アトランティスにゴスロリを

■ショートシナリオ


担当:マレーア2

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月15日〜05月20日

リプレイ公開日:2006年05月21日

●オープニング

「アトランティスに来てから、すでに半年。こちらの縫製技術はそれなりのものだとわかりました。これなら私のファッションプランには問題ありません。天界よりもはるかに仕事もていねい。きっと天界以上のものができるでしょう」
 自称天界一のファッションデザイナー空雅子は、アトランティスにおいて天界での最も注目されている衣装としてゴスロリを大々的に広めようとしていた。彼女のセンスにしてみれば、このアトランティスの衣装デザインはまだまだ初期、もっと宮廷女性の美しさを表現できる。こっちの宮廷の衣装は地味すぎるのだ。
 で、そのような高貴な人がときおりお忍びでやってくるという酒場があると聞きつけて、ウィルの市街地にある「竜のねぐら」にやってきた。そして試供品の衣装を何点がおいていったこともあった。
「で感想はいかがでした?」
 きっと好評だったと確信して出向いたのに。
「え〜、着なかったんですか?」
「だって、あれってやっぱり似合う人が着ないと」
「そんなことありません。ジュネさん、あなたならきっと似合います。私が太鼓判を押します」
「そんな太鼓腹を叩きながら言われても」
「いいじゃないか。俺たちだって見たいよ」
「んだんだ」
 常連客がたちまち加勢に入る。似合うかどうかではなく、面白ければいいといういい加減なもの。それを知っているから、ジュネも乗り気ではないのだ。でも、それでは困る。
「だれか、ジュネにやる気を出させることができる人は」
 空雅子は店の中を見渡した。
「(いた! こういうのは美男子に説得させるのが一番)」
 店に片隅でリュートを片手に、カオス戦争のサーガを歌っていた吟遊詩人を見つけた。見目よし。彼ならきっと。
「ねぇ、そこの美男子の吟遊詩人さん。ちょっと力貸してくれない?」
 一節を終えた吟遊詩人は、空雅子に顔を向けた。
「ルーに頼むのが一番ですよ。でも、今日はいないようだ」
 吟遊詩人はゆっくりと席をたつと、ジュネのところに向かった。
「あら、エストーラさん。春の海はどうでした?」
 はぐらかそうとしたジュネの問いかけを笑ってごまかした。
「こういう役目は不本意ですが、どうやら民衆はあなたに着飾ってほしく思っているようです」
「エストーラさん、あなたまで」
「美しいものに、興味があるだけです。あなたなら宮廷の女人たちよりもよほど輝いて見えると期待しますよ。ルーだって文句は言わないと思います」
「でも、私一人じゃ不公平よ。どうしてもというならいっそのこと。そうね、ここでファッションショーとかいうものやりませんか? もちろん、場所代は相応のものをいただきますけど」
「場所代?」
「ええ。その代わりモデルも、会場整理兼警備員もこちらで用意しますから。しっかりパトロンを見つけておきなさいよ。うちはいつもにこにこ現金払いですから」

●今回の参加者

 ea3067 ログナード・バランスキン(32歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea4509 レン・ウィンドフェザー(13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5066 フェリーナ・フェタ(24歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ロシア王国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb3469 クロス・レイナー(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb4035 ミシエル・パルス・ガロー(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4239 山田 リリア(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4248 シャリーア・フォルテライズ(24歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4428 エリザ・ブランケンハイム(33歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●衣装合わせ
「これでも良心価格よ」
 ジュネ・ルイセは、空雅子に応募してきた冒険者を紹介して、場所代の請求書を手渡す。
「当日、もしなんらかの事情でファッションショーが開催できなくても、お店営業はお休みにしますから、キャンセル料は100%ですからね」
「お店の選択、ここでよかったかしら?」
 空雅子はブツブツいいながら、竜のねぐらで募集した冒険者の品定めを行っていた。ジュネが冒険者ギルドを通じて募集して、それに応募した冒険者は10人。そのうち、モデルを希望した人は8人。
「ログナード・バランスキン(ea3067)さん、レン・ウィンドフェザー(ea4509)さん、フェリーナ・フェタ(ea5066)さん、ヴェガ・キュアノス(ea7463)さん、ミシエル・パルス・ガロー(eb4035)さん、山田リリア(eb4239)さん、シャリーア・フォルテライズ(eb4248)さん、エリザ・ブランケンハイム(eb4428)さんの以上8人にジュネさんを加えた9人ですね。一人ずつ呼びますから、呼ばれた人はあちらの部屋に入ってください」
 空雅子のアシスタントが今回発表するデザインの試作品を部屋に持ち込んでいた。
 すでにデザインされたゴスロリ服と冒険者の体型や表情それにモデルの希望も合わせて、どれを着用するか決めていく。体型によってはかなりの修正やデザインの変更もあり得るから、デザイナー側もまだまだシュラが続く。
「ゴスロリとは好ましきデザインじゃの。レースの重ねや色の取り合わせ、なかなかに素敵じゃのぅ。黒でも喪服にならず、この絶妙なバランスのレース使いがまた!(ほわーん)」
 ヴェガは、試作品が展示されるや、いくつかに目を奪われていた。
 そのかたわらでは女同士の戦いが静かに燃え上がっていた。
「ジュネ、この前は失礼な事言って悪かったわ!」
 人にはそれぞれ大切な場所ってあるものね。それを『こんな所』と言ったのは私が悪かったわ‥‥。エリザは以前受けた依頼の時の言葉を謝った。
「大丈夫。言葉の綾だったのでしょう」
 ジュネもさりげなく流す。
「まぁ、それはそれとして!今日はどっちがゴスロリってヤツが似合うか勝負よ! コテンパンのキュ〜にしてあげるから覚悟なさい!」
 そして、エリザはようやく用意されていたゴスロリ服の方を見る。
「い、いいんじゃないかしら」
 そしてエリザは真っ先に呼ばれた。
「空さんの私の衣装を選んでくださらないかしら? より魅力的に紹介出来るよう協力するわよ!」
 その発言が幸か不幸か、空雅子のデザイナー魂に火をつけた。
「まず、裸になって。採寸するから」

「ぷ♪ ふわふわのひらひらでふりふりなのー。たのしみなのー♪」
 レンはゴスロリ服のいくつを愛しそうに眺めて、時間が経つのも忘れて自分の世界に入っている。しかし他のメンバーは最初に入ったエリザが、部屋に入ったまま出てこないので不審に思い始めていた。
「大丈夫だろうか」
 ログナードは、なぜか男性であるのにゴスロリモデルを希望していた。どんなものがよく分かっていなかったのだが、それは鴨がネギ背負ってくるようなもの。すでにアシスタントに囲まれて、下着に剥かれて、強制的に試着をさせられていた。なぜか似合ったりしているから、そこに拍車がかかる。最初は悪ふざけだったものが、もうアシスタントたちの目はプロの目になっていた。そこから逃げたくてか、それともエリザを本当に心配したのかは不明。
 ようやく扉が開いて、フラフラになったエリザが部屋からどうにか歩いて出てきた。
「ピンクを基調にして白いレースをふんだんに使ったものですね」
 リリアは真っ赤なふりふりひらひらを希望していた。幾人かが黒を希望していたので、もし黒系の色しかなかったらどうしようかと思っていた。そこに、ピンクが出てきた。ピンクがあるなら赤もあるだろうと期待が持てた。
「頭部の飾りや各種アクセサリーも必須です!」
 よく見るとエリザも目立たないが、あちこちにアクセサリーが装備されている。
「ヘッドドレスだけが、アクセサリーじゃないってことですね」
 エリザの髪では、ヘッドドレスで隠すのがもったいないようなもの。それはリリアにもいえること。
 フェリーナは髪の銀色が映えるから黒がいいかな。と希望を伝えた。基本的にゴスロリ=黒というイメージが精霊の翻訳によって伝わったからだろうか。黒以外でも問題はないのだ。
「こんなのどうかしら」
 空は何度かの会話の後、デザイン画を見せた。
「これ、本当に。素敵!」
「まだ完成していないから、これから採寸ね」
 フェリーナはそのまま採寸室に連れて行かれた。
「ミシエル、どうぞこちらのお部屋に」
「はい」
 ミシエルは、事前に友人が人から聞いた話を思い出していた。ゴスロリとは、ゴスっと衝撃がくるほど丈の短いドレスだって。本当? しかし、控室に準備された衣装を見る限り、ゴスっと衝撃がくるほど丈の短いドレスとは思えない。実際見たら目が輝き満面の笑顔。大絶賛&即お気に入り! となってしまった。ここにいる人たちの反応を見る限り、ゴスロリは貴族で流行らなくても、冒険者相手だけでも十分にやっていけるかも知れない。
「あの、あたしで大丈夫でしょうか」
 ミシエルにとっては豊満な肉体も高い身長も戦闘系の冒険者である鎧騎士(中には制御胞に入れるように小さいほうがいいという考えもあるが、ストーン以上ならさして問題はない)には好ましいものだし、彼女の魅力にもなっている。しかし、ゴスロリ(=ゴシックロリータを単純に考えてしまうと)ロリータ系も好きだけど、身長と胸の大きさで諦め気分になってしまう。
「そんなコンプレックス持つ必要ないの。ゴスロリというカテゴリーだけど、服は着た人を楽しくさせるもの。見る人も楽しませるもの。ちょっとデザインを変えて、身長と大きな胸を魅力的に演出するようにしましょう」
 そう言われて、その場でアシスタントに採寸させながらラフデザインを書き上げていく。
「こんなのでどう?」
 ゴスロリの基本ラインをどうにか守りながら、身長と胸を魅力的に演出する。
「ちょっと、恥ずかしいかな」
 でも、そこは怖いもの知らずの性格。
「お客さんに手を出されないように、警備の人に頑張ってもらわないとね」
 たしかに。
「シャリーアさん入ってください」
 やっと順番が回ってきたシャリーア。
「ゴスロリか‥‥聞きなれぬ服の名だが、一度話の種に着させてもらいたいな」
 という軽い気持ち(もっともみんな同じようなものだろう)でモデルに応募した。
「黒や白、あと、あればの話だが、明るい青系統の服とか着てみたいな。赤も良いなぁ‥‥こうしてみるとホントにどんなのが良いか目移りしてしまうよ」
「黒を希望する人が多いから、青系統のがいいでしょう」
 同じ色が多いと、デザインがかなり違わないと同じ服に見えてしまう。そのため、ある程度は別の色があったほうがいい。
「この服をきてみて、ウエスト細いのね。これぐらい修正ね」
 ヴェガは希望を伝えた。
 黒系ゴスロリ服をチョイス。聖なるロザリオとコーディネートで♪ 黒ベースに白いフリルと赤の細いリボンをアクセントに。銀の髪をサイドでツインテールにして、さらに黒レースベースのヘッドドレス。レースの手袋も。スカートは品良く長めで、パニエは白。靴は黒のストラップ付きの革靴に白のレース付の靴下。自己評価では20年ばかり若返ったという。
「ゴンスケにもヘッドドレスを」
「え、この柴犬にも?」
「わし的には可愛いと思うのじゃが」
 なぜか、皆が微妙な表情をするのじゃ。
「やるだけやってみますが、嫌がらないですか?」
 忠誠心はあっても、嫌そうな顔をしているように見えるのは気のせいか?
「レンさん、おまたせしました」
 レンは呼ばれても、まだフリフリに見入っていた。ふわふわのひらひらでふりふりなのーの希望を取り入れてデザインを変更していく。
「あと一人いたはずですが」
 ログナードはすでにアシスアントに拉致されて、衣装の修正までできていた。
「これ男性用ですか?」
 ログナードが恐る恐る尋ねる。
「そんなこと気にしないでください」
 どうにかモデル全員の衣装デザインが決まった。もちろん、当日は一人当たり2、3点を掛け持ちすることになるだろう。空雅子はアシスタントに臨時雇いのお針子さんまで総動員して、デザインの現物化と修正に追われる。モデルを志願した8人は、かなりハードなモデルの練習をこなしつつ、知人たちにファッションショーを行うことを宣伝していく。もちろん、モデルを希望していない。アハメス・パミ(ea3641)とクロス・レイナー(eb3469)の二人は当日の警備とファッションショーで使う舞台装置について配置場所を打ち合わせていく。
「ファッションショーですから、中央に板を渡して、その上をモデルさんに歩いてもらいます」
 客はその左右に分かれて座ることになる。板は頑丈なテーブルの上に渡すので、よほど破壊しようというつもりでそれなりの武器を持ち込まない限りは、壊せない。
「魔法を使われると対抗策がないけど」
 それよりも、モデルたちは今までの依頼をこないしてきた人間関係を利用して、客の招待を行っている。その方たちに何かあったほうが問題になるだろう。一番多いのはスリ。
「VIP席を作ったほうがいいですか?」
 武器を持った相手からマークするのは楽だろうが、場所が場所だけにスリとなると見分けが難しい。クロスはそう提案した。
「どんな人がくるかにもよるでしょう」
 アハメスが聞いた範囲ではレンがハイデマリーとシェスティンとその友人一同、ミシエルがププリン・コーダ男爵に鎧騎士イッチー・ゲールとヘッグ・エッツ、シャリーアがハーベス子爵、パピヨン夫人、フレイ。
「フレイってあちこちで問題おこしている奴だろう。白と黒で彩られたボールがお気に入りとか」
 すでに問題人物が発見されている。
「お嬢ちゃん(エリザ)が沙羅影、チップス・アイアンハンド男爵を呼ぶと言っていた」
 けっこう有名人が集まってくるじゃないか。
「ジュネも絡んでくるから、ルーもじゃろう」
 ヴェガがモデルも練習に疲れたのか、会話に加わってきた。
「ルー?」
 クロスは聞いたことはないようだ。
「ルーベン・セクテ、トルク分国王陛下の異母弟らしい」
「モデルの終わった者から警備に加わるし、フェリーナはダーツをスカートの下に隠すつもりのようじゃし、わしはコアギュレイトが使えるから広範囲をカヴァーできるじゃろう」
 ミシエルとレンは自分たちの描いた絵を持って回って宣伝していた。
 警備の手が足りない状態でも、時間は開催に向けて進んでいく。

●そして当日がやってきた
「大入りだ」
 シャリーアは舞台裏から、会場を盗み見た。とはいえ大入り袋などはない。閑話休題。昨夜のうちに竜のねぐら内部は、ファッションショーができるように配置は変更してある。
「レン、緊張しないでね」
 最初は膝に『ろぉーる(猫)』を乗せたレンから始まる。いったん会場を完全に暗くしている間に、舞台中央に移動する。
 次はヘッドドレスを着用した柴犬のゴンスケとともなったヴェガが登場する。
 ミシエルとリリアは胸を強調するようなデザインで、観客を引きつける。手を伸ばしそうになる観客の一人をクロスが軽く制止する。
「一人多くない?」
 シャリーアは途中で人数を数えると一人多い。
「フレイ!」
 シャリーアが招待したハーベス子爵にくっついてきたフレイが、いつのまにかゴスロリ服をきてモデルに混じっていた。
「いいじゃない」
 空雅子はあわてずに、シャリーアに並ばせて、舞台に送り込む。
「ルーも来ている」
 ジュネはエリザとともに舞台に出て、勝負。ルーの視線のあるせいか。気合が入っていた。このゴスロリ勝負は、エリザには不利だ。
「あそこ、VIP席じゃないよ」
 舞台に引っ込んだ後、そのあたりで何か大きな物音がした。
 フェリーナの銀髪は、明かりを微妙に反射して黒地に映える。同じ銀髪のログナードがエスコートするように少し前を歩く。

●大成功でも、こんなに疲れるって
 招待客は都合のつかない人以外は皆来ていたようだった。アハメスが一人、フェリーナが二人ほど挙動不審者をつかまえた。
「今日はご苦労さまでした。ファッションショーは大成功。パトロンも申し出が幾人かあったわ」
 空雅子は、幾人かの貴族から資金援助の申し出があったことを知らせた。
 しかし、モデルたちも警備者も一日のファッションショーで体力を使い尽くしていた。
「こんなにハードとは」
 ミシエルはヘッグ・エッツから送られた花束を抱えて、舞台裏で衣装のまま突っ伏していた。他の面々も大同小異。飛び入りしたフレイは、ハーベス子爵に連れられて無事にかえっていった。
「見事よジュネ! だけど自分の魅力だけで勝っただなんて思わないでよね! フリフリのおかげよ! とにかく」
 エリザは、寝言をジュネに向かって言っていた。どうやらよほど思っていたらしい。
「はいはい。それじゃ会場の片づけいいですか?」
 ジュネは、明日の営業の向けて会場を片づけていった。