外交調査〜ハラン

■ショートシナリオ


担当:マレーア2

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月01日〜03月08日

リプレイ公開日:2007年03月07日

●オープニング

 ことの起こりは年明けまで遡る。
「ハンとの国境警備は、以上のような状況です。お借りしたゴーレム4体は戦闘に使うことなくお返しすることができます。ウス、ハラン両国とも混迷はまだまだ続きそうです」
 ルーベン・セクテは難民を受け入れた自領での後始末を終えると、トルク分国王ジーザム・トルクに新年の挨拶を兼ねて北方警備の報告に上がった。請け負った時は、エーガン王から直であったが、トルクへの正式な軍事奉仕であれば、成果は分国王から行うのが筋。
「フロートシップによる人員の輸送は、上々のようだな」
「難点をいえば、地理を熟知していないと迷うということでしょう。フロートシップを動かせる鎧騎士の養成はもちろんのこと、熟練した航空士とでもいうのでしょうか。空の道先案内人も必要になりましょう」
 ルーベンの言は移動ルートが限定されれば、襲撃を受ける危険も大きくなることを暗に思わせている。それを防ぐには、相手の知らないルートを移動するほうが良いと。
「ところで、年もあらたまったこともであるし。そろそろ正妻を娶った方が良いのではないか? 独身であることが、政略に有効であることはわかるが」
「やはり、その手を使いますか。陛下には男子はおりません。しかし、ヘイット家にも世継ぎの男子は居なかったと聞いています。乗ってくるでしょうか? カンハラーム王はともかく、その周囲の者どもは」
「ウス、ハラン、さらにはリハンの近況を調べる必要がある。選王会議が終われば外交を仕掛ける」
「では3つの分国に、案内人をつけて身分を隠した冒険者を送り込みましょう。先入観のない者であれば憶測を交えずに調査できるでしょう」
 そして選王会議が終わって、冒険者ギルドに調査依頼が持ち込まれた。

 ギルドの係員は、厳しい表情で冒険者達に注意を促す。
「ウィル北方ハン王国ハラン分国を調査する依頼です。ウィルの冒険者であることがわからないように調査することが必要なので、それなりの偽装が必要でしょう。ちなみにウィル国外ではウィル国内のような特権は認められていません。何に偽装するかで、成否が決まるでしょう。偽装に見合った装備(服装)も必要です。平民なら馬や魔獣を連れていることはありませんし、武器の所持も制限されます。見掛け上普通に見える【ロバ・犬・猫】ならば大丈夫。だと思います。
 ハンで没収の恐れも有りますので【絶対に貴重品を持ってこないでください】。所持金ですが、庶民が分不相応な大金を持ち歩くとそれだけで盗みの疑いを掛けられる危険が有ります。金貨は隠し持ち、財布の中身は銀貨以下に両替して持って行くと良いでしょう。但し、ワイロなどでお金が必要になる可能性も考慮してください。【全額持って来たり、逆に無一文での行動は危険です】
 国境近くまではフロートシップで移動。そこからは普通の徒歩になります。行動半径を延ばすために馬車を手配する場合は実費となります」

●今回の参加者

 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb9596 ジョルジュ・ジョルジョーネ(42歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)
 eb9926 大谷 由利佳(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●フロートシップ
「ハラン潜入調査4名、ウス潜入調査4名集まりましてございます」
 8人の冒険者は、旅支度を整えて指定されたフロートシップの発着所に集まっていた。
「4人では調査できる範囲は狭いだろうが、今後のハンとの外交交渉を行うには、現地状況を知る事は重要なことである。すでにハンからの難民からウスやハランの村々での状況は見えてきているが、分国の中心部分については、よく分かっていない。今公式な使節を派遣して、ハン王家の反発を招くのは得策とは言い難い」
 先王の政策により一時的とはいえ、ハンよりの政策を行った。その先王が急な病によって王位を退き、リグとの関係の深いトルク家からウィル国王が選出された。選王会議というしきたりをもっていない国から見れば、政策の転換あってしかるべきと思うだろう。もし、ハンに敵対的な行動を取るとするならば、国境付近の分国2つのうち一つでも取り込めば、その後の展開を優位にできるだろう。
「封建制国家なら契約条件によって主を変えることとてある。自分たちの主をヘイット家からトルク家に変えることができないわけではない。難民たちの話を聞く範囲では、建て直すのは相当大変そうだが、夏までに対策を立てればどうにかなる。そのためにはできるだけ詳しい現地の情報が欲しい。竜と精霊の加護があらんことを」
 セクテ公の言葉の裏には現状のままでは、次の秋の収穫後は難民があふれることになると予想している。昨年はどうにかなったが、おそらく今度は受け入れることができる人数を遥かに上回るだろう。
 フロートシップは、王都を離れて一路北に向かう。

●川を越えると
フロートシップは国境から見えないように丘の南側に着陸した。丘の周辺では、すでに犂入れが終わったところから春蒔き小麦の種が撒かれていた。
「殿下、順調なようでお喜びもうしあげます」
 リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)は、フロートシップの到着とともに出迎えにきた人たちの中にエーザン・ヒライオンの姿を見つけて言った。
「国境を無事に越えられるようにと、セクテ公より依頼されている」
 エーロン・フォロが離反しそうな北部を引き止めるための手として自分の庶子をこの地におくことにしたが、国境線を見張る位置としては絶好のようだ。もともと、ハンとの交易路に救っていた山賊の根城の丘。見晴らしが良いのは当たり前。川という天然の仕切りによってわけられた国境。雪解け水の影響で年末よりは増水しているが渡れないことはない。
「川を突っ切れば、交易路になっている道に出る。そこに最初の難関がある」
 ウィルでは冒険者は、数々の特権があった。武器を持ったまま移動する権利がその一つ。しかし、それはウィル国内(正確には冒険者ギルドに加盟している領地のみ)。これから向かう先のハンには、その特権はない。
「ウスもハランも大概ワイロが通じる。ただし多すぎても少なすぎてもいけない。多すぎれば、もっと取れるとあちこちでふんだくられる。少なすぎれば、お目溢しが無い」
 その後のウスとハランまでの道を教わって出発する。案内人までは付けてはもらえない。
 川を渡るまでは全員で移動。その後はそれぞれの道を行く。そのまま首都に向かう者もいれば周囲を調べてから向かう者もいる。運が良ければ出会う可能性もある。

●ハランに向けて
 セオドラフ・ラングルス(eb4139)は行商人に扮して進んでいた。ドンキーには商品であるチーズと塩を乗せてある。ハランの東は海に面しているが、西の方面には塩は貴重品、保存の効くチーズもまた行商には良い商品であった。その点ではセオドラフの選択は間違っていなかった。首都ハランを目指し、あちこちで商品を僅かずつ売りさばく。門番には通行税、町の顔役にはワイロを渡して問題なく進む。幾度か懐を狙った暴漢に襲われたが、人目がある時は大げさに逃げ回って助けを呼び。人目のないところでは、逆にボコボコに殴って所持金を全部奪って、丸肌にして木に逆さ釣りにしておいた。
「これで二度と悪事はできまい」

「あいにく代書人は高級職業だ。代書人まで逃げ出すとなれば、もうその国はおしまいだろう」
 リュドミラは出発前に代書人で逃げ出した者がいないか尋ね、代書人として潜入できないかを相談した。文字の読み書きができるのは貴重な存在。そのような代書人が逃げ出す事態が起こっていれば、上層階級にまで混乱が及んでいることになる。
 しかし、情報を得るには、代書人の方が良いはず。一路首都ハランに向かった。
 大谷由利佳(eb9926)は、食い詰めて、ハランに流れてきた娼妓ということで、首都ハランの娼館に入った。出自を探られないように、できるだけ場末を選んで。入るのは楽な場所だが、でるには難しい。源氏名カレンを名乗って情報収集をしようとしたが、店に入るとさっそく所持金その他をすべて強制的に預けさせられた。この手の商売には、逃げ出されないように幾つかの手を講じる。大谷由利佳が所持金以外の武器も装備品も置いて行ったのは正解だった。もし装備なり武器なりを持っていることが分かったとしたら、通報などするよりも逃げられないように手足の筋を断ち切るなどの手を使ったことだろう。無能な娼妓を演じたことによりその身は無事だったが、技能が未熟なために商品として店に出せるように特訓させられることになる。平和な日本とウィルよりも荒んだハン。ここに比べると深夜の新宿も渋谷も安全な場所だ。
 ジョルジュ・ジョルジョーネ(eb9596)は『成功を夢見てアトランティスにやって来たが、挫折した元冒険者。昔、稼いだ財産で、細々と暮らしている。近年は、極度の運動不足であり、肥満について悩んでいる』ということを風潮して首都ハランに向かっていた。しかし、アトランティスでは細々と暮らしている暮らしている者には肥満体型はいない。特にハランでは肥満はおろか標準体型でも十分な金持ちに見られる。さらに天界人がアトランティスにやって着始めたのはほぼ1年前。ジョルジュの知らないうちに密かに見張りが付けられた。天界人が降臨したのはウィルばかりではない。ハンにも降臨している。彼らの報告により、ハンの権力者の一部には天界人を発見次第通報するように賞金を出していることが分かったのである。

●首都ハラン
「ではこれを」
「はい」
 リュドミラは代書人としての能力を元にどうにか、ハランの中枢部分の情報を見ようとしていた。しかし、ハランが乱れれば乱れるほど高級職業は外部からの出入りを制限していく。今以上に顧客が増える可能性が低い。狭い顧客を巡って共倒れしないために、今以上の商売敵を排除する方向に動いていた。これが安定期であれば顧客も増えて仕事も多くなるのだが、今は住処を追い出されないように互いに仕事をやり繰りするしかない。こうなると仕事は代書人の能力ではない。影響力で回ってくる。もちろん新参者には回ってこない。しかたなく下働きとして入り込んだ。文字が読めないふりをして。下手に文字が読めると機密文書の配達を頼まれることもない。文字が読めない者なら使いに出しても中身を読まれる心配もない。
「本当に油断ね」
 しかし、リュドミラが期待していたゴーレムや軍事品関係のものはなかった。ゴーレム関係については、ハン王家から以前手に入れた物以外は増えていないのだろう。
 物資の流通も外からのは、それほど多くない。多いと言えば分国内やウィルからのもの。
「ウィルからこれほどの物資が」
 主に食料だが、かなりの量が流れ込んでいる。北部は飢饉に近い状態で食料は自分たちの分さえ足りないほどだった。ではその周辺では豊作だったのに同じ分国内よりも他国に流したのか。
「代官が勝手にやったことか。それとも先王が命じたことか」
 自営領主達を故意に弱らせる政策を行っていたのだろうか。代官の仕業にしても、そのような者を用いた責任はあるだろう。知らなかったで済まされるほど、王の地位は甘くない。どんなに人当たりが良い人格者であったとしても腕の悪い藪医者に、自分の命を託す患者は居ない。王は王のみで王足り得ず。
「先王の治世があと半年も続いていたら?」
 冒険者の目に見えるところでこそ、良い方に変わって見えたがその裏ではこのようなことをしていた。冒険者に意図的な情報操作をして、その支持をつなぎ止めているとしたら? 冒険者は歴史的な悪王の治世の延命に尽力した者達として、歴史に悪名が残ることになっていただろう。いや仮令、王に全くその意識が無くとも、代官の所行を見抜けない不明自体が悪王の証である。権力と言う物は純粋に結果責任を問われるものだ。それが大きければ大きいほど。
「ウスもハランも、背後にウィルの援助があると思って行動していたのだろうか?」
 そう思ってところで、聞き覚えのある声がした。
「このチーズ、この値段じゃ手に入らないよ」
 セオドラフのなかなかうまい変装ぶりに思わず、近寄ってみる。
「そこの綺麗なお嬢さん。この香り高いチーズ。そりゃ、お嬢さんには敵わないだろうけど」
「それじゃ少しもらおう」
「綺麗なお嬢さんにはおまけしよう」
「そりゃ悪いね」
「悪いと思ったら、今夜食事でも付き合ってもらえる?」
 周囲から面白半分に声が飛ぶ。
「どうしようかな」
「じゃこれだけ、塩もこれだけつけちゃおう」
「それじゃ、あなたのおごりで付き合ってあげる」
 周囲から歓声があがる。上手い方法を考えたものである。この方法なら情報の受け渡しも怪しまれずに堂々と行える。

●娼館で大騒ぎ
「覚えが悪いね。ただ握っていれば、立つってもんじゃないんだ」
 大谷由利佳は娼館の若い衆を相手に、娼技を鍛えられていた。
「そんなに何発も出せる男なんていない。全員本番で相手していたら身がもたない。さっき教えた通りに気持ちよくさせて出させちゃえばいいんだ。妊娠の危険も少ないし、誰とでも寝る奴じゃないと言うのは、あんたの価値を高くする。身請けの金も高く成るんで、店も儲かる。技術を磨いて、早いとこあんたの王子様でも捕まえるんだね」
 大谷由利佳を預けられたのは、娼館でも古株だった。最初こそ男に預けたが、大谷由利佳が思わず抵抗したために鞭を使って傷つけた。今はその女が預かっていた。
「(赤ん坊のような手だね‥‥政争に敗れて追っ手から逃れたお貴族様のご令嬢ってとこかい)綺麗な手をしているね。どっかいいところのお嬢さんだったのかい? もっと良い店に行けば良かったのに‥‥」
 天界人とは思われていないようだが、嘘はばれている。だからこそ、妊娠の危険を避ける方法を教えてくれている。それが彼女なりの思いやりであった。
「普通の男なら2発。多くても3発出せばそれ以上はしない。気持ちよくいかせてやれば、どこだって文句はいわない。女をいかせる前にいかされたら恥だって思うのが男ってもんだから」
 よかれと思ってしてくれているのだろうけど、大谷由利佳にとっては鞭で散々打たれた挙げ句、店の男衆を相手に強制的にしかも気持ちよくさせる練習をさせられている。本番なし故に貞操の危機も、まして妊娠の危険もまずないが、こんなひどい所だとは思わなかった。
「ちょっと姐さん。変な客が来ていて。どうも天界人らしいので、見張り役もすでにいるんですが」
 大谷由利佳の特訓中に、呼び出しがあった。
「ちょっと休憩。あたしのいない間に勝手にやるんじゃないよ」
 そう言い残して出て行った。その一言で男たちは大谷由利佳を見はするものの、手は出して来ない。

「嘗めるじゃない! 代金が払えないならなんで酒を飲んだ? 引退した騎士だって。引退したら騎士道も忘れるのかい。このでかぶつ」
 さっきの女の怒鳴り声が聞こえた。男達の含み笑いが聞こえる。
「姐さん、怒らせたら怖いのに」
 そして地響きのような音がして静かになった。
「こいつを縛って転がしておきな。まったく何が引退した騎士だ。金が無かったら、物乞いと同じだ。物乞いの方が分相応って言葉の意味を知っているからまだましだ」
 大谷由利佳の訓練部屋に、引きずって来られたのはジョルジュだった。さっきの音はジョルジュが倒された音だったようだ。
「こちとら、戦場なんかよりも遥かに修羅場潜ってんだ。元騎士って名乗れば、びびるとでも思ったか」
 大谷由利佳の前では言わなかった悪態をついて、ジョルジュに蹴りを入れる。
「そんなにやったら、高値で引き取ってもらえなくなるよ」
「生きてなければ、金は出さないってこの前も言われたでしょう。天界人を殴り殺しちゃった時に」
「あたしにやられるようじゃ役には立たないさ。それにこの前のは掃除しろって言ったのに、掃除の仕方教わっていないからできないってほざきやがった。どこの世界に20歳越えたのに掃除の仕方一つ知らない人がいる。しかも知らないなら、教えてくださいって頼むのが筋ってもんだろう。自分が知らないことを恥とも思わない奴のメシ代に、あたしらが身体張って稼いだ上納金を使われたんじゃたまらないよ」
 そう言って出て言った。男たちも続く。
「(これが庶民の考えなんだ)ジョルジュ、大丈夫?」
 大谷由利佳が聞かれていないことを確認して声をかける。
「ああ。怪我ってほどじゃないが、投げ技使われると肥満体にはきついです」
 体重そのものがダメージになる。脂肪がクッションにもなるから骨は折らないが、少しの間は動けなくなる。
「正体ばれているみたいですよ。いったいなんて名乗ったの?」
 ジョルジュが言うと、大谷由利佳はため息をついた。
「確実に天界人って言っているじゃない。面倒なことになる前に逃げ出しましょう」
「では、ミーが由利佳さんを足抜けさせます」
 ジョルジュはこんな時でもキザ。あとは強行突破あるのみ。夜の間は城門は閉まって外には出られない。城門が開く早朝を狙うしかない。
「カレン、その男にあんまりかかわるんじゃないよ。天界人なんて、ろくな奴いないんだから」
 部屋の外で声がした。
(「私も天界人ですよ」)

●朝帰り
「昨夜はごちそうさまでした」
「いえいえ」
 デート(合いびき?)を利用して互いに集めた情報をやりとりしていた。セオドラフとリュドミラは結果として、朝帰りとなってしまった。夜間になると店も戸を閉めてしまって外に出られない。そのため、店に足止めされたような形だ。
「これから宿に戻って再び商売を」
 と言い掛けたセオドラフの目前に、見覚えのある二人組が。
「あれ?」
「あちゃ!」
 二人を追いかけてきている人相を見れば、一体何を仕出かしたか。想像できる。
「娼館荒らしって、面倒なことを。このまま逃げ出せる?」
 リュドミラはセオドラフに聞いた。
「荷物は諦めるしかないか」
 せっかくもうけた分は残念だが、見捨てるわけにもいかない。
 二人は追手の足止めに、近くに止めてあった馬車を暴走させた。

●生還
「この川を越えれば」
「なんかすごく良い景色が見えるけど。三途の川じゃないですよね!」
 大谷由利佳が怪我が癒えぬままの逃避行で、かなり衰弱していた。責任をとってジョルジュが背負っているものの、それさえも精神的には苦痛だ。
 リュドミラとセオドラフはともかく、ジョルジュと大谷由利佳には手配書が回っていた。娼館荒らしと足抜け娼婦ということだ。
「長期間情報探るなら覚悟決めて娼館に入るって手もあるけど。入るのは簡単でも出るのは大変なところだよ。このご時世なら足抜けさせて別の店に売りつけるってことを平然とやる奴もいるから」
 リュドミラの扱った書類の中には、そのようなものもあった。
「騒ぎは起こしたけど、それなりの成果はあったんだろ?」
「それが」
「え?」
 ジョルジュは入りびたっただけ。大谷由利佳は特訓を受けただけ。
「セオドラフが一番の被害か。そのまま見捨てていれば200Gぐらいの儲けになったでしょ?」
 セオドラフの商売は、けっこううまく行っていた。
「全損じゃないことを祈ります。仲間を見捨てるなど、騎士としてできません」
 その後、セオドラフの商品の元手20Gについては依頼主から補てんされた。