第3回GCR X 裏方運営楽しいな☆

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月12日〜05月15日

リプレイ公開日:2006年05月19日

●オープニング

第3回GCR X 裏方運営楽しいな☆

●第3回GCR(ゴーレムチャリオットレース)大会運営委員会
 そこはウィルの街外に築かれたGCRの競技場内。
 第3回GCRの運営委員会が名立たる悪徳商人マーカス・テクシの元に開かれていた。

 薄暗い部屋に集うマーカス商会の人間と、その他大勢。
 その中心にマーカスが居た。
 マーカスは、ふぅ〜っと深呼吸。
「よし〜っ、始めるぞ、おめぇら!!」
「お〜っす!!」
 窓もガタガタと震える雄叫び。
「どうやら、あの『ブラック××団』とやらは、あのカリメロ子爵さんの所へ遊びに行ってるらしい!! まぁ、子爵さんに比べたら、わし等なんぞは子猫みてぇなもんだ!! うちの仇はしっかり討ってくれるだろう!! そういう訳だが、今度の警備担当者も手抜きしやがったら簀巻きにして川に沈めてやるから、その覚悟でいやがれ!!」
「へいっ!!」
 威勢の良い返事。そして若衆の数名がせせら笑った。
「全く、あのカリメロさんのトコに手ぇ出すなんて、馬鹿な連中だぜ!」
「命が幾つあっても足りねぇってもんだ‥‥」
「うう‥‥恐ろしい!」
「知らねぇって事は恐ろしいですねぇ〜、旦那」
 手もみする男に、マーカスは嫌な顔をする。
「まぁ〜そう言う事だ。俺もあそこと構える事はしたくねぇ。良いかてめぇらっ!! 何度も言うが、アレだけは手ぇ出すんじゃねぇぞ!! 叩き出すからな!!」
「へいっ、マーカスの旦那!!」

「くか〜っかっかっかっか!! よぉ〜し、次はこの間の屋台の件だ!! 今回はお披露目も兼ねて、半額で出す!! つまりだ、ワンコインで2品!! 金貨ワンコインで2品喰える様にするぞ!! 1品を買った客には、もう1品の引換券を渡す!! 引換券は厚手の革でも切って、焼印を押して作れ!! どうせ今回限りだ!! そして、客に選ばせる時に、他の品の説明をするんだ!! 金が出せる客に、新しいレース名物がどんな美味そうな代物か、きっちり教えてやれ!! 本当にウメェもんだったら、後はそいつらが勝手に世間様に広めてくれるって寸法だ!!」
「へいっ!!」

「天界のお好み焼きの屋台は、入場口から入ってすぐの真正面に置け!! 今回の目玉だ!! 入場する全員に、あのソースが焦げる臭いをたっぷり嗅がせてやれ!! 焼く係りと説明する係り、最低二人は配置するぞ!! パンケーキサンドとマーカスバーガー、あんぱん、りんご飴、この四つの屋台は観客席の高い所へ分散させて配置だ!! どこに何があるなんて、いちいち説明しても判らねぇもんだ!! ぱっと見て判る様に看板やのぼり旗も出せ!! バスケット入りのサンドイッチは、売子に持たせて売って回れ!! くか〜っかっかっかっか!! あればっかりは、臭いも作る場所も関係無いからな!!」
「へいっ!!」

 まだまだマーカス節は続く。
「勝手に競技場の周りに陣取る奴等は叩き出せ!! 店なんか構えようもんなら、ぶっ潰しちまえ!! こっちにゃ、偉大なる国王陛下様が付いてらっしゃるんだ!! この辺を、月一だけの場なんかにゃさせねぇぞ!! うちらの縄張りだって事を、裏の連中にも、嫌って程、教え込んでやれ!! これからは楽団を雇って音楽会を開き、役者達に演劇の小屋を開かせ、常に客が集まる様に仕掛けて行く!! 天界人の言う所のてーまぱーくって奴よ!! ゆくゆくは魔法使いを雇って魔法の灯りで夜でも明るくさせ、城門が閉まった後でもして過ごせる場所にするのさ!!」
 パチリと指を鳴らすマーカス。
 すると、するするするりと後ろの壁に、一枚の大きな布が。

 そこには、墨でデカデカと『(仮)マーカスランド建設計画』の文字。
「ゴーレムチャリオットのレースなんて、まだまだ序の口よ!! いいかおめぇら!! これだけの箱物だ!! 遊ばせとく手はねぇんだよ!!」
「へいっ!! マーカスの旦那!!」
「先ず、第一段階だ!! 入場口を平民専用と貴族あ〜んど金持ち専用に分け、貴族用は休憩所みたいにゆったりと知り合い同士で歓談が出来、疲れたら休めたりする事が出来る、そんな場所にして行くぞ!! 当然、貴族専用席を設け、そこには平民が座れない様にする!! 貴族の方々はゆったりと開場を待ち、酒や食べ物、カードゲーム、音楽を楽しむ事が出来る!! 寝泊りする事の出来る個室も用意出来りゃ、ちょっとした火遊びも出来るってもんだ!! あと、応援団の女達で、音楽劇とかもやらせてみりゃ面白ぇ〜かも知れねぇ!! その辺は、芸達者そうな奴に声をかけてくれる様、お願いしている!! おめぇら!! これからも、びっしびっしいくからそのつもりでいろ!!」
「へいっ!! マーカスの旦那!!」


 どうやら、これまでの仕事の他に、色々妙な展開も用意されていそうな雰囲気である。
「そういや『ブラック××団』の連中がやってたショーも、面白ぇ〜なぁ〜‥‥」
 くけけけけとせせら笑うマーカス。普段の商売以外にも、妙な色気を出しているらしい。

●今回の参加者

 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea5678 クリオ・スパリュダース(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4141 マイケル・クリーブランド(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4294 御紅 蘭(29歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4304 アリア・アル・アールヴ(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4313 草薙 麟太郎(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4316 木下 秀之(38歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4410 富島 香織(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ミルフィー・アクエリ(ea6089)/ 真音 樹希(eb4016)/ マサトシウス・タルテキオス(eb4712

●リプレイ本文

●マーカス裏方繁盛記
 ウィルではかなり有名な悪徳商人、マーカス・テクシと共にウィルのベイカー街を歩いた。
 ベイカー街とは、文字通りパン焼き職人達の工房が連なる地区。通常、街の人々は自分達の小麦を預け、毎日のパンを他の家々の分とまとめて焼いて貰い、その分の手間賃を払う。時間ともなれば、一斉に芳しい香りが熱気と共に立ち昇り、むせ返る様だ。
 今や通りは食事の為にパンを受け取りに来る人々で賑わっていた。
「どうでぇ、この香りは?」
 振り返り、にたりと笑うマーカス。
「屋台の近くでこういった香りをどんどん客に嗅がせるのよ。財布の紐が緩む様になぁ〜」
「そして、作り立ての一番美味そうな処を見せるって事だな? しかし俺が言うのもなんだけどさ、正直あんぱん1個1Gって高すぎない?」
 木下秀之(eb4316)が眉に皺をよせてあえて口にすると、マーカスは目を細めて秀之を見据えた。
「天界じゃありふれた物でも、このウィルでは誰も口にした事が無いってぇ代物なんだぜ。地球じゃドラゴンはいねぇんだろ? くっくっくっく‥‥ドラゴンの肉1切れ、幾らになると思うね?」
「う‥‥」
 秀之はいきなり胸ぐらを掴まれた。
「観戦するのに金貨2枚をポンと払えるご身分の方々がいらっしゃる大会だぜぇ〜。小銭稼いでどうすんだよ? え? 値段なんてもんはな、こっちが決めんだ! それでも買ってみてぇ! 喰ってみてぇ! そう思わせたモン勝ちさ。それをやろうってんだ。道端で何が入っているか判らねぇもんを、妙な値段で売ってるのとは訳が違うぞ。こちとら、バックに国王様がついてんだ。そこんとこ、はきちがえるんじゃねぇぜ」
 それだけ言うと、手を離すマーカス。
「会場のあちこちで改装工事をされていたのは、その為ですね」
 にこやかに信者福袋(eb4064)が口添えすると、マーカスは口元を歪ませ不気味に微笑んだ。
「マーカスバーガー用のパンは、この辺にあらかじめ粉を預けておいて、売れ行きを見て焼かせても良いが、妙な抜かれ方してもつまんねぇからな。そこで何人かこっちに抜く事にした」
 そう言うと、一軒の工房近くの家へ。
 そこで何人かのパン焼き職人と顔合わせとなった。

 お好み焼き用の鉄板が搬出される中、マーカスが乗っ取った例の鍛冶工房では様々な金具が御紅蘭(eb4294)の手により産み出されつつあった。
「おっきいなぁ〜。ホントにこの寸法でいいのかなぁ〜?」
 熱気渦巻く作業場で口を尖らせぼやきながら、マーカスが用意した羊皮紙の設計図を確認し、2体分のかなり大きな兜や、鎧具足の様な物、様々な金具を作って行く。
 渡された鉄鉱石と砂鉄、そして燃料の石炭などは確かにそれを造るに足る分だけ余裕であった。
「ま、いいか♪」
「蘭様、これで宜しいでしょうか?」
 すると奥の方から、元々この工房の主だった男が、黒く薄汚れた手で大きな留め金を幾つも持って来る。水で冷ましたばかりらしく、黒光りする金属の表面からぽたぽたと水が滴っていた。
「えっと〜‥‥寸法通りだよね?」
「へえ‥‥」
 定規をあてがい実寸を計る。
 父親と同じ位の男達を顎で使う事になってしまった蘭。奥には二人もその弟子が居る。
「ふんふんふんと‥‥これは数が揃ったから、競技場の組み立て組に回してあげて」
「じゃあ‥‥」
 ぺこぺこと頭を下げる元親方に、目線を合わせ辛く自分の手元ばかり見てしまう。
 再び炉の前へと戻ってゆく元親方を見送り、掌で転がす鋲を木箱に放り込んだ。
「なんかやりにくいなぁ〜‥‥」

 競技場の入場券造りの作業場へ顔を覗かせたマーカスに、ルイス・マリスカル(ea3063)は席を立って、その鍔広の帽子を持ち上げ、軽く会釈してみせた。
「お帰りなさい、マーカスさん」
「おう、やってるな!」
 生乾きの染料が放つむせ返る様な悪臭の中、十数名の子供や女工達がせっせと働いている。
 右から左へ、次々と部材がその姿を変え、首から下げる入場券が出来上がって行く。
 マーカスはそれを手に取り、出来栄えを確認するかの様に眺める。
「ふむ。まぁ予定通りには仕上がりそうだな」
「ええ、皆頑張ってくれています。それはそうと、ニルナさんが連れて来た者達が来ているみたいですが」
「おお、そうか」
「ただ、あの件なんですが‥‥」
「おう、あの床とか壁の件か?」
 廊下へ出るぞと歩き出すマーカス。ルイスは平行して歩きながら続きを話そうとした。
「今更、工事の必要は無ぇだろう。要は金の傍に誰か見張りを立てりゃ良いって事さ。どうせ魔法で石や木の壁なんざ、鉄や鉛の壁だって簡単にすり抜けちまうんだろうから、その後の事を考えりゃ良いんだ! この前みてぇに、塗り壁の化け物と馬だけなんて事しねぇでちゃ〜んと見張ってりゃ良かったんだよ! あのふざけた野郎ども、1000Gもスラムにばら撒きやがって! こちとら表だって騒げねぇのをいい事にな! いいか、おめぇもあの事をそこらでペラペラ歌うんじゃねぇぞ! あれは応援団のアトラクションだった! 何も無くなっちゃいねぇっ! 王様の耳に入ったら、こっちがどんな目に合わされるか判ったもんじゃねぇんだ! この国はなぁっ! これっぽっちでも王様の耳に不快な事が入ろうもんなら、これよ!」
 そう言って、マーカスは己の首を、サッと手刀で切り裂くふりをしてみせる。
「そんな‥‥」
「そうやって、つまんねぇ事で潰された貴族様がいっぱいいんだよ! しっ! 誰か来やがった‥‥」
 ルイスの口を塞ぎ、壁際に身を潜めるマーカス。
 実際、ブラック××団の話は、表向きおかしな演出をした応援団が居た、という事になっている。それ以外は、あの部屋に居合わせた者達だけの秘密だ。誰もあの時分、怪奇●作戦はキングソ■モンばりのパロディが実演されていたなど気付こう筈も無い。

「ああ、いたいた。こんなところに」
 姿を現したのは競技用の人形修理と組み立てを担当している草薙麟太郎(eb4313)だった。
「なんでぇ、麟太郎か。ダミーバガンの出来具合はどんなもんでぇ? 丁度これから、そっちへ行こうと思ってたところよ」
 変な顔をしながら暗がりより姿を現すマーカスとルイス。
「マーカスさん、すこし伺いたいことがあるんですが。最近、商品の動きが活発になったという噂をご存知ありませんか? 特に武器の大口の取引があるとか、穀物とか生活必需品の需要が増えた地域とか」
「活発だぁ〜!? そいつはありがてぇ話だな! お陰さんでこのところ良い感じに売れ行きは伸びてるぜ! ああ、お陰さんでな!」
 唐突にマーカスの口調が豹変する。怒気を混じらせ言い放つ。ルイスはその訳が判っているので傍らで苦笑い。
「それはどんな傾向が? 武器や食料でしょうか?」
「ん? 喰いモンの相場が上がって来てるが、まぁ、こりゃウチが何枚も噛んでるからな。しかし、麟太郎よぉ〜、武器たぁ〜穏やかな話じゃねぇな? 何のネタ追ってんでぇ? 面白ぇ儲け話なら、載ってやっても良いぜぇ〜」

「1000Gの盗賊団!? 知らねぇなぁ〜! よお、ルイス! お前は何か聞いた事あるか〜!?」
「いえ、知りません。1000Gの盗賊団なんて、これっぽっちも聞いた事はありませんよ」
 二人して口裏合わせ首を左右に振る。
 麟太郎は変な違和感を感じつつも、巨大なダミーバガンを組み立てている工房へと、マーカスを誘うのであった。

 片や貴族用入り口としての建物はほぼ完成しており、今や内装用の調度品が運び込まれていた。
「ああ、その鉢植えはもっと窓際に置きなさい。光に映える様にだ」
 競技場の造成と兼任のエルフ、アリア・アル・アールヴ(eb4304)の指示に、殺風景だった店内が徐々に落ち着いた雰囲気に変わって行く。手前と奥では、奥の窓を色ガラスで華麗に彩らせ不思議な空間を作り出している。
 アリアは次にカウンター奥へ踏み入り、グラスやカップの並びを細かくチェックし、魔法の冷蔵庫も開けて中身を確認する。
 無造作に腕を突っ込むと、冷気が腕にまとわりつく。
 幾つも用意された銅の容器には既に氷が張っている。
「これなら、どの様な貴婦人も満足されるに違いあるまい」
 フッと微笑む。
 そこへふらりとマイケル・クリーブランド(eb4141)が顔を出す。
「あのさあ、こっちに‥‥」
「なんだ、マイケル?」
 マイケルは顔を左右に巡らせ、内装の変化に目を奪われた。
「おお〜、こっちも結構じゃないか?」
「当たり前だ。何の為の準備だと思っている。おい、何をしている?」
「ん? こっちに来てないかと‥‥お? あったあった‥‥」
 そう言って、マイケルは椅子の上に立てかけてあった熊のぬいぐるみを手に取った。
「何だ、迷子センター用のが紛れてたのか。貴族の子供用に丁度良いと思っていたのだがな」
「そおか〜。まぁその辺はそっちで何とかしてくれよ。こっちはこっちで、木馬とか何やら、子供用のおもちゃがあったら持ってきて貰っているって状態なんだ。じゃあな」
 そう言って立ち去るマイケル。
 アリアはそれを見送る事もなく、己の作業にさっさと戻る。
 ちょろちょろ流れる水をグラスに採り、それを透かして眺める。
「ふむ‥‥、水質は良好。今日もチリ一つ無しと‥‥」

 マイケルがサロンから熊のぬいぐるみを抱える様に出て行くと、視界の片隅に富島香織(eb4410)率いる清掃隊の面々が整列していた。
「何だありゃ? チンドン屋にしちゃみすぼらしいぜ‥‥おうフレディ、迎えに来たのか」
 足元で茶色い胴長の犬が、その小さな尻尾をぷるぷる振ってじゃれついて来る。
「よ〜し、行くぞフレディ!」
 マイケルは一声かけると競技場脇の小さなテントへと駆け出した。

 一方、パッと見十名ちょっとの集団は、着の身着のままで髪も髭もボサボサで虱や蚤をいっぱい飼っている。とてもみっともない。どうみても貧困層の住民だ。
 彼等を前に、香織は腰に手をあて、少しだけ胸を張り精一杯声を出した。
「今日あなた方に集まって貰ったのは、その格好です! 私の故郷のテーマパークで一番儲けていたところは、掃除をこまめに徹底的にやることでお客さんの気分をよくしてリピーターを増やすということをやっていました! マーカスランドでもそれを応用して、徹底的な掃除やサービスを提供していくのです! その為にも、先ずあなた方が身奇麗で無ければなりません!」
 不安そうに顔を見合わせるよれよれ清掃員達。
 香織はぴっと競技場裏のテントを指差した。そのテントからはもうもうたる湯気が立ち昇っている。
「先ずあそこであなた方を徹底的に掃除する事になりました! 今、着ている服は焼き捨て、髪を切り、髭を剃って、その上でこの制服を着て貰います! 良いですね!」
 香織は隠し持っていた1着の制服を、全員に見える様にかざした。
 どよよっと動揺する清掃員達。
「お行きなさい! 今なら作業員の人達が入ってないから、空いている筈よ!」
 マーカスランド、七大娯楽の雛型、クアハウスの原型がそこにあった。

「こんな‥‥大きな窯を‥‥」
 マーカスから話に聞いていたが、クリオ・スパリュダース(ea5678)が呆れて見渡す競技場の一区画。そこには、あんぱんやパンの皿を焼く為の大窯から次々と試作のパンが取り出されていた。
「お一つどうぞ」
 パン焼き職人に手渡されたアツアツのパン皿を、サクリと口にする。
「これは無醗酵で生地が薄いから、窯の余熱でもドンドン焼けますよ」
「ふ〜ん‥‥」
「それと、この窯では水を暖めて、サロンや他の施設へパイプで送られ、暖房や作業者用の温浴なんかに使うそうですよ」
「あそう‥‥」

「ふふ、皆さんごきげんよう‥‥」
 微笑みを浮かべ、姿を見せるニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)。今日も張り切ってお弁当を作って来たが、この日を境に様相が一変した。
「ニルナさん、マーカスさんが、これ必ず1個ずつは食べて感想を記録する様にって!」
「ええっ!? こ、こんなにっ!?」
 どんと各作業場に山の様に配られるのは、各屋台で作られた試作品の数々。それにペンとインクと羊皮紙が付けられ、マーカス商会の若衆達もこぞってそのチェック作業に取り組んでいる。
 女性陣からは、こんなに食べたら太ってしまうとの嬉しい悲鳴も上がるものの、家に持って帰ろうとすると若衆がグッと迫り、その腕をむんずと掴んだ。
「駄目! 暴力はいけない!」
 その剣幕にびっくりして駆け寄るニルナ。
「ええか〜、家のモン以外に絶対誰にも見せんじゃねぇぞ! ガキには絶対食わせろ! 近所でペラペラペラペラ喋らせるんじゃ! 判ったのぉ!」
「わ、判りました‥‥」
 息もかかる程間近に顔を寄せ、ガンを飛ばしながら手を離す若衆の一人。
「よぉ〜し、ええ宣伝になるわ‥‥へっへっへ‥‥」
「はぁ〜‥‥もう少し普通に話せないのかしら」
 がっくり肩を落とすニルナであった。

 ほぼ完成に近付いた競技場のコース。カーブの中央に大勢が集まり、手に手にロープを握っている。
「ほな、始めて貰おうか」
 マーカスの一言に、ニルナの連れて来た歌い手が競技場の隅々まで響き渡る涼やかな歌声を披露。
 その余韻が風に吹かれ消える頃、一斉に男達がそのロープを引っ張る。
 ピンと伸びきった何十本のロープに、それは静かに、それでいて十分な存在感を伴い起き上がる。
「これが第3回の大目玉! ダミーバガンじゃ!! か〜っかっかっかっかっか!!!」
 自慢気にマーカスが吼え、そこへ2本脚で立つ重厚な鎧具足に覆われた大巨人。
「うっわ〜‥‥こうして見るとおっきい〜♪」
 自分の造り上げた部品が組み上げられた様を、蘭はほれぼれと見上げた。
「リアルガンプラじゃあるまいし、こんな物を組む事になろうとは思いもしませんでしたよ」
 苦笑する麟太郎の瞳は、この時ばかりは全てを忘れキラキラと輝いていた。
「さて、コマが揃ったみたいですね‥‥今回は‥‥」
 キラリと眼鏡を光らせ、その奥で冷徹な瞳がマーカスを射る様に見据える福袋。

●当日
「おめぇら!! 今日は気合いれろぉっ!!」
「うおおおお〜っ!!!」
 空が虹色に染まるとほぼ同時、競技場のスタート地点で絶叫するマーカス・テクシとその一党。
 そしてそれに加わる冒険者達や雇われ人達。
 一見して多種多様な人々がそこに集う。
 それぞれがそれぞれの想いを胸に、この日の成功へ向け、走り出すその瞬間であった。