城引き渡し

■ショートシナリオ


担当:マレーア2

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 47 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月17日〜02月27日

リプレイ公開日:2007年02月24日

●オープニング

 選王会議によって、新ウィル国王は、トルク分国王ジーザム・トルクに決まった。そしてフォロ分国王エーロン・フォロより、国王にフォロ城を提供するという発言も行われた。
 トルク分国王が国王となれば、王都もトルク分国王の都であるトルクに移るの普通であるが、これまで長年に渡って王都としての地位を持ってきたウィルから、すべての機能を引き継ぐは時間も資金もかかるであろう。それよりは確実に国王としての機能を持ち各国の大使館のあるウィルのフォロ城を国王としての政務を行う城として使った方が威厳も高く、費用も掛からない。エーロンの提案が願ったりかなったりのものだったが、その代わりにフォロはそれまで日のあたらなかった場所も含めてすべて掃除してから引き渡すという苦労が加わった。
「あちこちにとんでもないものがあるな」
 まずは価値のある物から運び出し、次々と古い倉庫などを調べていく。
「地下牢の中には、3年以上も閉じ込められた人がいました」
「よく生きていたものだ」
 酔狂なエーロンからみても、異様なものがあった。
「地下室の一角でこのようなものがつみ上がっておりました」
 何に使ったものか、指先ほどの大きさの穴が穿たれた頭蓋骨が持ち込まれた。
「カオス以外にも厄介なのがいたようだ。ランの武術の中には、こんな技があると伝え聞いたことがある。しかしこの目で見る事になるとは」
 さすがのエーロンも顔色が変わった。エーロンなら粉砕することはできても、このように穴を穿つことはできない。幸い古い物のようだからこれを穿った者はいない、と思いたい。
 長年王城になっていると厄介なものは一杯出てくる。
「このままでは、人手がたりません」
 上の部分の掃除なら領民もつかえようが、頭蓋骨の始末となると。まだもっとでてきそう。魔獣もいるかもしれない。
「冒険者ギルドに王城のスイーパーを雇うという募集を出す。狭いところでも動き回れて、強力な敵とも戦えるような。礼服も用意しておくように。城引き渡しの式典には出席してもらう」
 城を引き渡すという歴史的行為に立ち会う名誉が与えられるというわけである。

●今回の参加者

 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1681 マリウス・ドゥースウィント(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea2766 物見 兵輔(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5876 ギルス・シャハウ(29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb2259 ヘクトル・フィルス(30歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb4340 サトル・アルバ(39歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 ec0996 滝川 流一(43歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●王城は大騒ぎ
「この人数は、いったい何ですか?」
 マリウス・ドゥースウィント(ea1681)は、指定された時間に王城に出向いたが、あまりに大勢の人たちが掃除を行っているので、驚きの言葉を口にしてしまった。人手は足りなかったはず。呆然としている彼にギルス・シャハウ(ea5876)が話掛けてきたきた。
「食事と休憩室それに寝床まで用意してあるそうです」
 もっとも冒険者のところに出前してくれるわけではないから、食堂までいかねばならない。いける状態であればいいが。
「骸骨があるそうだから、しっかり供養してやらねば」
 ヘクトル・フィルス(eb2259)は、神聖騎士らしいことを言った。葬られる者とは、絶対に宗教は違うはずだ。死人に口なし、葬られる方式に文句は言えない。アンデットにさせないことの方が、意味合いとしては大きいのだ。
 テュール・ヘインツ(ea1683)とサトル・アルバ(eb4340)は、出身世界は違っても同じパラ同士。一緒に行動すると意気投合している。そういえばサトルは東洋系らしいけど。
「ランの武術のこと知っている?」
「全然知らない」
 武術で有名なのはラムだが、ラムの国情でそこから逃れた一部がアトランティスのあちこちに移住していることはある。ルーケイの南にオリザを産する地があるが、そこにオリザの栽培を伝えたのはサンかラムから来た人だろう。歴史の古い国でしかも群雄割拠しているようなところでは、外にどのような形で伝播するか分からない。それはおそらく、現在のラムの流派からすれば、邪道と呼ばれる。実際に頭蓋骨に穴を穿つようなことを邪道と言うなという方が難しい。つまりそのような者たちの存在をエーロンは知っているということだろう。単に記憶違いという可能性もあるが。
「俺はこっちに来て間が無いから良く分からないけど、武術ってカンフーみたいなものか」
 滝川流一(ec0996)は所持金なしということで、装備もほとんどない。
「そのカンフとかの達人でなければ、絶対に前に出るなよ。はっきり言って、こっちの世界は地球という天界ほど安全じゃない」
 物見兵輔(ea2766)は、諭すように言った。アトランティス人から見れば同じ天界でも、世界に違いはある。地球からアトランティスにやってきた天界人は、保護される前に命を落している者が多いという噂がある。地球でなければ手に入らないアイテムが、多数流通している。それを持っていた者たちは? 冒険者の数は、はるかに少ない。その差はどこに行ったのか?
「この『紙』(紙幣)売ればなにがしか用意できたでしょう。それに礼服は? あれ、ルクスとセシリアも礼服用意してきていないじゃない?」
 ディーネ・ノート(ea1542)は、式参列のための礼服を用意してきていない3人に気づいた。ディーネとサトルは1着余計も持ってきているが、サイズはどう見てもあいそうにない。基本的に服には既製品はないため、地球で言うオーダーメイドの扱い。同じくらいの体型ならともかく、ディーネとセシリア・カータ(ea1643)は身長もスタイルも違う。
「よくぞ来てくれた冒険者たちよ」
 エーロンがやってきて、詳細の説明に入る。
 冒険者の担当地域は、地下にある土牢として使った区画と地面むき出しの地下エリア。
「地上部分は、これだけ人手があれば足りる」
「一体どこで、しかも 勤勉ではありませんか」
 全の顔に、必死の表情が見えている。
「マリーネ・アネットがオスカーを出産する時に騒ぎを起こした者どもだ。牢に入れておいても飯代がかかる。そこで掃除を命じた」
「小学校レベルか!」
 流一は罰掃除を思い出す。
「王城だけではない。解放後はウィルの市街地も毎日掃除させる」
「かわいそう」
「何が、かわいそうだ? 自分たちの住んでいる街を綺麗にするのは、当たり前だ。病が蔓延して困るのは、自分たち自身だ。奴らとて受益者の一人だぞ」
 ウィルの衛生状態は非常に悪い。病気が発生すれば蔓延手段には事欠かない。ウィルには地球の医師法のような法律はもちろんなく、気に入らない患者は診てもらえないことだってあり得る。さらに、診てもらうには金もかかる。薬も高い。健康保険制度もない。さらに医療水準もまだまだ低く、罹患してからでは手遅れになる場合が多い。医療技術が進んでいる地球でも、自分で触診して分かる段階の乳ガンは手遅れになる場合が多い。エーロンも治療院の院長という立場上、天界の医学を学んでいた。今ウィルがどれだけ危険な状態か理解しつつあった。
「地球とやらでは、予防医療が重視されていると聞く。まずは金の掛からないことと自覚を持たせることから行っていく。ウィルには妙な歓楽街はないし、夜は他にする遊びがないから、出生率は高い。しかし出産直後の病での死亡率も高い。生まれたばかりの赤子に死なれて嘆く親の姿を見たくない。話はずれたが、地下エリアは以前は城で使う水をくみ上げていた井戸に通じていたらしい」
 川は近いが、籠城となれば、水源は別に必要になる。地下水脈が空洞になったためにできた地下のエリアらしいが。そこに地下牢の一角が通じていた。おそらく、最初は脱獄したのだろう。掘った後があった。それがいつのまにか、城の地下の一角として使うようになっていた。
「俺とても先王から引き継いで日が浅い。古くて王家にとって厄介な部分は、記録にも残されていない場合が多い」
 古いものではパーストで探るにも、どれだけ時間がかかるか。調べ上がる前に老衰死しかねない。それほど古い。
「これもそこで発見されたものだ」
 エーロンは、穴の穿たれた頭蓋骨をヘクトルに渡した。
「見事な穴、じゃなくて。アンデットにさせないためにも弔ってやらねば。場所をいずこかに」
 ヘクトルは頭蓋骨を受け取っても平然と観察していた。
「郊外の一角に土地を用意した。ただし、埋葬する前にすべて粉砕しておけ」
 エーロンは、冷たく命じた。
「陛下は、この者たちに怨みでもおありになのかな?」
 ギルスは、わざとエーロンに聞こえるように言った。死者に鞭打つようなことをわざわざ命じる。クリレックとしてはセーラ神の教えに反するのではないかと思って、口に出てしまった。
「聞こえているぞ。今回は初めてウィルに来た天界人もいるから、説明してやる。頭蓋骨は、かなりの年代物だ。埋葬後に掘り起こされて、好事家どもの居間を飾る装飾品として使われかねん。儲かると分かれば偽物を出回らせるために行方不明者が出るような事件も‥‥」
「わ、わかりました」
 ギルスもエーロンがなぜ粉砕させるように言ったのか分かった。遺体を傷つけるのが目的ではなく、装飾品としてさらされるのを防ぐ。さらには物が限定されるだけに偽物を作らせないための措置だと。王城から出てきたということは、罪人としてもただの罪人ではない。出生を嫌われた者かも知れない。グロテスクと一部には思われるだろうが、隠れた王族の髑髏を飾ることにシテータスシンボルを感じる者も居る。
「どこかの子供を浚って殺して、レズナー王の若い頃の頭蓋骨などが出回ったら困るだろう」
 エーロンはそう言った。そんなことはないのだが、その程度の見せ物がこのあたりにはあるのだろう。地球でもかつて、死体解剖のために浚われた無辜の人たちが新鮮な死体にされたこともある。高々ヴィクトリア女王の時代である。もっと古い時代には万病に効くミイラを造るために殺された人も。いやいや、臓器移植のために殺される者が現代にだって存在するのだ。
「あの陛下。陛下の言動には無茶、無謀、無神経なことが多いのですが、その意味するところは深く、先々まで考えていると思います。その理由も合わせて命じれば陛下は」
 マリウスは会った事は無いが、賢王レズナーの再来と誰もが認めるのではないかと言おうとした。
「ずけずけ言ってくれる。無茶、無謀、無神経の三無主義か。誤解は今に始まったことではない。それでも着いてくる者ならば、同じ視野を持つ者か信じてくる者だろう。そのような者を選んだ後、重責を任せる。口での奇麗事だけではどうにもならん。ということで、掃除道具と武器を持って頑張ってきてくれ。古井戸にはロープも垂らしておく。簡単に出入りができるようなら塞がねばならないから、終わった後にでも昇り降りできるか調べてくれ。地下牢の一部を封鎖して水没させるという手もある。礼服がたりないそうだな。足りない奴は、掃除前に採寸していけ。空に普通の礼服を作らせる」
「普通の? 空って誰?」
「城引き渡しに、ゴスロリってわけにもいかないだろう」
 空雅子は、ウィルにゴスロリファッションを導入した天界人のデザイナー。セシリアはともかく、ルクス・ウィンディード(ea0393)と流一は困るだろう。
「朝食と夕食はこの者たちと一緒に食堂に用意させておく。掃除する範囲は広い、無理して途中でへばらないように」

●地下へ
「テュール、見える?」
 サトルはエックスレイビジョンを試しているテュールに尋ねた。
「汚れ具合は、分からない。それよりも暗い」
「そうじゃなく、危険な生き物がいることを警戒していたんじゃないのか?」
「それもある。でも暗くて見えない」
 エックスレイビジョンを使わずとも、扉を開ければ良いだけの事だ。どうせ開けなければいけないものだ。
「誰もいない」
 サトルが扉を開けて入ると、魔獣はいなかった。
「地下牢の捜索は終わっている。掃除をやってくれ。流一、二人を手伝ってくれ。力ならあるだろう」
 ヘクトルは後方の確保を3人に任せる。万が一の場合には後方に3人がいるのと居ないのとでは違いが大きい。3人も意図が分かったのか、おとなしく従う。
「暗い場所で男女でいると‥‥何か出るって話あったよな」
 ルクスは真顔でいう。暗いというよりも真っ暗。
「ちょっと怖いこと言わないでよ」
 周囲を警戒していたディーネが文句を言う。
「大丈夫です。ほら、神様がじ〜っと見てますよ〜。頑張ってくださいね〜」
 ギルスが、ホーリーライトで周囲を照らしだす。地下エリアはかなり奥が広い。警戒するのも分かる。ここが完全に水没していれば敵の侵入もあり得ないことになる。魔法を幾種類か駆使すれば、侵入できない事も無いが、それで運べる人数は限られる。
「どうやら、掃除にはそういう意味も含まれるようです」
 マリウスは箒を持つ手に力を込めた。
「力入れ過ぎると、壊れます」
 セシリアが注意するのが遅かったか、マリウスに力一杯握られた箒は、壊れてしまった。
「何か居ます」
 ディーネが闇の中の動く気配を感じた。
「バケモノか? 一発で決めてやる」
 ルクスは思わず前に出た。
「アンデットではありません。少なくとも生きています」
 ギルスがデティクトアンデットを唱えるが、反応はない。
「あれ? 倒れた」
「人、じゃないですか?」
 警戒して近づくとやっぱり人だった。

「‥‥で、森を歩いていたら落ちて気づいたらあの穴ぐらにいた、そういうことか?」
 保護した人は、地下を1週間くらいさまよっていたらしい。暗い穴の中では正確な時間は分からないならそれぐらいだということだ。最初こそ食料もあったし、松明もあったが、地下では方向感覚が迷った上げく。空腹で倒れてしまった。誰から近寄ってきたので最後の力を振り絞って立ち上がったが、すぐに倒れた。さっそく城の連れて行って手当てを頼む。外傷はないから、疲労と空腹のみ。
「つまり道さえ分かれば入り込めるというわけか。抜け道には使えるかも知れないが」
「あ、それから、その人によると、奥の方で魔獣のようなものを見たそうです」

●奥へ
「これは?」
 ディーネは地下の壁の一角に水を感じた。
「どうした?」
 マリウスが周囲を警戒しつつやってくる。そろそろ魔獣がいたというあたりだ。手には新しい箒が握られている。魔獣を倒したら掃除する。
「たぶん人工的なものね、ここを崩せば水が出てくるかも知れないわよ」
「この状況でか?」
 ルクスはここでそうなったら、間違いなく水死するだろうとは思えた。出口になっている地下牢まではいけない。それはそれで、しかし水死は醜いらしいからぞ。
「何か聞こえませんか?」
 セシリアが、耳を済ます。
「どのくらい城から離れたと思う」
 ギルスは兵輔に尋ねた。暗いところなら彼の方が慣れているはずだ。
「たぶん、市街地はもう越えている。地下水脈ならもっと延びていても不思議はない」
 その水脈がここでせき止められていた。いったい誰が?
「陛下に聞いてみるのが一番だが、その前にお客さんの相手だ」
 ヘクトルが得物を構える。その視線の先には巨大な影があった。
「こいつが魔獣か?」
 ルクスが突っ込む。しかし。

「いきなり、暴力はいけません」
「話せば、わかります」
 魔獣だと思っていたのは、エーロン王の就任を祝いに来たオーガの二人組だった。ウィルでは会話が成立するオーガは蛮族扱い。人を襲うなどして構えて敵対しなければ共存も可能な種族である。彼らと積極的に交易して利を築いている諸侯もいる。
「いつからここにいるんだ?」
「大きな蛇がいたので、食料はどうにか」
「それってつまり」
 ディーネは、目を丸くする。最初に保護した人が見た魔獣は、すでに全部この二人のオーガによって食われてしまったらしい。
「ねぇねぇ、それおいしかった?」
 テュールが好奇心旺盛に、聞きに来た。
 オーガたちを案内して地上に戻った。
「背に腹は代えられないと言います」
 カロリー補給には、なったらしい。
「ここの料理、とってもおいしいです。でも就任祝いの品なくしました」
「気を落とすな。今あの地下を掃除している。そのうち見つかる」
 ヘクトルが身を小さくしているらしい。オーガを元気づける。
「手伝います。あれを無事に陛下に渡さないと長老に怒られます」
 残りの期日、オーガ二人を含めて掃除が始まった。しかし、エーロンへの献上品は見つからなかった。
「後はこれだな」
 地下から井戸に向かってロープが延びていた。
「これを伝って上がってみるか?」
 サトルが上を見上げて呟いた。
「俺ならこんなの簡単に」
 兵輔はそう言ったが、忍者の彼を基準に考えたら大変なことになる。

●式典
「サトル、大丈夫か?」
 サトルはどうにかロープをよじ登ったが、登った井戸の上では慣れない者たちが水をくみ上げようとしていた。そして登ってきたサトルの頭を、桶が直撃した。そしてそのまま地下まで落下した。ギルスによって回復させられたが、一時は危なかった。
「全員礼服着用」
 あれだけあった調度品はすべて持ち出され、床も壁も綺麗に磨き上がっていた。
「サトル、王城を引き渡すってあることなのか?」
 流一が尋ねた。
「多分、初めてだと思う」
 式典は重苦しい雰囲気で行われる。エーロン分国王よりウィル国王であるトルク分国王ジーザム・トルクにフオロ城引き渡しの通告とともに、急遽作らせた人間大の鍵がフオロ家の赤備騎士団のゴーレムによって運び込まれる。それをトルク家の紺碧騎士団のゴーレムが受け取る。人間大の鍵は城門の鍵を意味するものでありそれを大きくすることで、内外に知らしめる意味がある。それで式典は終わった。
「緊張した」
 流一は礼服を脱いだ。地球の生地に比べると違うので戸惑う。ウール100%はともかく、生地の製法技術はまだまだ未熟。
「そういえば、あのオーガの二人組は?」
 式典にはやっと間に合った彼らなりの礼服を着て出席していた。狂王の酔狂だろうけど、彼らにしてみれば、そんな扱いを受けたことはない。存外の喜びだったようだ。
「陛下が部族に戻したわ。贈り物を無くしたから仕えると言って揉めたらしいけど。もし何かあったら一族率いて助けにくるって」
 ディーネは、一騒動あったことを伝えた。
「何人いるか知らないが、エーロン陛下はオーガの精鋭を手に入れたわけか?」
 ヘクトルは呆れたように行った。小細工は出来ないが並みのオーガでも熟練した兵士以上の働きをする。
「食わせるのに大変だから帰しただけだ」
 エーロンは城を仰ぎ見た。
「去りがたいですか?」
 セシリアが問いかける。
「いや、これからも来ることはある。それに感傷に浸っている余裕はない」
 エーロンの言葉はこれからの波瀾を予期したものであったかは、まだわからない。