静かなる〜解放への一歩
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■ショートシナリオ
担当:マレーア2
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 99 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月24日〜02月27日
リプレイ公開日:2007年03月03日
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●オープニング
「王都上空およびその周辺の飛行を解放することについて」
選王会議当時、王都上空は先王の定めた規制によってグライダーの飛行は事実上できなかった。地上から攻撃を受ければ上空にしか逃れる方向はなく、もし上空に逃れれば退位した先王の定めた王命とはいえ、有効なものを破ったとなれば処罰の対象となる。あえて受けて墜落するわけにもいくまい。攻撃を受ける前提で飛行するなら確信犯と解釈される。まして選王会議で分国王たちが足を引っ張る材料を探している時ではなおさら間が悪い。依頼人に不利な行動をとれば、冒険者の評判も落ちる。王命とは軽々しいものではない。もっとも先王がウィルの民のことまで考えていたかは、かなり疑問だった。いずれにしろ、冒険者にそのような不幸を出さないために、飛行を完全に禁じることになった。国王が変わって規制解除の方向で進んできたが、クリアしなければならない問題があった。
「城はトルク家に引き渡すが、それ以外のウィルはフォロ家の領地であることには変わりない。実はな」
先王時代に長らく開かれていなかったが、エーロン体制になって以降月に1回とはいえ領民の意見を聞く場が設けられた。そこでグライダーの飛行が増えることへの不安も出されていた。
「事故はいつでも起こりうる。保障うんぬんはともかく、身内を失った者は」
怨みを募らせるだろう。そこに付け入る者がいる。マリーネが出産の時に起こった混乱もそのような怨みが付け入る隙を作ったことだろう。純朴で善良な者ならば簡単に付け入る隙はできない。一般の者はほとんどにおいてそうなのだ。
「市街地については、グライダーが飛行する範囲の住民の安全をいかに守るかは別の課題として」
その問題は空戦騎士団で対策を進めている。一度下駄を預けた以上、エーロンとしても結果報告を待つばかり。
さて、実はもう一つの隠れた問題が提示されていた。エーロンの元には地球と呼ばれる天界においては、空を飛行する乗り物によって牛の乳がでなくなったり、豚肉の味が落ちたりしたことがあるという助言が上がってきていた。治療院の医師は、当然のことながら天界人が多い。各分国王との選王会議での約束もあり、治療院の規模拡大と分国だけでなく、各地にも、同じような施設を作って天界の医療をウィル全土に広げるための準備をしている最中にであった。
厳しすぎる規制のおかげで、未だかつてそのような話は何一つ発生していないが、その方面の知識については地球人達が熟知している。彼らは100年以上の飛行機の歴史を持っているのだ。決して疎かには出来ない貴重な助言である。為政者として対応を怠って良いわけがない。
「万が一にも牛の乳がでなくなるとしたら、最悪だ」
ウィルの近くにはフォルセがある。そこの乳製品は、ウィルで好評を得ている。その原材料が途切れれば不満も起こるし、なによりフォルセが困る。名目上とは言え、フオロの一族が領主であるフォルセに要らぬ問題は創りたくない。万が一にもフォルセが背けば、フオロとしては鼎の軽重を問われることと為るであろう。
「原因が音なら、音の出ないグライダーを開発させれば良い」
原理は問わない。
ゴーレムの下賜が決まった後、かなり以前からエーロンはその要求をトルク家のゴーレム工房にしていた。そしてトルク家がウィル王位を得た選王会議の後、やっと試作機が完成し、ウィルの城壁の外において、トルク工房より開発された試作品の実験が行われる運びとなった。
「当日は俺も見に行く。グライダーの操縦者だけでなく、万が一にも家畜が暴走しないように家畜の扱いになれた者や民衆の交通整理の得意な者が必要だ」
当日は多くの家畜が、集められる。グライダーがエーロンの要求した性能どおりでなければ、暴走の危険もあると助言されていた。
「軍事を優先すれば空戦騎士団は喜ぶだろうが、民は不安がる。民を守る護民官は民よりの立場を取らねばならないから、護民官と空戦騎士団が対立しかねない。一方立てれば一方立たず。職務を全うさせるためにあたら有能の士を無用の反目させるのは問題がある。こういう時には知恵袋が欲しいところだ」
ゴーレム技術は最近の物である。このため今まで起こったことも考えたこともない問題が発生しうる。幸い今回、騒音問題が全く問題にならぬ前に芽を摘むために動くことが出来た。
エーロンは技術的にどうにかできることから始めたのだ。
●リプレイ本文
●新型
「新型機に関われるとは鎧騎士冥利に尽きる」
シュバルツ・バルト(eb4155)は張り切って指定された場所に意気揚々と向かった。
「消音仕様の新型グライダーか‥‥風切り音はどうしても出るだろうが、それを差し引いても充分価値のある機体だな」
市川敬輔(eb4271)も新型と聞いて、その静粛性がどの程度か疑問ながらもやってきた。
「初心者にはサポートがつけてもらえるんだろうな」
伊藤登志樹(eb4077)はゴーレムではかなりの場数を踏んでいるもののグライダーは初体験。
「安心するのじゃ、即死以外なら回復させられる」
ヴェガ・キュアノス(ea7463)は一歩離れたところで、登志樹に言った。
「いや、そっちの方ではなく(上空から落ちたら多分即死じゃないか)。ってなんで離れていく?」
登志樹が近づく倍の歩数分ヴェガが離れる。
「ウィルカップの参加者から聞いたのじゃ、登志樹はセクハラ男じゃと。女は近づくのは危険だそうじゃのう。セーラ神の力によって問題ないとは思うのじゃが、言ってくれた人のことを軽んじるのも悪いのじゃ。ところでそのセクハラ男というのはどういう病なのじゃ?」
ヴェガは、本気で心配していた。
「いやセクハラというのは病ではなく」
と言い掛けたところで、邪魔がはいる。
「立派な病気よ。地球で発生したとっても恐ろしい病なの。きっと死ぬまで誰にも治せないわ」
と、加藤瑠璃(eb4288)が真顔で冗談を言う。もちろん、冗談だと分かるのは地球人のみ。草薙麟太郎(eb4313)も笑いを堪えている。
「何を言う。セクハラは男のロマンだ」
そこまで言われれば、と逆に開き直る登志樹。力説してみせる。
「とりあえず、すぐに死ぬ事はなさそうじゃな。エーロン陛下の治療院で診察を受けた方が良いじゃろう。治らぬ病なら他人うつさないようにするのじゃ」
ここはウィルの市街地に隣接する土地。そこにフロートシップの発着所から荷馬車が6台ノロノロと近づいてくる。荷台の上の覆いを取り去ると、それぞれ1機のグライダーが載せてある。可変翼の一番後ろまで後退させて一番コンパクトな状態にした上で荷馬車に積まれていた。
「こちらは新品だが、従来のグライダーでしょう」
リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)は一番近くにあったグライダーを眺めてみる。今までの訓練で使った物と同じに見える。
「静粛性を求めての改良が操縦性など他の性能にどれだけ影響を与えているか?」
リュード・フロウ(eb4392)は新型を思える方に近づくが、外見上はさほど変化はないように見える。
「グライダーを使うとなるとここでも城壁から近い」
エリーシャ・メロウ(eb4333)は、周辺から呼び集められる家畜の群れを見ながら城壁との距離を考える。エリーシャは空戦騎士団副長という立場にある。しかし、選王会議の依頼を受けた空戦騎士団の3人の要職者のうち唯一グライダーの使用を言い出さなかったとして、分国王らから評価されていた。
「けっこう多いじゃんか」
オラース・カノーヴァ(ea3486)は、集められてきた家畜の数が予想以上に多いのでやや不安に感じた。
「50頭ぐらいだと思っていたのによ。これじゃ」
すでに200頭以上が、あちこちウィルの近郊から集められている。
「実験に参加する冒険者か?」
声を掛けてきたのはグライダーを運んできたゴーレムニスト。
「今回はフオロとトルクの共同開発ということになる。その点についてよく留意し、間違ってもここで知り得た情報は公開しないように。と、ジーザム・トルク国王陛下から厳命されているので伝えておきます」
ゴーレムニストの名前は、プレムと名乗った。
「エリーシャ、知っている?」
トルクと関係が深いエリーシャならば、知っているかとリュードが尋ねたが、エリーシャも工房までは知らない。他の分国に比べてもトルクはゴーレムニストの数が多い。
「グライダーの経験があるようですが、今回の実験の都合上、グライダーを理解しておいたようが良いと思われるので説明しておきます」
グライダーに限らずゴーレムは風、火、地、水の4種類ゴーレム魔法をすべて使って作製される。グライダーは集積された精霊力によって風をコントロールして飛行する。その方法は基本的には天界(地球)の垂直離着陸機に似ている。決定的に異なるのは、グライダーは揚力だけによって浮かんでいるわけではないという点。
「風を下に吹き出すことによって上昇し、高度を維持しているということですね」
麟太郎は自らも所有しているグライダーについての原理を理解した。
「逆に言えば、翼は安定翼としての役割しかないというわけか」
敬輔が翼の役割を簡略化する。それ以外にも姿勢制御や方向転換の一部を担っている。噴射口そのものの方向をある程度変更したり、左右の吹き出し口からの噴射によって平行移動に近い芸当までできる。見た目こそ空を飛ぶという点で同じものの、進化形態としては地球の飛行機とは大きく異なる。
グライダーは、航空力学はもちろんのこと揚力という概念すらない世界で作った飛行兵器であった。
「装備なしなら3人くらい乗れるだけの力がある。それだけの風を吹き出すということは」
単純に考えるとかなり大きな音を出す。
「科学技術だろうが魔法だろうが、風を発生させる以上、振動する媒体があれば音は出るってことかしら」
瑠璃はそのように言った。
「そうだろうな」
登志樹も同意する。内燃機関の振動音が大きいと思われがちだが、プロペラ音などの推進関係の音の方が大きい。最大速度が速いほどその音も、また本体が風を切る音も大きくなる。
「それだけではない。冒険者の皆にはすでにトラブルも過去に起こしていることで理解しているとは思うが、アトランティスには地球にはない。飛行型の魔獣が存在している」
動物は視覚よりも聴覚が発達する。障害物の多いところでは、どんなに目が良くても視認した時には間近にいすぎて間に合わないことが多い。障害物があっても音なら聞こえる可能性は高い。
「さらに言うなら」
地球には、グリフォンもロック鳥もいない。しかしアトランティスにはそれらの捕食者が存在し、家畜の済む地域にも出現しうる状態にある。ウィルの冒険者街にもいるわけであるし、彼らがどこで餌を狩っているかは、神のみぞ知る。つまりアトランティスにおける家畜の空からのプレッシャーは地球よりも遥かに高い。同じ地球人でも空爆にさらされている国と平和な国とでは上空からの音に対してかなり違うだろう。
「今まではグライダーの数も少ない上に、滅多に飛ぶこともなかった。飛ぶとしても地上に影響しない上空や戦場ならば、影響される範囲を越えていた。しかし、もし今後王都上空を頻繁に飛ぶようになると、その周辺地域上空も飛ぶことを考慮しなければならないというのが、エーロン陛下のご意向でした。できる限りのことはしたと思っています」
「しかし、エーロン陛下はどうして?」
シュバルツは疑問を口にした。とかく噂のある人物という印象がある。
「王都上空の飛行についてはともかく、いろいろ利害関係がありますから。地球での騒音問題の報告を受けてアトランティスでも起こる可能性があると考えたのでしょう。グライダーに乗っている鎧騎士や天界人たちでは風圧によって聞き取りにくく、自分のグライダーの発している音も理解していないし、その多くは市街地以外で経験を積んでいるから、音が与える影響に無頓着になっていきます。慣れというものです。グライダーの騒音で、牛が乳を出さなくなった場合を心配していたようです」
ウィルの市街地には、さほど家畜がいるわけではない。しかし、その周辺ではウィルの食事情をまかなっている地域は当然多くの家畜がいて、休耕地で放し飼いになっている。夕刻になれば家に入れて、朝は乳を絞ってから外に出す。絞った乳はウィルの食の一端を満たす。フォルセの復興では、乳製品が要となっている。グライダーによる騒音の影響を受ければ、フォルセの復興は頓挫しなねない。形式上とはいえフォルセの領主は先王が養女にしているから、エーロンから見れば義妹ということになる。
「優しい兄貴じゃんか」
オラースはそう言ったが。
「半分はそうじゃろうが、もう半分は食料難になったウィルの心配じゃろう。少しは義妹のことを心配しているかもしれんのう」
しかしエーロンなら先王が行ったように、復興資金をあちこちの領主から取り立てるようなことはしないだろう。その結果、フォルセが困ったことになる。そして王都の食糧事情も‥‥。
「事情はわかりました。言われてみて初めて分かりました」
シュバルツは理解したと思った。
「暴走に備えて柵を作りたい」
オラースは周辺を見渡した。王都の城門から延びる道には王都に物資を運び入れる人が移動している。ここに暴走した家畜が突っ込んだ大惨事になる。
「最悪の場合は、牛でも馬でもぶった切る。代金払えば文句はないだろう」
オラースはそう言ったが、たちまち怒声が飛んだ。
「ふざけるな。一頭でも怪我させたら、縛り首にするぞ」
素っ首叩き切ると言わないあたりは、本気のようだ。剣による斬首は貴族のみ。平民の処刑方法は、縛り首。騎士身分として殺してやらないということだ。
「暴走させないために雇った冒険者が、暴走させたあげく家畜を殺したらどの面さげてウィルの街を歩ける。まずは、通行人に被害者がでないように通行を制限することからだ」
「あいかわらず容赦がないのう」
ヴェガやエリーシャにはエーロンの言葉の裏が分かるが、他の者たちには通行人を守るという冒険者の正当行為をいわれなく罵声されたように聞こえた。
「巻き込む可能性があるなら通行人を止めれば良い。それを行わないのは怠惰。家畜を殺せばそれによって首都の乳製品価格が高くなって庶民の生活が困る。さらにこれからの犂入れの前に家畜を失えば畜力によって成り立っている農業は打撃を受ける。場合によっては、収穫までなくなる者も出てくる。家畜は家畜本来の価格以外に生活の手段でもある。さらに家畜は増えなければ買えないし、手放さない。つまりすぐには補充できない。ほんの数匹殺しただけでも、どれだけ影響が出るか。後々のことまで考えての言葉だ」
エリーシャが解説した。
「言われてみればそうだな」
敬輔が感心する。
「麟太郎か。レーガー卿は当分エーザンに付けて泳がせる。何をやるか見張りを付けてその後判断する。もし尻尾があっても簡単には出さないだろう」
「ではその後に」
麟太郎は簡潔に言った。周囲にあまり知られたくはない。
「さっそく初めてもらおう」
●実験
ヴェガとオラースが通行人を完全に遮断してしまう。依頼主がエーロンとあれば、逆らう者はいない。まして、従わず勝手に事故に遭ったら自己責任の死に損と言われたならば。そして城門をしっかりと閉める。
準備をしている間に他の者たちは、新型グライダーの説明を受ける。違いということはない。怖いのは静かすぎることだ。風が吹き出す振動はする。でも静かだから、感覚がつかめない事もあり得るとか。
「騒音には、腕の差はあまり出ません。差が出るとしたら、よほど腕に差があるか、動転してしまっているか。音を静かにするのも、何らかのゴーレム機器の能力のように思えた。
「登志樹、エリーシャ飛んでくれ、複座で。次は麟太郎とリュード‥‥」
「できれば、いえなんでも」
初心者の登志樹ならエリーシャでないと乗せられないかも知れない。セクハラという病は怖いが、騎士たるもの恐れてはいけない。一人が操縦し、もう一人が地上の状態や高度に気を配る。音が聞こえなくなることで感覚が変わってくるから、間違って地上に激突という可能性もある。
「エリーシャ、あぶなそうだったら、グライダーの下に登志樹を縛りつけておいたら?」
リュドミラが真顔で提案する。セクハラが病としてウィルで認定されてしまったようだ。
「冗談じゃない。絶対にセクハラなんかしません。騎士の名誉に誓って」
そこまでいうと、エリーシャも多少緊張をほぐす。次々に実験が開始される。
「どうだ?」
全員が新型を乗り終えてからエーロンが尋ねた。
「慣れるまで、時間はかかりそうだ」
まるで聴覚を塞がれたような、平衡感覚が鈍くなったように感じる。
「音が静かだということは、耳の奥のなんとかって器官が影響されるのだろう」
「三半規管?」
「そう、それだ」
瑠璃がいうとエーロンが思い出したように言った。
「家畜には全く、影響ありません。のんびりとしたものでした」
一番最初に体験した登志樹はずっと家畜を観察していた。シュバルツの操るグライダーはかなり高度を下げて飛行したが、それでも影響はなかった。
「提案があります」
新型にわくわくしていた麟太郎が、静かになったことへのデメリットを言う。
「接近がわかりません。受け入れる側で接近に気づかずに、事故が起こる可能性もあります。それと戦場では威嚇効果がありません」
「墜落対策にはグライダーにも、専用のパラシュートを装備したらどうでしょうか?」
リュドミラも、提案を言った。
「新人教育も結構大変だ。グライダーを大量に導入するには、専門の養成機関が必要になる」
リュードはそう言ったが、ウィルでも騎士の数は限られる。家柄の問題もあるが、経済力の問題もある。今の騎士学校は費用がかかる。
「いろいろ参考になった。ところでパラシュートというのはどうやって。どのくらいで開くのだ?」
エーロンが興味を持った。
「グライダーの場合どうかな。低空では開く前に地上に落ちる。今までのグライダーの運用を見ていると、パラシュートで助かるのは、むしろ少ないだろう」
性能の低下がなく、むしろ向上しているような気がする敬輔は、天界人としての意見を言った。同じ天界人でも瑠璃はパラシュート賛成派。
「運用次第というところか。しかし低空では事故対策には成りえない」
今度は従来型の飛行が始まった。限界高度ならばあまり影響はないが、砲丸投下を行うような低空では、一気に家畜が走り出した。
オラースやヴェガの制止はまったく効果がなかった。先頭の何匹かにコアギュレイトを掛けることもできたが、そのようなことをすれば動けなくなった牛は確実に踏み殺される。エリーシャもファーに乗ってとりあえず安全な方向に導こうとしたが、家畜は恐慌状態に近かった。暴走を止めるのには、かなり時間はかかった。
「編隊飛行の際、互いに声を掛けて通じる程度の音なのに」
しかし正確には伝わっているのは、言葉よりも意思。編隊飛行で声が聞こえるのならば、接近音でグライダーの接近が分かるのかなり近寄ってからになる。
「差は歴然か。製法は秘中の秘だと言ったな」
エーロンはゴーレムニストに確認するように言った。
「はい。製造法はもちろんですが、製品はウィル以外に輸出されることはありません。もし、密輸しようとしたら」
「したら?」
「国王陛下の命により、国賊として討伐の対象になりましょう。もちろん、密輸先の国も卑怯な振る舞いをした国として超一級の敵対国家に格上げされます。国交は断絶、月道がつながっていれば封鎖されるでしょう」
「怖いことをさらりと言ってくれる。技術者とはそういうものか。そんな愚かなことをする国もないとは思うが」
麟太郎はため息をついた。新しいおもちゃをほしがる者はいる。リスクなど考えずに。
飛行で見つかった細かな問題点の幾つかを修正した上で、正規品が配備されることになるだろう。