冒険者連絡会〜精霊歴1040年4月定例会

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:04月10日〜04月13日

リプレイ公開日:2007年04月21日

●オープニング

●新生の春
 王都ウィルに春が来た。
「春ですねぇ」
 開いた窓から流れて来るのは、花の香りを含んだ春の風。浮き立つ心のままに、暫し冒険者ギルド総監カイン・グレイスは過日に思いを馳せる。
 そういえばカインがまだ騎士学生で、今は正騎士となったエルム・クリークと騎士学院寮の同じ部屋で暮らしていた時も、春になると花の香りのする風が窓から流れて来た。あの頃の自分はあまりにも若く、人の世の醜さ厳しさを何一つと言っていい程に知らなかった。
(「懐かしい‥‥」)
 気がつけば過去を懐かしむ自分がいる。もしもあの時に帰れたら──そんな事を思うこと自体、自分がもう若くは無いことの証しなのだろうか。そんな物思いに耽っていると、
「よぉ〜、カイン! 仕事してっか〜?」
 カインの馴染み、シフールのクーリンカが窓から入ってきて声をかける。
「‥‥って、また性懲りもなく甘い物ばかりばくばく食ってやんな〜!」
 総監室の机の上には、この世界では貴重なハチミツや砂糖をふんだんに使った、見るからに美味しそうなケーキ。その傍らで湯気を立てているのは勿論、ジェトから届いた高級紅茶。貴族女子学院の女学生始めカインのファンからの届け物だが、すっかり総監室の定番となった感がある。
「いいじゃない? 忙しい時には息抜きしないと体が持たないわ。それに春だもん」
 お相伴に与るお手伝いシフールのリルが、ケーキをほおばりつつ口にする。
「でも、総監室のケーキも紅茶も本当に美味しいわ」
 一時の休息を終えると、カインは椅子から立ち上がる。
「さて、記録係達の様子を見てきますか」
 実は、冒険者ギルドで働く記録係達の間で事件があった。それはついこの前のこと。事件の詳細については割愛するが、その結果、一部の記録係が仕事を離れることになってしまった。
「だいぶ人数少なくなりましたね」
「はい。ですが事件もなんとか片付き、業務の方もこれまで通り問題なく行えますので」
 記録係達を束ねるギルド長は、恐縮の面もちでカインの言葉に答える。
「ともあれ、業務が再開できて何よりです」
 カインは満足そうに言葉を発すると、一緒についてきたリルとクーリンカにも言葉を向ける。
「これから色々と忙しくなりますよ」

●冒険者連絡会
 冒険者ギルド総監として冒険者達を監督する立場にあるカインは、先王エーガン・フオロに代わってウィル国王に即位したジーザム・トルクから、王命を拝受していた。先王の失政により疲弊した王国を立て直し、また王国を狙う敵に対抗するために、冒険者ギルド内の連絡体制を整えて冒険者達の結束を固めよというものだ。フオロ分国王を兼任していた先王に代わり、新たにフオロ分国王となったエーロン・フオロも、このジーザムの方針を全面的に支持し、協力を約束している。
 この仕事に着手するに当たり、カインは月例新聞編集員の地球人・知多真人と、フオロ王家調査室の書記リュノー・レゼンを呼び寄せた。
「実は月例新聞、廃止になりそうです」
 やって来た知多真人は残念そうに報告する。
「これまで先王陛下の認可を受けてやって来ましたが、あまり冒険者の為に役立っていないということで、フオロ家からの支援を打ちきられそうなんです」
 それを聞いてカインは言った。
「編集員として数々の報告書に目を通して来た貴方には、これまでよりもずっと役に立つ仕事を与えましょう」
 そしてリュノーにも。
「リュノー、貴方にもです」
 真人とリュノーの二人にカインが依頼した仕事は、この4月からカインが始めようとしている冒険者連絡会の取り纏め役だ。この連絡会はおよそ1ヶ月毎に催される予定だが、2人の仕事はウィルの現状を冒険者達が理解できるよう、読んで分かり易い資料に纏めることだ。
「喜んで仕事させて頂きます」
 と、真人。リュノーの上司は王家調査室室長の冒険者だが、
「室長の許可が得られ次第、私も仕事を始めます」
 と、やる気満々で答えた。

●ウィルの現状〜精霊歴1040年4月現在
 器狭き王は王位より退いた。強国の理想を掲げながらも、その独善性が災いして数々の失政を為したウィル国王エーガンは、恐るべき伝染病に感染して国務に携われなくなったとされ、シム海に浮かぶ離宮に隔離された。程なくして開かれた選王会議において、次期のウィル国王に選出されたのはトルク分国の王ジーザム・トルクであった。人望高く、財力においても分国王時代から先王を凌駕していたといわれるジーザム。ウィル王国の舵取りがこの傑出した人物に任せられたことにより、王国は大きく変わる兆しを見せている。
 先の選王会議にて最も人々が目を見張ったものは、トルク分国にて開発された空飛ぶゴーレムのデモンストレーションであろう。竜が空を飛ぶが如く、自由自在に空を飛び回るその姿はまさに、新国王の力の象徴だ。
 とは言え、疲弊した王国の建て直しは始まったばかり。長年に渡る先王の失政により、王国が失ったものはあまりにも大きい。今は冒険者の忍耐が試される時だ。地道な努力の積み重ねが、王国を復興へと導くであろう。
 特に、困難な状況にあるのはフオロ分国である。隣国ハンからの難民に揺れる北部、盗賊『毒蛇団』に脅かされるルーケイ、横行するテロリスト、暴虐を欲しいままにする『横領』代官に私服を肥やす悪徳商人、先王の失政により荒廃した諸領地、そしてカオスの魔物の跳梁跋扈と、問題は山積みだ。
 その一方で明るい兆しもある。先王の寵姫マリーネ姫が難産を乗り越えて先王の御子たるオスカー殿下をご出産なされ、王都に住む大勢の人々がこれを祝った。これまでは何かと評判が悪く批判されことの多かった姫だが、冒険者達との出会いによって姫は確実に良い方向へと変わりつつある。まだまだ前途は険しいが、姫とその御子を暖かく見守る人々は少しずつ増え、マリーネ姫とオスカー殿下は新生フオロの象徴となりつつあるのだ。

 文責:知多真人

●4月の公式予定
 月上旬:ルーケイ平定戦のための御前会議
 月中旬:エーロン分国王による王国浄化作戦(横領代官・悪徳商人の討伐)開始。
 月下旬:新ウィル国王ジーザム・トルクの就任式
 ※状況により前後する可能性があります。

●冒険者ギルド総監カイン・グレイスより
「色々ありましたが、ようやく総監の仕事に集中できるようになりました。早速ですが、第1回目の冒険者連絡会を総監室にて開きます。この会議で重要な事が決まれば、冒険者ギルド総監の私が冒険者ギルドを通じて実施するなり、あるいは新ウィル国王ジーザム陛下に進言するなりして、実現に努めます。現在、ハンの情勢が緊迫しているので、今回の連絡会では主にハンの問題について取り上げたいと思います。他にも意見・提案・質問のある方、奮ってご参加下さい。なお、冒険者からの意見・提案・質問に対する返答は連絡会参加者のものを優先しますが、余裕があれば冒険者酒場の専用卓で出されたものについても対応します」

●お手伝いのリルより
「え〜と、占いはあまり得意じゃないけど。何か占って欲しいことがある人は、わたしが占ってあげるわね」

●今回の参加者

 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4163 物輪 試(37歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4412 華岡 紅子(31歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

アレクシアス・フェザント(ea1565)/ ヴェガ・キュアノス(ea7463)/ 鷹村 十戒(ea8392)/ シュタール・アイゼナッハ(ea9387)/ 浦 幸作(eb8285

●リプレイ本文

●王城にて
 総監室での会議に先立ち、シュバルツ・バルト(eb4155)とキース・ファラン(eb4324)は王城に赴いた。
 シュバルツの用向きはウィル国王ジーザムとの謁見。多忙な国王であるが、トルク領男爵待遇のシュバルツの為に少しばかり時間を割いてくれた。
「此度は何用かな?」
「この書状をお届けしたく。私の心はここに」
 彼女から書状を受け取ると、ジーザムはその場で目を通す。書状にはウィルの現状についてシュバルツの思うところが書き連ねられていた。
「なぜ、これを余に?」
「内容によっては公式の場で発言出来ぬこともあります故」
 ジーザムは得心し、律儀な冒険者に笑みを見せた。
「先王の治世下よりの習い性と見えるな。だが安心するがよい。かつてはフオロ分国内で窮屈な思いをしたことであろうが、今のウィル国王はこのジーザム。もはや余計な気兼ねはいらぬ。今後は冒険者ギルド総監のカインを信頼し、全てを任せるがよい」
 一方、キースはロッド・グロウリング卿に訊ねたいことがあった。幸運にも、ジーザムの腹心たるロッドはすぐに見つかった。
「キースか。久々だな」
 キースの顔を見るや、ロッドの方から声をかけてきた。礼儀正しく挨拶すると、キースは昨今のウィル情勢について色々と訊ねてみる。
「グロウリング砦については、まだ幾つかやり残した事があるが当面の間は心配はいらん。寧ろ警戒すべきはフオロ北方の動きだ」
「やはりハンの国の内紛が?」
「そうだ。フオロ分国にとり最大の内憂はルーケイ、そして最大の外患はハンだ。今後、俺はハンの事で忙しくなるから、会う機会も限られてくるだろう。必要な事は全てカインに伝えるから、これからは彼に訊け」

●ハンの国の概要
 総監室では華岡紅子(eb4412)が会議の準備が始めている。テーブルを整え、お茶とお茶菓子の用意も。
「貯えが十分にあって助かったわ」
 貴族女学院ではエルム・クリークと並んで人気のカイン、付け届けには事欠かないので。
「それはそれとして。冒険者酒場でのフォローも頼むわね。ちゃんとギルドの職員さんが話を聞いてくれる方が安心出来るわ。ジェームスさんはギルドの人じゃないんでしょう?」
「正規の職員ではありませんが‥‥その件については、まあ前向きに考えておきましょう」
 そうこうするうちに冒険者達も集まって来た。ところが予定人数より一人足りない。
「事件にでも巻き込まれていなければいいのですが」
 ともあれ、第1回目の連絡会議は始まった。
 発言はメイの国に短期滞在して来た物輪試(eb4163)から。
「学園都市へ赴いている友人達からも伝言があったのだが‥‥」
 と、知人達からの言伝をざっと伝えると、カインはこれに答えた。
「ゴーレムニスト育成の話については、私の聞くところによれば短期養成でゴーレムニストの不足を補うものらしいです。専ら戦場での軽整備や応急修理の能力を身につけるもので、新兵器の開発に配属される事はあまり期待しないで下さい。それから新国王陛下の就任式ですが、準備は着々と進んでいます。まず中止になる事はありません」
「では、俺からはメイの国の報告を」
 続く試の報告によれば、メイの国でのカオスニアンとの戦いは一進一退を繰り返しておりまだまだ厳しい情勢下にある。またメイの国のゴーレム技術等は荒削りで技術が偏っているが、それ故たまにとんでもないものが開発されるとか。
 ここでシュバルツ・バルト(eb4155)がカインに質問。
「今後、ウィルはメイの国に対してどのような対応を? 対カオスの為に軍を派遣する予定は?」
「メイとは友好関係を維持、これがウィルの基本姿勢です。但し、メイ支援の援軍については当面の間は現状維持、冒険者の派遣とゴーレムの輸出に止めます。現在のウィルにとってはルーケイとハンの問題解決が優先事項ですから」

●ハンの国の概要
 続いて議題はハンの国に移る
「単刀直入に聞くけど、連絡会は冒険者の情報整理の為のものかしら? 『ハンの問題』も冒険者としてどうしたいかって事なら、その前にハンの国についての基本情報を教えて貰えるかしら。ちょっとでも依頼で関わっていた人ならともかく、そうでない人にはサッパリなんだから」
 と、華岡紅子が求める。
「説明しましょう」
 用意された黒板の前にカインはつかつかと歩み寄り、チョークで簡単な地図を描いた。

《ハンの国概略図》
 ↓ラオの国
 〓〓〓〓┣━━┓〜〜
 〓〓〓┏┛−−┗┓〜
 〓〓〓┃−−−−┃〜
 ┓〓┏┫−−−┏┛〜
 ┗┳┛|−−−┃〜シ
 〓┃山|−?−┃〜
 〓┃山└┐−−┃〜ム
 〓┃?−|−┏┛〜
 〓┃山−|☆┃〜〜の
 〓┣──┼─┻┓〜
 〓┃山−|?−┃〜海
 〓┃?−|−┏┫〜
 〓┃山−┣━┛┃〜〜
 ↑┻━━┛〓〓┃〜〜
 │〓〓〓〓〓┏┛〜〜
リグの国  ↑ウィルの国

 ?ヘイット領
 ☆王都ハン
 ?リハン領
 ?ウス領
 ?ハラン領
 山:山岳地帯

「ご覧のように、ハンの国はウィルの北方にある王国で、その西部をリグの国、北西部をラオの国と接し、東部はシムの海に面しています。ハンの国はヘイット、リハン、ウス、ハランの4分国から成っていますが、このうちウス分国とハラン分国についてはごく最近、冒険者による調査が行われました」
「そのハンの国との国交関係は厳しいのか? 戦争状態になりかけているのか?」
 と、物輪試が質問。
「ハンの南部、ウスとハラン両分国は長い間、戦争状態にあります。この戦争で大量の難民がウィルに押し寄せ、ウィルの負担は増すばかり。今後もこの状況が続くなら、両分国の戦争を止めさせるためウィルが軍事介入する事も有り得ます」

●ハン調査報告
 続いてはセオドラフ・ラングルス(eb4139)による、先に行われたハラン分国の調査報告。
「治安はあまりよろしくありませんが、戦時下でかつ傭兵を無思慮に雇っていたのであれば、あの状況も頷けましょう。ゴーレム関係については以前ハン王家より下賜された物以外増えていないようにございます。その他の物資は、主に食料がウィルより流れていました。調査が十分とは思えませぬが、今のところ不自然な動きは見受けられませぬな。ウスがゴーレムを入手しているのが本当であれば、ハランの不利は目に見えているかと」
 さらに、鳳レオン(eb4286)によるウス分国の調査報告。
「ウス分国は高価な品を売り払い、どこかからゴーレムを輸入していた。俺の推測が正しければ、バとかいうカオスの国からだろうな。正直、この分国だけは信用できそうもない。最低でも、注意深く観察する必要はありそうだ。不当な手段で戦力を手に入れたウス分国が有利に事を進めるのは、納得できるものではないし、カオスが絡むならウィルにも害がありそうだ。もし、ハンの王家がこの事を知らないのであれば、王家の面目が潰れないよう、内密に知らせてやった方がいいだろうな。自力で内憂を解決してもらえれば、それに越した事はない」
 これを受け、セオドラフが提案。
「今後もウスについては念入りに調査し、情報を収集すべきかと。ゴーレムについて目撃情報だけでなく証拠を抑える事ができれば、外交・軍事を含めて様々な対策を立てることができましょうしな」
 レオンはカインに質問を向ける。
「‥‥なあ。例えば、ハン王家やハラン分国と契約して冒険者を派遣する事ってできないのか? 確かに俺達は騎士身分なんだろうが、ほとんどの奴は領地なんか持ってない。それに、領主ですら複数の王と契約する事があるんだろう? なら、ウィルの王とハンの王、双方の利害が対立しない場合に、冒険者がハンの王と契約してハンのために戦うというのは‥‥」
「十分に可能です。勿論、ウィル国王ジーザム陛下のご承認が必要となります」
 と、カインは答える。ふと、レオンは以前に関わった依頼を思い出す。
「もしかすると、以前シム沖で発覚した恐獣輸送事件こそ、この大陸とバの国との繋がりの一端だったんじゃないだろうか。もう一度調査をしてみた方がいい気がするな」
 カインも同意。
「調査にはショア伯の協力が必要ですね。手を回しておきましょう」
 シュバルツもまた提案する。
「自分はハンに外交使節を送ることを希望します。但し、ハンの国王から要請がある、もしかは要請を引き出すまで内政干渉するようなことはすべきではないかと」
 カインは次のように返答した。
「ハンの国から外交使節を呼び寄せる手もあります。予定されている新国王陛下の就任式はよい機会。外交的な根回しは順調に進んでいますから、就任式にはセトタ6国の外交使節が一同に介することになるでしょう」
「なればそれを機会に、ハンだけではなく近隣各国に対し、対カオスの連携を呼びかけるのもよろしいかと存じます」
 と、セオドラフ。
「カオスの動きに国境はありませぬし、中立を掲げるチは応じぬかもしれませぬが、その他の国であれば、カオスの排除に表立って否と言う事はありますまい。たとえウスがカオスと通じる勢力が存在だったとしても、監視の目が広まれば動きにくくなりましょうし、カオス勢力からのゴーレム供給も難しくなりましょうからな」
「チの国についてですが‥‥」
 カインは補足する。
「以前のカオス戦争で中立を保ったのは、カオス戦争を終結させるに当たり、中立の調停者が必要とされていたこともあります。戦争を余計に長引かせぬためにも、どちらの陣営にも組みしない中立の存在は必要でした。そして、当時からチの国は中立を実行するだけの国力と軍備と覚悟が備わった国だったのです。誇り高き彼らは、国境地帯に屍を積み上げることによって中立を完うしたのです。但し、それは人の国家間で行われる戦争においての話。敵がカオスの魔物となれば、チの国も協力に応じることでしょう」

●国境調査
 ハンの問題については、ウィル国内にも懸念すべき状況がある。だからキース・ファラン(eb4324)は提案した。
「ハンとの国境付近の軍事力を強化し、また国境付近の領主や代官の素行調査を行うべきだと思う」
 ウィルにおいてハンと境を接するのは、フオロ分国の北方である。
「素行調査というのは、ハンの特定勢力に加担して便宜を図っている領主がいるのではないか? という懸念からだな。なにしろ、ちょっと前までハンと境を接するフォロは、先王に対する不満で怨嗟の連鎖が起きていたからな。ハンの争いを悪用して、自分の勢力強化を図ったり、密輸などを行って私的利益を得ようとしたりする輩が出ていても不自然では無いと思うんだ。先の国王交代で動きそのものは沈静化しているだろうが、かつては謀反を起こそうとしていた領主もいたかもしれない。エーロン陛下がやろうとしている大掃除の影に隠して、依頼として冒険者に任せてくれたら嬉しい。俺がこんなことを言わないまでも、賢明なエーロン陛下なら自明の理のことかもしれないが。その意味でも、フォロやトルクなどと言った派閥の垣根を越えて冒険者が参加できるようにしてくれると嬉しく思う」
「先王の治世下はともかく、現在ではフオロとトルクは親密な協力関係にあります。もはや派閥対立の心配は無用でしょう」
 と、カインは言う。
「実は陛下の腹心であるルーベン・セクテ公とロッド・グロウリング卿も、同じ見解をお持ちのようです。貴方の意見も冒険者からの意見として、陛下にお伝えしておきましょう。恐らくそう遠からず、これに関した依頼が出されるはずです」

●王都周辺の治安状況
 空戦騎士団長シャルロット・プラン(eb4219)からは、王都周辺の治安状況についての報告があった。
「私がここ最近見て回ったところ、懸念していた冒険者と先王からの衛兵達との軋轢も予想より小さく、住民感情も概ね好転してきています。私が思うに、これは一連のカオス騒ぎが、逆に両者を結びつける固まらせる切っ掛けを作ったのではないかと。引き続き、両者の間が円滑になるよう自分も努めていく所存です」
 さらに、彼女は提案する。
「悪人退治については庶民へのアピールも考え、バードの歌などの助けを借りるなど、判りやすい形で進めるのも手かなと。例えば、悪人の悪事を暴き衆目に晒す謎のひーろチーム登場とか‥‥」
「ひーろチーム、やりますか?」
 と、カイン。
「これも王国の為とあらば」
「では、そのように」
 何故か、カインは乗り気のようだ。

●ゴーレム関連
 ゴーレムについてもシャルロットは提案。
「有望なゴーレム乗りが冒険者所属で何人か育ち、新型騎体が続々ロールアウトされている現状にも関わらず、十分な経験が積まれていません。実戦経験が乏しいのはこの際仕方ありませんが、有事に際しては潜在的な実力が充分であっても、ただ扱ったことが一度もない為、まとも戦えない等ということも、現状では真面目に起りえます。機密漏洩を恐れ、操り手を限定しすぎることは、全体の枝葉の先細りを意味します。機体の運用実験だけでなく操縦者側の訓練も必須、その為の手段を是非とも」
 さらにもう一つ。
「また、ゴーレム工房のあるショア城の増強を。大型飛行魔獣が出現した場合など、緊急対策用に新型ゴーレムの配備があってもよいかと思われます」
「え〜と、ゴーレム工房については今後、フオロ分国内での新設や増設が行われる見込みです」
 のほほんと告げるカイン。
「勿論、ショアについてもです。それと操縦者の訓練、工房長のオーブル卿も同様の見解をお持ちのようですが、私も早いとこ訓練の機会が得られるよう取り計らいましょう。‥‥ああ、そうそう。これまで機密扱いだった新兵器『D』関係ですが、冒険者ギルド内の機密漏洩対策を徹底した上で、全ての冒険者がその情報を共有できるよう計らいます」
「その新兵器『D』ですが、来るルーケイ平定戦において貸し出しの可能性はあるでしょうか?」
 訊ねたのはシュバルツ。
「可能性はある、とだけ今は答えておきましょう」
 ルーケイに関連して、さらに物輪試からもテロリストについての質問が出た。カインはこれに答える。
「テロリストと呼ばれる過激な天界人の一派ですが、悪王打倒を旗印に掲げ、ルーケイの近隣に勢力を伸ばしてきました。ですが新国王の即位を契機として、和平の動きも見せています。但し、まだまだ予断は許せません」

●総括
 連絡会の内容のまとめ。ウィルの国政絡みで、次の依頼が近いうちに行われることになりそうだ。

《1》ハンの国の調査依頼。特にウス分国を重点的に。
《2》ハンの国の問題に関連した、周辺諸国との交渉依頼。
《3》ハンの国境付近での軍備増強、並びに国境付近の領主・代官の調査依頼。
《4》新兵器『D』も含めての、ゴーレムの訓練依頼。

「ざっとこんな所ですか。‥‥おっと。ショアの件に、ひーろチームもありましたね」
 これはカインの呟き。

●リルの占いコーナー
 まずはキースの総体運。
「うわぁ! 凄すぎ! ハンの国に向かえば疾風怒濤波瀾万丈の展開が待ってるわ!」
 お次は華岡紅子の恋愛運。
「積極的に外に向かえば、新しい出会いが待っていそうよ。いい男は高い所に隠れているみたい」