●リプレイ本文
●出航
「ドレニック卿、お久しぶりです」
アハメス・パミ(ea3641)が、アーディル・エグザントゥス(ea6360)、レオン・バーナード(ea8029)とともに、ドレニック卿の船に上がってきた。
「今回も依頼を受けてくれて助かる。うちの船員どもは、通常業務で手が放せない。貧乏領主はつらい」
おちゃらけているところは、変わっていない。
「ところでお姫様は?」
アーディルが、心配そうに尋ねる。レオンも同じようなもの。
「それはおいおい。もう姫君は船室の方にいる。あってやってくれ」
アーディルのバリオスはさすがに今回は連れて行けないので、ドレニック卿のところで預かる。
「今回の船は、小さいんだな」
バーナードが感想を口にした。
「だ捕した海賊船を売り払って買ったんだ。この前の船よりもはるかに速い。無事かどうか不安はあるが」
すでにミンス卿の港までの航路も調べてある。南下するから右手に陸地を見ながらの航行になるとはいえ、天候で視界が遮られることもある。それでも問題が何もなければ、予定期日で往復できる。
「そりゃすごい」
「問題が起きなければ、という条件付きだ。船舶を操れる優秀な冒険者がいれば問題はないと思っている。期待しているぞ」
そこに他の冒険者たちも徐々に集まってきた。アトス・ラフェール(ea2179)もここまではロシナンテに乗ってきたが、アーディルのバリオス同様にドレニック卿のところに預けていく。
「潮風に青い海、懐かしいな‥‥。でも水平線が平らなのは、なんか違和感があるよな。さすが異世界って事か」
地球から来た天界人の鳳レオン(eb4286)は天界では船乗りをしていたが、こっちの世界は地図も海図も適当な上、夜空の星も位置を知る手がかりにはならない平らな世界。正確な地図と便利な機械に頼ってた現代人には、こっちの航海は心許ない事この上ない。アトランティスにはレーダーも人工衛星を使ったGPSもない。計器に頼っていた地球人にとっては、心もとない世界ということを実感している。天界の知識も通じない。
「地球の知識で役立ちそうなのは三角測量ぐらいなんだよなぁ。ま、でもやるしかないか。それに大航海時代の船乗りになったみたいで、わくわくするしな」
「私は航海の安全と乗組員の食事作りに専念するわ。ついでにメリーヴェも連れて行こうかしら」
マリー・ミション(ea9142)は鷹を連れて現れた。
「鷹には潮風はけっこうきついぞ」
ドレニック卿が声をかける。それでも連れて行きたいのならそれはそれでいい。しかし、魚以外の生き餌は手に入らない。大丈夫だろうか。
音羽朧(ea5858)は最後に、船に上がってきた。水遁の術もこなせるので、いざという時には役に立つだろう
「まだいるぞ。忘れないでくれ」
エストゥーラがあわてて船によじ登る。
「チェッ、船賃も出さないんだ。せいぜい働いて体で払ってもらうぞ」
「男色の趣味はありません。いたってノーマルですから」
きっぱりと断る。
「そういう意味じゃない。出航する。錨をあげろ」
ドレニック卿は左手で頭痛の始まった額をおさえながら号令をかける。
すでに手慣れたバーナードが配置についている。渾身の力を込めて錨を引き上げる。アトスも手伝ってようやく錨が水中から引き上げられる。
「オール準備、港の外まで漕げ!」
●外洋
「トプスル展帆」
鳳が風の動きを読みながら、大声で怒鳴る。伝声管が付いていないから大声を出さざるを得ない。
マストの上には朧が鳳から習った帆の広げ方を思い出しながら、帆を広げていく。身軽な忍者だということで上に登っているが、帆の多い船は初めてで指示した帆の位置を覚えるのに忙しい。地球から来た天界人ならわかるが、これまでのアトランティスの船よりも地球の大航海時代の帆船に近いつくり。たぶん、天界人が出した発想を試験的に作ったものだろう。ジ・アースから来た天界人にも、目新しいもの。命令を出している鳳のみの知識で運行される。
今回はクリエイトウォーターを使える者が誰もいないから、水の残量に気にしながらの船旅になる。出航した翌日にはトルク分国の海岸線を遠目に見ながら、イムン分国の海域に入った。
「10日で往復するなら、4日目の午後には到着したいところだ」
今のところ順調で、風も順風、潮流の南に向かっている。風と潮に助けられて、普通以上の速度で航行していく。
「風向きが大きく変わるか、天候が急変しない限りは、当直だけで運行はこなせる。
舵輪を操る一人とマスト上から周囲を見張る一人。アトランティスは天界と違って球形ではなく平面だから視界が広がるためではなく、海面下に隠れた岩礁を警戒するためだ。陸地に近いだけに岩礁の可能性もある。高いところからの方が見つけやすい。わずかな潮の流れを見切れないと大変なことになる。
今はアハメスが優良視力で見張っている。残りはとりあえずフリーなっているが、天候が急変した場合に備えて3人が待機している。
「水に潜って貝類、甲殻類等を食料の足しにする。というのは今の航行速度では無理です」
アトスは水がわりに支給されてエールをあおる。完全に気が抜けている。まさに水分を補充する程度。
「姫君も大分よくなったじゃないか?」
アーディルは、休憩時間を利用してロ・ロレア姫のところにいた。吟遊詩人ではないが、元気付けることを目的に古今に伝わる『囚われの姫とそれを救う勇者』の様々なお話をしていた。つまりは信じつづけたから幸福を掴む、ような。
「回復が早いのはいいのだが、逆に気になっている」
ドレニック卿は、救出後付きっ切りというわけではないが毎日見舞っていた。肉体的にも精神的にも徐々に回復していくのが見て取れた。
「自殺の心配も、処理が必要になることもなかった」
船尾では、マリーがニョルズの釣竿で糸を垂れていた。これだけ航行速度が速いと釣りも難しいだろう。
「それはいいことじゃないか?」
アーディルは、処理の意味はよく分からなかったが。
「そうじゃなく、俺は男だから理解できないのかも知れないが、最初の経験が」
「そういうことか? マリー、ちょっと知恵を貸してくれ」
アーディルは船尾にいたマリーを呼んだ。
「呼んだかしら?」
「ちょっと知恵を貸してくれ。仮の話だけど、もし最初の相手がむさ苦しい海賊に無理やりだったら」
「冗談じゃないわよ。いくら好奇心が旺盛だからって」
「そうじゃなく、ロ・ロレア姫のことだ」
「あのお姫様? そうね、ショックが大きすぎてどうにかってところかも」
「そうか」
ドレニック卿は、そうつぶやいてため息をついた。
「こんなこと聞いていいのかわからないけど、何を考えているんだ?」
アーディルは、ドレニック卿の様子があまりに普通でないので尋ねてみた。
「思い過ごしであればいいのだが、ロ・ロレア姫自身がエーガン王への献上品なのではなかったのか? そんな考えが浮かんでしまう」
身近にして観察していたドレニック卿の言葉だけに、二人も戸惑った。
●勉強会
「ねぇ、博識な吟遊詩人殿」
無賃乗船のエストゥーラが、ぼんやりと陸の方を眺めていた。その背後から声をかけたのは、アハメス。
「何かご用ですか、お嬢さん?」
「せっかくの機会ですので、是非とも他国、他分国の情報等をお教えいただきたいのです」
天界人たちにとっては、アトランティスの生活もそろそろ二季節近くになるが、依頼以外での行動が制約されているため、セトタ大陸の情勢にも疎い。博識な吟遊詩人ならいろいろ情報を持っていることだろう。
「では手の空いた人を集めてください」
天候の急変もなさそうなので、マストの上からも降りてきた。さらに。
「舵取り代わってやるから、エストゥーラの話を聞いてこい」
舵取りに専念していた鳳は、ドレニック卿に促されて最後に加わった。
「あまり古い話でもなんだろうから。最近のことを話そう」
セトタ大陸には6つの国家がある。エ、ラオ、ハン、リグ、チ、そしてウィル。大陸の中央周囲を山脈に囲まれるような場所にリグがあり、リグの北にラオ、西にエ、東にハン、南西にチ、南にウィル。エとラオはかつてリグに攻め込まれたことから、リグとは敵対関係にある。ハンの王妃はラオ王の娘である。
「ただし駆け落ちだ」
ハンは東の海の対岸にあるランとの貿易で栄えている。
「6国の関係は」
チは中立国、カオス戦争にも兵を出そうとしなかった国。政治的に他の5国のいずれにも与していない。
「ウィルのセレ分国とは親密だという」
エ・ラオ・ハンの3国は対リグという点では同盟に近い関係にあう。
「そしてウィルはリグとの友好関係にある」
「ウィル国内には6つの分国がある」
現在のウィルの王家、フォロ分国、エルフを中心にしてセレ分国、チの国との交易路を持つウィエ分国、さらにその南のササン分国、この3つの分国がウィルの西側の国。フォロ分国の南にトルク分国、そして最南端はイムン分国。
「ウィルの国王は、6人の分国王による選王会議によって決まる。今のエーガン王は先王のレズナー王の息子で選王会議によって選ばれて、ウィル国王に選べばれている。エーガン王の風評は、ひいき目にみてもいいことはないね。他の分国王たちも選王会議で選んだ以上は従っているけど、いつまで続くか。トルク分国王の忠勤には頭が下がるよ。君たち冒険者を保護するために命じられた冒険者ギルドの設立、ほとんど名前だけとはいえ、国内の大部分の領主を連盟させて、冒険者がウィル国内を移動するのに、障害を減らしている。冒険者ギルドの運営資金や依頼料の一部も分国王の方から出ているらしい。依頼出すのが金持ちだけにならないように」
そこまで話すとエールを一口あおる。
「フォロ分国はエーガン王の強引なやり方によって、混乱荒廃が進んでいる。フォロ家を力を強めるために、行ったことが、分国全体の力を低下させている。トルク分国はゴーレムを販売した代金だけではないが、けっこう羽振りが良い。エルート・ウィエのウィエ分国はチとの交易で利益を増大させつつある。ササン分国の分国王は女性だ。リーザ・ササンという。その妹マーザはトルク分国王の妃。政略結婚というやつだ。イムン分国はこれから向かうところ。時間があれば見て回った方が良い。滅多に来れるところではないから」
航路には問題なく、ミンス卿の港まで順調に進んだ。
「バーナード、船を頼む。どんなことがあるかわからない。いつでも出航できる準備を先にしておいてくれ」
ドレニック卿はアトス、アーディル、マリー、鳳の4人を連れて、ロ・ロレア姫とともミンス卿の館に向かう。アハメスと朧は船の周囲を警戒することになった。
「まずは水の補給だ」
出発の時積んだ水はもうほとんどない。エールも。バーナードは水の補給から始めた。保存食があるから、とりあえず食料はいい。カイケツビョウ予防に果物があった方がいいらしいと天界人の医者に教わっていたから、目についたものを仕入れる。
「この港は海路でチへのルートにあたっているにしては船が少ないね
「この時間には入港しないのではござらんか?」
●逃避行
「ドレニック卿ご苦労であった」
ミンス卿は戻ってきたロ・ロレアを一瞥してからそう言った。ロ・ロレアの親にしては、あまりに似ていない。奥方似なのか。
「いえ、困っている時はお互い様。さあ」
ドレニック卿はロ・ロレアを促した。しかし彼女はドレニック卿の隣を離れない。
「ドレニック卿、卿はまさか」
「いえ、騎士の名誉にかけてやましい事はしていない」
「ではなぜ、ロ・ロレアはそなたから離れない? ロ・ロレアはわしがエーガン王に献上するためにこの7年間育て上げたのだ。それを」
「自分の娘を? 政略結婚ならともかく献上だと?」
ミンス卿は、イムン分国王よりも国王と手を結び、その証として。
「実の娘ではない」
「だから似ていないのか」
アーディルは似ていない理由を納得したが、マリーはあまりのことに激昂していた。
「献上ってどういうことよ!」
「ではお客人には、ロ・ロレアをおいてお帰りいただろう。些少ではあるが、金子を用意した」
ドレニック卿は4人の方を振り向いた。
「巻き込んで悪いな。ここにこの娘をおいていく気にはなれない」
「もし、置いてくつもりなら、私の方こそあなたを殴りつけていました」
アトスは見た目とは違う熱血漢。マリーのように表面には出なかったが、憤りを感じていた。他の3人も頷く。
「悪いがミンス卿。ロ・ロレアは置いていけない」
ドレニック卿がミンス卿に近づいて殴りつけた。容赦のない一撃で、ミンス卿は部屋の反対側の壁に叩きつけられてそのまま気を失う。アトスとアーディルが、ミンス卿の臣下たちを押さえつけ。マリーと鳳がロ・ロレアを守りながら部屋を飛び出す。
「港まで一気に走れ」
事態が伝わって港が封鎖されては脱出できなくなる。
「どういうつもりだ」
アハメスは船に近づこうとしているミンス卿の手の者を押し止めていた。
「どうも変でござる」
朧も敏感に周囲の気配を感じた。そこに屋敷を逃れ出た6人が、邪魔する者たちを蹴散らして走ってくる。
「バーナード、出航だ」
係留していたロープを外す余裕がなく、剣で切断する。
「風がないし、この状態ではオールだって」
「鳳、下に来てくれ」
「しかし」
「こいつを使えるか?」
入ったことのない部屋には椅子が一つ。アームレストの手を置く部分には水晶のような球があった。
「もしかして、これ」
「動かせるならうごかしてくれ、外洋まででいい」
「やってみます」
これはたぶんゴーレム技術の一つ。試作品だけに操縦者の安全の保証もない。
「GCRのチャリオットとは少し違う」
心を落ち着かせて起動する。起動に失敗すれば再起動には時間がかかる。その間にもっと大勢集まってくるし、他の船でこちらの頭を抑えにくるだろう。
起動と同時に前方が見えるようになった。周囲全部でないのは試作品だからだろう。徐々に速度をあげる。あわてて動きだした船の前方わずかなところをすり抜ける。
「鳳、無理な機動はするな。港を出たら巡行速度にしろ。そうすれば体力の消耗を抑えられる」
ドレニック卿の指示どおりにした。今この船でこの部屋を使えるのは鳳一人のみ。十分引き離せばその後までは追跡できないだろう。帆走ならこちらの方が速いだろう。追跡に3隻でたが、たちまち引き離した。振り切った後は帆走で北に向かう。
「大それたことやったかな」
ドレニック卿は自分の港に帰り着くと、つぶやいた。
「国王への献上品を奪い取ったのだから」
それを表立って追及はできないだろう。
「そういえば、エストゥーラさん忘れて来なかった?」
「あいつなら、どこでも平気でやっていく」