冒険者ギルドスポンサー領主会議

■ショートシナリオ


担当:マレーア2

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月12日〜12月20日

リプレイ公開日:2006年12月18日

●オープニング

「冒険者ギルドに加盟する領主たちに、領主会議を開催することを布告してくれ」
 ウィルカップの予選の日程がすべて終了し、年末年始に行われる決勝トーナメントを残すのみとなっていた。その前に冒険者の現状について、加盟する領主たちを集めて運用面での修正を行う必要が生じてきた。
 盟主であるジーザム・トルクから使者が冒険者ギルドを訪れた。
「ペットの問題なら」
 ギルド員はまた再発したのかと恐れながらも口にした。
「ペットではない。問題はゴーレムだ」
 冒険者ギルドに所属する冒険者は、冒険者ギルドの提示した依頼を受けて行動する場合には、武器の所持については加盟する領主の領地を出入りしても個別の許可を必要としない。そのため、加盟する領主が増えるほど、迅速に移動できることになる。
 天界人(地球人)的に見るなら、武装したまま検問を受けずに国境線を越えるというイメージだろうか。
機関銃をもったまま、国際線の飛行機に乗って、相手の国にフリーパスで入国できるようなものだろう。
 領主は領民の安全を保証する上で、本来なら自領に武装して入る者を制限している。
 冒険者ギルドはトルク家が盟主という形をとっているため、かなりの数の領主が加盟している。もちろん、中には冒険者とのトラブルで加盟についての見直しを考えている領主もいるし、すでに脱退している領主もいる。ウィルは一つの国ではあるが、所詮は封建君主制にすぎない。それぞれの領地では領主が領主裁判権を持っている。領民は領主の持ち物であり、移動の自由はない。冒険者は冒険者ギルドに所属することで特権的な権利を持っていることになる。加盟している領主にとっては、トルク家を信頼していることでもあるし、譲歩していることもである。
 しかし、冒険者ギルド発足当時には想定していない状況が出現した。冒険者個人がゴーレムを所有する事実。依頼においてゴーレムを使用するなら、依頼主が移動経路の領主と事前に話をつけることはできるが(ゴーレムを依頼で使えるのは分国王クラスしかいない)、冒険者個人持ちのゴーレムとなると依頼主も事前に話をつけることはできない。そのために合意のために、出発を遅らせるわけにもいかないだろう。事後承諾の形を取ることになる。中には反発する者も出てくる。
「そこで、領主会議を開いて加盟する領主達にゴーレムの通過についても、これまでの冒険者所持の武器同様に移動の自由を認めさせることの包括的な同意をとる」
 これが、今回の領主会議の目的である。
「ウィルカップの開催でゴーレムが正体不明の魔法兵器という認識は消えたと判断しているわけですか」
「大半の領主は、合意するはずだが」
 トルクによるウィルの実質支配の場となる危惧を抱く者も中にはいるが、現状では冒険者をウィル国内で十分に活動できるような条件づくりの場となっているだけだ。
「幾人かの領主は多分反対。しかしエーロン殿下の治療院の活動には、高い移動性が求められる。トルク家からフロートシップが提供される予定であるが、移動の自由がなければ現地に急行することができない」
 治療院の仕事は後れるほど、被害は大きくなる。迅速な対処が必要となる。
「冒険者たちには、反対する領主への説得と会議そのものの護衛をお願いしたい」
「襲撃する者がいるとでもいうのですか?」
 冒険者ギルドは、冒険者街の中にあって安全なはず。
「安全? ゴーレムが門番しているファミレスがあるのか?」
「いや、あれは」
「ゴーレムが通れる道はまだ少ない。畑が荒らされたり、森が荒らされたりするのが困ると思っている者がいる。その対策のために、トルク家からは、その土地の財貨を傷つけないように配慮することが必要とした上で、通行の邪魔だからと勝手に並木を伐採しない。正規依頼であることを示す表示(旗とか吹き流しとか)を使用するなどの条件が事前に出されている。もちろん、盗まれないように管理することも。盗まれたゴーレムがなんらかの事件を起こした場合には、ゴーレムの所有者に賠償責任も生じることになるだろう」
「しかし、ゴーレムを動かせるのは」
「鎧騎士と天界人の一部だが。すべての天界人が、冒険者ギルドに所属しているわけではないだろう。それに冒険者に対して不信感を持つ者も僅かだがいる」
「ペットで揉めたことでしょうか?」
「ゴーレムはペットのように勝手に行動したりはしない。とはいえ、フォルセであった騒動の噂から発生した不信感はあるだろう。現場を見ていない者たちにとっては、噂で聞いたことが事実となる。ギルドへの報告書が偽造される可能性とて否定はできまい?」
「報告書の偽造は、ありえないと思いますが」
「真実は現場を見た者しか知らない。現場を目撃した冒険者たちが、騎士の名誉に誓って証言すれば広まった噂など簡単に否定できる。騎士が名誉をかけた証言に勝てる噂などない」

●今回の参加者

 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4239 山田 リリア(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4248 シャリーア・フォルテライズ(24歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4304 アリア・アル・アールヴ(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4313 草薙 麟太郎(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4326 レイ・リアンドラ(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

エリーシャ・メロウ(eb4333

●リプレイ本文

●偽造はなかった
「遅い」
 冒険者ギルドの前で待ち合わせをしていたのは、オルステッド・ブライオン(ea2449)。ウィンターフォルセの依頼に参加して、その騒動の事実を見ていた。今回、その証言を行うことになっている。いらだたせるのは、待ち合わせの相手。
「ルキナス、早くこい」
「呼んだか?」
「遅いって、女連れか」
「こうしておけば、カムフラージュになる」
「もし仮に偽造があったなどと口走ったら大変なことになるよな? 『偽造はなかった』これが真実だ、それ以外にはない。そうだろう?」
「同情する」
 ルキナスの一言は、騎士の名誉をかけて、ウィンターフォルセで檻に入れなかったフロストウルフが人々をおびえさせて祭を台無しにさせたということをもみ消そうということについてだ。やった人の意図はどうあれ、結果としてそうなってしまった。怪しげな吟遊詩人はいたらしいから、今の報告書でもすべてが偽造ではない。一部、原因がすり変わって檻に入ったいたことになっているだけだ。
「騎士の名誉にかけての証言なら、不安を抱えた領主たちも安心するだろう。ウィルでは騎士の名誉をかけた証言は重い。命をかける以上に」
(「だから同情するのか、偽証だものな」)
 ギルドに入ると、問題の報告書に目を通す。
「そもそも、報告書偽造疑惑などという噂が持ち上がること自体、ギルドの失態だと思わんか? 信用があれば、そんな事は起こらない。今回の領主会議において、偽造が無かったことは私が保証してやる。だが、冒険者の貴方方への信用は、貴方達が誠意を見せて回復しろ」
 それに対して冒険者ギルドの担当者は平身低頭。事実を知る者が聞けばとんだ茶番に聞こえるだろうが、こうでもしなければ真実味がない。双方ともわかってやっている。しかし、誰が書き換えたかは分からないままだ。冒険者ギルドの自浄能力低下につながらなければ良いが、将来に不安を残す。二度と非難されるようなことは、起こしてはならないのだ。

●反対派の領主
「フオロ分国内に多いのか?」
「トルク分国内の領主は、トルク分国王が抑えるだろう」
 キース・ファラン(eb4324)はトルクのロッド・グロウリング卿と接触して情報を受け取って、ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)に知らせていた。依頼を受けて作ったコネクシュンは後々影響してくる。冒険者たちだけでは、開催までに誰が反対するかまで分からなかっただろう。
 この会議を開催するにあたって、トルク分国内はゴーレム移動に条件付きで賛成の方向に意見が整っている。冒険者との接触の少なかったイムン、ササン、ウィエの3分国もおおむね同意方向である。ウィルカップの好印象が大きい。これまでの依頼で冒険者に痛めつけられたことのある領主(ミンス卿のような)は、とっくに冒険者ギルドのスポンサーからは撤退している。
「北部領主たちか?」
「山賊始末に、ストップかけた。結果として、山賊を救出させる準備期間を与えてしまった」
「そのまま絞首刑にさせておけば、冒険者への感謝だけが残ったというところか」
「今更遅いが、彼らにとっては憎む対象が欲しいのだろう。心情的には理解できる」
「被害者の視点を忘れていたのは事実だ」
 アリア・アル・アールヴ(eb4304)は山賊討伐では一番の怪我を負ったが、それでも助命のために動いた。しかし、被害者全員に同じ心境になれと言ってもできるものではない。それは彼のような武術によって自らを陶冶し、肉体の強さに裏付けられた心の強さを体得している極々一部の素晴らしき武人。あるいは心を鍛え上げた聖者と言うべき宗教家のみがたどり着く境地。自らの精神が高みに有りすぎて見逃してしまった過ちは已む終えない。
 それは冒険者の行動が他の人からどのように見られるか考える十分なきっかけになったはずだったが、その後のペット騒動。
「ウィルをとりまく危険性を十分認識してもらおうと考えています」
 草薙麟太郎(eb4313)は王家調査室室長という肩書を持っていたが、正体不明の一党(吟遊詩人クレア)についての情報ははかばかしくない。
「それだけではありません。彼らの反対の原因は不安です。まずはそれを取り除くことが必要です」
 そして4つの考えを提示した。
1.識別旗装着の義務化(所属を明確に)
2.飛行高度制限の制定(勝手に人の領土を偵察しない)
3.環境保全義務(勝手に伐採等しない)
4.緊急避難事項(自衛等の場合の免責事項)
「僕のいた世界では、所属不明機が勝手に領空を侵犯すると撃墜されても文句は言えませんでした。この世界でも自分の領土の上を所属不明機に飛ばれてはいい気がしないでしょう」
 グライダーやフロートシップができてから、ウィルでも領空という概念ができつつある。それは空からの脅威を考えさせられたショアのロック鳥事件も引き金の一つ。あれがゴーレム兵器による空からの襲撃であったら?
「では手分けして、反対派の説得にあたろう。相手の視線に立って不安を取り除くことと必要性、この二つをバランス良く」
 ルエラの掛け声で、キースが得た反対派と思われる領主への説得を開始する。

●カオスニアンへの対策
「これはエーロン治療院の」
 山田リリア(eb4239)は、自分の肩書を最大限に利用して接触を図る。そして天界人の医学知識が悪用されて、人為的に伝染病を流行らせることができる危険を説いた。
「騎士と騎士との戦いなら、一般人には手を出さないでしょう。彼らは自らの寄って立つ基盤です。一般人に手を出せば、後々大きな悪影響を受けるでしょう。食料自給能力基盤を持たない私たち天界人なら、餓死するでしょう。しかし騎士でもなく天界人でもなく、カオスニアンなら一般人を死滅させることに躊躇はしないと思います」
 もし天界人が一般人に手を出せば、どのような影響を受けるか理解していることを示した。そのような愚かな真似はするわけがない道理を説く。

●ゴーレムの盗難対策
「ゴーレムが門番をしてたファミレスの件は、私が店長殿の要請を受け、個人的に王より拝領したバガンを『大きな看板』として門前に固定したのです。いささか勘違いを広めた事は私の不徳にて申し訳無いですが、目的はあくまで『ファミレスの宣伝』という平和利用の為でした」
 シャリーア・フォルテライズ(eb4248)は弁明した。ファミレスは冒険者街にあって一般人は入ってこない。
「固定といっても、制御胞の中に人が入って起動させれば、軛から逃れることもできるだろう?」
「ゴーレムの力ならば容易に」
 シャリーアもそれは認めた。
「ゴーレムには、天界人の言う駆動キーというものはない。起動に成功させれば動かすことができる。盗まれる危険性も考えねばならない」
 もしあの時、何者か悪意ある者がゴーレムを動かしてレフィーナの殺害を企んだとしたら、誰がそれを阻止できただろうか?
「ゴーレムの移動が頻繁になれば、起きる危険だ。その点を証言してもらいたい。便利な道具でも、一瞬で凶器に変わりうる。店長殿は、平和ボケしておられるのか? それとも天界ではそのような道具を使った犯罪や事故は、1件も起こらないのだろうか?」
 穏やかな言葉の裏に、嫌みは感じられない。
「申し訳けありません。考え及びませんでした」
「いや、責めているのではない。天界の常識においてはそうであるなら、我らはウィルにそのような不心得者が居ないと言い切れぬことを恥じ入るのみだ。天界人の高い倫理を学ばねばなるまい」
 シャリーアにとって、いっそ罵倒してくれた方が楽な針のむしろであった。

●災害対策にも
「これまで地理的な要因でギルドへの依頼は地域が限定されてきましたが、通行許可が締結されればより遠方からの依頼が可能となります。大規模な自然災害が起こった場合、グライダーなら被害状況の早期の把握と物資の運搬が可能です。チャリオットならば必要な人員の早急な輸送、人型ゴーレムはそれこそ千差万別に利用可能です。ゴーレムシップやフロートシップならば素早く大量の物資と人員の遠方への輸送が可能でしょう。また強力な魔獣やカオスの勢力の討伐も遥かに被害を抑えることができます」
 レイ・リアンドラ(eb4326)は、利点を説いて回った。災害時に輸送する物資の備蓄や配付手段は後回しにしたが。

●会議開始
「やるだけのことはやった」
 冒険者ギルド内の大会議室では、ウィル王国始まって以来の規模でウィル各地の領主たちが集まっていた。冒険者たちは会場の警護についている。久しく対立している者たちも、会議の提唱者を憚っておとなしい。イムンのドーレン王とて、荒立てる気はない。ウィルカップ予選でトルクに勝ったことで機嫌が良いのかも知れない。
「これはすごい」
 レイはこの状況がフオロ家からどう見られるか考えた。ジーザム王の提唱でこれだけの領主が集まる。冒険者ギルドの運営費用の大半はトルク家から出ているし、冒険者の報酬も依頼人の財力で不足する分は補われている。国王が命じたとはいえ、冒険者の身分保証と保護を行ったのはトルク家。フオロ家が直接冒険者ギルドを運営していたら、これだけの領主たちが参加しただろうか?
「カン騎士団正隊員『暁の騎士』オルステッド・ブライオンは竜と精霊にかけて、ここに嘘偽りなく証言することを誓おう。『報告書』と、私が目にした当日の出来事に相違はない。改竄は行われていない」
 美麗な鎧を着込み、威儀を正して事に臨んだオルステッド・ブライオンは、会議早々に自分の役目を果たした。
 ウィンターフォルセの領主、レン・ウィンドフェザーが欠席しているので、オルステッド・ブライオン以外にあの場にいた者はいない。唯一の目撃者が騎士として証言しているのだから、噂のみを聞いていた者たちは信用した。それほど、騎士の誓いは重いのである。領主たるレンの代理人ルキナスもそれを裏書きした。
 麟太郎はゴーレム移動についての守るべきルールを説明し、シャリーアはゴーレムが盗まれぬように管理の徹底を約束する。
「もし、その領地に損害を与えたら、ギルドを通じて賠償を領主が受け取れるようにする。領民は領主の持ち物だから、個人的に損害を与えた領民に所持金の一部を渡してお詫び代わりにすることは禁止されないが、それによって賠償にはならない」
 キース・ファランが補足した。さらに付け加える。
「冒険者のふりをした偽者に対しては、冒険者が責任を持って掃討する。むろんルールを破った冒険者には相応の制裁が与えられることだろう」

●書簡
「エーロン殿下、お人払いをお願いします」
 リリアは、エーロンと秘密裏に会っていた。
「正面戦力と経済力が競合する勢力のそれぞれ十分の1以下の組織の長の立場に立ったと仮定した場合、殿下がその組織の目標を何に定めますか?」
「謎解きか? 自分の組織を守ることだろうな」
「そのためにはどんなことでもしますか?」
「急にどうした。らしくないぞ」
 リリアは、意を決して口を開いた。もしかしたら、今日が命日になるかも知れない。
「国王陛下が暴走された場合、罹患の疑い有りなどの名目で陛下を拘束し、事実上の廃位に持ち込むことを提案します。使った場合はフオロからウィル国王位が離れますから、あくまでも最後の手段ですが」
 もしエーガン王がそのような事態になれば、国王を選ぶ選王会議が開かれることだろう。現在の状況をみれば王位が誰のところに行くかは分かる。
「これをご覧ください」
 リリアがある人物から預かった書簡を渡した。エーロンはしばらく書簡を読んでいた。
「この書簡を書いた者は、どこにいる?」
「殿下、まさか!」
 判断を誤ったか。リリアは青ざめる。
「ルーカス、集められる手勢は幾人いる?」
 腹心のルーカス卿が、姿を現した。
「20名ほどでしたらただちに、全員帯剣させますか?」
「完全武装させろ」
「殿下、お待ちくださ」
「リリア、一緒にこい」
 リリアはエーロンを身をもって止めようとしたが、逆に腰抱きにされて連れて行かれる。
 エーロンの表情には、後悔が浮かんでいた。もっと早く決断していれば、失わなくて良い人材もいた。

●会議終結
「ここにおられる方々は、今おかれているウィルの状況を理解されたと思う。カオスの魔の手はすでに、セトタ大陸にまで浸透している。カオスの魔物は魔法か魔法を付与された武器しか通じない。ゴーレムは静止状態ではなんら魔法の効果はないが、ひとたび起動すれば全身に魔法が付与される」
「殴る、蹴る、すべてか!」
「つまりカオスにとっては、これほどの脅威はないわけだな!」
 反対派の筆頭と目されていた人物が、声をあげる。
「ゴーレムの移動に制限を加えることは、共通の敵であるカオスを利することになる」
「では冒険者たちが約束したルールを守るという条件において我が領地の移動に同意しよう」
「もう一度冒険者たちにルールを言ってもらおうか?」
 ルエラは、求めに応じて条件を読み上げえた。
「冒険者ギルドの依頼であることを示す識別旗の装備。ギルドの依頼にかこつけて領土の偵察を行わない。移動に際しての環境保全義務。盗難防止などゴーレム機器の管理徹底、もし奪われたゴーレムが犯罪事件に使われた場合の損害賠償。ただし、移動中に攻撃を受けた場合の交戦は免責。私たち冒険者はゴーレムを使用する際、この会議で出された規律を守ることをここに誓います。もし、冒険者ギルドの依頼に見せかけてゴーレムを使う者たちがいたら、冒険者ギルドの名誉にかけて討伐を行う。規律に違反した冒険者は、冒険者が制裁を与える」
「ゴーレムに対抗するのに、騎士道に悖る真似をする輩も出てくるだろう。領内の不逞の輩を討伐するのは、領主の義務。それを手伝ったということだろう。交戦免責は了承だ。やりすぎない範囲で」
 実際に移動が行われれば、想定していない問題も起こるだろう。その時には被害者からの訴えを冒険者ギルドで調査して解決し規律に加える。最終的には信頼できる、信頼され続けることができるか、という問題になるだろう。
「冒険者ギルドは、ジーザム・トルク分国王が後ろ楯、信頼できない理由はどこにもない」
「確かに」
 会議の護衛に当たっているアリアもシャリーアも、ジーザム・トルクというはげ親父の影響力の大きさをあらためて知った。
 冒険者ギルドの依頼におけるゴーレム移動権を獲得した。領主たちもゴーレムが地上を移動できる幅広の道やフロートシップが着陸できる場所の確保などをできるだけ早く整備することを約束する。加盟する領主の数を増えれば、移動範囲を広げることができる。

●エーガン王隔離
「父上、お加減が悪いと聞きまして、ご機嫌伺いにまいりました」
 エーロンはリリアとともに、エーガン王のもとに赴いた。
「機嫌は悪いが、加減は悪くないぞ。ジーザムめ、領主会議などこれみよがしに開きおって」
「リリア、王の顔色は悪くないか?」
「非常にお悪いかと、脈を拝見させていただきます」
 リリアは強引にエーガン王に近づいて手を取った。側近たちが阻もうとしたが、エーロンが邪魔した。
「これは!」
 深刻そうなリリアの声に、エーガンも不安を感じる。リリアがエーガンのみに聞こえるように幾つかの質問をする。エーガンはそれらすべてに頷く。
「エーロン殿下、間違えありません。緊急に隔離を必要とします。側近の方々も感染していると思われます。広がる前に」
「お聞きの通りです。父上、シムの海に浮かぶ離宮にお移りいただきます。側近の方々もご一緒に。感染性が高いので、世間との交流はなくなりましょうが、治るまでの間です。ルーカス、父上と側近の方々をお連れしろ。この病は、うわ言を叫んで暴れることがあるそうだ。離宮に着くまで厳重に、ただし丁重に」
 ルーカスが完全武装の騎士たちを率いて、エーガン王と側近を拘束する。
「心得ております。では陛下、療養にまいりましょう」
「エーロン、貴様。これは簒だ‥‥」
「天界人の医師の見立ては正しい。うわ言を叫んで暴れ出した。症状は進んでいる。城を徹底的に消毒して掃除しろ。病原菌が残っているかも知れない」
 エーガン王が連れだされると、エーロンは書状を書いたリセット・マーベリックに子爵位を与え、今後の活動に期待することを言づけた。
「カーロンと話し合う必要があるな、フオロ家再生はこれからだ」
 捲土重来よりは、臥薪嘗胆の方が良い。