ウェイター・ウェイトレス兼用心棒募集
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■ショートシナリオ
担当:マレーア2
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや易
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月10日〜02月14日
リプレイ公開日:2006年02月13日
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●オープニング
ウィルの首都ウィル、その片隅にその酒場はあった。高級そうな感じはいっさいない。むしろ庶民的。だが時々普通ではお目にかかれない人たちも立ち寄るという。もちろんお忍びで。場合によっては密談、陰謀がささやかれることもあるかも知れない。しかし、店ではそれには一切関知しない。政治なり仕事なり家庭なり、悩みは人の数だけある。酒で憂さを晴らすのは世の常。他人に迷惑をかけないうちならば。
「そろそろ店を閉めるぞ」
店主の声にウィルに住んでいる常連客たちは、帰る準備をはじめる。しかし、中にはそのような声に全く耳を貸さない者たちもいた。
「まだ日が暮れていないじゃないか」
店じまいをはじめた店主に、不満の声をぶつける。
「もう日が暮れ始めている。足元が無事なうちに帰りな」
ここ数年ウィルでは、治安が非常に悪くなっていた。もともと酒場は昼間の営業。日暮れとともに閉まる。しかし平和な異世界で平和惚けした一団が流した、天界では夜でも酒場を営業しているという話がウィルの酒飲みたちに広がって、夜でも酒を飲ませろと無理を言う客が増え始めていた。安全のためには暗くなる前に家に戻った方がいいのだ。次に客として来られるためにも。
最近の店主を悩ませる問題は、もう一つ。アトランティスに新たにできた教会という代物だった。ジーザス教というカミというものの信仰を広めているらしい。シンセイ魔法とかで大きな怪我もたちどころに治せるという。ところがジーザス教の行う儀式の中にはワインを使う物があるという。普通なら彼らが自ら作ったものを使うらしいのだが、ワインは一朝一夕にできるものではない。葡萄を育てることからはじめなければならない。そこであちこちの酒場にワインを供出しろというお達しが流れた。
この店に所蔵してあるワインは、あまりに質が良かった。それなりの元手はかかっている。
「異世界からこっちの世界を救いにきてくれた人たちの一部とはいえ問題を起こしたくない」
天界人たちは、昔の伝承からアトランティスを救いにきたという話が広まっていた。昔の伝承に比べるとやけに人数が多いようだが、それだけ大変な問題がどこかで起こっているのだろう。
「問題を起こしたくないなら、彼らの間で仲裁してもらえばいいさ」
丁度店を出ようとしていた顔なじみが、冒険者ギルドのことを話した。やっかいな依頼でも、低額で引き受けてくれるという。
「あまりものものしい格好で店に立って居られても普通のお客さんが困る」
「だったら、給仕もしてもらえばいいじゃないか? 宮廷じゃ騎士見習いが、給仕もするはずだ」
なんとなく営業が大丈夫かどうか、不安が店主の脳裏をよぎった。
「じゃ、冒険者ギルドには、私の口利きということで伝えておこう」
顔なじみはそういって店を出た。
「ルー様、忘れ物です」
看板娘のジュネが、ルーと呼ばれる男の忘れ物を持って追いかける。
「忘れ物? わざとじゃないか?」
店主には、もう一つ悩みができた‥‥のかも知れない。
●リプレイ本文
●これぞ、本懐!
「ウェイターに扮しての用心棒か‥‥まるで映画だな!! 最高だ!」
店に着いた途端に雄叫びをあげたのは、村越充(eb4159)だった。
「そりゃ、あっちじゃ、こんなシチュエーションは滅多にないからね」
華岡紅子(eb4412)は単純に喜んでいる充を半分あきれていた。尤も、紅子よりも充が年上なのだから、男という生き物はいくつになっても。と、愚痴りたくなる。
「上に空いている部屋があるから、寝泊まりしてもかまわないぞ」
ルイン・ルイセは、依頼を受けてくれた冒険者を見渡した。夜間の警備の問題もあるし、冒険者も食費が助かるはずだ。
「夜間の警備まで心配されているのですね。ニックという男が何者か。知っている限りのことを教えてください」
リセット・マーベリック(ea7400)は依頼主であるルインに尋ねた。
「どんな小さな事でもいいんです。彼について知っていることを全て教えてください。ニックという名が偽名かもしれません。詐欺師や悪質な仲買人出身かも。調査のための手がかりが欲しいのです」
「当然の要求だな。知っていることを話そう」
ルインは冒険者たちを座らせると、ジュネに全員にワインを配らせた。木で作った杯には、半分程度ワインが入っていた。
「これが今回ニック・ジントが教会に差し出すように言ってきたワインだ」
「これは生で飲んでも大丈夫ですか?」
ハルナック・キシュディア(eb4189)は杯の中のワインをじっと見ていった。
「もちろんだ。ニックが目を止めたワインは、何も混ぜずに飲んで大丈夫な高級品ばかりだ」
高級と聞いて紅子が一口飲んでみる。
「クセがないのに、芳醇ね」
その一言で他に全員もワインを飲んでみる。
「クセがないから、料理にも合う。自慢のワインの一つだ。しかし次の生産までに在庫なしにはできない。常連様がいるからな」
ニックの要求は、あるだけ全部差し出せというものだった。
「常連客って、ルーって男か?」
カルナックス・レイヴ(eb2448)は、ルーという名前を出して様子を見てみる。
「ルー、あのお方、いや人もそうだ。他にも幾人かいる」
一度に全員が店にいる必要はない。交代でウェイターとウェイトレスをする班と店にいる姿が分からないようにして外で調べる者にわける。
「そのまま差し出さなかったらどうなるのじゃろうか?」
ヴェガ・キュアノス(ea7463)は思案する。国王を動かして無理やり差し押さえるのだろうか。こんなに早く教会ができたのは、権力者の保護があったからだろう。ロイヤルファミリーに何かあった場合、治癒能力は貴重なものだ。国王の身近に高位のクレリックがいれば、不慮の事故に備えられる。
「そういえば国王は、王妃を暗殺事件で失っている」
そこにつけ込めば、教会の治癒能力を高く売りつけることができる。
「アトランティスには治癒魔法は存在していなかったから」
この依頼を受けた唯一の鎧騎士のハルナックは、その事情をある程度知っている。もし、あの時ジ・アースからやってきたクレリックがいたら、王妃は死なずに済んだかもしれない。
ニックという男は、教会に雇われた者で出自ははっきりしない。
「戸籍なんかないからだ」
充の発言は地球人ならでは。意味が通じたのは同じ天界人たちだけ。ジ・アースから来た冒険者やアトランティス人には意味が通じなかった。概念が無い物は精霊の力でも翻訳できないのだろう。
「噂では貿易商をやっていたということだ。ワインの目利きについては有能だ。ワインを扱っていたというのは確かだろう。そのニックだが、どうも嫌な感じがする。こういう商売やっているといろんな客を見いる。どうも他国のスパイのような気がする。それにニックの周囲には手練が幾人かいる」
アリアン・アセト(ea4919)、リセット、ヴェガの3人は教会やニックの調査で外部を動き回って、夜のみ店の方に戻る。他の7人は「竜のねぐら」のウエイターの服かウェイトレスの服を支給されて、店で働きながら交代で調べることにした。ハルナックは状況に応じて護衛も行う。
「これゴスロリだよね」
月白うさぎ(eb4424)は支給されたウェイトレスの服を来てみた。紅子のは、もうちょっと大人っぽい。サイズの違いは、手直しれば事足りる。
「全員違うね」
「家にはそんなに大勢のウェイターやウェイトレスを雇うことはないからな。それで天界人のデザイナーが試作品って以前店にもってきていたのを思い出してたんだ」
ジュネは一度袖を通してみたが、1回きりだった。
「やっぱり、私にはそういうのは似合わないから」
「え?」
「うさぎさんは似合っています。それより、ウェイトレスの経験ってありますか?」
「何も無い所でよく転ぶの」
「え〜と、では何かあるところなら転ばないのね!」
「な、わけないだろう!」
充があきれたように叫んだ。
「ですよね」
最後の希望も絶たれて、大変そうな表情がジュネの顔に浮かんだ。店の営業大丈夫か?
●教会の調査
「まずは教会じゃ」
アリアンとヴェガは連れ立って教会に向かった。
クレリックとしては、ワインはジーザスの流した血の代わりに儀式に用いることがあるものの、それほど頻繁に儀式を行うものではないし、大量に用いるものでもないことを知っていた。ニック・ジントと名乗る男はアトランティスの者らしい。教会もこっちに来ている人数はそれほど多くはないはず。となると、物資の調達はアトランティスの者たちを雇うなりして行うしかない。特に下々のことになるとなおさらだろう。「たぶん、横流しでしょう」
アリアンの結論はそこだった。ヴェガも同意見。問題はそれをどうやって証明するか。
「上質のものだけを教会に届けて、他は酸っぱくなっていたから捨てたと言い訳されるかもしれんのう」
取り敢えず教会への納品量を確認するのが先だ。
教会に着くとワインについて確認する。教会では適正な量を適正な価格で買い上げているという。
「それ以外には回答しようがなかろうがのう」
冒険者には教会を強制捜査する権限はない。
「証拠をつかまなければ」
●ニック
リセットは、ルインから聞いたニックの居場所を探しに行った。ニックが教会から依頼されて調達したワインの一部(あるいはほとんど)を横流ししているのではないかと疑っていた。
「あれがニック・ジント」
偽名かも知れない。ニックの周囲には見るからに柄の悪そうな連中がたむろしている。とぎれとぎれに聞こえてくる会話は、あちこちでワインを出し渋っている店に脅しをかけているという内容だった。
「問題は竜のねぐらだ。あそこに貯蔵しているワインは他に比べると雲泥の差だ。しかしあそこにはやっかいな御仁が客で来ている可能性もある。この前は双璧の片方が来ていたので焦った」
やはり良くない連中のようだ。竜のねぐらの客層の中に、敵対してはまずい人がいるので他の店ほどあからさまな手を打っていないだけだ。
「しかし、あそこの娘は美人だしな。いっそかどわかしてって方法も」
(「え? まさか営利誘拐」)
「しくじればやっかいだ。あの男とつきあっているという噂が本当なら、とんでもない家と事を構えることになる」
ニックの声が一段と小さくなった。
「しかし取引先からはもう待てないと、次の」
「やっかいな連中のスケジュールを調べろ。居ない時が決行日だ」
●店での騒動?
「きゃあ!」
うさぎの悲鳴と一緒に、料理を乗せた皿が飛ぶ。
「フリスビーか?」
充はそのうちの幾つかキャッチするが、床と顔面がお友達しているうさぎはそのままほったらかしだ。少し痛い目を見ないと。
「今日は揉め事ない?」
鈴見円(eb4205)が紅子の交代に店に降りてきた。
「今のところ、うさぎを除いて。せっかくの料理がもったいない」
厨房で味見させてもらったが、スパイスなしでも素材を生かしていい料理を出している。
「アトランティスに来てから感じたんだけど、地球の野菜って有機栽培とか無農薬とかって言っても、こっちには全然敵わない」
野菜も果物も最も美味しい時期に収穫されて、そのまま料理される。
「今まで似て料理するのが当然と思っていた食材が、ここでは生でもおいしいのよね」
紅子もその差には気付いていた。
「問題は、夜ね」
営業時間を延長しろと粘る客だ。客の回転が悪いだけじゃない。大半の客は料理なり酒なりを楽しんで家路に着く。もちろん中には、ジェシカ・ロペス(ea6386)がやんわりと言う場面もあったが。
「今日はルーは来ていない?」
カルナックスはジュネに尋ねた。
「今日は来ないわ。あれで結構忙しい人だから、ここに来た時だけでもゆっくりさせてあげたい」
「これはこれは、でジュネは好きなのか?」
忘れ物はジュネと会う為の口実だろうと思っていた。
「たぶんそうね」
カルナックスは細長い耳を充に引っ張られた。
「ほっといてやろうぜ」
「これからが楽しいところなのに、じゃなく、ジュネを心配してだな」
「あのルーって男も冒険者ギルドにコネがあるって意味わかっているか?」
「あ!」
冒険者ギルドにコネがあるということは冒険者ギルドの設立に関わった人ということで、つまり領地持ちの貴族ってこと。
「騒ぎたてると面倒なことになるかも知れない。本人同士に任せておけばいい」
男たちがそんな会話をしている時、円は意識を失う寸前の男を介護していた。
「飲み過ぎ? じゃなさそうね。これ怪我している?」
思わずうさぎが投げつけた皿で怪我したのかと思ったが、違ったようだ。
「店長、部屋借ります。カルナックス手伝って」
もちろん、運ぶのだけでなく治療をということだ。カルナックスのリカバーで事なきを得たがかなりの重傷だった。ナイフの刺し傷。依頼とは無関係だが、何かあるのだろう。
「あの男の顔には見覚えがある。ハルナック、ある人の屋敷まで知らせてに行ってくれないか」
鎧騎士ならウィルをある程度まで知っているはずだ。
「誰の屋敷ですか?」
「ケルス家だ。気をつけてな」
あの男に怪我をさせた曲者が付近にいるかも知れないという意味だろう。
ハルナックと入れ代わるように、リセットが戻ってきた。
「ニックはジュネの誘拐を企てている。ってジュネは?」
店にいたのは、紅子とうさぎだけだった。
「表にいたはずだけど」
うさぎが最後に見たのは、表だった。
「え?」
「これが」
うさぎが店の前で手紙を見つけた。もう暗くなりつつあった。
紅子は、宛て先がルインであることのみ分かった。
ルインは一読して顔色を変えた。ニックの名前は出ていなかったが、教会に逆らう者を制裁すると。
「つまりワインを出さなければ、教会への反逆者として」
「こんなこと。教会は、ジーザス教は、望んでいない!」
治療を終えたカルナックスが叫んだ。
「ワインは、明日の夜までに例のところにもってこい」
店の外から声がした。
「これだけいながら」
ジュネが誘拐されたという話を聞きつけて、ルーもその夜のうちに竜のねぐらにやってきた。
「ニックとかいうやつか。この世界を救う天界人の広めたジーザス教が、そんな非道な真似はすまいと思っていたのに。ウィルの騎士道の名にかけてジーザス教を根絶やしにしてやる」
ルーの激昂は全員をひるませた。
「ちょっと待つのじゃ。これは教会がやらせたことじゃなかろう。こんなことは望んでいないのじゃ」
戻ってきたヴェガが反論した。
「望んでいないなら、なぜニックような者を雇った。雇った者には雇われた者の行ったことに対する責任がある。‥‥そうやって仲違いさせて潰し合わせるのが目的かもしれないな」
ルーは深呼吸すると、言葉を続けた。
「まずは、ジュネの安全が第一です。教会にこのことを知らせに行きましょう」
誘拐を行ったのはニックかどうかはともかく、教会向けのワインを納品するという要求は状況証拠としては十分だ。
「教会だってウィル中の騎士道を重んじるものすべてを敵に回すつもりはないでしょう」
アリアンとヴェガ、それにリセットが誘拐のことを教会に訴えに行った。もちろんルーも一緒に。リセットはニック一味の会話を聞いていた。ルーの存在も影響したようだった。教会の上層部も下手に出ていた。多少脅しっぽいことも交えて、教会にニックから納品されたワインの量を調べさせた。
「やっぱり、調達したワインの7、8割はニックが隠匿しているみたいです」
リセットは、あきれたような表情になった。
「ではニックは解雇してくださいますね。いくら人手不足とはいえ、こんな人を雇っていたとなれば‥‥、その先は言わなくてもわかりますよね」
●取引
「ワインは持ってきたぞ」
指定された場所に、ワイン樽を3つ。一つの樽に二人ずつ冒険者が支えている。残りの4人は取引場所付近に潜んでいる。
「最初から素直に運んでくれれば、こんな面倒なことしないですんだ。お互い、楽しくやろうや」
ニックは縛り上げたジュネを連れてきていた。
「あれがニックだ」
ルインは合図した。アリアンが、隠れた位置からニックに向かってホーリーを打ち込む。
「ニックが善良なら、神は罰しないでしょう」
しかし、ニックは見事に吹っ飛ばされた。
「なんだ。今のは!」
ニックの配下がジュネに刃物を突きつけようとしたが、動けなくなっていた。カルナックスが、お得意のコアギュレイトで動きを封じる。さらにジェシカがスイングで次々と石を当てていく。
「こりゃどういうことだ。教会に楯突いて無事で居られると思っているのか?」
ニックが威勢よく言い放つ。こいつやせ我慢か、それとも平気なのか。威勢だけはまだいい。
「ニックさん、もう横流しと誘拐の事は教会に知らせてあります。教会はニックさんを解雇しました」
「いい隠れ蓑だったんだがな。異世界からきた高慢ちきな坊主どもをだまくらかして甘い汁吸っていたのがばれちまったか? こりゃ退散した方がいいな」
アリアンのホーリーを食らっても、まだ立ち上がる。相当な手練のようだ。いや、足にきている。
「今回は負けを認めよう。いずれまた会うだろう」
ニックは配下どもを叱咤して、逃げ出す。動けない一人も、他の者が担ぎ上げて走り出す。
「逃がさない!」
円がダーツを投げるが、回避されてしまった。ジュネは無事に奪還できた。
●その後
「教会はニックにだまされたということで始末つけるらしい。つまりニックが捕まらないと、今まであくどくされてワインを買いたたかれた人への保障もないってことだ」
カルナックスの言には割り切れないものがあった。
「いずれ見つかる。ニックからワインを購入していた者たちを洗い出せば、そんな依頼が出るかはわからないけど」
リセットが言葉を続ける。ジュネを助け出したことで、竜のねぐらでの特別待遇をえることができた。
「ジュネとルーのことは温かく見守ってあげしょう」
アリアンはそう言って、ジュネの方をみた。