせる事が出来るでしょう。ただ、戦いの中で無事にこちらと接触できるかどうか分からないので‥‥もしも手首に天界文字の書き付けを巻いた者が現れたら、どうか保護をして、その情報をお役立て下さい。彼らは囚人そのままの格好といいますから、お間違え無きように‥‥」
オットーは冒険者から預かった、『密偵』が巻いている物と同じ書き付けを主だった騎士の分だけ配る。珍妙な文字だが、それ故に見間違えはすまい。ふむ、と書き付けを一瞥するトーエン。場合によっては手柄を持って行って良いというのだから、フラル家に思う所のある彼とて、そう悪い気はしない。
「物見櫓があるのが、ここ。正面からの道を登り、石切り場に入る所になります。矢など射掛けられるかもしれません」
「戦いの状況を見渡すにも適していよう。主要なカオスニアンどもはその辺りに居る可能性が高かろうな」
「捕らわれているという者達は？」
「獄長やドワーフ技術者達は、石切り場奥の宿舎にいます。同じ様な宿舎が並んでいますが、最も奥なので迷う事は無い筈です」
絵図を見ながら細部を詰める指揮官達。
「では、各隊の行動を確認する。我らの隊が正面より攻めかかり敵の目を引き付ける内に、オットー卿の手の者が北側よりの侵入を試みる。登坂に成功すれば敵の混乱を誘い、戦力の分断と落石攻撃の妨害を図る。失敗した場合も騒ぎにはなろうから、その混乱を突いてこちらは動く。我らは石切り場まで押し込み掃討を。続いてトーエン卿の隊が討ち入り、捕らわれている者達の救出、頑強なる対抗を行う者‥‥首謀者たるカオスニアンの一派という事になるだろうが‥‥これらの成敗に加わり、勝利を確実のものとする」
頷いて見せるトーエンとオットー。
「オットー卿ご自身には先の申し出の通り、遊撃隊として控えていて頂く。この戦いでは出番無きままに終わるやも知れぬが、本当にそれでよろしいか？」
はい、と答えたオットー。ではその様に、とモーガンが話を締めた。
オットー・フラル率いるフラル家の本隊は、遊撃隊としての役割を負う。同時に、マウロ隊、ホルレー隊から派遣された騎士達も引き受けるのだが。
「遊撃などと言っても、囚人どもは監獄に引き篭もったまま。出てこようにも出口に蓋をされているのだからどうにもならぬ。さて、我らはどう働くのですかな？」
大変な剣幕で詰め寄る他家の騎士達。
「カオスニアン達が敢えて篭城を選ぶのは、何か思惑があっての事ではないか、と‥‥その為の備えなので‥‥」
これも冒険者からの受け売りだ。従って、反論されるととても弱い。
「はっ、とんだかいかぶりですな。頭が悪いのですよ奴らは。やれやれ、この戦いは見物だけで終わってしまいそうだ」
あっさり否定され、しゅんとなるオットー。その頭の上で、話は続く。
「いっそ訴えのあったゴブリン退治にでも向かいますかな、暇つぶしには丁度良いというものだ」
「おやおや、何と軽率な。そういう事だから尻を巻くって逃げ出す羽目になるのだ」
「聞き捨てならん！ そういう態度だから主からして信用を得られぬのだ！」
とうとう喧嘩まで始まって、もはや手が付けられない。
「‥‥何たる有様だ。娼婦同士の諍いの方がまだ品があるわ」
ドナートが諦め顔で首を振る。この散々な部隊に目的を与え、戦いが終結するまでの間、有効に機能させなければならない。相変わらず頼りないオットー卿を助けつつ、経験がその糧となる様、気配りのできる者が求められる。
●今回の参加者
ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン（34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国）ea2226 ララァ・レ（19歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト）
ea4857 バルバロッサ・シュタインベルグ（40歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国）
ea4944 ラックス・キール（39歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国）
ea5597 ディアッカ・ディアボロス（29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国）
ea7522 アルフェール・オルレイド（57歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国）
eb4072 桜桃 真治（40歳・♀・天界人・人間・天界（地球））
eb4086 吾妻 虎徹（36歳・♂・天界人・人間・天界（地球））
eb4368 験持 鋼斗（26歳・♂・天界人・人間・天界（地球））
eb4428 エリザ・ブランケンハイム（33歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス）
●サポート参加者
アレクシアス・フェザント（ea1565）／ 高木 慶介（eb4804）●リプレイ本文
●もしもの備え「もしもの備えと仰るが、その『もしも』とやらはいつになったら起こるのか、それがしの頭でも分かる様に説明をしてもらいたいものですな」
「何が起こるかわからぬのは、監獄内部も同じ事。戦力はあってあり過ぎるという事は無いのです。こんなところに遊ばせておくくらいなら、最後尾にでもついて突入した方がまだマシというもの」
ホルレー、マウロ両家の騎士達に囲まれて、やいやいと言い立てられるオットー・フラル。派遣されて来た騎士達は水と油の様に仲が悪い癖に、オットーの前に立つと途端に共闘を始めるのだ。と、そこに飛び込んで来たのはララァ・レ（ea2226）だった。
「へへ〜オットー様〜！ この度はしがない赤シフールのご登用、ありがとうごぜえますダ！」
地面にべったり平伏して、全身全霊で感謝の念を表現してみる。
「あ、えと、うん‥‥頑張ってね」
オットーまで圧倒してしまったのは想定外。さて困ったどうしよう、と考えているところに、救世主現る。
「何か、問題でも？」
遠慮もなく入って来たのは、ルーケイ伯の与力バルバロッサ・シュタインベルグ（ea4857）だった。オットーの横にどっかと腰掛け、ぎょろりと一同を見渡す。意見があるなら俺も共に聞こう、と彼が言うと、騎士達は顔を見合わせ、憮然としながらも引き下がった。
「まあ、うるさく言う奴は何処にでもいるもんだ、気にするな。‥‥じゃない、気にしない事です。それよりも、その『もしも』への備えに、斥候に出る許可をもらいたいんですが」
了承を得た験持鋼斗（eb4368）は、ディアッカ・ディアボロス（ea5597）と共に策敵の計画を立て始めた。
外で腐っていた騎士達を、ニルナ・ヒュッケバイン（ea0907）は懇々と説得した。
「騎士の本分は弱き者を守り、弱き者の剣のはずです。それを、我が我がと手柄の取り合いとは、恥ずかしくはないのですか？」
「まあ、何もしないことほど難しい仕事はないからな」
アルフェール・オルレイド（ea7522）が宥めるのだが、騎士達はすっかりヘソを曲げてしまってどうにもならない。と、またもやひらりと舞って来たララァが場の空気を変えた。
「おじさん達、選ばれた精鋭なんでしょ？ なんたってココは本陣を守る最後の砦だし！ 戦場のイロハ、ララァ達にも色々教えてくれると嬉しいなっ♪」
褒めた。これを皮切りに、その小さな口から溢れ出る褒め言葉の数々。呆然としていたニルナに向かって、ララァはこっそり笑みを浮かべ、ぺろりと下を出して見せた。
（「まさか、褒め殺し作戦！？ ララァさん、おそるべし‥‥」）
思わず感心してしまう。騎士達の気持ちが十分に解れたところで、エリザ・ブランケンハイム（eb4428）が口を開いた。
「つい先日、大量の山賊を馬車で逃がした奴等が居るの。軍馬を操り多くの馬車を用意出来るような、山賊残党とは「別の集団」よね！ で、そいつ等がもしかしたら此処にも来るかもしれないわ。まぁ、来ても三家連合の前じゃ退散するだけでしょうけど！ だけど奴等が此処に現れること事態マズイって思うのよ。罪人や囚人を解放して回ってる集団が居るって話が広まればウィルは混乱するわ。他の監獄での暴動の呼び水にもなるだろうし‥‥。不審な者達を此処に近付かせない為にも警戒は重要だと思うわ」
一気に捲くし立てた。自分でも少し大袈裟かもしれないと思いつつ、でも他人を説得するなら、言い切ってしまえなければ上手くはいかない。
「‥‥ああ、その話なら小耳に挟んでいる。しかし、そ奴らが何者にしろ、こんな戦の真っ只中に首を突っ込んでくるなどありえん事だ。まったく、お嬢さんの考える事は実に奇抜だな！」
膝を叩いて笑いあう騎士達に、エリザの眉がぴくぴくと震える。
（「が、我慢よエリザ‥‥私が暴れちゃ台無しだものっ」）
「もし俺が敵の将なら、勝利が決まったと油断した瞬間にカウンターを狙うな。そこが狙い目ってのは確かなんだから、警戒だけはしておこう」
ラックス・キール（ea4944）の指摘に、まだ騎士達は納得していない表情だが。
「そんな緻密な連絡が為されているとはとても思えないが、まあ確かに注意しておくに越した事は無いか。万が一にも失態があれば、尚の事、面目が立たぬ訳だしな」
なんとか飲み込んでくれた。ほっと安堵する一方で、なんだか釈然としない思いの残るエリザなのであった。
ところで、ニルナはペットとしてグリフォンを連れているのだが。
「この子の前で握手させて下さい。人の言うことを良く聞く勇敢な僕なのですが、仲間という事を覚えさせておかないと、襲ってしまうかも知れないので」
こんな話を持ち出したものだから、却って不安がられてしまった。
「そんな厄介なもの連れて来るなよ」
「他部隊も回って来ないと不味いんじゃないか？ やってる間に戦いが終わってしまいそうだな」
とまあ、散々な反応。
「あんたの責任でちゃんと面倒見ておけ。手綱をつけてあるならまあいいが、とにかくそいつの横から離れるんじゃないぞ」
厳しく言い渡されてしまった。
アルフェールは腕を振るって、皆の為に温かい食事を用意した。戦場にあって、これほど有り難いものは無い。桜桃真治（eb4072）も保存食の干し肉を調理して一品を添える。
「まぁ、だらけず、緊張しすぎずだな。気を引き締めるためにも、後でひとつ、手合わせしよう」
アルフェールの申し出に、暇を持て余していた騎士達が乗って来た。戦いではアルフェールが圧倒的だったが、それでも随分と気晴らしにはなった様だ。
その夜、月明かりの下で。
「‥‥？ 何をしているんですか？」
といかけるオットーに、皆が、しーっと口に手を当て、指差して見せる。そこでは吾妻虎徹（eb4086）と真治が寄り添いながら、何事かを囁き合っていた。
「ララァ☆アイが怪しいものを発見しちゃったわけよ〜。あの２人は怪しいと思ってたのよね〜」
とララァ。若者はいいな、素晴らしい、と頻りに頷くアルフェール。と。
「そんな所にたむろして何をしとるか！」
トーエン卿は、皆が口に指を当てても意図が伝わらなかった様で、どかどかとやって来た。物陰から負け出る一同。ぎょっとして振り返った虎徹と真治の指には、誓いの指輪が光っていた。
●察知
作戦決行の時を間近に控えた、早朝、まだ薄暗い中での事。ディアッカと鋼斗は、僅かな大地の稜線に身を潜めながら、遠くに蠢く影を凝視していた。
「‥‥やっと追いついたか。かなりいるな。１００は割るってとこか？」
「バーストで見えたのはゴブリン戦士と、稀にオーグラでしたが‥‥」
この暗さでは目視で確認するのは難しい。これ以上の接近も危険と思われた。森林地帯にまで足を伸ばした彼らは、そこに幾つものキャンプの跡を発見したのだ。それが、前日夕刻の事。そこから、敵の姿を求めつつ味方のもとを目指していた彼らである。先に飛ばしたシフール伝令は、果たして無事役目を果たしたものか。味方が動いている気配は感じられない。
「おまえがひとっ飛びして知らせて来いよ。俺は自分の面倒くらい見られるぞ？」
にっと笑った彼に、ディアッカが頷く。気をつけて、と言葉を残し空に舞ったディアッカを見送って、ふう、と息をつく鋼斗。
「あれに見つかったら死ぬな、確実に。さて、どうするよ俺」
座り込んで、頭を捻る彼である。
ディアッカがアレクシアスのもとにこの報せをもたらしたのは、突入隊から『予定通りに決行』とのシフール伝令が舞い込んだのとほぼ同時の事だった。アレクシアスは、この時初めて新たな敵の存在を知る。‥‥つまり、先に放った伝令はたどり着けなかったという事だ。
敵接近とのディアッカの報を受け、アレクシアスは即座に動いた。危険を押してゴーレムグライダーを飛ばした結果、敵は７０程度の勢力と判明する。しかしこれで、敵も気付かれたと察したのだろう。たいまつを焚いて掲げ、耳障りな鬨の声を挙げながら、一斉に攻め寄せて来た。
「ホルレー隊に援軍を要請しようと思うが、どうか」
アレクシアスの問いにオットーは頷きかけて、暫しの逡巡の後、首を横に振って見せた。
「それは‥‥駄目だと‥‥思います」
もしもの時に敵を防ぐのが私達の役目ですし‥‥と自信なさげに言うオットー。
「ならば、俺達だけでどうにかするしかないな」
満足げな笑みを浮かべながら、アレクシアスは『遊撃隊で対応可。作戦を遂行せよ』とのシフール伝令を各隊に飛ばした。
●襲来
「まさか本当に現れるとはね‥‥」
ラックスが呟く。騎士達は、思いもかけぬ出番に興奮を隠せないでいる。
「剣を掲げよ！ 我らここで討ち死のうとも、一兵たりとも通すまいぞ！」
おう！ と声を揃える。大盛り上がりの様子に呆れながら、まあいいけど、と肩を竦めるエリザ。ちらりとオットーを見遣れば、こちらは腰のワスプレイピアを弄くりながら、所在なげに立ち尽くしている。何だか今にも卒倒してしまいそうだ。
奇声を発しながら目前まで迫った、その敵の足が止まった。ずしりと踏み出したバガンの姿に、肝を潰したのだろう。その威容を覆い隠していた夜の闇は次第に薄らいで、空は虹色に染まりつつある。
幾匹かのオーグラが、雄叫びをあげた。その声に触発される様に、ゴブリン達がたいまつを投げ捨て、剣と盾を掲げてガンガンと打ち鳴らす。剣を引き抜いたアレクシアスが、短く『かかれ！』と叫ぶ。押し寄せる敵勢を、こちらも真っ向から迎え撃った。
「きさまら、ここを抜けると思うてか！」
むん！ とシールドソード一閃、ゴブリンを両断したアルフェールに、無数の刃が振り下ろされる。これを巧みにシールドで防ぎながら、更に一閃。敵わぬと見ればあっさりと退き、しかしまたぞろ弱いところを見つけては殺到する。彼らの戦い方は重々承知だ、油断はしない。が。驚くべき跳躍力で頭上を飛び越えたオーグラに、アルフェールはしまったと叫んだ。自分目掛けて降って来る敵の姿に、逃げる事も出来ず尻餅をついたオットー。飛び込んだバルバロッサがその恐るべき一撃を受け止め、ジャイアントソードを振るって跳ね除ける。バルバロッサさん、血が‥‥と震える声で呟いたオットー。唸るオーグラを前に、バルバロッサはポーションを一気に呷った。
「これも役目、お気になさるな」
笑顔を向けたつもりだが、果たして上手に笑えたかどうか。好機と見たか、喚きながら群がって来るゴブリン達をざっと見渡し、彼は剣を構え直した。
「神よ、我に力を与えたまえ！」
ニルナの祈りが侵されざる領域を生み出し、オットーを刃から遠ざける。彼女はその手を高く掲げ、振り下ろした。と、彼女のグリフォン、ソフィアが何処からともなく舞い降りた。逃げ損ねた哀れなゴブリンを、その爪で引き裂き、嘴で抉り殺す。バルバロッサに再び襲い掛かったオーグラは、飛来した矢に喉笛を貫かれ、もがきながら跪いた。間髪入れずその首を跳ね飛ばしたバルバロッサに、軽く弓を掲げて見せるラックス。
「逃げるゴブリンに引き摺られないで！ 下手をしたら取り囲まれ‥‥」
突出した騎士達を追い、忠告をしたエリザは、自分達が既にその状況に陥りかけている事に気付きぞっとする。いきなり引っ張られ何事かと振り向くと、一匹のゴブリンが彼女が腰に刺した短剣をかっぱらおうと格闘中だった。
「何するの！ 私はすっからかんなのよ！？」
刀を振るい追い払う。自分で言って泣けてきた。見回せば、そんな物騒なゴブリン達が３方から迫って来るではないか。これは本格的にまずい、と息を飲んだ彼女と騎士達を、一条の雷光が救った。
「やれやれ、どうにか間に合ったか」
駆けつけた鋼斗が放ったライトニングサンダーボルトが、嵩にかかって押し寄せようとしていた敵の一群を薙ぎ払った。殺到する騎士達を支え切れず、腰砕けに崩れて行くゴブリン達。最も激しく戦っていたオーグラがバガンの一撃を受け血反吐を吐いて倒れ伏すと最後の戦意も吹き飛んでしまったのだろう。ゴブリン達は算を乱して逃走を始めた。後はもう、単なる掃討戦である。
息絶えたオーグラの戦装束を、アルフェールは見た覚えがあった。
「せっかく拾った命を捨てに来おったか。愚かな‥‥」
「仲間の仇を討ちに来たんでしょうか」
呟いたオットーの腹をぼすんと殴り、感傷に浸っている暇などありませんぞ、と彼は笑った。
座り込んだ虎徹の服は、彼の血で赤く染まっていた。真治が声にならない悲鳴をあげる。
「言っただろ、お前は俺が守るって」
「わかったから、喋るな！」
震える手で服を脱がせ、傷を確認する真治。浅くは無い。が、適切な手当てをすれば、命に関わる傷ではない。安堵とともに、涙が溢れてきた。
「生きてるって、ほんとに幸せだ‥‥」
涙を零しながら微笑む彼女に、虎徹も精一杯の笑みを浮かべた。
間もなくして、監獄から勝鬨が挙がった。戦いは、鎮圧軍の勝利に終わったのだ。
後の調査で、以前ゴブリンの被害を訴えていた村を含む、幾つかの離村が壊滅している事が判明する。住民を皆殺しにして村ごと奪い、拠点として用いていたのだろう。陳情を蹴ったマウロの騎士達は、苦虫を噛み潰した様な顔で、その惨状を眺めていた。
●取調べ
救出された獄長の取調べにおいて、事の一端が暴かれた。彼はカオスニアンを奴隷や暗殺者として売買する闇のビジネスに手を染めていたのだ。それを、彼らにまんまと利用されたのである。当のカオスニアン達はことごとく壮絶な最後を遂げたが、逃げ損なって捕縛されたゴブリン戦士が、貴重な情報源となった。
「カーシアス‥‥解放。乱の種を‥‥」
あの女、話が違う！ こんな筈じゃなかった！ と喚き散らすゴブリンを相手に記憶を探るのは骨が折れたが、ディアッカは幾つかの言葉を拾い出すことに成功した。
「カーシアスは政治犯が収監される獄だ。そこを解放しようとしたというのか、カオスニアン風情が。混乱を招く為に？」
信じられない、とトーエン卿。やっぱり、と頷くララァ。十分に警戒しておくべきとモーガン卿に。
「しかし、そのカオスニアンどもも皆、骸になってしまったのだろう？ ならばもう心配はあるまい」
モーガンに、ディアッカは首を振った。
「何も無いのに、オーグラやゴブリンがこれだけの軍勢を相手に戦いを挑んで来る筈がありません」
まだ何処かにいるという事か、とモーガン。
「何にせよ、その罪は厳しく断罪されるでしょう。覚悟しておきなさい」
アリアが獄長に言い渡す。彼は力なく項垂れ、嗚咽を漏らした。
