第4回GCR 裏方運営仁義無き戦いX

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月17日〜07月20日

リプレイ公開日:2006年07月24日

●オープニング

●マーカス商会、その仁義無き戦い
 どんがらがっしゃ〜ん!!
 ガラガラと手桶が転がり、石畳に派手な音を発てた。
「待てやコラぁ〜っ!!」
「どこ行きやあったぁ〜っ!!?」
 バタバタとウィルの下町を駆け抜ける、マーカス商会の若衆達。手に手に棍棒を持ち、怒声を吐きながら道行く者に噛み付いた。

「はぁはぁはぁはぁ‥‥」
 物陰に潜み、荒く息を吐く浅黒い肌の男。
「く‥‥」
 汗と共に額を伝う血が目に入り顔をしかめる。
「ふ、ふははははは!! 覚えていろよ!!」
「いたぞ!!」
「この野郎ぅ!!」
 ワッと取り囲み、ふくろにしようとしたその時、煙と共にカッと。
 ちゅどど〜ん!!
 激しい爆発。男の居た処には何も残らず、ばらばらと何かの粉塵が舞い降りた。その周囲にはマーカス商会の若衆達もあちこちを押さえ、血塗れになってうめき横たわる。そこへ、別の隊が駆けつけた。
「おう! 大丈夫か!?」
「め、面目無い‥‥野郎、突然爆発しやがった‥‥」
 悔しそうに口の端から漏らすと、がっくりと。
「おうおう! しっかいしやがれい! 傷は浅ぇゾ!」
「兄貴!」
「おう! てめぇら、怪我人を運ぶぞ!」
「へいっ!」
 肩を担がれ、次々と運び出される男達。その様を、少し離れた屋根の上、先程の男が片腕を押えて屈んでいた。
「み、見たか‥‥レース本番ではこの程度では済まさぬ。め、目にもの見せてくれる‥‥」
 がくりと肩を落としつつも、男はスッとその場から立ち去った。

 そこは、薄暗い執務室らしき部屋。
「取り逃がしただあ〜っ? 馬鹿野郎っ!!」
 ブンと風を切って、クリスタルガラスの灰皿が飛び、男の頬を掠め、背後の壁にガスンぶち当たるや粉々に砕け散った。
「申し訳ありやせん!!」
 低く低く頭を垂れる若頭。その頬をつうっと伝い、赤い血潮がぽたぽたと。
「毒虫は頭ぁ潰しても、手足が暫くは生きてるってぇもんだ! おう!」
 重々しい執務机に腰を降ろすマーカス・テクシが、かろうじてそうと判る顎をしゃくると、控えていた若衆の一人が、そっと手ぬぐいを持って若頭の頬を押えようと。
「おう、ありがとよ」
 グッと、寸でで男の手を握る若頭。
「な、何を?」
「おめぇ、何の匂いだこりゃ? それにうちの隊じゃねぇな?」
 ぐいと捻る手首に合わせ、男の体がまるで羽の様にぽ〜んと宙を舞う。
 バンと執務机の板が跳ね上がり、上に乗っていた物を撒き散らすが、その上に寸鉄が立て続けにダダダダンと突き立った。
 その影、マーカスの身体は、椅子ごと後ろの壁にヒュッと消え、男の姿は見る間に別のものに。同時に若頭の野太い腕が、その怪人の襟首を掴むやありえない角度で、石の床に叩きつけ、そのままの角度、肘から延髄に全体重をかけて叩き込む。
 ごきりと嫌な音。
 妙な向きにぐにゃりと首が曲がり、今や全く別の顔になった、肌の浅黒い男が血の泡を吹いて横たわる。
「確か‥‥」
「兄貴! 大丈夫ですかい?」
 駆け寄る若衆達を手で制し、若頭はその男に向き直る。
「毒虫は‥‥頭潰しても、手足は暫く生きるんだったよな?」
 一瞬の沈黙。誰もが若頭の意図が掴めずに困惑した。
「おら、来いよ‥‥」
 ジッと目の前に横たわる男の死体を睨む。
「おら‥‥」
 すると、目の前の死体がカクリと動き出し、己の首をもカコンとはめて起き上がる。
「何時からお気付きに?」
「てめぇが勝手に骨を外して死んだふりをして見せた時からだぜ」
「やれやれ、隙を見て毒針で一刺しと思っておりましたが‥‥なかなかおやりになる‥‥」
 妙に冷静な紳士然とした口調。
「残念だが、ここから逃がさないぜ」
「それは無理という物で御座います」
 スッと前に、空手の前羽の構えの如く、垂らして見せた指先から、ぬらりとそれぞれに寸鉄が。しかも、その切っ先は何やら黒い液体に濡れている。
 その場に居る者達は、小窓から様子を覗くマーカスを始め、余りの出来事に腰を抜かして動く事は出来なかった。
 唐突、男の身体はまるで機械仕掛けのばねの様に跳ね上がった。
 怪鳥の如き奇声!
「殺ーっ!!」
「おららららららっ!!」
 二つの影は、虚空で交錯し、無数の飛沫を撒き散らした。

●裏方運営楽しいな☆
「え〜という訳で、今回も大会の運営を担当して貰う面々に顔合わせをして貰う訳だが‥‥」
 数日後、何事も無かったの様に、悪徳商人マーカス・テクシの脂ぎった顔が、その会場の中心にあった。
「警備担当の者は、こっちに集まれ〜!」
 さっさと数名を連れて、部屋の片隅に陣取るマーカス。一同を見渡してから、話を始めた。
「今回は発表にあって知っている者も居るだろうが、レース中に弓兵が射掛ける。これは邪魔しねぇ様にな。あと観客が勘違いして邪魔しねぇ様にもな。妙な連中が何か仕掛けて来るかも知れねぇんで、会場の警備は充分に注意してくれよ」
「判ってまさぁ!!」
 一斉に気合の入った返事。
 そこで外回り担当の冒険者を、マーカスは手招きした。
「なんでしょう?」
「お前等さぁ、カリメロの件であの××団とつなぎが取れるんじゃねぇか? 表沙汰にすると客足に響く。そっちの打ち漏らした残党が、こっちにもちょっかい出してきやがるんだ、って話をしてくれねぇか? こ〜んなつまらない事で、罪もネェ一般の観客がひでぇめに遭う、なんて事はあっちゃいけねぇよな? てめぇらも義賊を語るなら、そっちの不始末だ。何とかしろってな」
 にこぽんと肩を叩くマーカス。
「一つ頼んだぜ」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」
「無論、こっちも保険をかけるが、下手するとまたどこぞが丸焼けなんて事になりかねねぇからな。なるべく水面は波立たねぇ方が良い」
 そう言って、マーカスは目を細め、そのぷっくりとした指先でなだらかな水面を虚空に描いてみせた。

 一つの集団が競技場の各所に散らばって行く。
「さあっ、おっぱじめるぜ野郎ども!!」
「うぃっす、マーカス会長!!」
「今度も観客席は一杯だ!!」
「うぃっす、マーカス会長!!」
「ウィル中の人間を集めてやれ!!」
「うぃっす、マーカス会長!!」
 いよいよ二ヶ月ぶりのお祭騒ぎだ。

●今回の参加者

 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2578 リュウガ・ダグラス(29歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb4077 伊藤 登志樹(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4410 富島 香織(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4726 セーラ・ティアンズ(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

レイリー・ロンド(ea3982)/ クラリス・ロイス(eb4710

●リプレイ本文

●呼び出し
「湖の城での一件に関わり、五色のヒーローに話あり 酒場にて待つ。〜羽付き帽子の剣士より」
 数枚の羊皮紙が、王都ウィルのあちこちへ張り出されていた。地球の日本語で記されたその文字は、アトランティスの人々には不思議な記号。

 数日をうらぶれた街の酒場にて過ごしたルイス・マリスカル(ea3063)は、ほのかにアルコール臭を漂わせながら、その日も酒場の喧騒に身を漂わせていた。
「暑ゅい‥‥ 」
 杯を空けては、酒場女と他愛も無い話を繰り返す。
「ねぇねぇ、誰を待っているの? 彼女? それとも、彼氏?」
 フッと微笑むルイス。
「どっちに見える?」
「そうねぇ‥‥」

●入場証作り
「どういう事ですか?」
 湯煙の中、筋骨逞しい男が、両手に花とばかりに美女を侍らせ、にこやかに浸かっていた。
「そりゃぁ、今回は作ろうって話が無かったからな。平民用の入場証は作らない事にしたんだ。いちいち作ると面倒だろ?」
 マーカスランドの中にあるクアハウス。富島香織(eb4410)は服を着たまま踏み込んでいた。
「それに形が無ければ、偽造だって出来ないだろう?」
「それはそうですが‥‥」
 香織は頬を赤らめ、横を向いた。そんな香織をクスクスと笑い、女達は男にしなだれる様にして囁いた。
「さあ、若頭。背中を流して差し上げますわ」
「あら、あたくしがするわ」
 若頭の身体はそこかしこが、紫色に腫れている。
「おいおい、そおっとしてくれよ」
「はぁ〜い☆」
「し、失礼します!」
 香織ははき捨てる様に、そこを後にした。

●ダミーバガン
 男達が木材を素早く差し込み、それが充分と見るやルエラ・ファールヴァルト(eb4199)は、馬のヌーフエラの手綱を引いた。
「はい、こっちよヌーフエラ! 前に進みなさい! ストップ! ヌーフエラ、ストップ!」
 慌てて制止し、引き出した岩の塊がグラリ停止する。
「早く! コロを差し込んで!」
「はい!」
 コロと呼ばれた丸い木材の上を、少しずつ滑らせて前へと運び出す。
 ダミーバガンの本体に使われる石材。その一つ一つを競技場のトラックの所定の位置へと運び出すのだ。
 通過したら下に敷いたコロを前へ前へと入れなおす。
「ふぅ〜、あとちょっとね‥‥」
 振り向くと、ダミーバガンの素材がそっちでは組み上げている。
 足となる岩を組み、支柱の木材を通し人型を組むと、その上から鋳物の鎧を身に付けさせるんどあ。
「ま〜あ、なんとななるものさ! さあ! みんなあと少しだよ!」
「おう!」
 そう気合を入れなおし、ルエラは少し噛んだ恥ずかしさを吹き飛ばす様に、声を張り上げた。

「ようし! せーので引き起こすぞ!」
 片や3本の木材を組んだクレーンを使い、そこから垂らしたロープでダミーバガンに使われる石材を組み上げる。リュウガ・ダグラス(ea2578)はその先頭に立ち、ロープを引いた。
「せーの!!」
 ぐんと持ち上がる石材。ある程度まで持ち上がると、今度は所定の位置へと降ろすのだ。
「さあ、少しずつだ! 少しずつ降ろすぞ!」
 リュウガは、数人と共に石材を押し、岩に開けられた穴が、下のそれと合う様にと動かした。

「はぁ〜い! お弁当を作って来ましたよ〜!」
「わ〜い!!」
「昼だ!」
 ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)がルクス・ウィンディード(ea0393)に手伝わせ、持参したお弁当を配る。
「何だか、これがお昼休みの合図になっちゃったわね」
 笑いかけるルエラに、ニルナはうふふと口元を押えて笑った。
「全くだ。手伝わされるこっちの身にもなって欲しいぜ」
「まぁ、あんな事を言って」
 ころころと笑われるルクス。
「ほんとうは、嬉しいんだろう? 違うか?」
「ば、ばっかやろう! 何言ってやがんだ!?」
 脇を小突いたリュウガの頭をがっしりとロック。ルクスは痛かろう所を重点的に攻めた。
 そんな様を、微笑ましく眺める二人だった。

●観客席
「ようし! ここにも一本だ!」
 伊藤登志樹(eb4077)は係りの者を呼び、そこへ小さな看板を立たせる。
 観客席は岩を組んで出来ているため、石のみで穴を掘らねばならない。改めて設置しようとすると結構、時間がかかる。
「さて、あとは‥‥」
 貴賓席を狙撃出来ない様にする、という事は観客席からも見えなくするという事。
 特に第4直線の射手は、念入りに見えない様にする。

 元々、貴族用の席と平民用の席は、そういった敷居がされている。
 何しろこの競技場は、何か事があれば王城に対し出城の様な意味合いを持つ。見る者が見ればそう見える構造。貴賓席は物見台。観客席は城壁。そしてそこには数台のゴーレム機器が常駐しているのだ。必要な施設は地下にあり、有事の際はフロートシップの発着場としても機能する。
 が、地球からの来訪者にとって、それはあまりピンとくる物では無い。
「よ〜し、こんなもんだろう」

●マーカス
 とことこと、競技場の地下をセーラ・ティアンズ(eb4726)は小走りに歩いた。
「あれ〜? こっちだって聞いたんだけど‥‥?」
「待てい!」
 鋭く呼び止められ、横を見ると警護の兵が数名。
「こんな所で何をしている、小娘!?」
「それはこっちのセリフだよ! おじさん達こそ、こんな暗がりで何してるのさ!? 怪しいなぁ〜」
「何だと!?」
 すっとライトショートボウを肩から外すセーラ。わらわらと駆け寄る男達に、構えて見せた。
「気を付けろ! 子供に見えるがパラかも知れん!」
「成る程、子供に見えてもいっぱしの戦士かも知れんな!」
「子供子供言うなぁーっ!! 殺っちゃうぞ!!」
 本気で撃ち殺しそうになると、向こうの壁の一画が急に左右に開き、そこから光が差し込んだ。
「やめな!」
「あれ!?」
「んん!?」
「れれ!?」
「おお!?」
「な〜んだ、マーカスのおっちゃんじゃないか!? 久し振りー、レース名物考案の時以来?」
 ニパッと笑いながら、セーラはその狙いをマーカス・テクシの心臓に突きつけた。
「どっかで聞いた事があると思ったら、嬢ちゃんか。その構えてる物を、下げちゃくれまいか?」
「旦那、お知り合いで?」
「ん? まぁそんなもんか‥‥」
「てへへ、そんなもんっす〜☆ ていうか、相変わらず脂ぎってるねー♪」

 マーカスランドに幾つもある隠し部屋の一つに通されたセーラは、中の様子にちょっと驚いた。
「なんだか、みすぼらしいなぁ〜‥‥」
「仕方あるめぇ、こんな薄暗い地下に何を持って引きこもるってんだ?」
「何で隠れる様な真似してんのさ?」
「そりゃぁ〜、大人の世界は色々あんのさ。か〜っかっかっかっかっか」
 大笑いするマーカスと色々話をしたセーラは、すっかり時を過ごしてしまった。

●卵の国のプリシラ姫?
 当日。
 足早にサロンへと急ぐ。
 マーカスランドのサロンには、普段からここを愛用する貴族達が集まる様になっていた。
「あれ? 今のクウェルさんじゃ?」
 平民達の入場受付をしていたイコン・シュターライゼン(ea7891)は、怪訝そうな顔でそれを見送った。
 エプロン姿のクウェル・グッドウェザー(ea0447)は、それらしき人物の前に進み出た。
 お供の者を侍らせ、他の貴族達と談笑する若き貴婦人。貴婦人は唾広の帽子を被り、レース地の日除けで素顔を隠している。
「もしやあなたは‥‥いや、違う?」
 ハッと息をのみ、貴婦人の前で戸惑いを見せた。
「失礼、人違いをしてしまいました」
 が、貴婦人の身に付けているのは間違いなくカリメロ家の家紋。
「人違いでは無くてよ。クウェル卿」
「お知り合いで?」
「申し訳御座いません。こちらの殿方とお話がありますの。失礼致しますわ」
 今まで談笑していた貴族達にそう言うと、その貴婦人は立ち上がり、お供を伴いサッサと表のデッキへと歩き出す。慌てて後を追うクウェルを、さもおかしそうに笑う女。
「どういう事ですが?」
 女はクウェルの問いに答えず、マーカスランドの敷地を歩く。
 行き交う人々。散歩する老人。
 そして、競技場の裏手、資材置き場へと踏み入ると、人の姿も見られなくなった。

「訳を説明して戴けませんか? 何故、貴方が‥‥」
「しっ!」
 女がクウェルの口を制止する。と、風を切り何かが幾つも飛来する。
 それは女の身体に立て続けに突き立った。
「!?」
 目の前でぐらり、崩れ落ちる女。
「誰だ!?」
 すると物陰から、浅黒い肌の男達が幾人も姿を現した。
「去れ。さすれば貴様は見逃してくれようぞ」
「何者です!?」
「我々はその女に用があるのだ」
「くっ‥‥」
 腰に手をやるクウェルは、丸腰の自分に歯噛みする。
「子頭! こいつは、あの時の冒険者の一人ですぜ!」
「本当か?」
「き、貴様等、まさか!?」
 後退るクウェルは、連中の顔ぶれを凝視した。
「レイナードの手下か‥‥」
「ここで死ぬお前に、知る必要は無い‥‥」
 サッと子頭と呼ばれた男が、手を挙げる。

「ふふふふ‥‥」
 含み笑いを浮かべる男達。
「ふははははははははっ!」
「な、何!?」
 唐突に高笑いを始めるプリシラ姫?の供の者。
「ふは〜っはっはっはっはっはっはっは!!」
 ばっと己の衣服に手をかけ、帽子を投げ捨てると、その下からは派手な衣裳。そして、どこからともなく羽付き帽子を取り出し、スッと頭にかぶって見せた。
「正しきラブの使徒、ルイス・マリスカル、推参!」
 パチリとウィンク。
「ル、ルイス!? お前‥‥」
「ああ、その辺は任せて来た」
 驚くクウェル。普段と違う地味な衣裳が、目の前にあってそれと認識させなかったのだ。
 そしてどこからともなく別の笑い声が。
 見れば資材置き場のそこかしこに、それとは違う妙な姿をした連中が。
「ある時は麗しき未亡人、プリシラ・ニネア・カリメロ子爵!」
 ボンと煙をまくと例の貴婦人の姿が。
「またある時は、お付きの侍女!」
 ボンと煙が出て、メイド姿に。
「またある時は、魔法少女まじかる・みちる!」
 ぼぼん。
「またまたある時は‥‥まぁ以下略!」
 がくっとくるクウェル達。
「かくしてその実体は!?」
 ルイスが合いの手を入れる。
「愛と正義と真実の使徒!! ブラック××団とは我等の事よ!!」
「ええいっ!! ここで連中を皆殺しだ!!」
 吼える子頭。男達は抜刀、それぞれに襲い掛かった。

 派手な魔法合戦が繰り広げられる中、表では入場がどんどん進んでいく。
 射手は一箇所に集められ、登志樹がインフラビジョンで異常が無いかを調べている。
 ルクスとニルナが、商会の若者達を指揮し警備にあたり、リュウガは専用の入り口を警護し、エーガン王の到着を待つ。
「ふん‥‥何も仕掛けられてはいない様ね‥‥」
 競技に使われる人形を、改めて一体一体チェックして回るルエラ。
 表では雇われた吟遊詩人や、精霊魔法使いが派手な演奏や魔法で人々を魅了している。
 まるごとなにがしを着こんだ集団がパレードを行い、お祭騒ぎは最高潮だ。

「くっ!?」
 切りかかる男達を避けながらも殴りつけるクウェル。
 ルイスも愛用の帽子で、斬撃を幾度も払いのけ、どんとクウェルと背中を合わせた。
「な、何だ!?」
「ルイス、どうした!?」
 ぎょっとルイスが見やる方向、そこからぞろぞろと深編み笠に黒いマントの集団が雪崩れ込んだ。
 先頭の一人が、スッとその編み笠を持ち上げ、静かに口上を述べた。
「この度は、当チブール商会あの世行きツアーにご参加戴き誠に有難うさんです。てめぇら! バラバラに切り裂いて、カオスの穴に叩き込んでやるぜ、このカオスニアン野郎!!」
「ひゃっほ〜うっ!!」
 ばっと一斉に編み笠が宙を舞う。
 天に煌く白刃数多。誠血祭りとはこの事か。
 競技場裏手でも、また一つの祭が繰り広げられていた。

●事故多発
 横転四散したフロートチャリオットに、登場していた競技者がまるでぼろくずの様にそこかしこに倒れていた。
 押し寄せる観客達。
「競技場には入らないで下さい!」
 ルエラは手をいっぱいに広げて叫んだ。
「皆さん、落ち着いて下さい! 皆さん! 慌てると危険です!」
 ニルナは、目を見開いて競技席の縁へと殺到する貴人達に必死に呼びかける。
「あんたら! いい大人が恥ずかしくねぇ〜のかっ!!?」
 ルクスも叫んだ。叫びながら内心舌打ちをする。
(「ちっ! 俺が言えるこっちゃねぇぜ!」)
 そんな様子をセーラは何かをする者が居ないか、キッと周囲を睨んだ。
 いつでも矢を射掛けられる様、じっと‥‥

●祭の後に
 マーカスランドと街とを区切る門に差し掛かり、夕焼けが皆を赤々と照らしていた。
 祭の余韻を引きずる様に、浮ついた空気が支配している。
「いやぁ〜、やっぱり藤村先生の決めセリフは最高よね☆」
 あっけらかんと笑うピンクこと不動みちるに、ルイスとクウィルは呆れ顔だが、フッと微笑み手を差し伸べた。
「ありがとう。君達のお陰で、襲撃者を引き付ける事が出来た」
「全く、丸腰は無いでしょう? 全部、こっちにやらせる積もり!?」
 呆れた口調で、みちるは顔をしかめ、それからにこりと笑った。
「まぁいいわ。私達は、暫くローリーでお姫様のお手伝いをしているから、何かあったら連絡はそっちにしてね」
「全くだ。今回、たまたま用事でこちらに来ていて気付いたから良いものを‥‥俺は紅煉次(くれない・れんじ)だ」
「ふ‥‥まだ名乗っていなかったな。俺は岩清水激(いわしみず・げき)」
「おっと、大岩健悟(おおいわ・けんご)た〜い!」
「僕は風祭ジョーです。ヨロシクネ〜!」
 七人はがっちり握手を交わし、そこで別れた。
 次に、共に戦うとは限らない。
 それが冒険者の宿命なのだ‥‥。