特使供応役のお手伝い

■ショートシナリオ


担当:マレーア2

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:05月15日〜05月21日

リプレイ公開日:2006年05月22日

●オープニング

「そのお役目を私めに?」
 腹違いの兄弟とはいえ、年齢には隔たりがある。トルク分国王の異母弟ルーベン・セクテはこの日首都ウィルのトルク分国王の館に呼び出された。そしてある役目を与えられた。
「そうだ。国王陛下のお膝元がどのようなことになっているか、使節どのにお見せする。友好関係にある国が最近のウィルから流れてくる噂について真偽を確かめに来る」
「それで、巷を案内すれば良いということですね。しかし本当の姿を見せてしまっていいのでしょうか? トルク領内を案内していらぬ批判を浴びたくないのはわかります」
 リグとの外交窓口はケルス家が担当していた。それをケルス家以外に担わせるには何らかの理由があるはず。それに、今の首都の巷を見せたら落胆する方が多いような気がする。リグリーン(リグ国の首都)とて下々は似た様なものだろう。それを見たいというのはよほどの物好きか。国力を示すならトルク領内の方が良い。しかし、リウとトルクが裏で結びついているという誤解は招きたくない。
「ケルス家単独よりも複数の情報ラインを持ちたい。そんな単純な理由とは思えませんが」
「そこで庶民のことを熟知しているそなたなら、案内にふさわしかろうと思ったのだ。ところで例のところへ援助しているらしいな」
 例のところとは、山賊被害のあったフォロ分国北部地域のこと。今年蒔く種籾の不足分について援助を行なっていた。種が不足それば収穫は上がらず、いつまでも復興できない。実りの秋に食料を援助するよりも、この時期に種籾を援助する方が少ない援助で効果も大きく。領民の労働意欲にも結びつく。
「冒険者たちにはかっこいいこと言ってしまいましたから、何かしないと寝覚めが悪いだけです。国王陛下には妙に勘繰られないようにしておいてください。では、裏は考えずに案内することにしましょう。ただし、護衛もとい、供応役の補佐には冒険者を使います」
「せっかく作った冒険者ギルドだ。冒険者の有効性を他国に示す良い機会なるように」
 と口止め料の代わりに仕事を命じられたものの、他国に誇れるような冒険者を多数ウィルが抱えているという示威行為に近いことをどのように表現するかはまだ思いついていない。
 リグからの特使は名目上こそ特使となっているが、実際にはスパイのようなものだろう。表面を飾った王宮内よりも巷を見る方が国力は分かるもの。本当に国力を見せつけるなら、トルク分国の首都トルクで編成中のゴーレム騎士団の方が有効だろうに。
「首都の巷で見せるとしたら」
 野良ペットのいなくなった冒険者街、スラム街の比較的安全な地域を含めて、できるだけ下々の人たちを直接見ることができるところだろう。服装も庶民的な物に変えてもらうとしてとして。最近できたらしいファミレスとやらもいいかも。娼館での接待とかも必要だろうか。行き先は冒険者にも知恵を出してもらおう。
「リグとの関係を悪化させたいと考える者たちがいたなら、襲撃ぐらいあるだろうか?」
 国王の周囲にはハンとの関係を改善し、リグと距離をおこうという考える者がいるという。リグに何ら問題がないのにそのようなことを行なったとして、ハンとの友好関係ができるわけではないと思うのだが。
「特使の名前は、マレス・リーリングラード卿。随行者が2名」
 メモにはかなりの美形と書いてある。

●今回の参加者

 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1681 マリウス・ドゥースウィント(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4665 レジーナ・オーウェン(29歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7400 リセット・マーベリック(22歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4326 レイ・リアンドラ(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

流水 無紋(ea3918)/ クライス・ナイトレイ(eb3009)/ 皇 竜志(eb4299)/ アリア・アル・アールヴ(eb4304)/ ティラ・アスヴォルト(eb4561

●リプレイ本文

●ルーベン・セクテ
「今回の依頼を受けてくれてありがとう。俺がルーベン・セクテだ。あちこちでいろいろ言われているようだが、見た通りだ。今回の依頼は、依頼主である俺にも裏が読めない。トルク分国王の考えも、リグの特使の考えも。そのため十分に注意してほしい」
 依頼主との会合は、通常なら依頼主の屋敷で行われる。しかし冒険者たちは、下町の一角にあるある酒場に呼び出されていた。リセット・マーベリック(ea7400)には、以前に受けた依頼で来たことのある場所だった。ある程度の下調べをした上での会合。
『竜のねぐら』という酒場だ。その一室に今回の依頼を受けた冒険者と依頼主が集まっていた。
「セクテ侯爵閣下、ひいては我が敬愛する主君よりのご依頼。謹んでお受け致します」
 エリーシャ・メロウ(eb4333)は、片膝をついて言上する。
「依頼元がジーザム陛下ならば、国王陛下を通してではなくリグから直接持ち込まれたという事でしょうか。ケルス家を通してはどうしても国王陛下に詳細が‥‥いえ。一介の騎士には出過ぎた問題。私達の為すべきは、裏の事情からの危険にも対応出来るよう備えるのみです。聡明なる我が陛下におかれては、全てご承知の上セクテ侯に託されたのでしょうけれど」
「そうありたいものだが、リグしても現状を知りたいための特使だろう。メッキをつければ信義を疑われる。無事にありのままを見せて、失望するなら失望すればいい。特使殿は今日の昼にウィルに到着し、今夜は我が館に滞在する。視察は明日からになる。視察ルートについての提案があったら、まとめてくれ」
 ウィルの地図らしきものが、テーブルの上におかれていた。他の冒険者たちが地図を囲んでいる間に、時雨蒼威(eb4097)はトルクの感状とレッドスフィンクスの一員を身分証明に別部屋で単独であうことにした。
 今月中にルーケイで盗賊討伐がある事と近隣領主として警戒する事を進言し、さらに詳しくはルーケイ伯から使者が送られる事を伝えた。
「そうか。近隣の領主としては盗賊がいなくなるのはよいことだ。今のところうちの領地には、被害は出ていない。ルーケイにいなくなっても他の土地に移るだけでは解決にならない。その点は十分に配慮してほしいところだ。場合によっては、多少なりとも兵は出せるが、ルーケイはフオロ分国領内、エーガン王からの依頼でもなければ越境はできない。あまつさえ我が領はフオロに対する備えの地なのだ。フオロ家の立場に立てば、軽々にルーケイの地勢を知られたくはないだろう。越境は両家の戦にまで発展しかねない」
 つまり、自分の領地に逃げ込んでくる盗賊を自分の領地に入った後なら攻撃できるが、越境しての攻撃はできない。そのような勝手なことをして、国王から反逆者として討伐されたくないということだろう。またエーガン王にしても、嫌っているルーベン・セクテに依頼することはしたくないだろう。ルーケイ伯にも、そこまでエーガン王を動かせる力があるとは思えない。
「もしハードボウの弦の鉄線作ってる工房を紹介して欲しいのです。あれを新型馬車開発で失敗した車輪の溝代わりの綱の代用に使うと面白そうなんで」
「あいにくと、弓には疎い」
 まして工房となると、彼の範疇ではない。
「ゴーレム用の弓に使うものなら、トルク分国王のゴーレム工房で生産しているだろう。そちらをあたってみたらどうだ」
 密談を終えて戻ってくると、話題は特使がどのような人物かということに移っていた。
「マレス・リーリングラード卿と随行者2名ということですが」
 マリウス・ドゥースウィント(ea1681)は、マレス・リーリングラード卿その人よりも随行者2名に興味があった。
「ケルス家にそれとなく聞き出した範囲だが」
 そう前置きして上でルーベン・セクテが話しだした。
 リーリングラード卿と名乗っているが、実際には確かな素性はわからないという。ラオ=エの2国を相手にして時の敗戦のゴタゴタの時に、リーリングラード卿に入り込んだ騎士が、さらに養子ということで迎え入れたという。優秀な騎士が姫君の心を射止めて、領地を得ることはある。しかしさらに養子というのは珍しい。
「政治手腕や統治手腕については未知数。ただし、剣技については素人の域ではない。おそらく随行者2名は護衛を兼ねた者たちだと思われる」
「では、下々を見たいというのは、特使殿のご意向ですか?」
 レジーナ・オーウェン(ea4665)は疑問を口にした。特使なら王宮にいけばいいだろう。
「そのとおりだ。王宮は王宮で、下々は下々で。王宮にいくのは多分、もっと身分の上の者だろう。マレス・リーリングラード卿は、下々の状況調査に長けた者だ。無理に飾ることもなく、実態を見せるにしかず。というよりも、多分小細工を弄したところで、特使とて裏をとるだろう。俺ならそうする」
「確かにそうですわね。飾ってみせたとて、裏をとられて小細工が判明したときのほうが、のちのちの影響が大きいわよ」
 スニア・ロランド(ea5929)が会話に加わってきた。彼女は、いろいろ噂に聞いているルーベン・セクテに初めてあった。優れた現状認識能力と実務能力と兼ね備え、その上で理想に向かって歩める方と認識していた。実物を見てもそのように思える。国王が国を建て直すにはほしい人物のはず。ところがその出自のために国王は嫌いきっている。
「私はルーケイ伯与力の男爵です」
 リセットは、自分の身分を偽らずに丁重に述べた後で
「依頼期間中は私は一冒険者ですので」
 と付け加えた。
「ルーケイ伯も大変らしいな。直接会う機会はないが、領地はお隣さんだ。よろしく伝えておいてくれ」
 屈託なくそう言うとルーベン・セクテは蒼威にも視線を向ける。
「当日の手配ですが」
 シュバルツ・バルト(eb4155)が話し合ってまとまった結果を提示する。
「案内する場所として港、ここでは朝市や交易の中心部を案内します、サカイ商店では、豊富な品揃えをごらんにいれます。冒険者街では魔獣や冒険者達の実情紹介します。そして冒険者酒場で酒宴を。
 当たり障りのない範囲。このうち冒険者街や冒険者酒場は、トルクの管轄内にある。冒険者の飼っているペット以外は安全だろう。
「サカイ商店については、リグにもあるかも知れない。サンソードの輸入販売はウィル国内だけでなく、リグにも浸透している。そういえば、ここでファッションショーを行うという招待があった。ちょうど特使殿の日程に当たるのでコースに組み入れてほしい」
「はい。では当日の警備態勢です」
『先行組』(先行して目的地の安全確認)としてスニア、リセット、エリーシャの3人があたる。本隊がくる前に怪しい人物をマークしておく。場合によっては排除。
『同行組』(特使マレス・リーリングラード卿とその随行者2名とルーベン様の護衛&供応役)として、マリウス、レジーナ、蒼威、バルザー・グレイ(eb4244)、レイ・リアンドラ(eb4326)、シュバルツの6人があたる。
「一時期、冒険者を目の敵にするような風潮がありましたが、今のところはおさまっています。今日中に再度視察ルートを確認しておく必要があります」
 バルザーは、相手がトルク分国王の異母弟ということでなれない丁寧な話し方をした。
「普段見なれてる所ほど油断しやすいとの戦場での教訓から来るものです。また冒険者街は余裕が有れば空家の多い地区を見繕っておきます」
「確かにその通りです。私も同行しましょう」
 レイが申し出た。彼もルーベン・セクテには興味があった。鎧騎士としてアトランティスで支配階級にある者としては、ルーベン・セクテの行動は破天荒とも考えられる。
「では事前準備をしっかり頼む。明日は港の朝市に合わせるように早めに出発する。先行組の三人は現地で、同行組は屋敷で落ち合うことにする。思い過ごしでなければ、屋敷の出入りも見張られている可能性がある。同行組を見て襲撃を諦めてくれるのが一番いいことだが、そうでない場合には全員の顔を知られないほうが良い」
 それで屋敷ではなく、大人数が出入りしても不思議ではない場所が選ばれた。
「少しお話があります」
 バルザーが表でもう一人の冒険者(ティラ・アスヴォルト)とルーベン・セクテを待っていた。ティラ・アスヴォルトが口を開いた。それにたいして。
「わかった。こちらとしては歓迎だ。天界人ならともかく今のところ鎧騎士という身分上表立ってというのは、君たちの身の上に危険が及ぶかも知れない。いつでも門戸は開放してある。そのつもりでいてほしい」

●視察
「天界ではそのような大きな猫を町中に連れて行くことは、当たり前のことなのか?」
 大きな猫とは、蒼威の疾駆(チーター)のことだ。ロープ結んで首輪と手綱代わりにしてある。ちなみにセトタ大陸全域は調査されていないが、ウィルで人の住んでいる範囲でチーターの存在は確認されていない。
「まずいですか?」
「魔獣に見慣れた冒険者や恐獣を操る獣騎士ならともかく、一般人はパニックに陥るだろう」
 冒険者としての立場でもある鎧騎士たちも、同意する。
「屋敷で預かる。せっかく連れてきたのだ。特使殿に披露しよう」
「この度、供応役の補佐の依頼を受けて御世話をさせて頂きます、冒険者レジーナでございます」
 レジーナが冒険者と言う存在である事をしっかりアピールした後に疾駆を見せた。特使も疾駆を見るなり身構えた。草食獣には絶対に見えないのだから、当然といえば当然。周囲から蒼威に、非難の視線が集まる。
「さすがにウィル、珍しい生き物ですな」
 特使は取り繕ってそういった。度肝を抜いたという点では有効だったかも。レジーナが提案したとおりに、目立たぬように町中で目を引かない服装ということにしてある。特使も目立っては本当の姿を見ることができないと、同じ考えだった。
 港の朝市は山国のリグでは珍しい光景。有力な貴族からお抱えのウィザードなりを使って氷つけにした魚を運ばせることも可能だろうが、一般庶民には新鮮な魚は、手に要りにくい。首都ウィルも人口が多いだけに、朝市では賑わいもある。できるだけ混雑に巻き込まれないように気をつけながら進む。先行組の3人は、事前に打ち合わせた場所から合図を送ってくる。
『後ろ手に拳』問題なしの合図だ。
 それでも、同行組は油断なく警戒している。
 レイは特使の近くで穏やかに会話をしながらも、周囲を警戒している。バルザーは特使の死角から接近してくる者を誰であろうと身をもって阻んでいる。シュバルツが逃走経路の常時確認している。襲撃者がいるなら、逃走経路をふさぐはず。
 サカイ商店はあまり歓迎されなかった。同じような店はリグリーン(リグの首都)にもあるという。品揃えも大同小異。
「休憩をかねて、珍しいところに案内します」
 ルーベン・セクテが先頭になって『竜のねぐら』に入った。席はVIP席が用意されていたが、一般席に陣取る。周囲を同行組が囲んでいる。
「ここでいったい何を」
 先日きた時とは別の場所に思える。酒場の主人が自らワインを運んできた。
「今日はファッションショーの貸し切りのなので申し訳ありません」
「ファッションショー?」
「天界で流行りのゴスロリという衣装だそうだ。蒼威、そうだろう?」
「‥‥(いきなりそんな話題を振られても)」
 年代物のワインを味わってショーに見入っている。どうやら特使も随行者も、この手のショーは好きらしい。
「そういえば、一人モデルに男がいたがあれは天界では男性も着るものだろうか」
「さあ。蒼威、そのあたりはどうだ」
「‥‥(だから知らないって、来ている男はそういう趣味の男だろう)」 
 妙な誤解を与えたかも知れない。同行者が壁になって問題は起こらなかったが、実際にはショーの最中に挙動不審者が捕まっていた。
 冒険者街は、魔獣が出ないことを祈りつつ歩みを進める。野良魔獣はいないだろうが、家においていかれたペットが逃げ出すこともあり得る。ロック鳥でも出て食われた日には、ショアの騒ぎの再来になりかねない。冒険者街は武装している人がいても、当たり前。それだけに警戒する。
「では最後に冒険者酒場『騎士の誉れ』に御案内します」
 先行組の3人が先回りして、特使のテーブルの周囲を守るような位置に席を取る。
 同行組もそれぞれの場所にいく。シュバルツは全体が見渡せる位置に。
「ワインは先程の店の方がよかったな」
「あれは顔なじみになって初めて出る物。通常物ならこちらの方が上でしょう。冒険者はけっこう裕福ですから」
 レイは、不穏な噂についてはやんわり否定した。しかし聖山シーハリオン巡礼や竜との和平などについて話そうとした時には、ルーベン・セクテが咳払いをした。合わせるようにエリーシャが反対側で大きな音を立てる。特使がそちらに注目する。
「シーハリオンの話題を出して刺激するな」
 マリウスが、小声でレイに注意する。

●屋敷にて
「無事に済んでよかったわ。結局、裏は何もなかったのかもね」
 スニアは役目を終えて、安心していた。
 蒼威は特使に万年筆贈った。特使はとりあえず受け取ったが、あまり感銘は受けていないようだ。疾駆のことを根に持っているのかもしれない。
「今日はご苦労だった。酒場の払いはしておいた」
 最初は依頼中の行動費は冒険者自前だったが、襲撃も何もなかったための特別報酬のようだ。
「冒険者の存在は、大きな影響を与えたようだ」
 リグでも天界からやってくる冒険者を保護していく方向に向かうだろう。
 先行組3人は、ルーベン・セクテより特にねぎらいの言葉をかけてもらった。合戦ではないので、感状というわけにはいかなかったが。それでもエリーシャは、相手が相手だけに感動していた。