寵姫マリーネの宝物外伝〜招賢令

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:15人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月18日〜03月23日

リプレイ公開日:2006年03月25日

●オープニング

 チチチチュー、チチ‥‥。
 声が目覚まし。開け放たれた鎧戸から、明るい光と共に空に舞う小鳥達の姿が飛び込んでくる。マリーネは久しぶりに心地よい朝を迎えた。
 夕べのエーガン王の晩餐は、普段から優しい王がさらに優しさを見せた夜でもあった。いままで政治に関わる口出しを殆どさせない王が、巡礼行を労い特別に意見を述べさせたのだ。それは、天界の悲劇の王家の話にエーガンが関心を示したからだ。
 会話が進む中、マリーネの印象に残った人物が話題に上る。
「‥‥まだ10歳の子供ですが、きっと天界ではどこかの公子なのでしょう。あの歳で天界の過去のいろんな教訓を諳んじています。最初は御伽噺と思いましたが、そうでは無いようです」
「ほう。歴史を修めるなど下賤の者では無いな」
 断じたのは理由がある。ウィルにおいて歴史と言う学問は、王家や上流貴族が学ぶ帝王学なのだ。
「ええ。それに『ぱこぱこ子爵』は忠義者です」
「他に印象に残った者は居ったのか?」
「無骨な天界人が多い中、趣味の良い香水を嗜む騎士がおりました。侍女達が『妖しの君』と呼んでいる美しい青年です。幾多の戦働きもあったのでしょう。右目を黒い眼帯で覆っていましたが、あれは名誉の負傷でしょうか? お話ぶりも才気溢れており、久しぶりに床しい騎士を見かけましたわ」
「おいおい。火遊びはほどほどにな」
 騎士と妃のプラトニックラヴを認めぬほど、エーガンは不寛容ではない。身の程を弁えた騎士ならば、マリーネ故に自分に剣を捧げるからだ。
「ま、陛下。ちょっとからかっただけで頬を赤めるような人ですわ。そうそう。セーラと言う高貴な精霊に仕えるあの男には、いろいろ世話になりました。あの時、謀反人を不思議な術で取り押さえてくれなかったら。私は殺されていたかも知れません。幼児のように無垢な男で、たとえ一夜の褥(しとね)を共にしたとしても、私が陛下を裏切ることなど絶対にあり得ないでしょう」
「ふむ。天界人か‥‥。奴らは貴族どもと違ってくだらぬ背景も無い。平民どもと違って学がある。それにルカードは、三隻に乗った天界人は全て、王家に対する忠誠を行いで示したと言っておったわ」
 上機嫌でワインを呷る。
「陛下の御為となる人物は、なにも天界人だけでは有りませんわ。女性でなければ、ひょっとして陛下よりも好きになって仕舞ったかもしれない頼もしい方がおりました。政(まつりごと)や隣国の情勢にも詳しく、馬に乗るほどの恐怖も与えない軽やかな操縦で、私をドラゴンから逃がしてくれました」
「カーロンから推挙の合った名流プランの跡取り娘だな」
「はい。お家再興が悲願だとか‥‥」
 そのほか、様々な人物の功績が、マリーネの口から述べられる。
「判った。少なくともその者達は余に仇為す輩では無い」
 バガンでドラゴンに組み付き落下するなど、未熟さを補って余りある忠義。力及ばず墜落した男も、マリーネのために生身のゴーレムグライダーで吶喊するなど見上げた勇気である。
「陛下‥‥私は恐ろしく思います。謀反人に王座を終われた王族の話を聞きました。天界にはそう言う例は珍しくないそうです。しかし、賢く統治して民から慕われ、竜のように崇められている王家もあるとの事。お願いです。私の不安をうち消すために。彼らの知恵を使えないものでしょうか?」
 機嫌の良いエーガンにおねだりするマリーネ。
「考えておこう‥‥」

 暫く経った昼。ギルドに一枚の布告が掲げられた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
           ■ 賢 者 を 求 む ■

 異界の知恵を備えし天界人達よ。余が忠勇の騎士達よ。汝が王の諮問に答えよ。

 今回、特に推参を許す。横議の類苦しからず。
 余が治世の危うきを告げ、災いを未然に防ぐ知恵を捧げよ。
 余が非を顕し政(まつりごと)の瑕を示せ。汝が言に耳を傾けん。

 余はいかなる苦言をも罪に問わぬと誓うものなり。
 このような恩典を余が与えたからには安心せよ。
 而して、余が採るべき策あらば望みの褒賞を与えん。

 されど心せよ。献策なく余が威を軽んじる者は報いを享く。
 余は既に恩典を与えた故、その身は安泰なり。されど汝が身上悉くを召し上げん。

                         ウィル国王エーガン・フォロ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4100 キラ・ジェネシコフ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea4857 バルバロッサ・シュタインベルグ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)
 ea4919 アリアン・アセト(64歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea7400 リセット・マーベリック(22歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 eb2448 カルナックス・レイヴ(33歳・♂・クレリック・エルフ・フランク王国)
 eb4096 山下 博士(19歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4242 ベアルファレス・ジスハート(45歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4248 シャリーア・フォルテライズ(24歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4312 シド・レイズ(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4578 越野 春陽(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb4736 ローラン・ブランス(48歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

アリオス・エルスリード(ea0439)/ エルミーシャ・メリル(ea5998)/ 麻津名 ゆかり(eb3770

●リプレイ本文

●賢人会議
 今もなお名君として語り継がれる先王レズナーの御世においては、国王自らが下す招賢令によって見識豊かな者が招集され、その身分の上下に関わらず国政への進言を為す機会を与えられた。様々な身分から成る識者たちが国王と共に一つのテーブルに着き、忌憚なくその意見を具申し、王も礼節と誠意とをもってその声に耳を傾けたである。この話し合いの場が即ち賢人会議であり、会議はフオロ城の『翡翠の間』で行われるのが慣わしであった。
 しかし時代がレズナーよりエーガンの治世へと移り変わって後、王は周囲からの苦言・諫言には一切耳を貸さず、重んずるは己の心の内より響く野心の声ばかり。そこへあの王妃暗殺事件が起き、それ以来賢人会議は一度も開かれることはなく、翡翠の間の扉は固く閉ざされ続けた。
 しかしエーガン王の治世の7年目。シーハリオン巡礼の最中、マリーネ姫がドラゴンに襲われ、それを冒険者たちが命を懸けて守りきったことは、頑なであり続けた王の心にも変化をもたらした。
「あ奴らめならば、余の王国、余の理想のために殉じるだけの覚悟もあろう」
 父王より王位を受け継いで後、事あるごとに自分のやることなすことに異を唱える先代からの家臣どもを一人残らず放逐したはいいが、おかげで王宮からは骨のある人間が消えた。エーガンの周囲に蔓延る者といえば、絶えず王の顔色を窺い、王の前では耳に聞こえのよいおべっかを並べ立て、その実は面従腹背して自己保身に明け暮れる小心者の貴族ばかり。そんな王宮の空気に辟易していた王は、長らく求め続けていた逸材をやっとのことで見い出した心地であった。彼らこそは正に、父王のそれを遙かに越えた偉業を自分が成し遂げるためには無くてはならぬ存在。そう思うが故に王は決意し、絶えて久しかった賢人会議を招集。翡翠の間の重き扉はここに再び開かれたのである。

 部には大きな円卓が鎮座し、20脚の椅子がその周りを囲む。最も大きな椅子は国王の椅子。その両隣は国王に近しい者の椅子。さらに書記の椅子が2脚。残る15脚は賢人会議に招かれた冒険者達の椅子だ。『翡翠の間』の名が示すように、円卓の装飾には大粒の翡翠がいくつも使われ、銀細工の飾り付けがその深緑を引き立てる。椅子並びに壁の装飾も、翡翠の緑色を基調としたものだ。招かれた冒険者達が翡翠の間に揃うと、ウィル国王エーガン・フオロが侍従長とマリーネ姫とを伴って現れた。その後には2名の書記が続く。冒険者たちは国王に敬礼し、その着席を見届けてからそれぞれの席に着く。ところが冒険者達の椅子が一つだけ空いている。欠席者がいるのを知るとエーガンは不機嫌になり、侍従長に命じた。
「余の招賢令に応じながらも、何の断りもなく会議を欠席した不届き者の全財産を没収せよ」
 そして、王は2人の書記に命ずる。
「余の招きし賢人達の奏上を、一字一句たりとも取りこぼすことなくその全てを書き留めよ」
 さらに王は、14人の冒険者達に告げる。
「賢人達よ心せよ。この翡翠の間にてその口から語られる言葉の重みを。汝らの内に真の賢者があり、誠心をもって奏上を為すならば、その一言の重みは千金の重みとなり、汝らの幸の礎ともなろう。だが、汝らの内に叡智なく、言葉をもって国王たる余の権威を軽んずるならば、その言葉の重みは罪人の足鎖にくくりつけられたる石の重みとなり、汝らを苦難の淵の底へと引きずり込むであろう。そして一度言葉を口にしたからには、その言葉の重みを背負いて余が臣下たるべき者の道を歩み続けよ。その重責を免れることはならぬ。そのことを覚悟し、余に奏上を為せ」

●竜との和平
 最初に進言するはグラン・バク(ea5229)。マリーネ姫のシーハリオン巡礼行の同行者だ。
「国王陛下、お初お目にかかります」
 膝を折り、騎士の礼を示す。
「過日ハーベス卿より聖地巡礼の出来事、陛下にご報告があったかと思います。聖地に災厄を巻いた何者かの所業を怒り、一人の竜人が巡礼への道において人と船を襲いました。だが、それを抑え我らを守護した者もまた竜の眷属たる一族でした」
 その口から語られる一部始終に、王は黙して耳を傾ける。グランの奏上は、巡礼行の途上で出合った山の民の事にも及ぶ。
「山を降り、捕縛の憂目にも怯まず警告を発し続けた山の民。そして己を律し自ら退いた賢姫。誰も‥‥」
 王の隣に座すマリーネ姫にちらっと姫に視線を走らせ、グランは続ける。
「争いを望んでおりません。今だ人は聖地に立ち入れる資格有さずと、彼の長は言いましたが、彼らの存在はこの国にとり良き隣人となりましょう。まずは親睦を深める使者を──感謝の意も含め友愛の御印を贈るのはいかがでしょうか? さらにもう一つ。竜を害し治を乱す企てがあるならば万民のため阻止しなければなりませぬ。そのために聖山の異変の調査を。そして未だ囚われたままの山の民の釈放を願うものであります」
 グランの進言に対し、王は答えた。
「竜そしてその眷属との争いを望む愚か者など、我が王国には一人たりともいようはずもない。だが、現に王家の紋章を掲げた浮遊船が竜に襲われた以上、然るべき対処を為さねばならぬ。グラン・バグ、その名は覚えておくぞ。竜人との和議については、余の命が下るまで暫し待て」

●王国の守り
 事前に定められた順に従い、冒険者たちの奏上は続く。次はゴーレム技術に一見識を持つ者たちからの奏上。先ずはキラ・ジェネシコフ(ea4100)。恭しく挨拶し、奏上の内容をセトタ語でしたためた文書を予め王に手渡し、王国の守りについての奏上を為す。
「国の防衛に回せるゴーレムの強化が得策かと思います。幾つかのバガンを分国に売りに出し、上位のゴーレムをトルク分国王の元から安く導入する事を提案させて頂きます。分国に売るという事は、ウィルという国自体の防衛力を上げる事。陛下への忠義篤いトルク分国王なら値を下げてくれるかと。できれば分国にあるゴーレムの数も知りたい所です」
「分国相手の売買交渉ともなれば、そう容易くは運ばぬぞ。だが、分国のゴーレム戦力を把握することの重要性は、余も認めよう」
 王は答え、手渡された奏上文を瞥見。その目がとある一文に止まる。キラが口には出さず、文書にのみ記させた言葉だ。
『ゴーレムの数を偽る者は謀反の企みを持つ者かと思います。密偵などを送り込み、調べ上げる事をお勧め致します』
「ほう。そこまで考えるか。だが首尾良く運べば良し。下手に事が露見すれば、戦争の口実とも成りかねぬ。その事をしかと心せよ」
 続いてはベアルファレス・ジスハート(eb4242)の奏上。
「此度はお招きに預かり恐悦至極にございます、国王陛下」
 挨拶の言葉に続き、アメジストのネックレスを恭しく献上。王は奇妙な顔になった。
「天界では斯様な品を王に献上するのが慣わしか?」
 手にした献上品を王はそのまま返し、ベアルファレスの奏上を聞く。
「私が提案するのはウィル王国の軍備増強です。天界の知識が奔放で残忍と聞くカオスニアンなる存在に伝わった可能性がある以上、これは急務です。ゴーレムグライダーを主力とした空艇団の設立、ゴーレムチャリオットを主戦力とした陸戦団の設立、ゴーレムを主戦力としたザモエ様の騎士団の国内での軍事演習。つまりゴーレム戦力を整える事が重要になるのではないかと考えております。他国の者達が気になりますなら、彼等を客人として演習に招き、演習風景を見せ安心していただきましょう。多少こちらの手の内を晒す覚悟は必要ですが」
 続いて、トルク領へ研修者の派遣を訴える。
「トルク領だけがゴーレムの技術を独占している現状は好ましくありません。ウィル国でもゴーレム製造が可能になる事が必要かと。故にトルク領へ、技術交流の名目でゴーレム工房へ研修者を派遣するのです。この派遣への返答如何でジーザム様の国王陛下への忠誠心も量れましょう」
 さらに謀反人の調査を兼ねた、平民達への視察を提案。
「民の現状を知る事は重要です。この任はマリーネ様にぜひ御任命を。マリーネ様には民と多く接してもらい、彼等人心を纏める象徴──すなわちアイドルとなっていただきたい」
 王はマリーネ姫に問う。
「この者は斯くの如く申すが、そなたの心は如何に?」
「それが国王陛下のお望みとあらば、仰せのままに」
 ベアルファレスは次なる言葉で奏上を締めくくった。
「国王陛下、このウィル国を千年王国としましょうぞ。このベアル、身命賭して尽力致します」
 次なるは越野春陽(eb4578)の奏上。
「ゴーレム技術には限りない可能性が秘められています。その一層の発展には、より多くの者がその開発に携わることが必要と考えます。また、王家のゴーレムが大規模な補修の度に、トルク分国の工房まで運ばねばならぬのは、あまりに不便。そこで、かの工房へ候補生を送り、当家のゴーレムニストを育成することを提案いたします。しかし、ゴーレムの輸出はトルク分国の重要な産業となっているとのこと。それを奪うことは避けねばなりません。幸いにして、地球にはライセンス生産という概念があり、広く使われております。それは、他の者が開発した製品の設計・製造技術を、別の者が許可料を支払いそのまま使用、その製品を生産する事。技術独占が産業保護を名目にして為されているのであれば、これを用いることで、トルク分国の産業に大きな損害を与えずに、当家でのゴーレム機器生産が叶うと考えます。確かに購入した方が安価で、また初期にはその性能も劣るやもしれませんが、ゴーレムニストの育成が最優先と心得ます」
 そして春陽が褒賞として望んだ物は──。
「叶うなら、ゴーレム魔法を修める機会と、ゴーレム素体の開発に加わる許可を」
 王はベアルファレスと春陽の二人に答える。
「天界よりこの地に来たりて三月もそこそこのうちに、王国の軍事にかくも鋭き慧眼を示すとは、捨ててはおけぬな。その方らのゴーレムに対する熱意は、遠からぬうちに報われよう。だが、ゴーレム技術はトルク家の所有する秘伝中の秘伝。それが容易く手に入るとは思うな」

●天界技術
 続くはリセット・マーベリック(ea7400)の奏上。
「私は冒険者に対する技術漏洩禁止令の布告、及び王家直属の研究開発組織の設立を提案いたします。目的は、地球出身者が持つ技術情報を利用する権利を王家の専有財産とすることで、技術情報の活用による利益を王家が独占することです」
 地球の技術がアトランティスとは比較にならないほど高い水準にあることを、リセットは力説。王家の資金で技術開発と技術普及のための組織を設立することを願う。
 その奏上の全てを聞き届けると、王は冒険者達に求めた。
「天界の品々を持つ者は、それを示せ」
 その言葉に応じ、ベアルファレスが自動巻き腕時計とソーラー充電器をテーブルの上に置いて示す。王はリセットに言う。
「その方の欲するは、斯様な品々を作り出し、その技術を独占することか。ゴーレム技術を独占するトルク家の如くに。して、褒賞には何を望む?」
「先ほど奏上差し上げた研究組織やギルドの仕事に携われるなら、それ以上の褒賞はありません」
「ならば、まずはその方自らが動け。そして目に見える成果を出すがよい」

●民のために
 続いては内政に関わる奏上。その筆頭はシャリーア・フォルテライズ(eb4248)。
「陛下のお治めあられる地の民に対し、二週間の間を設け民の訴状を集める事を提案致します。個人にて信頼ある代書人を頼みとする、無料にて代書を受け付ける冒険者を募る、ジーザス教の教会にて告解室での訴えを代書して頂くなど、様々な試みにて書面は回収致します。冒険者ギルドへの依頼に関しましては、私も私財を供出し依頼設立に協力致したいと存じます。また、同時に民に対し休日に文字教育を行う事を、教会や冒険者への依頼を用いて普及させる事を提案致します。民に対し、意を奏上する機会をお与えあれば、無知により妄動する者も減ると愚考致します」
「成る程。その方も私財を投ずる覚悟があるか」
「はい。また農業の生産力向上を目指し、天界の方々の知恵を広く募るのはいかがでしょう。天界には作物の改良や、複数の作物を同時に作る技術や、専用のゴーレム機器も存在とか‥‥研究する価値もありかと。老朽化した戦えぬゴーレムを改修し、農業に転用するのを提案します」
「試してみる価値はあるな。して、望む褒賞は?」
「叶うならば、直訴に参った罪人と言葉を交わすお許しを賜りたい。彼の者らの罪は許されぬものなれど、その言が真に陛下と国の益に成らぬかを再確認致したいのです。また、この場に集われた天界人の方々が休日に際して、街を自由に歩くお許しを願います」
 その言葉を聞いた途端、王は不機嫌な顔になる。
「それについては、暫し待て」

 続いては貧困者に関わる奏上を為す者が3人。まずは陸奥勇人(ea3329)。
「この国へ来てまだ数ヶ月。ウィルを見知るには未だ足りぬ所なれど、先に鎧騎士シド・レイズ殿たちと共にギルドで請け負った依頼にて気掛かりな事がございました故、此処に言上させて頂きたく‥‥」
「何だ、申せ」
「それは城下のスラムの存在。取り分け、年端も行かぬ子供たちが盗みを働く現状にございます。彼らの多くは不遇にも寄る辺無く、幼さ故普通に働くも叶わず、悪いと知りつつも生きる為に盗みに手を染めざるを得ぬ状態にございます。
 国を支えるは民。そして子は国の将来を担う宝でありましょう。中には磨けば輝く珠となる存在も必ずやあるはず。それが闇に身を落とすを看過するは、ウィルにとり損失に他なりませぬ。
 なれば、斯様な境遇にある子らに王の慈悲を以って食と住居を与え、国や民への奉仕と共に武や学の基礎を身に付ける学び舎を設けられては如何でしょうか。子らの秘めたる可能性に貴賎はなく、より多くの才能を見出し育て上げるは十分に意義ある事と愚考致します」
 続いてシド・レイズ(eb4312)。
「今回私が献策致しまするは貧民街についてであります。彼の地は職無き者達の根城とする物であり、一地区を形成しております。糧を得る為に罪に走る者多く、ウィルの治安悪化の一端はここにあると言えます。
 されどギルドの依頼にて彼の地に赴けば、人々は就労意欲旺盛であり職を与えたところ低賃金でも勤勉に働くものでありました。
 そこで彼らを含め、職無く彷徨う者達へ向けて広く雇用斡旋所を設立する事を提案致します。此度の謁見に列ねております勇士達の案に聞き及びますれば、農業改革とも言える策もあります。安価で優秀な労働力である彼らは、市中諸々の職に加え件の改革にもおおいに役立つ事と思われます。
 また職をお与えになる陛下の御慈愛に、彼らはより一層の忠誠を誓い、市中の治安も併せ向上するものでしょう。故に一石で三鳥を得る策と自負致しますれども、大量の民を作業に従事させます事は、諸侯に猜疑を抱かせる事も考えられます。この場合諸侯達にも、十分な理解をさせるのが肝要かと思われます」
 王より望む褒賞を問われると、シドは答える。我が身は陛下を守る矛故に武具を賜りたく思うと。
 そして長渡泰斗(ea1984)の奏上。
「この城下に仮の住いを構えて幾月か経ちますが、浮民らしき者達を目にする事が御座る。彼の者達の中には元々この街の住人ではなく、何らかの事情により生来の地で暮らす事叶わず他所から流れて来た者もいる様子。賊の跋扈、過大な税や賦役など理由は様々でありましょうが、農村部から都市部へ人が一方的に流れれば、農村部の生産力が落ちるのは自明の理。また、人が流れた分を補おうとより重く税を課せば、それまで余裕が有った者も逼迫し何れ土地を捨てる悪循環に陥りかねませぬ。さりとて、彼らを元の村へ追立てても食っていけぬは同じ事。良き結果は得られぬでしょう」
「ならば、その方の献策を申せ」
「働きに見合う見返り無くば意欲が湧かぬは当然の事。なれば意欲が湧く環境を作る事が肝要かと存ずる。浮民や農家の次男三男で土地の相続が難しい者を以って荒地を開墾し、土地が潤うまでの間の税をある程度減免致します」
「いや待て。その方はよほど土地少なき国の出と見えるが、余の王国は相続難きほどに土地が足りぬわけではない。足りぬのは人だ。先を続けよ」
「ただ、税減免には一つ条件が御座る。軽減分は血を以って税と為す事。即ちこの制度の恩恵を享ける者は兵役を義務と致します。早い話が、兵に畑を耕させるのです。
 火急の変事には村一つを兵の集りとした方が効率的でしょう。常備の兵を置くは維持費が問題でえすが、兵に畑を耕させる事で兵糧は自給自足とする事が可能となり、今迄それに回していた収穫を転用できる様になりますれば意義は大きいかと愚考致す。
 叶うであれば、国内での勝手御免状を頂きたく候」
 3人の奏上を聞き終え、王は答えた。
「その方達は民の何たるかを分かっておらぬな。民には二つの顔がある。取り繕った表の顔は、勤勉で忠実で従順で正直。だがその本性を現す裏の顔は、怠惰で狡猾で臆病で残虐。所詮、民は選良とは異なる。身分卑しき民に注いだ慈愛が、仇となって返って来ぬという保証はあるか? ましてや武器を与えて屯田させるなど以ての外。武器を抱えて逃亡し、山賊に変じたら如何とするつもりだ?」
 しかし勇人、シド、泰斗の顔に浮かんだ不満の色を見てとり、王は付け加える。
「納得がいかぬならば、それを確かめるための機会をくれてやろう。その結果、身をもって知るがよい」

●医療組織
 カルナックス・レイヴ(eb2448)の番が来た。
 畏まった挨拶の言葉に続き、奏上する。
「私の献策はただ一つ。より高度な医療組織の設立、というものです。
 こちらの国に来て驚いたことの一つに、商店で治療薬、即ちポーションが販売されていないことがありました。私共が元居た世界でもそれなりの高級品ではありましたが、それでも一般の冒険者でも手の届く価格で販売されておりました。むしろそういった秘薬があればこそ、戦士たちは竜とも渡り合えたのです。奇跡の業を使う者と、進んだ医療技術を持つ天界人、そしてこの国の医師たちが協力できる環境を。彼等の為すべき事柄は多岐に渡るでしょうが、まずは薬作りをその第一歩と考えております。
 また彼等には、万民を苦しめる流行り病や伝染病への対応も早急に。癒しの術は怪我は治せても、病に対しては無力。故にそうした疾病に対する研究開発の促進は、必要不可欠と考えます。天界人の特性はゴーレム操縦の素養のみにあらず。その卓越した知識を役立てる場こそ、何よりも必要ではないかと愚考した次第です。
 自らの健康と、愛する者の息災は誰しもが願うもの。陛下の慈愛を世に広く知らしめるお役に立つことができれば幸いに存じます」
 王はいたく感服した様を見せて答えた。
「その方の噂は聞いていたが、流石は目の付け所が違う。して、奏上の褒賞には何を望む?」
「慎ましきを美徳と信ずるしがない長袖故、身に余る恩賞を頂いても持て余すだけ。
必要とされる方にお与え頂ければ、それが何よりの喜びで御座います」
 すると王は、次なる言葉で応じる。
「いずれその方にも機会を与えよう。その方自らが、その卓越した知識を役立てる機会をな」
 彼に続き、同じくクレリックであるアリアン・アセト(ea4919)が奏上する。
「平素よりの教会への支援に関して心より御礼を。此度は、わたくしも参加しておりましたが、先の山賊討伐で捕縛されし者達の処遇に関し申し上げたきことがございまして参上いたしました」
「申せ」
「かの山賊達、陛下の庇護から逃亡した上に、賊として無辜の民を傷つけしは二重の罪。それはわたくしの祖国においても大罪。されど、彼らに今一度、更生の機会を賜りたく思います」
「何と!?」
 王がじろりと睨みつける。
「無論、単に赦しを与えるだけでは範を示すことも出来ず、害を受けた方々に対しても、そして何より彼ら自身に利はありません。それは、母の愛が時に厳しさを以って示されるのが如し。
 そこで、彼らを一団として開拓事業等へ従事させ、その管理と更生を教会が実施、そこから税と被害者への賠償を捻出。集団のままでは或いは危険かもしれませんが良き力ともなりましょう。
 罪人といえど民。そして民は力でもございます。今回の提案を罪を犯した者達を再び民とする為の、一つの試金石と為されん事を」
 その言葉を聞き、王は隣に控える侍従長に尋ねる。
「山賊に赦しを与えるとして、被害者が納得する賠償額は如何ほどになろうな?」
「そうですな。殺人などの重罪が伴わぬ限り、山賊の犯した略奪行為に対しては、山賊1人につき金貨100枚の賠償金を課すのが妥当なところでしょう。ただし単なる下働きであった者、年幼き者については、さらに少額の賠償で済ませられましょう」
 王はアリアンに向き直り、言葉を続ける。
「賠償額については聞いての通りだ。では、その方の望む褒賞を申せ」
「褒賞は、犯罪者更正に関しての事業で、教会が主体となることをお許しいただければ幸いです」
「良かろう。余は教会に対し、その方が奏上したる事を伝えておく。後はその方の頑張り次第だ。結果を楽しみにしておるぞ」

●犬にも牙がある
 賢人会議も終わりに近づいた。ここで山下博士(eb4096)が為したる奏上は、王への訓戒。
「王よ。永遠に生きられますよう。ぼくが陛下にお願いしたいことは五つです。
 一つ。愚論愚説に耐えて下さい。英明であらせられる陛下は、一を聞いて十を悟っておしまいに為られます。陛下ほどの賢人はそういないのですから、それを御自覚下さい。
 二つ。臣下の意見をいれて下さい。陛下から見れば全ての者は愚かであって当たり前。もしも陛下と五十歩百歩の献策を為す者があれば、必ずその論を誉めて採用なされますよう。その者は陛下の忠実なしもべとして、力を尽くすでありましょう。
 三つ。今にも増して、怒りを露わにすることをお慎み下さい。陛下の英明を基準にし、知恵が陛下に及ばない事を理由に怒鳴りつける時、如何なる者も実力を発揮できないでしょう。怒りは、陛下の御心を煩わせ、威厳を損なう行いです。
 四つ。臣下臣民の無知無能をお考えになりますよう。陛下の基準では、陛下お一人だけが御心にそう速さで歩めるのです。
 五つ。人を忌み嫌うときは人もまた陛下に恨みを育てます。陛下のお心に添わぬ者こそ、努めて交際を広めて頂くことを希望します。他の者ならいざ知らず、陛下ならば必ず彼らを御して心服させることでしょう」
 王は思いっきり眉根を寄せた。齢10歳にしかならぬ少年からの、身の程知らずとも思える奏上。王の口から怒りの言葉が飛び出すかと周囲の者は案じたが、王は怒りを覆い隠すかのような含み笑いと共に答える。
「貴様! マリーネの愛玩犬だとばかり思っていたが、ずけずけと物を言う犬め!」
「犬も牙を持ち合わせています」
 この時のために用意していた言葉を博士は吐き出した。
「では、褒賞に望む物を申せ」
「ごほうびが頂けるのならば、先の五ヶ条をお守り頂きたいと願います」
「何‥‥!」
 余にそこまで意見するか! ‥‥とのお叱りの言葉が出てもおかしくはなかったが、暫し考え、王はこう答えた。彼の言葉がかつて排除した老臣の言であったからである。
「貴様はどうやら犬の仔ではなく、狼の仔であったようだな。なれば、もはや称号に『犬』の名前はいらぬ。そこまで牙が伸びたのならば、牙を研ぐための狩り場を与えてやろう」

●富国の策
 博士の次はアレクシアス・フェザント(ea1565)の番だ。
「奏上申し上げます」
 恭しく一礼し、献策するは民の救済策。
「王の治世の危うきは、民の疲弊。王の偉業に付いて行けずに困窮しています。臣民たる者何時如何なる時も王の為に働く気概と備えが必要です。このままでは盗賊や蛮 族、カオスの跋扈、治安の低下を許す事となり得ます」
 言葉を選んでの進言だが、王はアレクシアスが何を言わんとするかを見抜いた。これは王政への批判だ。
「策はあるのであろうな?」
「はい。提案致しますのは天界人の知識と技術を活用しての産業技術の向上、効率の良い領地の運営管理方法の確立です。これにより王の意向に沿う忠実な力強き民を育て、国の富を増やす事を目指します。臣下達も王が示した範に習う事となりましょう」
「成る程、それは理に叶いたる策。なれど言うは容易く、行うは難し。しかしてその魁となるに相応しき者は誰か?」
 王の望む答は分かっている。だからアレクシアスは、その如くに答えた。
「我が血縁者と雖もその働きを保証出来ません。しかし私自身ならば、責任を持って功を成す事が出来ましょう」
 王は満足げに笑む。
「よくぞ申した。して、その方は褒賞に何を望む?」
「先ず試験的に実践する為の領地と領民を賜りたく願います。ですが天界人ゆえこの世界の理に疎いのも事実。先立ってザモエ卿からその名をお伺いした、民の事情に広く通暁されておられるというルーベン・ セクテ卿の御助力を頂きたく願います」
 王は不快感も露わに言い放つ。
「その方はウィルの国事に与るにあたり、フオロ家に連なる者をさしおいて、あの私生児ルーベンの助力を当てにするというか!?」
 激しき王の言葉に黙するアレクシアス。ここで王は言葉の調子をがらりと変えて続ける。
「だが、私生児なれど智恵者のルーベンを得たるジーザム卿は真に果報者。それは余も認めよう。なればアレクシアスよ、おまえが我にとってのルーベン・セクテとなれ」

●王の号令
 最後の奏上を為すのはバルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)。母国語ゲルマンの詩を賦して訴えた。
♪儲(もうけ)の君の畏(かしこ)くも
 聖上掲げん鴻鵠の志 愚民知らすは燕雀の治
 日に新しく明たりて 安寧秩序を授け給え
 民(たみ)哺(ほ)を含みてぞ充足す 美味し夢を与え給え

 国の光は王独り 臣求むるは勅諭(みこと)なり
 魔の棲む鉱山(やま)に古戦場 海賊王の庭たる海
 万丈の山千尋の谷 越せば潤う難 数多(あまた)
 あれあり望む大ウィルに 当(まさ)に大詔(たいしょう)下すべし
 征け和げよと命ずべし

 高き尊き大王よ
 史(ふみ)繙(ひもと)きて見る毎(ごと)に
 童(わらべ)も君に憧れん♪

 最後の言葉を、バルバロッサは己の胸を指して言い放つ。武骨なる声ながらも、胸打つ響き。武人の熱き血潮の滾りに王も感じ入り、これに答える。
「なれば、その方の望む褒賞を授けよう。余の号令は明日にも下ろうぞ」

 そして王は、冒険者全員に言葉を下す。
「その方達の進言は全て聞き届けた。明朝、謁見の間に集え。約束通り、その方達には褒賞を授け、そして新たなる王命を下す。心して待つがよい」

●王命
 翌日。謁見の間に揃った冒険者たちを王座から見下ろし、エーガン王は言葉を下した。
「汝らの進言に余は感服した。汝らの赤心を認め、余は汝らへの褒賞として、ルーケイの地を賜おう」
 その言葉が下るや、居並ぶ家臣たちがざわめく。
「なんと、あの呪われた地を!?」
「あそこは盗賊どもの巣ではないか!?」
「おまけに、あそこはトルク分国の間近‥‥」
 王は家臣たちに一喝した。
「ええい! 静まれ!」
 そして冒険者達に向かい、続ける。
「ルーケイの地は王領なれど、今は統治する者なき荒廃の地。なれど汝らの力量あらば、幾多の困難をも乗り越えて、かの地の復興を成し遂げられよう。余は汝らに王命を下す。ルーケイの地にて、汝らの望むがままの統治を為せ。汝らが余に行いたる数々の進言を、かの地で実現するがよい。汝らが成功を収めるならば、余もそれに習おう。また此度の封建にあたり、汝らより保証金を召し上げる。各種の便宜を図るための対価としてな」
 そして王は、冒険者達と共に控えるマリーネ姫に言葉を下す。
「ルーケイの地が再び統治者を迎えるまでには、今暫しの準備が必要だ。汝はその進みようを監督し、余に報告を為せ」
「御意のままに」
 姫は受諾した。
 王命を拝受し、冒険者たちは謁見の間を退出する。
「ウィル国千年の夢‥‥フフフフ」
 余人に聞こえぬ声で独り言つベアルファレス。その夢は果たして現実のものとなるか?

 博士が帰り支度をしているところへ、エーガン王自らが供の者を連れて現れた。グリフォンの雄姿に心惹かれたらしい。
「献上せよと命じたならば、何とする?」
 咄嗟に閃いた答を博士は口にする。
「可愛がっていただけますか?」
 王は笑みと共に答えた。
「受諾の証と取ってよいな?」
 王は命じて、見目麗しい飾り馬具でグリフォンを飾らせた後。勿体なくも博士を抱き上げて密(しのび)の命を囁いた。途端に変わる博士の顔色。
「僕が‥‥ですか? はい」
 最後に、王は微笑みてこう告げた。
「今召し上げたるグリフォンを、天界の伝説に因み『デュランダル』と名付け、今この場にて下賜する。汝には、ルーケイに配備されるであろう各種ゴーレムの管理権を預ける。励め」