●リプレイ本文
●サッカーとは
キース・ファラン(eb4324)は検討委員会の前にエーロン王子に面会を申し出た。王子のともには、すでにロッド・グロウリングがやってきていた。キースは王子の気が塞いでいる原因となった依頼を受けているし、ロッドの依頼も受け続けている。両方に面識があったため、問題なく事前面会できた。
「サザン卿を死に至らせてしまったことを深くおわびします」
キースは詫びを言ったが。
「詫びる必要はない。卿は依頼を受けてそれを実行しただけにすぎない。サザン卿も覚悟していたことだろう。もし責任を感じるのなら、サザン卿に代わる人材になってくれ」
「殿下、キースはすでに私のところで力を認めています。優秀な人材を引き抜かれては困ります」
苦笑ぎみにロッド・グロウリングが言い返す。
「フォロとトルクが仲違いしなければ問題ないはずだ」
「だとよろしいのですが、噂ではトルクとフォロを仲違いさせるように動いている者がいるとか」
ロッドは、実名をあげずに噂として片づけた。
「ルーケイもうまくいきすぎても困るし、失敗しても困る。ルーケイ伯も所詮は代官、王から勝手を許されているとはいえ」
「王から勝手を許されているゆえ、殿下とて口出しできぬと」
「下手に助言もできぬ」
トルクとフォロを仲違いさせようとする人物が、助言を王命軽視として告発することさえありえる。
「やっかいな問題は別の機会にして、まずはサッカーの話です」
「ところで、サッカーとはどういうものなのだ?」
「篠原美加(eb4179)とい天界人が、サッカーボールを持っていて、こちらにはないスポーツという概念。同じ数の選手をフィールドで戦わせるというのは、騎士道にも通じます。天界人は騎士道を理解できない者たちも多く、彼らの知っているものを使って騎士道を広めていくのも悪いことではないかと」
「それゆえ、ルールづくりも考えさせるわけだな。彼らは現状を押しつけられていると思っているわけだ」
「サッカーとは天界では人気のあるもので、世界大会が開催されるものです。基本的には手は使わず、足のみでボールを扱い。相手のゴールと呼ばれる場所にボールを入れるものです。ゴールを守るキーパーのみはゴール周辺では手の使用が認められます。細かいルールや反則もあるそうですが。それらについても冒険者たちに意見をいわせて、検討させましょう」
「ゴーレムはトルクで用意し、整備もトルクで行う。ということで良いのだな」
「ジーザム陛下は、専用のゴーレムニストと整備用の工房施設を開催地に準備してくださるということです」
「それは気前の良いことだ」
ゴーレムの生産同様、ゴーレムニストの養成もトルクが独占している。短時間でゴーレムを完全稼働させるには、専属のゴーレムニストが必要となってくる。1試合12体となれば、12人のゴーレムニストを派遣するということだろう。
●会議
「ルールは絶対に必要ですが、ルールが有ればそれをくぐり抜ける行為を誘発します。そのような行為を減らすためには、W杯が遊びでなく名誉ある戦いであることにする必要があると思うのです。故に私は、Wカップに騎士の馬上試合に準ずる地位を公的に与えることを提案します」
山田リリア(eb4239)が、最初に発言した。
「むろんだ。そのために担ぎだしたのだろう」
「左様です」
エーロンは面白そうに言って、ロッドも形式上うやうやしく応じる。
「えと、ゴーレムって基本的には戦争の道具ですし、安全に関してはきちんと気を使わなければいけないと思います」
辰木日向(eb4078)は危険性について指摘する。ゴーレムがボールを蹴るということに関しては、相応に危険があった。狙ったところに飛ぶものかどうか。
「広すぎても白けるし狭すぎても目まぐるしいし、予備試合を行なってゲームが盛り上がる最適の広さを割り出したいとこだね。使えそうな試合場の目星も付けておきたいな。GCR会場なら十分だと思うんだけど。殿下に許可を貰えないかな?」
エルシード・カペアドール(eb4395)はフィールドの大きさについての意見を述べた。GCR会場では整備状態が異なる。
「実際にバガンを用いてボールをどの程度コントロールしながら蹴ることができるか試してみよう」
ゴーレムの動きにしても、ボールを蹴った時の危険性にしても実際にどの程度かわからなければ、対策の立てようもない。
「ボールだけど」
天界では外側が革で内側に空気を入れて膨らませる。篠原が自分のサッカーボールで説明する。しかし、アトランティスにはボールの中に空気を閉じ込めておく技術も材料もない。
「中に空気が入っているから、はずむんだよ」
「そうなのか」
エーロン王子も興味深げに見ていた。
「ではどのようなボールにするつもりなのだ?」
「それは」
幾人かがそれぞれのボールを提案した。
物輪試(eb4163)は木を切り出して削って磨いて、約50〜60cm球にし、弾力性を持たせる為に、皮を被せるというもの。
篠原は、木玉を帆船の帆のような厚い生地で包んだ物。
エルシードの案は物輪とほぼ同じ。使用木材を衝撃に強い丈夫なものにして、丈夫な皮で覆った物。
「ではウィルにいる職人に協力するように指示を出す。そこで具体的な指示を出してつくらせろ」
王子の命令となれば、協力しない職人はいないだろう。球状に加工することは今までなかっただろうが、加工技術までない訳ではない。
「出場人数ですが、1チームにつき、試合に出る選手6名と、控え4名の10名を提案します」
市川敬輔(eb4271)はボールのことが済んだようなので、次の提案に移った。
「理由としては、一番消耗するのがフォワードになる筈なので、基本的には前後半で入れ替えた方が良いと思われる。それに1試合につき全選手を使う事を義務付けてもいいかもしれない」
「しかし、全員出場を義務づけると、10名チームでないと不戦敗になるんじゃないかな?」
篠原が早速突っ込む。
「義務にする必要はないだろう」
「消耗するのは同じだ」
ゴーレムで動くのだから、自分の足で走るような消耗はないが、稼働時間的な問題はある。
「どの程度動けるかも試してみよう。試合中に全員が動かなくなっては情けないだろう」
「とすると、試合時間もゴーレムの稼働時間に左右されますね」
物輪とエルシードはそれぞれ試合時間もどの程度になるか考えていた。フラガ・ラック(eb4532)は前半30分、休憩10分、後半30分というものを案としてあげていた。1時間連続は大変だろうという考えからだ。
「あまり短すぎても面白くなかろう」
馬上試合ならば出場者が多ければ、全体の時間も長くなるが、ゴーレムを使用してのサッカーが1試合分のゴーレムしかない。試合後整備の時間を考えると、2試合は難しい。
「反則についてですが」
キースは試合を行うゴーレムそのものが破損することの危険を言った。
「故意に破損させた者はゴーレムの修理代金を請求すればよかろう」
エーロンは、そのリスクを試合に参加する者に求めた。
「故意かどうかは」
「試合をする以上は判定役がいる。その者がそう判定すればこと足りる」
「天界でも審判の判定は絶対です」
辰木は、王子を支持するように言った。
「審判ですが、公正さは言うまでもないが、いざと云う時に実力で試合をストップ出来る事が好ましい」
審判の裁定不満の乱闘とかだろう。
「それは審判が行う必要はない。そのような不名誉なことを行った者は大会主催者を敵に回すといことだ」
「殿下が言うと冗談で終わりそうにないな」
市川がつぶやく。
「冗談では終わらないさ」
それに対して、エーロン王子の性格を多少なりとも知っているキースが、ぽつりと言った。
「馬上試合に準じる扱いならば、王家の名において不名誉刑を与える」
鎧騎士の3人は思わずぞっとした。不名誉刑を与えられた騎士は、騎士としての名誉回復は非常に難しい。その後の行動すべてが悪いように解釈され、汚名を挽回し続けることになる。天界からやってきた冒険者にとっても同じ。
「それを行ったチーム全員が同じ扱うを受けるものとする」
物輪の提案した反則をしたら警告、警告2回で(不名誉な)退場という案は採用される。ただし、故意の場合には2回分と同じ扱いとする。不名誉退場した場合には代わりの選手は入れないという追加があった。チーム全体がそのリスクを負うということだ。
「たとえば、故意の相手のゴーレムを破損させるようなことを行った場合には、いきなり不名誉退場上、その後は、5体で試合続行となる」
さらに稼働ゴーレムが4体を下回った場合には、試合続行不可能という扱いにする。破損させられた側には予備のゴーレムを回す用意もする。
「では実際にゴーレムを使っての実験を6日後に行う」
●ボールの準備と人の準備
エーロン王子の命により、ウィルの木工職人にところに球状の木を作るように依頼が出された。それを提案した冒険者が指示を与えに行く。
「人の大きさでボールがこれぐらいだから」
篠原はゴーレムとの対比を考えながら、いくつかの大きさを指定していく。
木工職人のあとは、布や革を扱うところに発注する。球状の物の外側は物がないと型が作れないので、木の完成待ちになるが、生地の選定は行っておく。
「毛織物では強度的に問題がありそうね」
布の選択肢は最初に、はずれた。革か皮か。濡れることを考えると革だろうか。
「木の玉にソフトレザーアーマーを着せるようなものか」
ならばと、革と木の間に弾力性のある毛織物を入れてみればどうか。
「その線でいきましょう」
辰木が決めた。
6日後という王子の意見はゴーレムの準備のこともあったのだろうが。ボールの準備もそれぐらい必要だった。それ以外にもゴールポストは後回しにしてもネットはあった方が良い。
しかしそれ以外に重要なこともあった。
「生身でサッカーできなきゃ、ゴーレム乗ったってできないでしょう。パスだすから、正確にパスで戻して」
サッカーボールの持ち主篠原が、鎧騎士と他の天界人を誘ってサッカーの基本的な動きの練習を始めた。篠原自身それほど熟達しているわけではないから、とりあえずドリブルができて、シュートができるという程度。
「サッカーにもそれなりの技はあるのだろう?」
鎧騎士たちも単純な動きだけで人気があるとは考えなかった。
「ボールに回転を加えてカーブさせるとか、踵で蹴りあげて相手の頭上を超えさせるとか。でもまずは、基本ができないと」
シュートするところで空振りしても反則にはならないだろうが、ちょっと恥ずかしい。
「実験の前に、最低限の動きはマスターしようね」
あまりに無様な動きでは、その場で開催中止されかねない。
●実験当日
実験のため、郊外の一角が整地されていた。バガンが1体、ゴーレムニストがとりついて調整を行っていた。左右の足の周囲には追加装甲のようなものが装備されている。
通常のサッカーボールの大きさから、その4倍ぐらいまでのボールが用意されていた。サッカーボール同様の縫い方になっている。
「では早速初めてもらおう」
エルシードが最初に指名されてゴーレムに乗り込む。追加装甲のためか、多少動きが違う。
「練習した成果を」
並べられたボールを右足で軽くけっていく。蹴ったときのフォードバックが追加装甲のためにかなりよわい。
「5番目あたりかな」
ボールの大きさはある程度予想できたものだった。
次は練習したドリブルを行おうとしたが感覚がつかみにくい。ゴーレムを走らせながらというとかなり難しい。
「ゴーレムでサッカーとは大胆かつ豪気だ」
物輪はサッカーボールをドリブルするゴーレムを見て言った。
「酔狂って言うか、単に暇なだけなのか」
市川は切り返す。狂王子が頭だからな。
「戦場ではもっと足場の悪いところでもゴーレムで走ることになる」
「ボールを捌きながらというのも、難しくもないようにしなければ」
ゴーレム技能を持つ全員が次々に試していったが、口では言えても実際には難しい。しかし追加装甲を外して行ったら、多少はコントロールが良くなった。
ボールの飛距離も検査された。ただし、技能が上がれば飛距離も伸びるだろう。
「センターラインから普通に蹴って直接ゴールが狙えるようじゃ面白みがないよ」
ボールがバウンドしにくいため、一度着地してしまうとそれほどでもない。
観客席は緩衝地帯を設けることで安全が確保できる。
●ルール的には
フィールドは縦200m×横100m、センターサークル半径15mの円、ゴールエリア両ゴールポストの内側から7mの所に直角に7mの線を引きその両端をゴールラインと水平に結んでできた四角い範囲。ペナルティエリア、両ゴールポストの内側から20mの所に直角に20mの線を引きその両端をゴールラインと水平に結んでできた四角い範囲。ゴールキーパーは、このエリア内(自陣)でのみ手でボールを扱うことができる。また、ペナルティキックの際にはキッカーとキーパー以外はこのエリアの外に出る。ゴールキーパーはこのエリアの中ならボールを持ったまま自由に歩ける。ただしボールを持てる時間は10秒間だけ。などのルールが決められていく。
「試合時間だが、前半45分、後半45分の天界のルールをそのまま採用する」
ゴーレム搭乗者の消耗をいかに抑えるかも、試合の要素にしたいという意向だ。基本的に試合中はゴーレムは稼働状態にあるが、常に全力疾走状態というわけではない。
違反に関するルールは、天界のルールを準用する。
「ここからが最後の問題だが」
試合に参加するチーム数だ。山田の提案では5チームだが。
「できれば8チーム参加の方が良い。しかしそれが無理なら6チームだ」
ウィルの6つの分国がそれぞれチームの後ろ楯になる。
「8チームなら4チームでの予選リーグで上位2チームで決勝トーナメント。6チームなら3チームでの予選リーグで上位2チームで決勝トーナメント。試合後の選手のトレードも可としてはどうだ?」
「つまり優秀な選手を揃えた方が圧倒的に有利」
審判は市川の提案したゴーレムグライダーに搭乗して行うことが採用された。
●疫病対策
検討委員会も終わった後エーロン王子を山田が引き止めた。
「実は、倫理をなくした地球の医者とある程度の資金が揃えば、人為的に疫病を大流行させることができます。万が一の疫病流行に備え、地球医学をウィル人に学ばせる学校をつくっては如何でしょうか? 万が一のときに殿下の配下に多数の医者がいれば、事態の収拾とその後の場面で殿下が主導的役割を果たせるのではないでしょうか?」
「興味深い提案だ。今ウィルにいる医者どもがどう考えるか、その折り合いが問題になろう。具体的にどのような物でどの程度資金がいるものなのか詳細を出してくれ。それに責任者も」