●リプレイ本文
●魔獣?
「よく集まってくれた」
半ば退屈そうなエーロン王子の言葉。
「殿下!」
脇に控えているルーカスが、一言声をかける。
「分かっている。まったく、珍しい魔獣が出たというのに。冒険者諸君、都合によりこんな楽しい狩りに行けないのは非常に残念だが、新しく姿を現した魔獣の調査と場合によっては討伐を任せる」
「現地には、目撃者であるヴァンパの領主、リド卿が領民を多数率いて魔獣包囲網を手伝ってくれることになっている」
「領民ですか?」
華岡紅子(eb4412)が驚きの声をあげた。
「大丈夫だ。あそこの領民たちは狩場で猛獣や魔獣相手の勢子を平気でやる者たちだ。きっとその中でも手練を参加させるはずだ」
「そうだ、あそこの領民なら心配はいらない」
以前、エーロン王子の狩りの供をした時のヴァンパの領民たちが猛獣や魔獣を追い出してきた手際のよさというか、技能というか、慣れというか、強さというか。そのような状況を知っているアリア・アル・アールヴ(eb4304)と毛利鷹嗣(eb4844)が口を揃えて言い切った。
「領民の幾人かは、その魔獣に遭遇して無事に戻ってきているから状況は分かっているだろう。いずれにしろ、注意するにはこしたことはない」
「王子、お願いしたきことがあります」
シャリーア・フォルテライズ(eb4248)は、ルーケイ伯与力の男爵という立場でバガン1体、グライダー1機を所有している。これらのゴーレムは、ルーケイで使う事限定ということで所有が認められた物である。しかし、今回の依頼はかなり危険が伴うために戦闘においてバガンを、偵察のためにグライダーを使う許可を求めた。
「ルーケイはフオロ家の領地であり、ライナス卿の旧ベーメもフオロ家の領地だ」
ゴーレムの個人所有は現在のところ、厳しく制限されている。価格が高いことと生産元であるトルク分国が販売相手を制限していることが原因である。天界人は冒険者ギルドの所属しているが、冒険者ギルドに保護されなかった天界人もいる。特に地球から来た天界人の中にはゴーレムを操る技能を習得できる。冒険者ギルドに所属する冒険者なら安心できるが、むやみに販売すればどのような輩がゴーレムを入手し、冒険者ギルドに所属できなかった天界人を用いて、活用するかも知れない。ゴーレムの有効性が証明されるほど、その危険性も出てきた。ゴーレムに対する抵抗力の低い領主たちの間で問題になっている。
「しかし、依頼のたびに通過する領主の許可を取るのでは時間がかかり過ぎる。冒険者ギルドに関してはトルク分国王がなんらかの考えをもっていよう」
今回は最初から赤備のゴーレムを用いる可能性があったため、現地までの最短ルートの領主たちにはエーロン王子の名で通行の要請が出されているので問題はない。最初から依頼主側でゴーレムを用意するなら、冒険者ギルドに依頼を出す段階で手筈を整えるが、冒険者個人持ちとなると、個別の許可を取るしかない。それは依頼の遂行に支障をきたす可能性も出てくる。
「近いうちに冒険者ギルドの連盟に加盟している領主達を集めて、何らかの方策を考えることにしよう」
とりあえず現地まではシャリーアのバガンとグライダーはゴーレム移動用の馬車を借りて輸送する。馬車を引く馬は、冒険者のペットを使う事で借りる値段をかなり抑えた。ただし、現地での整備はできないことには変わりない。
手筈を整えると、エーロン王子の羨望のまなざしを無視して現地に向かう。
「今回は風信機複数による捜査網と包囲網を構築します」
アリアは今までに戦いに参加して、情報伝達速度が戦況を左右する大きな要素になりうることを体験していた。
「その試験ということね」
富島香織(eb4410)は天界人のため、情報の重要性は良く理解している。しかし、この試験で最大の問題は、携帯型風信機の、通信可能距離と大きさ。携帯とは言うもののその大きさは、携帯とは思えないのだ。18歳の天界人にとっては、携帯と言えば手のひらサイズのこと。重さはともかく、30センチではがさばる。持ち歩くとすれば、背負うしかないだろう。凶暴かも知れない魔獣を相手に戦闘するかも知れない状況で。
「馬に乗せるしかないのじゃない?」
リーン・エグザンティア(eb4501)は、ゴーレムに乗るつもりだった。Wカップ用のゴーレムには風信機が最初から搭載されている。しかし、今回の2体のバガンには搭載はされていない。キャリアスペースはあるのだが。
「いずれにしても、ゴーレムは1回の起動のみのつもりでいこう」
グレイ・マリガン(eb4157)は、整備せずに性能低下した状態でのゴーレムを使ったことはない。Wカップでは万全の整備がなされているし、これまで参加した戦闘でもそこまで無理なゴーレム使用はなかった。
「北部領主を悩ませていた山賊討伐の時には、整備せずに戦場で乗り手が代わったことがあったが、それぐらいだろうか」
アリアは苦い記憶とともに、過酷であったこともあった話す。交代したのはゴーレムを操れる時間の関係だった。
馬車は旧ベーメ領に入り、領主の館で待機していたリド卿一行と合流する。
「もう籠から出してもいいだろう」
風烈(ea1587)は籠に入れて運んできた鷹を出そうとして。
「あれ?」
「どうしたの?」
富島が籠の中を覗き込む。
「何も入っていないよ」
富島のチーターはしっかりと馬車の中の檻に入っていた。
「誤解しないでよ。私のクゥはあなたの鷹なんて食べていないからね。しっかり餌もあげているし」
今回は全員、ペット用の餌までも用意して移動していた。しかし、チーターは基本的に生きた餌ないし仕留めたばかりの餌を好む。
「まさか。チーターに襲われたら、籠が無事なはずはない」
風烈の鷹を使って空から探す作戦は、実行できずに終わった。
「一番多く目撃されているのが、遺跡のあたりだ」
リド卿の案内でヴァンパと旧ベーメの境界周辺に到着する。遺跡と言っても植物に埋もれている部分の方が多い。人手はあまり入っていないようだ。しかしむき出しの地面が少ない分、足跡もあまり残っていない。
「魔獣について分かっていることはありませんか?」
リーンには、ある予想があった。
「冒険者か好事家にでも売ろうと思って仕入れたものの手に負えなくなった…とか」
ウィルにいる冒険者たちはグリフォンやロック鳥のように、とてもペットにはできなそうな魔獣をもペットにしている。愛玩用か使役用かの違いがあるものの、首都ではそれを恐れた民衆が冒険者ギルドに殺到したほど。
ジ・アースから来た冒険者や地球でもごく一部の天界人は、元の世界でも町中に猛獣なり魔獣なりを連れ出しても平気だと考えていたようだ。それ以外の天界人も元の世界ではまずいと考えていても、アトランティスでは平気だと考えていた時期があった。
さすがに今では冒険者の力を必要としている無力な一般人が存在していることも理解できるようになったし、その一般人にとっては冒険者なら平気なグリフォンやチーターを怖がることも理解できている。
冒険者相手に売りつけるために仕入れた目新しい魔獣が、逃げ出したのでないかと。
「依頼書から想像した姿は、地球では絶滅した恐竜と呼ばれる生き物を連想させます」
華岡の意見に、地球から来た天界人の富島は頷く。
「実物は見た事は無いが」
と前置きして、鎧騎士のグレイが他3人の鎧騎士を顔を見ながら続けた。
「ウィルとは月道でつながっているジェトやリグと月道がつながっているバには、獣騎士と呼ばれる者たちがいる。彼らは馬の代わりに、恐獣と呼ばれる生き物を操ると聞いている」
大きさ2mなら、薬で眠らせて月道で運べば、もって来られる。バ月道リグ陸路ウィル。ジェト月道ウィル。いずれのルートでも運べる。流石に海上は無理だろう。船の上で餌がなくなる。船乗りまで食われて、船は漂流し、恐獣も最後には骨になってしまうはずだ。
「そういえば、ライナス卿は以前ジェトにいたことがあったはずだ」
アリアと毛利は顔を見合わせた。
「あれ」
「ああ!」
羊皮紙を取り出して見る。アリアはあの後語学について猛勉強していた。今度こそ。
「普通に読んだら分からないように書かれているような。さすがに王族あての手紙か」
慣用句を使った上にさらに‥‥。暗号も良いところだ。
「もしかしてエーロン王子もこの内容分からなかったのでは?」
途中で、アリアはそう思った。だから冒険者に解読させたのではいないかと。今度会ったらカマかけてみるか。と内心ほくそえむ。
ライナス卿は、ジェトの騎士学校に出入りしていたらしい。ジェトはウィル騎士団付属騎士養成学院(通称騎士学校)の制度をいち早く取り入れて、騎士学校を発足させていた。何らかの形で関わっていたのだろう。
「内容は続報を待つしかない。単なる技術援助だったのかも知れない」
ジェトは月道のみでしか赴くことができないが、首都ジェトスには領事館もおかれて月道貿易も行われている。おそらくゴーレムも輸出されていることだろう。
「バ国はカオスと手を結んでいるらしい。その隣国で脅威にさらされているジェトを援助するのはカオスを封じ込める手だよね」
聞いていたリーンは、考えながら言った。月道以外の通常方法ではとてもバ国を攻めにいくことができない。シムの海や嵐の壁が邪魔をしている上に、距離だけでもウィルを縦断する以上に遠い。実際に航路を発見した者もいない。居たとしても、独占の利を考えれば秘密としていることだろう。
「アプト大陸のランに行くのにも、一旦ハンに北上してからだ。ウィルから直接ランに渡る航路さえもない。それでハンが貿易を独占して儲けている」
騎士学校では、鎧騎士たちもそのあたりの事も学ぶ。
「アトランティスには地球のような意味合いでの星が出ないから、天測ってわけにもいかない」
天界人たちは、アトランティスで航海術が発展しない理由の一つを思いついた。
「相談は終わったか?」
リド卿は遺跡周辺の地図を出した。測量して作ったわけではないから、正確さなどは求めようも無い。
「遺跡の調査はまったく行われていない。地下に延びる道があるらしいことは分かっている。そのため、カオスの穴という噂もあった」
もちろん、今ではデマにすぎないと考えられている。
「魔獣が、このあたりで発見されたのは最近だ」
最初に見かけたのは、リド卿のようだ。
「今のところは被害はない」
ヴァンパの森には、ヴァンパの森に住み着いた猛獣や魔獣がいるから簡単にはそのテリトリーには入ってこない。旧ベーメ領の方では魔獣発見の報とともにライナス卿が傭兵を領内巡回に出している。二つの方向からプレッシャーを受けたので、このあたりに潜んでいる可能性は高い。
「それでも携帯型風信機の通信可能範囲よりも広い」
しかも視界が良くない。
「プレッシャーを与えて範囲を狭めるか」
ヴァンパの領民はリド卿の命令で100人ほど、動員されている。10人1組にして、ヴァンパ方向から扇状に5組、旧ベーメ方向から同じく5組が扇羽状に展開して包囲網を狭めていく。
「魔獣でも逃げ場があるうちは、無理な反撃には出ない。範囲を狭めたあとは、冒険者たちに任せる。捕まえるなり、始末するなり」
リド卿は、領民達を明るいうちにそれぞれの場所に送り込む。暗くなる前に今夜の野営場所の安全を確保させて、明日の早朝から追い込みを始める。リド卿は冒険者とともにここに残る。
「リド卿はヴァンパを相続したと聞きましたが」
エーロン王子の狩りに同行したメンバーはすでに知っていたが、細かいことは知らない。
「継承順位から言ったら、相続はできないはずだったから準備などは全くしていなかった。優秀な管財人を雇わねば」
今のところヴァンパの領民はモンスターにも猛獣にも魔獣にも慣れている。冒険者がペットを放し飼いにできる唯一の場所のようだが、それは逆に冒険者のペットを害する可能性のあるモンスターが、付近にいるということでもある。
「住民には非難されないが、安全も保証されない。この前グリフォンを預かった時は、保護するために屋敷の中に入れておいた。翌朝骨も残っていなかったでは困るから」
「とすると、今回この付近にいる魔獣も?」
風烈は魔獣の行動を考えた。敵の行動を読むことは武道家としては当然行うこと。
「たぶん、ヴァンパで弾かれたものだろう。遺跡に空白地帯だ」
「確かに、遺跡に巣くいそうな小ネズミでは、腹は膨らまないな」
だとすれば、いずれ腹を減らして行動に出る。ヴァンパにいけなければ、旧ベーメに向かうだろう。その前に叩かなければ。
「すきっ腹で多少弱っている相手なら」
「倒し易い」
「できたぞ。リーンさんのハートフル・クッキ〜ング!」
男どもが雑談している間に、リーンはシャリーアらに手伝わせて味気ない保存食をちょっと調理して、温かで豊かな食生活を目指してみた。
味と結果については、好評だった。
「材料が保存食でなければもっと良い出来だっただろうに」
と幾人かが悔しがった。
●まみえる!
夜明けととにも、ヴァンパ領民による包囲網が狭まっていく。携帯型風信機の影響範囲まで狭める。
「そろそろ上がる頃合いだな」
シャリーアは、運んできたグライダーにまたがった。起動させたグライダーは、風を地面に叩きつけるようにして舞い上がる。上空で数回回ると、その半径を大きくしていく。
「アラバスター、待て!」
グレイとリーンは、いつでもゴーレムを起動できるように待機している。グレイはゴーレムに乗り込む際に、妙に落ち着かないアラバスターに待てと指示を与えた。アリアはゴーレムの予備として待機しつつ、携帯型風信機で全体の状況把握と指示を行う。富島はチーターのクゥとともに待機。華岡は携帯型風信機を背負って、セブンリーグブーツで移動する。風烈も携帯型風信機を使うが、戦闘で邪魔にならないように絶塵に乗せておく。魔獣の攻撃で携帯型風信機が壊れないように。毛利は直接戦闘よりもサポート中心で動く。
「魔獣。もしかしてゴーレムってことはないか?」
毛利はライナス卿の仕業ではないかと睨んでいた。
「こちらシャリーア、アリアさん聞こえる? 魔獣はまだ見えない。北に向かってみる」
上空からでは、地上付近までは木々に邪魔されて見通しは良くない
「アリア、聞こえるか?」
今度は風烈からだ。
「まだ見つからないか?」
「南から回り込んでいる。まだ魔獣らしき物は見えない」
すでに包囲網はかなり縮まっている。
「包囲網をすり抜けたか?」
その可能性もないわけではない。魔獣の知能が高ければ十分にあり得る。
「どうしたの?」
チーターのクゥが低い唸り声をあげた。
「まさか」
「リーン起動するぞ」
グレイが隣のゴーレムに促して、ゴーレムを起動する。
グレイが起動した途端、魔獣がグレイのゴーレムに飛び掛かってきた。
「ラプトル?」
恐竜映画を思い出して富島が叫んだ。
その声に反応したのか、別の方向からもう1匹飛び出してきた。クゥが間に入って威嚇するが、そのまま突っ込んでくる。
リーンのバガンが横から殴り掛かる。
「確かに品のない顔してるわ」
無視された腹いせに、蹴り倒してのしかかる。動きさえ止めてしまえば、バガンの方が有利。
グレイは先制攻撃を受けて苦戦していた。富島がクゥに牽制させて、自らもムーンアローを放つ。ダメージそのものはあまり大きくないが、牽制にはなる。
その間にグレイが反撃に移る。
「魔獣が2匹出た」
携帯型風信機でこちらの状況を知らせる。
「すぐ行く」
しかし急場には間に合わない。
「トップアタックか。こりゃ知能あるぞ」
リド卿は得物を構えて周囲を警戒する。あれが2匹とは限らない。包囲するために人数が減ったところを叩きに来るとは。
「ちょこまか動きやがって!」
グレイのバガンの攻撃は、相手の動きに翻弄されてなかなかあたらない。
「温血動物ね」
冷血動物ではあれほど速くは動けない。富島は常に魔獣を視線で追いかけている。直線速度ならクゥの方がはるかに速いが、クゥの攻撃力では仕留められない。
毛利が別方向から飛び掛かってきた魔獣にコアギュレイトを唱える。しかし動きは止まらない。
「抵抗された!」
見る間に凶暴な牙が迫ってくる。無意識に抵抗するように前に出した左腕にかみつかれる。
「!」
熱い感覚、そして激痛が脳に響く。
(「食いちぎられる!」)
そう思った瞬間に、身体が投げ出された。
「まだついている?」
噛み跡は生々しいが、腕は残っている。リカバーをかけて傷を治していく。
魔獣には風烈が対峙していた。毛利が振り回された瞬間に、風烈が魔獣の下から腹部を全身のバネを使って殴りあげた。腹部を強打された魔獣が思わず口を開いたため、毛利は腕を食いちぎられずに済んだ。
「いかなる敵が現れようと、我が五体を鋼とかして砕くまで」
不意打ちに近い一撃は、魔獣に相当のダメージを与えたものの倒すにはいたらなかった。
「伏せろ! 風烈」
アリアが風烈に怒鳴った。反射的に風烈が伏せると、その上すれすれのところをシャリーアのグライダーが通過していった。ただ通過したわけではない。グライダーの翼を一番後退させて最大速度でのランスチャージ。と行きたいところだったが、ランスがない。低空飛行に移った時にアリアから投げられた剣を受け取って横殴りに魔獣を斬る。魔獣の首が半ば切断された。起き上がった風烈による鳥爪撃で魔獣から血が吹き出す。さらに回し蹴りで蹴り飛ばす。
「携帯型風信機で打ち合わせして、武器のやりとり。こういう使い方もあるわけ?」
華岡が到着して、蹴り飛ばされた魔獣にファイヤーボムを叩きつけてこんがりと焼き上げる。
「こんなクッキングはどう?」
「こっちも終わったよ」
リーンはシャリーアのバガンで、魔獣にのしかかり、マウントポジションのまま魔獣の頭を殴り続けた。抵抗されずに、魔獣の頭を完全にたたきつぶした。
「こっちもどうにか」
グレイもバガンの外部装甲に傷を作ったが、どうにか魔獣は仕留めた。
「こりゃ結構な傷だな」
戦えば鎧に傷ぐらいできる。もちろん操縦者の練度によっても差はでるだろう。
「魔獣相手では傷を受ける場所が違う。魔獣用の外部装甲を追加するのも必要か」
「しかし、装甲を追加すると動きが遅くなる。一長一短だ」
「う〜ん」
戦った後の反省はすぐに行われる。もし、今後も魔獣が現れるようなら必要な対策だろう。
その後は、魔獣の気配はなかった。
「個体識別まではできないが、こいつらだ」
リド卿が目撃したのは、こいつら。
「今回ので、こいつらの特徴も分かった。リグ方面からくるならヴァンパで防げるだろう」
もしも大挙してやって来れば‥‥。一瞬不吉な予感が走る。
「背後に、恐獣をこちらに持って来ようという者が存在するのでしょうか?」
もしそうであったら、即刻何とかせねば。と、シャリーアは思う。
「もしかして、この遺跡のいずれかに発見されていない月道があるのかも知れない」
ヴァンパに生息する魔獣らも、もしかしたら別のところから昔に来たかも知れない。
「いずれ、これらの遺跡探索の依頼を出す。遺跡探索に領民を使うわけにはいかないから」
リド卿は、冒険者とともにライナス卿のところに行って、今回の魔獣のことを伝えた。
「恐獣か。ゴーレムならともかく、生身ではきつい」
「ライナス卿は恐獣には詳しいと聞きました」
「ああ、ジェトスにいた頃には、獣騎士にも知り合いがいたから」
「ウィルの気候でも生きて行けるのでしょうか?」
「不可能ではなかろう。厳寒のヒに、バの恐獣が侵攻した事もある」
冷血ではなく、温血動物だから。ウィルの気候なら十分に適応できる。冬には活動は鈍るにしても。
「エーロン王子には、3匹の魔獣を倒したと報告しておきます。魔獣は恐獣であったとも」
「いちおう、言っておく。冒険者に遺跡調査の依頼を出す。あそこは境界線だからな」
「魔獣などの住み着かれてはたまらないし、魔獣以外の住民の根城にされても困る」
リド卿とライナス卿との間で合意ができた。
「というわけで依頼資金が捻出できたら、依頼出すからその時は受けてくれ」
リド卿にとっても、冒険者への報酬はかなりきついようだ。
「多少低くても」
思わず苦笑する冒険者。