第3回GCR P みんな観戦しようよ☆
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■ショートシナリオ
担当:マレーア1
対応レベル:8〜14lv
難易度:易しい
成功報酬:2 G 49 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月12日〜05月15日
リプレイ公開日:2006年05月19日
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●オープニング
●第3回GCR開催ス!
ウィルの街を出てすぐの所、かつてスラム街があった場所にその競技場はある。
フォロ王の許しを得て建設された、巨大な石と焼きレンガの建造物、それがマーカス商会の運営するレース場である。
ここを馬や馬車で訪ねた貴族は、競技場の横に設けられた広場に馬車を停め、御者や従者に見張らせる。
馬で一人来る騎士や天界人はと言うと、待ち構えていたにわか従者候補の子供らが、僅かな駄賃で馬の番をする。才の多少ある者は、徒党を組んでより多くの馬を預かったりもする。
そんな子供連中を束ねるのが、マーカス商会の若い衆の仕事でもある。
派手な色彩で『第3回ゴーレム・チャリオット・レース』の文字が幾本もはためいていた。
そこかしこで大道芸を披露する者達が、無論許可を得ての事だろう、人々の歓声を集めている。
「いらっしゃいませ! レース観戦のお客様で、こちらへどうぞ!」
入場口に近付くと、まるごとばがんに身を包んだ係員の男が、力いっぱいの笑顔で出迎える。
競技場の入り口は、今回より平民用と貴族用の二箇所に別けられる事となっていた。
平民は、これまで同様に長蛇の列を作り、少しづつ入場をする事となるが、貴族用の入場口はちょっとしたカフェテラスの様な造りになっている。
「旦那ぁ〜、これ土産にどうだい!?」
「こっち買って!」
「買ってよ!!」
「どけどけっ!! ここで勝手に物を売るんじゃねぇっ!!」
ワッと集まる物売りを、すぐさま警備担当の者達が追い払う。
そして、係員に導かれ貴族用の入場口へ入ると、室内には穏やかな音楽が流れ、カウンターテーブルや奥のテーブルなどでゆったりと談笑を交わす身なりの良い人々が目に付いた。
「如何なさいますか? まだ開会までお時間が御座います。こちらで、何かお飲み物でも? お知り合いの方とご歓談など楽しまれては如何でしょう? 席の方はより良いお席の方を幾つもご用意させて戴いております」
入店するや、にこやかな紳士が恭しく一礼し、出迎えてくれる。
「それとで御座いますが、今回、場内には幾つもの屋台をご用意させて戴いております。主に天界のレシピより生み出された品々、簡単なものばかりで御座いますが、お話の種にお幾つかお楽しみなされては如何かと存じます。もし宜しければ、お土産にお持ち帰りもご用意出来ますので、その時にはお申し付け下さいませ」
そう言って、新メニューの一覧を見せられた。
【軽食】
・天界風お好み焼き
・天界風マーカスバーガー
・天界風サンドイッチ
【甘味】
・天界風パンケーキサンド
・天界風あんぱん
・天界風りんご飴
「今回は、お試し価格と致しまして、1品分のお値段1Gで、もう1品お楽しみになれます。お求めの際に、この中からお選び下さいませ。交換用のチケットをお渡し致ししております」
●入場料を改訂致します
騎士位、もしくはそれに準ずる有徳の方 ‥‥2G
男爵位以上のお方(お供の方1名まで無料) ‥‥5G
※お供の方は、士分の方として数えさせて戴きます。
●入場すると‥‥
カウンターでワインを楽しみながら、吟遊詩人の演奏を楽しみ、そろそろという時を迎える。
そうなると、みな談笑やカード遊びを止め、ゆっくりと入場口へ歩き出す。
そんな穏やかな人の波と共に歩み、入場料金を払うと、入場章が渡される。それから競技場の廊下を進むと、傍らをドッと市井の人々が走り抜ける。少しでも良い席を取ろうというのだろう。
廊下の両脇には、マーカス商会の土産物屋が軒を連ねている。
プ〜ンと香ばしく食欲をそそる良い臭いが、鼻腔をくすぐって来た。
廊下は突き当りで左右に別れる。そこに既に行列が出来た屋台が一軒。天界風、お好み焼きだ。
じゅ〜じゅ〜と騒がしく唸る大きな鉄板に、チャリオットの形をしたそれが幾つも並んでいる。それに、店員がサッとホワイトソースをはけで塗って回ると、滴るソースが鉄板に触れるや、じゅわわわわ〜っと濃厚な甘辛い香りを一気に廊下へ解き放つ。
それを見、順番待ちの者達は目を血走らせながらどよどよとため息やら何やらを漏らした。
左へ向かうと案内板に、貴族用の観客席は、ゴール地点のある第4直線、そして第4カーブ、第3カーブ、更には第3直線と記されている。この廊下を更に歩むと、ぐるりと一周出来る形だ。
暫く廊下を歩いて行くと、また別の美味しそうな香りが。
そして観客席への階段を登ると、ふわっと人々の熱気交じりの空気が頬を撫でる。
眼下には、観客席の向こう、上り坂に下り坂、起伏に富んだコースが広がっていた。
●リプレイ本文
●蒼威男爵
前回よりも更に早く、アレクシアス・フェザント(ea1565)は控え室を訪れた。彼自身もザ・チャンピオンと呼ばれる相当な腕だが、今や一人だけの身の上ではない。警護として与力バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)が影のように付き従う。
まだ早すぎるせいか陛下も姫もお越しになっていない。代わりにいたのは時雨蒼威であった。
「よぉ。ルーケイ伯」
ゴーレムマスターに身を固めた蒼威は、ゆっくりと挨拶の右手を挙げた。
「どうしてここへ?」
参加者はいろいろと準備もあろう。常ならばチャリオットの傍にいるはずだ。
「ププリン卿から言われてね。なんでもお偉いさんが逢いたいそうだ」
ちょっとぶっきらぼうに返事をする。
「昨夜は山下が失礼した」
「なに構わんよ。俺はどっちかというと奴のために忠告しただけだ。少し大事になりかけたがな。奴に言っとけ。もう、自由に発言できる身分じゃないぞ。仮想敵国だの内臓の病だの穏やかじゃない」
暫し歓談する二人。そこへ、静かにドアが開き現れたのは‥‥。
「忙しい所を済まぬな」
見紛う事なきその姿。ジーザム・トルク分国王陛下その人である。
片膝を着き臣下の礼を取る三人。
「蒼威卿。大儀である。昨夜は伯の与力と言い争ったそうだな」
(「ったく。油断も隙もないな」)
苦笑いを堪えるバルバロッサ。しっかりと口論は王聴に達していた。何かを言おうとするルーケイ伯を制し、ジーザムは頷く。
「犬が飼い主以外に吠えるのは当たり前のことだ。二心無き臣下を持たれるエーガン陛下こそ祝着至極。そして、蒼威卿。わしは卿(おんみ)を得た事を嬉しく思う。トルクの臣と旗幟鮮明にする卿の赤心、嬉しく思うぞ。よって正式に封土を与えよう。いや、直に治める必要はない。代官を派遣する故、今後不定期だが冒険者ギルドを通じて送金があろう。普通の報酬と共に受け取るが良い」
つまり蒼威は男爵待遇では無く、歴とした男爵となった。世の中何が幸いするか判らないと言うことだ。
「今より。卿がトルクの催す軍役に加わるとき、無条件でフロートチャリオット1台の使用を認める」
ジーザムの言葉が重く部屋に響いた。
●雲飄揺(ひょうよう)
腕に一羽の鷹を乗せ、猫一匹を従えて、如何にも禍々しい漆黒のローブを飄揺(ひょうよう)と、パトリアンナ・ケイジ(ea0353)は現れる。
「ん? ああ、これは連れだ」
ちょっと引いた受付に席料を払い中に入る。通されたのは庶民とは違うゆったりとした席。鷹の『まだふぁか』と猫の『せるふぃっしゅ』は大人しく傍らに控えた。
「あれがゴーレムかい‥‥」
船を思わせるそれは、妙に可愛い紋章を付けて眼下にあった。円で構成された獅子の紋章は、名に負う王者レッドスフィンクス。
「ゴーレムでけー! あれさ、あれさ、何で動いてるんだい?」
近くにやって来た売り子に声を掛ける。
「おば‥‥」
言いかけて凍り付く売り子。何があったのだろうか? 声を掛ける暇もなく、泣きそうな顔で逃げるように去る。
「あーあ。勿体ない」
落ちたリンゴ飴をせるふぃっしゅが舐めたが、興味ないらしく跨いで膝に飛び乗った。
●カルテット
元気が一番。いろんな意味で衆目を奪う4人の女性。チャイナドレスでさっそうと席の間を抜けて行く。純粋無垢、孫が出来てもユニコーンに懐かれそうなルティア・アルテミス(eb0520)。貴婦人の秋波とため息を集めるボーイッシュなディーネ・ノート(ea1542)。お菓子を抱えて幸せそうなサレナ・ヒュッケバイン(ea8357)。そして、優しさと残忍さ、可愛らしさと勇猛さ。美しき獣と喩うべき、全てにおいて規格外なフォーリィ・クライト(eb0754)。
「ねぇねぇ! 見てよ」
ルティアは子供のようにはしゃぎながら飴に閉じこめられたリンゴを見る。真っ赤なリンゴの色は、如何にも美味しそう。
「え〜! なんでそんなに高いのさ」
物珍しい食べ物はとても高価。むくれるその頬を
「ルティアさん。はい」
サレナがあんパンで突っつく。かれこれ10G以上は買い漁った食べ物の山。そして、勝ち組投票札を数枚。二番人気のブルーゲイルとソードフィッシュに賭けている。
「あれ?」
ふらふらとルティアが引き寄せられるその先には、おみやげの小さなマスコット。布で出来た小さなお人形。
「あん」
躓いて転倒。
「大丈夫ですか? お嬢さん」
危ういところを支えたのは一人の騎士。
「はっ!? ぼ、僕子供じゃ無いんだよ!」
ぷぅ〜っと膨れるその様は、どこから見てもお子さまその物。騎士は思わずくすりと笑った。華奢な人物であったが、それでもルティアがぽかぽかと胸を叩くくらいではびくともしない。これで騎士がエルフであったら、結構お似合いのカップルに見えないこともないだろう。
とんとん。誰かが騎士の肩を叩く。
「それ、あたしの連れなんだけど‥‥」
フォーリィの姿に
「むぅ〜」
と、なんだかおじゃまみたいな反応。
「お姉様ですか?」
振り向く顔をみれば、オットー・フラル卿では無いか。
「こんな可愛い妹さんが居たとは‥‥」
(「違う違うオットー君。ルティアはあたしのお母さんより年上だよ」)
フォーリィの思惑もなんのその、彼女の袖を掴む姿は逆にルティアが娘のよう。それも幼児その物。何はともあれ迷子になりかけたルティアを無事回収し、礼を言って踵を返した。
●観戦
真剣な眼差しで熱戦に見入るオットー・フラル卿の横顔に、アレクシアスは、ふっと笑みを漏らした。オットーは父親の病状が芳しくない事もあり、時折駆り出される戦の他は、自領に引き篭もって慣れぬ執務に追われる日々だという。遊んでいる暇などありはしないのだが、伯から是非にと招かれれば、顔を出さぬ訳にはいかぬというもの。
「あ! あーっ。残念‥‥カーブを恐れず、もう少しこう、鋭く進入していればあと1、2体は余計に破壊できていたのに‥‥」
すっかり気に入ったらしい天界風お好み焼きをパクつきながら、素人監督は論評に余念が無い。最初は『お招きに預かり』などとやっていた彼だが、すっかり気分も解れて楽しんでいる様子。
「ほう、観客席では随分と勇ましい」
アレクシアスにからかわれ、オットー、ちょっとむくれる。
「私だって、色々頑張ってるんです。少しは一人前に見てくれても──」
「そら、顔にソースがついているぞ」
すっとオットーの口元を拭う早業。大人ぶった途端に面目丸潰れのオットー、顔が真っ赤だ。
暫し間を置き、アレクシアスは表情を改めて、オットーの耳元で二言三言呟いた。はっと顔を上げた彼も、食べ物を置き、真顔で答える。
「分かりました、必ず伝えておきます。彼は傭兵ですから、報酬が正当に支払われるなら断りはしないでしょう」
頷いたアレクシアス。と、そこにりんご飴を売り歩く声が。オットーの視線が泳いだのを、見逃したりする筈も無く。
「りんごを飴で包んだ菓子だ。ひとつ如何かなオットー殿」
「‥‥アレクシアス卿のお勧めとあれば」
嬉しさを押し隠して平静を繕うオットーに、アレクシアスも笑いを堪えねばならなかった。
「ふむ」
方や、バルバロッサはソードフィシュの擱座を見てうなり声を上げた。意外と見えぬものである。意外と小回りの利かぬものである。
「どうだ。使えそうか?」
ルーケイ伯アレクシアスの問いにバルバロッサは応える。
「やはり、周到に準備された敵の陣地を抜くのはやばいな。だがそう言ったものを準備させない状況や、陣地の迂回には使える。回り込んで側背を衝いたり、退路を押さえて仕舞うのが上策だろう。操縦者の技量次第だが、チャリオットが填る程の大きさで3mを越す深さや高さの障壁は簡単に準備できまい。だから堅陣を抜くよりも迂回や迅速な追撃、それに運搬にこそ効果があると見た」
フロートチャリオットは、なかなかに使いどころが難しいようだ。
●食い倒れウォーズ
「あ、坊や」
仲間と合流した辺りで売り子を呼び止め、フォーリィはお好み焼きとマーカスバーガーを買う。
「そう言えば、誕生日だったっけ?」
ルティアのために買う、リンゴ飴とパンケーキサンド。
「ふやっ‥‥き、今日はありがとだよ〜」
そんな二人を後目に
「さあ! まずは天界の食べ物を一通り全部食べますよ! あーいむなんばーわん!」
ちょっと愛する人の前では出来ないような勢いで、サレナは食いまくる。途中から参戦したディーネも負けず劣らず。そう、まるで炎が全てを食い尽くす如くその食欲は際限がない。たちまち数人の売り子の売る物が消滅して行く。
いつしか周りに人の輪が出来、見せ物を見るかのように固唾を呑んで見守っていた。ルティアとフォーリィはちゃっかりとその輪の中に入って他人のふり。しかし、ディーネはそんな彼女に手をふってにっこり。得体の知れない擬音の書き文字が、フォーリー達の背景に浮かんだのは言うまでもない。恐るべき食欲。戦慄を覚えるルティアであった。
余人に真似の出来ない食い倒れツアー。財力もさりながら半端な量ではない。話を聞きつけて集まってくる売り子の商品が、あっという間に消えて行く。あの、華奢な身体のどこにはいるのか? サレナとディーネは、恐らく一時的に体重が3割り増しにはなっていることだろう。
「すごいですね‥‥」
ケンイチ・ヤマモト(ea0760)は素直に感心する。二人の周りに人垣が出来、なまじ容姿が人並み以上に優れている者達だけに、ちょっとした見せ物に成っている。あの顔で、あのスタイルで。信じがたい超常現象が目の前で起こっている。気前よく支払われる金貨が、彼女ら冒険者に対する畏怖を募らせて行く。
「お前等、食うのは良いがハラ壊すなよ」
しょうがないなと笑いながら、小声で呟くのはアッシュ・クライン(ea3102)。集まってきた売り子から、マーカスバーガー数個と冒険者酒場の3倍値段のグレープジュースを購入する。
●可愛いもの
「思ったよりも広いですね」
騎士身分の指定席に座るカレン・シュタット(ea4426)。高い金を取るだけあって、ゆったりとした席である。綺麗な敷物が敷かれ、座ると弾力を帯び柔らかかった。りんご飴とサンドイッチを手にレースを観戦する。
「庶民を10人詰め込むスペースに1人か」
アッシュはゆったりと席に腰掛けると辺りを見やる。爵位持ちの席はさらに広いようだ。
既に風は初夏。鮮やかな緑、目映い緑が向こうの平地を埋めている。渡る風の日向の匂いに目を細め、どっかりと深く腰を下ろす。未だ暖かいマーカスバーガーを一口。しゃきっとした野菜の感触の後に、程良い肉汁が口の中に広がる。
「たまには‥‥悪くないな」
雲の流れ、空の蒼。飛ぶ鳥の列が上空で乱れ、沸き上がる歓声。喉に流し込むジュースの甘い香り。大きく深呼吸したとき、小鳥が一羽、紅い実を加えて飛んで行った。
(「‥‥可愛い」)
心に浮かんだ一つの感情。そんなものがまだあったのかとビックリしたアッシュであった。それは、興に乗ったケンイチが奏でる調べが生み出した魔法だったのかも知れない。
さて、応援の席でも食いまくる二人と、奇声を上げてぴょんぴょんと仔ウサギのように飛び跳ねるルティアの傍らで、一人フォーリーは周りの視線を気にする。しかし、ソードフィッシュのパフォーマンスに立ち上がって歌い出す会場のノリに、遂に彼女も巻き込まれ、気が着くと魚さかなと歌っていた。
レースの結果はブルーゲイル優勝。四人が勝ち札を精算すると、途方もない買い物の殆どがそれで賄われた。皆それぞれに休日を満喫し満ち足りる夕暮れ。
「くぅぅぅ〜」
少しはしゃぎすぎて疲れたのかも知れない。安らかに寝息を立てるルティアを、迎えに来たアッシュが背負って会場を後にした。