●リプレイ本文
●読めない報告書、これだから公式報告は!
「こういう時は、ロッド卿が頼りになるはずだ」
ローラン・グリム(ea0602)は全員に伝えた。Wカップの関係でロッド卿は、エーロン王子とも親しいはず。ライナス卿への情報提供を求めれば、応じてくれるだろう。
今回の依頼を解決するにあたって、冒険者たちは2グループに別れる。1グループはダイヴァに向かい、領内の様子を探る事前調査班。もう、一グループは領主に直接あって渡り合う。
領主と直接対決するのは、富島香織(eb4410)、シャルグ・ザーン(ea0827)、アリア・アル・アールヴ(eb4304)、セシリア・カータ(ea1643)、シャルロット・プラン(eb4219)の5人。領内調査の5人よりも出発を遅らせて首都ウィルでダイヴァの情報を集める。去年までの情報でもいい。事前知識なしに乗り込むのは、危険だ。それに、代官のエルメスト卿の人となりも分かれば、なお良い。
ローランとグレイ・マリガン(eb4157)、フォーリィ・クライト(eb0754)、スニア・ロランド(ea5929)、毛利鷹嗣(eb4844)の5人は、先に出発する。領内の状況を実際に見れば、ある程度のことは分かるはず。
鷹嗣は、ウィル出発直前にエーロン王子にどうにか面会できた。ベーメ本領に赴任した臨時代官であるライナス卿がジェトの領事館にいた頃のことを調査していたはずだった。8月の月道で使者がジェトに向かったのなら、9月の月道で帰還しているはずだ。
「ライナス卿のジェト時代の報告だ」
エーロン王子は、羊皮紙を毛利に渡した。
「急いでいるようだから、今回の依頼の道々で読んでくれ」
「はい」
と、羊皮紙を受け取ったものの。分かりにくい。
「誰かに読んでもらえ」
王子への報告となると、普通とは違うのか。鎧騎士なら読める者もいるだろう。
●事前調査
ローラン、アリア、シャルロットそれにグレイは、エーロン王子のもとを訪れた。
「ロッド卿は不在?」
「Wカップが終了すれば、各地で収穫祭が行われる。ロッド卿も自分の領地に旅立ったことだろう」
エーロン王子に面会して、そのことを知った。
「それでWカップの間隔が開いていたのか」
アリアは思わずうめいた。
「本日来たのは」
シャルロットが口を開いた。ベーメ分領の運営方針に関して基本的な確認だった。シャルロットの確認事項を聞いて、エーロンは簡潔に言った。
「むろん、優秀な代官なら、継続して領地運営を任せる。財政難のフオロ家としては、有能な代官は多くほしいところだ。恭順するなら、これまでの経過は不問にしよう。ただし、出すものは出してもらう。素行については多少のことなら大目にみよう」
「では、そのように」
「ダイヴァについて詳しく知っている人はおりましょうか?」
ローランが尋ねた。
「ベーメ卿の領地だけに、フオロ家にもあまり情報は入っていない。以前ある人物からエルメスト卿は有能だと聞いたことがある。多少奇癖があるとも」
各地が貴族の独立した領地だけに、情報の伝達は少ない。情報を統括すれば大きな力になるが、それを理解している人物も少ない。
(「奇癖といっても王子には及ばないでしょうね」)
アリアは、王子に聞こえないように言った。奇癖でエーロン王子に勝てる人物は、そうはいないはずだ。
「無事に依頼をこなせんことを。竜と精霊の加護を」
エーロン王子の元を辞すると、ローランはダイヴァに向かって出発する。事前調査班は、それぞれのやり方でダイヴァを目指す。できるだけ目立たぬように。ダイヴァが港町なら、田舎の寒村よりも人の出入りが多いはず。顔を見慣れない人でも、それほど怪しまれることはない。
ローランは軍馬にまたがって、使い古した装備の流れ者の戦士といった風情を出している。グレイも傭兵ということにしてある。毛利も同行する。ウィンターフォルセ事変の後で、妙な誤解を受けなければよいが。
スニアはライナス卿を訪ねた後に、ダイヴァに向かう。かなり遠回りになるが。
「そいつに乗っていくつもりか?」
ライナス卿に自分の考えを伝えた後、ダイヴァに出発する時に呼び止められた。スニアは、グリフォンに騎乗していた。目立つ事このうえない。
「リド卿、卿の馬を貸してやってくれないか。それに」
「あのグリフォンを一時預かれってことでしょう。ヴァンパならグリフォンぐらい問題ありませんから、預かりますよ。お隣の領地運営が失敗すると、うちも影響受けますからね。馬は大事に扱ってくれよ」
もし、ヴァンパのリド卿がいなければ、ここでも問題が起こっていただろう。
「一応確認しておくが、そのグリフォンがここの住民なり家畜なりは食っていないだろうな」
まだまだ、民衆は危険状態。もしここで住民に被害が出ればどんなことになるか分からない。
「もちろん」
「もちろん?」
「食べていませんわ」
「なら良い。エーガン王は魔獣をつかうためなら、領民に犠牲が出ようともかまわんつもりのようだ」
フォーリィは、護衛ということで、ダイヴァの方面に向かう商隊に加わる。
「商隊なら道に迷うこともない」
ダイヴァはハンからの荷の一部が水揚げされているらしく、ダイヴァに向かう商隊もあるという。
シャルグは王都のサロンにいた。明日王都を出発する予定だ。その前にサロンでの交流で情報を集めようと思った。富島は王都の市場で回り、ダイヴァの情報を集める。物の動きで分かるものもある。
そして幾ばくかの情報を集めてから、首都を出発した。
●潜入調査
「見た目豊かっぽいけど」
スニアはダイヴァについてより、豊かな食生活を送っていた。リド卿の借りた馬はかなり頑強な上に足も速く、なにより見かけが立派だった。あの馬の乗っているせいか。周囲の反応がよい。冒険者というよりどこか良家の騎士という目で見られた。ダイヴァのような遠隔地までは、顔は知られていなかったようだ。海岸沿いは悪くない。というよりも、フオロ家の直轄地よりもよい。
「フオロ家の直轄地と比較したら駄目かしら?」
ダイヴァはそれほど広いわけではない。所詮分領にすぎない。
1日あたり1Sの食事。首都の冒険者酒場の食事よりもはるかに良い。ウィルは内陸部、新鮮な海産物など無理だろうから、比較にもならないかもしれない。その食事を頼んだ家の者たちの食事もそれほど悪いものを食べているわけではない。海産物が多い事を除いては。
「本当に豊かなのかしら」
「スニア、どうだった?」
フォーリィも商隊を通じて情報を集めたが、そう悪いわけでも無い。
「ここは豊かな土地だと聞いたので、仕事を探しに来たが、特産品は何なのかね?」
傭兵のなりをしたグレイを見つける。ローランはこちらに着いてから別行動を取ったようだ。
「夕方には合流する予定だ。明日には連中もくるだろうし」
●情報交換
「代官のエルメスト卿は、このところ領民に姿をみせていない」
グレイが情報を探り当ててきた。領主なり代官なりは月に1回は領民の声に耳を傾けることになっている。首都では行われなくなって数年経つので天界から来た冒険者は変だとは思わない。グレイはアトランティスの鎧騎士、そのあたりの制度は熟知している。
「代官の屋敷を監視していたが、傭兵らしい者たちがいる」
ローランと毛利が交代で見張っていたらしい。
「数は多くない。10名というところだろう。エルメスト卿の手勢にしてはガラが悪い」
傭兵を雇うのは切羽詰まった時、常時雇うには経費がかかり過ぎる。港や町の様子も見て回った。小金を持った男がやる事といったら飲む・打つ・買うと決まっていると思ったが、それは一般人の話。代官となると違うようだ。
「ハンとの国境線に近いから‥‥ハンの情勢は」
「それならサロンで聞いてきた」
到着したばかりのシャルグが口を開いた。
「ハンの王領ヘイット領については、平穏で問題はない。リグに近いリハン領もリグとの緊張はあるものの、分国内の状態は問題ない」
「すると、ウス分国とハラン分国の積年の争いが再発したってことか?」
アリアが、当てずっぽうに言った。ウィル出身の鎧騎士ならある程度は知っている。フオロ分国の北部を荒し回った山賊も、あの2分国の争いが原因らしい。アリアは山賊討伐では痛い目を見ている。
「とすると、いずれ難民がなだれ込んでくるってことですか?」
シャルロットは首をかしげた。憶測はそこまでにとどめて互いの情報を出し合う。
「豊かというのは、本当」
もともと貧しい寒村では、逆さにしても何も出て来ない。搾り取るにしても、それなりにもとはあるはず。
「ウィルの市場でもダイヴァで水揚げした北の産物が入ってきています」
香織は事前調査の結果を口にした。それ以前は海賊行為ギリギリのことはやっていたかも知れないが、風評が悪ければ水揚げしようと思う船はないだろう。
「話の途中ですまないが」
毛利がエーロン王子から預かった羊皮紙を出した。
「ライナス卿がジェトに赴任していた時の報告書が来た。読める人、頼む」
この中で一番セトタ語に堪能なのは、アリア。
「貸して見ろ‥‥読める限りでは、代官にはうってつけの人材だと書いてある」
「読める限りでは?」
毛利が耳聡く聞き返した。
「いくつかの慣用句が分からない」
王子への公式文章となると、何かあるのかも。
「あとは代官のところに乗り込むか」
「ちょっと気になることがあります」
それまで黙って情報を照らし合わせていたセシリアが口を開いた。
「エルメスト卿がすでにいない。あるいは捕らえられているということはないでしょうか」
代官の手勢は決して多くない。数名程度だろう。代官屋敷そのものが乗っ取られた。とすると。
「エルメスト卿と面識ある人物はいない。かまかけてみるしかない。もし代官エルメスト卿を名乗る人物がいた時には」
5人は代官と直接面会し、残りの潜入調査の5人は代官屋敷の表で支援にあたることにした。
シャルグがエーロン王子の旗を、アリアがライナス卿の旗を立てて、代官屋敷への道を取る。軍馬の乗る2人が、先頭になるとかなりの威圧感がある。その後方から3人も騎乗して向かう。万が一にそなえて、得物は用意しておく。
「旧ベーメ領代官ライナス卿およびエーロン王子に命により、ダイヴァ代官エルメスト卿に面会を要求する」
アリアが、多少威圧的に出る。
「なんだと」
ガラの悪い門番が槍を構える。
「貴様! 王家からの使いに槍を向けることの意味を知っているのか!」
シャルグがさらに畳みかける。流石に迫力のせいか。門番は槍を投げ出して屋敷に入った。
「なんだ?」
拍子抜けした。すると、屋敷から別の男が出てきた。人相は良くない。
「ニックと申します。代官エルメスト卿は病篤く、また」
言いかけたところで、シャルロットがニックの腕をひねりあげた。
「エルメスト卿のもとへ案内しなさい」
そしてシャルグに目線で合図する。シャルグは周囲にいるであろう、残りの5人に合図を送る。搦手なり周囲から屋敷に仕掛けることもあり得る。
「無体な。いくら王子の使者でも」
「王子だからさ。なんせ狂王子様だぜ」
その一言に諦めたように、屋敷内に入る。
「エルメスト卿はこの中に」
「嘘だったら、腕をへし折ります」
セシリアが部屋の中に入る。その時、屋敷外で悲鳴がした。
「いたわ。どうみても幽閉です」
「どういうことか説明してもらおうか」
シャルグがニックに詰め寄ろうとしたが、ニックはいつのまにかシャルロットの手を振りほどいて、出口まで逃げていた。
「ここでの仕事は諦める。しかしいずれ‥‥」
逃げ足だけは速い。外では、屋敷から金目のものを持ち出そうしていた不審人物たちが捕まっていた。5人の他に、町の自警団らしき者たちも捕縛に加わっている。それが囮だったのか、ニックの姿はなかった。
エルメスト卿とその臣下たちは、ベーメ卿反乱の少し前にベーメ卿の使者を名乗ったあのニックという男とその手下に幽閉されたという。
「幽閉されていては、恭順も示せないな」
ベーメ卿がヴァンパの狩場でエーロン王子暗殺を企んで討伐され、その領地はフオロ家に併合されたこと順を追って説明した。
「ベーメ卿がそのような大それたことを? 信じられません」
シャルロットは、エーロン王子の方針を伝えた。エルメスト卿は早速、臣下に幽閉されていた間の状態を調べさせる。
「かなりの財物が持ち出されています。残ったものはごくわずか。とても、王子の期待には応えられますまい」
「足りない分は、エルメスト卿の能力と忠誠心で補えばどうでしょう」
富島はダイヴァからの物流について、調べていた。エルメスト卿の能力は、エーロン王子の役に立つはずだと確信していた。長年の無理がたたってフオロ家は実態はかなり危ない。エルメスト卿が生かされていたのは、その能力を使いたい者があのニックという男の背後にいたためだろう。
「ではライナス卿へ恭順を誓うのなら、私が同行しますわ」
スニアはどうせ、ライナス卿のもとに行ってグリフォンを返してもらわなくてはならない。
「参りましょう」
エルメスト卿はしばらく考えた後、口を開いた。
●帰還
「タイミング的には良かったな」
あの後、ダイヴァの自警団がニックの手下を襲撃する計画があったことがわかった。傲慢に振る舞うニック達への不満と姿を現さないエルメスト卿を心配してのことだった。暴発すれば、ダイヴァの被害は大きかったはずだ。
「統治者次第で人も町も変わる」
「ベーメ卿もエルメスト卿も領民にとっては、良い統治者だったようです」
それがフオロ直轄領となるとどうなるか。今のフオロ領と同じになるとは考えたくない。王都で問題になっていることがダイヴァにはない。
(「エルメスト卿ならサザン卿の代わりになりうるかも」)
シャルグは、ふとそう思った。
9人が王都に帰還する時には、スニアも自分のグリフォンに乗って王都に戻ってきていた。
「問題なしよ。エルメスト卿はダイヴァで代官継続。ただしライナス卿ともどもエーロン王子の補佐の任を兼務するって条件付」
「なんだそれ?」
「エーロン王子の人材確保ってところね。旧ベーメ領はエーロン王子に差配されるらしいわ」
フオロ家にとって前途多難。しかし、その中にあってエーロン王子の力は、徐々にだが強化されている。
「続報入った?」
毛利がエーロン王子のところから戻ってきた。
「それが。何かあるらしい。中途半端な報告は出せないという知らせが入ってきていた」
変な火種にならねばいいが。
「そういえば、エーロン王子から近々旧ベーメ領やヴァンパ周辺の遺跡探索の依頼を出すと言っていた」
遺跡は不審人物が隠れるのには、絶好の場所になる。