魔獣の森〜鎧竜居座る森の遺跡
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■ショートシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月18日〜02月23日
リプレイ公開日:2007年03月01日
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●オープニング
開拓村に朝が来た。
「も〜〜〜〜〜」
朝の光を浴びて牛が鳴く。
「やあ! やあ! やあ!」
朝っぱらから元気な打ち合いの声。
棒きれで打ちかかって来るのは子ども達。やはり棒で受けて立つのは、稽古着姿のご老人。
「よし、今日の稽古はこれまで。朝飯とするか」
出来たばかりの開拓村だが、既に公会堂が建っている。子ども達と老人が中へ入ると、朝食の用意はすっかり出来ていた。焼きたてのパン、熱々のスープ、一欠片のチーズ、温かいミルク。ついでにテーブルには渋い顔をした旦那も一人。
「まったくお父上ときたら」
渋い顔の旦那、リボレー・ワンド子爵が老人に言葉を投げかけた。ついさっきまで開拓村の子ども達相手に、護身術の稽古をつけていた老人こそ、リボレーの父親バーゼルである。
リボレーはこの開拓村が存在するワンド子爵領の当主。バーゼルはもう何年も前に家督を息子のリボレーに継がせて、今は悠々自適のご隠居生活。
「七十をとっくに越えたそのお歳で。こんな寒い日に朝っぱらから無理せずともよいものを」
「儂(わし)は無理などしておらぬぞ。稽古をつけるうちに体など温まってくるものじゃ。さあ、おまえも食え」
息子に朝食を勧めつつ、バーゼルは子ども達を見回してさらりと一言。
「ところで皆の衆、魔獣の森の話を聞きたくないかな?」
子ども達は大喜び。
「聞かせて! ご隠居様!」
ところがリボレーは思わず額を手で押さえて愚痴る。
「いやはや! また魔獣の森とは!」
去年の秋。バーゼルは冒険者を伴って魔獣の森の探検に出かけた。探検とは言っても、バーゼル自身は冒険者の理不尽な命令により、キャンプでずっと待機する羽目になったわけだが。それでもバーゼルは退屈などしなかった。
「‥‥というわけでな。冒険者達が森の探検に出かけている間、儂はキャンプでどっしり構えていたわけだが。どっしり構えているだけでも、色々な面白い事が向こうからやって来るものじゃ。まず魔獣の森のミミズ、これがこんなにもでかい」
話しながら50cmほども手を広げてみせると、子ども達がわっとどよめく。
「最初見た時は、蛇かと思った程じゃった。で、大河の水面を見ておるとな。何やら大きな生き物の背中らしき物が、ゆらゆらと通り過ぎて行くのじゃ。あれは大魚か? 大蛇か? それとも竜か? ふと儂は思った。あのでかいミミズを釣り針に付けて、この魔獣の森の川辺で釣りをしたらどんな獲物が釣れるかとな。生憎とそれ相応に大きな釣り針も釣り竿も無かったので、試せなかったのが実に残念じゃった。他にもな、雀ほどもあるでかい蜂が飛んで来たり。夜中に目を覚ましてキャンプの外に目をやると、何やら不思議な光が森の中でゆらゆらと揺れておったりとな。いや、魔獣の森はあっと驚く物がいっぱいじゃ。そして探検も終わりに近づいた日のことじゃ。儂と冒険者達がキャンプで語り合っているとな。‥‥それはちょうど、夕闇迫る頃合いじゃった。ふと空を見上げるとな。ますます暗さを増す空から巨大な影が迫って来たのじゃ! なんと、それは信じられぬくらいに巨大な、黒いドラゴンだったのじゃ!」
子ども達の聴衆は話に引き込まれ、全員で感嘆の吐息。
「昼の光が僅かに残っていたから、辛うじて形は判ったが。さもなくば夜の闇とまったく見分けがつかなかったであろうな。その黒いドラゴンは何度もキャンプの周りを回り続け、やがて夜の闇の中へ飛び去って行ったのじゃ。魔獣の森から帰った後、儂は街にやって来る物知り達に黒い竜の事を尋ねて回ったが。恐らくはそのドラゴン、月の属性を持つシャドウドラゴンではないかということじゃった」
話は終わった。子ども達はお礼を言ってぞろぞろと公会堂から出て行き、後に残ったのはリボレーとバーゼルの親子。
「また魔獣の森にお出かけになるおつもりですな?」
「当たり前じゃ。ずっと楽しみにしておったのだからな」
「まったく年甲斐もなく。行きと帰りのフロートシップ使用料も馬鹿にならぬと言うのに」
「良いではないか。費用は全て儂が自腹を切っておるのだ」
ちなみにワンド子爵領から魔獣の森までの移動には、ワンド子爵領がトルク分国とも主従関係を結ぶ誼で、トルクのフロートシップを使わせて貰っている。ウィルにとって主要な交通ルートである大河の上を飛んで西に向かい、魔獣の森の端っこで下ろしてもらうのだ。帰りにはその場所で船に拾ってもらう。
「しかし、こんな道楽を続けて金が出て行く一方では、お父上の葬式を出す金も尽きてしまいますぞ!」
「葬式に金ばかりかけてどうする? 金は生きているうちに使わねば楽しくなかろうが? そうじゃな、いっそのこと儂の墓も魔獣の森に‥‥」
「そんな所に墓など建てたら、魔獣に掘り起こされて骨まで喰われるのが関の山ではありませぬか!?」
いきり立つリボレー。
「いや、それも困るが‥‥」
空っとぼけた顔で答えると、バーゼルは真顔になった。
「先の魔獣の森の調査でな。キャンプの遙か北の方に、謎の遺跡が見付かったであろう? シフールの冒険者が森の木の遙か上まで飛んで行って、見つけてきたアレじゃ。観察によれば竜の住処になっておるらしいが、儂はあの遺跡の話を聞いてふと思い当たったのじゃ。『竜に滅ぼされた都』の伝説をな」
「また、そのような!」
リボレーは呆れ果てた。『竜に滅ぼされた都』といえば、リボレーも幼い頃より耳にしている古い伝説。何でも魔獣の森の奧深くには、竜の怒りに触れて滅ぼされた都の跡があるという。それは最古の英雄伝説ロード・ガイの時代にも遡ろうかという古い古い時代の物語。かの地に壮大なる都を築いた人々は、自らの繁栄におごり高ぶり人の道を忘れて悪徳にふけり、終いには大いなる竜の怒りを買って都ごと滅ぼされたのだという。今も都の廃墟には巨大な竜が居座り、余所者が近づかぬようしっかりと番をしているのだとか。
もっとも出所不明の伝説だ。真偽の程は定かではない。
「まさか、森の奧深くまでフロートシップを乗り入れさす気ではないでしょうな?」
「いくら儂でもそこまで無謀をやらかすか。船が竜に襲われて全壊でもしたら、その弁済で領地全てが吹っ飛んでしまうわ。ともあれ、儂も伝説の真偽を確かめたくはある。そこで、今回は2ヵ所に当たりをつけるのじゃ。うち1ヶ所は、先の調査でキャンプを設けた場所じゃ。あそこでシャドウドラゴンの出現を待つ。相手は温厚な月属性の竜じゃ。前回も我々に興味がありそうな素振りを示しておったし、歌や踊りで楽しく盛り上げて招いてやれば、きっと話にやって来ることじゃろう。交渉がうまく行けば何か手がかりを教えてくれるかもしれぬし、北にある謎の遺跡まで護衛を引き受けてくれるかもしれぬぞ。もう1ヶ所は、先の調査で冒険者達が発見した、キャンプからさほど遠くない場所にある遺跡じゃ。今はフォレストドラゴンのねぐらになっておるが、北の遺跡と何やら関係がありそうな場所じゃ。是非とも探りを入れてみたい」
「そこまでおっしゃるのならば、もう私は何も言いませぬぞ」
リボレーはとうとう根負け。
「ともあれ魔獣の森では十分にお気をつけ下さい。帰ってきたその日が葬式の日では話になりませんからな」
その言葉をバーゼルは豪快に笑い飛ばす。
「儂の葬式の事を考えるなど10年早いぞ! では早速、準備にかかるとするか!」
●リプレイ本文
●遺跡のドラゴン
冒険者の中には依頼人のバーゼルと既に顔馴染みの者もいるし、今回が初対面の者もいる。皆できっちり挨拶を済ませ、遺跡探索班はキャンプを発って森の中に踏み込む。
森の中の移動にセブンリーグブーツを使おうと思っていたシルバー・ストーム(ea3651)だが、森の様子を見て諦めた。木の枝や根っこ、絡み合う蔓草など障害物が多すぎる。高速移動すれば幾度、体をぶつけたり足を取られて転倒するか分からない。
シュタール・アイゼナッハ(ea9387)は保存食の持ち込みが少なくて冷や冷やしたが、行きと帰りのフロートシップでは船内でまともな食事にありつけるので、保存食はぎりぎり間に合った。しかしスケジュール的に時間の都合がつかず、バーゼルの武勇伝を聞く機会が無かったのは残念。
「酔狂な方もいたものです。竜に滅ぼされた都‥‥あの古い伝説を信じて探索し続けている方がいるとは」
リュード・フロウ(eb4392)はそう言うが、その酔狂なバーゼルのお陰で謎の遺跡を探索する機会を得たのだ。感謝の気持ちがしないでもない。
「でも、バーゼル様がキャンプに残ってくれて、本当によかったです」
フェリシア・フェルモイ(eb3336)がしみじみと呟く。竜のもてなしにも心惹かれるものがあったが、彼女は遺跡の探索を選んだ。
「俺もこっちの遺跡を見ておきたかったからな」
そう言うシンは前回の魔獣の森調査に加わった一人。秋に行われた前回と違い、気温が低いせいか虫もまるで見かけない。冬の間は魔獣も大人しいのだろう。遺跡までの道中、魔獣との遭遇回数も少なかった。
途中、木の杭に動物の頭蓋骨を突き刺した道標を見かけた。
「これが、話に聞くオーガの道標ですか」
イリア・アドミナル(ea2564)は周囲を見回すが、オーガの姿は見当たらない。魔獣の森は広いし今は獲物の少ない冬。魔獣の森の狩り場でオーガ達を見かけるようになるのはまだ先だろう。
途中、ぬかるんだ場所があったが、イリアのストーンの魔法は泥濘を石化して歩きやすくするのに役立った。
冒険1日目の夜は森の中で野営。見張りに立つ仲間が森を見れば、光を放つ丸い固まりがいくつも見える。
「あれはメイフェですね。陽のエレメントです。ただ光っているだけだから、放っておいても害はありません」
説明役は仲間内でモンスターに一番詳しいフェリシアだ。
朝が訪れると一行は再び歩き始め、その日の昼頃には森の中の遺跡にたどり着いた。
いるいる。岩のような緑褐色の肌を持つ6本足のフォレストドラゴンが、崩れかけた遺跡のそこかしこに寝そべっている。
「こっちのドラゴンに会うのは初めてだけど、信仰されてるってことは。やっぱりこっちのも強いだけじゃなくて、ジ・アースのドラゴンと同じように誇り高い尊敬できる奴らなんだろうな」
ドラゴンの姿を間近に見て、レオン・バーナード(ea8029)の心はときめく。
最初にドラゴンと接触する役目はシン・ウィンドフェザー(ea1819)が引き受けた。武器を持たず、両手を上げて戦う意思が無いことを示しながらドラゴンに近づく。
「ご機嫌よう、ドラゴンの方々。実は頼みがあってここに来た。この遺跡を調べさせて欲しいのだ。我々に戦う意思は無いし、ドラゴンの方々に迷惑はかけない」
「おや、こんな所に人間とは珍しい」
最初に接触したドラゴンはのそのそと動き出し、遺跡にたむろするドラゴン達に来訪者の存在を告げる。
「人間どもがやって来たが、どうするね?」
中で最も体格の立派な、群れのボスらしきドラゴンが答えた。
「好きにさせておけ。やかましい音を立てたり、妙ないたずらをしなければそれでいい」
交渉は成功。遺跡の調査に先立ち、イリアはドラゴンに対して世界の平和を祈る礼を行なった。ドラゴンに敬意を表すために。
「この遺跡が竜に滅ぼされたという伝説の都に関わる物なら、人々の悪心が崩壊を招いた事を深く心に刻みつつ、僕は自らを律し、悪心と戦い、平和に尽す事を誓います」
誓いの言葉を述べ、祈りを捧げるイリアをドラゴン達は何も言わずに見守っていた。やがて一匹のドラゴンがイリアに近づいて告げた。
「おまえ達はどうやら、悪い人間ではなさそうだな」
長渡泰斗(ea1984)にはイリアの誓いの言葉に感ずるものがあった。
「竜に滅ばされし都、ねぇ‥‥。あのロード・ガイの時代にまでさかのぼる伝説ってか。ソレが本当の話なら、是非とも見てみたいものだ。もっとも、口伝えの物語が創作交じりの信憑性の低いモノであるならば、頼りになるのは『モノ言わぬ物』しかないからな」
確たる証拠となるのは目の前の遺跡。そして遺跡には主がいる。
「フォレストドラゴンと話をしてみないか? 竜は長命って言われてるだろ? ひょっとしたら、とんでもなく古い時代から生きてる竜が居て、何か知っていたら面白いぞ」
物は試し。フォレストドラゴンの1匹にイリアが尋ねると、こんな答が。
「わしらがここに住み着ついたのは遠い昔じゃ。住み着く前のことは知らん。しかし、かつてわしらを訪ねて来た物知りのナーガの言うことには、かつてここでは竜と魔物の大いなる戦いがあったそうじゃな」
●北方の遺跡
こうして遺跡の調査は始まったが、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)には心配な事があった。
「あちこちでカオスの魔物が暗躍しておるようじゃし、そいつらがドラゴンにちょっかいを出さないとも限らないのが心配なのじゃ。わしの所にも鎧竜の子供がおるし、争う事になったり傷つくような事があっては寝覚めが悪いのじゃ。しかし、うちの子供もこんなにおっきくなるのかのう?」
事前の占いでは悪い結果は出なかったけれど。一応、ユラヴィカは上空から偵察を試みた。空から北を見れば、かなり遠くに塔のような物が立っている。テレスコープの魔法を使ってよく見ると、やはりそれは人工の建造物。巨石を積み上げて作られた建物に特有な、段々状の輪郭をしている。しかもその塔にはドラゴンが止まっていた。ドラゴンが止まれるほどに巨大な建造物ということだ。
魔法の効果が切れると、ユラヴィカは周囲の森に注意を向ける。しかしカオスの魔物の類の、不審な生き物の動きは発見できなかった。
●地上部の探索
「遺跡探索の仕事は久々だからワクワクするぜ。難しい昔の文字とかはさっぱり読めないけど‥‥」
心中の思いが素直に顔や言葉に出るレオンとは対照的に、シルバーは無口。
「昔はなにに使われたんだろうな?」
問いを発したレオンに答えたのは、アルカード・ガイスト(ea1135)。
「かつて、ここは城壁に囲まれた都市だったようです。城壁も今は大部分が崩れていますが」
遺跡に今も残る建物はさほど高さが無い。1階建てか2階建てだ。しかも天井や壁の崩れが激しい。
「元々は高さのある建物もあったのでしょう。例えば、あれがそうです」
アルカード・ガイスト(ea1135)が、少し離れた場所にある瓦礫の山を示した。
「完全に崩壊していますが、土台に階段の跡があります。元々は物見の塔だったかもしれません」
「伝説の英雄ロード・ガイ関係の遺跡でしょうか? ガイの戦士と呼ばれる方々が復活している今、遺跡が見つかったのは何かの兆しなのかも知れません。ガイ様は、ローマの生まれと聞いています。もしかしたらビザンチンとも縁があるかもしれません」
そんな感想を述べるイリアはジ・アースのビザンチン出身。懐かしいビザンチンの遺物でも見付からないかと遺跡を調べていたが、遺跡の由来を示す物は見事な程に見付からない。
「上を調べてみましょう」
レビテーションの魔法を使って浮遊し、手近な遺跡の屋根を調べると、何かの台座の跡らしき物がいくつも見付かった。が、台座に乗っていたはずの彫像の類は全て失われている。
「あれ? こんな所に階段が」
最初にそれを見つけたのはレオン。とある建物に地下へ通じる階段があった。
「下りてみようか?」
シルバーが止める。
「明日、じっくりと調べましょう」
遺跡がロード・ガイに関係する可能性もあるので、シン・ウィンドフェザー(ea1819)は長渡泰斗から目を離さずにいた。『徴』を受けた泰斗に遺跡が反応するかも知れない。
「‥‥いきなりあっちの塔まで飛ばされたりしてな」
しかし泰斗は北方の塔まで飛ばされることもなく一日が過ぎ、夕暮れが近づくと冒険者達は調査のまとめに入る。
碑文や意匠の類は見事な程に残されていない。それが冒険者達の一致した結論だった。
「最初から無かったというよりも、後から破壊されたようです」
アルカードはそう結論づけた。屋根の上に見付かった台座の跡はもとより、壁にも何かを削り取ったり破壊した跡があちこちにあったのだ。しかしそこには何が存在し、誰がそれを破壊したのだろう?
その日の夜。冒険者達は遺跡にテントを張って一泊した。
●地下の探索
翌日。冒険者達は遺跡の地下に足を踏み入れる。
「うわ〜っ! すごいや!」
「しっ!」
思わず大声出したレオンに、シルバーが静かにするよう注意を促す。
「ここには何が潜んでいるか分かりません」
しかしレオンが驚くのも無理は無い。地上部も崩落が激しかったが、地下も壁や天井のあちこちが崩れ、至る所に瓦礫が散乱している。
地下の遺跡は暗い。皆はランタンの灯りを頼りに奧へ進む。先頭に立つレオンは崩落や罠を警戒し、長い棒で壁や床をつんつんして危険が無いか確認しながら歩を進める。
「だけど、ドラゴンの下に住んでる奴らなんてそういないと思うけどな。たいていの奴はドラゴンに気付かれずに出入りできそうにもないし。とすると、いそうなのは鼠とか蛇とか蝙蝠、虫あたりかなぁ?」
するとシルバーがレオンに突っ込む。
「ここは古代の遺跡です。ズゥンビやレイスなどのアンデットが巣くっているかも知れません」
シュタールはバイブレーションセンサーを使いながら進むが、震動する物は何ら感知されない。地下遺跡はしんと静まり返っている。
どん! 突然の震動、それもすぐ後ろから。
「何事じゃ?」
はっとしてシュタールが振り向けば、長渡泰斗が倒れていた。床の割れ目に足をひっかけたようだ。
「痛てて、運が悪いな」
「‥‥あれ? あれは何だろう?」
レオンは見た。前方からぼおっとした光が近づいて来る。幾つも幾つも重なり合うように。
「気をつけて! モンスターです!」
「あれはレイス! 凶暴化した幽霊です!」
シルバーとフェリシアが同時に叫んだ。
「うわっ! こんなに沢山かよ!」
レイスの数は10体以上。しゃにむにレオンはノーマルソードで斬りつけたが、剣はレイスの体を素通り。逆にレイスの手が次々とレオンに伸び、触れられた体の場所に火傷のような痛みが走る。
「レオン! 剣をこちらへ!」
伸ばされたレオンの剣にアルカードは手を触れ、バーニングソードの魔法を発動。魔法の炎を帯びた剣でレオンが打ちかかると、レイスが悲鳴をあげる。魔法の力を付与された剣は、確実にレイスにダメージを与えていた。
「おっ! これは便利!」
アルカードはさらに、シンのワンハンドハルバードとリュードのサンソードにバーニングソードの魔法を付与。シンとリュードはレイスの群れに斬り込み、魔法炎を帯びた得物でレイスを切り刻む。泰斗は右腕に太刀「三条宗近」、左腕に鬼神ノ小柄、共に魔力を帯びた刀の二刀流。イリアはウォーターボムで応戦し、シルバーはオークボウで魔力を帯びた矢を放つ。
魔法の武器と魔法の力で優位に立った冒険者だが、戦いは長引いた。レイスどもはいくら傷ついても執拗に攻撃をしかけてくる。もはや怨念の固まりと化し、人を傷つけ殺す意志しか持たぬよう。ついにレオンの剣がバーニングソードの効果を失った。
「もう時間切れかよ!」
「その手をこちらへ!」
シュタールの声に応じてレオンが空の手を差し出すと、シュタールはクリスタルソード
の呪文を詠唱。レオンの手の中にクリスタルの剣が出現した。
「感謝!」
見ればレイスの一体が目の前に。レオンが思いっきりクリスタルソードを叩きつけると、レイスは凄まじい絶叫を放って雲散霧消した。
●魔物の口
戦いは終わった。
「皆さん、ご無事で何よりです」
戦いの間は守りに徹していたフェリシアだが、戦いが済むとリカバーの魔法で皆の治療に専念した。激しい戦闘で誰もが傷だらけ。
「はい。次は泰斗様。あら、ものすごい傷の数ですね」
「何故か、集中攻撃をくらっちまってな」
身につけた鬼神ノ小柄のせい? 多分、そうだ。それでも命に関わる程の傷が無かったのは幸いだ。
「先程のレイスの数といい、この遺跡は何か曰くがありそうです」
言ってリュードは周囲に目をやるが、辺りには瓦礫が散らばるばかり。
「形式的にせよフォレストドラゴンが守っている遺跡、盗掘者も少なかったでしょうから貴重な資料や宝物が手に入るのではと思っていましたが、この荒れようでは‥‥」
「もしかして、この瓦礫の下に何かあるかも知れないな」
堆く積もる瓦礫を調べ始めたレオンだが、その手が何かを掴む。
「これは‥‥」
古びた金属の欠片。かつては剣の柄だったようにも見えるそれには、奇妙な紋様が描かれていた。
「これ、何に見える?」
「牙を剥いた魔物の顔のようです」
一部しか残っておらず全体像は分からないが、不気味である。
さらに進むと遺跡の通路は行き止まり。
「もうおしまいかよ」
レオンは落胆気味。
「もう少し調べてみましょう。こういう場所には隠し扉があったりするものです」
シルバーはクレバスセンサーのスクロールを使って調べてみた。案の定、壁に仕掛けがしてあった。クレバスセンサーで見つけた壁の隙間から可動部の見当をつけ、手で強く押してみた。
ゴゴゴゴゴ‥‥。
仕掛けが動き出し、目の前の壁がゆっくりと開く。
「あっ!」
冒険者達は息を飲む。壁の向こう側に現れたのは、魔物の頭部を象った巨大な彫像。
「初めて見る意匠ですね。それに邪悪の臭いがします」
リュードの目にはそう映った。
「これはローマやビザンチンのものとも違います」
イリアも言う。
「つまりこの遺跡はロード・ガイではなく、ガイが敵としたカオスに関わる遺跡か? えらい所に足を踏み込んじまった訳だな」
シンの言葉が聞く者の胸に迫る。
かっと開いた魔物の口は、さらに奧へと続く通路の出入り口になっていた。果たしてその先に待ち受ける物は‥‥。
「この先に進むのはまだ早い。準備を整えて出直しましょう」
アルカードの言葉に誰もが同意。皆が来た道を後戻り。
外に出るとユラヴィカが待っていた。
「無事に戻られて何よりじゃ」
外でずっと張り番をしていたユラヴィカだったが、心配していたカオスの魔物の襲撃は無かった。張り番がてらドラゴンと話し込んだりもしたが、お陰でドラゴン達とはすっかりうち解けてしまった。