狩りに行こう〜エーロン王子の気晴し〜
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■ショートシナリオ
担当:マレーア2
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:10人
サポート参加人数:11人
冒険期間:07月02日〜07月09日
リプレイ公開日:2006年07月09日
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●オープニング
「ルーカス」
「は」
エーロン王子はこのところ多少機嫌が良くなっていた。サザン卿を失ってから塞いでいたが、先日きた冒険者たちよって、改善された。これでW(ウィル)カップが開催されれば、もっと機嫌も良くなるだろう。
「本格的な夏になる前に、うちのろくでなしどもを鍛える狩りを行いたい」
「いくらなんでも『ろくでなし』はいいすぎでしょう」
ルーカスはエーロンよりも年上だが、控えめで忠実。まじめ一筋。
「いや、足りんぐらいだ。そこで、セレ領に近い狩場を使いたい」
「ヴァンパですね。あそこは確か相続問題で揉めていましたが」
「この前、リド・レイヴァンに相続させろと言いつけた。まだごたごたするようなら、相応の覚悟をするがいい」
(「相変わらず強引なお方だ。頼まれもしない相続問題に口を出していたなんて」)
ルーカスは、思わずため息をつく。
「冒険者を雇って連れて行こう。怪我をした時にはクレリックや神聖騎士がいると便利だからな」
「クレリックなら冒険者を雇わずとも、教会に命じれば良いでしょう。それに殿下自身オーラリカバーが使えるでしょう」
下手に冒険者を呼びたくないようにルーカスは、不要な理由をあげた。
「それじゃ面白くないだろう」
「わ、わかりました。手配はしておきます」
そういってエーロン王子のお抱え騎士ルーカス・フェローは、退出した。
「これであやつらがくれば、ルーカスのあわてた姿が見られる。それはそれとして」
ヴァンパ周辺には、いろいろ面白い伝説があるらしい。
「狩り手伝いですか?」
「狩りとなると、レンジャーは必須。それに狩りの獲物を追い出す。勢子の役もやっていただかなくれは」
「勢子ですか。ならば熟練した冒険者でなくても大丈夫ですね」
「危険なモンスターは事前に始末しておいてくれ。あくまでもエーロン王子に怪我があってはならない。それと」
「は? まだ何か」
「冒険者の中には、いろいろなペットを所持している者がいると聞く。くれぐれも狩りの獲物と間違われないようにしてほしい」
それにロック鳥やグリフィンなどが徘徊していえは普通の獲物も出て来ない。
●リプレイ本文
●狩りのお供たち
「王子、冒険者たちも集まりました。出発の準備整いましてございます」
エーロン王子の一行は、狩り(といっても実質は訓練を兼ねている)に出発した。集合時間は早く。川霧がウィルの城門を湿りけをもたらせるまだ朝も空けぬ時刻。いくら酔狂な王子といえども、その前で大あくびなどしたら、酔狂すぎるだけに何をやらされるかわかったものではない。
「エーロン殿下よりお声をかけていただき感謝を。ルーカス卿もお元気そうで何よりじゃ」
ヴェガ・キュアノス(ea7463)は、この一行を差配するルーカスがエーロンの元に行った時を見計らって声をかけた。
「げ!」
ルーカスの顔が、一瞬にして驚愕に崩れる。
ヴェガが近づく前にもエーロン王子のもとには、スニア・ロランド(ea5929)とアリア・アル・アールヴ(eb4304)がいた。二人ともエーロン王子のしもべという立場であった。アリアについては、微妙な立場にある。いまはまだ大丈夫だ。ルーケイのことについては、エーガン王から勝手を許されたルーケイ伯。許可を得るにしてもエーロンが出すわけではないのだが、他から横やりを入れさせないように庇うつもりはある。ただし、よほど失敗しなければ。
「殿下のお傍に伺候するのは初。私はトルク家が家臣故直接お仕えはしませんが、ウィルの将来を担う方を知る大事な機会となりましょう」
そこにエリーシャ・メロウ(eb4333)も片膝をついて、言上する。
「神聖騎士のリュウガ・ダグラスと申します。このたびの狩りのお供として同行いたしますので、よろしくお願いします」
リュウガ・ダグラス(ea2578)も割り込むように、エーロン王子に近づく。他の冒険者たちも初見参の者は緊張しつつ、性格によってはいつもどおりに王子に挨拶していく。エーガン王の第一王子であり、推定王位継承権者である。その性格が、どのようなものであるか知りたいところだろう。巷に流布する悪評もあることであるし。
「よし、騎乗せよ」
王子の号令で、王子の騎士たちが騎乗する。しかし、レイリー・ロンド(ea3982)、イフェリア・エルトランス(ea5592)、スニア、レイエス・サーク(eb1811)は馬を連れてきていない。シルバー・ストーム(ea3651)は2頭馬を連れてきていたが、1頭は明らかに、満載されたスクロールで人が乗れるほどの場所が空いていない。
「馬を連れてきていない冒険者たちには、替えの馬を貸してやれ」
予備の馬をそれぞれ1頭くらいは用意してあったので、それを4人が借りて乗ることになった。
「ルーカス、ちょっといいか?」
先頭で導くルーカスにどうにか馬を近づけていく毛利鷹嗣(eb4844)。
「なんだ。珍しいな。微妙にサンの国の者に似ている天界人か」
ジャパン出身の鷹嗣は、そのように見られているようだ。
「サン?」
「サンソード発祥の地。詳しくは知らない。トルクのエルム・クリークあたりなら詳しいだろうが」
「ところでヴァンパという土地について、相続問題について、リド・レイヴァンという人物について、リド・レイヴァンと相続で争っていた相手について、教えてもらいたいことがいっぱいある」
「わかった。今夜落ち着ける場所で、冒険者全員を集めて話してやる」
●遺産相続問題
ヴァンパまでの間に1泊する。路程上で王子一行をもてなせる程度の収容能力となると、ある程度限られてくる。とはいえ、あまり縁遠いところでは妙なことにもなりかねないし、王子を歓待して印象を良くしたいと思う家もある。
「モン家の分領の館に、王子の宿泊を伝えてあります」
「ならば安心眠れよう」
その視線は、王子お付きの者たちに向けられていた。彼らも王子との関係を良くしたくて派遣された者たちに。
「予定よりも早く着きそうです」
モン家の分領では、本領より派遣されている代官が王子一行の宿泊を準備万端に整えていた。
「流石モン家、食事もいいものが出ていた」
冒険者も王子の一行に数えられて、食事が出された。そして冒険者10人を集めて、ルーカスがヴァンパの相続の話を始めた。
「リドが相続できた領地は、代々王家の狩場を管理する役目を与えられていた。そのため、獲物が繁殖しやすいように環境を整える役目があった。レズナー王の時代にも大規模な狩りが行われている」
その反面軍事的な奉仕は少なく、豊かな領地といえた。別にリドがエーロンと深い関係があったというわけではない。エーロンもリドも同じ時期に騎士学校で学んだため、面識がなかったことはなかろうが。
「幾人かは知っていると思うが、殿下の酔狂だろう」
とはいえ、それで領地を相続できなかった者がでたわけであるから、恨みに思わないわけもない。
「相手がエーロン王子では、相続問題に口を出すなと面と向かってはいえない」
シルバーがぼそりと言った。
「思っていても、口には出せないだろう」
鷹嗣も同意する。
「その恨みの方向が、リド卿に向かうか。我等が狂王子に向かうか、というところかしら?」
スニアがちょっと楽しそうにつぶやく。
「じゃが、ここを狩場に選んだのはルーカス卿じゃろう」
ヴェガが肝心なことを言った。ルーカスが別の場所の方がいいと入れ知恵すれば回避できたはずだ。
「冒険者を10人も単純な勢子役をさせるとお思いか? 勢子役にはヴァンパの領民も動員するように命じてある。王子の護衛はもちろんだが、殿下の意向に逆らうものを一掃する」
「過激じゃのう。さすがルー‥‥」
思わずに口にでてしまったが、ルーカスに睨まれた。
「例の件については神に誓い口外するつもりはないのじゃ、安心するが良かろう」
ヴェガは笑いながら、そう続けた。
「例の件って」
レイリーの頭の横で、パートナーのシャンがレイリーに尋ねる。もちろんレイリーは知るはずもない。きっと重大なことだろう。
「狩りにはリド卿も参加するのか?」
リュウガが尋ねた。
「間違いなく」
「腕の方は?」
「相当なものだ。それだけに、襲ってきたらそれ以上のものを準備してきたということだろう」
実際リド卿を襲った刺客は今までに幾人かいるというが、すべて撃退しているという。
「倒せないまでも、相手の実力は調べられる」
●ヴァンパの伝説
翌日、ヴァンパに到着した一行は翌日からの狩りに備えて準備に入る。
勢子役を行うシルバー、イフェリア、レイエス、鷹嗣の4人はリド卿の領民で狩場に詳しい者(イフェリアは領民に情報提供料を払って案内を頼んでいた)に案内されて、狩場を実際に見て回った。
「ここからだとシーハリオンが間近にみえるのね」
スニアはリュウガととにもヴァンパの村を回って噂や周辺の伝説について聞いて回っていた。もちろん、この村を相続しようとしていた者たちのことも。
「シーハリオンの丘の周辺の森を他の地域ではルナーティアラフォレストと呼んでいるが、このあたりではシルヴァンフォレストと呼んでいる。シルヴァンフォレストが輝くとき異変が起きると言われている。そして、今のご領主様が来る早々に森が輝いた。ご領主様はその問題で今は頭がいたいらしい」
そして近々冒険者ギルドに依頼をするらしいという。
「そういえば、誰かが森で人影を見たとか言っていた」
「もしかしたら、それが?」
森の下見に行った4人は、森の中の状態を確認していた。
「狩場にしては良く整備されている」
見た目こそ人手がかかっていないように見えるが、レンジャーの目からみると動物の生態を熟知している人が管理しているのがわかる。
「先祖代々、狩場を管理している村の人たちというのも頷ける」
ただし、幾つかの場所に不自然なものがあった。
「最近誰か森に入った人がいるのか?」
「ここの領民なら、こんな痕跡を残さずに動物の状態を探ることはできるだろう」
たぶん、何者かが森に潜んでいるのだろう。
「王子殿下には我が館においでいただき‥‥・」
リドが、エーロンが休息をとっている部屋に挨拶にきた。
「堅苦しいのはいい。それよりも」
「もし殿下が夜伽の相手がほしいのであれば用意させますが」
と言い出して、部屋に一緒にいたエリーシャに視線を向ける。
「必要ありませんでしたか」
「え?」
エリーシャは誤解されたと思った。アリアやヴェガも同じ部屋にいたが、対象となると。
「では、晩餐の時に」
「どうやら、誤解したようだ」
エーロンが面白そうに言った。
「そうですね」
「誤解ではなく、事実にしてやっても良いぞ」
「‥‥」
「まぁ今日のところはリドをからかうだけにしておこう。晩餐には女性として正装していけ」
「はい(それなら)」
晩餐は何事もなく、リドは完全に誤解したまま終了した。明日は夜明けから狩りが始まる。勢子役の者たちはすでに調べ上げた危険な場所についての情報を交換に、獲物はもちろん、二歩足に襲撃者についても備えることにした。
エーロン王子の周囲にはリドとその家臣が2名。下働きに駆り出される領民が10名くらい。冒険者ではリュウガ、レイリー、スニア、ヴェガ、アリアそしてエリーシャが近くで待機している。ルーカスは自分の鷹で周囲を探りつつ、ろくでなしどもを統率するようになる。獲物が出れば、移動する。護衛は、急な移動にも備えていなければならない。
「森に入っている者は痕跡から考えるなら、複数。しかも」
「かなり多い」
「もっとも、暗殺目的なら本命は一人」
「撃退ではなく、始末か捕縛」
森の下調べに入った4人は次々に発言した。
●狩り日より
夜明けから始まった狩りは、勢子たちの活躍を待つ状態にあった。
「勢子たちが獲物をこちらの追い込んでくる。それを仕留める。簡単にいえばそうですが」
リドがエーロンにこの地で産するワインを運んできた。
「あまり大きすぎないのを選ぶように命じてあります」
「我が騎士たちよ。最初の獲物を仕留めた者には褒美をとらせる」
エーロンはろくでなしどもをけしかける。
「右の方向から熊が来ます」
ルーカスが目敏く見つけた。エーロンは矢をつがえたが、すでに最初の獲物を狙う数本の矢が放たれていた。しかし、1本のまぐれ当たりもない。熊は矢に驚いて立ち上がる。
「駆け引きなどは得意なのに、1、2名くらい狩りの上手な者を派遣すれば良かろうに」
エーロンが矢を放つと、熊の心臓に命中する。
「いえ、やつらなりの配慮でしょう。手負いの熊は危険ですし、矢に驚けば立ち上がります。4つ足のままでは心臓は狙えません」
リドは、エーロンにそう説明した。
「冒険者がこれだけいれば、手負いでも問題ない。むしろ、そのような状態でどう動くか見ておきたい」
「それはそれは、差し出がましいことを」
「いや、しかし今日はないようだな」
「そのようで」
エーロンの仕留めた熊はその場で解体され、その後仕留めた小物などと一緒に料理されて、食事に出される。レイリーは、天界の使い捨てパック入りケチャップを調味料として使った。
「天界の調味料か、良いとも悪いとも」
「色が血のようだ」
あまり好評とは言えないが、人数が多いため全員に回ったら使い切ってしまった。
翌日はさらなる大物を求めて狩りが行われた。
「魔獣の方が、訓練にはなろう」
「それは少々危険では」
リドもこのあたりには魔獣がいることが知っている。
「冒険者街には、野良魔獣が出没していたくらいだ」
「ではそのように」
勢子たちは慣れたもので、魔獣を追い出せと言われればそのまま実行する。
「すごいな。ここの領民たち」
勢子役で一緒に参加していたレイエスは、勢子の慣れた様子に感心する。
「仕留めるのとは、違うからだ」
そのうち、ロック鳥が飛び出してきた。
「あんなものまでいるのか!」
●ロック鳥
追い立てられたロック鳥は、高度をとるなり、目標になりそうな人間を探して攻撃に移った。人間にしては見事な隠れようだが、ロック鳥の目にはよく見える。腹立ち紛れに固まっていた者たちを血祭りにあげて、別の獲物を探す。
「次はロック鳥か。ここの狩場は獲物が多彩だ」
エーロンは矢をつがえる。急降下態勢に入ったロック鳥の左翼の付け根に矢が命中する。落下した獲物に、ヴェガが近づく。
「因果なものじゃ」
ヴェガは、獲物となったロック鳥が以前冒険者街でつかまえたロック鳥であるのに気づいた。しかも自分以外の血で染まっているのは、量からみて人を襲ったに違いない。王子の供まわりが、急所に槍を突きたてて仕留める。
「襲われたのは、領民ではありませんでした」
多分、暗殺しようとしていた一団だろう。持ち物から相手の正体もしれた。ロック鳥の手柄ではあるが、初めて人を襲ったというわけでもなかろう。
「こやつらの始末」
「殿下のお好きなように。殿下を害しようとした大罪、罰しないわけにはいかないかと」
「討伐の折りには、リドにも参加してもらおう」
「殿下の命とあれば」
2歩足の獲物が始末されてしまったため、狩りは2日で終了した。
「ヴァンパ周辺には、遺跡らしいものもある」
その遺跡には魔獣も住み着いているらしい。
「狩場であったため手つかずか」
さらに、旧領主の館と呼ばれる屋敷も森の中にある。一時的な避難所として使えるが、妙な者を見たという噂もある。
「セレとの国境が近いから、ハーフエルフとかもいるのかな」
「ハーフエルフはあまり良い印象はないから、森のどこかに隠れていても不思議はない」
最後の1日、冒険者たちはヴァンパ周辺の伝説を調べることにした。興味を抱く貴族でもいれば、冒険者ギルドに依頼するかも知れない。
「冒険者としては楽しみな土地」
「それよりも、エーロン王子がどう動くか」
「討伐があるかも知れないってこと?」
「たぶんエーロン王子の性格なら、激しいものになるだろう」
●帰路
「冒険者たちには少し遠回りしてもらうことになる」
エーロン王子は早速、襲撃の首謀者の領地を回っていくことにした。
「エーロン王子の来訪の栄に浴し‥‥」
「そんな挨拶よりも弔辞をいいたいのではないのか、ベーメ卿」
エーロンの鋭い眼光が相手を射抜く。
「狩場において暗殺者を伏せさせ王子の狙いたる罪、許されるものではない」
「何を証拠に、王子といえど」
ルーカスは、血まみれの首と装備品をベーメ卿の前に投げ出した。
「逃げ出すなり、騎士を集めて防戦するなり、進退を決めておけ」
冒険者たちは、周囲のどこからか攻撃がある場合に備えて警戒を続けていた。そして何事もなく離脱する。
「冒険者たちよ。このようなことになったからには近々ベーメ卿討伐が行われる。そのつもりでおられよ」
王子暗殺未遂となれば、領地没収となるだろう。手柄を立てれば、領地の一部なりとも手に入る可能性もある。