第4回GCR みんな観戦しようよ☆ P

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月19日〜07月22日

リプレイ公開日:2006年07月26日

●オープニング

●第4回GCR開催ス!
 左に河川。ウィルの街門を出て直、城壁の如くそびえ立つ楕円型の競技場。そこを中心に二ヶ月ぶりのお祭騒ぎが、再び始まろうとしていた。

 街に繰り出した吟遊詩人達が戻って来ると、ダミーバガン前の広場はちょっとした音楽祭。
 フロートチャリオットの実物大の模型には、子供達があつまり、にわか騎士達が備え付けの木の棒をランスに見立てて振り回している。

 競技用のフロートチャリオットは、これまではスポンサーである貴族達が数台を共同購入し、使い回してきたのだが、この数ヶ月の間、トルク分国の売り出しているゴーレム機器の値が下がった為、各スポンサーが1台ずつ予約し、次回からはチーム毎にそれなりの改装が可能となるらしい。
 そんな立て看板を前に、人寄せパンダとして妙な髪形の天界人が、口をくっちゃくっちゃさせながら、不思議な金属の筒でちょっとした魔法を披露していた。真っ黒いサングラスで素顔はわからないが、分厚い唇で陽気に笑う。
 筒からプシューと変な香りの煙を吹き付けると、土産物の木のチャリオットが、見る間に色鮮やかに変身する。
「はぁ〜い、これで出来上がりネ〜♪ ハッハー!」
「わぁ〜☆」
 目をまんまるにして受け取る子供に、親は満足気に数枚の銅貨を払う。
 さらには追加料金で、好きなチーム名や好きな騎士様の名前やちまっとした似顔絵を描きこんでくれるから、苦笑いする親を尻目に子供達は大喜び。
 何しろ目の前に、それは色鮮やかな前回優勝チームであるブルーゲイルのブルーのチャリオットが、各選手ごとにずらっと並べてあるのだ。
 そうこうしていると、全身真っ青な怪人が現れ、それらをもの欲しそうに眺めていく。
「よし判った。これらを一揃えにこれでどうだ?」
 ぐっと片手を突き出すが、それを受ける方も負けてはいない。
「ハッハー! オメガ高いって申しやすが、そいつはウリモンちゃうねんな」
「いやいや、それならばこれでどうだ? 銅貨じゃないぞ。金貨でだ」
「イヤッハッハッハー! 後ろに子供が待ってるだろ? 行った行った。お土産屋はあちら。10個買って、いっちゃん後ろに並ぶ。ハッハー! そしたら、一個買える値段で、一個塗ってやるってサ」
 指を10本立てていた男は、くるりと真っ青なマントを翻し、土産物屋の人だかりへと飛び込んで行く。
 すれ違い、まるごとなーがやまるごとめりーさん、まるごとどらごんを着こんだ集団が、ぞろぞろと練り歩く。その後ろを、パステルカラーな魔法少女のローブを纏う、ラブリーなマジカルステッキを持った美少女集団が、くるくるとそのバトンを回し不思議な呪文を唱えながら、人々に夢や希望を振り撒いて行った。

 入場口には、今やデカデカとチーム名が、その周囲にペイントされている。真っ青なブルーゲイルの文字が一番でかい。それに赤でレッドスフィンクスや、黄色で月下の黒猫、水色でソードフィッシュ、緑でフォレストラビッツ、白と黒でゴートメンバーズ、紫でチームF、オレンジでライトニングナイツが放射状に描かれている。
 そこを裕福な平民達は、大人は銅貨を10枚、子供は銅貨を5枚握り締め、まるごとばがんを着こんだ係員の指示に従いながら、わいわい騒ぎながら入場していく。

 それとは対照的に貴族達は貴族用のサロンから、ゆったりと入場する。貴族は騎士位以上は金貨2枚。男爵位以上は金貨5枚だが、供を1名随伴する事が出来る。

 右へ向かうと案内板に、貴族用の観客席は、ゴールート地点のある第4直線、そして第4カーブ、第3カーブ、更には第3直線と記されている。この廊下を更に歩むと、ぐるりと一周出来る形だ。

 観客席への階段を登ると、ふわっと人々の熱気交じりの空気が頬を撫でる。
 天界風を謳った屋台に、今回もずらっと並んでいる。
―――――――――――――――――
【軽食】(金貨1枚)
・天界風お好み焼き
・天界風マーカスバーガー
・天界風サンドイッチ

【甘味】(金貨1枚)
・天界風パンケーキサンド
・天界風あんぱん
・天界風りんご飴
―――――――――――――――――
  今回はサイズを小さくして金貨1枚で1品なのだが、並んでいるのは貴族の侍女や侍従らしき身なりの者達。
 係員に入場章を見せ、平民用の人でぎっしり詰まった観客席を横目に、貴族用の観客席へ、ゆっくりと足を進めた。
 音合わせをしているのだろう。バラバラの楽の音が、人のざわめきと共に風に乗って流れていた。

●今回の参加者

 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1894 サヤ・シェルナーグ(13歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3542 サリュ・エーシア(23歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea8247 ショウゴ・クレナイ(33歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb4072 桜桃 真治(40歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4578 越野 春陽(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●サポート参加者

レイリー・ロンド(ea3982)/ メアリー・ブレシドバージン(ea8944

●リプレイ本文

●ゴール前
 ゴール前は、弓兵の一撃と、ダミーバガンの撃破を見ようとかなりの人気ぶり。
 その熱気は開会式以前から沸きに沸いていた。
「いやぁ〜、凄い熱気です‥‥」
 一人、その中段へと腰を降ろしたケンイチ・ヤマモト(ea0760)は、売子の少年に声をかけた。
「貸し座布団一枚に、その焼き串とワインを一杯を頼むよ」
「かしこまりました」
 銅のカップに串焼きを数本差したモノを受け取ると、少年は、別のカップに肩にかけた酒瓶からどぽどぽとこぎみ良い音を発てながら、赤々としたワインを注いで見せた。その爽やかな香りがケンイチの鼻腔をくすぐった。
「全部で銅貨50枚戴きます。座布団は只今お持ち致します」
「ああ‥‥」
 懐から銅貨を取り出そうとすると、たおやかな声が耳に心地良く響く。
「あら、私にもお願いね。蜂蜜酒がいいわ」
 近くに腰掛けた、妙齢のエルフの婦人がサンドイッチが入っているであろうバスケットをぽんと置き、持参したであろう華やいだ刺繍のクッションを敷いた。
「少しお待ち戴いて宜しいでしょうか? 一杯、銅貨10枚になります」
 にっこりと頷きカレン・シュタット(ea4426)は、ケンイチにも会釈を送り。
「あら? 楽器をお持ちですのね」
「はい、生業で楽士を営んでおります。宜しければ一曲、贈らせて戴きましょう。美しい方」
 ケンイチは商売っ気抜きで、リュートを奏でる。
「まぁ、どんな曲を戴けるのでしょう?」
 口元を両の掌を合わせて隠し、カレンはその青い瞳でケンイチを見つめた。
「では‥‥」
 少し考えたが、ケンイチは目の前のエルフの貴婦人に相応しい一曲を選び、そっとその繊細な指先で奏で始めた。

♪北の 果ての 白い大地に オーロラの火の燃え盛る
 大氷河の向こうには 氷の城ぞあると云う
 白き騎士あり 名はホルガー 知勇備わる勇者の名
 名にし 負わば 猛き怒りを 内に秘めたるものなれや

 青く 光る 両の眼(まなこ)に 黄金(こがね)の御髪(おぐし)映りたる
 はしばみ枝の冠の ゆかしき宝ありと云う
 天降りしか 名はカレン 愛さざる者無き乙女
 今も 後も 永久(とこしえ)までも 慕う者こそ健気なれ♪

 すると、周囲でわいわいと騒いでいた観客達も、その口を休め、この調べにしばし聞きほれた。

●屋台を巡り‥‥
「ゴーレムチャリオットレースって、どういうのかしら?」
 一人散策しながら観客席を目指すサリュ・エーシア(ea3542)。
 彼女はレースを見るのは今回が初めて。勿論、参加した事もない。
 これが見たい、固定の場所を応援する気持ちはない。
 ただ、参加者全員に頑張って貰いたい。そう願うだけ。
「あら、これ面白いわね。美味しそうな匂いもするし、迷っちゃうわ」
 天界『チキュウ』の食べ物やら木のチャリオット等の店を見ては一人大騒ぎをするだろう。
 本当は共に来たいと願っていた人はいる。けれども今回は一人。とことんまで楽しもうというのだ。
「こういうの見たら彼、なんていうかしら?」
 リンゴ飴を片手に嬉しそうに笑うサリュ。
 観客席につけば、レースの行方を見守るだろう。
 ‥‥結構大きな声で、どのチームにも声援をかけながら。

「わぁ‥‥屋台、いっぱいあるねっ」
「そうですね。でもあまりはしゃいで転んだりしないでくださいね?」
 サヤ・シェルナーグ(ea1894)が子供のようにはしゃいでいるとショウゴ・クレナイ(ea8247)がそう告げる。
 まるで子供と大人のような関係ではあるものの、本人達は楽しんでいる様子。
「それじゃ、僕は屋台で食べ物買って来るねっ!」
「懐に余裕もありますし、奢ります。僕ももう一つの天界にはとても興味がありますしね」
「え!? そんなの悪いよ、ショウゴさんっ! 自腹きりますから!」
「いえ、奢りますって」
「そんなの絶対ダメです!」
 そんなエンドレスな会話が10分程続き、結果は‥‥。
「何だか悪いなぁ、奢って貰っちゃって〜♪」
「い、いえ。いいんですよ? そ、それより‥‥もてますか?」
「大丈夫だよ〜♪」
 どうやら両手イッパイ。持てるだけ、しかも甘いものばかりを見繕ったものが持たれていた。
 流石のショウゴも苦笑を浮かべるしかなかったろう。
 更には観戦中でも食べる手を止めないサヤを見て、ショウゴはある意味感心したという。
 その食べっぷりに‥‥。

●天界人ボビー
「はっはーっ! 月下の黒猫ネ!」
「うん!」
 目の前に座るドレッドヘアーのちりちり頭な男が、その大きな掌に似合わぬ器用な動きで、シューっと不思議な管から土産物の木製のチャリオットに吹きかけると、見る間に三日月と黒猫のエンブレムが描き出されて行く。
「わぁ〜、凄いね魔法だね! ねっ、かーさん!」
「ディーネ、これはね。スプレー缶って言って、地球のアイテムなのよ。魔法じゃないの」
「へ〜」
 目を丸くして見つめるディーネ・ノート(ea1542)。その傍ら、少しお腹が目立ち始めた桜桃真治(eb4072)がにこにこと眺めていた。
 そして、ディーネに乾いたチャリオットを手渡すと、今度は真治の物に手を伸ばした。
「オウ! ユーはニッポンジンね!? ミーもニッポン、暫く居たよ!」
「へぇ〜そうなんだ。あ、あたしのは適当な色でいいからね」
「ラジャー♪ 懐かしいネ! マツドのコーコー、留学したね♪ 矢切のワタシ、近くにアタヨ! ニッポンジン好きネ。ニッポンジンガール、ベリーキュートネ♪」
 くっちゃくっちゃガムをかみ鳴らしながら、ボビーは驚く程、器用に塗り上げた。
「じゃぁ〜ね〜、バイバイボビー!」
「ハッハー! 王国華劇団もヨロシクネー!」
 
●入れてもらえず
「ええ!? 入れては戴けないのですか?」
「申し訳御座いません。関係者以外は立ち入り禁止とさせて戴いております」
 ププリン子爵らに挨拶をと想い、貴賓席へと立ち入ろうとした越野春陽(eb4578)は、ぎゅっと手の中の木のチャリオット人形、当然自分の似顔絵つき、を握り締めた。
「やだわ、一人で来るんじゃ無かった‥‥」
 誘おうと思っていた当のヘイレス殿は、当然の事ながらトルクへと舞い戻っていた。
 入場が許されてからだと、試合前に行われているであろう練習走行など見る事も出来ない上に、今回はやたら警備が厳しくて、顔を見に行く事も許されない。

「あら?」
 ふと第1直線の観客席を眺めると、視界の隅にどこかで見た様な人物を見かけた。
 第4直線の最上段からだと、斜め後ろから見る事になるが、それはどこかで見た様な‥‥
「ああ、レッドインパルス号の甲板で見かけた親子だわ」
 ポンと手を打つ春陽。二度目の優勝時に、凱旋すべく乗り込んだフロートシップの中での事。
 それはショア伯の一行。
 この中に、トルク分国で貴族と同等以上の扱いを受けている天界人、ゴーレム工房の工房長でありゴーレム機器の生みの親とも言うべき、オーブル・プロフィット卿の姿がある事を、春陽は知りようも無かった。
「んっと‥‥ま、いっか☆ 黒いグリフォンなんか侍らせちゃって、如何にも貴族で御座いって感じだもんね」
 ずかずかと乗り込み、談笑中の親子達に声をかけてみた。だって、一人じゃつまらないんだもの。
「失礼ですが、レッドインパルス号に乗られていた方ではありませんか?」
「おや? 貴方は、もしやレッドスフィンクスの方では?」
(「しめた! こっちの顔を覚えているみたい! やっぱり優勝はするものね〜☆」)
 その勢い、観戦の合間、用意しておいたゴーレム機器に関するあれこれを思いっきり語りこんでしまう春陽であった‥‥最後まで気付かずに‥‥

●ボビーにお任せ☆
 そうしたら、二つとも真っ青なブルーゲイルカラーに塗られてしまう事は言うまでも無い。
 真治はそれをためすがめす眺めては苦笑する。
「違う色にしてくれって、ボビーにお願いすれば良かったね、かーさん」
「ま、いいわ♪ これ、家に飾るんだ♪ 旦那も喜んでくれるかなあ♪」
 第3カーブ入り口付近の観客席に座り込んだ二人。
 早速目の前に買い込んだ品々を並べた。
「わぁ〜! 食べよう! どれも美味しそ〜♪」
「と、その前に‥‥」
「ん?」
 真治はそっと一つの包みを、ディーネの目の前に差し出した。ちょっとした気恥ずかしさに、頬が上気するのがわかった。
「かーさん、なあにこれ?」
「そういえばディーネ、誕生日かなり過ぎちゃったけど‥‥よかったら受け取って貰えたら嬉しいな」
 ふと浮かべる微笑を、ぽか〜んと見たディーネはそっとその包みを受け取り、布を払うとそこから如何にも手造りの、猫型とお洒落な木彫りを繋げたネックレスが。
「うわぁ〜! やったぁ〜っ!」
 パチンと指を鳴らすと、ディーネは飛び上がった。
 そして、そのネックレスを空にかざす。キラキラと陽光を受け、カラカラと乾いた音を発てた。
「ありがとう、かーさん! 私、大事にするね!」
 目をきらきらさせ、早速首に巻くディーネ。手早く位置を直し、ポンと胸を叩いた。
「どう? 似合ってる?」
「似合ってるよ〜! だって、私が作ったんだからな☆」
 にっかりする真治に、ディーナも胸元を強調する様にして目を細めた。
「あ〜ら、元が良いからって説も、あるんじゃないかな!?」
「あははは、あるある!」
「あ〜、本気にしてないな!」
「本気本気! 本気だから、早く良い人見つけて紹介してね☆」
「あいたたた〜、かーさん新婚さんだから言うなぁ〜♪」
 くすくすにっこりと微笑み合う二人。
「じゃ、食べようか! スパゲッティもあるのよ〜☆」
「わ〜、かーさん凄いや!」
 わきあいあいに、食事に取り掛かる二人。そうこうしていると、レースのオープニングセレモニーが始まるのであった。

●風‥‥気持ち良さそう‥‥
 そう呟き、歓声をあげたのもつかの間、この日のレースは途中から大波乱。
 中休みを挟んで、立て続けに3台がクラッシュし、観客席も騒然としていた。
 すると、唐突にZ卿のアナウンスが始まった。
「え〜、只今のところですが、事故を起した方々は、教会のクレリックによる魔法治療が行われておりまして、全員、命に別状は御座いませんので、ご安心の程を願います。全員、命に別状は御座いませんので、ご安心の程を願います。なお、緊急時の際は、係員の指導に従い騎士と貴婦人に相応しい行動をお願い致します」

「ここを選んでよかった‥‥」
 ケンイチはふと呟いていた。
「どうしてですの?」
 傍らに座るカレンは、目を細めてその横顔を眺めた。
「あの様な恐ろしい音を、間近で聞いていたらと思うと、自分の中で何か大切なものが壊れてしまう様な、そんな気がします」
「そうですね‥‥勇壮な騎士の殿方達が、あの様に空を舞うとは‥‥」
 ほうっとため息をつくカレンは、目を閉じる。すると、脳裏に手足をばたつかせ、地面に叩き付けられる人々の姿が浮かんでくる。
「戦場ならと考えると、恐ろしいものですね‥‥」
「ええ、戦場の歌は、もう歌えないのかも知れません‥‥」
 ケンイチが寂しそうにリュートを抱きかかえる。エルフのカレンは、そっとその瞳を閉じ、憂いに満ちた面差しを浮かべた。

「う〜ん」
 唸る春陽。
「力とは‥‥」
 春陽は、見慣れぬ男の物言いに、ふと耳を傾けた。
「力とは、振るう者次第で薬にも毒にもなる。その事に気付いている者が、どれだけこの地に居るのか‥‥」
「後悔してらっしゃる?」
 ショア伯の娘、ディアーナ嬢が、その青い瞳で男の表情を探る様に眺めている。春陽はいまいち会話の流れがつかめず首を捻った。
「それを想うという事は、貴方の心が正に貴族のそれである事に違いない」
「‥‥我が主‥‥」
 傍らに控える黒衣の女騎士が、ショア伯の述べた言葉を胸に刻む。
「またお会い出来る時を楽しみにしております」
 男はすっくと立ち上がると、一礼。
「では、お父様。私達は失礼致しますわ」
 そう言って侍女のメグを引きつれ、ディアーナは退席してしまった。
「やれやれ、お忙しい方だ」
「あの方は、どちらの方なのです?」
 春陽がショア伯へ訊ねると、伯は少し怪訝そうな顔をした。
「はて? トルク家の方がトルク家の方をご存じない?」
「あ‥‥私、ルーケイ伯の与力男爵‥‥越野春陽と申します」
「ああ、成る程‥‥そういう事でしたか。ならば、大変でしょう? 先日、会議を開かれたとか?」
 微妙に話題が擦りかえられて行く春陽だった。

●総てが終り
 そして帰途に着く人々。
 子は親に、親は子に、興奮したレース展開についてあれこれ述べ、笑顔で歩み去る。
 手をつなぎ、歩む二人。
 真治とディーネは、冒険者街の途中まで、握った手を大きくふりふり歩いて帰った。
 夕闇が街中を朱に染めて行く。
 それは、血よりも淡く、火よりも優しかった。
「いつか乗ってみたいな、風‥‥気持ちいいだろうな。族時代思い出すよ」
 カラカラ笑う真治。
「かーさん‥‥」
「ん?」
 問い返す真治に、ディーネはパッと手を離して向き直った。
「今日はありがとう☆ と〜っても楽しかったよ♪」
 思わず指をパチンと鳴らし、くるっと一回りしてしまうディーネ。
「ディーネ、今日はつきあってくれてありがとな。また一緒に遊ぼうな♪」
 満面の笑顔で、ぽんとディーネの頭に手を置く真治。さらさらとした茶色の髪が、今はまるで赤毛だ。
「うん! 私の方こそ、ありがと♪ またね」
「うん! まったね〜っ!!」
 パッと遠ざかって行くディーネの影を見送る真治。ちゃらちゃらと、贈ったネックレスがディーネの胸元に踊っている。
 街を流れ行く人々の喧騒。
「今生きてるって幸せな事だな‥‥今日の事、全部聴こえてたか?」
 微笑み、お腹を撫でる真治。クスリと笑う気配。はっと振り向くと、そこには‥‥
「ただいま☆ いつから、そこにいたんだよ♪」
 はにかみながら、真治もゆっくりと歩み出す。ちょっと前なら駆け出して、想いっきり跳びついていた所だが、今は一人だけの身体ではない。そっと、そのタバコ臭い胸板に頬を寄せ、満たされた笑みをこぼした。
「ただいま、虎徹‥‥」