王都の竜族〜ドラゴンパピィが姫に会う

■ショートシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 98 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月09日〜03月12日

リプレイ公開日:2007年03月20日

●オープニング

●今日もパピィは元気です
 竜人ナーガの特使3人とドラゴンパピィ2匹が冒険者街で暮らすようになってから、はや2ヶ月。もうじき春がやって来るけど、まだまだ寒い日は続く。冷え込んだ夜が明ければ地面には霜柱。霜柱が出来た朝にはそれを踏んで歩くのが、冒険者街はロゾム通りに住処を与えられたドラゴンパピィの楽しみだった。
「アギャ! アギャ!」
 ざくっざくっざくっざくっ‥‥。
「アギャ! アギャ!」
 ざくっざくっざくっざくっ‥‥。
 あの独特の鳴き声を上げながら、今日も朝からはね回る2匹の幼竜。その愛らしい姿をロゾム通りの住処の窓から眺めて微笑む麗人が一人。
「いつ見ても可愛いのぉ」
 その視線に気付き、パピィは元気に朝の挨拶。
「おはよー!」
「おはよー!」
 人間の習慣にも徐々に馴染み始め、既に冒険者街の風景の一部と化したような。人とは言語も発声方法も異なるドラゴンでも、お互いに言葉が通じるのはアトランティスに満ちる摩訶不思議な精霊力の為せる業。
 ちなみに2匹のドラゴンパピィの名は、ウルルにメルルと言う。

●今日もナーガは元気です
 人とナーガの仲を取り持ち、特使の役割を与えられた3人のナーガの若者達を王都に迎え入れたハーベス・ロイ子爵は、折を見ては彼らの様子を見に冒険者を訪れていた。
「おお、来たかロイ子爵」
 3人のナーガ達は尊大とも思える態度でロイ子爵を迎え入れた。
「むむ?」
 ロイ子爵は怪訝に思う。これまで顔を合わせた時はいつだって、冒険者に閉じこもってばかりでは退屈だの、早く人間の偉い王族に会わせろだの、文句ばかり付けて来たというのに。今日はどういう訳か機嫌がいい。
「今日は随分とご機嫌の様子だが、何か良いことでもあったのか?」
 尋ねたロイ子爵は、3人の特使達からとんでもない話を聞かされる羽目になった。
「おお、良い事があったとも!」
「実はな。我等3人、冒険者街に閉じこもってばかりでは退屈なので、ここ最近は退屈しのぎに人間に化けて、毎日のように人間の街を探検していたのだ」
 竜人ナーガには変身能力がある。本来の姿は男性が竜の頭を持つ逞しい人間、女性が人間の上半身に蛇の下半身というナーガだが、彼らは同サイズの人間型生物に化けることが出来るのだ。、
「そして我等は人間界に探りを入れるうちに、ろくでもない悪人の町がある事を知ったのだ」
「その町の名はベクト。泥棒に盗賊に詐欺師、ありとあらゆるろくでなしどもの巣だ」
 ベクトの町は王都の近くにある町で、その筋では有名な掃き溜めの町だ。
「そこで我等3人、悪人どもを懲らしめるためにベクトの町へ向かったのだ」
「ベクトの町に来てみれば、噂に違わず非道い所でな」
「人間に化けた我等3人、早々に悪人どもに取り囲まれてしまったが」
「たかが悪人どもにしてやられる我等ではない。我等は反撃し、悪人どもをどつき倒しては放り投げ、殴り倒しては放り投げ、そうこうするうちに悪人どもは全員降参と相成った」
「まったく人間というか弱い生き物は、竜のような偉大な導き手がいなければ、かくも堕落するものか。そのことを痛感した我等は、竜の前に恥じぬ人の道を悪人どもに説教することかれこれ1時間。悪人どもは我等の説教に感じ入り、二度と悪の道に足を踏み入れないと誓ったのだ」
 ここまで彼らの話を聞いて、
「あ〜」
 ロイ子爵は喉の奧から言葉にならぬ声を出したきり。次に口にすべき言葉が見付からない。一癖も二癖もある掃き溜めの町の悪人どもが、そう簡単に改心する訳がない。おおかた一芝居打って改心したふりをして、ナーガ達を体よく追い返したのだ。その事を指摘してやろうかとも思ったが、目の前のナーガ達は聞く耳持たぬ様子なので止めておく。その代わり、
「そなた達はナーガの中から選ばれた特使なのだ。あまり無茶をされては困る」
 と、釘を刺しておく。元々はナーガの長老に断りもなく勝手に山を下りた3人。今は長老達から特使の立場を与えられているとはいえ、戦いたい盛りの血気盛んな若者なのだ。そんな彼らだが、人間界におけるナーガの代表としての節度ある振る舞い方を覚えてもらわねばロイ子爵も困る。ゆくゆくは国王陛下にも引き合わせねばと考えてはいるが、今の3人の様子ではまだ無理というもの。

●姫からの招待
 その後日。今は城を離れてロイ子爵の館にご逗留中のマリーネ姫が、こんな事を口にした。
「ナーガの特使達が3人に、ドラゴンパピィが2匹もやって来たの!? 是非とも会ってみたいわ!」
 とある日の晩餐で、シーハリオンから王都にやって来た竜族達の事をロイ子爵が何気なく話題にしたのが切っ掛け。姫はナーガとドラゴンパピィに強い興味を示し、どうしても会いたいと強く求める。
 元々、姫はシーハリオンの巡礼行でナーガと接触したり、セレの森の主たるクエイクドラゴンの前で人と竜との和平を誓ったりと、何かと竜族と縁が深い。そんな姫だから竜族に対する興味も人一倍なのだろう。
 竜族達にとっても、人間の王族と接する経験を積むまたとない機会だ。
「姫様にご満足頂けるよう、取り計らいましょう」
 ひとまず姫にはそう答えておいたロイ子爵だが、さてどうしたものか。姫には生まれたばかりの赤ちゃんがいる。
「道理を弁えた竜族のことだから大丈夫とは思うが‥‥」
 でも、ふざけ半分にドラゴンパピィが赤ちゃんをかじったりしたら? 気まぐれな姫の何気ない言葉がナーガの気分を害し、血気盛んなナーガが怒って暴れたりしたら? 余計な心配かもしれないが、心配事は色々と出て来るものだ。
「まあ良い。ここは冒険者に任せるか」
 ロイ子爵はそう決めた。これまでずっと冒険者に任せて上手くいってきたのだ。今回もうまくいくはずだ。‥‥多分。
「冒険者諸氏には、ナーガとドラゴンパピィの側についていてもらおう。万が一、姫と竜族との間に何かあった時、すぐに間に入れるようにな」
 冒険者の仕事はナーガとドラゴンパピィの護衛だ。護衛といっても守るべきは竜族よりもむしろ姫。人間界にまだまだ十分に馴れていない竜族と、姫の間で余計なトラブルが起きぬよう、竜族に寄り添ってしっかりとお目付役を務めるのだ。

●今回の参加者

 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1819 シン・ウィンドフェザー(40歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5876 ギルス・シャハウ(29歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●パピィの予行演習
 マリーネ姫がドラゴンパピィに会いたいと言う。その話を耳にした時、シン・ウィンドフェザー(ea1819)は心配になった。
「ドラゴンパピィと会いたい‥‥ねぇ? いや、確かに図体はデカいが中身はまだガキだしなぁ‥‥」
 姫にお目通りする前に予行演習をした方がいい。ということで話はまとまり、冒険者達はウルルとメルルの所にやって来た。
「よろしくね〜!」
 ティアイエル・エルトファーム(ea0324)は竜が好き。パピィに会うなり抱きついて頬摺りのご挨拶。‥‥でも身長差がありすぎて、ほっぺたがパピィの顔が届かない。
「アギャ?」
「もっと顔近づけて」
「こう?」
 パピィの顔が下りてきたので、すりすり。パピィの頬は人間よりも固めな感じ。でも気持ちいい。
「これは親愛のしるしだよ」
 もう一匹のパピィにもすりすり。これで念願の頬摺り完了。
「あたしの事はティオって呼んでね。え〜と、ウルル? メルル?」
「ぼくが、ウルルだよ」
 がっしりした方のパピィが言う。
「メルルは、わたしよ」
 もう一匹の、ほっそりしたパピィが言う。
「ん〜と、ウルルとメルルは何ドラゴンなのかな?」
「アギャ?」
「アギャ?」
 ウルルもメルルも思案顔。
「もっと大きくならないと分からないかな?」
「アギャ!」
「アギャ!」
 ティアイエルとパピィのやり取りは微笑ましく、端で見ているイコン・シュターライゼン(ea7891)も心が和む。
「ウルルさんもメルルさんも、大きくなったら立派なドラゴンになることでしょう」
 そう前置きして、イコンは改めてパピィにご挨拶。
「実はマリーネ姫がウルルさんとメルルさんに会いたがっておられます。今日はご対面の準備のために参りました」
 と、用向きを伝えた。
「人間のお姫様が?」
 と、ウルル。
「会いたがってるの?」
 と、メルル。
「はい。今からその予行演習を行いたいと思います」

●ドレスは大切に
 予行演習でマリーネ姫代わりの実験台に名乗り出たのは加藤瑠璃(eb4288)。
「ドラゴンの子供に会えるなんて、さすがファンタジーな世界ね」
 地球人の彼女はパピィが珍しくてたまらない。しかも見れば見るほど可愛くなってくるような。
 だけど姫とのご対面で姫に怪我させてはいけないし、姫のドレスを傷つけても困る。だから瑠璃はパピィ達にドレスを着た女性との接し方を覚えてもらおうと、イブニングドレスを着てここにやって来た。
「わ〜、ひらひらしてる〜」
 ウルルが面白がって、ドレスの長い裾に顔を近づけてきた。
「だ〜め。そんなに顔をくっつけたら相手に失礼よ」
 注意するついでにウルルの鼻先を手でこつん。
「う〜!」
 ウルルは不機嫌に唸る。
「あら、ごめんなさい」
 謝る瑠璃。パピィが触られて喜ぶ場所、嫌がる場所を確かめるためにわざとやったのだが、鼻先は苦手な場所のようだ。
「ドレスを着たお姫様に会ったら、まずはご挨拶よ。さあ、私の手を取って」
 貴婦人に対する騎士の礼儀作法を参考にして、挨拶の仕方を教える。ウルルもメルルも飲み込みは早かった。
「はい、よくできました」
 ご褒美に2匹の頭をなでなでしてやると、どちらも気持ちよさげにしている。パピィの触って喜ぶ部分、嫌がる部分については、後で姫に教えておこうと瑠璃は決めた。

●赤ちゃんは大切に
 マリーネ姫の所には生まれて間もないオスカー殿下もいるから、赤ちゃんの扱いもパピィに教えておかねばならない。で、こちらの教授はシンが担当。
「ドラゴンにとってはちょっと撫でただけかもしれないが、赤ん坊にとってみれば怪我どころか致命的な触り方にもなりかねないからな。その事を前もって二人に‥‥いや二匹‥‥えー二頭‥‥あーもー」
 ドラゴンパピィの数え方に頭を悩ませつつ、ウルルとメルルを呼び寄せた。
「いーかー? 赤ん坊ってのは思ってる以上にヤワにできてるから、雪だるまをそっと持ち上げるみたいな感じであつか‥‥痛えぇぇぇぇぇっ!!!」
 ウルルにぎゅーっと抱きつかれ、音を上げるシン。するとウルルが訊ねる。
「ユキダルマって何? それっておいしいの?」
「あのなー!」
 見かねてシフールのギルス・シャハウ(ea5876)が助け船を出す。
「ここは、赤ちゃんと大きさも似ている僕を使って教えるのがいいのではないかと」
「それもそうだ」
 シンはギルスを赤ちゃんに見立てて腕に抱き、パピィ達に手渡す。
「いいか、そーっとだぞ。そーっと」
 シフールのギルスは人間のシンと違ってずっと小さくて軽いし、見かけもシンと比べたらずっと可愛げだし。そんなこともあってウルルはシンの時よりもずっと丁寧にギルスを抱っこ。
「痛くない?」
「うん。痛くない、痛くない」
 しかし、ギルスが連れて来たペットのボーダーコリー2匹は、主人もずっと図体の大きなウルルに抱かれているギルスを見て心配そう。それに気付いたギルスは、ウルルの腕の中から声をかけてやった。
「大丈夫、吠えてはいけませんよ。さあ、今度はメルルの番ですよ」
 抱っこしていたギルスを、ウルルはメルルにそおっと手渡し。
「こんな感じ?」
「そうそう。上手ですよメルル」
 赤ちゃん抱っこの練習が済むと、ギルスはパピィ達に言ってきかせた。
「赤ちゃんは何かの切っ掛けで、突然泣き始めるかも知れません。それに体は小さくても、泣き声は相当大きいですからびっくりしないでくださいね〜。それから、赤ちゃんの体はとても柔らかいので、無闇に触ってはいけませんよ。指を差し出せば、握ってくれるかも知れませんね」
「こんなふうに?」
 差し出されたウルルとメルルの指を、ギルスは両手でぎゅっと握りしめた。
「結構握る力は強いので、慌てないでくださいね。どうしてもパニックを起こしてしまった時は、魔法で動きを止めますよ。一度試してみますか?」
 クスクス笑いながらギルスが訊ねたが、考え込んでいるパピィ達の様子を見て言い足す。
「まぁ、ニュートラルマジックがないならやめておきましょうか。他にもこんな魔法も‥‥」
 と言って、ホーリーライトの呪文を唱えてみせる。ギルスの手の先の空間に光球が現れた。
「わあ!」
「光ってる!」
 驚くパピィ達。
「この光の球は持ち運び可能が可能ですよ」
「ぼくにも触らせて!」
「わたしにも!」
 早速、ウルルとメルルは光球を取り合おうとする。魔法の光球もパピィ達にとっては珍しい玩具も同然だったりして。

●パピィのおめかし
 翌日はいよいよパピィと姫が対面する日。朝も早いうちから冒険者達は準備にかかる。
「生まれたばかりの赤ん坊にとって雑菌は大敵だからな。これから身体を洗うぞ」
「ザッキンってな〜に?」
 ウルルに問い返され、説明したシンも困惑。
「え〜と、雑菌ってのは‥‥お〜い、誰か教えてくれ〜」
「こういう事なら任せてね」
 説明役はシンから加藤瑠璃に代わる。エーロン分国王が治療院に力を入れるお陰で、地球の衛生知識も徐々に広まってはいるが、こういう話が得意なのはやはり地球人だ。
「雑菌っていうのは目にみえないくらい小さな生き物で、そこら中に存在するの。それが体の中で増えると、人は病気になるのよ」
「ここにもザッキン? ここにもザッキン? アギャ〜????」
 しげしげと自分の体を見回し、パピィ達は考え込んでしまった。
「とにかく、お姫様や赤ちゃんと会う前には、体をきれいにしなくちゃ」
 説明するうちに、イコンが沸かしたてのお湯をバケツに汲んで、えっちらおっちらと運んで来た。
「ふぅ‥‥重たい」
 運んで来たお湯を馬洗い用の大だらいに満たす。
「アギャ?」
 湯気の立つお湯に首を傾げるメルル。そっとお湯の中を覗き込むウルル。
「流石にまだ寒い時期だからな。水では冷たかろう。面倒だろうが少しの我慢さね。それに赤ん坊がいなくても、お偉いさんに会う際はおめかししとかなきゃならないんでな」
 シンに言われて、ウルルはそおっとお湯に足を浸したが、
「あったかーい!」
 はしゃいで、たらいのお湯をばしゃばしゃ。跳ね散らされるお湯を被って、シンはびしょびしょ。温かいお湯もすぐに冷たくなるから、シンは余計に寒くなる。
「こら! そんなに騒ぐな」
「あったか〜い! あったか〜い!」
 べきっ!
「あっ!」
 はしゃぎすぎたウルル、足でたらいをぶち破ってしまった。
 せっかく貯めたお湯がじゃ〜じゃ〜流れていく。
「だから言わんこっちゃない‥‥」
「折角、お湯を沸かしたのに。また沸かし直さなきゃ‥‥」
「いいや、時間がもったいない。この際だ、水拭きでいこう」
 またもイコンはえっちらおっちらと。今度はお湯ではなく水をバケツに汲んで持ってきた。
「冷たいけど我慢してね」
 水に浸したタオルを使い、ギルスはウルルの体をごしごし。
「冷た〜い! でも気持ちいい〜!」
 流石はシーハリオンの麓で暮らしていたパピィだけあって、寒さには強いようだ。冷たい水もなんのその。
「さあ、次はメルルですよ」
 ごしごし、ごしごし。
「うわ〜! 冷たいけど気持ちいい〜!」
 やがてパピィ達の水拭き完了。さてお次は。
「次はおめかしをば」
 ヴェガ・キュアノス(ea7463)が用意したのは2本のリボン。そのうち青いリボンをウルルの首に結んでやる。もう1本の赤いリボンはイコンに渡し、イコンはそれをメルルの首に結んでやった。結果を見てヴェガは満足。
「おお、更に可愛うなったぞえ♪」

●姫とのご対面
 気がつけば空からの精霊光も強さを増し、朝のうちは寒かった気温も昼にはぽかぽか。春である。
 準備もすっかり整ったので、冒険者達はパピィを連れてマリーネ姫が滞在するロイ子爵のお屋敷に向かう。
 王都の通りをのそのそと歩くパピィの姿は、あっという間に街の人々の注目を集めた。
「見なよ、ドラゴンパピィだぞ!」
「うわ、本当だ!」
「可愛い!」
 物珍しさにぞろぞろと後から付いてくる者までいる。
「ありがたや、ありがたや」
 中にはパピィに手を合わせて拝む老人も。ドラゴンが崇拝の対象となっているこの世界でも、ドラゴンは普通、人里離れた場所に住むもの。ドラゴンパピィの姿をこんなに間近に目にする機会はそうそう無いのだ。
 そんな街人達に釣られて、パピィ達もあっちにふらふら、こっちにふらふら。それを戻してやるのはイコンの役目。
「ウルルさん、離れすぎないでください。おや、リボンがずれてますよ」
 そうこうするうちに、一行はロイ子爵の館にやって来た。
 おや? 部屋からリュートの調べが流れて来る。
「あれはケンイチさんかな?」
 リュートの調べにイコンはぴんときた。
 玄関口に着くと、念のためにヴェガとギルスはデティクトアンデットの魔法でカオスの魔物の存在をチェック。幸いにしてカオスの魔物の気配無し。
 ティアイエルはパピィ達を優しく撫でつつ、これまでに教えた注意点を再度、言い聞かせる。
「ちゃんといい子に出来たら、美味しい物ご馳走してあげるから、ね?」
 召使いの案内で部屋に通されると、そこにはマリーネ姫とロイ子爵が待っていた。姫の傍らにはバードのケンイチ・ヤマモト(ea0760)。姫の腕の中にはオスカー殿下の小さな姿。勿論、姫お付きの衛士長と侍女長も姫の側に侍っている。
「まあ!」
 リボンでおめかしたしたパピィの姿に、姫は顔をほころぼせた。
「可愛いこと!」
 万が一の事があってはと、ヴェガは姫と皆の周りにホーリーフィールドを張り巡らせた。魔法は無事に発動。これ即ち、付近に敵なしの証拠だ。
 そして冒険者一同、姫にご挨拶。最初にヴェガが、パピィが王都に来た経緯や冒険者街での日々の生活ぶりを説明。パピィの撫でていい場所といけない場所も加藤瑠璃が説明したが、その間もパピィは姫の腕に抱かれたオスカー殿下に興味しんしん。
 オスカーの方もパピィをじっと見つめている。ようやく物の形が分かるようになり始めた頃。大きな動く物の姿が珍しいのだろう。
「さあ、お姫様にご挨拶よ」
 瑠璃に促され、パピィ達は姫の前に頭を下げてご挨拶。そして姫の手を取り、軽く口づけ。姫は笑った。
「まあ、とっても礼儀正しいパピィなのね」
 オスカーがパピィに向かって手を伸ばす。パピィがにゅっと指を突き出すと、オスカーはその指をぎゅっと握った。そのさり気ない仕草にまた姫は笑った。
 頃合いと見て、シンも姫にご挨拶。
「先だっての引越しの際は、うちのチビ助が少々はしゃぎ過ぎた様で‥‥」
「ああ、あの時の」
 姫は思いだした。カオスの魔物相手に勇敢に戦った幼い娘のことを。
「あの子の勇気、決して忘れませんわ。私とオスカーを救ってくれたんですもの」
「もったいなきお言葉。ですが、またあれが御子息に会う機会がありましたら、宜しくしてやって下さい。‥‥今日もここを伺うと聞いたら、『とーさまだけずるいのー』とむくれてたんで」
「そのうちレンも遊びに連れて来てくださいな」
 続いてギルス。ウルルとメルルの間に浮かんでご挨拶。
「フォルセでは領主様とルキナスさんのご支援により、聖書をセトタ語に翻訳する事業に取り組んでいます」
「まあ、フォルセの。今度、ルキナスに会ったら‥‥」
 ルキナスの名を口にして、姫はくすくす笑う。
「宜しく伝えてね。噂は色々聞いていますもの」
 そしてイコン。挨拶がてら、ついこの前の依頼で魔獣の森のドラゴンに会った時のことを話すと、姫はたいそう喜んで、
「このパピィ達も大人になれば、貴方が会ったような大きなドラゴンになるのかしら?」
などと口にしながら夢中で話に聞き入った。時が経つのはあっという間。
「姫、そろそろお時間です」
 衛士長に告げられると姫はとっても名残惜しそうな様子で、
「後で続きを聞かせてね」
 と、イコンに求めた。

●春うらら
 姫とのご対面は無事に終了。次はナーガの特使達が来るとかで、一行はぞろぞろと姫の前よりご退出。ただケンイチだけが姫の側に残った。
「無事に終わって何よりです」
 ほっとしながらリュートに手をかける。
「次はどんな曲がよろしいでしょう?」
「そうね‥‥」
 姫は暫く考えていたが、
「ねえ、あれを見て!」
 姫の目線の先はお屋敷の庭。そこにはパピィ達と一緒にお昼寝するティアイエルの姿があった。しかもティアイエルったら、『まるごとな〜がくん』をしっかり着込んでいる。
「ムーンドラゴンさんの話だと、風の竜は山の高いところにいるんだよね‥‥それってシーハリオンの事かなぁ? だとしたら、シーハリオンに登ってみたいな」
 心地よいまどろみの中、パヒィに語りかけるティアイエル。すると心地よい音色が響いてきた。これはヤマモトの奏でるリュートのメロディー。
「ア〜ギャ♪」
「ア〜ギャ♪」
「ん?」
 調子っ外れなパピィ達の声。一瞬、何かと思ったが、すぐにパピィ達がリュートに遭わせて歌っているのだと気付く。まだ下手くそだけど。
 どうしようもない可笑しさがこみ上げてきて、ティアイエルはくすくす笑ってしまった。