サン・ベルデ鎮圧作戦F【突入隊3】

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月19日〜04月24日

リプレイ公開日:2006年04月27日

●オープニング

 カオスニアンの扇動によるサン・ベルデ監獄の反乱。先に行った偵察により、立て篭もる敵の状況が明らかとなった。
「決起したカオスニアン30の下、囚人の全てがこれに加わっている。若干名の逃亡者を出しはしたが、現在も合わせて200に近い数を擁している事になる。奴らの手に正規の武具は僅かしかなく、大半の囚人はボロを纏い、ツルハシやシャベル、槌などを振り回している。が、まともな侵入経路は山肌を削って設けられた狭い道がひとつのみ。敵は人数を置きこの道を封鎖している上、攻めかかれば頭上から巨石を降らせて来る。既に幾人もの騎士を失ってしまった」
 指揮官のひとり、トーエン・マウロ卿が苦々しげに語る。ただしそれは囚人達からしても同じ事で、彼らは200という数を生かせぬままに、未だこの監獄に押し込められているのだ。十分な食料の備蓄があるとはいえ、そのストレスは並々ならぬものと推察される。対して、攻め手側はモーガン卿120、トーエン卿60の兵力を擁している。
「道を封じる人数は、およそ60程度。道の上には落石攻撃の要員に同数程度が控えており、残りは交代で休息を取っている。‥‥と、オットー卿からの報告にあったが、これは我々の見立てでも、ほぼ同じ結論に達している」
 この作戦の名目上の責任者となっているモーガン・ホルレー男爵が、オットー・フラルの用意した絵図を指差しながら敵の配置を確認した。
「数で押せば何れは落ちようが、甚大なる被害を覚悟せねばなるまい。そこで、オットー卿の手の者が探り出したという迂回路だが」
 モーガンに話を振られ、はい、とオットーが緊張の面持ちで答える。
「わ、私達がいる南側とは反対側の北側壁面は、一層険しい地形なので無警戒になっています。ですが、ここには大きな亀裂が走っていて、やり方次第で登坂できると証明されました。ここから人を送り込めれば、敵の守りを崩す事が出来る‥‥かな、と」
「ふむ、思いもよらぬ奇抜な策ですな。さすがはオーグラ討伐で名を馳せたオットー卿だ」
 冒険者の受け売りで評価され、ちょっと申し訳ない気持ちになるオットー。叔父ドナートの方はトーエンの言葉尻に含まれた嫌味を感じ取って、憮然としているのだが。
「密偵を放っているとの話だが?」
 話を振って来たモーガンに、頷いて見せるオットー。
「上手く行けば、手引きをさせる事が出来るでしょう。ただ、戦いの中で無事にこちらと接触できるかどうか分からないので‥‥もしも手首に天界文字の書き付けを巻いた者が現れたら、どうか保護をして、その情報をお役立て下さい。彼らは囚人そのままの格好といいますから、お間違え無きように‥‥」
 オットーは冒険者から預かった、『密偵』が巻いている物と同じ書き付けを主だった騎士の分だけ配る。珍妙な文字だが、それ故に見間違えはすまい。ふむ、と書き付けを一瞥するトーエン。場合によっては手柄を持って行って良いというのだから、フラル家に思う所のある彼とて、そう悪い気はしない。
「物見櫓があるのが、ここ。正面からの道を登り、石切り場に入る所になります。矢など射掛けられるかもしれません」
「戦いの状況を見渡すにも適していよう。主要なカオスニアンどもはその辺りに居る可能性が高かろうな」
「捕らわれているという者達は?」
「獄長やドワーフ技術者達は、石切り場奥の宿舎にいます。同じ様な宿舎が並んでいますが、最も奥なので迷う事は無い筈です」
 絵図を見ながら細部を詰める指揮官達。
「では、各隊の行動を確認する。我らの隊が正面より攻めかかり敵の目を引き付ける内に、オットー卿の手の者が北側よりの侵入を試みる。登坂に成功すれば敵の混乱を誘い、戦力の分断と落石攻撃の妨害を図る。失敗した場合も騒ぎにはなろうから、その混乱を突いてこちらは動く。我らは石切り場まで押し込み掃討を。続いてトーエン卿の隊が討ち入り、捕らわれている者達の救出、頑強なる対抗を行う者‥‥首謀者たるカオスニアンの一派という事になるだろうが‥‥これらの成敗に加わり、勝利を確実のものとする」
 頷いて見せるトーエンとオットー。
「オットー卿ご自身には先の申し出の通り、遊撃隊として控えていて頂く。この戦いでは出番無きままに終わるやも知れぬが、本当にそれでよろしいか?」
 はい、と答えたオットー。ではその様に、とモーガンが話を締めた。

「さてと。俺らはサン・ベルデの裏手側に走る亀裂『精霊の爪研ぎ跡』を登って敵ん中に突っ込む役目だ。これで掻き回して、敵の抵抗を突き崩そうって訳さ」
 隊を預かる騎士ヘッグ・エッツは、しんどいから覚悟しとけよ? と笑う。亀裂の幅は狭く、両壁面で身体を保持出来るとは言っても、ほぼ垂直に切り立った壁を登ろうというのだから、これは尋常な話ではない。
「突入するのは3隊。先に行くキール隊が経路を切り開くんで、俺らはその後に続くって形になる」
 サン・ベルデ周辺は森林が伐採され、丸裸の状態である。『精霊の爪研ぎ跡』に接近する段階から発見されぬ為の配慮が必要となる。実際に登った熟練者は身ひとつの状態で、ロープと自分の技術を頼りに半日をかけて登り切ったが、3隊の隊員全員にそのレベルを要求する事は出来ないだろう。大勢が動く事もあり、丸1日程度の時間はかかるものと思われる。この亀裂の近くには滅多に人は寄って来ないというが、一度発見されれば逃げ場所も何も無い。ただの的となってしまう。
「こっちの動きを隠すのはキール隊の役目なんだが、まあ俺達も出来る限りの協力はすべきだろうな。手を抜いて命を無くしたんじゃ、目も当てられない」
 成功すれば、全く無警戒の石切り場裏手に出る事が出来る。30の戦力が内部に突然湧いて出る事になり、囚人達を大混乱に陥れる事が出来るだろう。
「登坂後は、敵戦力の合流阻止が第一の任務になる。特に、宿舎で休んでる連中だな。こいつらをどうにかできれば、戦いはぐっと楽になる筈だ。‥‥と、いう訳だから、何かいい作戦、考えといてくれよな」
 んじゃ頼んだ、と一言、ぐうぐうと昼寝を始めた。相変わらずの空っぽ頭が無事任務を果たせる様に、是非とも良い知恵を貸してやって欲しい。

●今回の参加者

 ea2538 ヴァラス・ロフキシモ(31歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea4169 響 清十郎(40歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)
 ea5998 エルミーシャ・メリル(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb0884 グレイ・ドレイク(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2330 ゲオルグ・マジマ(39歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb4035 ミシエル・パルス・ガロー(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4056 クナード・ヴィバーチェ(33歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4299 皇 竜志(25歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4322 グレナム・ファルゲン(36歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4378 樹 華沙羅(23歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

シャムームイア・ムハラディカ(ea5111

●リプレイ本文

●這い上がれ<エッツ隊編>
 エッツ隊の作戦会議が始まろうというまさにその時、隊長ヘッグ・エッツはぐうぐうとイビキをかいて眠っていた。
「コラてめェーッ、これから作戦立てるって時に寝てるんじゃあねェー!」
 ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)が後ろから蹴りをくれる。もんどりうって転がり落ち、おいおい仮にも隊長だぞひでーな、と抗議するも、当然ヴァラスは完全無視だ。大あくびをして身体を伸ばし、目を覚ましていたヘッグは、突然ミシエル・パルス・ガロー(eb4035)に頭を下げられて、きょとんとしたまま固まってしまった。
「蛮族討伐で、庇ってもらった時の怪我が次の戦で響いたとか。未熟なのに参戦してごめん。でも今回は役立てるよう頑張るから」
 彼女の言葉に、破顔一笑。
「ああ、そんなの気にするなよ。命の遣り取りしてれば、助けたり助けられたりが当たり前だからな。まあそのうち、俺の事も助けるつもりでいてくれ。それでチャラだ」
 頷いた彼女に、ヘッグは再び笑って見せた。
 ちなみに。
「ああ、うん、いいね。んじゃ、そういう方向で行こうか」
 ‥‥作戦会議は瞬きする間に終わっていた。

 キール隊が設置した待避所を利用しながら、密かに『精霊の爪研ぎ跡』に向かう一行。敵の様子を眺めていたヴェラスが、きにいらねぇな,と呟いた。
「おい、あいつらこの待避所に気付いてるんじゃねぇか?」
 定期的に巡回する見張り達。それが、やけに待避所の方を見つめるのだ。同じ調子で見回りを続けている辺り、今、彼らがこうして身を潜めている事には気付いていなさそうなのだが。
「いくらカモフラージュしてあるといっても、そりゃまあバレてはいるかもなぁ。だとしても裏手に回るって発想が無けりゃ、移動の為のものと気付かないんじゃないか? 単純に、何か隠してると思っているのかもな」
 珍しくヘッグが見識のある事を言って、皆を驚かせる。馬鹿の直感は侮れない。
「しかし、敵が警戒を強めていような」
 グレナム・ファルゲン(eb4322)の指摘に、そりゃそうだろうな、とヘッグ。
「カオスニアン、陛下のウィルを乱す賊め。一人も逃すわけには、いかんのである」
 戻って行く敵の姿を眺めながら、決意を新たにするグレナムだ。

 樹華沙羅(eb4378)はバックパックを下ろし、ひょいと覗いた一角蜥蜴をつんとつついた。
「まだらー♪、ちゃんと留守番しとくんだぞー?」
 分かったのかどうなのか、もぞりと中にひっこんだ。
「よし、これで不覚も取ることもあるまい」
 クナード・ヴィバーチェ(eb4056)は刀が抜け落ちない様に厳重に縛った上、盾と一緒に背中に括る。格好はよろしくないが、この際堅実第一である。
「ここを登るんですねぇ」
 亀裂を見上げたエルミーシャ・メリル(ea5998)が、はー、と大きく息をついた。体力に自信の無い彼女には、途方も無い挑戦だ。
「でもー、ちゃんと準備をして来たんですよぉ」
 にっこり微笑んで彼女が引っ張り出したのは、冒険者の友フライングブルーム。いってきまーす、と飛び立った彼女を、一同、呆然と見送った。暫し後。
「こ、これ以上うえにあがりませんっ」
 どうしてぇ〜? とホウキを引っ叩いたり撫でてみたり。そんなことしても、この魔法の箒は地上30mまでしか上がれんのです。
「うっかりさんだねぇ」
 よいこらせと登って来たヘッグ・エッツが、彼女を腰掛けられる様に作られた休憩所に誘導する。
「まあ、行ける所までがんばれ。いざとなったら皆で引き上げてやるからな」
 精一杯がんばりますぅ、と彼女しょんぼり。多少はこういった事に慣れているゲオルグ・マジマ(eb2330)が先に登り、皆を誘導する役目を果たす事になった。
(「それにしても、このルート取りはさすがだな」)
 感心頻りの彼である。なるべく楽に、定期的に休息が取れる様にと考え抜かれたルートと補助具の配置。熟練とはこういう事だと、得心できる仕事だ。
「次はこちらへ。私のいる所まで来れば身体を保持できます。楽になりますよ」
「落ちたら‥‥迷惑がかかりそうだね」
 響清十郎(ea4169)が下を覗き、ぶるっと身震い。ゴ、と吹き上げる突風に煽られる度にひやりとするが、先行隊が施してくれた補助具のおかげで、どうにか挽パラにならずに済んでいる。
「生き残ってお給料もらわなくっちゃねー」
 よっこらよっこら、と、必死によじ登る華沙羅。
「思ったよりも体力を消耗しそうだ。休息は細めに取っておいた方がいいだろうな」
 皇竜志(eb4299)が壁面を見上げる。夜空と溶け合ってしまった頂上は目視出来ず、永遠に登り続ける妄想に駆られ、ぞくりと背中に寒気を感じた。

 岩や土に紛れる色の頭巾、服で覆い偽装したグレイ・ドレイク(eb0884)が、辺りを慎重に確認した上で頂上に出る。既に先行の二隊がキャンプを張り、見張りを置いて、休息を取っていた。安全を確認し合い、仲間を引き上げにかかる。石切り場では昼夜を問わず囚人達が石を切り出している様だが、ここは完全に死角。まさかこれだけの人数が潜んでいるとは、夢にも思っていないだろう。
 冷たい保存食を噛み千切り、口の中で転がしながら、清十郎は静かに時を待つ。敵中で平気な顔をしてぐうぐう眠るヘッグを見ていて、ミシエルは、この騎士が意外と若い事に気が付いた。

 密偵からの情報も得る。最奥の宿舎にカオスニアン5と人質達がいる意外、他の棟にはそれぞれ20人程度の囚人達が、思い思いに休息しているという。カオスニアン達は大半櫓前の広場に集まっており、他は囚人達の好きにさせている様だ。
 皆、味方の証となる白襷を身につける。
「それじゃあ行きますかね。キシシ」
 ヴァラスは『隠身の勾玉』に集中する。気配を断った上で身を隠しながら、彼は移動を開始した。囚人達の目を盗み、密かに宿舎に接近した彼ら。眼下には、味方の布陣が見て取れた。
「なんてことだ‥‥」
 クナードが呟いた。遊撃隊の後方に、無数の小さな灯り。遊撃隊がそれに反応し、動いているのが分かる。ホルレー隊から、一部援軍に向かう様子も。
「敵中の俺らにシフール伝令は届かんだろうな。てことは、状況を見て判断しなけりゃならない訳だが、さてどう思う?」
「ホルレーとマウロが待機位置を動いていないなら、続行かと」
 グレイの指摘に、なるほどそうだな、とヘッグ。かくして、行動は開始される。

●凱歌
 朝の虹はもうすぐだ。闇の残る中。影を縫って進む突入隊。ミシエルとグレナムは、持ち込んだ油を要所に撒いて行く。出入口を開けぬようゲオルグが塞いで行くと言う念の入れようだ。他の者は放火で逃げる敵を討つために位置取り準備万端。
 火攻めには、天界の利器ライターの威力が発揮される。魔法のように簡単に火を着け、その火がゆっくりと大きくなり、やがて大きな柱となった。乾き切ったあばらやと呼ぶのも憚られるぞんざいな造りの宿舎は実によく燃える。闇の中の火は囚人達の心胆を寒からしめ、あちこちでパニックが発生する。
 そして、サン・ベルデの虚空を摩すライトニングサンダーボルトの閃光。これが、見間違え様の無い作戦開始の合図となった。
「油断するな。奇襲効果を過大に考えると危ないぞ」
 清十郎の声。全員にグットラックを施していたエルミーシャの作業がこの時やっと終わった。

 ドスーン。ドスン。果たして予想通り敵の反応は早い。あばら屋が揺らぐほどに揺れる。囚人達は、出口が塞がれていると見ると、火の恐怖も手伝って壁をぶち破って出てくるという暴挙に出た。正に火事場のクソ力。安普請のためか、割と簡単に穴が開く。
「そう来るか!」
 真っ先に反応したのは竜志だ。両手にリベットナックルを装着すると、先を制して飛び出して来たばかりの囚人達の中に躍り込む。中と外で分断された囚人達が狼狽している間に、グレイは逃走経路に先回りして待ち伏せだ。クナードは敵の合流を防ぐために位置取った。さっと逃げに転じた竜志を臆したかと嘲笑いながら、囚人達は嵩にかかって攻め寄せてくる。

「うぁぁぁぁ!」
「チェース」
「殺してあげるよォ〜ん、ペロロロペロロォ〜〜ン」
「ふん。ここは行き止まりだ」
「しゃうぅぅぅ!」
 様々な叫びがサン・ベルデに満ちる。

 ドドーン! ボムっ! ひょぉぉぉぉ! バチッ 轟ー!
 キィィィーン カッ もぐっ ドス コーン
 何が何だか訳の分からぬ音が、一人と一人の耳に残る。あちこちから湧いて出る囚人達を相手に、必死の戦いが繰り広げられた。
 脳天を割られた男が、泡を吹きながら清十郎の前に崩れ落ちる。オーラの輝きを纏ったグレイを前にして、囚人達は後ずさる。華沙羅がソードボンバーで三人纏めてなぎ倒し、竜志の拳が囚人達の意識を刈った。
(「どうせこんな所に送り込まれてきた時点で、遅かれ早かれ死は決まったようなもんだしな」)
 クナードは向かってくる者を躊躇いもなく切り捨てる。密偵ならば証の布を出して攻撃して来ることは無いからだ。
 彼等の戦うその上で、天は七色に輝く。その美しい空が、下界の戦いを静かに眺めていた。
 ともあれ、敵の目は完全に彼らに向き、合流を阻止するという目的は果たされる。
「欠けてる奴はいないだろうな!」
 ヘッグの声に、囚人如きにまさか、とグレナムが軽口を叩く。さすがにこの数だ、皆、息が上がり始めていた。
 と、湧き起こる鬨の声。そして悲鳴。ホルレー隊が広場へと突入、時を置かず、マウロ隊も雪崩れ込んで来たのだ。
「ムヒヒ、やっと来やがったか、スッとろい貴族様連中がよ」
 全身返り血で血塗れのヴァラスが、卑下た笑いで道を譲る。白襷は固まり掛けた血で、小豆色に染まっていた。
 やがて、救出を目指す一団が駆けつけると、囚人達は各々逃亡を図ろうと足掻きはじめるが、次々に討ち取られて行く。

 そして‥‥。朝の輝ける光の中。勝鬨は挙がった。