サン・ベルデ鎮圧作戦G【監軍】
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■ショートシナリオ
担当:マレーア1
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月19日〜04月24日
リプレイ公開日:2006年04月27日
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●オープニング
トルクに備える要衝の地を委されたルーケイ伯。彼と一党の一部が、王に召された。なにぶん、領地の検分も済んでいない身の上、軍役と言っても身分相応の物は不可能と言うことは明白である。群臣が見守る中、恭しく跪く一同に向かいエーロン王子が命令書を紐解き朗々と読み上げる。
「ルーケイ伯。そちにサン・ベルデ鎮圧の監軍、及び総予備を命ずる。隊を率いて任に当たれ。与力ぱこぱこ子爵。同隊伝令を命ず。伯の伝令として務めよ」
王命は降った。
「おい犬ころ」
泣く子も黙る狂王子は、普段見せぬ稚気ある笑顔。犬とは子爵の謂いである。
「モーガン・ホルレー卿は、無類の戦上手と聞くぞ。しっかりとその采配を学んでくることだな。フオロの長子が活躍を期待していると伝えよ」
意味深な含みを込めて、悪戯っぽく頭を撫でる。
「はい。モーガン卿のご活躍を、一部始終お伝えすれば良いのですね」
途端に大爆笑。追従ではない笑いがあちこちから起こった。この一時を以てしてもホルレー家の軍事的評価が良く解る。
拝命して退く伯に王からのお言葉。
「ルーケイ伯。卿の封地は難治の地。ワンドもシスイもアーメルの代官も、アクの強い人物。このままでは新参者故なにかと周囲に侮られるだろう。故に此度の戦こそ、卿にとって名を周囲の者に知らしめる関頭である。これを以て余の餞(はなむけ)と致そう」
「はは。有り難き幸せ。痛み入ります」
伯は自信に満ちた声で答える。そして恙無く拝命が終わり退場を待つばかりになったとき。
「父上」
声を掛けたのは狂王子の少し下座に控える青年であった。
「父上は伯に夥しいゴーレムを預けるとお言葉になさいました。彼の地が治まるまでは出来ぬ相談ですが、その事を全地にお示しになるべきです」
「そうであったな」
王は待てと伯らに命じ。
「子爵。王の信頼の証である、デュランダルとゴーレムグライダーを伴い任に着け。此度の戦、妙案あらば誰彼無く提案して宜しい。勝利に寄与することあらば、為したる者の名を余に告げよ。余が直々に誉めて取らす」
「はい。皆様の功績を少しも漏らさずお伝えします」
エーガンなりの手配りだ。これで、子供の使いと最初から侮られることは無いだろう。だが、まだ青年は何かありそうな顔をしている。
「申せ」
「この戦だけでもバガンもおつけに為るべきです。監軍故、戦う必要はありません。王が彼に授けたと言う事実だけを見せれば良いと思います」
しかし、ここに居ない伯の与力には既に自儘にせよと与えている。ならば、
「誰を望む?」
「我が郎党、カーロン・ケステの輩に推挙したき者が。女性ながら寡黙にして沈着。若輩ながら、自らの勲よりも戦いの勝利を優先する得難き資質を持つ者です。天界人の重用も宜しいでしょう。しかしこの戦、地味で目立たぬが着実に任を完うする者を伯の副官に付けたいと存じます」
「その者の名は?」
群臣の、誰も知らぬ名前がそこに出た。ルーケイ伯は大きく頷き。群臣に聞こえるようにお答えした。
「実に得難き者です。今回だけでも副官とする事をお許し下さい」
「そうですか、ルーケイ伯がお役目を賜って、ここにいらっしゃるのですね」
この知らせを受けて喜んだのは、サン・ベルデ攻略を命ぜられた3人の内、オットー・フラルただひとりだけだった。モーガン・ホルレーにしてみれば、内々にではない、正式な監視役が付く事になったのだし、王に服従するトーエン・マウロにしてみても、格上の商売敵がやって来るのだ、面白かろう筈が無い。
「遊撃隊はそも、あの御仁の発案と聞く。更に、フラル家とは幾度となく戦場を共にした、昵懇の間柄とか。ならば、フラル隊と共に遊撃の位置にあって頂こうかと思うのだが、如何だろうか」
モーガンの話に、それは願っても無い事ですが、とオットー。
「ならば決まりですな」
トーエン卿がにんまりと笑みを湛える。王命を帯びてのこと故、邪険には出来ないが、なるべくなら何もしないでいて欲しい。ニ卿はそんな思惑を込めて、監軍をやんわりと蚊帳の外に置こうと画策している。
●リプレイ本文
●ユニコーンの旗の下に
エーガン王より栄えある監軍を承り、ルーケイ伯アレクシアス・フェザント(ea1565)は与力の者達を召集した。既にルーケイ調査に赴いていた者を除く者達の中から、共に詔勅を賜ったぱこぱこ子爵山下博士(eb4096)と男爵ベアルファレス・ジスハート(eb4242)が参戦。エーロン王子の元からアリル・カーチルト(eb4245)が加わり、カーロン王子直々のお声懸かりで、バガンを連れて副官の任に当たるルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が着任した。
味方のゴーレム戦力は、ルエラと与力シャリーア・フォルテライズ男爵のバガン2機。博士に委されたゴーレムグライダー1機である。多分に戦力と言うよりは、ルーケイ伯の威容を保つ、王の餞の感があった。
この頃、伝令を拝命した博士は名誉称号であった子爵位の実質を受け、この大抜擢は貴族達の間で『山下飛び』と呼ばれていた。
アレクシアスは単身一日早く到着し、やや後方の見晴らしと日当たりが良く、全軍を見渡せる位置と、近くの高地に『白地に黒のユニコーン』の旗を立てる。彼の本陣と見張り所の印だ。
ほぼ1日遅れて現地に到着した月紅蘭(ea1384)は、用意の腕章にアレクシアスの紋章に意匠を加えたルーケイ軍の徴を刺繍して行く。実に丁寧な仕上がりながらその手際とスピードは、テントを訪れる人々の目を奪った。これが監軍所属の証である。
ほぼ全軍の到着後、準備中の突入隊1を除く全軍の指揮官、主だった騎士を集め最終ミーティングに入る。顔を合わせ、全体作戦の流れと各隊の役割を再確認した。
「囚人の中に放った密偵、登攀のため鎧も着けない軽装の者、魔法使い等。装備も異なるお互い勝手の知らぬ混成軍故、混戦の中での同士討ちも考えられる。現に先日、アリオス殿が味方より誤認の射撃を受けて負傷された。よって、遠目にも討伐軍とわかる印を用意した。山下!」
「はい」
人数分の白襷が運び込まれ、監軍と伝令の目印の腕章が示される。
「突入の際には、これを必ず着けて貰いたい。さて。具体的な作戦だが、これより軍議を始めよう」
●軍議
三卿揃っての軍議は粛々と進む。
「皆様のご活躍をありのままお伝えするのがぼくの役目です」
そう断り、博士はエーロン王子の言葉を引用する。
「殿下はぼくにこうおっしゃいました。『モーガン・ホルレー卿は、無類の戦上手と聞くぞ。しっかりとその采配を学んでくることだな。フオロの長子が活躍を期待していると伝えよ』と」
トーエン卿は苦笑を禁じ得ない。なぜならば、領地経営の手腕こそがモーガン卿の真骨頂で、戦上手などと言う噂は聞いたことがないからである。王への軍役も資金を提供して済ませる事が習いと成っていた。博士が世辞を言うほどに、複雑な笑みを浮かべるモーガン卿。
(「こいつ。本気で言っているのか?」)
一応上席なので、無邪気に誉め讃える言葉を止める訳にも不可ない。トーエン卿は褒め称えつつ暗に目立つ働きを要求するやり方に感心し、
(ガキのくせになかなかの御仁だ。実に愉快」)
と、ご満悦。博士に好意を持ち理に適った献策に協力的だ。
「黎明攻撃か。大軍を以て賊徒を成敗するに都合良い策だ。白襷も実に絵になる」
トーエン卿は算を乱して逃げまどう囚人達を蹴散らす我が軍の姿を思い浮かべる。
「天界人はみんな子爵のおっしゃるような事を学んでいると言うのですか」
オットー卿は素直に感心。
比して、モーガン卿の機嫌は顔に出さぬがだんだんと悪化。何を儒子と怒鳴りつけてやりたい。鬱積したものがモーガン卿の中に貯まって行くのだが、乗り気の二卿に対する説明に忙しいぱこぱこ子爵には察することが出来なかった。
解れは博士の提唱する音攻策で起こった。
「陽動のための騒ぎは休息を妨げ、部隊士気を著しく損なわせかねない」
姚天羅がホルレー家の意見を代表する形で異議を唱える。
「狩に勢子を出すようなものです。音だけの軍勢を使って、敵の神経をすり減らすか馴れさせて油断を誘うのが目的です。予め予定を聞いている味方と違い、敵の消耗は遙かに大きいでしょう。立派な騎士をむざむざと必要もない危険に晒すよりは良策だと思います」
「先頭で命を投げ出すのは現場の一兵だ。後方の安全なところで現場に一切合わない策だけを立てて満足するような輩は信用しない」
「これ。口がすぎるぞ」
モーガン卿が割って入る。
「子爵も困りますぞ。他のことはいざ知らず、ホルレー独自の行動に口を挟まれては」
「‥‥判りました。くれぐれも必要のない危険は避けて下さい」
子爵は実にあっさりと退いた。
がやがやと兵達のざわめき。見ると、よろよろとあちこちに包帯を巻いた騎士が現れた。血の滲んだ包帯と、鎧を着けて歩くのも問題有りそうなローブ姿。
「鎧騎士フレッド・イースタン(eb4181)予てよりの誓願を果たすため伯爵の下に参じました」
と、やっとの事で口上を言い終えたところで昏倒。慌てて飛び出したアレクシアスは、彼を抱き起こし。
「フレッド・イースタン卿。よくぞ誓いを守って参られた。貴殿こそ竜と精霊の意志がルーケイに使わした軍神に違いない」
全軍に響き渡るような声で、宣言した。
「おお」
と、どよめく声が波のように広がる。ホルレーの家臣からは感極まって咽ぶ声も。
傍らで見ていたベアルファレスは、ふっと鼻で笑い
「茶番だな‥‥」
小声で呟く。だが、彼も理解している通り、政治には茶番が必要なのだ。そして、それは進み出た吟遊詩人ルナ・ローレライ(ea6832)の詩で確定的になる。
♪騎士の誠に二言無く 騎士の誓いは汗の如し
傷つきながら着た騎士の 誓いを胸に立ち上がれ
我らに宿るは一角獣 そは純白でありながら 真なる強さを秘めている
衣と刃を血に染めど 心は染まらぬ混沌には♪
流石は戦場の魔歌術師と呼ばれし者。茶番劇とも知らずに感激した騎士達の目がルーケイ伯に注がれる中、見事な鎧とサーコートが運ばれフレッドの脇に置かれる。白い布と槍で作った即席の担架に乗せられるフレッドを、全軍が鐙を外し剣を捧げて見送る。
こんな状態にも関わらず駆けつけた彼と、その主アレクシアスの名はあっという間に広まる事になったのだ。
エーロン王子に付けられた副官のルエラは後に、これを評してこう語っている。
「ルーケイ伯は手強い奴だ」
●ホルレー隊
「ルーケイ伯より、こちらへの応援をとのご指示をいただきまいりました。『遡刻の瞳もちたるもの』ルナ・ローレライと申します」
「同じく、月紅蘭よ」
残り一人の乙女。エルマ・リジア(ea9311)は静かに会釈した。
軍議の後ホルレー隊監督の為に残った三人は、何れも麗しい女性ばかり。ホルレーの気難しい対応に配慮し、当たりの良い人物を見込んでの人選であった。しかし、世の中お目付役と一緒で自然体である事は難しい。一句言葉を違えたらどんな報告をされるか分かったものではない。との警戒の前には、美しさも優しさも聡明さも、否身に備わりし才覚も、練り上げられし品性も、大した役には立たない。判で押した様な応対しかしないホルレーの騎士達に三人は戸惑いを覚える。話下手なので沈黙気味のエルマは勿論、隊の状況を把握しようとする紅蘭も、言葉を使う専門家のルナも、骨を折るほどには上手く行かない。
そんな中。グリフォンのデュランダルに乗った博士が伝令として到着。現状の報告を受け取りに来た。
「‥‥そうなんです。皆さん策を弄するのは臆病者の証拠だって‥‥」
エルマが現状を説明。
「ぼくの事で意地になっているようでしたら。何か手をぉ!」
語尾が突然大きくなって、顔が苦痛に歪む。そのままエルマに身体を預けるように博士は倒れた。
「きゃあ!」
大人しいエルマが大きな悲鳴を上げる。ルナが慌てて飛んでくる。近くにいた騎士達も駆け付けた。見ると博士の背には短い矢が刺さっていた。さっと盾を構えて辺りを伺う騎士達。幸い傷は急所を外れ、しかも浅い。心得のある騎士が、上手に矢を抜き取った。
だが‥‥。信じられない速さで失せて行く血の気。
「これは‥‥。毒が仕込んであったに違いない」
有り無い容態の悪化に騎士は断じる。
「そうだ」
紅蘭は思い出した。ぱこぱこ子爵はマリーネ姫の毒味役でもあるから、万一に備えての用意をしていたはず。身体を改めると銀無垢のスプーンと封をした卵大の壷が二つ。
「毒消しの筈よ」
それを飲ませると、幾分血の気が戻ってきた。最悪の事態は避けられたが、フレッド共々、全体安静の状態に。
「なんてことだ‥‥」
矢を抜いた騎士の顔が引きつる。矢には、手柄を横取りされないために刻まれたホルレー隊の印があった。
監軍の伝令が、ホルレー隊の陣でホルレー隊の矢で射られたのだ。しかも毒矢とあっては‥‥。この凶事に騒然となるホルレー隊。自分達ではない。だが、疑いを否定するのに不利な状況だ。ぱこぱこ子爵に反感を持っていたことは事実。それは二卿が証言するだろう。
ルーケイ伯に野心あらば、豊かなホルレー領を奪うためにフェーデを挑んで来ても充分に名分が立つ不祥事であった。
「山下! しっかりしろ!」
この大事に監軍副官のルエラがゴーレムグライダーで駆け付ける。事情を聞き。そして、あちこちでホルレーの兵達が囁き合う状況を危ういと見、威儀を正し呼ばわった。
「ホルレーの陣でホルレーの矢。これは余りにも出来過ぎだ」
このため、この場はなんとか収まった。
●迎撃せよ
3日目の早朝まだ薄暗い中、各隊に突入隊から『予定通りに決行』とのシフール伝令が飛ぶ。
「何事もなく終われば良いのですが、胸騒ぎがしますね」
ゴーレムグライダーの傍で待機するレイ・リアンドラ(eb4326)は、戦機今やと臨戦態勢を整えるアレクシアスに言葉を漏らす。
そこに飛び込んで来たのは、偵察に出ていたディアッカだった。
「背後に敵影有り、です」
直ちにレイはゴーレムグライダーを飛ばす。高度を上げ、矢の射程を外すと同時に、視界を得る。気付かれたと向こうも察したか、次々に掲げられる松明の数は、
「60ないし70!」
叫ぶと同時に用意の旋回で数を知らせる。オットーは、緊張で顔面蒼白になっていた。
「ホルレー隊に援軍を要請しようと思うが、どうか」
アレクシアスの問いにオットーは頷きかけて、暫しの逡巡の後、首を横に振って見せた。
「それは‥‥駄目だと‥‥思います」
もしもの時に敵を防ぐのが私達の役目ですし‥‥と自信なさげに言うオットー。
「ならば、俺達だけでどうにかするしかないな」
満足げな笑みを浮かべながら、アレクシアスは『遊撃隊で対応可。作戦を遂行せよ』とのシフール伝令を各隊に飛ばした。
それから間もなく、監獄内にライトニングサンダーボルトの閃光が走り宿舎から火の手が上がる。これを合図に、突入を促す太鼓の音が響き渡る。
時を同じくして、陣後方から迫る敵影を壕と柵の内側で待ちかまえる者達に、ホルレー隊より30人の援軍。迎撃態勢も揺るぎない。敵は目前に迫ってきた。
「蛮族なら、最初の一撃だけが脅威。猛攻は長くは続かない。柵で凌ぎ、敵の乱れるを以て切り崩す! 抜け駆けは斬って棄てる。下知を待て!」
朗々たるアレクシアスの言葉が響く。
敵はゴブリン戦士と数人のオーグラといった構成だった。ゴブリン達は弱そうな敵のみを襲撃し、反撃等で不利になると逃げ散っていき、また別の場所を狙うという嫌な戦い方をする。そしてその中に混じっているオーグラは以前の屈辱をすすぐために参戦してきた者達で、かなり手強いだろう。
オットーは蒼白になり腰のワスプレイピアを弄くりながら立ち尽くしている。
奇声を発しながら迫り来る敵に思わず一歩引きかけた時、重い地響きがしてゴブリン達の動きがそれと共に止まった。
バガンである。
しかし静寂も束の間、すぐにオーグラが雄叫びをあげ、ゴブリンらが松明を投げ捨て剣と盾を掲げて打ち鳴らす。
負けじとアレクシアスが剣を振りかざし
「かかれ!」
と、真っ向から迎え撃つ。
レイがグライダーを操り、敵の武器の届かない高さを旋回。レイ自身も武器を持っているため、頭上からの攻撃を警戒して敵達の注意はいささか散漫となる。
乱戦の中驚くべき跳躍力で敵味方を飛び越えたオーグラがオットーへ凶刃を向けた。恐怖で尻餅をついたオットーを助けたのはバルバロッサだった。もちろん無傷ではない。しかし彼は
「気にするな」
と笑ってみせた。
剣戟と怒号と返り血にまみれた戦場の中、最も派手に暴れていたオーグラがルエラの搭乗するバガンの一撃を受けて倒れた。そのことでついに戦意が吹き飛んだゴブリン達は、後ろを顧みることもなく逃げ出す。後は掃討戦だった。
後の調査で、以前ゴブリンの被害を訴えていた村を含む、幾つかの離村が壊滅している事が判明した。住民を皆殺しにして村ごと奪い、拠点として用いていたのだろう。
●戦闘の後に
まだ戦闘のにおいが残る中、その爪痕をたどるアリルとルナ。
こそかしこに倒れ伏すカオスニアンの死体の傍らに、アリルが膝を折る。
何をするのかと見守るルナの前で、彼はナイフでおもむろに衣服を切り裂く。一瞬息を飲むルナだが、ここに来る前にアリルが指揮官の許可を得ていたことを知っているので、黙ってその手の動きを見続ける。
カオスニアンから衣服を剥ぎ取ったアリルは、続いて死後硬直の始まった体に刃先を突き立てた。その顔はあくまで無表情。
薄ら寒いものを感じたルナは、アリルに何をしているのか尋ねた。
「こいつらの体のつくりを調べてるんだよ。悪魔の魂を持つ人間ってだけで、肉体的には俺らと変わりないんじゃねぇかと思ってな」
言いつつも手際よくカオスニアンの胸部から腹部を切り開いてしまうアリル。彼はそれをスクロールに記していく。
「思った通り、変わりねぇなぁ」
淡々と言うが、ルナは生臭さに思わず口元を袖で覆った。
その後二人は監獄へと足を向ける。
静まり返るそこで、ルナは全身を銀色に輝かせパーストで一週間前のここの様子を見ようと試みる。
やがて見えてきたのは殺気立ったカオスニアン達。
「あの女、ちゃんと手勢を集めて来るんだろうな?」
「俺達の行動で全てを察したはず」
「ぐちゃぐちゃに乱れるこの国が見たい」
「『占い師』と連絡はとれないのか」
これらの会話が聞き取れたが、それ以降は話し声も映像もあいまいになって行く。
ルナは今の会話をアリルに聞かせ、二人は仲間達の元へ戻って行った。