●リプレイ本文
●リプレイ
●監視役?
「そろそろ案内人がくるはずだ」
狂王子の無理難題な依頼を受けた8人の冒険者は、冒険者ギルドから目的の村への案内人が到着するのを待っていた。そこに馬車が到着する。馬車と言ってもかなり酷いしろもの。地球はもちろんのこと、ジ・アースよりも馬車の発達は遅れているらしい。もっとも地球では馬車はもう見ることも珍しいのだが。
「馬をお持ちでない天界の方もおられると聞きましたので」
王子が遣わせたはずがないので、たぶん王子を補佐している誰かだろう。アトランティス生まれの鎧騎士といえど、ウィルのすべての地理に精通しているわけではない。ウィル全体はおろか、フォロ分国の地図すら大まかなものしかない。案内人なしでは目的地まで到着は難しい。案内人はフォーゼルと名乗った。
「エデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)様は、いらっしゃいますか?」
エデンはギルドを通じて、事前に今回の依頼主であるエーロン王子への質問を行っていた。本来ならば直接会って質問したいところであったが、なかなかその機会が得られなかった。その質問の回答が王子の側近からの返書にしたためてあった。
セトタ語を読めるのは、鎧騎士の3人のイアン・フィルポッツ(eb4147)、アリア・アル・アールヴ(eb4304)、エデンの3人のみ。
「一体なにを質問したのかしら?」
スニア・ロランド(ea5929)が書を覗き込んだが、まだ彼女には読めない。相手に知らせる意思があった口から言葉に出したものなら通じるのに。
「謀叛発覚時に下される村の処罰と謀叛を企んでいたが説得で心変わりしたならば許されるか否かの2点です。それによっても対応が異なりそうですから」
「それにしても夜伽の女性を出せないだけで村の謀叛を勘繰られるとは…わたくしのような下々の者には高貴な方のお心は察し難く」
貴族出身の鎧騎士が自らを下々というのは冗談以外の何者でもないが。
「で答えはなんと書いてありましたか?」
富島香織(eb4410)も山田リリア(eb4239)も地球では無くなってしまった倫理観の差に、興味を持っていた。
「謀叛を行うのはその領主のみ。領主の一族を見せしめのために抹殺し、領民は別の領主の物となる。心変わりした場合、再度心変わりしない保証はない。心変わりしないという保証を冒険者ギルドが負うならば、問題にしなくてもいい。って依頼どおりだろうな。この後謀叛が起こったならばギルドも謀叛の罪を着せられる」
王子殿下の言う「謀反」は、確実に発生する。スニアはそう思っていた。このアトランティスに来てから見聞きしてきたことを考えれば、謀叛はいつ起こっても不思議ではない。となれば。当たり障りのない文面。誰がとか、どこどこの村で、とかはない。エデンは読み終えると返書を廃棄した。
「まずは調査してからでしょう」
アルフレッド・アルビオン(ea8583)は、村人の中に抵抗心なく入り込むことができるように布教活動を行う一環として医療活動を行うことにしている。首都ウィル周辺はともかく、これから行くような田舎の村ではジーザス教の話とて伝わっている保証すらない。アトランティス人からは、白づくめのアルフレッドの格好が異様に見えるということも考えておかなければ。なんせ最初にあった天界人の中には、アルフレッドを指して、意味不明な集団名を言って、ここにもいたと騒いだくらいだ。たしかに、目立つことには変わりない。
●村へ
騎乗者を除く全員が馬車に乗り、馬車は先行する隊形で村に向かってゆっくり移動していく。馬車にはスプリングなどの緩衝装置はない。車輪が捕らえた障害物はダイレクトに乗客に伝わってくる。速度をだそうものなら、会話も一切できないだろう。下手に話したら、たちまち舌を噛みかねない。
「この速度ならどうにか」
天界人のリリアやアリル・カーチルト(eb4245)、香織にとっては、もとの世界での乗り物を基準に考えると、これほど酷い乗り物はないだろう。ジ・アースからの冒険者にはこの程度は十分に我慢できる範囲。自分の乗り物に乗っているならば、不満を言うべきものではない。
アリルは岬沙羅から借りてきた応急手当キットを準備していた。まずは、村の人々に抵抗なく受け入れ得てもらうために医療奉仕を行う予定だ。
多分、村には医者などは居ないだろう。
「医者はおろか、公衆衛生という言葉も知らないでしょうね」
同じ異世界から来た者たちと言っても、ジ・アースと地球では大きく異なる。その一つは公衆衛生の概念だろう。とにかく、地球から来た人たちにとっては、こちらの世界は臭う。もちろん、首都ではすでに風呂が格安で利用できるようになっているが、首都を離れると状況は一変する。夏ならば水浴びもできようが、今は冬。田舎の村には風呂などない。まして、普通の農家なら家の中に馬や牛を入れていることも多い。その方が牛の体温によって家が温まるのだから。
当然のことながら、それらの排泄物の臭いに、住んでいるものたちは鈍感になる。
「ちょっと気が重いですね」
香織はそう言って浄水水筒を握りしめた。
幾つかの領地を通過したが、冒険者ギルドの冒険者であるとわかると、無条件で通過できた。武器を取り上げられることも、通行税を取られることもなく。冒険者ギルドの影響力というよりも、それを後援しているトルク分国王の力ということだろうか。
アルフレッド、スニア、リリア、アリルの4人が医療活動行って村人に受け入れるような状態にし、エデン、アリア、香織、イアンの4人が、いろいろと口実を作って村と領主の動きを調べる。
「鎧騎士は異世界からきた天界人の案内役いえば、不審に思われることもないだろう」
エデンはそう言った。村人にとっては、村以外から来る人は数少ない、珍しい話でもしてあげれば、けっこう仲良くなれるものだと。しかも、冬ごもりに近い状態では退屈しているはず。
「問題は真実が見えるかどうか」
それが最大の問題。
「領主の館にどうにか入り込んで情報をものにしよう」
イアンは保存食を1つももっていない。領主がもてなしてくれないと、非常にひもじい思いをすることになる。イアン以外の全員がため息をつく。出発してからかなりの時間になる。
「今日中には着きそうにない。そろそろ野営の準備をした方がいい」
案内人フォーゼルは、馬車を止めて野営の準備に入る。
「この辺りはモンスターとかでるのだろうか?」
地球人にとってはモンスターとの遭遇には慣れていない。
「このあたりには、でないはず。馬たちもおびえていないし」
モンスターが周辺にいるなら、馬たちが本能的に怯えるはずだ。
「一応交代で番をしよう。敵意の無いモンスターと違って、敵意のある人間ということもあるから」
フォロの状況は、みんなわかっていた。王子の案内人の前では口にこそ出さないが、エーガン王のやり方によって反動が大きくなっていることに。
「4交代にしましょう。二人ずつ。僕は睡眠時間を分けたくないので最初に」
アルフレッドはそう言うと、スニアと組む。ジ・アース組。
後は鎧騎士1名と地球人1名で組むことになる。イアンと香織、領主館潜入組。リリアとアリアとアリルとエデンが組む。
幸い目ぼしいモンスターも山賊との遭遇しなかったが、朝周囲を見回ると何者かが接近した後があった。見張りがいたために、襲撃を断念したのだろう。
「安心して全員眠っていたら今頃は?」
ジ・アースで冒険慣れした冒険者ならともかく、平和な地球から来た者たちには、冒険者ギルドに保護される前に命を落とした者も多いはずだ。こんなふうに、野営の最中に見張りを出さなかったとか。
「こちらは武装していたので不利と思ったのだろう。モンスターよりも山賊でしょう、そんな判断ができるのは」
村までは、後半日程度。襲撃するには、いい距離だ。
「これで村で証拠でも見つかれば」
イアンが空腹を抱えているのを見て見ぬふりもできず、アルフレッドが首都に戻ってから返すという約束で、保存食を提供した。
「まったく、保存食持たずにくるとは」
「騎士学校で何を学んだんだ」
騎士学校を卒業した後も騎士修行に出たはずだから、油断したのか。
「田舎じゃ金はもっていても、保存食を買える場所がない」
●村の入口
案内人は村の付近まで馬車で来ると、そこから先は冒険者たちだけで村に行くように示唆した。木立があって村からは見えない。歩いても1時間程度だろう。馬車は向きを変えてウィルに戻る。速さは誰も乗っていない時よりもはるかに速い。あのも速度なら、今日中にウィルまでたどり着けそうだ。
「村の規模に対して、適正以上の戦力や兵糧の備えがあるか。ジ・アースなら、そこにどれだけの人がいるか知る方法はあるのか?」
イアンは、アルフレッドに尋ねた。
「もちろん、あります。ジ・アースではジーザス教が広まっています。ジーザス教はミサを行いますから、ミサが行われる教会の広さに入りきれる人しか、通常はいないことになります。もちろん、何かの原因でそれ以上の人が集まるということもあります。たとえば戦とか」
「そうか。ウィルにはジーザス教は広まっていないから、その方法では無理だ」
「無理に考えることはない。この村の働き手の数で、どの程度の収入が領主の手元に入るか。それを考えればいい。騎士学校で学んだはずだ」
「う〜ん」
領地経営の初歩も騎士学校では、教えている。ちなみに裁縫や料理などもである。
馬車を降りて村に近づく。もし謀叛が本当なら、どこかで襲撃を考えているかも知れない。村に近づいたことで全員に緊張が走る。
「野営地で見張りがいては、万が一にも討ち漏らす危険もある。夜なら逃げる方が有利ですから」
香織の表情にも緊張が走る。襲撃者がいたこと、彼らが襲撃を断念した理由をそのように解釈するなら村での単独行動は非常に危険になる。
「ジ・アース人同士、地球人同士は、それぞれの言葉であれば通じるだろう」
しかし精霊の働きによって村人にも理解されてしまう可能性がある。
「ではメモでやりとりしましょう。医療を行う時に伝言を頼んでも理解されない場合があります。こちらに存在しない概念は意味が通じないでしょう。でもメモ書きならば、アトランティス人には読めない」
セトタ語でも読める者は、ほとんどいないはずだ。
「地球人の言葉かラテン語のいずれかにしましょう」
領主館に行くグループも医療活動をするグループもいずれかの言葉を使える人がいる。伝令には村人にやってもらう。その方が怪しまれないだろう。
「では行こう」
昼時に到着した一行は、村へと入っていってから別れた。
●医療活動
「冒険者ギルドからの依頼で医療活動を行っています」
白クレリックのアルフレッドを含む4人は、医療活動を行うために村の中心部にある広場にやってきた。お祭りの時には市くらい立つのだろうが、この季節ではそれもないらしい。
「疫病とかあり得るかな」
地球人の利点は、各種のワクチンを摂取していることだろう。もっとも3人の地球人とも天然痘が撲滅以後の生まれだから、天然痘に対するワクチンの摂取はしていない。天然痘でも流行っていたらお手上げだろう。
広場にテントを広げる。
「寒いな。暖をとることも含めてたき火でもしよう」
煮沸にも使える。
「反応がないな」
誰も広場に姿を現さない。
「普通なら誰か出てきてもいいはずだ」
好奇心旺盛な子供なら。
「謀叛かどうかはともかく、この村で何かが起こってるのだは確かだ」
スニア・ロランドは得物を握りしめた。謀叛なら矢の1本や2本飛んできても不思議はない。あいにくここには、戦闘経験的にはスニア・ロランド一人にかかっている。
「人の気配がしないか?」
アリル・カーチルトは村の先から集団が近寄ってくるのを感じた。
スニアが前に出る。3人をかばうように。
●領主の館
「さて、覚悟ができたら行こうか」
鎧騎士3人と天界人1人の4人組は、領主の館を訪れた。ここの領主は、トルク分国王の提唱した冒険者ギルドに加盟している。ギルドの仕事として来ている以上は挨拶しても不思議はない。それを利用させてもらおう。
「冒険者の方々。どうぞお入りください」
小なりと言えど、領主の館はしっかりとした作りになっている。村の周囲を囲んだりするような壁があるわけではない。しかし、領主の館自体も作りなら少々のモンスターが出た場合でも、領民を中に入れて籠城できるだろう。その間に近隣の領主からの応援が駆けつければ事なきを得られそうだ。
鎧騎士の3人は、館に入ってすぐにもわかった。
領主の前に案内される。領主はまだ若い男を思ったが。
「まだ父上が存命しています。ただ少々病を患っていますので」
領主代行ということらしい。
「異世界から来た冒険者にウィルの国に慣れてもらうと同時に、冒険者の方々の得意な技で奉仕活動を行う予定です」
特にジーザス教の布教のことに触れる。
「カミとはいかなる存在なのか?」
「それについては後ほど、異世界から来たクレリックのアルフレッド・アルビオンに説明させましょう」
冒険者たちは、領主の館に寝泊まりすることになる。その前に調べられるだけの事は調べて置こう。
「そうそう、今日は村人総出で森で薪を取りに行っているはずです。戻ってきたら、異世界の話でも聞かせてあげてください。冬の間退屈でしょうから」
春にならないと行商人もこないらしい。
「怪しい者が出入りしようとすれば、目立つというわけだ」
イアン・フィルポッツは一人うなずいた。
●村人たち
広場では、森から戻ってきた村人たちと医療活動を行う予定だった冒険者が交流をはじめていた。
「薪を取りに行っただけだから、怪我といっても掠り傷程度ですね」
山田リリアは、用意してきた布を使って包帯の代わりに縛る。この程度ならアルフレッドのリカバーを使うこともない。
「何もねぇじゃん」
アリル・カーチルトは手持ちぶさだった。ただ気になったのは若い女がいないことだった。
「まさかな」
人口構成比を考えても。10代から20代の女性がまるっきりいないという事は、何か事情があるはずだ。そういえば子供も3歳以下もいないようだ。
「病か?」
妙齢の女性だけがかかる病などあるのか。地球ではなく、ここのアトランティス。何があっても不思議ではない。たまたまここにいる冒険者の中にはウィル出身者はいない。
「リリア、スニアお前ら、十分に注意するんだぜ」
アルフレッドは集まってきた村人相手にジーザス教の布教活動を行っていた。
そろそろ暗くなるころに、まだ森から幾人か戻ってこないと騒ぎになる。
「大変だ。森の中で猪に襲われた」
猪の縄張りに入り込んでしまったらしい。どうにか逃げきったものの、酷い怪我で村まで運べないという。
「僕が行きましょう」
アルフレッドはこれを利用しようとした。
「猪か。私も行こう。何かあると困る」
スニアも護衛として同行する。
「俺たちも行こうじゃん」
「いや、ここに残って鎧騎士たちに連絡を取って来る時は全員で行動してくれ」
スニア一人では、リリアとアリルまでは庇いきれない。
●最後の晩餐
「罠ではなかったようだ」
残りの6人は、村の外まで一団になって向かうと、森の方から怪我人を連れて戻ってきた。
「罠だったら、こちらの人員を分割させて仕留めて行くはずだろう」
こちらの正体が、ばれていないという可能性もある。冒険者ギルドの名前は、それだけの信用もあるのだろうと再認識した。
「村人に字を読み書きできる人はいない。村中さがしたけど」
陰謀を示すような文字はなさそうだった。
「村には王子の希望どおりの夜伽に出せる年齢の女性はいないわ。なにか原因が、あるんじゃないかしら」
「そういえば、何か魔法で調べるとか言ってなかったか?」
香織の発言に、アリア・アル・アールヴが尋ねた。
パーストを使って調べるはずだった。月魔法のパーストは、月の出ているところでしか真価を発揮しない。しかし、最大の問題は香織の魔法の成功率が低過ぎたためだ。首尾良く成就しても、パーストで過去を見ている間はぼおっと周囲を眺めている状態。知識のない者にはどう見えるか? 実際、手間取っているうちに村人に見咎められた。それどころか、パーストで無防備状態の時に大切な双眼鏡まで無くしてしまったのだ。何度も何度も試みて、精神の限界まで酷使して魔法に集中する余り、落としたことに気が付かなかったのか?
「戦闘にならなくて良かったな。確実に使うためには未熟すぎる」
敵を目の前にして攻撃魔法を放とうとした時に、魔法が失敗したらただ無防備な身を晒しているのと同じだ。となれば命に関わる。
「ここは直接ぶつかるしかない」
3日間村の中も外も、領主の館も入れるところは全部入った。それでも謀叛を示す物は何も出てこない。リカバーで怪我を治してから、村人からも完全に信頼されている。ジーザス教の布教も順調に行われているようだ。村人たちは純粋で、隠し事をしているようには見えない。
入れない部屋は領主が臥せっているという部屋のみ。まさか自分の親を幽閉しているとも思えなかった。具合が悪いなら治療しましょうかと申し出たが、返答は寿命を伸ばせるのか、だった。館にある肖像画を見る限りだとかなりの年齢のように見える。
イアンはゴーレムバスターを借りたいと言ったことがあったが、ここにはそのような武器はないという。逆にその武器はどのようなものか聞かれた。ゴーレムのような新しい兵器は、ごく一部の関係者を除けば、同じウィルにいても存在すら知らない人もいるものだ。
「ウィルにはマスコミはないから」
リリアは、単純にそう理解していた。地球人を除けば、マスコミの言葉すら知らないだろう。
●直接的解決法
「おりいってお話がある」
アリア・アル・アールヴが、領主代行とサシで話す。
「この村には妙齢の女性が全くいない。何かあったのでしょうか? エーロン王子がここを訪れた時に、夜伽の女を出さなかったと聞いています」
「出さなかったのではなく、居なければ出せない。どうやらエーロン王子には女がいないことを察して、探りを入れたようです。この村はけっしてフォロ家に謀叛を起こすつもりはありません」
フォロ家? 微妙な言葉だ。エーガン王ではなく、フォロ家とは。
「エーロン王子は、王位を継ぐと決まったわけではありません。我が家はエーロン王子よりも、第二王子のカーロン王子に与する契約をしています。エーロン王子に夜伽の女を差し出すのは簡単ですが、それではカーロン王子との契約に反すると思われる。エーロン王子には女たちがいないことで、諦めて欲しかったが」
「そういうことでしたか」
王族の派閥争いか。事実を報告しておく方がいいな。このことを他の7人に聞かせる。
「そういことか。カーロン王子は、エーロン王子よりは人徳があるという。しかし」
3人の鎧騎士は、他の5人よりもウィルの情勢には詳しい。カーロン王子の派閥、派閥と呼べるほどでないが、良識派は揃っている。それに比べるとエーロン王子の方は利によって結びついている。フォロ家の次の当主にどちらがなるかは、まだまだわからない。劣勢の方に味方して、恩を売りたいだけかも知れないが。エーロン王子の不興を買ってまでするなら結びつきは強いのだろう。
「王家そのものへの謀叛でなければ、あとの派閥争いを勝手にやってもらうしかないのでしょう」
香織は謀叛の証拠を強行突破してでも持ち帰ろうとしていただけに、安堵した。
翌朝、冒険者8人は村を出発した。帰りの馬車はない。もっとも歩いた方があの乗り心地の悪さよりもマシだろう。歩き慣れない地球人にとっては、きつかったかも知れないが。
翌日、首都ウィルに到着すると、冒険者ギルド経由でエーロン王子に報告書を送った。
後日エーロン王子から返答があった。
「エーロン王子は冒険者の活躍にいたく満足している。今回参加した8人には『エーロン王子のしもべ』の称号を名乗る栄誉を与える」
8人の顔に、エーロン王子はやっぱりそういう人だったかという表情が浮かんだ。そしてあの領主へのおとがめはなかった。カーロン王子派の誰かがエーガン王に働きかけたらしい。
「エーロン王子派ってことになるのですか?」
イアン・フィルポッツはそう感じたが、それにより幅を効かせられることも意味していた。いいのか悪いのかはまだわからないが。