ルーケイ城の謎〜水没通路

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:01月10日〜01月13日

リプレイ公開日:2007年01月20日

●オープニング

 新年早々。ルーケイ伯の元に奇妙な話が舞い込んだ。
 なんでもルーケイ城の建つ岩島には、ルーケイの地を統治してきたルーケイ家に代々伝わる指輪が隠されているらしい。その指輪は正統なるルーケイの統治者たることを証し立てるもので、フオロ王の命により王領ルーケイの代官に任じられた現在のルーケイ伯が、是非とも見つけださねばならぬ物。
 また、ルーケイ家が密かに貯えし財宝も、やはりこの岩島の何処かに隠されているという。その富は莫大なもので、1万枚の金貨にも匹敵する程であるとか。
「しかし去年の12月、冒険者仲間がルーケイ城を探索してみたが、めぼしい物は何一つ密からなかった。城の中で新たに見付かったのは、空の隠し部屋に空の隠し戸棚だけだった」
 そう言うルーケイ伯に、話を持ち込んだ自称・騎士学院教官のジェームス・ウォルフは答える。
「ルーケイ城の建つ岩島は広うございます。2日や3日で調べ尽くせるものではございませぬ。かのルーケイ城にしても、元々あの岩島に存在した遺跡の上に造られたもので、造りは至って質素。加えてルーケイの叛乱が国王軍に平定され、城が陥落した後に何度となく略奪が行われ、貴重な物品は何一つ残されてはいないはずであります。調べるべきは寧ろ、ルーケイ城がその基とする遺跡であるかと」
 岩島を探索するよう示唆する。
「古文書の類が見つかりましたら、是非自分にお見せ下さい。懇意の学師殿も所望されて居りました故」
 そう言い残すと、ジェームスは幾枚かの地図を残してルーケイ伯の元より立ち去った。
 今、ルーケイ伯は住処のテーブルにて、手元に残された地図を見つめている。友とする眼帯の騎士と共に。
「‥‥しかし、あの話は本当だと思うか?」
「何せ、あのウソツキ教官の言うことだからな」
「それでも、この地図だけは役に立ちそうだ」
 と、手元の地図の1枚を示した。

《第1の地図〜竜の関門全図》
−┃〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┃−↑西
−┃〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┏━━┓〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┃フ
−┃〜┏┓〜┏┓〜┏┓〜┃−−┃〜┏┓〜┏┓〜┏┓〜┃オ
−┣=┫┣=┫┣=┫┣=┫虹島┣=┫┣=┫┣=┫┣=┫ロ
−┃〜┗┛〜┗┛〜┗┛〜┃−−┃〜┗┛〜┗┛〜┗┛〜┃領
−┃〜陽島〜風島〜地島〜┗━━┛〜水島〜火島〜月島〜┃−
−┃〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┃−↓東
←トルク領
 〜:水面 =:つり橋 −:地面

 これは竜の関門の全景図。騎士学院の書庫に眠っていた古文書を元に、ジェームスが新たに作り直したものだ。
 竜の関門とは、ルーケイの地を流れる大河の流れのただ中にある要害の地。西方より来たりし大河の流れがルーケイ領内に流れ込んですぐの場所にあり、川の関所として利用されている。
 古文書の記録によれば、この竜の関門が造られたのは今より遙か6千年もの昔、伝説の英雄ロード・ガイの時代にまで遡るという。猛り狂うカオス勢力によりアトランティスの全てが呑み込まれようとしていたあの伝説の時代にあって、この竜の関門はカオス勢力に立ち向かう為の巨大な城壁として建造されたのだと古文書は告げる。
「その古文書の出所も怪しいものだが」
「しかし、地図自体は正確なようだ」
 伝説の時代に建造された城壁は、聖山シーハリオンに住まう7匹の聖竜を象ったものだったとか。中央には7匹の聖竜の中で最も偉大なレインボードラゴンを象った大砦が築かれ、ここが城壁の要となった。その左右には地、水、火、風、陽、月の聖竜を象った砦が築かれ、それぞれの砦は竜の翼に似せた橋で繋がれていたらしい。その遺跡も幾千年もの歳月を経るうちに崩壊が進んで本来の形は失われ、今では7つの岩島として残るのみだ。
 ちなみに古地図にある所の虹島は、現在ではこうなっている。

《第2の地図〜虹島全図》
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜↑
〜〜〜┏━━━━━━━┓〜〜〜西
〜〜〜┃−−−◇−−−┃〜〜〜〜
〜〜〜┃┏━━━━━┓┃〜〜〜〜
〜〜〜┃┃−岩山−−┃┃〜〜〜〜
====┫−−−−−┣=====
〜〜〜┃┃□−−−−┃┃〜〜〜〜
〜〜〜┃┗━━━━━┛┃〜〜〜〜
〜〜〜┃−−−◆−−−┃〜〜〜〜
〜〜〜┗━━━━━━━┛〜〜〜↓
〜〜〜〜〜テーブル岩〜〜〜〜〜東

 □:ルーケイ城
 ◇:水没通路の出入り口
 ◆:埋没通路の出入り口

 この地図は去年の12月、この岩島の探索が行われた直後、探索に携わった冒険者達の報告を元に作らせたものだ。岩島は2つの部分から為っている。即ちそびえ立つ岩山と、岩山の周りをぐるりと囲むテーブル状に張り出した岩の部分だ。
「12月の調査でもこのテーブル岩を調べてみたが、テーブル岩の西側と東側には1ヶ所ずつ出入口が見付かった。下は通路になっている。但し、西側の通路は水浸しだ。年月を経て遺跡が損傷し、大河の水が入り込んだものだろう。また、東側の通路は崩落の度合いが酷く、崩れ落ちた岩で塞がれて中に入り込めない。そしてあの教官殿の調べたところによれば、この通路は
7つの岩島の全てを結んでいる。それを示したのがこの地図だ」

《第4の地図〜7つの岩島と地下通路》
−┃〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┃−↑西
−┃〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┏━━┓〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┃フ
−┃〓┏┓〓┏┓〓┏┓〓┃−−┃〓┏┓〓┏┓〓┏┓〓┃オ
−┣=┫┣=┫┣=┫┣=┫虹島┣=┫┣=┫┣=┫┣=┫ロ
−┃〓┗┛〓┗┛〓┗┛〓┃−−┃〓┗┛〓┗┛〓┗┛〓┃領
−┃〜陽島〜風島〜地島〜┗━━┛〜水島〜火島〜月島〜┃−
−┃〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜┃−↓東
←トルク領
 〜:水面 =:つり橋 −:地面 〓:地下通路

 ルーケイ伯が新たに示した地図もやはり、古文書を元に作り直された地図。7つの島を結ぶ地下通路の有り様がはっきりと描かれている。
「本当にこの地図の通りなのか、確かめてみたいものだ。先ずは水没した通路から調べてみるか」
「しかしどうやって? 水の魔法を使える冒険者を募るか?」
「その手もある。それともう一つ、南ルーケイに住む水精霊達の力を借りることも出来る」
「あ、成る程。しかし水精霊に力を借りるとなると、見返りを要求されそうだな」
「何、上物のワインや綺麗なアクセサリーを贈れば、喜んでくれるだろう。先に水精霊の地を訪問した時には、それで上手く行った」
「今回も上手くいけばいいが‥‥」
 二人が話しているところへ、いつの間にか一人の男が足音もなく現れた。
「スレナス殿!」
 眼帯の騎士は狼狽した表情を見せる。スレナスはルーケイ伯に報告する。
「エーガン王の隔離は完璧で、僕にも居場所が判りません。また現在、隔離の保持にはグロウリング伯の手の者も関与している模様。動きから背見て隠退はフオロ家とトルク家の共通の利益です。僕の見るところ、今のままではエーガン王の命を狙えるものではありません」
「そうか。ご苦労」
 ルーケイ伯は静かに言った。

●今回の参加者

 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea4857 バルバロッサ・シュタインベルグ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)
 ea5013 ルリ・テランセラ(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5304 朴 培音(31歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb3442 ウルリカ・ルナルシフォル(20歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 eb4392 リュード・フロウ(37歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4578 越野 春陽(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●サポート参加者

シュタール・アイゼナッハ(ea9387)/ ルーク・マクレイ(eb3527)/ レイ・リアンドラ(eb4326)/ 来栖 健吾(eb5539

●リプレイ本文

●虹島へ
「国に何かいやな予感がする‥‥るりの勘がはずれればいいんだけど‥‥」
 陰謀の予感、病を理由に隔離された国王エーガンが利用される恐れ。ルリ・テランセラ(ea5013)は思わず、心中の不安を口にしていた。
「なにか予兆するような導かれているきがするもん‥‥ただの遺跡の探検ですめばいいけど‥‥」
「僕もそんな気がします。何かの印が発現するのではないかと‥‥。大丈夫、僕達がいますから」
 イコン・シュターライゼン(ea7891)はルリを励ますように言う。とはいえ、印の発現が危機の到来を告げるものだとしたら? そうでないことを祈りたい。
 取り留めのない話をするうちに、フロートシップは虹島に到着した。
「思ったより寒いな」
 冬のウィルは冷える。吹きさらしの島の上なら尚更だ。
「これを‥‥」
 防寒着無しでやって来て寒そうにしている長渡泰斗(ea1984)に、同行者のスレナスが
防寒着『まるごとヤギさん』を手渡す。
「ルーケイ伯からの支給品です。瑠璃姫を頼みます」
「はぁ、これを着ろと‥‥」
 同じく防寒着無しのルリはヤギさん泰斗の腕にだっこされてぬくぬく。ついでにシフールのウルリカ・ルナルシフォル(eb3442)も、ヤギさんの中に潜り込んでぬくぬく。
 虹島に着いて最初に行った事は新年の願掛けだ。
「今年一年、良い年でありますように」
 早速に抱負を語って聞かせるグラン・バク(ea5229)。
「何より健康管理に気をつけよう。新年早々風邪引くのもあれな訳だし」
 願掛けの後、虹島のテーブル岩にキャンプを張って待っていると、水精霊フィディエルの姉妹達がケルピーに乗ってぞろぞろとやって来た。
「話は聞いたわ。面白そうだからお手伝いに来てあげたわよ」
 早速にイコンが騎士の礼をとって立て膝突き、フィディエルの手を取る。あたかもレディに傅くように。
「感謝の印にこれを」
 フィディエルに手渡したのはシェリーキャンリーゼとパールフラワー。イリア・アドミナル(ea2564)もお礼に3Gの高級ワインを5本進呈。グランも高級ワインを1本、越野春陽(eb4578)もベルモットを1本、さらにスレナスもルーケイ伯から預かったメイ産のワインを3本進呈。沢山の贈り物を貰って、フィディエルの姉妹達はさも満足そう。
「では、調査を始めると致しましょう。入口はこちらです」
 水没通路の入口へ、春陽が水精霊達を案内して行く。入口からは広い階段が下まで続いているが、数段下りればそこは水面。階段の下の通路は完全に水の底。
「水精霊の皆様には水中呼吸の支援と、水中生物との戦闘での助言をお願いしたく‥‥」
「冬の水はとっても冷たいわよ。水の中で凍え死ななきゃいいけど」
 春陽の求めに、フィディエルは事も無げに答える。
「水中には長居せず、暖を取りながら調査を続けます故、ご安心を。但し、万が一に備えて水精霊様には同行をお願いします」
 イリアの求めにフィディエル達は快く応じた。
「いいわよ。貴方達がどこまで頑張るか、見せてもらうわ」

●地上の調査
 冒険者達は3班に分かれる。虹島の南側の水没通路を調査する班、同じく北側の水没通路を調査する班、そして地上を調査する班に。
 地上班のウルリカと越野春陽は、手始めにルーケイ城の廃墟を調査。しかし見付かった入口は、既に発見されていた大広間の隠し階段だけ。階段を下りると石壁にぶち当たったが、ウルリカがリヴィールマジックやエックスレイビジョンで調べても、魔法もかかっておらず隠された仕掛けも見付からない。石壁の裏側には延々と石が続いているだけだ。
 次いで2人は城の周辺も調べたが、やはり城と同様に何も見付からない。そのうちにウルリカの魔法の力も尽きた。
「見事な程に何も見付からないのじゃ。嫌な遺跡じゃのう」
 ウルリカは春陽の頭の上でむす〜っとしている。
「つまり虹島の内側に遺跡が残っているとしたら、その遺跡は完璧な程に外部からの侵入を寄せ付けないってことかしら?」
 春陽は『竜の関門』の全図を広げ、地図に描かれた通路を目で追う。実在するとすれば、ルーケイの地とセクテの地を結ぶことになる通路。
「本来ならば、双方を結ぶ通路の存在は喜ばしいことなのだけれど‥‥」
 現在、竜の関門の島々にかけられている吊り橋も、有事の際には落とされる。速やかな敵軍の移動を阻むためだ。崩壊中とはいえ大河の両岸を結ぶ地下通路の存在は、ルーケイとセクテにとって安全保障上の問題となろう。
「折りを見て、伯にセクテ側との共同調査を進言しなければ」
 地図を畳み、虹島の天辺に立つ春陽は離れた岩島を見やる。かつては竜の姿をしていたとされる岩島も、今では形の崩れが激しく、もはや竜の姿を感じることは難しい。

●引き合う力
「この世界の伝説に伝わる大戦では、カオス勢力の本拠地たるカオスの地に向かった者の多くが命を落としたという。世界と世界の狭間へ向かったが故に‥‥」
 そんな話をルリに聞かせていたバルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)だが、ふと思い当たる。
「この竜の関門も、古文書の記録によればカオスの侵略を阻むための城壁だったとか」
 酒場で誰かが言っていたのを思い出す。平行して存在する世界は水と油のようなもので、その境界がたわんで二つの世界が入り交じる事もあると。ちょうど石鹸を混ぜることで、水と油の境界が失われて互いが入り交じるように。その例えが別の何かを連想させる。
「水の中で油の粒同士が出合えば、二つの粒は重なり合って一つになる。似たような特質の者が訪れることで、この遺跡に残る何かの力と通じ合う事ができるかもしれない」
 陽島に行きたい。──ルリがそう言っていたのをバルバロッサは思い出し、春陽に声をかけた。
「頼みがある。陽島までグライダーを飛ばしてくれ」
「何か緊急事態でも?」
「まあ、これも一種の緊急事態だな」
 虹島から陽島ではやたら遠い。手早く移動するには馬やグライダーを使わねばならなかった。フィディエルとケルピーにも一緒に居て欲しいとルリが望むので、連れて来た。
「あんな小娘に、そんな大それた力があるのか?」
 ケルピーは疑わしげである。
 陽島にやって来たルリと仲間達。陽島の上は草が生え、あちこちに竜の石像が立っている。
「あれは、後の時代になって置かれたものですね」
 竜の石像を見てイリアが言った。ウィルではありふれた意匠のもので、家や道の護りとして置かれているのを良く見かける。
 それでもルリは石像に近づいて行く。無性に触ってみたくなったのだ。
「ルリさん気をつけて。ここでは何が起きるか分からないから」
 万が一の事があっては大変と、イリアもルリに付き添って行く。
「まずは僕が調べてみます」
 イコンはルリの前に立ち、石像に近づいた。3人が竜の石像まであと数歩の所まで来た時。
「‥‥!?」
 突然、世界が虹色に輝いた。ルリにイリアにイコン、3人を虹色の光が包んでいた。
「何が起きた!?」
 離れて見守っていたバルバロッサ、春陽、ウルリカも、ルリに向かって駆け出す。そして虹色の光に呑み込まれる。
(「汝、力を欲するか?」)
 全員の頭の中で声が響く。
「あなたは何者!?」
「教えてくれ!」
 冒険者達が次々に問いかけるが、いくつもの声が変わりばんこに問いかける。
(「汝、正義を欲するか?」)
(「汝、慈愛を欲するか?」)
(「汝、智慧を欲するか?」)
(「汝、護りを欲するか?」)
「分からない‥‥分からない‥‥」
 ルリは戸惑うばかり。
(「汝、希望を欲するか?」)
 その問いに、ぴくりとルリは反応した。
「‥‥るりね‥‥みんなとお友達になりたいの。みんなの為に‥‥なりたいの」
 すると、地面からルリに向かってにゅうっと手が伸びる。奇怪な光景のはずなのに、不思議と誰もが恐ろしさを感じなかった。寧ろ神々しさを覚えた。その手は1本の杖を握り、その杖をルリに差しだそうとしている。光り輝く金剛石を飾りとした杖を。
(「印を得し者よ、受け取るがよい。これが汝の力の象徴なり」)
「‥‥え?」
 言われるままにルリが杖を受け取ると、杖を手渡した手はすうっと地面の中に消える。そして虹色の光も消え失せた。
「この杖‥‥」
 手渡された杖を不思議そうに見つめていたルリ。するとその杖までもがすうっと消え、ルリは小さな驚きの叫びを上げた。
「何があったんだ?」
「この石像は?」
 仲間達が石像を調べたみたが、それは単にどこでもある石像に過ぎなかった。

●水島の変異
「そんな事があったのか‥‥」
 バルバロッサから話を聞かされたが、長渡泰斗は半信半疑。その泰斗もいきなり水島に連れて来られて困惑した。
「俺としても水島は調べてみたかったが、本当に何かが起きるのか?」
「いいからその辺をほっつき歩いてみろ」
 言われて、泰斗は水島の上を歩き回る。他の島と同様、ただ草が生い茂っているだけの場所を。
 出し抜けに、泰斗は虹色の光に包まれた。
「何だ!? これがそうなのか!?」
 あの声が頭の中に響く。
(「汝、力を欲するか?」)
「力? 力って何だ!?」
(「これが力だ!」)
 ひときわ大きな声が頭の中に響き、泰斗の目の前にそれは現れた。
 ゴーレムと見紛う程に巨大な戦士だ。竜の姿を似せた甲冑に身を包み、手に鞭を握っている。それは水流の鞭だった。
(「力の何たるか、その身で知るがよい!」)
「勝負か! ならば受けて立つ!」
 水流の鞭が泰斗に襲いかかる。泰斗のネイルアーマーがズタズタに裂かれ、その下の肉を水流の鞭は容赦なくえぐる。泰斗は猛然と反撃に出たが、相手は手強い。
「加勢する! イグニス・ハート、ブレイブ・ハート! 漢たちの熱き魂より来たれ!」
 ヘラクレスの剣を構え、バルバロッサが突進。だが、相手はその剣を左手でがっしり受け止めた。
「何っ!?」
 敵戦士の強烈な膝蹴り。バルバロッサはよろめき、弾みで剣を奪われた。奪われた剣は敵戦士の敵に握られ、その切っ先がバルバロッサの急所を狙う。
「うりゃあああ!」
 泰斗、渾身の突撃。サンソード「ムラサメ」が敵戦士の脇腹を貫く。その瞬間、敵戦士の姿がすうっと消え、奪われたヘラクレスの剣が地面に落ちる。敵戦士が消えた後の地面にはワンドが1つ転がっている。渾身がワンドを拾うと、再びあの声が聞こえた。
(「印を得し者よ、受け取るがよい。これが汝の力の象徴なり」)
 それまで泰斗を包んでいた虹色の光が消え、気が付けば拾い上げたワンドも消えていた。見れば泰斗もバルバロッサも体に傷一つ無い。勿論、ボロボロになった服装もそのままだ。

●水没通路
「では皆さん集まって。ウォーターダイブの魔法を全員にかけます」
 超越レベルの魔法能力を持つイリアだからこそ為せる技。それでも水中で行動できる時間は1時間。
 超越レベルでの魔法発動となると流石に成功しずらい。ソルフの実2個を費やして、ようやく全員に魔法がかかった。
 最初にイコンとリュード・フロウ(eb4392)が水没通路に入る。水中に伸びる階段は損傷が激しく、あちこち崩れている。
(「この階段、どこまで続くんだ?」)
 十数mも下りた頃だろうか。階段は終わり、南北に伸びる通路が現れた。
(「やはり通路は実在したんだ」)
 リュードが手真似でイコンに伝える。魔法のおかげで息が出来るとはいえ、水中での会話は聞き取りづらい。加えて、ここは明かりが差し込まない水底。周囲を照らす物といえば、イコンの手の中にあるケミカルライトだけだ。つくづく便利さを実感するが、使い捨てなのが勿体ない。ただし水中だから、裸眼では鮮明な視界が得られない。水中メガネでも手に入れば良かったのだが。
 それにしても水の冷たさは相当なもの。あっという間に体温を奪わていく。水の冷たさを感じるうちはまだいい。冷たさの感覚が無くなったら要注意だ。感覚が麻痺し、肉体に死の危険が迫っている証拠なのだから。
 最初に2人は南側の通路の入口から中へ入る。通路の中はがらんとしていた。
 付き添いのフィディエルはと見れば、優雅に水中を泳いでは水底から何かを拾っている。
 続いて北側の通路に入る。
(「あれは何だろう?」)
 通路の奧に青白い炎のような物が見えた。近づいて確かめようと思ったが、リュードはそろそろ体力の限界に達していた。リュードはランタンの油を体に塗ったり、焼いた石を毛布に包んでバックパックへ入れたりしていたが、水中では思ったように役に立たない。
 やむなく2人は地上に戻り、見た物を報告する。地球製のウェットスーツを着込んだイコンは、水の冷たさから護られて体力を殆ど消耗していない。当初の予定とは違うがイコンが先導役になり、残りの仲間を手近な場所へ案内するのが良さそうだ。
「次は俺が行く」
 続いてグランが水中へ。イリアのペットのエレメンタラーフェアリーに作らせた光球を手に、イコンと共に水底へ。
 南側の通路の底は崩れた瓦礫だらけ。その中に奇妙な形をした瓦礫を見つけ、近づいてみた。
(「これは!」)
 それは瓦礫ではなかった。人間サイズの巨大ザリガニだ。
 グランは身構えたが、付き添いのフィディエルは心配いらないと身振りで示す。ザリガニは冬眠中だった。
 グランの手の中の光球がすうっと消える。魔法の効果時間が切れたのだ。
 北の通路は延々と伸びている。が、今はその先を確かめる時間的余裕が無い。

●水中の怨霊
 最後は朴培音(ea5304)。出来るだけ体温を保つため、培音はイコンを抱いて泳ぐ。
 北側の通路に入ると、培音は通路の天井を調べる。
(「これは酷い」)
 天井は酷く破壊され、あちこちに大穴が開いている。他にも水の侵入箇所はありそうだ。修理の手立てを考えようにも、その手間を考えただけで気が遠くなる。
(「それにしても、あの青白い炎は何だ?」)
 遠くに見える炎のような物を見つめていると、それがどんどん近づいて来る。青白い炎は人間の形をしていた。醜く歪んだ顔が培音に迫り、体をその手に掴まれる。
(「うっ!」)
 掴まれた場所が焼けるように痛む。炎の正体はレイスだった。トライデントを突き入れるが、通常の武器ではレイスを傷つけられない。
(「逃げろ!」)
 後に続くイコンに叫び、培音は退却。追って来るレイスをフィディエルとケルピーが牽制し、2人は難を逃れた。

●宴
 水の中から上がり、焚き火にあたりながら培音は報告する。
「あんなヤツが水中にいるとは。水中でも使える魔法か、魔法の武器が必要だね。それに水の中では視界が悪くて敵に気付きにくい。何とかならないかな?」
「ところでさっき、水の底で何を拾ったの?」
 イコンがフィディエルに訪ねると、
「これのこと?」
 差し出された手の平には輝く宝石のかけら。
「でも、これは私のもの」
 調査を終えると水精霊達を交え、ささやかな酒宴が開かれた。越野春陽はこの時の為に用意した高級ワインを振る舞い、ウルリカは水精霊の為に舞を披露。舞い衣装は水色に染められたドレスとショールだ。その舞いはフィディエルに気に入られた。
「これを貴女にあげるわね」
 ご褒美として渡されたのは古びたダガー。やはり水底に落ちていたものだ。これまで盗賊に荒らされる事もなかった水没通路だ。調べればまだまだ、色々な物が見付かることだろう。