風雲ルーケイ〜毒蜘蛛団討伐H〜遊撃部隊

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月30日〜06月09日

リプレイ公開日:2006年06月06日

●オープニング

●開戦の号令
 5月の末。ついにその日は来た。
「冒険者諸君! 戦いの時は来たれり!」
 冒険者ギルドの集会所。居並ぶ冒険者達を前に宣告するはルーケイ伯。
「我は東ルーケイに巣を張りたる毒蜘蛛を討ち滅ぼす! 数多の罪無き人々を殺め、子どもを浚い、財物を奪い、今なおさらなる獲物に襲いかからんと毒牙を研ぐ盗賊団、毒蜘蛛団! その根城たる村を我は討ち、邪悪極まりなき毒蜘蛛どもを1匹たりとも残さずに討ち滅ぼす!」
 朗々と響く声に、聞き入る者達の心は奮い立つ。
「冒険者諸君! 我が同志達よ! 我、ルーケイ伯は諸君らと一時の契約を結ぶ! 其れは将と兵との契約なり! 此はルーケイに秩序と平和をもたらすための戦い! 罪無き民の悪に蹂躙さるるを見過ごせぬ者、此の地に悪を蔓延らせるを潔しとせぬ者よ、剣を取りて我が元に集え! 進軍の号令は、明日にも下されん!」
 引き抜かれるサンソード。その輝く刀身を高くかざし、ルーケイ伯は声高く言い放つ。
「我等に勝利を!」
 おおおおおーっ!!
 呼応する冒険者達。振り上げられる拳に振り上げられる剣。歓呼の雄叫びは怒涛の如し。

●部隊編成
 今回の盗賊討伐戦に際して、冒険者達により編成される部隊は9部隊。当初の予定では8部隊だったが、ゴーレムグライダーの投入数が増えたことにより、急遽1部隊が追加された。
 部隊編成は次の通り。

 1:本隊A(指揮・白兵・魔法)
 2:本隊B(弓兵メイン・白兵・魔法)
 3:本隊C(白兵メイン・魔法)
 4:魔獣部隊(種類により、航空部隊・地上部隊で分担)
 5:ゴーレム陸戦部隊(バガン・チャリオット)
 6:ゴーレム航空部隊(グライダー)
 7:魔法部隊(遠・中距離攻撃)
 8:内部工作部隊(人質救出・潜入撹乱)
 9:遊撃部隊(隠密性重視・伏兵/追撃)

 この9部隊に、東ルーケイ北部に再興されたルムスの村からの援軍と、隣接する王領アーメルからの援軍が加わる。援軍については本隊Aの指揮下に置かれる。

●戦場
 戦場を概略図で示すと、次のようになる。

□□□□□□□□□□□□□□□□
__□□□□□丘陵地帯□□□□□北
_____□□□□□□□□___↑
________________
________________
________畑_______
________________
____畑__◎井戸 畑____
________________
__畑__●藪____●藪___
_______■■_______
_畑_____■■盗賊の村___
____●藪______●藪__
______●藪_●藪_____
________________
____○○ ○○_○○____
______落とし穴______
_____________□□□
_____________□丘□
_____________□□□
============街道==
________________

・街道は盗賊の見回りルートとなっている。
・街道の進軍は用意だが、村からは発見され易い。街道と村との間には落とし穴が仕掛けられている。
・北の丘陵地帯は、進軍や部隊の展開に時間がかかるが、村からは発見され難い。ただし各種のゴーレム機器はその大きさから目立ち易く、日中は移動中に発見される危険が高くなる。丘陵地帯の窪地は、航空ゴーレムや大型飛行魔獣を隠すのに適している。
・村は人間の背丈以上もある柵でぐるりと囲まれている。
・村周辺に点在する藪の中には、盗賊が伏兵を潜ませる可能性がある。

 これら、先の偵察から得られた結果を踏まえて、各部隊ごとに最も適切な移動経路を選び、その役割に応じて効果的な布陣を行うことが望まれる。

●作戦
 討伐戦は次の流れで行われる予定である。
《第1段階》
 内部工作部隊、遊撃部隊による事前工作および陽動。
《第2段階》
 本隊C、ゴーレム陸戦部隊、ゴーレム航空部隊、魔法部隊による第1次攻撃。敵を包囲し、退路を遮断する。
《第3段階》
 本隊A、本隊B、魔獣部隊による第2次攻撃。敵を殲滅し、村を制圧する。
 なお、どの局面でどの部隊を投入するかについては、若干の変更が見込まれる。

●村の現状
 偵察隊からの報告によれば、盗賊の総数は約50人。
 朝と昼の2回、盗賊は見回りを行う。その際に剣と弓矢で武装した約20人の盗賊が、馬に乗って村の外へと移動する。
 偵察の行われた時点では盗賊団の警戒は薄く、見張りの数は少なかった。
 また、村には盗賊によって捕らえられた人々が抑留されている。彼らは日中、盗賊達の監視の下、村の中や周辺の畑で奴隷のように働かされている。
 村の内部の状況については、盗賊が闇市に売り飛ばし、冒険者によって買い取られた子ども達から情報が入った。その話によれば虜囚達が収容されているのは村の中心付近に建つ家々。盗賊達はその周囲をぐるりと取り囲む家々を住処とし、虜囚達が逃げ出さないよう厳しく見張っているという。
 虜囚の数は約60人。うち約10人は老人、約20人は子どもだという。いずれもまともな食事を与えられず、酷い状態にあるという。

●兵糧および報酬
 食料は原則として各自が持参。
 報酬はルーケイ伯の負担により、各自に所定の報酬が支払われる。但し、申告者がいれば無報酬での参加も受け入れる。その場合、食費などの諸経費は依頼者側が負担する。

●ルーケイ伯よりの御触書
──────────────────────────────────
 第1条:拉致された場合、救出の努力はするが身代金は敵側に渡さない。
 第2条:勝手な判断による暴走は、結果がどうあれ認めない。
 第3条:前条を違反し被害が発生した場合には個人責任で賠償する。
     賠償能わざる場合は借金。連帯責任は無い。
 第4条:拉致された場合、他の面々は救出拒否権がある
──────────────────────────────────
 依頼に参加する冒険者諸氏は、以上の4ヶ条を心に留められたし。

●作戦の指針
《内部工作部隊》
 内部工作隊は本隊の出陣に先立ち、1日早く敵地に潜入する。村およびその周辺での各種の工作を任務とする。その目的は、後に続く本隊の進撃を助けること。並びに、村に囚われた虜囚達の救出を成功に導くことにある。

《遊撃部隊》
 遊撃部隊は本隊の出陣に先立ち、1日早く敵地に侵入する。盗賊がその勢力圏内に張り巡らした監視網・連絡網に打撃を与え、また陽動を行うことによって、後に続く本隊の進撃から盗賊の注意を逸らすことを任務とする。

●今回の参加者

 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1919 トール・ウッド(35歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3866 七刻 双武(65歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7400 リセット・マーベリック(22歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea8866 ルティエ・ヴァルデス(28歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0884 グレイ・ドレイク(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1144 グレリア・フォーラッド(34歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

信者 福袋(eb4064)/ シュバルツ・バルト(eb4155

●リプレイ本文

●密やかなる戦い
 遊撃部隊の戦いは既に始まっている。全軍に魁て東ルーケイに入り、敵の耳目を壊滅して合戦の準備を整えるのだ。余の者とは違い目立たぬのが功績となる。福袋から頼まれたテロリストらしき存在の事もあり、行うことは少なくない。
 オルステッド・ブライオン(ea2449)が受け取ってきた白タスキをそれぞれが所持する。混戦になる前に合い印として十字に掛けるのだ。
 時計を他隊と合わせて来たパトリアンナ・ケイジ(ea0353)が
「セブンリーグブーツなら、余り一足ならあるよー。所望ならばお貸し申し上げる」
 声を掛けるとトール・ウッド(ea1919)が手を挙げた。慎重を期して皆、必要な装備を都合し合う。
「今回の仕事は、子どもたちの敵討ちになるんだったな‥‥」
 不意に5人の子持ちとなったオラース・カノーヴァ(ea3486)は、自慢の髭を整えつつ戦支度。方々に手配しておいたので、暫くは大丈夫だろう。手入れの行き届いたカーロン王子恩賜の剣の柄に、松ヤニの粉を馴染ませる。
 余裕のある物が、一度沸かして酢を入れた飲み水を余分に持ち、いざ出発。体力節約のため、リセット・マーベリック(ea7400)とエイジス・レーヴァティン(ea9907)は、ルーケイの入口までオルステッドのフライングブルームに便乗して移動する。
 ここより先は皆敵の国。皆、神経を尖らせて一歩を踏み出した。

●壮行の儀
 その日、天より注ぐ精霊光の輝きは、いつにも増して強く目に映った。
 壮大なるフオロ城、その城門の内に整列したる強者達。
 天界の騎士、戦士、ウィザード、鎧騎士、魔獣を駆る者。その鎧兜は天からの光に輝き、軍旗は色鮮やかに翻る。
 これは壮行の儀。マリーネ姫が壇上に立つ。居並ぶ強者達と比べれば、あまりにも小さなその姿。しかしその声は朗々と天に響く。
「出陣の時は来たれり! 此の戦いは王国の戦い!
 実り豊かなるルーケイの地、今や荒れ果てて久しく、
 賊徒蔓延る地と化したるは真に耐え難き!
 勇者達よ、奮い立て! 今こそ正義の剣を抜き放て!
 軍馬の蹄で! グリフォンの爪で!
 暴虐の徒に穢されしその大地を隅々まで清めよ!」
 その激励の言葉に呼応し、怒涛の如くに沸き立つ歓呼の声。姫の顔は誇らしく輝く。

 ルーケイ平定の挙兵に沸き立つ王都。勢揃いした軍勢は城の城門から大通りへと繰り出し、さらに王都の大門へ向かう。道沿いには歓声を送る人々。その行進する先には香り立つ花が敷かれ、さらに頭上からも色とりどりの花びらが舞う。
 街中に沸き立つ歓声は、王の耳にも届いた。王は城の居室から城下の街を見やり、今まさに城壁の外へ踏み出さんとする軍勢を目にする。
「ついに、我が王国は勇士を得たり。余はこの時を待っていた」
 王の口から漏れた呟き。それは王の若かかりし頃、初めてこの居室から街を見下ろし、その輝かしき姿に感じ入って発した呟きにも似て。

 裏世界や闇世界の者たちもまた動き出す。華々しい出陣は、蜘蛛の巣のごとく王都に張り巡らされた情報網を激しく揺さぶった。
 貴族の館や商館に駆け込む者がいる。こっそりとスラムに足を踏み出す者がいる。アーメルの街道には西へ向かう早馬が現れ、王都の南の大河には急ぎ南ルーケイを目指す川船。東ルーケイの街道を行く流浪の民は、空きっ腹を抱えた食い詰め者にしては妙に足が速い。

●暗渡陳倉
 城壁の外の流民の住処。王都の闇に潜む影一つ。一人の小柄な男が紛れ込んでいた。
「エールを‥‥」
 銀貨を1枚。
「兄さん。たりねーよ」
 カモと見たゴロツキがさっと周りを囲む。
「どけ。怪我をするぞ」
 男は面倒くさそうに言い捨てる。
「なに!」
 いきり立つゴロツキどもが襲いかかろうとした瞬間。
「待て! そいつの言うとおりだ」
 低く響く声が止めた。
「グローリング伯の舘以来ですな。スレナス殿」
「頼みがあってきた。義理掛けなのでな。詳しくは河岸変えして話そう」

 小一時間後。男のアジトに招かれたスレナスは
「君も何時までもスラムの顔役でいる積もりは無いだろう。君も良く知るルムスは、今度正式に領主として認められる」
「それで?」
 男はまんざらでもない反応を示した。
「ルーケイ伯はかなり出来た人物だ。だが、碌な隠蔽工作もしていない。あの地で情報網を持たずに生き延びられる訳など無い。毒蜘蛛団が討伐に気づかずに、村に居残っている理由などないだろう。討伐があると知ったなら事前に夜襲かけるなり、逃げ出すなりの手段を講じるのが当然だ。地の利は奴らの方にあるのだからな。先ずもって据え物斬りには成らぬだろう」
「ふっ。お貴族様は馬鹿正直だからな」
 肩を竦める。
「だが、君の働き一つで奴らは動かず殲滅される。‥‥何人動かせる?」
「50人ってとこかな。気の聞いた奴は‥‥。で、どうして欲しい?」
「そうだな。『表向きは東ルーケイ討伐と発表されているが、伯の目的は西ルーケイだ。これをいち早く掴んだ水蛇団が、怖じ気づいて逃げ出した毒蜘蛛団の縄張りを横取りしようと企んでいる』この話が奴らの網に引っかかればいい。恩賞は約束しよう」
「後腐れのない物がいいな」
「奴らは、伯の与力から1千ゴールドをせしめている。村にはまだかなりの金が残っているはずだ。混乱に乗じて好きにしろ。さらに、仕官を望むならば口を利いてやる」
「悪党め、それがタロンとやらのやり口か。報酬分の働きはしてやる」
 男は笑った。

●夜襲
 その知らせが討伐に参加した冒険者に伝わってきたのは、襲撃を企てた賊たちがすべて討ち取られるか、姿を消したかした後だった。
 討伐が行われる。大規模な軍勢が集結しつつある。その知らせは毒蜘蛛団にも届いていた。通常ならば、村から離れて討伐をやり過ごす。盗賊にとって、軍勢と正面戦闘などやる意味はない。ところが、情報操作が行われ西ルーケイ平定という情報に引っかかった。
 しかし全員が全員その情報を信じた訳ではなかった。同じ組織の中にも派閥は存在する、毒蜘蛛団がいかに弱小といえども。
 夜襲のために襲撃した人数は不明。いつのまにか接近され、食料に火を放たれた後だった。騒ぎが終わって鎮火した後には数体の死体が残っていただけだった。全員討ち取れたか、生き残った者がいたかはわからない。
「食料の損失は、およそ200」
 討伐を行うのに支障はない。ここまで潜入されたということは討伐対象が毒蜘蛛団ということも知れただろう。全滅させたのであれば良いのだが。

●遊撃1日目・野営地と罠作り
「近くには獣も居らぬようじゃな」
 プレスセンサーを働かせる双武。
「近くに痕跡はありませんね」
 リセットが、足音を消し慎重に調べた結果を報告する。
「盗賊の巡回コースに変更は在りませんでしたわ」
 探りを入れてきたグレリア・フォーラッド(eb1144)。
「やれやれ、快適な戦い方をするにも一苦労だね」
 同行し、目立たぬように障害となる石を置いてきたルティエ・ヴァルデス(ea8866)は足を揉みながら軽口を叩く。
 敵の策敵範囲外に粛々と造られる野営地。遊撃部隊のベースキャンプは、北に広がる丘陵地帯の西側。村から見て、稜線に隠れるように築かれた。稜線すれすれに壕を掘り見張り所にする。草で覆った蓋を被せ、三方土壁の蛸壷だ。ロープをベースキャンプに迄張り、引き方で合図出来るように工夫されていた。
 不寝番を立て交代で眠る。魔法を使う者を優先的に眠らせるため、夜目の利くリセットが深夜近くを担当した。見張りの壕から眺める月無き美空には、彼女の知らぬ星々が瞬く。
「本当にここは異世界なのですね」
 眠気覚ましの水を一口、ごくりと飲む。その時だった。近くに一本の矢が突き刺さったのは。
「これは‥‥矢文?」
 結わえられた羊皮紙には、ラテン語でこう書かれていた。
―――――――――――――――――――――――――――
 討伐隊の目的を誤魔化し、諸君を水蛇団と誤認させた。
 成功を祈る。              スレナス
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●遊撃2日目・奇襲
 木化け岩化け気配を殺し、遊撃隊は茂みに忍ぶ。街道沿いの丘の茂みに隠れての待ち伏せだ。盗賊の一隊が日常の警戒のため、馬に乗って縄張りを巡回。その数5騎余り。縄張り内のため人数は少な目だ。
 その盗賊に向かってゆっくりと、グレリアとリセットの弓が引き絞られる。ルティエとパトリアンナが槍を手に、七刻双武(ea3866)が刀を手に、伏龍の如く突撃位置を確保する。馬を襲い足を奪い、爾後の作戦を助けるのが目的だ。
 ヒョウと射る3本の矢。リセットの放つ二本が列の先頭の馬に命中。馬は嘶いて棒立ちになり盗賊を振り落とす。グレリアの矢は隣の馬の右の後ろ足の脛を射抜き、こちらは横倒しに倒れる。
 二の矢を番える二人と呼応するかのように。後方から襲いかかるルティエと双武。双武は一触に馬脚を切断。ルティエは落馬した賊の喉笛を抉る。続いて二の矢。賊は身をかわし損ね、首に矢を受けて倒れる馬の下敷きに。
「すまないね。悪く思わないでおくれよ?」
 混乱する敵の隙を衝いて、馬の足を攻撃するルティエ。混乱の嵩に掛かって白兵戦が繰り広げられる。

 一人剛の者が居た。三の矢を番える暇も与えず。リセットに向かって吶喊してくる。顔にグレリアの放つ矢を受けつつも、剣を振りかざし奇声を上げてリセット目掛け振り下ろす。だが、二人の弓手を護るために身構えていたパトリアンナの槍が、斜め横から繰り出され、態勢を崩した賊は勢い余ってリセットを押し倒し、剣は大地に突き刺さった。
「この槍は軽くていいんだ‥‥。年寄りが振り回すに丁度イイ!」
 見事肋三本を貫いたパトリアンナの槍は、心臓を壊し肺腑に至る。必死に抜け出すリセットの姿。這い出るのを見届けたパトリアンナが、ぐいと穂先を回し引き抜く。すると夥しい血が胸と口からあふれ出し、一つの魂を散らせた。
 そして扇のように振り回すパトリアンナの槍の舞いに、血飛沫が青草を染めて行く。

 今や盗賊は連れてきた馬の殆どを失い皆徒立ち。一騎が応援を呼びに村へ戻る。グレリアの遠矢が乗り手を捉え致命傷の手応え有り。力無く鞍上に伏した乗り手を乗せ、馬は村へと戻っていった。
 一行は、混乱に乗じて討ち取った者の身ぐるみを剥がし持って行く。他の縄張りの者の仕業に見せかけるためだ。武器も所持金も残らず持って行く。

 暫くして、盗賊達が総出で色を変えてやって来たとき、身ぐるみ剥がれて草むす屍と為っている仲間の姿を目撃した。
 盗賊達は丘の周辺を中心に調べて回る。
「お頭ぁ! ありやしたぜ」
 南ルーケイに続く泥濘の間道に、人馬の足跡が。
「畜生! 水蛇団の仕業だな!」
 何者かによって着けられた真新しい足跡に、彼等はすっかりと信じ込んだ。

●本隊到着
 本隊到着予定日。先の準備攻撃により、盗賊達は偵察を強化していた。
「今回の敵は無能で助かるよ」
 エイジスは呟く。心理的な誘導に引っかかり、こちらを自分達と同じ盗賊と思ってくれているようだ。これが討伐軍ともなれば、姿を眩ますか先手を打ちに来るはず。地の利を活かすために待ち受けるなどと言う愚は犯さないだろう。
 街道を臨む丘で待機していると、やがて予定通り本隊とゴーレム部隊が現れる。
「‥‥この大部隊‥‥伯のお披露目、だな。民は信賞必罰に従うかもしれんが、諸侯はどう見るか‥‥」
 感慨深くオルステッド。
 賊は狼狽しながら敵の斥候が村へと急ぐ。3人だ。
「可哀想だけど、あれを見ちゃったら消えてもらわないとね」
 エイジスは戦友のフライングブルームで先回りを謀る。鎧を着ない人間が全速力で走る程度のスピードしかでないが、それでも追い付くには充分であった。ランスは見事に背を貫いて胸へと抜けた。壊れやすいブルームなので無理はしない。今一人の斥候はリセットの矢に右目を射抜かれて地に伏し、最後の一人は不意に茂みから現れたトールの猛烈な一撃で斬り捨てられた。

「行くぞ!」
 味方到着。合図の矢が空高く飛ぶや、オラースが東側から村に対する挑発行動を開始する。グレリアが中心となって遠矢を射込み。オラースも一緒になって矢を注ぐ。その間にルティエやオルステッドらは白兵戦に備えて展開。少数による奇襲と見たのだろう。敵は体制を整えてやってくる。当然だ。彼等の認識が正しいならば、持てる戦力を叩きつけて粉砕するのが常道。装備もまちまちな一団が迫ってくる。

「みんな。ウィルの歴史を動かすぞ!」
 グレイ・ドレイク(eb0884)は叫ぶ。ここで負けたら先がない。盗賊団を壊滅し、この地に平穏をもたらす。勿論それだけでも崇高な目的だが、伯らはさらにこの地に善政を布き、ウィル全土にそれを広める志があるのだ。それがあるからこそ、高々50余りの盗賊に一軍を催し討伐するのである。村を支配し悪行三昧の盗賊を大計の贄とし、その血を以て未来を拓くのだ。
 セブンリーグブーツの機動力を活かし、移動・停止射撃・移動・停止射撃を繰り返すオルステッド。盾で矢を防ぎながら敵中躍り込むグレイ。同じく鬼神の如く斬りまくるオラース。トールの振るう白刃が戦いのかどめを切り裂いて行く。
「前に出すぎだよ」
 リセットに襲いかかる賊の前に割って入ったルティエ。彼の振るうロングスピアが、足を払い、脳天を打ち、飛び散る鮮血が顔に掛かる。それを舌でぺろりと舐めて、血に狂う猛獣のような働きを為す。
 彼等との接触より小一時間。賊は冒険者達の狙いにやっと気が付いた。彼等の馬は倒れたり逃げ去ったり、大幅に数を減らしている。
「引くぞ!」
 斬り結ぶ者達は、予めトラップを仕掛けた草群の方へと後退を始めた。
「うわぁぁぁ!」
 仕掛けたことはあっても仕掛けられたことは初体験らしい。トラップを引き当て傷つく盗賊。突出した者達が矢の洗礼を受けハリネズミになった。

 埒のあかぬ小競り合い。矢種も尽きた遊撃隊は戦場からの離脱して行く。
「今日はそうは行かないぞ」
 業を煮やした盗賊の頭は、狼煙を上げる。やがて、毒蜘蛛団の配下たる下っ端の盗賊達が、遠方より続々と集まってきた。
 同じ頃、ルーケイ伯の本隊も盗賊の村を臨む場所に到着。ここに全面衝突が開始された。

●戦闘終結
 徹底した殲滅戦の末、東ルーケイを荒らし回った毒蜘蛛団もあっけなく壊滅した。虜囚達は解放され、ひとまずルムスの村へと移送される。
 ここに一つの戦いは終わった。が、それは次なる戦いの序章にしか過ぎないのかもしれない。全ルーケイ平定への道は、まだまだ長い。