風雲ルーケイ〜毒蜘蛛団討伐Ｅ〜ゴーレム隊
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■ショートシナリオ担当：マレーア１ 対応レベル：フリーｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：5 参加人数：10人 サポート参加人数：1人 冒険期間：05月31日〜06月10日 リプレイ公開日：2006年06月08日 |
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●オープニング
●開戦の号令５月の末。ついにその日は来た。
「冒険者諸君！ 戦いの時は来たれり！」
冒険者ギルドの集会所。居並ぶ冒険者達を前に宣告するはルーケイ伯。
「我は東ルーケイに巣を張りたる毒蜘蛛を討ち滅ぼす！ 数多の罪無き人々を殺め、子どもを浚い、財物を奪い、今なおさらなる獲物に襲いかからんと毒牙を研ぐ盗賊団、毒蜘蛛団！ その根城たる村を我は討ち、邪悪極まりなき毒蜘蛛どもを１匹たりとも残さずに討ち滅ぼす！」
朗々と響く声に、聞き入る者達の心は奮い立つ。
「冒険者諸君！ 我が同志達よ！ 我、ルーケイ伯は諸君らと一時の契約を結ぶ！ 其れは将と兵との契約なり！ 此はルーケイに秩序と平和をもたらすための戦い！ 罪無き民の悪に蹂躙さるるを見過ごせぬ者、此の地に悪を蔓延らせるを潔しとせぬ者よ、剣を取りて我が元に集え！ 進軍の号令は、明日にも下されん！」
引き抜かれるサンソード。その輝く刀身を高くかざし、ルーケイ伯は声高く言い放つ。
「我等に勝利を！」
おおおおおーっ！！
呼応する冒険者達。振り上げられる拳に振り上げられる剣。歓呼の雄叫びは怒涛の如し。
●部隊編成
今回の盗賊討伐戦に際して、冒険者達により編成される部隊は９部隊。当初の予定では８部隊だったが、ゴーレムグライダーの投入数が増えたことにより、急遽１部隊が追加された。
部隊編成は次の通り。
１：本隊Ａ（指揮・白兵・魔法）
２：本隊Ｂ（弓兵メイン・白兵・魔法）
３：本隊Ｃ（白兵メイン・魔法）
４：魔獣部隊（種類により、航空部隊・地上部隊で分担）
５：ゴーレム陸戦部隊（バガン・チャリオット）
６：ゴーレム航空部隊（グライダー）
７：魔法部隊（遠・中距離攻撃）
８：内部工作部隊（人質救出・潜入撹乱）
９：遊撃部隊（隠密性重視・伏兵／追撃）
この９部隊に、東ルーケイ北部に再興されたルムスの村からの援軍と、隣接する王領アーメルからの援軍が加わる。援軍については本隊Ａの指揮下に置かれる。
●戦場
戦場を概略図で示すと、次のようになる。
□□□□□□□□□□□□□□□□
＿＿□□□□□丘陵地帯□□□□□北
＿＿＿＿＿□□□□□□□□＿＿＿↑
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿畑＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿畑＿＿◎井戸 畑＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿畑＿＿●藪＿＿＿＿●藪＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿■■＿＿＿＿＿＿＿
＿畑＿＿＿＿＿■■盗賊の村＿＿＿
＿＿＿＿●藪＿＿＿＿＿＿●藪＿＿
＿＿＿＿＿＿●藪＿●藪＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿○○ ○○＿○○＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿落とし穴＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿□□□
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿□丘□
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿□□□
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝街道＝＝
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
・街道は盗賊の見回りルートとなっている。
・街道の進軍は用意だが、村からは発見され易い。街道と村との間には落とし穴が仕掛けられている。
・北の丘陵地帯は、進軍や部隊の展開に時間がかかるが、村からは発見され難い。ただし各種のゴーレム機器はその大きさから目立ち易く、日中は移動中に発見される危険が高くなる。丘陵地帯の窪地は、航空ゴーレムや大型飛行魔獣を隠すのに適している。
・村は人間の背丈以上もある柵でぐるりと囲まれている。
・村周辺に点在する藪の中には、盗賊が伏兵を潜ませる可能性がある。
これら、先の偵察から得られた結果を踏まえて、各部隊ごとに最も適切な移動経路を選び、その役割に応じて効果的な布陣を行うことが望まれる。
●作戦
討伐戦は次の流れで行われる予定である。
《第１段階》
内部工作部隊、遊撃部隊による事前工作および陽動。
《第２段階》
本隊Ｃ、ゴーレム陸戦部隊、ゴーレム航空部隊、魔法部隊による第１次攻撃。敵を包囲し、退路を遮断する。
《第３段階》
本隊Ａ、本隊Ｂ、魔獣部隊による第２次攻撃。敵を殲滅し、村を制圧する。
なお、どの局面でどの部隊を投入するかについては、若干の変更が見込まれる。
●村の現状
偵察隊からの報告によれば、盗賊の総数は約５０人（確認範囲）。
朝と昼の２回、盗賊は見回りを行う。その際に剣と弓矢で武装した約２０人の盗賊が、馬に乗って村の外へと移動する。
偵察の行われた時点では盗賊団の警戒は薄く、見張りの数は少なかった。
また、村には盗賊によって捕らえられた人々が抑留されている。彼らは日中、盗賊達の監視の下、村の中や周辺の畑で奴隷のように働かされている。
村の内部の状況については、盗賊が闇市に売り飛ばし、冒険者によって買い取られた子ども達から情報が入った。その話によれば虜囚達が収容されているのは村の中心付近に建つ家々。盗賊達はその周囲をぐるりと取り囲む家々を住処とし、虜囚達が逃げ出さないよう厳しく見張っているという。
虜囚の数は約６０人。うち約１０人は老人、約２０人は子どもだという。いずれもまともな食事を与えられず、酷い状態にあるという。
●兵糧および報酬
食料は原則として各自が持参。
報酬はルーケイ伯の負担により、各自に所定の報酬が支払われる。但し、申告者がいれば無報酬での参加も受け入れる。その場合、食費などの諸経費は依頼者側が負担する。
●ルーケイ伯よりの御触書
──────────────────────────────────
第１条：拉致された場合、救出の努力はするが身代金は敵側に渡さない。
第２条：勝手な判断による暴走は、結果がどうあれ認めない。
第３条：前条を違反し被害が発生した場合には個人責任で賠償する。
賠償能わざる場合は借金。連帯責任は無い。
第４条：拉致された場合、他の面々は救出拒否権がある
──────────────────────────────────
依頼に参加する冒険者諸氏は、以上の４ヶ条を心に留められたし。
●作戦の指針〜第１次攻撃
第１次攻撃の各部隊には、速やかに敵を包囲し効果的な打撃を加えることが求められる。
包囲に際しては、敵を村から引き離して後に行うことが望ましい。村に立てこもられた場合、敵の防御力が上がるので苦戦を強いられる恐れが大きい。また村に抑留された虜囚達にも危険が及ぶ。
包囲に失敗し、敵を取り逃がした場合には、さらなる討伐戦を行う必要が出てくる。
《ゴーレム隊（ゴーレム陸戦部隊）》
バガンおよびフロートチャリオットを主力に据えた部隊。使用できるフロートチャリオットは最大３台。但し操縦士の数を上回ることはない。
トルクの男爵から貸与された試作チャリオットの運用如何で、ゴーレム機器に新しい潮流が生まれるかも知れない。
●今回の参加者
eb4085 冥王 オリエ（33歳・♀・天界人・人間・天界（地球））eb4139 セオドラフ・ラングルス（33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス）
eb4153 リディリア・ザハリアーシュ（29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4155 シュバルツ・バルト（27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4213 ライナス・フェンラン（45歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4249 ルーフォン・エンフィールド（20歳・♂・天界人・人間・天界（地球））
eb4286 鳳 レオン（40歳・♂・天界人・人間・天界（地球））
eb4333 エリーシャ・メロウ（31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4340 サトル・アルバ（39歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス）
eb4392 リュード・フロウ（37歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス）
●サポート参加者
時雨 蒼威（eb4097）●リプレイ本文
●バガン移送壮観なものである。並ぶチャリオット３台。内２台はトルクの男爵・蒼威卿の伝で調達された装甲改造がなされた物である。うち一つは蒼威卿丹精のぽんですふぃんくす仕様。勿論指定された乗り手は友人の冥王オリエ（eb4085）と相方のリディリア・ザハリアーシュ（eb4153）である。
そのオリエと言えば、ルーケイ伯から受け取った味方識別用の白タスキを配るのに余念がない。
「たすきと保存食とおやつは持ったし‥‥あとは何だっけ？」
軽口を叩く程、平常心を保っている。
「あ゛〜あ！」
セオドラフ・ラングルス（eb4139）が真っ青になった。いざバガンを通常型チャリオットに搭載させようとすると、ミシっという音と共にチャリオットの底面がたわむ。
パガンを操るリュード・フロウ（eb4392）は、慌ててバガンを退けさせる。
「なあ‥‥なんで、直接、チャリオットの上にゴーレム載せる事に拘るんだ？」
蒼威が掌で自分の額を掴みながら言った。レースで人の重みで制御の負担が変わるチャリオットだ。予想はしていたが、ノーマル型にはバガンを搭載できるほどの耐久度が無いことが判明。動かす以前の問題で、チャリオットが保たない。
「船を使ってはどうだろうか？」
サトル・アルバ（eb4340）が提案する。
「台車に載せて牽きましょう」
シュバルツ・バルト（eb4155）が対案を出す。エリーシャ・メロウ（eb4333）も賛同した。バス３台を引っ張れる人間はいるが、バス３台を担いで歩ける人間は居ない。車輪に頼るとなるとルートは限られる。チャリオットで曳くにせよ、馬匹で牽くにせよ。街道以外の不整地を進むことは出来ない。
「前日には、せめて盗賊の村から１０ｋｍ圏内に近づいておきたいな。地図からみて南東の丘の陰辺りが、前日の到着地点としてお勧めだろうか」
鳳レオン（eb4286）がルーケイ全図を指さしながら確認する。だとすると出発を急がねば。
「河や坂など、適時自走させた方が早いかも採れませんね。事前に互いの活動限界時間を把握しておく必要がありますし」
と、エリーシャ。
「ならば、作戦前日までの移動は夜間に交代しながら行ないましょう。普段は覆いを掛けて砲丸など他の物資と一緒に移動させ、必要に応じてバガンを動かす方向で」
セオドラフは現状最も妥当そうなプランを示した。夜間移動ともなれば、ますます街道以外に道は無いが。輸送には、旋回性に酷く難があるものの、泥濘に強い幅広車輪の大型馬車が用意された。蒼威卿の試作品である８輪の台車は、良くバガンの重量を支えた。
●壮行の儀
ルーケイ平定の挙兵に沸き立つ王都。勢揃いした軍勢は城の城門から大通りへと繰り出し、さらに王都の大門へ向かう。道沿いには歓声を送る人々。その行進する先には香り立つ花が敷かれ、さらに頭上からも色とりどりの花びらが舞う。
街中に沸き立つ歓声は、王の耳にも届いた。王は城の居室から城下の街を見やり、今まさに城壁の外へ踏み出さんとする軍勢を目にする。
「ついに、我が王国は勇士を得たり。余はこの時を待っていた」
王の口から漏れた呟き。それは王の若かかりし頃、初めてこの居室から街を見下ろし、その輝かしき姿に感じ入って発した呟きにも似て。
裏世界や闇世界の者たちもまた動き出す。華々しい出陣は、蜘蛛の巣のごとく王都に張り巡らされた情報網を激しく揺さぶった。
貴族の館や商館に駆け込む者がいる。こっそりとスラムに足を踏み出す者がいる。アーメルの街道には西へ向かう早馬が現れ、王都の南の大河には急ぎ南ルーケイを目指す川船。東ルーケイの街道を行く流浪の民は、空きっ腹を抱えた食い詰め者にしては妙に足が速い。
●夜襲
ルーケイを街道を進軍中の部隊が夜襲を受けた。シフールの伝令がその知らせを他の部隊に伝えてきたのは、かなりの時が経ってからだった。
討伐が行われる。大規模な軍勢が集結しつつある。その知らせは毒蜘蛛団にも届いていた。通常ならば、村から離れて討伐をやり過ごす。盗賊にとって、軍勢と正面戦闘などやる意味はない。
ところが、ここで何者かが偽情報を流した。
『討伐軍の攻略目標は西ルーケイにあり。軍勢は東ルーケイを素通り。この機に乗じ、南方の盗賊団・水蛇団が毒蜘蛛団の縄張りを横取りせんと、南に手勢を差し向けた』
毒蜘蛛団の頭目はこの偽情報を信じ、本拠地の村の守りを固めた。
しかし全員が全員、その情報を信じた訳ではなかった。同じ組織の中にも派閥は存在する、毒蜘蛛団がいかに弱小といえども。その派閥の一つによって夜襲は行われたのだ。
夜襲のために襲撃した人数は不明。いつのまにか接近され、食料に火を放たれた後だった。騒ぎが終わって鎮火した後には数体の死体が残るのみ。討ち漏らしがあったかどうはは定かではない。
「食料の損失は、およそ２００」
討伐を行うのに支障はない。だが、盗賊の中に逃げ延びた者がいたとしたら？ 本拠地に迫る軍勢のことが知れたら、毒蜘蛛団は早々に逃げ出す。
討伐は失敗に終わりはしないか？ 心中にわき出る不安を押し殺し、討伐軍は進む。今さら後へは引き返せないのだ。
●チャリオット出撃
盗賊討伐軍９部隊のうち、南の街道より村を目指すのは本隊第３隊、魔法部隊、ゴーレム隊の３部隊。本隊第３隊と魔法部隊は盗賊をおびき出すための囮だ。頼みとするゴーレム隊はぎりぎりまで発見されぬよう、他の２部隊から距離を置いて進む。
そして決戦予定日の朝。街道を進み続けた各部隊は、盗賊の村の目前まで辿り着いた。
運命は討伐軍に味方した。盗賊共は間近に迫る討伐軍に気付かず、村に留まっていた。
有効戦力を発揮するため、事前の打ち合わせ通り部隊再編が為される。魔法部隊の攻撃力と、チャリオットの機動力、そして色々な欠点を抱えつつも矢玉を防ぐに足る装甲の組み合わせは、ウィルはおろかアトランティスでも初めての試みでは無いであろうか？
「至近距離からの矢は実験済みだそうよ」
オリエが堅い鉄板を叩きながら盟友の言葉を伝える。
中央 通常型チャリオット
操手 ：鳳レオン
予備操手１：ルーフォン・エンフィールド（eb4249）
予備操手２：ライナス・フェンラン（eb4213）
搭乗員 ：本隊第３隊 毛利鷹嗣
搭乗員 ：本隊第３隊 レネウス・ロートリンゲン
搭乗員 ：本隊第３隊 ディアドラ・シュウェリーン
右翼 装甲チャリオットＡ
操手 ：冥王オリエ
予備操手：リディリア・ザハリアーシュ
搭乗員 ：魔法部隊 イリア・アドミナル
搭乗員 ：魔法部隊 イオン・アギト
搭乗員 ：魔法部隊 アルフレッド・アルビオン
左翼 装甲チャリオットＢ
操手 ：サトル・アルバ
搭乗員：魔法部隊 レン・ウィンドフェザー
搭乗員：魔法部隊 カッツェ・シャープネス
中央には通常型チャリオットを置き、その視界を利用して指揮車を兼ねる。指揮車を身体とするなら、右翼と左翼の装甲チャリオットはさながら両手に構えたソードシールド。
「頼みますよレオンさん」
回送事、最も腕利きのレオンを温存するために操縦してきたルーフォンがロングスピアを握りしめる。英雄だってみんな最初は卵だったんだ。
「われわれの役目は重要だしね」
いざという時ルーフォンを庇える位置に、さり気なく着くライナスが武者震い。
「そうだな」
言葉少なにショートボウを準備するレオン。ともあれ、後方の窓を開いた装甲チャリオットに、指示を送るのが第一の役目。視界の悪さを連携で補うのだ。
「釣り出し、上手く行ってるかな？」
装甲チャリオットの前方視界は狭い。サトルが緊張から白タスキを何度も締め直す。
「早くどっかんするのー」
「レンちゃんじっとしてて」
ローブを再度確認するカッツェ。
「みんな、そろそろだ。振り落とされないようロープで身体を固定して」
リディリアは時計を見ながら注意を促す。魔法を合図に一次攻撃を開始するのだ。遅滞ははっきりと味方の損害として現れるだろう。
（「天蓋の強度が不明だが、天蓋をつけたことによる利点と欠点は何か。利点は防御力。欠点は‥‥スピードに影響は？ 搭乗者の攻撃方法に制限は？ バランスや視界は？」）
様々な思いがリディリアの頭を巡る。
ぽむ。イリアが肩に手を置いた。
「操縦士はクールですよ」
「ぽんでなすふぃくすの旗の元に！」
オリエの一括で吹っ切れた。彼女の差し出す手に手を重ね。
「ジーザム陛下とププリン子爵の栄誉のために！」
他の者達の手も、重ねられる。
突如、晴れ渡った空の下で稲妻が煌めいた。魔法部隊のカレン・シュタットが放ったライトニングサンダーボルトだ。盗賊の一人が稲妻に体を貫かれて倒れ、その弾みで討伐軍を狙っていた矢があらぬ方向に飛んで行く。
その魔法の稲妻の煌めきが、ゴーレム部隊進撃の合図となった。
丘の陰に隠れていた３台のチャリオットが、猛然と進撃を開始した。新型の装甲チャリオット２台は右と左から、通常型の１台は正面から。左右に広がった盗賊どもを、さらにその外側から蹴散らすように突っ込んで行く。
●チャリオット戦
「まだ落とし穴があるかもしれない！ しっかり掴まって！」
進撃する通常型チャリオットの上で、操手の鳳レオンが叫ぶ。チャリオットを前にして、目の前の敵は波が引くように退いていく。
いきなり、チャリオットが前のめりになった。搭乗者を放り出さんばかりの衝撃に見回れたが、乗っていた皆は命綱のお陰で事なきを得た。
チャリオットは落とし穴にはまっていた。浮上走行していた高みから、落とし穴の深さ分だけ降下してしまい、前のめりになって穴に突っ込んでいた。
大きな獲物を仕留めたぞとばかり、盗賊どもが歓声を上げる。
「ふん！ これしきの穴！」
レオンが操縦装置に念を込める。チャリオットはゆっくりと穴から浮上。馬が落ちれば骨折して動けなくなる落とし穴も、チャリオットにとっては多少車体を痛める程度。大した足止めにもならない。
「行かせるかぁ！」
無謀にもチャリオットの側面から這い上がってきた賊が一人。重みでチャリオットが傾ぐ。レオンが目一杯高度を上げる傍ら。ルーフォンはロングスピアを賊に突き入れようとしたが如何せん、２．５ｍもある槍は１１歳の地球人の手に余る。
「仕方ねぇ！」
ロングスピアから手を離し、賊の手に思いっきり噛みつく。賊は悲鳴を上げて手を離し、落とし穴に落下。
「やったぞ！」
「初手柄だな！」
仲間から上がる歓声。
「さあ、行くぜ！」
チャリオットは進撃を再開。盗賊どもの歓声は悲鳴に変わった。
右翼から盗賊を攻める装甲チャリオットＡ。鉄の装甲に守られたウィザードの魔法攻撃は派手だ。盗賊どもは凍てつく猛吹雪に薙ぎ倒され、重力反転で空へ飛ばされる。
覗き窓からの視界は狭く、見づらい。しかしチャリオットの強さはその欠点を補って余りある。
「一人だって討ち漏らさないわ！」
逃げる盗賊の姿を前方に認め、チャリオットを加速するオリエ。
「ぎゃあああーっ！」
勢いあまって盗賊を跳ね飛ばした。
左翼からは装甲チャリオットＢが攻勢をかける。操手はサトル。
「賊め！ 騎士道と竜と精霊の名の下に成敗してくれる！」
その大胆な操縦は、搭乗するウィザードの魔法との見事な相乗効果を生んだ。
ドゴゴゴゴゴゴゴ！
グラビティーキャノンの攻撃。地鳴りのごとき轟きを上げて直進する魔法の重力波。賊どもはダメージをくらって転倒し、よろよろと起きあがったところへ突っ込むチャリオット。
「うぎゃあああーっ！！」
絶叫はあっという間に後方へ過ぎ去った。
ウィザードを搭乗させた装甲チャリオットの威力は絶大だった。盗賊達はついに村へと後退し始める。しかし村に立て籠もって抗戦しようというその試みは、北の丘陵地帯から飛び立った航空部隊によって、見事に叩き潰された。
●バガン出撃
圧倒的なパワーの差。それでも盗賊達は諦めなかった。地の利は自分達にあると思っていたのだ。
「あれは何だ！」
行く手を塞ぐ鉄の巨人。そう盗賊達には見えた。窮冦は迫ることなかれと兵法は説くが、この場合は例外。盗賊達の全ての攻撃を跳ね返し、鎧諸共断ち切るような圧倒的な戦力。矢を射掛けてもごまめの歯ぎしり。装甲に傷一つ付きもせず迫ってくる。
「（ここは通しません）」
セオドラフがバガンの剣を見せ太刀にぶんと振る。
「うわぁぁぁぁ！」
やけくそに数人が飛びかかって来たが、繰り出す槍も傘で雨を受けるが如く跳ね返す。セオドラフは柄を掴むと一息に振り上げ、そして降ろした。
地面に叩きつけられた盗賊は悶絶。幼児が立派な騎士に決闘を挑んだ方がまだまともな戦いになる程の力の差だ。奪い取った槍を横薙ぎに払うと、通り抜けようとした賊が宙に舞った。既に恐慌状態。腰を抜かし逃げ惑う者、背を向け一目散に逃げ出す者。毒蜘蛛団は底を抜かれて崩壊して行く。最早組織的な戦いは出来ない。
「あははは。これで毒蜘蛛団もお仕舞いだ。とんでもねぇ奴だよお前等は‥‥」
幹部らしい一人が、剣を抜き放ち
「俺と勝負しろ！ 騎士の誇りがあるなら勝負しろ！」
死を決した一騎打ちを挑んだ。
「賊徒にそんな資格はない。バガンにも挫けぬ勇気は参照に値するが、勝ったとて最早逃れることは出来ませんよ。死に花を咲かせることが関の山でしょう」
リュードが応じてやろうと進み出る。
「いや。俺のことではない。そこで腰を抜かしている情けねぇ野郎の事だ。見ての通り小物だ。見逃したところで後の憂いにはならねぇだろう。俺が勝ったら 見逃して欲しい」
その言を聞き、
「盗賊ながら天晴れです。いいでしょう。その勇気に免じて受けて立ちます！」
「エリーシャ殿‥‥」
一騎打ちに応じたエリーシャは心配するシュバルツを制し、
「トルク家の騎士、エリーシャ・メロウ。お前に取っては良い敵となれましょう」
「そうか‥‥トルクの正騎士を出したこともある家柄とあっては不足ねぇ。少し待ってくれ」
男は皮鎧を外し盾を棄て、剣一振りで構えた。元より死ぬ積もりであろう。エリーシャはスピアを構え相対する。槍先を地面に添えた独特の構えだ。
「うぉぉぉぉぉ！」
「とぉぉす！」
二つの影が交叉差した。エリーシャのマントが舞い、はらりと髪が一房落ちた。
「いい腕だ‥‥」
崩れ落ちる男の姿。
「おまえもな‥‥」
薄手を負い、エリーシャの血が大地に落ちる。
「おい。おまえ！」
エリーシャは男が助けようとした子分のほうを見た。そいつは恐怖の余り身体を
こわばらせて、既に事切れていた。
●戦闘終結
徹底した殲滅戦の末、東ルーケイを荒らし回った毒蜘蛛団もあっけなく壊滅した。虜囚達は解放され、ひとまずルムスの村へと移送される。
ここに一つの戦いは終わった。が、それは次なる戦いの序章にしか過ぎないのかもしれない。全ルーケイ平定への道は、まだまだ長い。
