風雲ルーケイ〜毒蜘蛛団討伐Ｉ〜内部工作部隊
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■ショートシナリオ担当：マレーア１ 対応レベル：フリーｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：5 参加人数：8人 サポート参加人数：2人 冒険期間：05月31日〜06月10日 リプレイ公開日：2006年06月06日 |
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●オープニング
●開戦の号令５月の末。ついにその日は来た。
「冒険者諸君！ 戦いの時は来たれり！」
冒険者ギルドの集会所。居並ぶ冒険者達を前に宣告するはルーケイ伯。
「我は東ルーケイに巣を張りたる毒蜘蛛を討ち滅ぼす！ 数多の罪無き人々を殺め、子どもを浚い、財物を奪い、今なおさらなる獲物に襲いかからんと毒牙を研ぐ盗賊団、毒蜘蛛団！ その根城たる村を我は討ち、邪悪極まりなき毒蜘蛛どもを１匹たりとも残さずに討ち滅ぼす！」
朗々と響く声に、聞き入る者達の心は奮い立つ。
「冒険者諸君！ 我が同志達よ！ 我、ルーケイ伯は諸君らと一時の契約を結ぶ！ 其れは将と兵との契約なり！ 此はルーケイに秩序と平和をもたらすための戦い！ 罪無き民の悪に蹂躙さるるを見過ごせぬ者、此の地に悪を蔓延らせるを潔しとせぬ者よ、剣を取りて我が元に集え！ 進軍の号令は、明日にも下されん！」
引き抜かれるサンソード。その輝く刀身を高くかざし、ルーケイ伯は声高く言い放つ。
「我等に勝利を！」
おおおおおーっ！！
呼応する冒険者達。振り上げられる拳に振り上げられる剣。歓呼の雄叫びは怒涛の如し。
●部隊編成
今回の盗賊討伐戦に際して、冒険者達により編成される部隊は９部隊。当初の予定では８部隊だったが、ゴーレムグライダーの投入数が増えたことにより、急遽１部隊が追加された。
部隊編成は次の通り。
１：本隊Ａ（指揮・白兵・魔法）
２：本隊Ｂ（弓兵メイン・白兵・魔法）
３：本隊Ｃ（白兵メイン・魔法）
４：魔獣部隊（種類により、航空部隊・地上部隊で分担）
５：ゴーレム陸戦部隊（バガン・チャリオット）
６：ゴーレム航空部隊（グライダー）
７：魔法部隊（遠・中距離攻撃）
８：内部工作部隊（人質救出・潜入撹乱）
９：遊撃部隊（隠密性重視・伏兵／追撃）
この９部隊に、東ルーケイ北部に再興されたルムスの村からの援軍と、隣接する王領アーメルからの援軍が加わる。援軍については本隊Ａの指揮下に置かれる。
●戦場
戦場を概略図で示すと、次のようになる。
□□□□□□□□□□□□□□□□
＿＿□□□□□丘陵地帯□□□□□北
＿＿＿＿＿□□□□□□□□＿＿＿↑
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿畑＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿畑＿＿◎井戸 畑＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿畑＿＿●藪＿＿＿＿●藪＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿■■＿＿＿＿＿＿＿
＿畑＿＿＿＿＿■■盗賊の村＿＿＿
＿＿＿＿●藪＿＿＿＿＿＿●藪＿＿
＿＿＿＿＿＿●藪＿●藪＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿○○ ○○＿○○＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿落とし穴＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿□□□
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿□丘□
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿□□□
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝街道＝＝
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
・街道は盗賊の見回りルートとなっている。
・街道の進軍は用意だが、村からは発見され易い。街道と村との間には落とし穴が仕掛けられている。
・北の丘陵地帯は、進軍や部隊の展開に時間がかかるが、村からは発見され難い。ただし各種のゴーレム機器はその大きさから目立ち易く、日中は移動中に発見される危険が高くなる。丘陵地帯の窪地は、航空ゴーレムや大型飛行魔獣を隠すのに適している。
・村は人間の背丈以上もある柵でぐるりと囲まれている。
・村周辺に点在する藪の中には、盗賊が伏兵を潜ませる可能性がある。
これら、先の偵察から得られた結果を踏まえて、各部隊ごとに最も適切な移動経路を選び、その役割に応じて効果的な布陣を行うことが望まれる。
●作戦
討伐戦は次の流れで行われる予定である。
《第１段階》
内部工作部隊、遊撃部隊による事前工作および陽動。
《第２段階》
本隊Ｃ、ゴーレム陸戦部隊、ゴーレム航空部隊、魔法部隊による第１次攻撃。敵を包囲し、退路を遮断する。
《第３段階》
本隊Ａ、本隊Ｂ、魔獣部隊による第２次攻撃。敵を殲滅し、村を制圧する。
なお、どの局面でどの部隊を投入するかについては、若干の変更が見込まれる。
●村の現状
偵察隊からの報告によれば、盗賊の総数は約５０人。
朝と昼の２回、盗賊は見回りを行う。その際に剣と弓矢で武装した約２０人の盗賊が、馬に乗って村の外へと移動する。
偵察の行われた時点では盗賊団の警戒は薄く、見張りの数は少なかった。
また、村には盗賊によって捕らえられた人々が抑留されている。彼らは日中、盗賊達の監視の下、村の中や周辺の畑で奴隷のように働かされている。
村の内部の状況については、盗賊が闇市に売り飛ばし、冒険者によって買い取られた子ども達から情報が入った。その話によれば虜囚達が収容されているのは村の中心付近に建つ家々。盗賊達はその周囲をぐるりと取り囲む家々を住処とし、虜囚達が逃げ出さないよう厳しく見張っているという。
虜囚の数は約６０人。うち約１０人は老人、約２０人は子どもだという。いずれもまともな食事を与えられず、酷い状態にあるという。
●兵糧および報酬
食料は原則として各自が持参。
報酬はルーケイ伯の負担により、各自に所定の報酬が支払われる。但し、申告者がいれば無報酬での参加も受け入れる。その場合、食費などの諸経費は依頼者側が負担する。
●ルーケイ伯よりの御触書
──────────────────────────────────
第１条：拉致された場合、救出の努力はするが身代金は敵側に渡さない。
第２条：勝手な判断による暴走は、結果がどうあれ認めない。
第３条：前条を違反し被害が発生した場合には個人責任で賠償する。
賠償能わざる場合は借金。連帯責任は無い。
第４条：拉致された場合、他の面々は救出拒否権がある
──────────────────────────────────
依頼に参加する冒険者諸氏は、以上の４ヶ条を心に留められたし。
●作戦の指針
《内部工作部隊》
内部工作隊は本隊の出陣に先立ち、１日早く敵地に潜入する。村およびその周辺での各種の工作を任務とする。その目的は、後に続く本隊の進撃を助けること。並びに、村に囚われた虜囚達の救出を成功に導くことにある。
《遊撃部隊》
遊撃部隊は本隊の出陣に先立ち、１日早く敵地に侵入する。盗賊がその勢力圏内に張り巡らした監視網・連絡網に打撃を与え、また陽動を行うことによって、後に続く本隊の進撃から盗賊の注意を逸らすことを任務とする。
●今回の参加者
ea0439 アリオス・エルスリード（35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国）ea3329 陸奥 勇人（31歳・♂・浪人・人間・ジャパン）
ea4778 割波戸 黒兵衛（65歳・♂・忍者・人間・ジャパン）
ea5858 音羽 朧（40歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン）
ea8742 レング・カルザス（29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国）
eb3442 ウルリカ・ルナルシフォル（20歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国）
eb4242 ベアルファレス・ジスハート（45歳・♂・天界人・人間・天界（地球））
eb4375 エデン・アフナ・ワルヤ（34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス）
●サポート参加者
ララァ・レ（ea2226）／ サクラ・スノゥフラゥズ（eb3490）●リプレイ本文
●壮行の儀その日、天より注ぐ精霊光の輝きは、いつにも増して強く目に映った。
壮大なるフオロ城、その城門の内に整列したる強者達。
天界の騎士、戦士、ウィザード、鎧騎士、魔獣を駆る者。その鎧兜は天からの光に輝き、軍旗は色鮮やかに翻る。
これは壮行の儀。マリーネ姫が壇上に立つ。居並ぶ強者達と比べれば、あまりにも小さなその姿。しかしその声は朗々と天に響く。
「出陣の時は来たれり！ 此の戦いは王国の戦い！
実り豊かなるルーケイの地、今や荒れ果てて久しく、
賊徒蔓延る地と化したるは真に耐え難き！
勇者達よ、奮い立て！ 今こそ正義の剣を抜き放て！
軍馬の蹄で！ グリフォンの爪で！
暴虐の徒に穢されしその大地を隅々まで清めよ！」
その激励の言葉に呼応し、怒涛の如くに沸き立つ歓呼の声。姫の顔は誇らしく輝く。
姫の腹心にしてルーケイ伯与力の男爵の一人、ベアルファレス・ジスハート（eb4242）が姫の隣に立ち、なおも呼びかける。
「分をわきまえぬ者達にルーケイ伯の御力を示す時が来た！ 貴君等の働きがルーケイの明日を担う事になろう！ 奮起して欲しい！ この討伐戦がルーケイ平定への礎とならん事を切に願うものである！！」
さらなる激励に、歓呼の声は一層高まりゆく。
ルーケイ平定の挙兵に、王都は沸き立っていた。勢揃いした軍勢は城の城門から大通りへと繰り出し、さらに王都の大門へ向かう。道沿いには歓声を送る人々。その行進する先には香り立つ花が敷かれ、さらに頭上からも色とりどりの花びらが舞う。
街中に沸き立つ歓声は、王の耳にも届いた。王は城の居室から城下の街を見やり、今まさに城壁の外へ踏み出さんとする軍勢を目にする。
「ついに、我が王国は勇士を得たり。余はこの時を待っていた」
王の口から漏れた呟き。それは王の若かかりし頃、初めてこの居室から街を見下ろし、その輝かしき姿に感じ入って発した呟きにも似て。
裏世界や闇世界の者たちもまた動き出す。華々しい出陣は、蜘蛛の巣のごとく王都に張り巡らされた情報網を激しく揺さぶった。
貴族の館や商館に駆け込む者がいる。こっそりとスラムに足を踏み出す者がいる。アーメルの街道には西へ向かう早馬が現れ、王都の南の大河には急ぎ南ルーケイを目指す川船。東ルーケイの街道を行く流浪の民は、空きっ腹を抱えた食い詰め者にしては妙に足が速い。
装甲の儀の後、内部工作部隊の中で只一人、ベアルファレスは本隊第１隊と共に行動を共にする。まずはシスイ領を経てルムスの村に回った。今は盗賊に捕らえられている虜囚の解放に備え、村ではルムスにより受け入れ準備が着々と整えられていた。
「貴公の計らいに感謝する」
「何、これも家臣の務めだ」
ルムスの援軍との合流を果たした後は一路、毒蜘蛛団の支配する村の北に広がる丘陵地帯を目指す。
●工作失敗
壮行の儀で王都が沸き立つ頃。
先行してルーケイ入りした内部工作部隊は、既に攻略目標たる盗賊の村の間近、街道を臨む小高い丘の茂みに拠点を設置。日没を迎えるや、本隊の進撃を容易ならしめる為の工作を開始した。
「ここからは時間との勝負だ。行くぜ！」
陸奥勇人（ea3329）に率いられ、アリオス・エルスリード（ea0439）、割波戸黒兵衛（ea4778）、レング・カルザス（ea8742）、ウルリカ・ルナルシフォル（eb3442）、エデン・アフナ・ワルヤ（eb4375）が村の正面に向かう。村と街道の間、落とし穴が仕掛けられた場所だ。彼らが意図したのは落とし穴の埋め戻しである。
「これはでかい」
隙間探査の魔法、クレバスセンサーのスクロールを所持していたおかげで、レングにとっては落とし穴の探知など雑作もない。しかし、問題はどうやって埋め戻すかだ。
落とし穴のうち、大きなものはその深さが人の身の丈ほどもある。埋め戻しには大量の土を運ばねばならないが、盗賊の見張りがいる場所で土木作業を行うなど論外。まず見付かってしまう。
「仕方ない。後で目印の棒を立てておくとするか」
予定だと、明日には遊撃部隊による攪乱攻撃が行われ、明後日には討伐軍の本隊が到着する。攻撃が行われる朝方までに、目印を付けておけばいい。そう彼らは考えたが、その見通しは甘かった。
落とし穴は藪の少ない開けた場所に掘られている。当然、村の見張り櫓からもよく見える。月精霊の明かりの下、落とし穴の周辺で動き回る内部工作部隊の者達を、盗賊の見張りは目ざとく見つけた。
「あそこに誰かいるぞ！」
警戒の叫びが上がり、数名の盗賊達が村から出てきた。落とし穴の所までやって来た盗賊達は、異常に気付いた。
「見ろ！ ここに足跡が！」
「誰かが落とし穴に細工しやがったか！」
「探せ！ まだ近くに潜んでいるはずだ！」
盗賊達は近辺の茂みを徹底的に探し尽くした。しかし結局のところ、誰一人として見つけることは出来なかった。
工作部隊の者達は皆、セブンリーグブーツや韋駄天の草履を履いていたため、速やかにその場を離れることが出来たのである。
しかし不審者の接近に気付いたことにより、盗賊達の警戒は強まった。その夜は見張りの数も増え、工作の継続は不可能となった。
●夜襲
街道を進軍中の本隊が夜襲を受けた。シフールの伝令がその知らせを他の部隊に伝えてきたのは、かなりの時が経ってからだった。
討伐が行われる。大規模な軍勢が集結しつつある。その知らせは毒蜘蛛団にも届いていた。通常ならば、村から離れて討伐をやり過ごす。盗賊にとって、軍勢と正面戦闘などやる意味はない。
ところが、ここで何者かが偽情報を流した。
『討伐軍の攻略目標は西ルーケイにあり。軍勢は東ルーケイを素通り。この機に乗じ、南方の盗賊団・水蛇団が毒蜘蛛団の縄張りを横取りせんと、南に手勢を差し向けた』
毒蜘蛛団の頭目はこの偽情報を信じ、本拠地の村の守りを固めた。
しかし全員が全員、その情報を信じた訳ではなかった。同じ組織の中にも派閥は存在する、毒蜘蛛団がいかに弱小といえども。その派閥の一つによって夜襲は行われたのだ。
夜襲のために襲撃した人数は不明。いつのまにか接近され、食料に火を放たれた後だった。騒ぎが終わって鎮火した後には数体の死体が残るのみ。討ち漏らしがあったかどうはは定かではない。
「食料の損失は、およそ２００」
討伐を行うのに支障はない。だが、盗賊の中に逃げ延びた者がいたとしたら？ 本拠地に迫る軍勢のことが知れたら、毒蜘蛛団は早々に逃げ出す。
討伐は失敗に終わりはしないか？ 心中にわき出る不安を押し殺し、討伐軍は進む。今さら後へは引き返せないのだ。
●村への潜入
決戦予定日の前日。この日、遊撃部隊による攪乱攻撃が予定通り行われた。盗賊の馬のかなりの数が使い物にならなくなり、盗賊達の警戒はさらに強まった。もはや落とし穴の場所に目印を立てるのは無理な話だった。
そして決戦予定日が来た。内部工作部隊の者達は夜明け前に村へ侵入する手筈でいたが、盗賊側の警戒強化によりそれも不可能となった。しかしただ一人、村への潜入に成功した者がいる。
シフールのウルリカである。体のうんと小柄な彼女にとって、潜入は他の者に比べて遙かに容易かった。
村の中央。虜囚達の囚われているあばら屋に窓から潜入。虜囚達はあばら屋にぎっしり詰め込まれ、力無く横たわっている。
「おぬし達を助けに来たのじゃ。もうじき戦いが始まるが、ここにいれば安全じゃ。決して外に出てはいかんぞ」
虜囚達の耳に囁いて回ると、今にも死にそうな程に疲れ切っていた彼らの顔が、ぱっと明るくなる。しかし一人の虜囚が感激を押さえられず、騒ぎを起こした。
「ずっと待ってたんだ！ 早く俺達をここから出してくれ！」
「しっ！ 静かに！」
注意した時は既に遅し。虜囚の叫びを耳にした盗賊達があばら屋になだれ込んできた。
「てめぇ！ 何騒いでやがる！」
ドガッ！ ドゴッ！ 素早く物陰に隠れたウルリカの目の前で、盗賊達は虜囚に殴る蹴るの暴行。幸い、虜囚達の誰もウルリカのことを口にせず、盗賊達はウルリカを発見することなくあばら屋を出ていった。
●進撃
盗賊討伐軍９部隊のうち、南の街道より村を目指すのは本隊第３隊、魔法部隊、ゴーレム隊の３部隊。本隊第３隊と魔法部隊は盗賊をおびき出すための囮だ。頼みとするゴーレム隊はぎりぎりまで発見されぬよう、他の２部隊から距離を置いて進む。
決戦予定日の朝。街道を進み続けた各部隊は、盗賊の村の目前まで辿り着いた。
街道を臨む小高い丘から狼煙が上がっている。村を支配する毒蜘蛛団は、息のかかった手勢を呼び集めるつもりらしい。既に遠方には、それらしき者の姿がちらほらと見え始めている。時は迫っていた。手勢が駆けつける前に決着を着けねば。
盗賊達は村の正面に陣を張って待ち構えている。既に先行していた遊撃部隊と、激しい戦闘があったようだ。
本隊第３隊と魔法部隊は進撃を開始した。対する盗賊の数は約７０名。進撃する討伐軍を左右から囲むように展開を始めた。討伐軍を落とし穴のある場所に誘い込もうという意図が見てとれた。
突如、晴れ渡った空の下で稲妻が煌めいた。魔法部隊のカレン・シュタット（ea4426）が放ったライトニングサンダーボルトだ。盗賊の一人が稲妻に体を貫かれて倒れ、その弾みで討伐軍を狙っていた矢があらぬ方向に飛んで行く。
その魔法の稲妻の煌めきが、ゴーレム部隊進撃の合図となった。
丘の陰に隠れていた３台のチャリオットが、猛然と進撃を開始した。新型の装甲チャリオット２台は右と左から、通常型の１台は正面から。左右に広がった盗賊どもを、さらにその外側から蹴散らすように突っ込んで行く。
ウィザードを搭乗させた装甲チャリオットの威力は絶大だった。盗賊達は次々と魔法の餌食となり、ついに村へと後退し始めた。
●虜囚の元へ
南から進撃する討伐軍に盗賊が気を取られている隙に、内部工作部隊は村への侵入を開始した。盗賊達の多くは討伐軍を迎え討つべく村の外に出払っており、侵入は朝方に比べて遙かに容易くなっていた。
一行は村の北側に回り、まず音羽朧（ea5858）が柵を乗り越え、後に続く仲間に手を貸して村の中に導き入れる。
「侵入だぁ！」
居残っていた見張りの盗賊が叫んだが、すかさず黒兵衛が当て身を喰らわせ、口を封じる。叫びを聞いて別の盗賊が駆けつけてきたが、これも朧によって倒された。
虜囚達の居場所に駆けつけると、既にウルリカが、逸る虜囚達を落ち着けている最中。
「皆、汝らの新緑の風とならんとして、盗賊達と必死に戦っておる。だから怯えずとも良い。‥‥そして風を起こしたは、年端もいかぬ子供じゃ。汝らの友が風を起こした。その胸に振るうものあらば、我らと共に風を、希望をもって欲しい」
黒兵衛もアリオスもエデンも、来る航空部隊の攻撃に備えて虜囚達を落ち着かせることに専念した。
「これから大騒ぎが起きる。そのときまでいつもの様に静かにしておいてくれ」
「指示するまで、決して外には出るな。そうすれば命は助かる」
「わたくし達を信じて。絶対に助け出しますから！」
虜囚の居るあばら屋の屋根に、非攻撃目標たることを示すルーケイ伯の紋章旗を立てんと、勇人が壁に手をかけよじ登り始める。それに気付いた盗賊達が追いすがり、屋根の上で始まる大立ち回り。勇人は片手に紋章旗、もう片手に大脇差を握り、盗賊の一人を屋根から蹴り落とし、さらにもう一人に刃を喰らわせて叫んだ。
「天界人なら１千ゴールド！ その認識がどれ程高いツケだったか魂に刻んで逝け！」
屋根の下より勇人に矢で狙いをつける盗賊が一人。しかしその矢が放たれる前に、レングのライトソードが盗賊を斬り捨てた。
またも盗賊が屋根に這い上がる。すかさず勇人は盗賊を蹴り落とす。
「来るのならば覚悟を決めろ。今の俺は猛る裂風、手加減はねぇぞ！」
空を見上げれば、村に迫り来る５つの機影。北の丘陵地帯を飛び立ったグライダーは、すぐそこまで来ていた。
●殲滅戦
グライダーから高速で投下される砲丸が、村をぐるりと囲む柵を粉砕する。煽りをくらって近くの家屋までもが次々と倒壊し、居残っていた盗賊達を下敷きにする。
「みんな目を閉じて！ ここだけは安全です！」
あらん限りに声を張り上げ、虜囚達に訴えるエデン。周囲は倒壊する家屋の音や盗賊の叫びで騒然としていたが、虜囚の捕らえられた村の中央部だけは、航空攻撃の対象から外されていた。
村に立て籠もらんと後退してきた盗賊達の足が止まる。柵は破壊され、家屋は倒壊。立て籠もるどころの話ではない。さらにその眼前に、新たなる恐怖が現れた。
「ゴーレムが来るぞぉ！」
止めの一撃とばかり、虎の子のバガンがついにその偉容をさらけ出し、南から盗賊の村に迫ってきた。ついに盗賊どもは北へ西へ東へと敗走を開始。しかしその時には既に、討伐軍は強固な包囲態勢を敷いて待ち構えていたのだ。
屋根に上ったアリオスの目に、北より進撃してくる本隊第１隊の姿が映る。ルムスの援軍も本隊の後より駆けつけてくる。しかし数を減じたとはいえ、村にはまだまだ盗賊が潜む。
進撃してくる第１軍に矢を向ける賊を見つけ、アリオスは咄嗟に矢を放った。さらにもう一人、物陰に潜む賊を見つけて矢を放つ。
屋根から見下ろせば、村は凄まじき惨状。周囲を取り囲んでいた柵は破壊し尽くされ、外側に並んでいた家々も大方が倒壊している。その残骸の合間に盗賊の死体がごろごろ倒れ、生首さえもが転がっている。
しかしルーケイ伯の紋章旗が翻る、虜囚のあばら家だけは無事に残っていた。航空部隊のお手並み、見事なものだと感心する。
そうこうするうちに本隊第１隊とルムスの援軍が村に到着。
「捕虜の皆は無事じゃ」
「後は村のあちこちに潜む盗賊の掃討を頼みます」
ウルリカとエデンが現状を伝え、本隊第１隊とルムスの援軍は自分たちの仕事に取りかかった。
ウルリカが村の上空に舞い上がって眺めれば、逃走する盗賊達を東から追い立てる魔獣部隊、北に回り込んで包囲を狭めるアーメルの騎馬隊の姿がある。その攻撃を逃れんと盗賊達は西に向かい始めたが、既にそこには本隊第２隊が待ち構えていた。
今や、討伐軍の勝利は確実であった。
●戦闘終結
徹底した殲滅戦の末、東ルーケイを荒らし回った毒蜘蛛団もあっけなく壊滅した。
「終わったな‥‥」
黒兵衛は小太刀の血を拭い、鞘に収める。忍者刀を持つ朧もそれに習う。
どこからか歌が流れてくる。仲間の誰かが歌っているのだ。その歌声にふと心を和ませる。
解放された虜囚達は、ひとまずルムスの村へと移送される。
ここに一つの戦いは終わった。が、それは次なる戦いの序章にしか過ぎないのかもしれない。全ルーケイ平定への道は、まだまだ長い。
