凱旋! レッドスフィンクス!

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月23日〜04月26日

リプレイ公開日:2006年04月29日

●オープニング

 デジャブーを覚える光景。
 それは、ウィルへと飛来した一隻のフロートシップ『レッドインパルス』号のシルエット。
 その日の内に、大忙しの体、イッチー・ゲール卿が馬で各家を訪ねて回り、ププリン・コーダ男爵の言付けを伝えた。
 即ち。

「またまた優勝しちゃったから、トルク城へ行って凱旋パレードするよ☆ みんなで、おめかしして一緒に行こ〜う♪」

というものである。
 イッチーは汗を拭き拭き、戸口でお決まりの文句を口にしていた。
「お忙しい事でしょうから、スケジュールが合わない方もいらっしゃると思います。ですから〜、その〜あまり出席される方が少ない様でしたら‥‥」

 相変わらず、サブディレクターのイッチーは歯切れが悪い。
 要は状況に応じては中止もありうる、という事である。
 こうしてトルク分国王チーム【レッドスフィンクス】のメンバー宅を訪ねて回ったイッチーは、その夜、どろの様に眠るのであった。

 そして、その数日後、王城を離れ『レッドインパルス』号は、ゆっくりとトルク分国へ向かい、出発するのである。

●今回の参加者

 eb2582 メリーアン・ゴールドルヴィ(38歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb4085 冥王 オリエ(33歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4153 リディリア・ザハリアーシュ(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4197 リューズ・ザジ(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4578 越野 春陽(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb4651 オードリー・サイン(59歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●トルク領へ
 四月の暖かな風が、ウィルの城内にもそよそよと吹き抜けていた。

「ここまできたら、パレードでもレッドスフィンクスの先導をやりたいんです。よろしくお願いします」
「えっと〜‥‥」
 イッチー・ゲール卿に胸元でスクロールを広げさせ、ププリン・コーダ卿は首を左右に巡らせ、パタパタと羽ばたきながら眺めた。
 やがて、口元を両手で押さえ、ぷっと吹き出す。
「きゃははっ、変な字〜☆」
「失礼ですよ、チップス卿に」
 困り顔のイッチーにたしなめられながらも、ププリンは冥王オリエ(eb4085)と加藤瑠璃(eb4288)へにっこり笑いかけた。
「うん。いいよ〜☆」
「やったぁ〜! ありがとう御座います!」
 軽く飛び跳ねると、瑠璃は元気良く頭を下げた。
 満面の笑みを浮かべ、オリエもそんな瑠璃の手を取った。
「良かったわね」
「ええ! オリエも口添えしてくれてありがとう!」
「いいえ、どういたしまして。しっかりお願いね」
 軽くウィンク。
 瑠璃も手荷物をひょいと持ち上げて、にっこり。
「ええ、それはもうバッチリと☆」
 すると、ププリンがピンクの軌跡を残しながら、二人の周りをくるるっとひとっ飛び。伸びやかに腕を突き上げ、とびっきりの笑顔。
「それじゃぁ、みんな! レッツゴー!」
「ゴー! ゴー! レッツゴー! レッドスフィンクス!」
「お、お〜!」
 イッチーだけ恐る恐る腕を挙げ、レッドスフィンクスのメンバーはドッと笑い、一気に『レッドインパルス』号のタラップを駆け昇った。

●レッドインパルス号
 王都ウィルを発ってから数時間、フロートシップ『レッドインパルス』号は、順調な航行を続けていた。

「さあ、張り切って行きますわよ!」
 ぐっと袖をめくり上げ、メリーアン・ゴールドルヴィ(eb2582)は鼻歌混じりに動き出す。
「まずは女の子からだから、蒼威くんはちょっち待っててね」
「ああ‥‥俺はいつでも構わないさ‥‥」
 時雨蒼威(eb4097)は肩にマントを引っ掛けふらっと廊下に出た。どこに行こうという気も無いが、与えられた自室にそのまま戻る気にもなれず、冷めた気分のまま適当に艦内を流した。

「ええっと‥‥」
 自分の子供程の娘に混じり、少し頬を赤らめながらオードリー・サイン(eb4651)はシックなシルクのドレスを丁寧に取り出し、窓からの光にかざして眺めた。
「まぁ、ステキなドレスね」
「ふふ‥‥ありがとう」
 気恥ずかしそうに、それを抱きしめるオードリー。越野春陽(eb4578)も自分の滑らかな手触りのロマンスガードをすらりとした自身に当て、自然と口元をほころばせた。
「越野、あなたもとってもお似合いだ」
 オードリーの褒め言葉に、少し頬を染める春陽。その背後からわっとオリエが抱きしめる。
「わあ〜っ!? あなたのそれ、とってもステキじゃない! どこの職人に作らせたの!?」
「うわわっ!?」
 目を白黒させる春陽。
 朗らかに笑うオリエ。その背後から贅肉の無いがっちりひきしまった白い腕がオリエの首をロックする。 
「こらこら、まだ途中なんだから」
「うふふ‥‥ゴージャスにお願いね、メリーアン」
 春陽から手を離し、メリーアンに身体を預ける様にしなだれかかるオリエ。化粧しかけの顔で艶やかな笑みを浮かべる。
 そこをキュッと絞める。
「はいはい。でも、大人しくしてないと、面白くしちゃうわよ」
「タ、タップ、タップ‥‥」
 ポンポンとメリーアンの腕を叩くオリエだが、メリーアンは素知らぬふり、そのままひょいと持ち上げ連行した。

 その傍ら、難しい顔をしたリューズ・ザジ(eb4197)はシルクのドレスと礼装の間を行ったり来たり。
「さて、どちらに合わせたものか」
「私は陛下との謁見時には礼服を着用するつもりだ」
 既に礼服を着用したリディリア・ザハリアーシュ(eb4153)は、静かに胸元を整える。
「ドレスはその後だな」
 フッと笑顔を浮かべ、鏡の中の自分を見つめる。そこに頼んであるフラワーティアラを心の中で重ねて見る。思わず口元に両の掌を合わせ、これ以上ないくらいに満面の笑みを浮かべてしまう。
 その横で、手入れの行き届いたゴーレムグライダーに身を包み、シュバルツ・バルト(eb4155)がくるりとマントをはためかせた。
「常在戦場の武人の勝負服は鎧です」
 腰のサンソードの鯉口を切り、再びチンと収める。
「うむ」
 鏡の中の自分に小さく頷き、シュバルツは胸を張り、腰までもある豊かな金の髪を掻き揚げた。鏡に映る白いうなじ。それに目を細め。

 艦の後部甲板に出ると、蒼威は先客がいる事に気付いた。
 身なりから貴族らしき二人。日に焼けた逞しい壮年の男と、どこか見覚えのある若い女。
 腕を組み、楽しそうに話す女の美しい横顔を眺め、蒼威は舌打した。
「ちっ‥‥どうせあのオヤジの手付きか‥‥」
 元より興味も無く、立ち去ろうとした蒼威の耳に、風の悪戯か二人の会話が滑り込む。

「お父様! 風の精霊達が後ろへ勢い良く飛び出して行くわ!」
「そうか、私には見えないが、そういう物なのか。ゴーレム兵器とは‥‥」
 男は眩し気に目を細め艦尾を眺めるが、やがて左右に首を振った。
 娘はその様がおかしいのか、クスクスと笑う。
「推力は風、地上から浮く力は地の精霊力よ」
「船は元来、水に浮くもの。それを空に浮かせるとは‥‥この船があれば、ハンにシムの海を挟んだ交易の独占などさせぬのだが‥‥」
「そんな事になったら、先ずはハンの青鮫海戦騎士団と一戦交えなければなりませんね」
「おお、それは望む所だ。ウィルの海の漢が、ハンの海の漢に負けぬ事を証明してみせよう」
「あ〜ら。空を飛んでは、もう海の漢とは呼べませんわ」
「はははは、これは参った! ははははは!」
 冗談混じりの親子の会話。それが急にトーンダウンする。
「陛下は、私がトルク王に会う事をお許しになったが、近付く事は許さぬお方だ」
「お父様は、先ず一手、ですわ」
「ほほぉ〜」
「お父様。次代はあたくしが、見事! ショアこそはセトタ一の港よ! と呼ばせて見せましょう!」
 娘は微笑み、苦笑する父親から離れると、大きく両腕を広げ、くるくると軽やかなステップを舞って見せた。

 その時になって、蒼威はこの娘、と言っても幾つも違わぬ様に見えるが、第1回目のGCRに、笛の音を奏して解説にまで参加した、ウィル東岸に所領を持つショア伯の娘、ディアーナ嬢である事を思い出した。
「では、あの男がショア伯のデカール・ショア・メンヤード伯爵か‥‥」
「ふぅ〜ん‥‥」
 何時の間にか美しくドレスアップした春陽が、蒼威の傍らに立っていた。
「良い格好じゃないか‥‥」
「盗み聞き? あまり良い趣味じゃ無いわね」
 艦内の要所を一回りして来た春陽、言葉程に非難をしている訳では無い。
「勝手に聞こえて来たのさ‥‥」
 蒼威は一瞥もせず、その場を立ち去った。

●凱旋! レッドスフィンクス!
 表では次々と祝砲の精霊砲が打ち鳴らされている。
 盛大なファンファーレがトルク城の荘厳な大広間に鳴り響き、居並ぶ貴族達が注目する中、チーム【レッドスフィンクス】の呼び名がかかる。
 それからププリン・コーダ男爵を始めとし、一人一人の名が読み上げられた。

「さぁ、みんな行くよ〜☆」
 ププリンも思いっきりドレスアップしたのだろう。メリーアンの細やかなテクニックに、そのピンク色の髪もいつになく艶やか。まるでラン製のビスクドールの様に愛らしく、ふんわりとキラキラしたピンクの長いドレスを1mは垂らし、あまり上手く飛べない様子で、それでも一生懸命にそれぞれの肩に次々と飛び乗り、最終的にはイッチー卿の頭の上に落ち着いた。
 ペタリとへたり込むププリンに、イッチーは困った顔で頭の上を撫でた。
「ふぅ〜、疲れちゃった‥‥」
「ププリン様。あんまりはしゃぐと、この間みたいに祝賀会を寝過ごしちゃいますよ」
「ううう‥‥それは嫌‥‥」
 思いっきり目を瞑り、嫌々と全身を左右に振る様に、大きなクッションをベッドにすやすやと寝入ってしまったププリンの姿が脳裏を過ぎる。
「さあ、ププリン様。参りましょう」
「うん‥‥」
 うっとりと瞳を潤ませ、オリエがププリンのドレスの裾を直す。
 リディリアもこれを慈しむ瞳。
「猫の首に鈴だな‥‥」
 ぼそりと蒼威が呟き、腕の中で欠伸をする猫の頭を撫でた。

「ドキドキ〜」
 先頭を進むのは、神妙な面持ちでトルク家の旗を掲げ持つ瑠璃。流石にバニーガール姿は恐れ多く、礼服に身を包み、大きく足を踏み出した。頬が紅潮するのがわかる。レース会場とは違った緊張が、瑠璃の全身にひしひしと迫り来るのを感じずにはいられなかった。
「えっへん☆」
 それに続くは、ププリン卿を頭の上から腕の中へと移した礼服姿のイッチー卿。
 ここより、居並ぶ貴族の間からため息が漏れ出した。

 続いてしずしずと歩むのはチャリオットの操手達。
 イッチー卿の背後、左右に少し距離をとる。
 左には清楚なシルクのドレスを上品に着こなし、伏し目がちに歩むオードリーの円熟した美しさがあった。
 またその右側には、第2走の操手を務めたオリエがロマンスガードで、メリーアンの面目躍如、楚々としてさわやかな雰囲気をまといつつも艶やかな美しさを一際輝かせ、その自信と共に胸を張って歩む。

 オードリーの背後には、乗員のシュバルツと蒼威が続いた。
 シュバルツは、ゴーレムライダーにマントと言った出で立ちで武人らしく堂々と、それでいて銀のピアスとシルクのスカーフをアクセントに、爽やかな女性らしさを演出する。周囲を一瞥すると、フッと微笑み、居並ぶ紳士達へ流し目をくれた。
 蒼威もまたゴーレムグライダーに、ナイトレッドのマントをまとい、獅子のマント留めとふさふさの襟飾りで演出。静かに付き従う。

 オリエの背後には、乗員のリューズ、春陽、リディリアの三名が続き、更にその背後にメリーアン。
「‥‥ここ数年ドレスなんて着る事が無かったから気恥ずかしいな」
 結局、オリエに倣い、純白のドレス姿を披露するリューズは、いつにない興奮に頬を染めた。
「あれが、ジーザム王‥‥」
 春陽は、大きく目を見開いて、王座に座すジーザム・トルク王の威厳に満ちた姿を眺めた。
 楚々としたロマンスガードに、アメジストのリングとネックレス、シルクのショール、透ける様なシルバーのパンプスと足元にも演出を忘れず、春陽は人々の目線を痛い程に感じていた。
 そして、騎士としての礼装に身を包むリディリアも、恥ずかしくない振る舞いをしなくてはと、緊張にその身を震わせた。

 皆から数歩後ろに下がる形で、メリーアンは己の自信作を眺めると共に、その向こうからこちらを眺めているジーザム・トルク王の威厳ある姿に心を奪われていた。

 ゆったりとした真紅のマントを身にまとい、ジーザム・トルク王は玉座に腰を掛ける。
 その眼前に進み出た一同は、サッと跪き深々と頭を下げた。
「陛下! チーム【レッドスフィンクス】只今帰還致しました!」
「致しました〜☆」
 緊張に震えるイッチーの声に、陽気なププリンの声が重なり、不思議なハーモニーとなる。
 人々のざわめきが消えた。
 これに、ジーザム王は静かな面持ちでゆっくりと頷き、凛とした野太い声で朗々と宣言した。
「よくぞ、再びこの地へ勝利の栄誉を持ち帰った! 美しき獅子達よ! この勝利は我が喜びにて、トルクの地に住まう者、総ての喜びである! よって、トルク王の名により、お前達の働き見事と褒め讃えよう!」
 ワッと人々の口より歓声が沸き上がり、割れんばかりの拍手が賞賛の渦となって注がれる。口々にレッドスフィンクスの名が、一人一人の名が叫ばれ、再び静まり返るまでかなりの時間を要した。
 静まり返るのを待っていたかの様に、ジーザム王はスッと左手を挙げた。
 すると、文官らしき者達が、煌びやかな品々を乗せた台車を押して現れた。
「これは、エーガン王よりお前達へ贈られた記念の品々。受け取るが良い。更に、この度の見事な働きに対し、お前達一人一人へトルク王の名において男爵位の名誉を与え、これに報いようと想う。依存は無いな?」
 威厳に満ちた面差しで、ジーザム王は一人一人の顔を見、その返答を読み取ろうとする。
 シュバルツはしてやったりと、オードリーはこの突然の事に感涙を禁じえなかった。
「恐れながら!」
「うむ。その方、名は何と?」
 跪いたまま、春陽は答えた。
「思いも寄らぬ栄誉! 身も震えんばかりで御座います! が! 私、越野春陽はエーガン王の忠臣、ルーケイ伯に仕える男爵で御座います!」
「聞いている。ならば、汝の負うべき義務は、ゴーレムチャリオットレースに出場する時、レッドスフィンクス以外のチームからは決して出場しない、というものとする。ならば問題あるまい?」
「ははっ! 謹んでお受けいたします! ルーケイにおきましても、今後、良き隣人たるべく努力致します!」
「うむ。その心がけ、殊勝。存分に伯の為、ルーケイの民草の為に励むが良い」
「はっ! 有難きお言葉!」
 春陽は、頭の中がぐるぐるとなるものの、平伏してこれを受けた。
 領地を与えられた訳では無い。爵位だけを授かったのだ。
「ププリンよ、お前には子爵の名誉を与え、引き続きチームを率いる事を命ずる」
「は〜い☆」
「うむ、イッチーよ。お前もまた、男爵位を与える。ププリン子爵を支えよ」
「ははっ!」

「申し上げます!」
「その方は? 許す」
「ははっ! リューズ・ザジに御座います! この度、サン・ベルデ従軍の為に拝謁を賜る事が出来ませなんだ、ミシエル・バルス・ガロー卿よりの言伝が御座います!」
「申してみよ」
「此の度はやむを得ぬ事情とはいえ、お声掛けに応じれず申し訳ございません。しかしレースでは陛下の名に傷を付けぬ働きが出来、光栄に思います、との言で御座います!」
 すると、ジーザム王は頷き、すっくと立ち上がって一同を見渡した。
「皆、トルクの英雄を讃えよ! そして、再び我等の元へ栄誉をもたらす事を!」
「「「お約束致します!」」」

 大鏡に映る自分。アメジストの輝き。傍らには瑞々しい輝きをのフラワーティアラ。それをそっと頭に載せた。
「リディリアさん! もうそろそろ!」
 バニー姿の瑠璃が飛び込んで来る。
「も〜ちょっち待って!」
 メリーアンが最後の仕上げと、ティアラに合わせて朱を引く。
 楽の音に花の香、連呼する声。パレードが華々しく始まろうとしていた。