ワンド子爵の憂鬱―お花畑で捕まえて☆
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■ショートシナリオ
担当:マレーア1
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや易
成功報酬:3 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月24日〜06月30日
リプレイ公開日:2006年06月27日
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●オープニング
「私達を助けてください! お願いします!」
冒険者ギルドで女性の甲高い声が響いた。
ギルド職員は苦笑していた。彼の目の前には変わった姿をした連中がずらり。
旅芸人の一座である。それはいいとして、彼らの格好はとてつもなく強烈である。皆が皆、ひらひらのめいいっぱいついたド派手原色な服を身につけているのだ。
生地からして、また生地を染める染料からして、アトランティスで作られた服ではない。
「これは天界のお召し物ですね?」
「はい。天界より降臨されたるマホウショウジョ様からの授かり物でございます」
「マホウショウジョ?」
「天界よりご降臨なされた、私達の救世主様です。巡業の途中で追い剥ぎに襲われ、身ぐるみ剥がれて野垂れ死にかけていた私達の目の前に御出現なさり、食べ物と衣服を授けてくださったのです。その後、マホウショウジョ様は聖地への巡礼に向かわれ‥‥」
「聖地へですか?」
「はい。マホウショウジョ様は聖地アキバへ向かわれる途中だったのです。以来、私どもはマホウショウジョ様の教えに習い、毎日欠かすことなくこの聖衣に身を包み、修行に励んでいるのです」
「そうでしたか。それで‥‥」
何の話だったっけ? 確か、この人達は助けを求めていたような。
またも女性の甲高い声が冒険者ギルドに響いた。
「私達を助けてください! お願いします!」
「そ、それで? どうなさったんですか?」
「シーハリオン祭も近いし、ワンド子爵様のご領地でも色々な催し物があるという話を聞いて、私達も子爵様の街で一稼ぎしようとやって来たのですが‥‥」
「途中、青空の下に一面のお花畑が広がっている場所があって、あんまり気持ちよさそうだからそこにキャンプを張って一休みしていたところ‥‥」
「突然、コボルト達が襲ってきたんです!」
「命からがら逃げて来たのはいいけど、食料や商売道具を積んだ馬車をコボルトに奪われてしまったんです!」
「追い払おうにもコボルトが7匹もいる挙句、剣等を振り回しているコボルトが三匹‥‥ボスみたいな存在のコボルトまでいて、手が出せません‥‥」
芸人達が必死にギルド職員に説明する。
その必死な姿を見ても、ギルド職員からは溜息しか出ない。
街人達の服装の所為だ。
「つまりは、魔物退治依頼ですね?」
「‥‥あ、それともう一つ! ワンド子爵様の御領地から大河を下ってここまで来る途中、水蛇団という河賊が設けた河の関所で通行料を要求されたんです」
「でも私たち、お金が無くて払えません!」
「そしたら水蛇団の奴ら、私達の仲間を2人、人質に取ったんです! 通行料を出せないなら、その分働いて稼いでもらうって言うんです!」
「でも今頃、人質になった仲間達、水蛇団にこっぴどくこき使われたり、殴られたり蹴られたり、酷い目に遭っているかもしれません!」
「私達が戻ってきても、すんなり仲間達を解放してくれるかどうか分かりません!」
「だから冒険者の方々には私達の後ろ盾になってもらい、仲間の解放がうまく行くように水蛇団と交渉して欲しいんですっ!」
ふむ、と事務員は頷き、2枚の羊皮紙を取り出した。
「魔物退治以来に、人質解放依頼ですね」
馴れた手つきで2通の契約書を作製し、それぞれの文末の余白を依頼人に示す。
「それではここにサインを‥‥」
「あ、‥‥それと大事な事を言い忘れてました! 冒険者の皆様には私達と同じようにこの服を着て貰います。構いませんね?」
「え゛?」
「この服は、救世主様のご加護がある聖衣なのです。救世主様から授かった沢山の聖衣だけは決して手放すことなく、コボルトの襲撃からも守り通したのです。これを着てコボルト退治と水蛇団との交渉をお願いします。勿論、お花畑でも船の上でもその服装で!」
「‥‥もし拒んだ場合は? それに、まさかみんなその魔法少女のような‥‥?」
「勿論、バチアタリとして私達が鉄拳制裁です。男も女もこの服装です」
「ちゃんと、なりきって退治してくださいね? そうしないと天から恐怖の大王が降ってくるのでっ。はい、救世主様がそのようにおっしゃられましたっ!」
言葉を失うギルド職員。
冒険者達に心の中で、こんな依頼受けてごめんなさいと謝りながらも依頼書を作成するのであった。
●リプレイ本文
●マホウショウジョの聖衣
「まぁ! これは立派な‥‥!」
「まるでマホウショウジョ様みたいです!」
「あぁ、ありがたやありがたや‥‥」
着替えた冒険者達を見て、いきなり拝み始める旅芸人達。
余程彼女等がそのマホウショウジョ様に似ていたのだろうか。
ヒラヒラフリフリ、らぶりーきゅーとな聖衣を着た彼女等は、苦笑を浮かべるしかなかった。
「こ、この格好でコボルド退治に‥‥な、なんだか恥ずかしいッス‥‥」
「仕方ないわよ、これやらなきゃ簀巻きにされちゃうんだし‥‥」
「うぅ、やるしか無いんスよね。苺食らわば皿まで! こうなったらとことんッス!」
フルーレ・フルフラット(eb1182)が自分の頬を二度叩き、気合を入れてギガントソードを携える。
彼女の中のマホウショウジョとはこれなのである。
「成り切らないと‥‥成りきろう‥‥成りきれ!!」
「あ、あはは‥‥やっぱり自己暗示も手段の一つっスよね‥‥」
ふっきれようと頑張っていたフルーレ。ラシェル・カルセドニー(eb1248)の自己暗示をチラリと見てガクリと肩を落とす。
しかし、やるからにはビシッとやるつもりではいるのだがまだ恥ずかしさが抜けていない様子。
「さぁ、マホウショウジョ様のご加護と共にコボルト退治に行きましょう! 寧ろ行ってください!」
「な、何で木陰に隠れてるっスか‥‥?」
「べ、別に逃げているわけじゃないですから! お仕事ですから!」
とにもかくにも、彼女等は旅芸人を困らせているコボルト退治に向かうのだった。
●名乗りをあげろ! マホウショウジョ部隊!
コボルト達が占拠している場所には無惨な馬車の残骸一つ。馬車を壊した薪の上で、解体された馬の香ばしい煙が‥‥ちょっとマホウショウジョには相応しくないので以下略。
肝心のコボルトはと言うと、馬車の中の積荷‥‥食料を物色中であった。
「げっへっへ‥‥人間どもめ、いい食料持ってやがるな!」
「こんなもの俺達が全部喰ってやる!」
「‥‥レンは其処までアテレコ頼んでないのー」
レン・ウィンドフェザー(ea4509)が旅芸人に軽くつっこむ。
どうやら彼女がペットのアテレコを旅芸人に頼んだようなのだが、惨状のショックが強すぎてナチュラルハイ。これも芸人のサガであろうか?
「誰に呼ばれた訳も無し、己が正義を貫くために!! 戦い続けて幾星霜、気付けば婚期は空の果て!? しかし挫けぬ婿探し、戦場だって関係無いナイ!! 今日も征きますやもめ騎士、婿入歓迎・ぴりかる☆ピリカ!! 推して参る!」
エトピリカ・ゼッペロン(eb4454)がビシッとポーズを決めそう叫ぶと、コボルト達の動きもピタリと止まり、彼女をじーっと眺めた。
彼女の犬、非常食という名前らしいがその犬もワンワンと煩いぐらいに吠え始めた。
「ほれ、皆も言うのじゃ! 『えれめんたる☆が〜るず』としての自己紹介の場なのじゃ! ノリが大事じゃよ?」
「ここまで来たら恥ずかしがってる場合じゃないっスね! 悪いことする鬼さんはぁ‥‥フルフラットがべっこべこにお仕置きッス!」
フルーレが可愛くそう言い放つと、エトリピカがキリッと弓を引いた。
ビュンッと言う音と共に、一本の弓がコボルトの額にトスンっと刺さる。
「良く狙う事で普段の10倍、1000万パワーの威力をはっきするのじゃ!か〜かかか♪」
「次は超力天使ふるふる☆フルーレが相手するっス! まじかる☆くらっしゅ!」
ギガントソードがコボルトを襲う! ある意味恥ずかしさ交じりのヤケが加わっている為、馬力も何だか何時もより上だ。
二匹のコボルトを倒すと、二人は他のマホウショウジョ達にも目で合図した。
「あの二人もああやって戦っている事ですし、他の皆様もマホウショウジョ様のようにお願いします!」
「あーもう! 言われなくてもやるよ! 魔法の神聖騎士☆エコロジカル・ルシールただ今見参!」
「レンもやるなのー♪ きょうのレンは、『りりかる☆レン』なのー♪」
ルシール・ハーキンス(eb0751)は短すぎるフリフリなスカートをひらりと翻しエロカッコよくポーズを決め、それとは対照的にゴスロリ仕様の可愛い服をヒラヒラとさせ可愛くポーズを決める。芸人達が用意の花びらを振りまいて可憐さを演出。
しかし、彼女の手におさまっているのは『本気狩☆破離殲』と書かれた簗染めのハリセンである。
「レンさん、お願いするね! ドンちゃん、いくよー!」
「任せてなのー♪ 頑張るなのー♪」
「必殺! ドラゴンシュート!」
「えいっ!」
投げられたルシールのペット、ドラゴン。ハリセンで其れを上手くスパコーンとレンがコボルトに向かって打つ!
見事に顔面にドラゴンがクリーンヒットすると、コボルトとドラゴン。どちらも目をクルクルと回してその場に倒れてしまう。
お子さまに馬力があるように見えるのは、ノリの神様のお陰だという事にしておこう。
「やったぁ! 当たったよー!」
「面白いなのー♪」
2人ハイタッチをしながら、既にマホウショウジョの世界を楽しんでいるようだった。
「な、なんだか皆さん凄いですね‥‥」
パステル調の緑系の聖衣を着こなしながらラシェルがそう呟く。
「まーまー‥‥楽しいからいいんじゃないかな? ま、私達もやるわよ?」
「あ、はいっ! が、頑張りますね!」
まだ緊張しているラシェルを見て、リーン・エグザンティア(eb4501)は苦笑を浮かべるも緊張を少し解させる為にまずは自分が前に出た。
「ウィルに咲く一輪の黒百合、『情熱爆裂リリカル☆リーン』が‥‥」
「グオォォォ!」
「空気読めこの駄犬がッ!!」
名乗りの途中にも関わらず襲ってきたコボルトに対し、物凄い勢いで殴り倒すリーン。
マホウショウジョには見えないその行動も、旅芸人達にとっては『愛のせっかん』として拝まれているわけだが。
「夢と愛を歌に乗せて。貴方に届け、ぴゅあはーと☆まじかるピュアハート☆ラシェル、いきますっ!」
「ラシェル、あそこ結構広いし人もいないんじゃない?」
「あ、はい! じゃ、其処に向かって‥‥いっけー!」
コボルトがわらわらしている所にシャドウボムを打ち込むと、ラシェルはリーンにバトンタッチ。
リーンは華麗に、優雅にコボルト達を倒していく。
「あぁ‥‥マホウショウジョ様はやっぱり素晴らしい‥‥!」
「またこうやって私達を助けてくださるのですから!」
「あぁ、ありがたやありがたや‥‥」
もう彼等にとっては、聖衣着てればなんでもマホウショウジョ様なのだろう‥‥。
●決めろ、トドメだ!
「バトルマホウショウジョ・レッドストームミリー、参りますわ! 剣よ!私に勇気と力を!!」
「旅芸人さん達のささやかな楽しみを奪うなんて赦せないよ! 夢見るメガネっ娘天使☆ドロシーがお仕置きしちゃうよっ!」
「ラブリーブレイク!」
ドロシー・ミルトン(eb4310)が詠唱を開始する間にミリランシェル・ガブリエル(ea1782)が危険なコボルト戦士の武器にバーストアタックを叩きこむ。
コボルト戦士やコボルトの武器には毒が仕込まれている。その毒に警戒しての事だろう。
「月の精霊さん、悪い子をやっつけて! ムーンアロー!」
「グギャアァァァ!」
ノリノリなドロシーが放ったムーンアローに直撃し、フラフラとよろけるコボルト戦士。
其処を狙ってミリランシェルの剣が笑顔で振り上げられる。
「ラブリーアタック!」
物凄い音をたててコボルト戦士を叩き斬ると、ミリランシェルは爽快感に満ちた笑顔を旅芸人達に見せていた。
「さぁ、残るはボスコボルトだけです! マホウショウジョの皆様、退治してくださいっ!」
「じゃあ、あれをやるのー♪」
「うん、そうだね! 一気に攻撃すれば、簡単なはずだもんね!」
「よし、そうと決まればやるのじゃ!」
「行くわよ! 必殺!」
リーンが声をかけ、大きな声でそう言うとそれぞれ得意技を出す準備をする。
声を合わせてこその戦隊! という事なのでタイミングを皆見計らっているようだ。
『本気狩☆りんち!』
‥‥其れはとても凄惨なものだったと旅芸人達は言う。
突然、フライングブルームに乗り天空から降臨してきたレンがローリンググラビティで周りのコボルト達を吹き飛ばし、リーン、ミリランシェル、フルーレ、ルシールの四人が情け容赦なくだが華麗にボスコボルトをボコボコに‥‥。
更には後方からドロシーのムーンアロー。ラシェルのシャドウボム。一番難儀だったのが‥‥。
「かの地に降った赤い雨…貴様らに避けられるかーッ!?」
「あわわわ‥‥! 危ないですよ、マホウショウジョ様!?」
ルーケイの赤い雨と名付けたその技。矢を乱れ撃ち、矢の雨を降らせているつもりなエトピリカ。
だがその矢は無差別な為、味方にも。勿論旅芸人達にも降り注ぐのであった。
●お後がよろしいようで。
ボスコボルトのでかい巨体がズシンと地面に沈むと、冒険者達は地面に座りこんだ。只一人ルシールが『ルーケイの赤い雨』の怪我人の治療に動いている。忽ち癒えるその技に、芸人達はありがたやと伏し拝む。
「お、終わったッス‥‥色々、他の何かも終わっちゃった気もするッスけど‥‥」
「おー、ブラバー! 実にブラバー!」
「素晴らしかったです、マホウショウジョ様達! 馬車と馬の仇をとって頂けました」
旅芸人達からは拍手喝采。その為、フルーレもそんなに悪い気はしなかったのだが、やりおえて見るとやはり恥ずかしいのだ。
ドロシーは横笛を華麗に吹きながら、やっと終わった感を感じているようだ。
「おもしろかったけど、やっぱりそーかいかんは、カマさんたちをあいてにしたほうがうえなのー♪」
「そう言えば、この衣装貰えない‥‥かなぁ?」
「おお、この聖衣を欲しいと! この神聖な聖衣、貴方様がマホウショウジョ様を崇拝するというのでしたら、まだありますので是非!」
「‥‥す、崇拝が条件なんだ‥‥?」
苦笑して受け取るルシール。何だか複雑な心境のようで、衣装をじーっと眺めている。
「どうじゃ、フルーレ? 疲れたかの?」
「そんな事ないッス! お姉様と一緒だったから大丈夫ッス!」
「うむ! それでこそわしの義妹なのじゃ! では皆の衆、そろそろ聖地へと向かうのじゃ!」
「せ、聖地ですか?」
「マホウショウジョの話を聞いたじゃろう? 聖地アキバとやらへ向かうのじゃ!」
こうして、終わっても尚ノリノリなエトピリカによって、冒険者達は振り回されるのであった。
そんな冒険者達を、旅芸人達は何時までも拝み続けていた。
余談であるが、馬と馬車を失った旅芸人は新しい馬と馬車を買うまでワンド子爵の町で働くことになったそうである。
こうして、ワンドの名物がまた一つ。彼の地に再びマホウショウジョ様が降臨する日も遠くないかも知れない。