謀反人? 討伐

■ショートシナリオ


担当:マレーア2

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 22 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月13日〜04月23日

リプレイ公開日:2006年04月20日

●オープニング

「これはどういう意味だ?」
 エーロン・フオロは使者が携えてきた書状を読み終えると、使者に射すくめるような視線を送った。
「それが我が主よりの返事」
 使者の口調にも強硬なものがあった。使者になった以上、死者となるのも厭わぬ覚悟。
「王家に逆らう以上、それなりの覚悟はあろうな」
「今のウィルを見て、7年前より豊かになったと思えるか! 山賊の横行、モンスターが人里を襲い、首都には浮浪者が集まる。それを豊かと言うか? だとしたら、正気とは思えぬ。王家が国を豊かに導けぬ以上、仕えるわけにはいかぬ」
「よくぞ言った。お前の主君には、首を洗って待っているように伝えろ」
 ことの起こりは些細なことだった。フォロ領内を巡回していたエーロン・フオロを歓迎した、地方領主サザン・ノースウェル。もともとエーロンとは旧知の仲、話題は尽きず最近の国内情勢に及んだ。
「オーグラ討伐に山賊討伐と厄介な事件が多いようです」
「困ったものだ。王意が受け入れられないのは」
「王意ですか? 王が民意を組み入れれば、民も王意を受け入れるものです」
「どういう意味だ?」
「この数年、王は一度たりとも領民の意見を聞く機会を設けていないと聞きます。王は国内の領主にとって主であると同時に、自分の領民にとっても主です。領主は、領民の言葉を月に1度とはいえ、聞く機会を設けることになっているはず。それを行っていないために王の考えと、現実に違いが出ているのでしょう」
 そしてそれをあえて王の耳に入れない者が周囲を固めている。
「(王子は実情を知っているはず、なぜ諫言せぬのか)」
「つまりエーガン王には、民を治める力がないと言いたいのか」
「いえ、判断を狂わされていると(それを正すのは、王子たるものの勤め)」
「その言、不愉快だ」
「で、ありましょう。しかし」
「旧知の仲でなければ、その首今頃胴体と離れているところだ」
 エーロンはサンソードを振り抜き、サザンの首筋に突きつける。
「もし、この首のみで変わるのなら、安いもの」
「自ら死にたがる者の首を刈るつもりはない。1週間以内に、自らの発言についての謝罪文をもってこい」
 エーロンは豪胆にもそのまま館で一夜を過ごし、翌朝出立した。
 意を決してそれを見送ったサザン・ノースウェルは、麾下の騎士達に軍事奉仕を求めた。そして期限の1週間目に使者をして、弾劾文を送った。それを今エーロン。フォロが目にしている。
「(愚かな。自らの右腕を切り落とすようなことをさせるつもりか?)」
 エーロンにしてみれば、ザサンはいずれは側近として使いたい人材のトップ。それを失いたくはないので、国王批判を謝罪で済ませるつもりだったのに、弾劾文を送ってくるとは。
「サザンの動員能力は騎士10名程度だ。従者や郷士を入れても30名程度だろう。冒険者ギルドに使いを出せ。こちらも戦力を集める」
 公式な反乱にせずに済ませるには、王家の騎士をつかうわけにはいかない。
「討伐の指揮も冒険者のしかるべき者に任せる。騎士道に則っていれば、余計な口出しはしない。勝てばそれ以外のことは冒険者の判断に任せる」
 エーロン・フォロから、かなり自由な裁量をもらっての討伐になる。

●今回の参加者

 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1681 マリウス・ドゥースウィント(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1919 トール・ウッド(35歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea3102 アッシュ・クライン(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5997 ドルフィネス・デリアス(32歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4147 イアン・フィルポッツ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4863 メレディス・イスファハーン(24歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●エーロン王子へ
「エーロン王子は、サザン卿を失いたくないはず」
 だからこそ、自分の手勢なり、自分に媚びる者たちの軍勢ではなく、冒険者の討伐の依頼を出した。
「サザン卿を恭順させて、謀叛の事実までもみ消す。それが王子の真意。それに沿った行動をとりたい」
 マリウス・ドゥースウィント(ea1681)はエーロン王子を理解していた。エーロン王子の周囲には、王子がいずれフォロ分国王。さらにはウィル国王になることを見越して、側近を仕えさせている者たちもいる。それらの者たちはそれなりに有能であるが、能力は王子を補佐することにより自分の勢力の発展を求めるもの。
「取り敢えずエーロン王子様に、挨拶がてら真意を確かめに行ったほうがいいんじゃないかしら?」
 スニア・ロランド(ea5929)はマリウス、時雨蒼威(eb4097)、キース・ファラン(eb4324)、シュバルツ・バルト(eb4155)とともにエーロン王子のもとを訪れることにした。キースは今回の決裂に至った経緯を詳しく知りたいため。蒼威はもっと別の理由であった。
 これに対して、トール・ウッド(ea1919)は正面からたたき潰す方針。政治的なことは興味はないため他に任せる。シャルグ・ザーン(ea0827)が、今回はリーダーとなる。彼自身は和戦両方、集団、個人いずれもの構えでいるものの、参加者は矛を納めさせる者と戦いって打ち破るというように意見が分裂している。
「意見が割れたな。‥‥こういう時が一番やり難い」
 ドルフィネス・デリアス(ea5997)はつぶやいた。
「卿らが、サザン卿討伐の依頼を受けた冒険者か」
 4人の訪問を受けたエーロン王子は、周囲の者たちを下がらせて、他の者達に聞こえないような密室を用意させた。
「正直申しまして、私たちは悩んでいます」
 スニアがエーロン王子の依頼を受けるのは、二度目。しもべの称号をもつゆえ、他の者たちよりはエーロン王子を理解していると思っていた。しかし、今回の依頼は前回の依頼とはかなり様相が異なる。
「前回の依頼は、卵の中に骨を探すようなものだったな」
 エーロン王子は、天界人から聞いた言葉らしきものを自傷気味につぶやいた。
 フォロ分国内の領主をどれだけ味方に付けるかで次期分国王への距離が変わってくる。エーガン王には公式に二人の王子がいる。一人は目の前にいるエーロン、もう一人はカーロン。エーロンの方がエーガン王のやり方に近いと思われている。カーロンがどちらかと言えば庶民的という感じだ。
「天界人には、もっとウィルという国を理解してもらわねばならぬ」
 最近、エーロン王子も天界人が本当に救世主なのかどうか、疑問が沸いてきている。しかし、それをウィルという国を理解していなのだけだと、かなり強引に考えることにした。天界人ととにも行動することのある鎧騎士も世情に疎い者もいるらしいと。
 謀反ならばいざ知らず、経験不足の失敗ならば学ぶこともあろう。部下の失敗に懲りないこともまた王者の資質と言う。
「ウィルは封建君主制を敷いている。我が父ウィル国王エーガン・フォロがフォロ分国の分国王であり、他の5人の分国王たちから選王会議によって認められてウィル国王となっている。つまり選王会議という場においては、6人の分国王が対等の権利を持っているということだ」
 鎧騎士のキースは大きく頷いた。ウィルの騎士階級であれば当然知っている知識。セトタ大陸の中でも、分国王が公式な場で対等の権利をもっている国はウィルだけである。
「王が目指しているのは、フォロ家がウィルで他の分国王の追従を許さぬくらいの権力を握ること。かつてエの国が行なったような専制君主制を」
 もっとも今のエは、王家が衰退して形ばかりの状態になっているらしい。
「ウィルの騎士道について戸惑っている者も多いと思う。天界特にジ・アースから来た冒険者は、ある程度は理解していると期待したいが、ウィルではより厳格だと思って欲しい。騎士階級は秩序を維持し、民を守る存在の理想と考えてもらいたい。冒険者は全員騎士階級として扱われている。また、冒険者ギルドはエーガン王の信頼のあるトルク分国王がウィルの多くの領主を連盟させて作ったものであるため、冒険者ギルドの依頼で移動する場合には、連盟に参加している領主の領地では通行税を取られることもなければ、武器を没収されることもない。武器を持つという点一つにおいても、騎士階級として扱われる特権と理解して欲しい」
 ジ・アースよりもはるかに理想を追い求めた騎士道。
「これほど理想を求めたのは、ウィルがセトタ6国の中でも比較的新興国だということ」
 セトタ6国とは、ウィルの他にウィルの西側山脈の向こう側にある永世中立のチ、ウィルと不可侵条約を締結していてセトタ大陸に中央に位置するリグ。北のラオ、西のエ、東のハン。ラオとエは過去にリグとの戦いで前のリグ国王を討ち取っている。リグとは敵対関係にあある。ハン国王はラオ国王の娘を王妃にしている。とはいっても駆け落ちだそうだ。公式はともかく、いざとなれば姻戚関係は大きい。チを別にすれば、ウィル=リグとエ=ラオ=ハンの対立構図が出来ている。
「騎士道に基づかぬ戦いが、国土を荒廃させ民を疲弊させると先人たちが理解しているからだ。たとえば戦の日時場所を決めるのは、短期間の戦いで終わらせるためだ。騎士は地球という天界でいう軍隊ではない。国から給料が出るわけではない。装備も食料もすべて自弁。騎士が戦いに出向くのは軍事奉仕として契約されているからで、軍事奉仕期間中はこの状態が続く。決められた軍事奉仕期間が過ぎれば、陣中を離れても文句を言われる筋合いではない。そのため、できるだけ短期間に決着を付ける必要があるのだ。略奪を行なわないのは、互いの経済基盤を破壊して短期的にはともかく、長期的には自ら存在しえなくなる」
「つまり騎士としての戦いを行なうなら、領民への被害は出ないということか」
 蒼威がつぶやく。
「そうだ。山賊たちとの違いはそこにある。もちろん領民が領主を慕っている場合には、領民が勝手に行動を取る場合がある。そのため、戦での事前取り決めは必要になる。慕っている領主から言い含められれば、領民とて無謀な行動にはでない」
「今回の場合はまさにそれでしょう。得難い人物です」
 サザン卿は、領民思いで無理な賦役は課さないが、領民が志願して自ら働きを申し出るような領主だという。もしエーロン王子が次の国王になりたいなら、サザン卿は決して欠くことの出来ない人物の一人だということをマリウスはロイ子爵から聞いていた。
「とはいえ国王への謀叛は、許されることではない」
 サザン卿は小身とはいえ、フォロ分国内の領主でありフォロ分国王にしてウィル国王に忠誠を誓う立場である。
「互いの立場と面子ということですね。今回のことは」
 キースはそう考えた。それにしても、サザン卿が送りつけたのはあまりにも過激な内容。本当にそこまでのことを書くだろうか。相手がエーロン王子ゆえ、王子の奮起させるつもりだったのではなかろうか。
「愚申と言われるかもしれませんが」
 鎧騎士シュバルツは表面上の対策を述べる。
「騎士道に殉じる者は命より名を惜しむもの、サザン卿も引っ込みがつかないかと。我々が勝った場合、エーロン殿下の名の下にサザン卿は治安維持に尽力するという風に命じては」
 それも一つの手だろう。
「サザン卿はエーロン王子に、国王陛下に諫言を行なって欲しいのではありませんか?」
 スニアはそう考えた。
「諫言などできるものか」
 エーロン王子は一言つぶやいた。エーガン王の苛烈さを一番知っているのは、エーロン王子だろう。祖父のレズナー王は騙されただろうが、息子のエーロンは父親の性格を熟知していた。血を分けた息子であっても諫言を認めるものではない。弟のカーロンなら焚きつけられれば諫言を行なうだろうが、行なった事実さえ消されるはずだ。唯一の例外は、先の招賢令での発言。今だ嘗て父王があのような発言を許し容れたことは無い。
「ところで、サザン卿の領地は北部を荒し回った山賊の被害にあった土地でしょうか」
 蒼威は山賊助命の一件が、サザン卿の今回の行動につながったのではないかと考えていた。
「あの一件か。結果的には山賊は縛り首にならずに逃げ去ったな。まったく馬車を奪われた見物人どもには不幸なことだが。処刑見物で外部の者たちが大勢押しかければ警備が手薄になるのも無理は無い。討伐の時に殺しておけば問題なかったものを。あるいは捕縛した後に速やかに始末していれば。領主も領民の嘆いたことだろう。サザン卿の言は、あの一件も影響あるだろう。ウィルに詳しくない冒険者の意見を取り上げ、なぜとな? サザン卿の領地は北部ではない」
 取り上げた結果の山賊逃亡。サザン卿にしてみれば、今後のフォロ家が危なくてならない。ルーケイにしても同様だろう。そう思っている領主は、サザン卿だけではない。他にも不満に思っている者はいるはずだ。サザン卿のような行動にでないだけで。
「考えようによっては、どこの馬の骨とも分からぬ者たちを騎士身分として扱ったあげく、国王が混乱させられているように見えるのだろうな。よもやフォロに叛意はないだろうが、アリアめやフレッドめのようなあたら立派な騎士まで、天界病に罹って己の足下が見えなくなっている」
 蒼威は冷静に見方を変えて言ってみた。
「この一件をどう扱うかで王子の器量が諸侯に知れる」
 王子との面会で感じたのはこの一点。サザン卿を力でねじ伏せるだけなら、他の領主たちも一時的には不満を押さえるだろうが、それはいずれ何倍にもなって爆発する。
「サザン卿の狙いはそのあたりだろう。私自身の価値とフォロ家の未来を描かせる、面従腹背の領主どもに」
 それが今回の依頼の意図。
「冒険者達がどう処理するかに、フォロ家の興亡を預けるのは責任が重いか?」
 今回依頼を受けた中に、イアン・フィルポッツ(eb4147)とスニアが混じっていたことで、そこまで言ったのか、それとも。エーロン王子の発言は、冒険者たちに依頼の重大さを感じさせた。

●作戦会議
 王子と面会していた5人に対して残りの7人は、サザン卿の領地に向けて出発していた。騎士として戦うのに適した場所を選定しなければならない。
 今回のリーダーは、シャルグ。アトランティスに騎士道については、ウィル出身の鎧騎士イアンが判断することになっている。領民の状況も調べておかねば。
「まともな戦闘訓練を受けていないとはいえ、領民まで一緒になってかかってこられては面倒だ」
 アッシュ・クライン(ea3102)は、騎士らしい戦いを望んでいた。サザン卿がどのような政治的背景でこのような暴挙に出たのかは政治に詳しい者の判断に任せるとして、こちらは戦場において騎士道を守る姿勢を取らねば。
「代表同士の一騎討ちで勝敗を決すればいいのだ」
 ドルフィネスもサザン卿が領民思いと聞いてる。
「騎士は領民の楯であり剣であれ。守るべき者達に被害を出すのはサザン卿も好まないであろう」
 そう考えていた。
「サザン卿の意図はそうであっても、領民たちが暴走する場合もある」
 シャルグは、一騎討ちが拒否された場合の集団戦を想定していた。もっとも集団戦と言っても今回の冒険者は12人。そのうち前線に出るのはシャルグの他には、トール、アッシュ、セシリア・カータ(ea1643)、マリウス、スニア。サザン卿のもとに押しかけ傭兵でも来ていなければ、どうにかならないこともない。
「所詮小身の地方領主。大した戦力はあるまい」
 人数的には、大したことはないだろう。
「ましてゴーレムなどないだろうし」
 フォロ家でさえバガン10体しか持たないのに、地方領主が1体でも持っているはずがない。
「正面から叩き潰すのみ!」
 トールが左右のシールドソードで相手をたたき潰すしぐさをした。
「まずは事前の取り決めだ」
 イアンが、暴走しそうなメンバーを押さえる。5人が合流しなければ王子の真意は分からない。トールが暴走したら、持ち替えるのはサザン卿の首になるだろう。全権をゆだねたエーロン王子は不満は言わないだろうが、これ以後の冒険者の扱いがどのように変わるかまでは保障されていない。
「誰が、いつ行きますか?」
 セシリアが尋ねた。
「まずは戦場に適した場所を探すことからだ」
 サザン卿の領地及びその周辺の状態は全く分かっていない。サザン卿は高潔そうな人物らしいが、大儀を掲げている以上、簡単に討伐されるわけにもいかないはずだ。
「王子の会っている5人が到着するまで、周辺を調査しよう」
 領地あるいはその周辺のどこと指定されて、そこが戦場に適しているかどうかも分からずに合意することはできない。
 7人はもしもの場合に備えて単独行動は避けて3、2、2に別れる。
 戦場適した場所とは、まずは見晴らしの良い場所。ウィルは土地そのものはなだらかだが、森林が多い。そのため、見晴らしの良い場所というとどうしても限られてくる。
 馬を使うため、地面がある程度しっかりしていなければならない。沼地では馬は使えないし、湿地でも足を痛める可能性が高い。チャージの途中で馬が前足を取られたらどのようなことになるかは、馬に乗った事のある者ならわかるだろう。
 互いの軍勢が戦っても、周辺に被害を出さない場所。流れ矢で戦に関係の無い者たちを傷つけるのは、非難の対象になる。
「できれば雨の日はさけたいな」
 雨が降るとたちまち地面の状態が悪くなる。
「互いに10人前後として、それが弓矢の射程距離分か」
 周辺を見回ってみるが、なかなか戦場に選ぶべき場所がない。
「何か変だよね」
 最初に気づいたのは、メレディス・イスファハーン(eb4863)だった。
 サザン卿の領地やその周辺なら、領民たちの働く姿が見られても良いはずである。
「戦にそなえてどこかに隠れているんじゃないか?」
 アッシュは、その可能性を指摘した。
「それにしたって、まだ僕たちの到着は知らないはずでしょ」
 いきなり奇襲をかけてくるならともかく。
「何かあるのか?」
 同じことは、他でも感じられた。
「人っ子一人いない。案内をさせようと思ったのに」
 トールは不満げに言った。
「変ですね。最近森に人の入った形跡がない」
 セシリアは、森が領民の生活基盤の一部になっていることを考えた。数日間であっても、誰も森に入った形跡がないのはおかしい。
「そんなものか」
 トールは、あまり意味を考えなかった。もともと小細工をするような性格ではない。罠ならたたき潰せばいい。
「今は畑を耕して種を蒔く時期であろう」
 シャルグは、サザン卿の領地の中ですでに農地の端まで来ていた。畑を耕している姿は見えない。
「あっちの方は耕し終わっているようだ」
 ドルフィネスは畑がいまだ耕し終わっていないことをみた。しかし、耕した部分にもすでに雑草が僅かに生えているから、幾日か前に耕された形跡ということになる。その後は行なわれていない。
「幾日か前から、領民たちが村から姿を消したということか」
 領民まで一緒に、領主の館周辺で徹底抗戦の構えを見せているならやっかいだ。
「そんなことはないと信じたい」
 イアンは、サザン卿がそこまで行なうとは考えられなかった。たぶん、領民はどこかに避難したのだろうと。もし残っているとしても極少数。
「耕していない農地なら問題ないだろう」
 戦場にするのは、それぐらいしかない。

●使者
 戦場の予想地区とその周辺の状態を調べる。特に奇襲戦力を伏せておくような場所はない。
 そこに王子と面会していた5人が到着した。蒼威は市場で襲撃されるかと思っていたが、声高に山賊の助命をしていなければそのようなことはなさそうだった。特に山賊被害の村で冒険者が暴徒となった村人によって重傷を負って以降は、ウィルでも暴動が起こらないようにあちこちで警戒がなされていた。一応冒険者ギルドはトルク分国王の盟主にした数多くの領主たちが加わって作った組織であり、トルク分国王の保護を受けている。首都ウィルでも同じようなことが起こらないように、トルク分国王が何らかの手配をしたのだろう。よほど変なところに入らなければ安全が確保されていた。
「すごいね。トルク分国王の力は」
 蒼威は、一般人にそれだけ影響を及ぼせることに驚いた。ウィルはフォロ家の首都である。本来ならそんなことはできないはずだろう。
「一般人に影響力の大きい人物がいるのよ」
 スニアが王子から耳打ちされていた。実際にウィルの庶民を押さえたのは、義弟の方であるらしいと。
「義弟ってセクテか?」
「でしょうね。エーロン王子も忌ま忌ましそうに言っていたわよ。セクテはカーロン王子と仲がいいから」
 セクテがカーロンに近づいたのか、それともカーロンがセクテを取り込みつつあるのかまでは分からない。
「サザン卿は、トルク分国王にとってのセクテのように民衆を取り込む手段のはず」
「殺すと、エーロン王子の将来が不安か」
 合流して王子の真意を残りの7人に伝える。逆に現地調査を行なった7人も領民の姿を見なかったことを伝えた。
「シュバルツ・バルト、どう思う?」
「避難しているのかも」
「家の中には大したものなかった」
 トールは反射的に口にした。
「入ったのか? 他人の家に」
「どうせ謀叛人の領民の家だろう。留守だった」
「こちらが来たことを知らせて交渉に入ろう」
 サザン卿のもとに出向いたのは、マリウス、蒼威、イアン、メレディス、スニアの5人。うまく説得できればいい。
 館の外には幾重もの柵が作られていた。こちらにウィザードと弓使いがいるのだから、サザン卿にもいるかも知れない。
「僕たちはエーロン殿下よりの遣使です。誇りある騎士として善政を敷くと名高いサザン卿に面会願いたい」
 4人は、エーロン王子からサザン卿討伐の依頼を受けた冒険者であることを伝えた。
「王子自ら来たわけではないのか。てっきり、王子自らの手で始末されると思っていた」
「まさか、それまで徹底抗戦するつもりですか?」
「アトランティスの救世主たる冒険者の凄腕たちなら、こんな小身の地方領主など簡単にたたき潰せよう」
 皮肉ともとれる言葉だ。サザン卿にはあまり冒険者を高く評価していないようだ。
「王子の真意を察していただきたい」
 スニアは王子から預かってきた品をサザン卿に見せる。王子がサザン卿に期待を表す品ということだった。
「それを見ると昔を思い出す。冒険者たちは、ルーケイの地をエーガン王から統治するようにと仰せつかったと聞く。この地はルーケイほど広くないものの、私がこの領地を相続した時は酷いものだった。ルーケイ伯に会うことがあったら、容易にはいかぬと伝えてほしい。ウィルを知らぬ、天界人の考え方では」
「伝えましょう」
「では事前交渉にはいるか」
「その前に、戦をせずに降伏されるつもりはありませんか」
 スニアは食い下がった。しかしサザン卿の決意は固かったようだ。表面上は穏やかだ。
「戦場は」
 冒険者たちとサザン卿の考えは同じであり、館に近いまだ耕されていない畑。期日は3日後。そして人数は。
「こちらは12人で来ている。しかし、そちらはもっと多いはずだ」
「確かに」
「集団で戦うよりも、同数の人数を出しての一騎討ちの方が良くありませんか」
 蒼威は参加人数分の一騎討ちで勝敗を決することを提案した。
 さらにイアンも提案する。一騎討ちなら、乱戦中に誤って殺してしまうこともない。
「領主館敷地内での一騎打ちではどうでしょうか」
 しかしすでに館周辺は防御ができている。あえて入れるはずもない
「では野外での一騎打ちでは」
「よかろう。そこまで一騎討ちにこだわるなら、受け入れよう。しかし、天界人たちよ。通常一騎討ちによって勝敗を決するのは、集団戦が終わったあとであることを覚えておいた方が良い。王子の遣いでなければ、そのような提案を受けることはなかった。さらに一騎討ちに資格を持つものは正騎士のみ。戦いに強いだけでなく、人格に優れ、騎士道を重んじ、主君への忠誠と民に慈しみを。そして多くの人々がこの人ならばと認めた存在でなければならない」
 正規の騎士団(定員256人)でも数名しかなれない。
「あいにくこちらにも、そちらにも正騎士はいない」
 一国の命運をたった一人に託せる存在、それが正騎士。だからこそ、正騎士同士の一騎討ちによって勝敗が決し、双方ともその結果を受け入れるのである。正騎士ではないものが行なった一騎討ちなど誰も尊重しない。
「数の少ないそちらに合わせて、12人で行なうとしよう」
 12人ではメレディスのような直接戦闘を行い得ない者も入ることになるが、手段を広げれば。
「魔法や弓の使用も認めていただきたい」
 サザン卿側にしてもウィザードはいなかろうが、オーラ魔法を使える騎士はいることだろう。
「よかろう」
 事前交渉は終わった後、メレディスはサザン卿と一人で面会した。
「自らの命と引き換えに王子を諌めるというのは、聞こえはいいよね。だけど、それって自分の自己満足じゃないかな。1人の命じゃ、結局のところ、国は変わらないよ。それどころか、反逆者の治める領地となって、自分の領民たちを道連れにしてしまう危険があるよね。自分のことを信じてくれている領民の心を、そんな形で踏みにじっていいのかな。領民との間に信頼関係があるからいいんだなんていうのは、詭弁だよ。自分は死ぬからいいけど、その後に生き残る人たちはどうなるの? 王子の無責任を責めていながら、自分だって無責任じゃないかな。王子は恐らく、正直に意見してくれる者が傍にいることを望んでいるんじゃないかな。こういう捨て身で刹那的な手段じゃなくって、もっと長期的に王子をサポートしていったらどう? 幸いみんな、反乱が公にならないように砕心してくれてるから」
 思ったことをぶつけた。
「痛い所を突いてくるな。少しは天界人を見直したぞ。領民たちはあるところに避難させた。その後のことの面倒を見てくれる人物に。エーロン王子のサポートを、できならしていきたい。しかしすでにエーガン王を王と認めない私は、エーロン王子に国王弑逆を勧めることになるだろう。エーロン王子はああ見えても、肉親の情にも篤い人だ。一つ誤算があるのはこの反乱が大きくなって、北部の領主たちが反乱を起こす危険があることだ」
 山賊助命の一件で北部の領主たちはフォロ家への不信感を高めている。しかもルーケイ伯に多くのゴーレムを与える布告が行なわれたことで、その待遇の差によって反乱の気配が間近に感じられるというのだ。
「時期が不味かったと反省している。北部で反乱を起こされないためにも、できるだけ勝ってもらいたい。もちろん、こちらとてむざむざ負けるつもりは無い」
 サザン卿との面会が終わって帰ろうとした時、サザン卿のもとに知らせが入った。
「広間に待たせています」
「厄介な人物が出てきたか」
 サザン卿はそう言って出て言った。興味を引かれたので、後をつけた。この館は狭いようで、けっこう広い。部屋が付け足されたようになっているので、迷いやすい。
 広間では、サザン卿を黒い甲冑の騎士が待っていた。顔は良く分からない。
「手助けは断ったはずだ」
「エーロン王子に叩きつけた書状の内容を知って、我が主君はサザン卿を高く評価されている。主命により助成する。それに天界人がどの程度のものが個人的にも興味がある」
「断ったら、独断で攻撃しそうだな。良かろう。12人の一騎討ちで勝敗を決することになった。参加させてやる」
「ありがたき幸せ」
「それ以上の手出しは無用だ。それなら主命を実行したことになるだろう」

●一騎討ち。
「我は烈空の騎士、アッシュ。イギリスという国からここアトランティスに来た。今日この場で、我と一対一で剣を合わせる勇気のある者はいないのか!?」
 アッシュが名乗りをあげた。
 サザン卿の陣営からも一人出てきた。すれ違う一瞬で楯で攻撃を受け止めてカウンターをしかける。決まったものの相手もまだまだ戦える状態のようだ。ランスを楯で受けたため、態勢が十分ではなかったようだ。馬を接近させての攻防、互いに馬は狙わない。
「なかなかやるな」
 明らかに相手はオーラ魔法の使い手のようだ。アッシュもオーラパワーをサンソードに込める。剣同士の戦いであるとともにオーラ魔法同士の戦いにもなっている。時間がかかりそうだ。
「第2戦をはじめる」
 マリウスがランスを構えて出る。ランス同士が交差し互いのシールドを突く。突進力によって乗り手たちは、馬上から地上へと投げ出される。ランスを投げ捨てて、剣による戦いへと移る。オーラシールドとオーラボディ、オーラエリベイションによってマリウスが戦いを有利に進めていく。
 セシリアが3番手との戦いに、スニアも4番手との戦いに入る。
「ちまちまやってねぇでぱっぱっと片づけろ、俺が手本を見せてやる」
 トールがサザン卿側の陣営に、強い奴を出せと叫んだ。すると、黒い甲冑の騎士が前に出てきた。
「メレディスが見たとか言う押しかけ助っ人か。オレも本気で行かせて貰おう!」
 トールが両手にそれぞれ装備しているシールドソードの刃の届く外側から、重い斬撃が襲ってくる。もう一つのシールドソードで斬り付けようにも、それまでには距離が開いて空を切るのみ。単純に馬を操る技能の差が馬上の戦いに出ている。得物が届かなければ、どんなコンバットオプションを使っても攻撃は当たらない。次第に重い斬撃によって劣勢に追い込まれる。得物を振り回すだけでなく、馬での踏み込みがさらに攻撃力を増しているようだ。そして馬上から落とされる。起き上がる前に、喉元に切っ先が突きつけられた。
「まだやるか?」
「甘くみただけだ」
 トールは破れたが、マリウスは勝っていた。アッシュもMP使い切ってどうにか、相手を圧倒したようだ。セシリアは馬の差で敗れ、スニアはどうにか勝ったものの疲労困憊状態。ドルフィネス、イアンが6番手、7番手と戦闘に入っていた。ドルフィネスは早駆けで勝負したかったのだから、不本意なものだった。
 シュバルツはグリフォンに乗って8番手と戦っていたが、グリフォンに乗っていることで逆に戦闘しづらい状態になっている。乗り手の能力が不足して騎乗戦闘が出来兼ねているというところだ。イアンもそれは同じ、乗っているのがゴーレムなら問題ないのに。馬のないキースは馬上の相手に対して徒歩で戦おうとしたが、それを見た相手は馬を降りて戦闘に入った。
 蒼威とメレディスは、不戦敗の扱いになった。
 戦闘に入っていないのは、リーダーのシャルグとサザン卿その人のみ。
 ドルフィネスは敗退し、イアンは辛勝。シュバルツはグリフォンの活躍で落馬したあとで勝利し、キースは相手が疲労してから攻撃に転じて勝った。
 そして大将同士の戦いになった。
 シャルグはオーラエリベイションとオーラボディを使い、ランスでチャージングを仕掛ける。サザン卿も受けて発つ。ランスは互いのシールドを捉えて、乗り手を地上へと投げ出す。
 シャルグはシールドソードに持ちかえて、サザン卿はオーラソードで攻撃をしかける。オーラソードはシールドソードをすり抜ける。オーラシールドを慌てて出して防ぐ。
「どうして小身の地方領主の騎士どもが、これだけ強いんだ?」
 平和に安穏としていなかっただけだろう。
 大将戦は体力勝負状態に陥った。
「さすがに」
 シャルグも言葉を発する余力も無くなりつつあった。サザン卿も足元がふらつきはじめている。
「天界から来た救世主の力とはその程度か!」
 サザン卿のロングソードが、シャルグを襲った。反射的に突き出した刃が、サザン卿の喉元に突き刺さった。頸動脈から血が吹き出し、シャルグを真っ赤に染める。

●報告
「そうか。サザン卿は死んだか。良くやった。報酬は予定通りだ」
 サザン卿の死を報告しても、エーロン王子の表情に変化はない。ただし、王子の右手は固く握られていた。
 サザン卿の遺骸は彼の騎士達が館に運び去り、その翌日埋葬に冒険者達も参列した。ジーザス教の葬式に比べると非常に質素だった。黒い甲冑の騎士はその場にいなかった。
「本当に遺骸はあの中にあったのか?」
 蒼威には、遺骸を入れた柩が軽いように思えた。
 謀叛を起こそうとしたサザン卿が密かに害されたという噂が北部一帯に流れたため、北部が連動して蜂起する危険は一応はなくなった。