●リプレイ本文
●依頼主との会見
今回の依頼主との直接会見がある。今回の討伐作戦は、国境沿いの領主たちの願いをかなえるため、エーガン王も気張ったようだ。というよりもエーガン王もエーガン王なりの考えがあるのだろう。
「わしが今回の討伐の指揮を取ることになったザモエである」
「え!」
ウィル出身の鎧騎士リーザ・ブランディス(eb4039)、シャナン・ローディス(eb4062)、レネウス・ロートリンゲン(eb4099)、エルシード・カペアドール(eb4395)の4人は、驚きの声をあげた。
「ザモエって、あのザモエ様?」
外見の年齢も、気迫も聞いていたとおり、もっとも実際にはあった事は無い。ウィルでは伝説に近い人物。現王のエーガン王を含めて3代のフォロ家の王に仕え、ウィルのセトタでの勢力伸長に大きく貢献した人物の一人である。トルク家に仕えるヒコとともにウィルの双璧として、ウィルのみならずセトタ大陸でも有名な人物であった。ただし、今のエーガン王の治世になってからは、平和続きでその名前は実力の裏付けの無いものとして扱われつつあったが。それでも唯一エーガン王が頭の上がらない存在として、エーガン王に最後の一線を越えさせない存在としての意義はあった。エーガン王もやっかいな御仁に首を突っ込ませない。そのため、ジーザム・トルクより献上されたゴーレムの半数を預けて新たに騎士団の編成を任せた。雑事に関わる時間的余裕を無くさせたのだ。新たに騎士団を編成し、訓練を施し、運営を確立させるのには、非常に時間がかかる。そうなれば、よほどの無理をしなければ、諫言を出すことはあるまい。年齢が年齢だけにあと10年もすればいなくなる。その間、フォロ家に忠誠を作らせる騎士や鎧騎士を育ててもらえばいい。 その作戦は図に当たり、エーガン王が計画する国の権力を王の集中させるために、邪魔な者たちを消し去っていっても、口を出してくることはなかった。もし口を出していたら、エーガン王の動きももっと変わっていたかも知れない。たとえ口を出したとしても態度だけは慇懃に敬い決して粗略に扱わず、排除したものの謀叛の証拠を並べて王国を守る義務を訴えたことだろう。
「ザモエ様が出てきたということは、ゴーレムの出番もあるかな?」
レネウスは、実戦でゴーレムを扱ったことはない。大半の鎧騎士がそうだろう。鎧騎士が高い評価を受けているのは、鎧騎士の中に、高名な騎士がいるためだ。ザモエはその筆頭だろう。鎧騎士全体が高い評価を受けるのは、もっと実戦で名誉と戦果をあげなければならないことだろう。
「冒険者ギルドの諸君には、偵察を行ってもらう。あくまでも偵察であり、戦闘は絶対に避けて欲しい」
もし討伐されることが予想されれば、山賊の集団は国境をこえてハンに逃げるだろう。国境線をすべて封鎖することはできない。拠点をハン国内にうつして、ウィル国内に仕事を行うために遠距離通勤するかも知れない。通勤手当てはでないだろうが、拠点をウィルの軍勢に攻撃される危険はない。ウィルがハンとの関係をぶっ壊してでも攻めるというほど、エーガン王がぶっ飛んでしまえば関係ないが。近年ハンとの関係は悪化していた。特にウィルがリグと攻守同盟を結んで以降は。
「天界人の方もいるようなので、今のウィルをめぐる国際情勢について、説明しておく」
ザモエの合図によって、ザモエの配下の騎士が説明をはじめる。
「ウィルの西にはチの国がある。この国は永世中立を至上価値としている国だ。歴史は古いが。カオス戦争にも援軍を出さなかった国だ。そのため、攻められることはない。ハンとウィルの関係が悪くなったのは、残りの5国の同盟関係にある。リグはウィルの北、セトタ大陸の中央にある国だ。リグの先代の王は、北方のエ・ラオの両国と戦火を交えて一騎討ちで戦死している。リグとラオの関係は悪い。そのリグとウィルは攻守同盟を結んでいる。ハンは、隣国ラオと姻戚関係がある。今のハンの王妃、ラオから駆け落ちした王女だ。駆け落ちしたといっても姻戚関係には違いない」
そのような関係があって、ウィル・リグ対エ・ラオ・ハンの対立図式が成り立ってしまった。
「一番脅威を感じているのは、ハンだろう。南と西を対立国に占められている。最近では対岸アプト大陸のランと交流を深めているが。ウィルとしては、口実なしに戦争を仕掛けることはしない。それはウィルに騎士道に反するから」
しかし、今のエーガン王のやり方ならこの先も同じかは分からない。
「では騎士道に反しない場合とは、どういう状況だろうか?」
村越充(eb4159)が質問した。地球人にはアトランティスの騎士道はまだ理解できない。
「それを心配している。もし、山賊がハンの拠点を移して、国境を越えてウィルの村を襲撃するなら、通常ハン側に討伐を依頼する。しかし、ハン側がそれを行わなかったら。問題となる」
ハンは4つの分国で構成されている。今の王のヘイット家だが、ウィルとは領地を接していない。ウィルと接している2つの分国、ハラン家とウス家はことあるごとに対立している。この分国の境界線上に山賊が拠点を移した場合、しかも山賊がウィルだけを襲撃していて自分たちに直接の被害がなければ、討伐を相手側に押しつけて動かないだろう。そうなれば誠実さに欠けるとして戦争の口実になりうる。
「戦いで名をあげ、功績を立てるのは騎士としての誉れ、それ自体に問題はない。しかし、山賊討伐が理由での戦など」
「そりゃやりたくないよね。名誉ある戦いとなるかどうか難しいものね」
リーザが小声で言った。
「今回の偵察によって敵の戦力、地形、退路の把握を行って欲しい。それも見つからずに」
その状況によって、討伐の編成が変わってくる。
「討伐は冒険者ギルドからも大勢の参加を呼びかけるつもりだ。山賊相手から騎士道に縛られることもない。しかし敵も手段を選ばない。毒を使った武器やトラップも多いだろう。遮蔽物に隠れて射手を配置するかもしれない。そのあたりを事細かく調べて欲しい」
●出発
15人という人数は調べるには十分な人数だが、全員一緒に移動しては目につく。山賊は、主立った道に監視の目を持っている。そのため首都ウィルを出発した時点で、3つのグループに分けて出発する。徒歩で移動する者もいるため、現地までは2日半ぐらいは見なくてはならない。現地到着後は、ベースキャンプを張って偵察を行う。
鎧騎士の4人は道を知っているため、各グループに最低1名づつ入る。
竜胆零(eb0953)、レネウス、チカ・ニシムラ(ea1128)、イケル・ブランカ(eb2124)で1隊。現地到着後は、零は単独行動で偵察、残り3人は賊の配置と地形を調査することになっている。 リーベ・フェァリーレン(ea3524)、エルシード、リーザ、サラ・コーウィン(ea4567)、アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)で第2隊、現地ではリーベ、エルシード、リーザの3人が川と水源の調査。サラとアレクセイが丘の調査を行う。
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)、ルイス・マリスカル(ea3063)、充、ラミエル・バーンシュタイン(eb1960)、アリオク・バーンシュタイン(eb1961)、シャナンの6人組の第3隊。ニルナ、ルイス、充の3人は街道をラミエル、アリオク、シャナンの3人は近隣の村での聞き込みをする予定になっている。
現地到着を2日後の夕方として、それまでそれぞれ別ルートで移動する。
到着すら気付かれないように、夕闇の中で合流する。地点さえ決めておけば大丈夫だろう。
「みんな無事に到着できるといいね」
チカはつぶやいた。
「4人から6人で行動していれば、何かの事件に巻き込まれても対処できるだろう。素人じゃないんだ」
零はこともなげに言った。しかし、7日分の行動を取るのに最低保存食を7日分用意する必要がある。食事付きとは依頼書には書いて居なかったのだから。まして偵察なら。7日に足りない冒険者には、出発前に足りない分を強制的に買わせられた。各人多少の余裕を持っている者もいるが、助けられるとは限らない。まして首都ウィルを出発してしまうと途中で保存食を入手できるとは限らないのだ。
別ルートを取るのは、行くまでの道でも山賊の活動範囲や行動を調べることもある。どの程度凶悪なのか。どの程度の被害が出ているのか。
「山賊のせいにして私腹を肥やしている者がいるかもしれないしな」
レネウスは、騎士学校時代に教わった道を先頭に立って進んでいく。
「いるのかそういうのが、ひで〜じゃんか」
イケルがアリオクから借りた携帯電話とラミエルから借りたツールナイフをいじっていた。携帯の代わりに、ロバのミアーハをアリオクに押しつけていた。
「わざと捕まろうとするなよ。偵察に来たのがばれる」
零はイケルに短くいった。知られずに調査を完了することが重要なのだ。
「この道でいいのかしら?」
「そうだよ」
エルシードとリーザは、互いに記憶を確認しあいながら進んでいく。後ろから着いていく身としては、ときおり間違った道を進んでいるのではないかという不安はある。
首都ウィルから北は、すでに耕地になっている地域を除けばまだまだ人手の入っていない森林が多い。草原で道をそれていくようなわけにはいかない。
「アレクセイさん、移動中に充電たのみます」
ニルナはデジタルカメラの充電をアレクセイの充電器でやってもらうことにした」
画像を映しているとバッテリーの消耗が激しいらしい。充電してあるバッテリーが幾つかあればもっと使い勝手も良いものになるのだろうけど。充電は時間がかかるから、ここぞという時に使うしかない。
●ベースキャンプ
「予定時間です」
ルイスは組上がったテントから周囲を見渡した。
3日目の陽精霊の力がかなり弱まってきていた。
最初に到着したのは第3班だった。馬とセブンリーグブーツの併用でかなり時間を稼いだ。その分、途中で立ち寄った村で情報収集する時間もできていた。
「道に迷ったか?」
ニルナはその可能性を考えた。何かの事件に巻き込まれたとは考えがたい。
そこにようやく。第2班が到着した。
「ある領地で足留めされて」
サラが説明した。そこの領主は冒険者ギルドの連盟に入っていない。そのため、武装した冒険者に領地の通行を許可しなかった。
「まさか、邪魔した者たちを切り倒してきたんじゃ?」
鎧騎士が同行していたからそんな事は無いとは思ったが。
「迂回してきました。時間がかかりましたが、いろいろ情報が入りました」
この付近にはフォロ家の領地があったが、無理な労役のために村ごと逃亡した人たちがいたらしいこと。「その村人たちが今では山賊化した可能性があるの」
リーベが予想していた可能性の一つがあたったかも知れない。
「でもそれは7年前、エーガン王が即位した直後に起こったことなの」
それでも逃亡した上で山賊化して、財貨を奪う行動の言い訳にはならない。
そうこうしているうちに遅れていた1班が到着した。
「道のりが予想以上にあって、かなり長距離を回り込むようになった」
移動で疲れているとは思うが、念のため見張りを立てて交代で休む。着いた順に見張りをする。
「火も焚けないから、寒い」
「ロシア人って、このくらいの寒さは平気なのか?」
防寒服を持ってこなかったイケルは交代の時に、同じく防寒服を持ってこなかった ラミエルとアリオクに尋ねた。寝起きが悪いところにこんなに寒いのではたまらない。
「ロシアの寒さに比べれば。翌朝まで凍死しないように気をつけるんだね」
アリオクに言われた。
結局翌朝まで凍死はしなかったが、完全に凍えた。
「それじゃ予定どおり手分けして、調査を行う。できれば今日中に完了させたい。凍死しそうな人もいるし。時間をかけると気付かれるかも知れないでしょう」
サラの言葉に、みな同意する。
●地形情報
零は担当行動で、山賊が使う小道を探していた。依頼されたような大きな道でしか、軍勢は侵攻できないだろうが、防戦する側は自分たちの庭に縦横無尽に移動できる道を備えているはずだ。それを探しておかなければ、どこからが突然矢が飛んで来て命を奪うことになるだろう。
「それに北に逃れる道も」
本格的な攻勢を行えば、きっと国境を越えて逃げるはずだ。それを先読みして阻止しなければ面倒なことになる」
隠密行動を生かして森に溶け込み、様子を探っていく。獣道程度の小道はいくつもある。それを記憶していく。キャンプに戻ったらセトタ語で書いてもらわなければならない。
「イケルさん大丈夫かな?」
チカは、イケルを心配した。さきほどからくしゃみを連発している。体はもちろんだが。
「防寒着を持ってこないなんて、そのくしゃみで気付かれたらどうするつもり?」
「すみません」
作戦が失敗することは冒険者一人の命で済むことではない。一緒に参加した仲間や依頼主にも影響してくる。困っているから冒険者に支払う高額な報酬を捻出して依頼する。そのに依頼主をもっと困った立場に追いやる。今回の依頼なら、戦争にまで発展する可能性もあるのだ。
「そろそろ、このあたりでいいんじゃないか?」
レウネスが周囲を警戒する。チカがブレスセンサーで確認した対象の場所に近づいた。
「村のようだ」
人数はあまり多くはない。
「この寒さでは家の中だろう」
家の幾つかからは煙が出ている。遅い朝食の準備でもしているのだろうか。
「いくつか防御柵がある。柵の向こう側から弓矢で攻撃されるとやっかいだ。
村自体が、森に囲まれているから侵攻できる道が少ない。しかも森はあいつらのテリトリーだ。
「行動パターンを観察しよう」
「じゃ発見されないように、定期的にブレスセンサーかけるから」
チカは呼吸音で警戒にあたる。
●水源を探せ
「川に回り込む」
丘を中央突破していくのは、非常に近いがそれでは見つかるのは確実。偽装しても怪しまれるだけだ。
「ジ・アースくらい物資の流通があればともかく」
ジ・アース出身者はアトランティスにきて驚いたのは一般人用の物資の流通があまりにも少ないこと。自給自足は封建制の基本だが、それでも少なすぎる。首都あたりならともかく、首都を離れると様変わりする。その状態ではラミエルが行おうとした御者云々はあまりにも不自然だ。
「川以外にも水源を持っていることでしょう。先に丘にある水源を調べませんか?」
エルシードはリーベに提案する。リーベのサーチウォーターなら井戸の位置ぐらいわかるだろう。
「やってみる」
エルシードとリーザは周囲を警戒する。術の最中に奇襲でも食らえば、大変なことになる。
「井戸ほど大きな反応はありませんが、この丘自体かなり水が多いのかも知れません。
井戸以上の大きさでないとサーチウォーターでは発見できない。湧き水が流れ出るような僅かなものでは、存在を知ることができない。
「貯水用のタルぐらいはあるでしょうけど」
3人は山賊に気付かれないように、丘を大きく東に迂回して丘の麓を移動していく。
●麓調査
サラとアレクセイは、丘に潜入していた。アレクセイが先に進む。アレクセイがレンジャーで鍛えた隠密能力をいかして付近に誰かいないか確認し、こちらの存在が分からないように慎重に進む。
「動くな」
アレクセイがサラを制する。そして森林の一角を指さす。
「‥‥」
無言でサラが目を凝らすと、木の上の方に丘に向かう街道を見張る者がいた。
(「ニルナたち、見つからないかな?」)
街道を調べることになっていた3人が街道をそのまま進んだら、絶対に発見される。
(「どうにかできない?」)
下手に動けば、逆効果になる。飛び道具はない。でも、打つ手が無いわけでもない。
(「やばい!」)
サラの位置から街道が見える。そこに3人が街道の周囲を警戒しながら、進んでくるのが見えた。木の上までは警戒していない。
アレクセイがリョーニャ(鷹)を放った。リョーニャは一旦高度を取ると、目標に向かって飛ぶ。鋭い攻撃音を発して、威嚇しつつ襲いかかる。
突然の強襲。木の上に陣取っていた男は避けようとして、バランスを崩した。命綱を付けていたか墜落しなかったが、落ちていたら確実に死んでいたはずだ。
「良かった」
死ななかったことが。人命を尊重したわけじゃない。もし死んだなら、何か起こったと警戒される。しかし、生きていたから、自分がドジって木から落ちたことなど言いふらさない。
男の悲鳴に、街道を進んでいたニルナたちも気付いたようだ。そして街道脇の草むらに飛び込む。
●聞き込み
「けっこう被害があるみたいね」
ラミエルは、聞き込みしていて被害に驚いた。
「相手は山賊だ。売れるものなら奪う。人だろうと物だろうと」
貨幣経済が浸透していない村では銅貨すらあまりないかも知れない。価値的には貨幣の方が持ち運びには便利だが、山の中で金貨を持っていても腹は膨らまない。
村は秋の収穫を終えた直後に襲撃を受けた。小麦は半分くらい奪われた。抵抗した男たちの中には死人もいたし、怪我を負った者も多かった。
「例えもとが逃亡した村人だろうと、もうただの山賊にすぎない」
アリオクが怒りを隠さずに言った。
「連れ去られたのは、鍛冶屋に、パン屋、それに猟師が幾人か」
シャナンは鍛冶屋で聞いてきた話をした。わざわざ刃こぼれさせた短刀を持っていって修理を頼んだが、村の鍛冶屋は、見習いがどうにか村の農具を直すので手がいっぱいだった。
「親方が山賊に連れ去られてしまったから、村の仕事でやっとだよ。それに短刀みたいなものは、とても手負えない。どうしてもというなら、ご領主様のところに相談してはどうだろう。武器のことなら、もしかしたら直せる人がいるかもしれないし」
と、心配されてしまった。
「鎧騎士ってけっこう世間しらずですね」
村の鍛冶屋は武器を扱わない。一般の村人が武器を持つことは禁止されている。
「下手に武器を持って反乱でも起こされたら大変だからね」
これはアトランティスもジ・アースも同じことだ。
「考えてみればそうだよね」
冒険者が武器を持ちながらある程度自由にウィルの中を動き回れるもの、冒険者ギルドが多くの領主によって承認されているからだ。冒険者ギルドを承認していない領主の領地には簡単に入れない。もちろん武力をもってなら通過できるだろうが、そんなことをしたら冒険者ギルドが、襲撃者になってしまう。
「ジーザム・トルク分国王の影響でかなり多くの領主が参加しているから活動できるけどさ」
日暮れとともにキャンプに戻った。
互いの情報を出し合う。
山賊の拠点を探っていた4人により山賊は500名以上いうことは確実になった。もっとも、すべて戦力という訳ではない。男もいれば女いる。老人、子供も少ないながらもいる。
「山賊の平均的な腕はまぁまぁという程度だけど、問題は山賊を指導、いや操っている者が少なからずいるみたいだ」
零は動きの違う人間が何人か混じっているのを見分けた。
「弓を使うものが多いみたい。あちこちに見張り場があって、伏兵に最適そうな場所がこことここ」
サラが地図の幾つかの地点を指した。
シャナンが発見されたことを地図に書き込んでいく。
「林の中を外側からでは気付かれないように移動できる小道がある」
零が伏兵場所の間を指さす。
「城砦じゃないけど、結構な構えだ」
甲冑で完全武装した騎士団でも街道をまっすぐ駆け登って行ったら、丘の上にたどり着くまでに全員馬を失うことになっているだろう。
「騎士同士の戦いなら馬は狙わないだろうが、山賊が必死に抵抗するならまず馬を狙ってくる」
それに上り坂では騎兵特有の突進力を生かせない。
「普通の矢ぐらい問題にしないゴーレムでも投入できれば」
リーザはそう言って、周囲の鎧騎士を見回す。
「ゴーレムは戦車のかわりか」
充は地球風に例えてみた。ゴーレムの防御力と存在感で圧倒する。それなら。
「その判断はザモエ様におまかせしよう。ゴーレムがどの程度使えるのか知りたいのは、あの方も同じでしょうから」
「川は渇水期のようだ。堰を造って止めても、とても退路を絶つのは難しいな」
上流でそんな工事を行えば、水が濁ってしまう。
「見破られるな」
普通でないことが起きれば、警戒するだろう。水の流れが完全に止まれば、誰かを調べに行かせるだろう。退路を絶つには、戦いが始まると同時に背後に回っている隊が必要になる。
「拠点には鍛冶場があった。あそこで村からなくなった鍛冶屋が無理やり武器を作らされていそうだ。剣よりも矢尻だろうな」
剣は一朝一夕にできるものではない。でも矢尻なら? 十分に間に合うだろう。
「だから弓を使う者が多いのか」
「国境線はいわずもがなね。ハン側での見張りはいないわよ」
国境線はエルシードの予想通りの状況であった。川を境に国境を引くのはそれが分かりやすいからにすぎない。
「ルビコン川と考えればいいだろう」
物理的には大した川じゃないが、制度的には大きな川。地球にもジ・アースにも、同じ歴史があったようだ。
「水源は川だけじゃない。あの丘には湧き水があるみたい。それをあちこちに樽かなにかに汲み上げて、建物の上の方に保管している見たい」
火事が起こった場合に備えてのことだろうか。
「なんとなく、誰かの入れ知恵っぽいな」
やはり背後には、何者かがいる。
「捕まえられれば、いいのだろうが」
夜も交代で番をして、翌朝首都に向かって出発する。
「1日で調査できて良かった。こっちのもう一晩過ごすようなら、凍死者がでるところだったな」
イケルは夜見張りにたつ時は、アリオクに担保にしておいたミアーハを側において、どうにか寒さをやり過ごした。そうでなければ本当に凍死していたかも知れない。
帰り道は戦力を気付かれずに移動できる道をさがしつつ、ウィルに戻った。
調べ上げた地図をザモエのところに提出する。
「この報告書の内容からすると、領主勢騎士団の投入は難しそうだ。討伐も冒険者ギルドの戦力をあてにさせてもらおう」
「それと」
零は山賊を動かしている者たちがいることを話した。
「生きたまま捕まえて拷問にかけたいところだが、真っ先に逃げ出すはずだ。そいつらを捕縛する1隊も必要になる。北の国境線に2隊、南から3隊、東から1隊。最低でも7隊を冒険者ギルドで構成したい」
それは冒険者ギルドが、信頼されていることだろうか。
「都合がつけば、ゴーレムの出番もありえる」
山賊を動かしている者が裏工作して邪魔すれば、ゴーレムは出せなくなるだろう。こちらの動きを悟られないようにするために、冒険者を主戦力として使う。